第
9
章
Hooke
則と平面歪、平面応力
ここまで説明してきた応力, 歪, 運動法則はすべて定義の積み重ねであり、何ら かの物理的要素が入るものではない。すなわち、応力と歪はまったく別物である。 これに対して, 応力と歪を関係付ける構成式は実験に基づいてパラメータが同定さ れるものであり現象論的な側面を持つ. ここでは代表的な Hooke 則について説明 する.9.1 Hooke
則
材料力学では試験片を引張ったときの応力歪関係式として 1 次元の Hooke 則を 用いる. 梁の曲げなどは一見して 1 次元とは思えないが, これも 1 次元の Hooke 則 を用いて理論が構築されている. 具体的には、応力を σ, 歪を ε, Young 率を E と して以下のように表される. σ = Eε (9.1) つまり, Young 率を比例定数として応力と歪は比例するという関係式である. せん 断応力 τ とせん断歪 γ についても、せん断弾性係数を G として以下のような比 例の関係式が用いられる。 τ = Gγ (9.2) また試験片を X1 方向に引張ったときは, 図に示すように荷重に垂直方向の X2 方 向にも歪が生じる. これを Poisson 効果と呼び, Poisson 比 ν は以下のように定義 される. ν = |ε22| |ε11| (9.3) X1 X2 F F 図 9.1: Poisson 効果9.1. Hooke 則 73 教科書によっては Young 率、せん断弾性係数、Poisson 比の関係式として G = E 2(1 + ν) (9.4) が紹介され、さらに以下のような 3 次元の Hooke 則 (一般化 Hooke 則) が紹介され ている。 ε11= σ11 E − ν σ22+ σ33 E ε22= σ22 E − ν σ33+ σ11 E ε33= σ33 E − ν σ11+ σ22 E γ12= σ12 G γ23= σ23 G γ31= σ31 G (9.5) これを “応力を歪の関数として表す” という趣旨がわかりやすいように書き直す と、以下のようになる。こちらが紹介されている場合もある。 σ11= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε11 σ22= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε22 σ33= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε33 σ12= E 1 + νε12 = σ21 σ23= E 1 + νε23 = σ32 σ31= E 1 + νε31 = σ13 (9.6) ただし γij = 2εij であることに注意しよう。 注 9.1. 図 9.1 に示すような 1 軸引張を考えてみよう。応力は σ11= σ 以外は 0 なので、式 (9.5)
で歪を求めると以下のようになる。 ε11= σ11 E − ν σ22+ σ33 E = σ E ε22= σ22 E − ν σ33+ σ11 E =−ν σ E ε33= σ33 E − ν σ11+ σ22 E =−ν σ E γ12= σ12 G = 0 γ23= σ23 G = 0 γ31= σ31 G = 0 逆に得られた歪を式 (9.6) によって応力に書き戻すと σ11= νE (1 + ν)(1 − 2ν)( σ E − ν σ E − ν σ E) + E 1 + ν σ E = σ σ22= νE (1 + ν)(1 − 2ν)( σ E − ν σ E − ν σ E)− E 1 + νν σ E = 0 σ33= νE (1 + ν)(1 − 2ν)( σ E − ν σ E − ν σ E)− E 1 + νν σ E = 0 σ12= E 1 + ν0 = 0 σ23= E 1 + ν0 = 0 σ31= E 1 + ν0 = 0 注 9.2. 式 (9.5) から式 (9.6) への書き換えはまず、ε11, ε22, ε33の式をすべて加えて ε11+ ε22+ ε33= 1 E(σ11+ σ22+ σ33)− 2ν E(σ11+ σ22+ σ33) =1− 2ν E (σ11+ σ22+ σ33) (9.7) これよりσ22+ σ33をもとめ、式 (9.5) に代入して ε11= 1 Eσ11− ν E E 1− 2ν(ε11+ ε22+ ε33)− σ11 (9.8) これを整理すると ε11=1 + ν E σ11+ ν 1− 2ν(ε11+ ε22+ ε33) σ11= E 1 + ν ε11+ ν 1− 2ν(ε11+ ε22+ ε33) = νE (1 + ν)(1 − 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε11 (9.9)
