• 検索結果がありません。

意思決定過程論における組織目標の意味-香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "意思決定過程論における組織目標の意味-香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

意思決定過程論における

組織目標の意味

渡 辺 敏 雄

I

序 ウ ェ ル ナ ー ・ キ ル シ ュ (WernerKirsch)は,管理論としての経営経済学の提 唱者として知られ,その方法論的根拠付けは, 1977年の著書『管理論としての 経営経済学~

(

D

i

e

B

e

t

r

i

e

b

s

w

i

r

t

s

c

h

a

f

t

s

l

e

h

r

e

a

l

s

F

u

h

r

u

n

g

s

l

e

h

r

e

-

E

r

k

e

n

n

t

n

i

s

-ρe

r

:

p

e

k

t

i

v

e

n

A

u

s

s

a

g

e

n

s

y

s

t

e

m

e

w

i

s

s

e

n

s

c

h

a

f

t

l

μ:

h

e

r

Standort-

, Munchen

19げ)においてなされ,それ以後もかれは,精力的に管理論としての経営経済学 の展開に努めている。この著書の公刊に先立って1970年から1971年にかけて, かれは,大著の労作『意思決定過程』全

3

(En

航 船

i

d

u

n

g

s

p

r

o

z

e

s

s

e

B

d

.

-III, Munchen 1970-197L)を世に問うているのである。そして,後々のかれ の経営経済学説の内容は,この意思決定過程論に大きく影響されることになっ ている。例えば, 1984年に公刊されたかれの管理論の方法論的議論のその時点 (1) 本稿においてはこの書物をBFと略記する。 (2) 本稿においては,キノレシュの『意思決定過程』第3巻をEIIIと略記する。 (3) r意思決定過程」の概略については,本稿筆者の次の論稿がある。 渡辺敏雄(稿), ドイアにおける意志決定志向的組織論に関する一考察,一橋研究第5巻 第2号(通巻48号),昭和55年9月。 また,キノレシュの管理論としての経営経済学の全体像については,本稿筆者の次の論稿が ある。 渡辺敏雄(稿),管理論としての経営経済学に関する考究(1),香川大学経済論叢第59巻 第l号,昭和61年 6月。 渡辺敏雄(稿),管理論としての経営経済学に関する考究 (2・完),香川大学経済論議第 59巻 第2号,昭和61年9月。

(2)

124一 第60巻 第4号 790 での総決算的書物と見られる『科学的管理論か科学からの自由か』全2巻

(

W

i

s

s

e

n

s

c

h

a

j

t

l

i

c

h

e

Unternehmen

ゆi

h

r

u

n

g o

d

e

r

F

r

e

i

h

e

i

l

v

o

r

d

e

r

W

i

s

s

e

n

-Sじ

h

a

j

t

.?

-

S

t

u

d

i

e

n

z

u

d

e

n

Grund

g

e

nd

e

r

F

u

h

r

u

n

g

s

!

e

h

r

e

-

, 1 Halbband u 2.. Halbband, Munchen 1984)においても,かれは意思決定過程論において展 開された議論の要約的再掲とそれに対する反省から論述に入っている。 キルシュの意思決定過程論においては,第l巻と第2巻が個人の意思決定過 程を扱い,第

3

巻が組織における意思決定過程を扱っている。このうち第

3

巻 には,かれによる組織の見方が提示されているのであって,この組織の見方の いくつかの側面はかれの管理論としての経営経済学の展開に大きな影響を与え ている。 それらの側面のなかでも,組織目標に関するキルシコの見方は,後々のかれ の経営経済学説に対する影響力の観点からは重要なものである。なぜ、なら,か れによる組織目標に関するかれの認識は,少なくとも,管理論としての経営経 済学における組織能力論というキルシュ独自の価値の設定の提唱と一貫してい るからなのである。 それ故,われわれは,本稿においては意思決定過程』第3巻を中心にして, 組織目標に関するキルシュの見解を把握しておきたいのである。 II 政治システムの行動 政治システム,管理システムならびに作業監督システムからなる組織の情報 意思決定システムがキルシュの考察の場である。このうち,政治システムが, 組織目標を含む組織行動にとって基本的に重要な制約を決定する場なのであ る。重要な制約の決定という言葉に表れているように,かれは, 目標を所与で あると考えているわけではなく,組織目標もまた意思決定過程のなかで決定さ れるとみなすのである。 キルシュは,政治システムをもまたひとつのシステムとみて,そこへのイン

