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62, Corrosion Simulation Technology Based on Electrolyte Thermodynamics Kohtaroh Tanaka Simulation Technology Ltd. Corrosion behavior of

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電解質の熱力学に基づく腐食・防食現象の

シミュレーション技術

田 中 耕 太 郎

* 有限会社シミュレーション・テクノロジー

Corrosion Simulation Technology Based on Electrolyte Thermodynamics

Kohtaroh Tanaka*

* Simulation Technology Ltd.

 Corrosion behavior of materials in aqueous solution can be quantitatively analyzed by simulation with electrolyte thermodynamic model, electrochemical kinetic model on material surface and mass-transfer and adsorption models between solution and material surface. This report introduces thermodynamic analysis method by real solution stability diagram, general corrosion rate estimation method by simulated polarization curves and localized corrosion susceptibility evaluation method by repassivation potential with concrete validation examples.

 Key words : simulation, electrolyte, thermodynamic model, electrochemical, kinetic model, mass-transfer, adsorption, stability diagram, corrosion rate, repassivation potential

1.は じ め に  プラントの様々な装置・機器内で発生する腐食は,そ の発生部位や状況を目視確認することが難しく,またそ の初期段階での発見は困難である.このためプラント内 の任意の環境条件における腐食問題発生の可能性とその 程度を定量的に推算予測する技術が必要とされる.従来 の腐食事例に基づく統計解析的・経験的アプローチに対 し,最近新たに,厳密物理モデルに基づく腐食・防食現 象の理論的シミュレーション技術が実用化されつつあ る.物理モデルに基づく腐食の発生機構解明とシミュレ ーションによる定量化技術は腐食の発生予防や抑制に大 きな威力を発揮する.本報では,厳密物理モデルに基づ く腐食・防食現象のシミュレーションシステム CSP (Corrosion Simulation Program)に着目し,具体的事 例を交えながらその機能を紹介する.  CSP は,1995 年 よ り Amoco,Chevron,DuPont, Exxon,GRI,ICI,Mobil,Shell,三菱化学の日米欧 9 Pourbaix線図と呼ばれる電位 -pH を変数とする化学種 の安定領域線図により表され,溶液中の任意の酸化還元 反応式(1)に対する Nernst 式(2)を用いて作成される. (式中 a は化学種の活量を,G は Gibbs の標準生成自 由エネルギーを表す). νXX+ΣνiAi=Y+νee− (1) E={[GY0−νXGX0−ΣνiGAi0]+   RT[ln aY−νXln aX−Σνiln aAi]}/Fνe (2)  電解質溶液の熱力学モデルを統合した実在溶液安定領 域線図の特徴は,従来の Pourbaix 線図では任意に仮定 されていた各化学種の活量を,溶液の組成・温度・圧力 から厳密に推算計算することである.また pH について も従来の溶液中 H+,OH源を考慮しない独立変数的取 り扱いではなく,具体的な酸・塩基試薬を指定した滴定 シミュレーションにより厳密に決定される.簡単な例と して,図 1 に H2Sを含む水溶液中の鉄の実在溶液安定 領域線図を示す.図中,実線は溶解性化学種間の等活量 線または固体の溶解・析出境界線を,点線は固体と共存 する溶解性化学種間の等活量線を表す.また破線 a は * 〒 236-0004 横浜市金沢区福浦 1-1-1(1-1-1 Fukuura,

Kanazawa-ku, Yokohama, 236-0004 Japan) 図 1 H2S 水溶液中の Fe の安定領域線図

社がコンソーシアムの形で支援し,米国 OLI Systems Inc.社が開発を行ってきた腐食現象 の理論的予測シミュレータである.電気化学 の理論に電解質溶液の熱力学理論と物質移動 及び材料表面上での吸着・脱着現象に関わる 化学工学理論を統合することにより,任意の 溶液条件における材料の腐食傾向を定量的に 推算予測することを目的として設計されてい る. 2.腐食現象の熱力学平衡論的解析 2.1 実在溶液安定領域線図1),2)   腐 食 現 象 の 平 衡 論 的 挙 動 は, 一 般 に