9.2. Hooke 則の座標変換 75 式 (9.6) では, Cauchy 応力 Tij とせず, 漠然と応力 σij と記述しているのには, 注 9.3 に示すような理由がある. ここでは, まずは有限要素法の解説を一通り行う ことを目的として, 微小変形のみ考えることにして, 応力も厳密に Cauchy 応力で はないという意味で σij と表記し, σij と εij の間の Hooke 則を用いることにする. 注 9.3. 3 次元の Hooke 則も, やはり応力は歪に比例するという関係だが, 4.3 節で述べたように, 微小歪は有限回転すると問題を生じる. では, Cauchy 応力と Green-Lagrange 歪の間に比例関係 を考えればよいのかというと, 話はそれほど単純でもない. 断面積A の棒を F で引張ったとする. このときの cauchy 応力は T11= F/A 残りすべて 0 で ある. この状態からに荷重の絶対値は一定のまま方向を準静的にθ 回転させたとする. つまり新た に伸縮せず剛体回転したという状態である. このとき Green-Lagrange 歪は, 4.6 節で説明したよう に剛体回転前後で変わらない. 一方応力は 8.4 節で述べたように以下のように剛体回転の影響を受 ける. T11 T12 T21 T22 = cos θ − sin θ sin θ cos θ ¯ T11 T¯12 ¯ T21 T¯22 cos θ sin θ − sin θ cos θ (9.10) つまり, Cauchy 応力が Green-Lagrange 歪の関数であるとすると, 応力場が剛体回転したという場 合に対応できないことがわかる. つまり T = f(E) (9.11) という形式の構成則は矛盾を含んでおり, 適切ではないことがわかる. では Green-Lagrange 歪はまったく構成則に使うことができないのかというと, そういうわけで はない. ただ, Cauchy 応力と直接関係づけることができないということだけで Cauchy 応力を変 換して得られる第 2Piola-Kirchoff 応力 (詳細は ?? 節で解説, 剛体回転によって変化しない) との 間に構成式を考える. 幾何学非線形性に対応した構成式である.
9.2 Hooke
則の座標変換
左のような応力状態は 45◦ 座標変換すると、最大せん断応力状態になる。 −σ 0 0 σ → 0 σ σ 0 (9.12) σ11 =−σ σ22 = σ ¯ σ11 = 0 σ¯12= σ ¯ σ21 = σ σ¯22= 0 図 9.2: 座標変換座標変換前の Hooke 則は ε11= の式を使うと ε11= σ11 E − ν σ22+ σ33 E ε22= σ22 E − ν σ33+ σ11 E ε33= σ33 E − ν σ11+ σ22 E γ12= σ12 G γ23= σ23 G γ31= σ31 G (9.13) ε11= σ11 E − ν σ22 E = −σ E − ν σ E =− 1 + ν E σ (9.14) ε22= σ22 E − ν σ11 E = σ E + ν σ E = 1 + ν E σ (9.15) ε12 = 1 2γ12 = 0 (9.16) 座標変換後の Hooke 則は ¯ ε11 = 0 (9.17) ¯ ε22 = 0 (9.18) ¯ ε12 = 1 2γ12 = ¯ σ12 2G = σ 2G (9.19) 歪テンソルの座標変換は応力テンソルと同じなので、 ε12=−1 2(ε11− ε22) (9.20) =−1 2 −1 + ν E σ− 1 + ν E σ (9.21) = 1 + ν E σ (9.22) 従って σ 2G = 1 + ν E σ (9.23) G = E 2(1 + ν) (9.24)
9.3. Hooke 則の由来 77
9.3 Hooke
則の由来