(3)

プットとアウトプットを明らかにする。 (EII

, S 1

I

2

2

“) 組織の政治システムが意思決定を行うとし、う時には,政治システムの中核集 団が意思決定を行うのである。中核集団は,アウトプットとして「権威付けら れた意思決定」をうみだす。政治システムのインプットは r組織外的環境」な らびに「組織内的環境」が設定してきた「要求」である。 「組織外的環境」と「組織内的環境」が設定した「要求」が政治システムの 中核集団に入るということは,文字どおり「要求」だけが入っていくのではな く,それを担った利害関係者

(

I

n

t

e

r

e

s

s

e

n

t

e

)

が,適応者

(

A

n

p

a

s

s

e

r

)

として行動 するのではなく,積極的な影響の操作的施策

(

m

a

n

i

p

u

l

a

t

i

v

e Masnahme d

e

r

a

k

t

i

v

e

n

B

e

e

i

n

f

l

u

s

s

u

n

g

)

によって,要求を提出するとともに,中核集団に影響を も与えようと試みる。それ故,政治システムにおいては,様々な要求が入って きて,中核集団がそれを権威付けようとするのであり, この過程に,要求を担 いつつ中核集団に対する参加を認められた集団が影響を与えようとするのであ る。 政治システムに対するインプットは,以上のような要求のみではなく r支持」

(

U

n

t

e

r

s

t

u

t

z

u

n

g

)

も政治システムにとっては重要なインプットである。キルシコ は r支持」の一般的定義を述べるとして rひとりの人あるいは集団が,ある 対象に対してかれら自身の権力を投入する準備ができている場合ないし投入し (4) キノレシュは政治システムのインプットとアウトプットに関して次のような図を書いてい る(図1参照〉。 組織外的環境 組織の政治システム 組j織内的環境 図1 権威付けられた 意思決定

(4)

-126ー 第60巻 第4号 792 ている場合には,かれらはその対象を支持しているのであるj

(

E

I

I

L

SS. 123 -124)と言う。キルシュによるならば,ここに言う支持の対象は,(1)個々の要求, (2)要求の背後にいる人あるいは集団, (3)権威付けられた意思決定, (4)体制(Ver -fassung), (5)政治システムの構成員, (6)'政治的共同体」としての組織,である。

(

E

I

I

I

S. 124)また支持者としては,組織外的環境と組織内的環境の構成員,な らびに政治システムの中核集団が考えられている。

(

E

I

I

L

S.. 124) キルシュは,様々な対象に向けられうる支持のうちで政治システムに向けら れた支持を重視しつつ,政治システムの生存に関して,次のように述べる。「政 治システムがそもそも意思決定を行い, さらに権威付けられた諸々の制約を意 思決定前提として貫徹する (durchsetzen)ことができる場合にのみ,政治シス テムは生存しうるのである。

j

(

E

I

I

L

S.. 124)ここには,政治システムの生存のた めの

2

つの条件が規定されている。つまり,(1)そもそも意思決定を行うこと, (2)行った意思決定を受け入れさせること,がそれらの条件である。そして,こ うした政治システムの生存の条件を確保していくことに支持が重要な役割を果 たすのである。 特に,上記の

