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ノ ー ト
薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化法による
土壌中の不揮発性汚染油分の選択的定量分析
佐久間喜子
Ⓡ 1,杉田 将紀
1,阿部
1 緒 言
現在,船舶からの燃料油漏洩えいや,石油工業地域における 鉱油類の漏洩などの様々な油による土壌汚染は,社会的影 響の大きな災害である.したがって,油汚染された土壌の 浄化及び改良は,重要な技術的対策課題となっている.こ のような情勢を受け,様々な油汚染土壌の浄化手段1)~4)が 開発されている.そこで,土壌の汚染状況の実態把握や浄 化の評価のために,土壌汚染の分析法が必要である.平成 18年に環境省より示された油汚染対策ガイドラインでは, 米国環境保護局にて制定された EPA method を参考にした 土壌中油分の分析方法が例示されている.しかし,例示さ れた現行の分析手法では,汚染土壌中に存在する油分の適 正な定量は困難である. 油汚染の有無にかかわらず,土壌中には土壌中微生物の 代謝等5)に由来したテルペン等の有機化合物が存在する6). 例えば,イタリアにて発生した油汚染土壌の分析では,土 壌からの油分抽出液に土壌中元来の有機化合物としてテル ペンの存在が確認されている7).したがって,土壌中油分 の定量分析において,油分だけでなく土壌中に元来より存 在する成分も重複して定量してしまうことが問題となる. ゆえに,土壌浄化の分野では,油分のみを適正に定量評価 する技術の確立が求められている.そこで,著者らは,土 壌中油分の選択的定量分析法の検討を行った. 本研究では重質油の分析に多く用いられている TLC/ FID法に着目した.TLC/FID 法は,薄層クロマ卜グラフィ ー(TLC)と検出器として水素炎イオン化法(FID)を組 み合わせた分析法である.シリカゲルを固定相とした吸着 クロマトグラフィーを行う TLC では,油分成分の固定相へ の吸着力の差を利用し,化学構造的に類似した成分群への 分画が行える.重質油の分析では,TLC により飽和成分, 芳香族成分,レジン分及びアスファルテン分の 4 成分群へ 分画し,FID を用いた定量分析が行われる.TLC/FID 法に よる油分と土壌元来の有機化合物との分離が可能になれ ば,選択的な油分分析が期待できる.しかし,従来の重質 1三菱ガス化学株式会社新潟研究所 : 950-3112 新潟県新潟市北 区太夫浜新割 182久起
1,田中 昭宣
1,南 場 哲
1 油の分析法では,効率的な成分群の分画は困難であった. 従来法は,3 種の溶媒により多段階の展開を行うため,展 開を重ねるたびに添加距離が短くなり,分画が不十分であ った.そこで,TLC/FID 内部標準法8)にて行われている FID測定を 2 回に分けて行う TLC/FID 測定を採用した.こ れにより,溶媒展開にて溶出したピークのみを FID 測定 し,次の展開距離の延長を図ることができると考えた.2 実 験
2・1 土壌中成分のシリカゲルクロマトグラフィー 土壌中元来の有機化合物の代表例として東京化成製の以 下の試薬を用いた.有機カルボン酸エステルとしてオレイ ン酸メチル及びシュウ酸ジエチル,有機カルボン酸として パルミチン酸,リノール酸,オレイン酸,ステロイドとし て β-シトステロール.これらの成分は,後述の土壌中元来 の有機化合物モデルに用いた腐葉土抽出分への含有をガス クロマトグラフ/質量分析(GC/MS)(Varian 製)測定に て確認したものである.油分には,日新運輸より購入した C重油を用いた.薄層クロマトグラフィーに Merck シリカ ゲル 60F254TLCアルミニウムシートを使用した.展開溶媒 (すべて和光純薬製)には,1. 飽和分の展開に n-ヘキサン, 2.芳香族分の展開にトルエン,3. 土壌中元来の有機化合物 の展開にジクロロメタンとメタノールの混合溶液を用い た. 薄層クロマトグラフィーの原点へ,C 重油は 5 wt% ジク ロロメタン溶液として,土壌中元来の有機化合物の代表と して用いた試薬は 1 wt% ジクロロメタン溶液として試料 を重ねて添着した.従来の TLC/FID 分析の検証のため, 1. n-ヘキサン(展開長 8.7 cm),2. トルエン(展開長 5 cm), 3.ジクロロメタン : メタノール=95 : 5(容量比)の混合溶 媒(展開長 2.5 cm)で展開を行った.一方,後述する分離 条件の改良法では,3 の溶媒混合比を 3́. ジクロロメタン : メタノール=99 : 1(容量比)の混合溶媒(展開長 10 cm) として展開を行った. 2・2 モデル汚染土壌の作製 日新運輸の C 重油を汚染源とし,更に土壌中元来の有機
1
2
Development with 2
Development with 1
Development with 2 Development with 3
Development with 1
a b c d
3´
Development with 1
e f g h
a b c d e f g h
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Sat.