有限要素法を勉強するだけなら不要だが, 幾何学非線形性だけでなく, 材料非線 形性もチャレンジしたい読者のために, Hooke 則の由来について簡単に紹介しよう. 式 (9.39) は天下り的に与えられていることも多いが, 数学的な基礎の上に成り立っ ている関係式, すなわちいくつかの仮定の積み重ねで成立している式である. むし ろ一般論として, 構成式は材料試験の再現能力以前の問題として, 数学的に矛盾が あってはならないので, 構成式とは “数学的に矛盾がない式のうちで材料試験を再 現できるもの” と考えたほうがよいかもしれない. 最初におく仮定は, “応力は歪のみの関数である” という仮定である. このタイプ の構成式は, 例えばゴムは大きく変形しても与えていた荷重をなくすと元の形状に 戻る, という性質を表現することができる. 逆に鉄の塑性変形のように, 荷重をな くしても元の形状に戻らないようなものは表現できない. 応力は歪のみの関数で あるという仮定から, 具体的に, 最も簡単な形式として, 応力は歪の多項式で表さ れると限定してみよう. すなわち ai を定数として σij = a1εij+ a2ε2ij + a3ε3ij + a4ε4ij +· · · (9.25) 多項式といっても, 定数項 a0δij がないのは無変形状態 εij = 0 で σij = 0 では なく, σij = a0δij となってしまうからである. ここで ε3ij 以上の項は I1 = εii, I2 = 12{(εii)2− εijεji}, I3 = det ε として, Cayley-Hamilton の定理 ε3ij = I1ε2ij − I2veij + I3δij (9.26) を用いると, すべて 2 乗以下の項に置き換えることができ, 以下の形式で表すこと ができる. σij = φ0(I1, I2, I3)δij + φ1(I1, I2, I3)εij + φ2(I1, I2, I3)ε2ij (9.27) 今度は δij の項があるが, εij = 0 のときに φ0(I1, I2, I3) = 0 となるように構成すれ ば問題にはならない. さて, ここでさらに “応力は歪に比例する” という仮定をおくと, φ0, φ1, φ2とし て許容できるのは λ, μ を定数として φ0 = λI1, φ1 = μ, φ2 = 0 のみである. 従って σij = λI1δij + μεij (9.28) が得られる. この λ, μ は Lam´e の定数と呼ぶ. 連続体解析学ではもう少し厳密に 組み立てられていくが, 実はこれが Hooke 則である. 式 (9.6) とはだいぶ違ってい るが, この関連については, 次節で説明しよう.9.4
材料定数の関係
I1 = ε11+ ε22+ ε33 の物理的な意味について考えてみよう. 1辺の長さが l0 の 立方体に以下のような歪が生じているとしよう. ⎡ ⎢ ⎣ ε11 0 0 0 ε22 0 0 0 ε33 ⎤ ⎥ ⎦ (9.29) このとき, 変形後の立方体の体積 v は, 微小変形を仮定して, 高次項を無視すると, v ={l0(1 + ε11)}{l0(1 + ε22)}{l0(1 + ε33)} (9.30) = l03{1 + (ε11+ ε22+ ε33) + (ε11ε22+ ε22ε33+ ε33ε11) + ε11ε22ε33} (9.31) ≈ l3 0{1 + (ε11+ ε22+ ε33)} (9.32) 従って, 体積変化率 J は変形前の体積を V = l30として J = v V = l03{1 + (ε11+ ε22+ ε33)} l3o = ε11+ ε22+ ε33 (9.33) となり, J = I1であることがわかる. εkk を体積歪と呼ぶことにする. これを元に εij を以下のように体積歪とそれ以外に分解する. εij = 1 3εkkδij + εij −1 3εiiδij (9.34) ⎡ ⎢ ⎣ ε11 ε12 ε13 ε21 ε22 ε23 ε31 ε32 ε33 ⎤ ⎥ ⎦ = ⎡ ⎢ ⎣ εkk 3 εkk 3 εkk 3 ⎤ ⎥ ⎦ + ⎡ ⎢ ⎣ ε11− εkk 3 ε12 ε13 ε21 ε22− εkk 3 ε23 ε31 ε32 ε33− εkk 3 ⎤ ⎥ ⎦ (9.35) 左辺第 2 項は対角項の和が 0 になるが, これを偏差歪と呼ぶ. 前述の Hooke 則, 式 (9.28) を体積歪と偏差歪を使った式に書き直してみよう. σij = λεkkδij + 2μεij (9.36) = λεkkδij + 2μ εij +1 3εkk (9.37) = λ +2 3μ εkkδij + 2με ij (9.38) = κεkkδij + 2μεij (9.39) κ = λ +23μ を体積弾性係数, μ を改めてせん断弾性係数 G と呼ぶ.9.4. 