2

つの条件のうちで,行った意思決定を受け入れさせることに 支持が関係することになるのである。個々の意思決定を対象とする特殊的支持 からは区別される分散的支持(diffuseUnterstutzung)は,体制,政治システム の構成員,政治的共同体としての組織をその対象とする。すなわち,分散的支 持は,体制と中核集団の正当性を信じること,組織参加者が全体としての組織 ならびに管理者の人格に一体化すること,共通の利害・共通の福祉・組織の共 通の利害の存在を信じること,に根拠付けられる。

(

E

I

I

I

,S.. 125) 分散的支持が存在する場合には,組織構成員は,政治システムの行った意思 決定の内容がたとえ自身の望みと考えとは異なっていても,その意思決定を受 け入れるようになり,政治システムの方から見れば,意思決定を政治システム 独自の価値に向けることが可能になる。

(

E

I

I

L

SS. 125-126) さて,以上に論じた「意思決定j,r要求」ならびに「支持」の聞には,意思 決定が,要求と支持に影響を与えるという関係があるのである。政治システム

(5)

が行った意思決定が,組織外的環境と組織内的環境の次に提出してくる要求を 規定し,またかれらの支持の変化を誘発するからである。分散的支持が達成さ れていない状況を前提するならば,例えば,組織構成員の要求に背く意思決定 は,たとえかれらに受け入れられたとしても,政治システムに対する支持は減 少し,場合によっては新たな要求が次の段階で提出される可能性があり,新た な要求が提出されないまでも,政治システムによって次に行われる意思決定の 貫徹はより困難になることが容易に予測されるのである。 以上が政治システムの行動に関するキルシュの見解であるが,われわれはそ れに関するかれの見解が,全般的傾向としてシステム論的構想に大きく影響さ れていることを窺い知るのである。そのことは,政治システムの生存というこ とを重視し,そのための条件を考えるかれの思考に現れている。このことを確 認しておき,われわれは次に組織目標の形成過程に関するかれの見解を見ょう。 III 組織目標の形成過程 政治システムという組織目標の形成の場においてどのような形で目標は生み 出されるのか。キルシュはこれを明らかにするために,組織を巡る目標を,個 人の目標

(

I

n

d

i

v

i

d

u

a

l

z

i

e

l

)

,組織に対する目標

(

Z

i

e

l

fur

O

r

g

a

n

i

s

a

t

i

o

n

)

,組織目 標

(

Z

i

e

ld

e

r

O

r

g

a

n

i

s

a

t

i

o

n

)

に区別する。 組織参加者としての個人は,組織に参加することによって満たしたい要求を もっている。この要求こそ「個人の目標」なのである。個人は,一方で組織か ら誘因

(

A

n

r

e

i

z

)

を受け取り,他方で組織に対して貢献

(

B

e

i

t

r

a

g

)

をなす。個人が 受け取る誘因を,貢献よりも高く評価する限りにおいて個人は組織への参加を 続ける。しかし,こうした誘因貢献均衡が組織内外の変化に基づいて妨害され るならば,個人は再度誘因貢献均衡を取り戻そうとする。誘因貢献均衡を取り 戻そうとする個人の反応には

2

つが考えられる。第

1

に,かれは,誘因貢献 均衡の破壊の原因を与件として受け取る反応をするのである。組織に対する貢 (5) 組織目標の形成過程に関するキノレシュの見解については次を参照のこと。

w

.

Kirsch, EIII, SS..129-140.

(6)

-128- 第60巻 第4号 794 献を低下させる,組織から抜け出す,誘因と貢献に関するかれの要求を変更す る,これらがそうした反応に属し,個人がこれらの反応をする場合,かれは, 適応者

(

A

n

p

a

s

s

e

r

)

として行動すると言われる。第

2

に,個人は,適応者たるこ とを止め,政治システムの中核機関に対して積極的に影響を与えようとする。 この場合,個人は政治システムの中核機関に対してかれの要求を提出すること になり,政治システムのここでの分析において重要な関連を持つのは,この第 2の反応の方である。 (EII