Asp.
Res.
Aro.
Development with 2 Development with 3
Development with 1
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Sat.
Aro.
Res.
Asp.
Fig. 1 Photographs of TLC plates developed with developing solvents 1-3 in sequence
Developing solvent 1 : n-hexane ; Developing solvent 2 : toluene ; Developing solvent 3 : dichloromethane : metha-nol=95 : 5 (in volume) mixture, 3́ : dichloromethane : methanol=99 : 1 (in volume) mixture ; SampleA : Palmitic acid ; SampleB : Linoleic acid ; SampleC : Oleic acid ; SampleD : Methyl Oleate ; SampleE : Diethyl Oxalate ; SampleF : β-Sitosterol ; SampleG : 1 wt% extracted from leaf mold ; SampleH : 1 wt% C crude oil ; Sat. : Saturates ; Aro. : Aromatics ; Res. : Resin ; Asp. : Asphaltene
化合物モデルとして腐葉土抽出分によるモデル汚染土壌を 作製した.腐葉土抽出分は,タカムラ製の園芸用腐葉土の ジクロロメタン(和光純薬製)の抽出物を用いた.具体的 には腐葉土 50 g へ硫酸ナトリウム(和光純薬製)150 g を 添加し,ジクロロメタン 150 mL を抽出溶媒として 25℃ で 30分間の振とう抽出を 3 回繰り返した.抽出液はアドバン テック製 PTFE 製フィルター(孔径 0.20 μm)で沈殿物を 除去後,減圧濃縮でジクロロメタンを留去し,腐葉土抽出 分を得た. 次にモデル試料に用いる土壌の洗浄を行った.タカムラ かくはん 製の園芸用黒土 100 g に対し,水 150 g を添加し撹拌した. 得られたスラリーを遠心分離し,上澄み液を除いた.本操 作を 3 回繰り返した後,沈殿層の黒土分を 110℃ で重量恒 量化するまで乾燥させた.洗浄恒量化した黒土へ,C 重油 及びジクロロメタンによる腐葉土抽出分をそれぞれ一定量 添加し,モデル汚染土壌を作製した. 2・3 モデル汚染土壌からの抽出 モデル汚染土壌 10 g に対して硫酸ナトリウム(和光純薬 製)30 g を添加し,二硫化炭素(和光純薬製)30 mL を抽 出溶媒として 25℃ にて 30 分間の振とう抽出を 3 回繰り返 した.抽出後に二硫化炭素にて 100 mL にメスアップし, アドバンテック製 PTFE 製フィルター(孔径 0.20 μm)で 沈殿物を除去し取得した抽出液は 5 倍に濃縮し,TLC/FID 測定試料とした. 2・4 TLC/FID 測定 2・4・1 装 置 TLC/FID は 三 菱 化 学 ヤ ト ロ ン 製 の
Fig. 2 TLC/FID chromatograms of the extraction from the model polluted soil. A Conventional method, B modified method
Developing solvent 1 : n-hexane ; Developing solvent 2 : toluene ; Developing solvent 3 : dichloromethane : methanol=95 : 5 (in volume) mixture 3́ : dichloro-methane : methanol=99 : 1 (in volume) mixture ; solid line : Sample ; dotted line : Baseline ; Sat. : Saturates ; Aro. : Aromatics ; Res. : Resin ; Asp. : Asphaltene ; Int : interfering substance ; solid line : Sample ; dot line : Baseline
