中学生の理科に対する意識調査の日中比較研究(2)
王 珊・高橋智香・佐々木信行・西原 浩・高木由美子
Consciousness survey to Science Education between
Junior High School of Jiangxi Sheng and Kagawa Prefecture
Shan W
ANG, Chika T
AKAHASHI,
Nobuyuki S
ASAKI, Hiroshi N
ISHIHARA, Yumiko T
AKAGIAbstract
Young people are not interested in science because as students they are not taught why science is interesting. After consideration of the basic chemical education experiments, we would like to introduce specific examples from when we had high school students perform these experiments. We would like to introduce some examples of this experiment to our students carried out during their teaching practice in Kagawa Universityʼs Attached Junior High School. Moreover, we are interested in the situation of chemistry education in China. China and other Asian countries cannot join Program for International Student Assessment (PISA). Consciousness survey to science in attachment junior high school of Jiangxi normal university and other attachment junior high school were investigated. The comparative study of school research in the junior high school Jiangxi and Japan was also investigated.
1.はじめに 日本では児童生徒の学力低下が危惧されている。我々は,近年急激に科学技術化が行われてい る中国で,教育学部と学術交流協定締結校附属中学校の生徒を対象に,彼らの理科を学ぶ動機や 学習に対する意識,理科授業活動の状況などを調査し,本学附属中学の生徒の実地調査の結果と 比較・検討している。両国の授業内容,意識調査,教科書比較から日本や中国の児童生徒につい て危惧されている問題を解決する糸口を見つけるため,日本と中国の理科教育について先行研究 について資料収集を行い,比較検討を行うために,中国と日本の中学校でアンケート調査を行う ことにした。
2.調査の対象と方法 1)調査課題 2003年に隅田らによって,遼寧師範大学附属中学校(以後,遼寧大附中と呼ぶ)愛媛大学教育 学部附属中学校(以後,愛媛大附中と呼ぶ)に所属する中学2年生を対象とした,理科に対する 意識調査が行われた1)。本研究では,その結果とも比較検討するために,その調査を参考に,さ らに質問項目を追加して調査研究を実施した。課題は以下の通りである。 第一の課題は,彼らが理科を学ぶ理由を尋ねる課題で,「将来自分が望む仕事に就くため」, 「親を喜ばせるため」,「自分が行きたい高等学校や大学へ入るため」,「自分自身の知的な興味・関 心を満足させるため」,「その他」から重要度を百分率で回答するよう求めた。 第二の課題は,理科学習に対する意識を調べる項目で,「理科は楽しい」,「理科はたいくつ だ」,「理科はやさしい教科である」,「理科は生活の中で誰にも大切だ」,「将来,科学(理科)に 関わる仕事をしたい」の五つの項目について,1(つよくそう思う),2(そう思う),3(そう 思わない),4(全くそう思わない)の評定尺度から自分の考えに最も近いものを回答するよう求 めた。 