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ノート 医療薬学 43(5) (2017) 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群の低ナトリウム血症に対するトルバプタンの有効性と安全性 1 1* 塩飽英二, 土手賢史, 野㟢歩, 成橋和正, 小林由佳, 中西弘和 1 2 社会福祉法人京都社会事業財団京都桂病院薬剤科, 同志社女

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(1)

43(5) 273―278 (2017)〒615-8256 京都市西京区山田平尾町17

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群の

低ナトリウム血症に対するトルバプタンの有効性と安全性

塩飽英二1,土手賢史1*,野㟢 歩1,成橋和正2,小林由佳1,中西弘和2 社会福祉法人京都社会事業財団 京都桂病院薬剤科1,同志社女子大学薬学部2

Efficacy and Safety of Tolvaptan in the Treatment of Hyponatremia,

a Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone Secretion (SIADH)

Eiji Shiwaku1, Satoshi Dote1*, Ayumu Nozaki1, Kazumasa Naruhashi2, Yuka Kobayashi1 and Hirokazu Nakanishi2

Department of Pharmacy, Kyoto-Katsura Hospital 1,

Faculty of Pharmaceutical Sciences, Doshisha Women’s College of Liberal Arts 2 Received November 26, 2016

Accepted April 4, 2017

 To investigate the efficacy and safety of tolvaptan (TLV) in patients with syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion (SIADH) at Kyoto-Katsura Hospital, a retrospective chart review of TLV dosage, duration, change in serum sodium concentration from baseline to Day 14 after the initial TLV administration, and side effects was performed. In 27 patients (mean age: 75.4 years), the main causes of SIADH were drugs (33.3%) and small cell lung cancer (SCLC) (33.3%). Patients administered TLV received a mean starting dose of 3.97 mg (SD 1.45) and mean daily dose of 4.10 mg (SD 1.65). The maximum TLV dosage did not exceed 7.5 mg. The treatment duration of TLV required for serum sodium improvement (Na ≥ 135 mEq/L) was 5.91 days (SD 3.33) in all patients. TLV was administrated for 13.44 days (SD 1.57) to maintain the serum sodium in SCLC patients. Concomitant sodium load (≥ 100 mEq orally or intravenously) did not significantly affect the duration of improvement in hyponatremia [sodium load vs load-free: 7.1 days (SD 3.4) vs 5.3 days (SD 3.1), P = 0.24]. The side effects were dry mouth (11.1%) and hypernatremia (3.7%). In conclusion, we confirmed the effectiveness and safety of TLV for hyponatremia of SIADH at low doses for 14 days. TLV may improve the quality of life in patients with loaded sodium intake, and could be used in the longer run to treat SCLC with a permanent antidiuretic hormone production.

 Key words ―― tolvaptan, SIADH, hyponatremia, low dose

緒  言

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion: SIADH) は,抗利尿ホルモン (antidiuretic hormone: ADH) のバソプレシン作用が過剰となることで腎集合管 での自由水の再吸収が促進された結果,水貯留に よる低ナトリウム血症を生じ,脳浮腫や頭痛,嘔 気・嘔吐,傾眠などの中枢神経症状を伴うことが 多い.適切な治療が行われない場合,死に至る可 能性もあり血清 Na 値の改善が必要である.1, 2)  SIADHの要因として,中枢神経系疾患,肺疾患, 異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍,薬剤性が挙げら れる.治療は,臨床症状の発現を予防するために 低 Na 血症を改善させることが重要となり,一般 的には経口又は経静脈的な Na 負荷や水分制限が 行われるが,Na 負荷や水分制限は患者の quality of life (QOL) 低下につながる可能性が考えられ る.通常,低 Na 血症は血清 Na 値 < 135 mEq/L と定義されるが,血清 Na 値 ≧ 125 mEq/L におい ては上記のような臨床症状が認められることは少 ない3)とされていることから,臨床現場において

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は一般的に治療目標を血清 Na 値 ≧ 130 mEq/L と することが多い.しかし,血清 Na 値の改善が見 られない場合,薬物治療として ADH 拮抗作用を 持つ炭酸リチウムやデメチルクロルサイクリンな どの薬剤が使用される4)が,これらの薬剤は間接 的な ADH 拮抗作用のため効果不十分な症例が多 く,副作用発現などの問題がある. 近年,腎集合管バソプレシン V2 受容体に直接 作用することで電解質バランスを損なわず,自由 水の排泄を促進する選択的バソプレシン V2 受容 体拮抗薬が開発され,体液が貯留する病態や低 Na血症の治療に対して有効な薬剤として期待さ れている.現在,本邦で使用できる選択的バソプ レシン V2 受容体拮抗薬として,モザバプタン (mozavaptan: MOZ), ト ル バ プ タ ン (tolvaptan:

TLV) がある.MOZ は異所性抗利尿ホルモン産 生腫瘍による SIADH における低 Na 血症に保険 承認されている.しかし,MOZ の保険適応症は 水分制限を実施しても効果不十分な異所性抗利尿 ホルモン産生腫瘍のみであり,処方可能日数につ いても,水分制限を継続したうえで最大投与日数 は 7 日間までと制限がある.一方,TLV の適応 症はループ利尿薬等の利尿薬で効果不十分な心不 全および肝硬変における体液貯留のみで,SIADH による低 Na 血症に対して保険適応症となってい ないが,海外においては低 Na 血症の適応があり, 有効性,5, 6)安全性5)が報告されている.また, MOZは全例調査対象薬のため登録から投薬まで に多くの手続きを要し,医療スタッフの負担が大 きいことから積極的な使用には至っておらず,同 系統薬の TLV が使用されているのが現状であり, 学会発表 (政次 健,トルバプタンが有効であった SIADH の 4 症例,内田篤志,肺癌術後に発症した SIADHに対してトルバプタンが著効した 1 例, http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-111 20000-Iyakushokuhinkyoku/kigyou41.pdf,2017 年 4 月 17 日) および症例報告7-9)はあるものの,数十 例の症例を統計的に扱った報告はなされていない. そこで本研究では,SIADH による低 Na 血症患者 に対する TLV 投与の現状を調査し,有効性,副作 用発現に関して SIADH の要因や TLV 投与前の血清 Na 値,Na 負荷の有無の観点から解析を行った.

方  法

1.調査方法 2013年 4 月~2015 年 12 月の間,京都桂病院で 医師が SIADH と診断し,低 Na 血症 (血清 Na < 135 mEq/L) に対して TLV が投与された成人患者 を調査対象とした.TLV 開始 14 日以内に死亡し た 1 名は除外した.対象症例の患者背景は,年齢, 性別,体重,SIADH の要因,Na 負荷 (食事を除 いた Na ≧ 100 mEq/日の経口および経静脈投与) の有無を,TLV 投与による臨床効果は,1) TLV 投与前から投与開始 14 日目までの血清 Na 値変 化 (観察期間を 14 日と定義),2) 血清 Na 値改善 (血清 Na ≧ 135 mEq/L と定義),および血清 Na 値臨床的改善 (血清 Na ≧ 130 mEq/L と定義) に 要した日数を調査した. 副作用として,投与開始 31 日目までに発現した 口渇,高 Na 血症,ふらつき,臨床検査値の変化 を後ろ向きにカルテ調査した.臨床検査値は,血 清 Na 値のほか,血清カリウム,血清クレアチニン, 尿素窒素,アスパラギン酸アミノトランスフェ ラーゼ (aspartate aminotransferase: AST),アラニン アミノトランスフェラーゼ (alanine aminotransferase: ALT),総ビリルビン,γ-グルタミルトランスペプ チ ダ ー ゼ (gamma glutamyl transpeptidase: γGTP) を評価した. 2.統計解析 独立 2 群における平均値の差の検定は,有意水 準 5%として Student の t 検定を行った.また, 関連多群における平均値の差の検定は,有意水準 0.5%として One-way ANOVA を行った.統計解析 には GraphPad Prism version 6.0 for Windows (GraphPad Software, San Diego, CA) を使用した.

3.倫理的配慮 本研究は後ろ向きカルテ調査であり,「人を対 象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し 京都桂病院における倫理委員会の承認を得て行っ た.患者個々の同意取得は行っていないが,患者 情報の連結可能匿名化を行っている.TLV の適 用外使用について,医師は患者に口頭同意を得て

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投与している.これらの点についても倫理委員会 の承認を得た (承認番号 : 457).