材料定数の関係 79 よく知られた Young 率 E , Poisson 比 ν と κ, G の関係を導いてみよう. 式展 開は注を参照してもらうとして, 概略は σ11 = 0 でこれ以外の σij = 0 という単純 引張り状態を考えると ε11 は σ11 と以下の関係にある. σ11= 9Gκ 3κ + Gε11 (9.40) 従って Young 率と κ, G の関係は以下のようになる. E = 9Gκ 3κ + G (9.41) 注9.4. 準備として, 式 (9.39) を微小ひずみを応力の関数として求める式に書き直す. まず式 (9.39) の対角和をとることにより,εiiをσii であらわす. 具体的には, σii= κεiiδii+ 2G εii−1 3εiiδii (9.42) = 3κεii (9.43) εii= 1 3κσii (9.44) これを再び, 式 (9.39) に代入すれば, σij = 1 3σiiδij+ 2G εij− 1 9κσiiδij (9.45) 移項して整理すると, εij= 1 9κσiiδij+ 1 2G σij−13σiiδij (9.46) ここでσ11= 0 でこれ以外の σij = 0 という状態を考える. これは, 単純引っ張り状態と呼ばれる. このときε11 は σ11 と以下の関係にある. ε11= 1 9κσ11+ 1 2G σ11−1 3σ11 (9.47) = 1 3G+ 1 9κ σ11= 3κ + G 9Gκ σ11 (9.48) σ11= 9Gκ 3κ + Gε11 (9.49) ν については, 式展開は注を参照してもらうとして, 概略は ε22と σ11の関係を求 め, Poisson 比の定義は ν =−ε22/ε11 であることから, 以下のように求められる. ν = 3κ− 2G 2(3κ + G) (9.50)
注 9.5. ε22 については,σ11 と以下の関係がある. ε22= 1 2G 0−1 3σ11 + 1 9κσ11 (9.51) = − 1 6G+ 1 9κ σ11= −3κ + 2G 18Gκ σ11 (9.52) Poisson 比の定義はν = −ε22/ε11なので, ν = −ε22 ε11 = 3κ − 2G 18Gκ 9Gκ 3κ + G (9.53) = 3κ − 2G 2(3κ + G) (9.54) 式 (9.41) と式 (9.50) を κ, ν について解けば E, ν との関係式を得ることができ る. 式展開は注を参照してもらうとして結果だけ示すと以下のようになる. κ = E 3(1− 2ν), G = E 2(1 + ν) (9.55) 注 9.6. G, κ を E, ν であらわしてみよう. まず E の関係式から (3κ + G)E = 9Gκ (9.56) κ に関する項をまとめて (3E − 9G)κ = −GE (9.57) これより, κ = GE (9G − 3E) (9.58) 次にν の関係式から 2(3κ + G)ν = 3κ − 2G (9.59) κ に関する項をまとめて (6ν − 3)κ = −2G(1 + ν) (9.60) これより κ = 2G(1 + ν) 3(1− 2ν) (9.61) この 2 式を等置する κ = GE (9G − 3E) = 2G(1 + ν) 3(1− 2ν) (9.62) G について整理すると E (9G − 3E)= 2(1 + ν) 3(1− 2ν) (9.63) 3G − E = E(1 − 2ν) 2(1 + ν) (9.64) G = 1 3 E(1 − 2ν) 2(1 + ν) + E (9.65) = E 2(1 + ν) (9.66)
9.5. 平面歪、平面応力 81 κ = 2G(1+ν)3(1−2ν) の式にG =2(1+ν)E を代入すると以下のようにκ を E, ν であらわすことができる. κ = 2(1 + ν) 3(1− 2ν) E 2(1 + ν) = E 3(1− 2ν) (9.67) 最後に Hooke 則を E, ν で表してみよう. 式 (9.39) から σij = κ−2 3G εiiδij + 2Gεij (9.68) = E 3(1− 2ν) − 2 3 E 2(1 + ν) εiiδij + 2E 2(1 + ν)εij (9.69) = νE (1− 2ν)(1 + ν)εiiδij + E (1 + ν)εij (9.70) これを展開すれば, 式 (9.6) が得られる.