I

SS..129-132) 個人が提出する要求が,-組織に対する目標」で、ある。個人の目標が,個人の 内部に存在する認知的情報であるのに対して,組織に対する目標の方は,個人 の外に存在する公開的情報

δ

(

e

n

t

l

i

c

h

eI

n

f

o

r

m

a

t

i

o

n

)

である。もちろん,組織 に対する目標は,個人の目標と密接な関連にあるが,同ーのものでもないこと も確かである。なぜならキルシュによるならば,個人は,組織に対する目標を 形成する時には,しばしば個人の目標を隠すからである。例えば,個人の目標 がより高い個人的地位の獲得である場合には,個人は,特定の販売分野におけ る市場占有率の拡大を組織に対する目標として提出する。 (EII

I

S 132..)個人 は,かれの持っている個人の目標の達成に導くと考える要求を組織に対する目 標として提出するのである。 これらの組織に対する目標が,政治システムの中核集団において,考慮され つつ権威付けられるのであるが,その権威付けられた産物が「組織目標」であ る。キルシュは,政治システムの中核集団に入ってきた組織に対する目標の辿 る経路をいくつかに分類している。(1)殆どの組織に対する目標は,考慮されず に消える。

(

2

)

詳細な議論なしに取り上げられ受け入れられる。この場合にはも ちろん組織に対する目標を提出する人の権力が大きいのである。 (3)複数の組織 に対する目標が少ない数の要求に還元される。 (4)考慮される要求と考慮されな い要求が出てくる。とやの組織に対する目標が考慮されるのかは個人の権力にか かっている。 結局,政治システムにおける組織目標形成のための交渉過程の結果すなわち 組織目標の内容は,要求を提出する個人の権力に依存して決まってくるのである。

(7)

こうして形成された組織目標はどのような特質を持つと考えられているのだ ろうか。われわれは,次に,組織目標の特質に関するキルシュの見解を跡付け よう。

I

V

組織目標の特質 キルシュは,組織目標の形成過程に関しては以上のように考えているのだが 上記の政治システムの交渉過程において組織目標が形成されるという考え方を 部分的に修正することも行いつつ,組織目標の特質につき,次のように論じる ことになる。 すなわち,組織目標が政治システムにおいて決められ,これに基づいて,組 織構成員の役割 (Roll)が決定されるとし寸概念的枠組は,現実との関連を持た ねげならないと考え,その概念的枠組を現実に近づけるために,キルシュは, 一種の仮説を置く。 (E

I

I

I

S. 154) 第

1

に,全ての組織において上記のようにひとつの目標形成過程に到達し, それに従って組織のひとつの権威付けられた目標システムが存在する, とは限 らない。 第2に,権威付けられた目標の存在と組織構成員の役割同調性を仮定してみ ても,権威付けられた目標が,重要な戦略と実現されるべき具体的施策ないし 過程すなわちいわゆる「手段意思決定」を専ら支配する,とは限らない。 まず第1の仮説についてキルシュは次のように論じる。

(

E

I

I

I

SS. 154-157.) 個人的経験に基づいた認識としつつも,かれは,大企業においては,手段意思 決定の基礎に存在するような企業目標がつねに決定されるわけではない, とす る。このように,まず目標が決定されてから手段意思決定が行われるものでは ないという現象は,委譲しえない手段意思決定について現れる。かれは,上記 の第1の仮説をやや具体的にした仮説を掲げ,これに根拠付けを行う。 (6) 組織目標の特質に関するキノレシュの見解については次を参照のこと。 W.Wirsch, EJII, SS 141-159

(8)

-130ー 第60巻 第4号 796 仮説 組織のある手段意思決定が権力分布

(

M

a

c

h

t

v

e

r

t

e

i

l

u

n

g

)

に対してより大 きな影響を与えるならば,政治システム、への参加者は,その手段意思決定の 決定をきっかけにならびにそれを目指して,組織の目標システムに合意しよ うとすることは益々少なくなる。 (EIIL

S

.