結  果

1.患者背景 調査期間中に SIADH の低 Na 血症に対する治療 として TLV を投与された患者は 27 名であった. 対象患者の平均年齢は 75.4 歳と高齢であり,男性 が 77.8%と多かった.SIADH の要因は,薬剤性 (33.3%) と小細胞肺がん (33.3%) が主であった (表 1). 2.SIADH による低 Na 血症に対する TLV 治 療と血清 Na 値の変化 TLV開 始 投 与 量 (mean ∓ SD) は 3.97 ∓ 1.45 mg/日,観察期間 14 日間の TLV 平均投与量 (mean ∓ SD) は 4.10 ∓ 1.65 mg/日 (最大投与量 : 7.5 mg/日), 投与期間 (mean ∓ SD) は 10.19 ∓ 4.41日であっ た.TLV 投与方法は連日投与 23 名,隔日投与 4 名であった.観察期間 14 日間の採血回数 (mean ∓ SD) は 3.85 ∓ 1.66 回であった.観察期間 14 日間 における TLV 投与日数を SIADH の要因別に比較 したところ,小細胞肺がん患者群で 13.44 ∓ 1.57日, 薬剤性患者群で 8.38 ∓ 4.47日 (P = 0.01,vs 小細 胞肺がん患者群),他疾患患者群で 8.11 ∓ 4.30日 (P = 0.01,vs 小細胞肺がん患者群) と小細胞肺が ん患者群において多くの TLV 投与日数を要した (表 2). 3.TLV 投与前の血清 Na 値が TLV 投与後の血 清 Na 値に及ぼす影響 TLV投与後の全患者における血清 Na 値の変化 を図 1A に示した.血清 Na 値は TLV 投与前と比 較して開始4日目に有意に上昇した (P < 0.0001). また,TLV 投与前の血清 Na 値による血清 Na 変化 を血清 Na < 130 mEq/L 群と血清 Na ≧ 130 mEq/L 群に分けて図 1B に示した.TLV 投与前の血清 Na値 < 130 mEq/L 群においては,開始 4 日目に 血清 Na 値の有意な上昇を示した (P < 0.0001) が, 血清 Na ≧ 130 mEq/L 群においては有意な血清 Na値の上昇は認めなかった (P = 0.15) (図 1B). TLV投与後の血清 Na 値の変化に及ぼす患者背 景の影響を検討するため,Post-hoc 解析として, 1日あたりの血清 Na 値平均曲線下面積の変化量 (daily AUC) を解析した.血清 Na 値平均曲線下 面積 (area under the curve: AUC) は,TLV 投与開 始日から,有意な血清 Na 値の改善を認めた開始 4日目までの AUC を台形法により算出 [縦軸を血 清 Na 値 (mEq/L),横軸を TLV 開始後の日数 (日)] した.TLV 投与開始日や開始 4 日目に血清 Na 値 が欠損していた場合は,TLV 投与開始日や 4 日 目前後の血清 Na 値を直線で結び当該日との交点 を血清 Na 値として扱った.その結果,1) SIADH No(n = 27) 年齢(歳) 75.4 ∓ 7.3 性別(男性 / 女性) 21 (77.8%) / 6 (22.2%) 体重(kg) 54.8 ∓ 8.8 SIADHの要因  薬剤性a) 9 (33.3%)   異所性抗利尿ホルモン産生 腫瘍(小細胞肺がん) 9 (33.3%)  肺疾患b) 7 (25.9%)  不明 2 (7.4%) データは mean ± SD を示す.a)ビンクリスチン 6 名,アザシ チジン 3 名.b)気管支喘息 5 名,肺炎 1 名,肺腺がん 1 名. syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion: SIADH

表 1 患者背景 No(n = 27) TLV開始投与量(mg/日) 3.97 ∓ 1.45 TLV平均投与量(mg/日) 4.10 ∓ 1.65 TLV投与期間(日)a) 10.19 ∓ 4.41 TLV投与方法(連日/隔日) 23 (85.1%) / 4 (14.8%) 血清 Na 値の改善に要した日 数(日) 5.91 ∓ 3.33 血清 Na 値の臨床的改善に要 した日数(日) 2.34 ∓ 2.53 観察期間(14 日)における TLV投与日数 (日)b)  小細胞肺がんc) 13.44 ∓ 1.57  薬剤性d)  8.38 ∓ 4.47*  他疾患e)  8.11 ∓ 4.30* データは mean ± SD を示す.a)TLV 投与期間:TLV 投与開 始から投与終了までの日数,b)TLV 投与日数:TLV を実際に 投与した日数,c)小細胞肺がん:9 名,d)薬剤性:薬剤性 9 名(ビンクリスチン 6 名,アザシチジン 3 名),e)他疾患:小 細胞肺がんを除く患者 9 名(肺疾患 7 名,不明 2 名).* P < 0.01 vs 小細胞肺がん患者.tolvaptan: TLV, syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion: SIADH