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H2Oの還元電位を,破線 b は O2の還元電位を表す.腐 食は,酸化還元反応により金属が酸化され溶解性の金属 化学種(イオン)を生成する現象として,また不動態は 金属酸化物が難溶性の化合物被膜を形成する現象として とらえられ,図中 a 線(無酸素系)b 線(有酸素系)の 電位が Fe 元素の酸化電位より高いことは,水溶液中に おいて Fe が自然酸化されることを示している.本系で は H2Sを含むため,一般的な Fe の不動態であるマグネ タイト(Fe3O4)に代わり,広い pH 領域において FeS, FeS2皮膜の形成が予測されている.  本解析手法は環境による腐食傾向を直感的に俯瞰する 上で極めて有効であり,腐食現象の解析にお いて長年広く活用されているものであるが, 環境条件(温度,圧力,溶液組成)を与えれ ば一意に安定領域線図が作成されると誤解さ れていることも多い.本来,環境条件に加え て metal activity と称される溶液に接触する 材料濃度の条件設定が必要である.一般に

metal activityは Pourbaix の原典に従って 1 ×10−6と 設 定 さ れ る こ と が 多 い が,metal activityを高く設定すれば,固体の安定領域 (析出領域)が拡張され,逆に低く設定すれ ば 縮 小 さ れ る. 一 例 と し て 図 2 に metal activity 1×10−6の場合の,図 3 に 1×10−2 場合の硫黄(S)の安定領域線図を示す.後 者に現れる固体硫黄(S8)の安定領域が,前 者には見られないことが分かる. 2.2 安定領域線図と腐食速度の関係  安定領域線図の解析手法は,現実に非平衡である腐食 速度(腐食電流密度)の絶対値を直接与えることはでき ないものの,その定性的な傾向を端的に示すことができ る.図 4 は 300℃熱水中の鉄の安定領域線図である.無 酸素環境において主な還元反応は H2Oの還元反応(図 中点線 a)であるから,a 線と Fe の安定電位線の間に 示される棒線は,材料表面上の腐食電位の成立可能範囲 を 示 し, そ の 電 位 差 が 腐 食 速 度 の 推 進 力(Driving Force)に対応する.図中棒線の下に示されている数値 は Partridgeら3)により測定された腐食速度の相対値で, 活性腐食領域では大きく,不動態領域では小さく,また 活性腐食領域でも上記電位差が大きいほど大きな値をと り,安定領域線図の示す腐食傾向と良く一致しているこ とが分かる. 2.3 合金の安定領域線図  一般に合金の安定領域線図は合金を構成する各元素の 安定領域線図を重ね合わせて表現される.これによって 例えば合金中のある元素は不活態にあり,ある元素はイ オンとなって活性溶解する場合の選択溶解腐食現象など を熱力学的に説明することができる.合金の安定領域線 図が構成元素個別の安定領域線図と異なる点は 2 点あ り,複数元素からなる化合物の取り扱いと固溶体として の合金の非理想性である.前者は例えば Fe-Ni-Cr 系合 金の場合,各元素の単素酸化物だけでなく,NiFe2O4 FeCr2O4,NiCr2O4といった複素酸化物を生成し,熱力 学的に単素酸化物より安定になることが多く,安定領域 線図に大きく影響する.一方後者は合金中の構成元素の 溶解平衡電位が純金属の溶解平衡電位より偏奇すること であるが,一般にその程度は小さく安定領域線図への影 響はわずかである. 3.全面腐食速度の予測モデル 3.1 分極線図のシミュレーション合成と混成電位4)  安定領域線図にて表される各陽極(酸化)反応,陰極 (還元)反応の平衡電位に対し,腐食条件下では 陽極 電 流 密 度(iA)= 陰 極 電 流 密 度( − iC)= 腐 食 電 流 密 度 図 2 水中の硫黄の安定領域線図(Metal Activity 1E-6)