IATROSCAN MK-6sと,クロマトグラフィー用薄層棒にク ロマロッド-S III を使用した.溶媒展開後,空気流量 2.0 mL/min及び水素流量 160 mL/min,スキャン速度 30 s/ scanで FID 測定を行った.測定データは,システムインス ツルメンツ Sic480 II データステーションを用いて積分解 析を施した. 2・4・2 測定 展開距離の延長による油分と土壌中元 来の有機化合物モデルの効率的な分離の比較のため,モデ ル汚染土壌からの抽出液について従来の重質油の分析方法 と改良法により定量を行った. 従来法では,クロマロッド-S III に測定試料溶液を 2 μL 添着し,n-ヘキサン(展開長 10 cm),トルエン(展開長 6 cm),ジクロロメタン : メタノール=95 : 5(容量比)の 混合溶媒(展開長 2.5 cm)の順に展開を行い,FID で測定 した.改良法では,n-ヘキサン(展開長 10 cm),トルエン (展開長6 cm)の順に展開した後,溶出ピーク部分のみFID 測定を行った.その後,ジクロロメタン : メタノール= 99 : 1(容量比)の混合溶媒(展開長 10 cm)で展開し,全 展開範囲の FID 測定を実施した. モデル汚染土壌中の油分濃度を簡便に評価するため,絶 対検量線法で定量を行った.飽和分については,飽和分の 代表的な化合物として直鎖アルカンのエイコサン(和光純 薬製)を標準物質とした.その他の成分は,アントラセン (和光純薬製)を標準物質とした.油分に含まれる芳香族 分,レジン分及びアスファルテン分は,構造中に多環芳香 族を含むため,入手が容易かつ分析再現性が高いアントラ センを標準として選択した.それぞれ 0.2 wt% から 1 wt% までの 5 点の濃度で絶対検量線を作成し,標準物質に換算 したモデル汚染土壌中の重量百分率濃度(wt%)として各 分画を定量した.
3 結果と考察
TLC展開挙動を Fig. 1 に示した.従来法の展開では,土 壌中成分と C 重油中の成分の重複が確認できた.特に,ヘ キサン及びトルエンで溶出される土壌中成分は C 重油のレ ジン分領域に重複しており,レジン分を適正に評価出来な いことが示された.また,ジクロロメタン : メタノール= 95 : 5の混合溶媒による展開では,展開溶媒の極性が高い ため土壌中成分と同時にレジン分も展開された.そこで, Fig. 1中の 3́ に示すように,ジクロロメタン : メタノール の比率を 99 : 1 とすることにより展開溶媒の極性を下げ, レジン分の溶出を抑えた.一方,土壌中成分の溶出挙動は ほとんど変わらなかったため,土壌成分と C 重油の重複を 低減したと考えられる.そこで,TLC/FID へ TLC の結果 の適用を試みた.改良法としてトルエンによる展開後に, FID測定を行い,ヘキサン及びトルエンにより溶出する土 壌中成分を油分と分離定量するとともに,3 段階目の展開 溶媒をジクロロメタン : メタノール=99 : 1 の混合溶媒へ 変更した.同改良法の検証のため,従来の TLC/FID との 比較を行った. Fig. 2 Aに従来法による TLC-FID 分析の結果を示す. TLCの結果より,土壌中成分はレジン分とアスファルテン 分に含まれていると考えられる.C 重油成分と土壌中元来 の有機化合物の分離が不可能であった.一方,Fig. 2 B に示 した改良法では,1 回目の FID 測定で,飽和分,芳香族分 の後方に土壌元来の有機化合物が分析妨害成分(Int.)と して分画された.また,2 回目の FID 測定ではレジン・ア スファルテン分の前方に分析妨害成分が分画された.ま た,絶対検量線法による定量の結果,Table 1 に示すよう に,C 重油を含むモデル汚染土壌では,飽和分,芳香族分 は,TLC/FID の測定方法にかかわらず,定量値の差異は認
Table 1 Converted concentrations of each fractions Pollutant source, wt% Converted concentration, wt%
Method Oil a)
Others b)
Sat. Aro. Res.&Asp. Int. Total
0 0 Usual Modified 0.00 0.00 0.01 0.00 0.01 0.00 0.02 0.02 0.02 0 1 Usual Modified 0.01 0.00 0.02 0.02 0.24 0.05 0.12 0.27 0.19 1 1 Usual Modified 0.13 0.15 0.43 0.51 0.37 0.06 0.18 0.93 0.90 Usual 0.80 2.45 0.90 4.15 5 1 Modified 0.65 2.51 0.26 0.53 3.95
a) Commercially-supplied C crude oil was used as pollutant source oil. b) Others were obtained by extrac-tion with dichloromethane from commercially-supplied leaf mold.