第三の課題は,理科の授業活動状況を尋ねるもので,「教師が問題の解き方を示す」,「板書内 容のノートへの筆記」,「小テストや試験」,「ワークシートや教科書で自己学習」,「コンピュータ の使用」,「小グループで共同学習」,「教師が宿題を出す」,「宿題の答え合わせ」,「教師が演示実 験をみせる」,「自分たちで実験や観察を行う」の10項目の活動が授業中にどれくらいの頻度で行 われているかを,1(いつもある),2(よくある),3(あまりない),4(一度もない)の評定 尺度から最も近いものを回答するように求めた。 2)調査方法及び対象 調査は,質問紙調査形式で行った。調査対象は,日本の中学生については,香川大学教育学部 附属高松中学校3年生11名2年生10名,高松市立桜町中学校3年生,名,中国の中学生につ いては,江西師範大学附属中学校は2011年調査3年生13名,江西省 州市 第二中学校3年生 11名で実施した。今後,香川大学教育学部附属高松中学校を,「香川大高松中」,高松市立桜町 中学校を「高松桜町中」,江西師範大学附属中学校を「江西大附中」,江西省 州市 第二中学 校を「江西 県二中」,愛媛大学附属中学校を「愛媛大附中」,遼寧師範大学附属中学校を「遼寧 大附中」と標記する。また,同クラスの理科の授業を参観する実地調査もあわせて行った(表1)。 日本 中国 実施会場 香川大学教育学部附属高松中学校 (香川大高松中) 高松市立 桜町中学校 (高松桜町中) 江西師範大学 附属中学校 (江西大附中) 江西省 州市 県第二中学校 (江西 県二中) アンケート対象 3年生 2年生 3年生 3年生 3年生 対象人数 11 10 4 13 11 対象内訳 男女 1 442 04 222 12 1010 調査方法 質問紙調査式 無記名 調査時期 2011.10. 2012.1. 2011.11. 200.. 2011.. 2011.. 表1 調査対象と人数
3.結果と考察 1)中学生が理科を学ぶ理由は何か 理科を学ぶ理由として五項目を挙げ,それぞれの重要性を百分率で記入させた結果を平均値で まとめたものを図1に示す。 図1 理科を学ぶ理由 33.1% 31.1% 32.0% 14.5% 13.7% 14.1% 28.8% 29.0% 28.9% 10.1% 16.2% 13.4% 13.5% 11.0% 11.6% 女子 男子 江西大附中 29.2% 32.0% 30.8% 14.3% 15.5% 14.9% 29.4% 22.5% 25.7% 15.4% 18.2% 16.9% 11.7% 11.8% 11.7% 女子 男子 江西 県二中 35.4% 29.6% 6.9% 6.0% 35.0% 43.7% 19.0% 16.1% 3.7% 4.6% 男子 香川大高松中 25.6% 5.3% 49.7% 14.1% 5.3% 女子 25.3% 8.4% 42.7% 21.4% 2.2% 男子 高松桜町中 23.7% 26.9% 8.2% 8.7% 43.9% 41.5% 22.0% 20.8% 2.2% 2.3% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 女子 男子 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 将来自分が望む仕事に就くため 親を喜ばせるため 自分が行きたい高等学校や大学へ入るため 自分自身の知的な興味・関心を満足させるため その他
理科を学ぶ理由について傾向は全体的に類似している。最も高い比率をしめすのが,香川大高 松中,高松桜町中では自分が行きたい高等学校や大学へ入るためであるのに対し,江西大附中や 江西 県二中ではより全ての項目に分散しているような結果が得られた。特に中国2校では,親 を喜ばすためという理由が多くなっている。 図2 理科学習に対する意識課題(1) 16.0% 24.2% 66.7% 33.3% 84.0% 16.0% 84.0% 75.8% 16.0% 24.2% 66.7% 33.3% 84.0% 16.0% 84.0% 75.8% 15.6% 3.0% 8.9% 84.4% 97.0% 91.1% 15.6% 3.0% 8.9% 84.4% 97.0% 91.1% 35.5% 18.2% 28.3% 64.5% 35.5% 71.7% 81.8% 35.5% 18.2% 28.3% 64.5% 35.5% 71.7% 81.8% 12.8%12.0% 12.4% 87.2% 88.0% 87.6% 87. 