図 3 水中の硫黄の安定領域線図(Metal Activity 1E-2)

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(icorr)となる腐食電位(混成電位)が成立し,一般に電 位-電流密度線図上に分極曲線と共に表される.シミュ レーションによる腐食電位,腐食電流密度の予測値は, すべての陽分極曲線・陰分極曲線を推算し合成すること により得られるが,その際各分極曲線の算出に次の素過 程を厳密に考慮したモデルを使用する.

・材料表面上の電極反応速度(Butler - Volmer Kinetics) ・液本体と材料表面間の拡散(物質移動)速度 ・液体中の均一反応速度 ・材料表面上での化学種の吸着及び錯体形成 ・不動態,活性態の遷移  これにより,後述の例で示されるような複雑な腐食速 度の傾向を正確に表現することができる.図 5 にシミュ レーションにより合成された分極線図の例を示す.図中 細線は陰陽の各分極曲線,太線は合計された総陰分極お よび総陽分極曲線,▼印は腐食電位,腐食電流密度を示 す.水素イオン及び酸素の還元反応は溶液本体から材料 表面への拡散律速,炭酸の還元反応は拡散に加えて CO2 分子の水和反応律速になる18)ことが示されており,管内 流速を上げれば拡散速度が,液温を上げれば反応速度が 上がり、 いずれも腐食電流密度、 全面腐食速度が増加す ることになる.  陽極反応の一例として Fe の溶解に対する基礎式を(3) に 示 す. 一 般 に Fe の 溶 解 は BDD(Bockris-Drazic-Despic)機構に従うことが知られており OH−の吸着・ 脱着過程を経る.

iFe=iFe0exp[αFeF(E−EFe0)/RT] (3) iFe0=i

Fe*aOHaH2Oc/[1+KOHaOH]

ここでαFe:陽極透過係数,iFe0:交換電流密度,iFe*:交 換電流密度活量非依存項(温度関数),EFe0:Fe 溶解の 自然電位,c:反応次数,KOH:吸着平衡定数である. EFe0,K OH及び各化学種の活量は熱力学平衡モデルより 得られ,αFe及び交換電流密度の活量依存項形式は各材 料ごとの溶解機構により決まる.一般に同類の材料は同 じ溶解機構に従うため後者は共通の値・形式となるが, 交換電流密度から化学種の活量依存項を除いた iFe*は材 料ごとに全て異なる腐食速度特性パラメータとなる.  陽極反応の不動態・活性態遷移現象は,(3)式に対し 材料表面上の不動態皮膜占有率の概念を適用し,総電流 密度に対する活性溶解,不動態層形成,不動態保持各電 流密度の寄与率変化として表現される.同様に不動態保 持電流の pH 依存性,活性化学種依存性も不動態皮膜上 の錯体占有率の概念を用いて,不動態の各錯体形成溶解 による電流密度の寄与率変化として表現される.本モデ ルの適用例として,図 6 に通気水中における防食剤 (Na2SiO3)濃度と炭素鋼腐食速度相関を取り実測値 (□印)とシミュレーション値(実線)の比較を,また 図 7 ∼ 9 に各防食剤濃度における合成分極線図を示す. 防食剤濃度の増加に従い,腐食電位が活性腐食領域から 遷移領域を経て不動態領域に移動し,腐食速度が低減さ れる機構が良く理解できる.特に遷移領域においては複 数の腐食電位が示されているが,これらは単に数値計算 上の仮想解ではなく全て現実に起こり得る物理的可能解 であり,本領域における腐食速度の多様性を表してい る.  次に図 10 に HNO3水溶液中のハステロイ C-22 腐食速 ᳓䈱㉄ൻ ᳓䈱ㆶర ㉄⚛䈱ㆶర ᳓⚛䉟䉥䊮 䈱ㆶర Fe 䈱㉄ൻ ᵴᕈ૕-ਇേ૕ㆫ⒖ ὇㉄䈱ㆶర 図 5 炭酸水溶液中の Fe の合成分極線図 0 1 2 3 4 5