.

1

5

5

)

組織

B

標の内容は組織の政治システムにおける支配的権力分布に依存してい るのであるが,組織目標から導かれ,手段意思決定が行われた段階においては 組織目標に言われていることが具体化されるだけに,手段意思決定は支配的権 力分布に対して反作用

(

R

u

c

k

w

i

r

k

u

n

g

)

を及ぼし,元の権力分布に基づいて決定 されていたはずの組織目標を再度疑問視させる。 例えば,企業の政治システムの権力分布は,企業の資本構成

(

K

a

k

i

t

a

l

s

t

r

u

k

-t

u

r

)

によって影響をうける。 (EIIL

S 1

5

5

.

)

この場合,政治システムは先にひと つの組織目標に合意して,その後で企業の資本構成という重要な手段意思決定 を行うと,次のようなことが起こる。組織目標への合意の時点においては,紹 織目標は異なる要求を持った人々からかれら自らの要求がそこに反映されてい るという形で弾力的に解釈される可能性を持っていたので現存の権力分布は現 状維持を保てたが,手段意思決定としての資本構成の決定は組織目標に対して 特定の意味に限定を施すだけに,特定の権力分布を明確に優先する形になり, その限りで,組織目標に合意が行われた時点における権力分布に影響が跳ね返 る形で、現れる。 キルシュによると,政治システムの権力分布に対する手段意思決定の影響と 組織目標に対する帰結は,政治システムへの参加者によって容易に予測される。 それ故,組織目標に合意することより,権力分布に直接的に明らかな影響をも っ手段意思決定の方を先に決定するという行動が生まれてくるのである。そし て,組織目標が決定されるとしても,手段意思決定が決定されてからになるの である。このように手段意思決定の後に決定される組織目標のひとつの重要な 課題は,-…ぃ手段意思決定の結果を(政治システムの一一渡辺〉外部の者に対 して説明し正当化するu

'J(EII

I

S

.,

1

5

6

,)ということである。

(9)

以上のように考えるキルシュは,結局 r山川ゎ目標意思決定過程は,組織の政 治的システムにおいては,単に二次的な意味(subsidiareBedeutung)しか持た ない

J

(

E

I

I

L

S 156)と言う。それ故 r更に,目標システムが常に組織政策的手 段意思決定過程に後続するのならば,その戦略的手段意思決定過程の分析に とっては,政治過程への参加者の組織に対する目標を知ることが(組織目標を 知ることよりも一一ー渡辺〉決定的に重要な意味を持つ。J

(

E

I

I

L

S.. 156) さて次に,上記の第

2

の仮説,すなわち,権威付けられた目標の存在と組織 構成員の役割同調性を仮定してみても,権威付けられた目標が,重要な戦略と 実現されるべき具体的施策ないし過程すなわちいわゆる「手段意思決定」を専 ら支配するとは限らない, とし、う仮説の方に関するキノレシュの見解をわれわれ は跡付ける。 この仮説は,手段意思決定が先に行われるのではなく,組織目標の決定が先 に行われている場合に,その組織目標にはどれだけの意味があるのかを問題に している。組織目標が先に決定されるのであるから,その意味を問う場合には, 組織の情報意思決定システムのなかの管理システムに対するその意味が問題に なる。すなわち,管理システムの構成員がかれらの日常的意思決定に組織目標 をどれほど意思決定前提として置くのか,が問題になる。この間いに関してキ ルシュは,組織目標の決定が葛藤の表面的解決(Quasi-Konftiktl osung)である とし、う構想に基づきつつ,答える。