9.5
平面歪、平面応力
平面ひずみ問題とは, 例えば図に示すような十分に長い壁が, 長手方向に垂直で 均一な荷重を受けている場合を想定した条件である. このときに, 壁の長手方向中 央部分を取り出すと X2 方向の変位は 0 かつ X2 方向の微分も 0 である. 従って, ひずみ εij の 9 成分のうち ε22, ε12, ε21, ε23, ε32 は 0 になり、仮想仕事の原理に含 まれる δεij も δε22= δε12 = δε21= δε23= δε32= 0 とする。 X1 X2 X3 たとえば、片もち梁の曲げのような場合は、極端に奥行きが薄い場合は別とし て、奥行きの中央付近は平面ひずみ状態になっていると考えられる。多少の誤差 は許容してこのようなモデルは平面ひずみとして取り扱うのが適切である。平面ひずみの場合、厚さ方向を x3とすると、以下のひずみの成分が 0 になる。 ε33= 1 2 ∂u3 ∂x3 + ∂u3 ∂x3 = 0 ε13= 1 2 ∂u1 ∂x3 + ∂u3 ∂x1 = 0, ε31 = 1 2 ∂u3 ∂x1 + ∂u1 ∂x3 = 0 ε23= 1 2 ∂u2 ∂x3 + ∂u3 ∂x2 = 0, ε32 = 1 2 ∂u3 ∂x2 + ∂u2 ∂x3 = 0 (9.71) 前述の応力ひずみ関係式において、平面ひずみ状態では、上記のひずみが 0 に なるので、その結果として応力は制限される。 σ11= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22) + E 1 + νε11 σ22= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22) + E 1 + νε22 σ33= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22) σ12= E 1 + νε12= σ21 σ23= σ32= 0 σ31= σ13= 0 (9.72) ここで注意が必要なのは、ε33 = 0 でも σ33= 0 であるということ。線形弾性体を 扱っているだけなら、問題を生じることはないが、たとえば、ミーゼス相当応力 を求めるときには、σ33 の値も必要になる。 平面応力問題とは, 平面ひずみ問題と逆に, 十分に板厚が薄い場合である. この とき, 板厚方向(X2 方向)の基底ベクトル e2 を法線とすると t2 = 0 t2 = σ21e1 + σ22e2+ σ23e3 (9.73) なので、σ21, σ22, σ23 は 0 であり、Cauchy の第2法則から σ12, σ32 も 0 である。 X1 X2 X3
9.5. 平面歪、平面応力 83 たとえば円孔つき平板の引張問題は代表的な平面応力問題である。また、必ず しも全くの平面状の物体でなくても、自動車の車体の鋼板など薄い板で構成され ているもの(実は人工物の大半)は曲面であるが2次元としてモデル化され、こ れに対応するシェル要素という有限要素がある。シェル要素は現在においても活 発に研究が進められており、基本的に平面応力でモデル化される。 平面応力問題では、厚み方向を x3 とすると σ22= σ12= σ21= σ23= σ32= 0 に なるが、構成則として例えば Hooke 則を用いるとき、応力とひずみが所定の関係 を満たしたまま、応力が 0 になるということから、ひずみの成分に何らかの関係 が生じる。 σ11= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε11 σ22= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε22 σ33= νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε33= 0 σ12= E 1 + νε12= σ21 σ23= E 1 + νε23= σ32 = 0→ ε23= ε32 = 0 σ31= E 1 + νε31= σ13 = 0→ ε31= ε13 = 0 (9.74) σ33= 0 より νE (1 + ν)(1− 2ν)(ε11+ ε22+ ε33) + E 1 + νε33= 0→ ε33= −ν 1− ν(ε11+ ε22) (9.75) これを代入することにより、平面応力の構成則が得られる。ただし、この関係式 は、Hooke 則を用いたから成立するのであって、他の構成式を用いた場合は、成 立するとは限らない。 σ11= E 1− ν2ε11+ Eν 1− ν2ε22 σ22= Eν 1− ν2ε11+ E 1− ν2ε22 σ12= E 1 + νε12 (9.76)
第
11
章 境界値問題を差分法で解く
ひとたび応力と歪の関係が定まれば, Cauchy の第 1 運動法則を, 与えられた変 位や応力の境界条件の元で解く事が可能になる. すなわち物体に外力が作用した 場合の変形の予測を微分方程式の境界値問題として計算できるようになる.11.1
境界値問題の定式化