められなかった.一方,腐葉土抽出分も含むモデル汚染土 壌では,レジン・アスファルテン分の定量値が,従来法と 比較して改良法では減少した.また,改良法では,レジン 分とアスファルテン分の減少量と同程度の分析妨害成分が 定量された.したがって,TLC/FID の改良法により,分析 妨害成分が新たな画分として定量された. 従来法ではレジン分又はアスファルテン分に含まれて定 量されていた土壌元来の有機化合物が,改良法により分析 妨害成分として分画できた.ゆえに,土壌中油分定量への 土壌元来の有機化合物の影響を低減できたと考えられる. 一方,腐葉土抽出分のみで汚染されたモデル汚染土壌で は,成分のほとんどは分析妨害成分として定量されたが, レジン・アスファルテン分として原点に残留する成分も存 在した.また,薄層クロマトグラフィーにて,比較的極性 の高い有機酸類はテーリングの傾向が認められた.ゆえ に,有機酸類は,レジン・アスファルテン分との分離が困 難と考えられる.したがって,本改良法にても,分析妨害 成分としての土壌中元来の有機化合物の完全な分離には達 してない.また,C 重油濃度が 5 wt% と高濃度の場合には, C重油濃度 1 wt% の場合と比較して分析妨害成分の定量値 が高い.これは,C 重油濃度が高い場合には,C 重油成分 の一部も分析妨害物質として定量されてしまうことを示し ている.これらのことから油分の選択的定量法の実現のた めへ向けて,今後も更なる改良が必要であると考えられ る.
4 結 語
TLC/FID法の改良により,土壌中油分の定量における 土壌中元来の有機化合物による影響を低減できた.TLC/ FID法は,土壌中に蓄積しやすい不揮発性油分の定量に適 している.したがって,本法により,土壌の汚染状況の実 態把握や浄化の評価の適正性向上が期待される.また,従 来の分析法では,土壌中由来の有機化合物も定量してしま うために,土壌浄化の終了判定が困難であった.しかし, 本法の土壌中由来の有機化合物の分離により,土壌浄化の 適正な判定を行うことができる. 文 献 1) 美坂康有 : 環境技術,21, 672 (1992). 2) 今村 聰,小松 寛 : 安全工学,43, 12 (2004). 3) 西村 実 : 環境技術,21, 677 (1992). 4) 塩見尚史,加藤滋雄 : 49, 368 (2004).5) A. D. McLaren, G. H. Peterson :“Soil Biochemistry”, p. 119 (1967), (MARCEL DEKKER, INC., New York). 6) M. M. Kononova, T. Z. Nowakowski, A. C. D. Newman :
“Soil Organic Matter”, p. 47 (1966), (PERGAMON PRESS, Oxford).
7) S. Gagni, D. Cam : Chemosphere, 67, 1975 (2007). 8) M. Goto, M. Kato, M. Asaumi, K. Shirai, K.
Selective Quantitative Analysis for Nonvolatile Oils in Polluted Soil by
Thin-Layer Chromatography/Flame Ionization Detection
1 1 1 1
Yoshiko S
akuma, Masaki S
ugita, Hisaki A
be, Akinori T
anaka1and Satoshi N
anba1
Mitsubishi Gas Chemical Company, INC., Niigata Research Laboratory, 182, Shinwari, Tayuhama, Kita-ku,
Niigata-shi, Niigata 950-3112
(Received 14 August 2009, Accepted 15 January 2010)