1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01 1.E+00

N Na2SiO3 Ra te [g /(m 2 d) ] 図 6 防食剤濃度と炭素鋼腐食速度 䎱䏄䎶䏌䎲 䎓䎃䏐 図 7 合成分極線図(活性腐食領域) 䎱䏄䎶䏌䎲 䎓䎑䎓䎓䎔䎗䎃䏐 図 8 合成分極線図(遷移領域)

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度と HF 添加濃度の相関例を示す.縦軸の腐食速度は対 数軸表示となっていることに注意されたい.強酸である HNO3中に弱酸である HF を添加しても溶液の酸性度は ほとんど変化しないにもかかわらず,わずかに HF が添 加されることで腐食速度が約 2 桁以上大きくなってい る.そこで HF 添加前後の分極線図を図 11,図 12 に比 が変化している場合や,流れ条件の入力が不正確で H+ や O2の還元反応が現実と異なる拡散律速状態になって いる場合などがある.  ② 腐食速度の定義と実測値の測定方法: 上述のシ ミュレーションモデルによる推算値は定常状態の腐食速 度であって,同じ材料と環境でも時間と共に変化する非 定常状態の腐食速度とは異なる.短時間に材料の腐食速 度を測定する手法として印加電位を変化させながら電流 0.01 0.1 1 10 100 0 1 2 3 4 5 wt.% HF Ra te (m m/ y) Sridhar et al. (1987) 20 wt% HNO3, 353 K Calculated 図 10  80℃,20 wt%硝酸水溶液中における添加 HF 濃 度とハステロイ C-22 腐食速度相関 図 12 1.6% HF 添加時の合成分極線図 図 11 HF 無添加時の合成分極線図 較してみる.濃硝酸水溶液中において 主な還元反応は NO3−の還元であり, 腐食電位,腐食電流密度は不動態領域 に成立し,このため高腐食電位,低腐 食速度となることが分かる.一方 HF が添加された場合,主な還元反応は同 じ NO3−の還元であり,腐食電位,腐 食電流密度もやはり不動態領域に成立 しているが,不動態保持電流が大きく 増加していることが分かる.これは材 料表面の不動態皮膜が HF と反応する ことでその溶解速度が大きくなってい ることを表している5),6).このように シミュレーション合成分極線図を用い ることで,腐食現象のメカニズムを定 量的に明らかにし,適切な防食対策の 策定に活用することができる. 3.2 シミュレーション推算値と実 測値の比較  全面腐食速度のシミュレーション解 析を行う場合,常に問題となるのが腐 食速度推算値の精度と信頼性である. シミュレーション推算値が実測値と一 致しない要因は数多く挙げられるが, 以下の 2 ケースが最も多く見られる  ① 入力情報の不足,不正確: 最 も一般的なものは溶存酸素の取り扱い で,工業 N2などを用いて脱気処理を 行い無酸素状態を仮定するが,現実に は工業 N2中に含まれる微量の O2が ppbオーダーでわずかに溶存し,腐食 電位,腐食速度に大きく影響すること がよくある.この他に,圧力の入力値 が不正確なため,厳密なシミュレーシ ョンでは溶液の一部が蒸発し溶液組成 䎱䏄䎶䏌䎲 䎓䎑䎓䎓䎛䎃䏐 図 9 合成分極線図(不動態領域)