12.8%12.0% 12.4% 87.2% 88.0% 87.6% 87. 25.5% 44.9% 64.6% 74.5% 55.1% 35.4% 25.5% 44.9% 64.6% 74.5% 55.1% 35.4% 32.3% 67 7% 13.6% 24.5% 86.4% 75.5% 32.3% 67 7% 13.6% 24.5% 86.4% 75.5% 6.5% 34.1% 17.9% 93.5% 65.9% 82.1% 6.5% 34.1% 17.9% 93.5% 65.9% 82.1% 9 9% 15.6% 5.0% 84.4% 95.0% 90.1% 9 9% 15.6% 5.0% 84.4% 95.0% 90.1% 28.1% 71 9% 54.5% 45.5% 58.0% 54.5% 45. 42.0% 28.1% 71 9% 54.5% 45.5% 58.0% 54.5% 45. 42.0% 27.8% 19.8%23.5% 72.2% 80.2% 76.5% 27.8% 19.8%23.5% 72.2% 80.2% 76.5% 11.4% 29.6% 21.2% 88.6% 70.4% 78.8% 11.4% 29.6% 21.2% 88.6% 70.4% 78.8% 肯定 否定 外 全体 中 男子 内 女子 江西大附中 江西 県二中 香川大高松中 高松桜町中 問1 理科は楽しい 問2 理科は退屈だ 問3 理科は易しい 18.7% 12.8% 24.5% 87.2% 75.5% 81.3% 18.7% 12.8% 24.5% 87.2% 75.5% 81.3%
次に理科学習に関する意識課題としてあげた五項目に対して,1(つよくそう思う)及び2(そ う思う)を選択した生徒数を項目別,男女別にまとめて示した。外円が女子,中円が男子,内側 が全体の集計結果を示す。その結果,日本,中国どちらの生徒も,理科は楽しく,たいくつでは ないけれど,易しくないと回答していることがわかる。違いがあらわれたのは,問4と問5で, 図3 理科学習に対する意識課題(2) 肯定 否定 外 全体 中 男子 内 女子 46.8% 53.2% 49.0% 51.0% 46.8% 53.2% 51.0% 49.0% 49.0% 46.8% 53.2% 49.0% 51.0% 46.8% 53.2% 51.0% 49.0% 49.0% 37.1% 50 0% 50 0% 42.4% 62.9% 37. 57.6% 37.1% 50 0% 50 0% 42.4% 62.9% 37. 57.6% 18.0% 11.6% 14.7% 82.0% 18. 88.4% 85.3%. 18.0% 11.6% 14.7% 82.0% 18. 88.4% 85.3%. 65 2% 34.8% 29.6% 32.0% 70.4% 68.0% 65 2% 34.8% 29.6% 32.0% 70.4% 68.0% 38.0% 62.0% 54.3% 45.7% 53.3% 62.0% 54.3% 46.7% 38.0% 62.0% 54.3% 45.7% 53.3% 62.0% 54.3% 46.7% 39.5% 60.5% 68 7% 31.3% 44.9% . 60.5% 55.1% 賛成数 不賛成数 女子 39.5% 60.5% 男子 68.7% 31.3% 全体 55.1% 44.9% 39.5% 60.5% 68 7% 31.3% 44.9% . 60.5% 55.1% 37.7% 47 7% 56.2% 37.7% 62.3% 52.3% 43.8% 56. 37.7% 47 7% 56.2% 37.7% 62.3% 52.3% 43.8% 56. 21.3% 78 7% 30.6% 26.0% 69.4% 74.0% 21.3% 78 7% 30.6% 26.0% 69.4% 74.0% 江西大附中 江西 県二中 香川大高松中 高松桜町中 問4 生活の中で誰にも大切 問5 理科関連の仕事につきたい