Hooke 則から Young 率を求めるときに σ11 = 0 で残りの σij = 0 という状態を 仮定したが, 今度は, この関係を Cauchy の第一運動法則から導いてみよう. 図のように中心が固定され, 棒の両端が単位面積当たり f の荷重で引っ張られ ている棒の変形を考える. X1 X2 F F なお, 特に指定しないことが多いが, 荷重が指定されていない表面は, 変位境界 条件が与えられている箇所を除き, すべて荷重 0 が作用していると考える. すなわ ち, 物体の表面は必ず, 変位境界条件か応力境界条件が与えられる. この問題は以下のように定式化される. Cauchy の第一運動法則 (平衡方程式) ∂σ11 ∂X1 + ∂σ12 ∂X2 + ∂σ13 ∂X3 = 0 (11.1) ∂σ21 ∂X1 + ∂σ22 ∂X2 + ∂σ23 ∂X3 = 0 (11.2) ∂σ31 ∂X1 + ∂σ32 ∂X2 + ∂σ33 ∂X3 = 0 (11.3) 境界条件: 変位境界条件 u1= u2 = u3 = 0 at(0, 0, 0) (11.4)86 第 11 章 境界値問題を差分法で解く 応力境界条件は tn = σT · n の関係に基づいて, X 1 = L では, 外向き法線ベクト ル n = (1, 0, 0) 外力ベクトル f = (f, 0, 0) X1 =−L では, 外向き法線ベクトル n = (−1, 0, 0) 外力ベクトル f = (−f, 0, 0) であることから, σ33· 1 = f atX1 = L (11.5) σ33· (−1) = −f atX1 =−L (11.6) 構成式 (Hooke 則) σij = νE (1− 2ν)(1 + ν)εiiδij + E (1 + ν)εij (11.7) 変位ひずみ関係式 εij = 1 2 ∂ui ∂Xj + ∂uj ∂Xi (11.8) 一様断面の長い棒を引っ張るという変形であれば, 荷重を作用させる点や, 固定端 の影響が及ばない中央部では, 明らかにせん断変形は生じないので εij = 0 (i= j) . このとき, Hooke 則から, やはり σij = 0 (i= j) が導かれる. 各軸方向の微分も 明らかに 0 なので, Cauchy の第一運動法則は ∂σ11 ∂X1 = 0, ∂σ22 ∂X2 = 0, ∂σ33 ∂X3 = 0 (11.9) となる. それぞれ積分すると, C1, C2, C3を積分定数として σ11 = C1, σ22= C2, σ33= C3 (11.10) となり, 応力境界条件から σ11 = f, σ22= 0, σ33 = 0 (11.11) となる. 式 (9.46) の関係を用いると, σ11 = Eε11 (11.12) = E∂u1 ∂X1 (11.13) であるから, f = E ∂u1 ∂X1 → ∂u1 ∂X1 = f E (11.14) u1 = f EX1 + C (11.15)
X1 = 0 で u1 = 0 としているので u1 = f EX1 (11.16) また, ε22 = ε33=−νε11なので u2 = νf E X2, u3 = νf E X3 (11.17) この手続きは形式的には σ11 = Eε11= E∂u1 ∂X1 を Cauchy の第一運動法則に代入して ∂2u1 ∂X12 = 0 (11.18) という 2 階の微分方程式を ∂u1 ∂X1 = f E at X1 = L, u1 = 0 at X1 = 0 (11.19) という境界条件の下で解いたことに相応する. 次に棒に引っ張り力と自重が作用する場合について考えてみよう. 0 −L X1 X3 u3 = 0(X3 = 0) f やはりせん断変形も生じないので εij = 0 (i = j) であり, σij = 0 (i = j) である Cauchy の第一運動法則は X3方向のみ体積項を考慮して ∂σ11 ∂X1 = 0, ∂σ22 ∂X2 = 0, ∂σ33 ∂X3 + b3 = 0 (11.20) b3は単位体積あたりの力なので, 重力の場合には質量密度 ρ, 重力加速度 g を用い, 下向きであることに注意すれば (ρ, g > 0 であるとすること) b3 =−ρg (11.21)
88 第 11 章 境界値問題を差分法で解く よって ∂σ33 ∂X3 − ρg = 0 (11.22) 積分すると, 応力境界条件から σ11 = 0, σ22 = 0, σ33= C3+ ρgX3 (11.23) が得られ, X3 =−L で σ33 = f より f = C3− ρgL, C3 = f + ρgL (11.24) やはり, σ33 = E33 であるから E∂u3 ∂X3 = f + ρg (X3 − L) (11.25) u3 = f EX3+ ρg 2EX 2 3 − ρgLX3 E + c (11.26) X3 = 0 で u3 = 0 なので c = 0 以上より u3 = f EX3+ ρg 2E # X32− 2LX3$ (11.27) となる. やはり形式的に ∂2u3 ∂X32 = a (11.28) という2階の微分方程式を, dXdu と u についての境界条件の下で解いたことに相応 する. もし体積が位置の関数(例えば 遠心力)であれば d2u dX2 = f (X) (11.29) の形式の微分方程式について, 考えることになる. あるいは逆に, このような物理 現象は, 2階の微分方程式でモデル化できることがわかる.