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密度を測る電気化学測定法がよく用いられるが,この手 法は電位の変化速度(Scan Rate)によって電流密度(腐 食速度)が大きく影響される.最も影響が大きいものは 不動態保持電流で,Scan Rate が早すぎる場合,材料表 面上に安定した不動態皮膜が形成されず,従って高い腐 食電流密度,低い腐食電位を与えてしまう.また活性腐 食領域の電流密度測定値も定常状態に至り得ず,一般に 長期試験にて測定される定常腐食速度の数倍の値を与え る. 3.3 流れと物質移動の取り扱い7)  現在確立している全面腐食速度予測モデルでは,物質 移動の影響は定常の代表流れ(静止,完全混合,円管内 均一液流及び気液 2 相流など)に対する総括物質移動係 数相関式を用いて表現されている.このため,複雑な形 状下の不均一流れや非定常流れにはそのまま適用するこ とができない.物質移動を拡散項と対流項に分け,更に 電荷を有する化学種の泳動項を加えたより厳密な基礎理 論式は既に確立されており,その全面腐食速度予測モデ ルへの適用も理論上可能である.一方単純な分子性流体 と異なり,多数のイオン反応が並列し非理想性の強い電 解質溶液では,その流れと物質移動を厳密にシミュレー ションするためには大幅な数値計算負荷の増大が問題と なる.3 次元流動解析コードを電解質溶液に適用する場 合の計算速度加速手法,求解安定化手法の実用化が待た れる.更に工業的報告事例の多い特殊な物質移動環境と しては,腐食生成物や無機物(砂,土など)の堆積下に おける局部腐食の問題が挙げられる.これは多孔質媒体 中の非定常物質移動による局部濃縮現象と考えられ,堆 積物の多孔度(Porosity)と迷路度(Tortuosity)とい う指標を用いてモデル化されている. 3.4 スケール生成の影響19)  一般に材料表面上に形成される難溶性の固体酸化物皮 膜 を 不 動 態 と 称 す る が, 他 の 腐 食 生 成 物( 例 え ば FeCO3や FeS)や無機固体(例えば CaCO3や CaSO4)

が材料表面上に生成する場合,これらをスケールと称し て不動態と区別する.材料表面上に生成するスケールも 腐食速度を低下させるが,不動態のように活性腐食領域 から不動態領域に腐食電位が上昇するわけではなく,材 料表面を覆い,物質の拡散・移動を妨げることで材料の 溶解速度を低下させる.FeCO3と FeS の挙動に関する 研究報告は数多く,腐食速度に対する影響は材料表面上 の表面被覆率の概念を用いてモデル化されている8)−11) 3.5 混合溶媒,非水溶媒溶液環境への拡張  混成電位による腐食速度の予測モデルは,その適用対 象が水溶液(水濃度 65 mol%以上)環境に限られてお り,非水溶媒高濃度の混合溶液環境へはまだ適用できな い.  これは主に非水溶媒溶液環境における材料表面の不動 態化挙動が十分解明されていないためである.水溶液環 境では材料表面は常に十分な水に覆われており,酸化 物・水酸化物相を生成し得ることが前提であったが,非 水溶媒溶液環境では酸素ドナーとしての水の不足による 不動態皮膜生成阻害や水以外の酸素ドナーによる生成促 進挙動をモデル化しなければならない.現象の解明・拡 張モデルの開発は今後の研究を待たねばならない. 4.局部腐食予測モデル 4.1 再不動態化電位12)  ここでは多岐にわたる局部腐食の形態の中から,最も 一般的で理論的モデル化の可能な孔食を対象とする. 基本的な考え方は,上述の合成分極線図法により得られ る腐食電位と,同じく材料及び環境の関数として得られ る再不動態化電位を比較し,後者の方が高ければ孔食の 発生を防ぐことができるというものである.再不動態化 電位は塩化物イオンに代表される攻撃的化学種の濃度及 び温度と共に低下し,硝酸イオンに代表される抑制的化 学種の濃度と共に上昇することが知られており,混合溶 液環境では両者のバランスによって決まる.概念図(図 13)に示される孔の底部において,金属 M は金属ハロ ゲン化物 MX 相の下で活性腐食を受けるが,再不動態 化の過程では金属酸化物相 MO を生成する.この時測 定される電位低下は図中 1 から 5 の各境界の電位差の和 として表現され,再不動態化の限界条件における活性溶 解電流密度,不動態生成電流密度,不動態保持電流密度 及び材料表面被覆率を用いて(4)式のように表される. 1 rp 1 j njexp j rp j njexp j rp j j j p rp j rp i l FE k FE i i RT i RT ξ α θ θ   ′′   ′′     + −   =          