生活の中でだれにも大切かという問いに中国の生徒は8割-9割肯定的な意見を持っているのに 対し,香川大高松中では半数の生徒が肯定的であり,将来の職業選択に関して高松桜町中では女 子は1/4の生徒しか,肯定的な意見を持っていないということがわかった。日本の理科離れの傾向 はこの傾向は以前の結果とも一致した。 理科授業の活動10項目について,自分たちの理科授業でそれらがどの程度行われているかを回 答し。1(いつもある),2(よくある),3(あまりない),4(一度もない)の評定値を便宜 的に間隔尺度上の得点と見なし,活動項目別に調べた。平均値の差に大きな違いが認められたの は, 1)教師が問題の解き方を示す 2)教師が宿題を出す 3)宿題の答え合わせ 4)自分たちで実験や観察を行う の4項目であり,中国の2校が日本より多いと応えていた。聞き取り調査でわかったことである が,江西大附中では,自分たちで実験や観察は余り行わないけれども,教師が問題の解き方を示 したうえで,教師が宿題を出し,その答え合わせを行うという作業は多く実施している。2003年 の調査でどちらも余り普及していなかったコンピュータの使用に関しては,香川大高松中では, 余りかわらないものの,江西大附中,江西 県二中ではより多く活用しているという結果になっ た。 中国はPISAや,TIMSSに参加していないので,児童生徒の学力に関する国際的データが不足し ている。比較可能な指標の一つとして国際科学オリンピックの成績をこちらに示した(図4)。国 200年 中国 日本 2012年 中国 日本 分野 (参加国/参加人数)金 銀 銅 金 銀 銅 分野 (参加国/参加人数)金 銀 銅 金 銀 銅 数学(3/) 4 2 0 2 4 0 数学(100/) 0 1 0 4 1 化学( /4) 4 0 0 2 2 0 化学(2/4) 2 2 0 2 2 0 生物(4/4) 4 0 0 0 1 3 生物(/4) 3 1 0 0 4 0 物理(/) 4 1 0 2 2 1 物理(1/) 0 0 2 3 0 情報(/4) 4 0 0 1 1 1 情報(1/4) 4 0 0 0 4 0 合計 20 3 0 10 地学(1/4) - - - 1 3 0 合計 1 3 1 20 1 図4 国際科学オリンピックメダル数の比較(平成24年10月末現在)
際化学オリンピック:International Chemistry Olympiad, IChO)は,毎年7月に約10日間開かれる高 校生を対象とした化学の知識や問題を解く能力を競う国際大会である。国際化学オリンピックの 出場資格は,「20歳以下の高校生であること」であり,欧米やアジアの多くの国では国際化学オリ ンピックの国内大会を開催し,代表候補者を選考している。アメリカでは,アメリカ化学会の支 部ごとに4月に一次選考を行い,このうちの上位10%が5月の二次選考に進む。この試験の上位 12名が6月のはじめに空軍士官学校で行われる約二週間の合宿に参加したあと,最後の選考試験 を経て,代表4人と補欠1人が決められる。カナダや西欧,およびアジアの国々では最初から国 際化学オリンピックを目指す参加者の中から,2段階選考で選出している。 中国では,夏休みに開催される市(地区)単位の一次選考に参加し,各市(地区)から30~0 人がブロック(省)単位の二次選考に進む。その後,訓練と試験を経て各省あたり2~3人が選 出される。そして,冬期に三次選考が行われ,10~14人の代表候補が,さらに3~4月の訓練合 宿を経て,4人の代表が選出される。化学オリンピックの代表に選出されると大学入学のための 推薦がえられるなどの利点がある。各国の一次選考への参加人数は200年の時点で中国が1万人 (13億人),ロシアが5万人(1億4千人),インドが2万5千人(12億人)であり,日本の3千人 (1億3千人)をはるかに上回っている。ただし,化学オリンピックは日本国内の他の科学オリン ピックの中では,最も参加人数が多い。これらの成績を見ると,中国の生徒は,科学を学習する ことに対して将来性も含め高い意識をもっているように思われる。今後は授業分析などの結果に ついてさらに詳しく調べていく予定である。 4.文献 1)隅田学,熊谷隆至,菊池博明,高椅進,小池達士,「中国と日本の中学生における理科に対す る意識」愛媛大学教育学部紀要,2003,0,10-11. 2)王珊,伊賀達哉,尾﨑忍,佐々木信行,西原浩,高木由美子「中学生の理科に対する意識調 査の日中比較研究。香川大学教育学部紀要,2011,1,113-11.