表 2  SIADH による低 Na 血症に対する TLV 治療と 血清 Na 値変化

(4)

の 要 因 (P = 0.39),2) 性 別 (P = 0.72),3) Baseline時の血清 Na 値 (P = 0.06),4) Na 負荷の 有無 (P = 0.44) で有意な差はみられなかった (図 2). 4.Na 負荷の有無が TLV 投与後の血清 Na 値に 及ぼす影響 血清 Na 値改善に要した日数 (mean ∓ SD) は, Na負荷有群で 7.1 ∓ 3.4日,Na 負荷無群で 5.3 ∓ 3.1 日と有意な差は認めなかった (P = 0.24) (図3).また, 血清 Na 値臨床的改善に要した日数 (mean ∓ SD) も,Na 負荷有群で 3.0 ∓ 2.8日,Na 負荷無群で 3.3 ∓ 2.5日と有意な差は認めなかった (P = 0.56). 5.副作用 対象患者は 31 日目までに TLV を平均 17.6日投 与 さ れ, 口 渇 3 名 (11.1%), 高 Na 血 症 (146 mEq/L) 1 名 (3.7%) が発現したが,血清カリウム, 血清クレアチニン,尿素窒素,AST,ALT,総ビ リルビン,γGTP の変化は認めなかった.高 Na 血 症を発症した 1 例は,全期間にわたり 100 mEq/日 以上の経口 Na 負荷が同時に行われた患者であっ た.この患者の採血頻度は平均 3.5 回/週で実施さ れていたが 22 日目から血清 Na 値 > 140 mEq/L で 推移,31 日目に高 Na 血症に至り経口 Na 負荷の 中止で改善した. (A) 図 1 TLV 投与による血清 Na 値の変動

(A)■全症例 (n = 27),(B)● Baseline ≧ 130 mEq/L 群 (n = 7),○ Baseline < 130 mEq/L 群 (n = 20).各ポイントは平均±標準偏 差を示す.*:Baseline 時の血清 Na 値を対照とした one-way ANOVA により P value < 0.0001 を示す.tolvaptan: TLV

(B)

図 2 TLV 投与開始から 4 日目までの 1 日あたりの血清 Na 値平均曲線下面積変化量 (daily AUC)

縦軸は,投与開始1日目から4日目までの daily AUC (日・mEq/L).各カラムは mean ± SD を示す.NS(a):有意差なし(one - way ANOVA),NS(b):有意差なし(Student の t 検定).tolvaptan: TLV, syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion: SIADH, area under the curve: AUC, not significant: NS

(5)