(4)  ここで Erp,irpは再不動態化電位とその電流密度,ip は不動態保持電流密度,θは各化学種の材料表面被覆 率,k″,α,n は攻撃的化学種の電気化学反応速度定数, 透過係数,反応次数,l″,ξは抑制的化学種の電気化学 反応速度定数,透過係数である.k″,l″は更に活性化自 由エネルギーを用いて表される.一例として図 14 に, 316ステンレス鋼の再不動態化電位を塩素イオン活量, 温度,硝酸イオン濃度の相関として示す.シンボルは実 測値,実線は計算値を表す.  次に材料組成と再不動態化電位の相関を定量化するた め,15 種類のステンレス鋼とニッケル基合金に対して 実測を行い,攻撃的化学種の吸着による材料溶解の活性 化自由エネルギーと抑制的化学種の吸着による酸化物皮 膜生成の活性化自由エネルギーを合金組成に相関付ける ことで Fe-Ni-Cr-Mo-W-N 合金に対する一般化モデル が構築された.図 15 に 95℃塩水中における各合金の再 不動態化電位に対して実測値と一般化モデル推算値の比 較を示す.実測データのばらつきの範囲内で良好な一致 を得ることが分かる13) 図 13 孔の底部における材料表面の概念図

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4.2 材料熱履歴の影響  溶接など加工段階の熱履歴による材料の耐局部腐食性 の低下は,材料内部の粒界における耐食有効元素(Cr, Moなど)の炭化物析出によるものであることは良く知 られている.粒界近傍において拡散速度の制約により耐 食元素濃度の低下した領域が発生し,そこで局部腐食が 発生するわけである.熱履歴に応じた材料内部の耐食元 素濃度分布をモデル化予測することは,拡散係数の情報 があれば比較的簡単であり,一例として Alloy 600 の熱 処理温度と時間に対する Cr 濃度分布の実測値と計算値 の比較を図 16 に示す.横軸は粒界からの距離でナノメ  現時点では溶液の環境と材料の特性からこれら 3 つの 速度挙動を相関するモデルは確立されておらず,従って 個別の環境ごとに何点かの分布データを実測し,逆に各 速度式のパラメータを決定する手法が取られる.一方分 布を考慮しない単一孔の最大成長速度は,孔の成長に伴 う電位低下や拡散抵抗などが十分に小さいと仮定するこ とで,材料と環境条件の情報から推算予測することが可 能である16).一例として図 18 に FeCl 3溶液中における ハステロイ C-276 の最大孔食成長速度について推算値と 実測値の比較を示す.(m は重量モル濃度を示す.)こ の手法による推算値は‘Worst Case Scenario’として最

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0 200 400 600 800 1000

Distance from grain boundary, nm

x( Cr ) T=973 K, t=1h T=973 K, t=1h, cal T=973 K, t=10h T=973 K, t=10h, cal T=973 K, t=30h T=973 K, t=30h, cal T=973 K, t=100h T=973 K, t=100h, cal T=873 K, t=250h T=873 K, t=250h, cal T=1073 K, t=0.42h T=1073 K, t=0.42h, cal Alloy 600 Carbide = Cr7C3

Data: Was and Kruger (1985)