(

E

I

I

L

SS. 157-158) 葛藤の表面的解決の構想によるならば,複数の解釈を許すような妥協文言に 合意することは,政治過程の典型的特徴である。複数の解釈を許すような妥協 文言に合意することは,軽はずみで、行ったことでもなく,無能力故にそうなっ たのでもなく,意図して行われているのである。なぜなら,複数の解釈を許す ような妥協文言に合意することの背後には rそうした妥協文言が,より一般的 でかつより漠然とするほど,組織への参加者の支持と賛同を獲得できる可能性 が一層多く生まれる

J

(

E

I

I

I

,SS. 157-158..)という意図が働くからである。管理 システムの構成員は,かれらそれぞれの独自の意味で,漠然、とした組織目標を 限定できるのである。

(10)

-132ー 第60巻 第4号 798 このような見方においては,組織目標は,管理システムの構成員の行動に対 する開放的制約

(

o

f

f

e

n

eB

e

s

c

h

r

a

n

k

u

n

g

)

であり,かれらが日常の意思決定を行 う場合には,この開放的制約を閉じなければならないのであり, この開放的制 約を閉じるという行動のうちに,かれらの持つ個人の目標による解釈が入り込 む。もちろん,組織目標の個人の目標による解釈とはいえ,無制限に放窓な解 釈が行われるということではなく,解釈が,他の構成員によって組織目標の枠 内の妥当な解釈であると認知される範囲でのみ,自由があるのである。 それ故, こうしてゆるやかながらも,管理システムの構成員の行動に制約を 課すことに組織目標の意味があるということができるのではあるが,他方で, 組織目標は,管理システムの構成員の意思決定を決して完全に支配するという わけでもない。このようにして,組織目標の表面的解決の構想から,キノレシュ は,組織目標の意味に関する仮説を根拠付けるのである。 組織においては,必ず,組織目標の形成が手段意思決定に先立って行われる とし、うわけでもなく,またすでに組織目標が先行して決定されている場合にも その組織目標は,組織の構成員にとってかれらの行動を完全に支配するという わけでもない, というのが,組織目標に関するキノレシュの経験的認識である。 これらの認識は,キルシュ自身も言うとおり,-この(権威付けられた組織目 標の一一渡辺〉意味は,比較的古い組織理論が推測しているよりは,明らかに 小さいJ(EIII, S.. 157)ということを意味し,かれの認識は,事実の中に存在す る組織目標の把握を重視し,ここから出発しようと試みる従来の経営経済学の 議論に大きく改変を迫る興味深いものである。 これらの認識と『意思決定過程』第

3

巻の他の認識との関係について,われ われはここで考察しておく。『意思決定過程』第3巻においては,まず,組織の 構成ならびに組織における集合的意思決定過程の特質が論じられた後に,組織 における構成員の意思決定前提の発生過程が詳論されている。それ故u"意思決 (7) 組織一般の目標の一例として r組織の民主化の実現」という目標に合意がなされたとし ょう。組織のそれぞれの構成員は,それぞれの思う意味での民主化を考えはじめるであろ う。

(11)

定過程』第3巻のひとつの中心は,組織における個人に対する影響についての 議論であると言えた。そしてその議論は,組織における社会化ならびに権力に 基づく交渉を巡るものであった。このうち社会化の方は,個人の長期的記憶の 方へ影響を与えていくのであり,権力に基づく交渉は短期的記憶の方への影響 を与える。これらの影響過程は,組織に対する忠誠的な感情を育成し,またそ のときそのときに組織構成員の意思決定を特定の方向に導こうとする試みなの である。これらの対人的な影響過程論は,組織目標の内容の如何にかかわらず 展開されうると解される。なぜなら,組織目標の特定の内容との結びつきで社 会化や操作の内容が変わってくるということはないからなのである。 それ故,その内容につき様々なものがあっても組織内の影響過程論が成立す るのであるから,キルシコの行うように組織目標を重視しなくなってしまって すら,組織内の影響過程論はそれはそれで生かされることになるのである。 V 結 本 稿 で は , わ れ わ れ は 意 思 決 定 過 程 』 第3巻を取り上げ,ここに見られる 組織目標の特質に関してキルシュの説を跡付けた。そこには,かれ特有の見解 が見られた。つまり,組織目標は必ずしも手段意思決定に先立って行われるも のではないことが,組織の権力分布の維持行為との関連で仮説として提示され たのである。ここで既に組織目標には大きな意味は与えられないとキルシュは 考えたので、あった。 組織目標には二次的意味しか与えることはできないとするキルシュは,さら にその根拠として,それは組織構成員の行動を律する意思決定前提になる際, 管理システムの構成員のそれぞれの独自の意味でそこに解釈が加えられること を挙げていた。このことは,組織構成員ひいては組織の実際の行動を規定して いるのは,そうした解釈が施された後の組織目標だということを示している。 それ故,研究対象の組織の外部にいる研究者が,そうした解釈が行われる前の 組織目標を重視し,それに研究者の考える意味での解釈を施してみても,それ は組織構成員の解釈とは必ずしも一致しないことにもなるのである。