考  察

SIADHの低 Na 血症に対し,TLV 低用量 (平均 4.1 mg/日) での投与により,血清 Na 値は開始 4 日目に有意な改善を認め,以後改善を維持した (図 1A).また,血清 Na 値改善に要した日数は 平均 5.91日,血清 Na 値臨床的改善に要した日数 は平均 2.34日であった (表 2).さらに,TLV に よる血清 Na 値改善効果は患者背景による差は認 められなかった (図 2).副作用の発現は全体的 に軽微で頻度も低く,注意すべき高 Na 血症を生 じた患者も経口 Na 負荷が行われていた 1 名であ り,TLV の薬理効果が強く現れすぎたものではな いと思われる.本研究の対象患者のなかには,低 Na血症治療に水分制限および経口 Na 負荷が行わ れたが血清 Na 値の臨床的改善に至らず,TLV 投 与で血清 Na 値が改善した症例が 4 例いた.この ことは,TLV の投与が水分制限に比較して血清 Na値改善に有効であったとの既報の結果10)と合 致する.よって,TLV は低用量で安全に血清 Na 値を改善できる可能性が考えられた.欧米では, SIADHの 低 Na 血 症 に 対 し て TLV は 開 始 量 15 mg/日,効果不十分の場合は最大 60 mg/日まで増 量 し て 使 用 さ れ る[ 欧 州 添 付 文 書(European Medicines Agency, Samsca®, Otsuka Pharmaceutical Europe Ltd,作成日付 2009 年 8 月 18 日,改定日 付 2014 年 9 月 29 日) および米国添付文書(US Food and Drug Administration, SAMSCA®, Otuska America Pharmaceutical, Co, Ltd,作成日付 2009 年 5月 19 日,改定日付 2014 年 2 月 28 日)].これ に比較して,本研究における TLV 開始投与量は平 均 3.97 mg/日であり,欧米での開始用量の約 1/4 量 で開始されていた.この理由として,対象患者が 平均年齢 75.4 歳と高齢であったため急激な脱水を 懸念して主治医判断で減量された経緯があった. 低用量の TLV で低 Na 血症が改善できた理由に, 先行研究5)における対象患者の平均年齢 60 歳,平 均体重が 78 kg に対して,本研究における対象患 者の平均年齢 75.4 歳,平均体重は 54.8 kg と高齢, 低体重であったことが考えられた.本研究におい て,血清 Na 値改善に乏しい患者 (図 3,△▲) が 認められたが,これら 5 例は他者に比較して,若 年 (65.0 歳 vs 75.1 歳,P = 0.018) および重体重 (61.7 kg vs 52.7 kg,P = 0.048) であり,高齢,低体重患 者においては低用量の TLV で臨床効果が得られた ことの一部は説明できると考えられた.また,TLV の全身クリアランスに人種差はない11)ことが報告 されており,TLV 投与後の血清 Na 改善推移は本 研究と先行研究5, 12)は近似していること,副作用発 現は先行研究5)で多く認められることから欧米で の用量設定が高めになっている可能性も考えられ た . TLVの高 Na 血症は投与開始 1~3 日で出現す る例が最多とされ,リスク因子として初期血清 Na値 > 142 mEq/L,TLV 15 mg/日からの開始や初 期血清カリウム値 < 3.8 mEq/L が挙げられる.13) 本研究でリスク因子該当患者は 17 名 (いずれも 初期血清カリウム値 < 3.8 mEq/L が該当) いたが, リスク因子を持たない 1 名で 31 日目に高 Na 血 症が発現した.当該患者は,全期間にわたって 100 mEq/日以上の経口 Na 負荷が行われた患者で あり,緩徐な血清 Na 値上昇から高 Na 血症に至っ た.このことは,漫然とした Na 負荷が主原因と 考えられ TLV の投与の有無にかかわらず高 Na 血 症に繋がったものと考えられた. 小細胞肺がんに代表される異所性抗利尿ホルモ ン産生腫瘍に合併した SIADH の低 Na 血症治療 では原因疾患の治療が優先されるが,原疾患を短 期間で治療することは難しいため低 Na 血症の合 図 3 血清 Na 値改善までに要した日数 各横線は mean ± SD を示す.n = 22 (1 名は死亡,4 名は血清 Na値 135 mEq/L に到達せず除外).●▲:Na 負荷有群 (n = 7), ○△:Na 負荷無群 (n = 15).▲ 2 例,△ 3 例を本研究において, 血清 Na 値改善に乏しい患者と定義する.not significant: NS

(6)

併も長期にわたる.本研究では,飲水制限の有無 は後ろ向き調査のため検討できなかったが,Na 負荷の有無で TLV の効果に有意な差は認めな かった.TLV 投与による,標準治療として施行 される経口・経静脈的な Na 負荷や飲水制限の回 避は,患者 QOL 改善に繋がるかもしれない.次に, 治療期間に関して,小細胞肺がん患者は改善後の 血清 Na 値維持のために観察期間 14 日間のうち 平均 13.44 日 TLV が投与され,87.5% (7/8 名) の 患者で観察期間 14 日以後も血清 Na 値維持のた めに TLV を継続投与されていた.TLV は投与が 長期になると,多尿・頻尿や口渇などを理由に服 薬遵守率が低下することが報告されている.14) 米における先行研究5, 6, 15)では TLV 15 mg/日で開 始されていることから高用量が副作用発現に関連 している可能性が考えられる.本研究の結果, TLVは低用量 (最大 7.5 mg/日) で SIADH による 低 Na 血症に対して十分な効果を示し,副作用も 既報5)に比較して少ないことが示された.低 Na 血症の長期的な管理を要する日本人患者への TLV 投与量の目安が確認できたため,臨床的意義は大 きいと考えられる.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

引用文献

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表 2  SIADH による低 Na 血症に対する TLV 治療と 血清 Na 値変化
図 2 TLV 投与開始から 4 日目までの 1 日あたりの血清 Na 値平均曲線下面積変化量 (daily AUC)

参照

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