図 16 熱履歴と粒界近傍の Cr 濃度分布 図 17 塩水中の Al の孔食分布 ートル単位であることに注意された い.得られた耐食元素濃度の分布に対 し上述の材料組成と再不動態化電位の 相関モデルを適用することで,熱履歴 部の被局部腐食性を評価することがで きる14) 4.3 局部腐食の進展速度  再不動態化電位よりも腐食電位の方 が高い場合は孔食が発生するわけであ るが,その速度論的挙動は一般に孔の 核発生,孔の成長,孔の再不動態化の 3つの速度モデルにより表現される. 図 17 に塩化物水溶液中での Al の孔食 分布推算結果を示す.X 軸に孔の深 さ,Y 軸に経過年数,Z 軸に孔の個数 分布を取り,経年による孔食の進展状 態を表している.  孔食に限らず分布を持つ局部腐食に よる材料全体の損傷程度は,ダメージ 関数と呼ばれる手法を用いて定量的に 表現することができる.これは,例え ば孔食の場合,材料単位面積当たりの 孔の数を孔の深さ方向に積分した値と して定義され,上述の 3 つの速度モデ ルを組み込むことにより,運転年数と 臨界条件(例えば材料の肉厚)に対す る破損確率を与えることができる.ま た逆に破損確率と臨界条件から材料の 耐用年数を推定したり,破損確率と耐 用年数から材料の必要肉厚を設計する ことも可能である15) -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 aNO3 E rp (S HE ) 0.42 M Cl 3 M Cl 4 M Cl 0.42 M Cl 3 M Cl 4 M Cl -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.10 1.00 10.00 aCl E rp(SHE) 80 C 95 C 105 C 125 C 150 C 175 C 図 14 Cl-,NO 3-活量,温度と再不動態化電位 -0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 aCl Erp (S HE ) 22, exp 22, generalized 276, exp 276, generalized 625, exp 625, generalized 825, exp 825, generalized 690, generalized 600, exp 600, generalized 800, generalized 254SMO, exp 254SMO, generalized AL6XN, exp AL6XN, generalized 2205, generalized 316L, exp 316L, generalized 304L, generalized s-13Cr, exp s-13Cr, generalized 図 15 95℃塩水中の各材料の再不動態化電位

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0.001 0.01 0.1 1 10 100 0 1 2 3 4 5 6 (FeCl3) Ra te (mm/ y)

Int. Nickel Co. (1972) 298 K Int. Nickel Co. (1972) 303 K Int. Nickel Co. (1972) 338 K Inco Alloys Int. (1986) 323 K Inco Alloys Int. (1986) 348 K 298 K, cal. max. pit rate 303 K, cal. max. pit rate 323 K, cal. max. pit rate 338 K, cal. max. pit rate 348 K, cal. max. pit rate

m

図 18 FeCl3水溶液中のハステロイ C--276 最大孔食成長速度

Time (Environmental Variables)

Parameters Corrosion Potential Strain Rate Critical Potential SCC Pitting 図 19 応力腐食割れ発生環境の概念図 も Con servative な材料寿命予測に使用される. 4.4 応力腐食割れ発生予測への応用  再不動態化電位を指標とする局部腐食の発生予測は, 孔食を基点とする応力腐食割れにも拡張適用できる可能 性 が あ る. 図 19 は Det Norske Veritas(U.S.A.),Inc. 社が過酷油井・ガス井環境における耐食合金の性能評価 を目的として現在進めている応力腐食割れに関する共同 研究の概念図である17).応力腐食割れは腐食電位が再不 動態化電位より大きく,かつ定常到達前のひずみ速度が まだ大きい領域で発生するものと考え,現在実験による 仮説の検証とシミュレーションモデルの開発が行われて いる. 5.お わ り に  腐食は材料と溶液の界面における電気化学反応であ り,わずかな環境変化にも大きく影響される極めてデリ ケートな現象である.厳密な熱力学,電気化学に基づく シミュレーションモデルが開発され,理論的な腐食速度 の推算予測やメカニズム解明が可能になってきたもの の,上記 3.2 項で触れた理由などにより,試しに計算し た結果が手元の実測値と異なったからというだけで,そ の原因を追究すること無しに,所詮腐食はモデル化シミ ュレーションが不可能な現象であると短絡的に断ずる向 きもまだまだ多い.腐食現象の複雑さとデリケートさ故 に,現実の問題を正しくシミュレーション解析するには それを利用するエンジニアのスキルも必要とされる. 参 考 文 献

1) A. Anderko et al., Corrosion, 53, 43(1997).