(12)

-134- 第60巻 第 4号 800 だが,後日キノレシュは,組織目標に相当す町る一種の目標ないし価値を明確に しようと試みる。なぜ、なら,キノレシュは, 自らの経営経済学説を純粋科学では なく,応用科学であるとして規定するからである。すなわち,かれの提唱する 管理論としての経営経済学は,応用科学的経営経済学なのである。ここに,応 用科学であるということになると,現実の実践的行為を言明の形で支援してい くことが問題になる。 その場合,言明によって支援されるあるいは助長される「価値」が直ちに視 野に入って来ざるをえなし、。しかも,管理論としての経営経済学の個々の言明 が,それぞれ個々の価値を支援するようでは,管理論としての経営経済学は, 離散的言明の単なる寄せ集めになるわけであるから,統一的な価値志向が必要 になることは容易に推論できる。少なくとも,管理論としての経営経済学のな かにおいては,それに相当するものを明らかにする努力が課題として含まれる 必要がある。 その際,キノレシュが二次的意味しか付与しなかったような組織目標を研究の 基礎にするのではなく,組織構成員ひいては組織の実際の行動を見て,それら が共通にめざしていると思しきものを明確にして,応用科学の一部分として据 える道が考えうる。事実,キルシュは,管理論としての経営経済学の課題のひ とつに r問題の明確イ七」をあげ,企業の実践において何が問題になっているの か,を明らかにしようとする。 (B

F

SS 131-171)その箇所でかれが r本来の 問題J(eigentliches Problem) (BF, SS.. 165.)を再構成する必要があると提唱す るのはまさに組織が共通にめざしているものをはっきりさせようとする提唱な のであって,ここに,かれの『意思決定過程』第

3

巻の内容としての組織目標 論と管理論としての経営経済学を定式化しだしたかれの後日の見解との一貫性 があるのである。

参照

関連したドキュメント

層の項目 MaaS 提供にあたっての目的 データ連携を行う上でのルール MaaS に関連するプレイヤー ビジネスとしての MaaS MaaS

(自分で感じられ得る[もの])という用例は注目に値する(脚注 24 ).接頭辞の sam は「正しい」と

基本目標2 一 人 ひとり が いきいきと活 動するに ぎわいのあるま ち づくり.

・難病対策地域協議会の設置に ついて、他自治体等の動向を注 視するとともに、検討を行いま す。.. 施策目標 個別目標 事業内容

基本目標2 一人ひとりがいきいきと活動する にぎわいのあるまちづくり 基本目標3 安全で快適なうるおいのあるまちづくり..

討することに意義があると思われる︒ 具体的措置を考えておく必要があると思う︒

1989 年に市民社会組織の設立が開始、2017 年は 54,000 の組織が教会を背景としたいくつ かの強力な組織が活動している。資金構成:公共

「マネジメントモデル」の各分野における達成すべき目標と重要成功要因の策定を、CFAM(Corporate Functional Area