2) A. Anderko et al., Shreir s Corrosion 4th edition, 2, 1591, Amsterdam: Elsevier(2010).

3) Partridge, E. et al., Trans. Am. Soc. Mech. Eng., 61, 597 (1939).

4) A. Anderko et al., Corrosion, 57, 202(2001).

5) M. A. Blesa et al., Chemical Dissolution of Metal Oxides, CRC Press, Boca Raton, FL,(1994).

6) N. Sridhar et al., Materials Performance, 26[10]17 (1987).

7) J. Newman et al., Electrochemical Systems, 3rd edition, Prentice Hall, Englewood Cliffs, NJ,(2004).

8) S. Nešić et al., Corrosion, 59, 616(2003).

9) S. Nešić et al., Corrosion/2005, paper 05556, NACE International, Houston, TX,(2005).

10) W. Sun et al., Corrosion/2007, paper 07655, NACE International, Houston, TX,(2007).

11) A. Anderko et al., Corrosion/99, paper 31, NACE International, Houston, TX,(1999).

12) A. Anderko et al., Corrosion Science, 46, 1583(2004). 13) A. Anderko et al., Corrosion Science, 50, 3629(2008). 14) A. Anderko, et al., US Department of Energy, project

DE-FC36-04GO14043 final report, September,(2007). 15) G. Engelhardt et al., Corrosion Science, 46, 1159(2004). 16) A. Anderko, et al., Corrosion Science, 46, 1583(2004). 17) DET NORSKE VERITAS, Proposal for Joint Industry

Project,(2010).

18) A. Anderko et al., Shreir s Corrosion 4th edition, 2, 1609, Amsterdam: Elsevier(2010).

19) A. Anderko et al., Shreir s Corrosion 4th edition, 2, 1618, Amsterdam: Elsevier(2010). (2013 年 3 月 31 日受理) 要   旨  水溶液環境における材料の腐食・防食挙動は電解質溶液の熱力学モデル,材料表面上の電気化学反応速 度モデル,溶液と材料の界面における物質移動速度及び吸着モデルを用いたシミュレーションにより定量 的に解析することができる.本稿では実在溶液安定領域線図を用いた熱力学平衡論的解析法,合成分極線 図を用いた全面腐食速度の推算法,再不動態化電位を用いた被局部腐食性の評価法を取り上げ,具体的な 検証事例を含めて紹介する.  キーワード  シミュレーション,電解質,熱力学モデル,電気化学,反応速度モデル,物質移動,吸 着,安定領域線図,腐食速度,再不動態化電位

図 3 水中の硫黄の安定領域線図(Metal Activity 1E-2)
図 16 熱履歴と粒界近傍の Cr 濃度分布 図 17 塩水中の Al の孔食分布 ートル単位であることに注意されたい.得られた耐食元素濃度の分布に対し上述の材料組成と再不動態化電位の相関モデルを適用することで,熱履歴部の被局部腐食性を評価することができる14).4.3 局部腐食の進展速度 再不動態化電位よりも腐食電位の方が高い場合は孔食が発生するわけであるが,その速度論的挙動は一般に孔の核発生,孔の成長,孔の再不動態化の3つの速度モデルにより表現される.図 17 に塩化物水溶液中での Al の孔食分布推算
図 18 FeCl 3 水溶液中のハステロイ C--276 最大孔食成長速度

参照

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