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BUNSEKI KAGAKU Vol. 59, No. 4, pp (2010) 2010 The Japan Society for Analytical Chemistry 329 ノート 薄層クロマトグラフィー / 水素炎イオン化法による土壌中の不揮発性汚染油分の選択的定量分析

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(1)

©

ノ ー ト

薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化法による

土壌中の不揮発性汚染油分の選択的定量分析

佐久間喜子

Ⓡ 1

,杉田 将紀

1

,阿部

1 緒   言

現在,船舶からの燃料油漏洩えいや,石油工業地域における 鉱油類の漏洩などの様々な油による土壌汚染は,社会的影 響の大きな災害である.したがって,油汚染された土壌の 浄化及び改良は,重要な技術的対策課題となっている.こ のような情勢を受け,様々な油汚染土壌の浄化手段1)~4) 開発されている.そこで,土壌の汚染状況の実態把握や浄 化の評価のために,土壌汚染の分析法が必要である.平成 18年に環境省より示された油汚染対策ガイドラインでは, 米国環境保護局にて制定された EPA method を参考にした 土壌中油分の分析方法が例示されている.しかし,例示さ れた現行の分析手法では,汚染土壌中に存在する油分の適 正な定量は困難である. 油汚染の有無にかかわらず,土壌中には土壌中微生物の 代謝等5)に由来したテルペン等の有機化合物が存在する6) 例えば,イタリアにて発生した油汚染土壌の分析では,土 壌からの油分抽出液に土壌中元来の有機化合物としてテル ペンの存在が確認されている7).したがって,土壌中油分 の定量分析において,油分だけでなく土壌中に元来より存 在する成分も重複して定量してしまうことが問題となる. ゆえに,土壌浄化の分野では,油分のみを適正に定量評価 する技術の確立が求められている.そこで,著者らは,土 壌中油分の選択的定量分析法の検討を行った. 本研究では重質油の分析に多く用いられている TLC/ FID法に着目した.TLC/FID 法は,薄層クロマ卜グラフィ ー(TLC)と検出器として水素炎イオン化法(FID)を組 み合わせた分析法である.シリカゲルを固定相とした吸着 クロマトグラフィーを行う TLC では,油分成分の固定相へ の吸着力の差を利用し,化学構造的に類似した成分群への 分画が行える.重質油の分析では,TLC により飽和成分, 芳香族成分,レジン分及びアスファルテン分の 4 成分群へ 分画し,FID を用いた定量分析が行われる.TLC/FID 法に よる油分と土壌元来の有機化合物との分離が可能になれ ば,選択的な油分分析が期待できる.しかし,従来の重質 1三菱ガス化学株式会社新潟研究所 : 950-3112 新潟県新潟市北 区太夫浜新割 182

久起

1

,田中 昭宣

1

,南 場  哲

1 油の分析法では,効率的な成分群の分画は困難であった. 従来法は,3 種の溶媒により多段階の展開を行うため,展 開を重ねるたびに添加距離が短くなり,分画が不十分であ った.そこで,TLC/FID 内部標準法8)にて行われている FID測定を 2 回に分けて行う TLC/FID 測定を採用した.こ れにより,溶媒展開にて溶出したピークのみを FID 測定 し,次の展開距離の延長を図ることができると考えた.

2 実   験

2・1 土壌中成分のシリカゲルクロマトグラフィー 土壌中元来の有機化合物の代表例として東京化成製の以 下の試薬を用いた.有機カルボン酸エステルとしてオレイ ン酸メチル及びシュウ酸ジエチル,有機カルボン酸として パルミチン酸,リノール酸,オレイン酸,ステロイドとし て β-シトステロール.これらの成分は,後述の土壌中元来 の有機化合物モデルに用いた腐葉土抽出分への含有をガス クロマトグラフ/質量分析(GC/MS)(Varian 製)測定に て確認したものである.油分には,日新運輸より購入した C重油を用いた.薄層クロマトグラフィーに Merck シリカ ゲル 60F254TLCアルミニウムシートを使用した.展開溶媒 (すべて和光純薬製)には,1. 飽和分の展開に n-ヘキサン, 2.芳香族分の展開にトルエン,3. 土壌中元来の有機化合物 の展開にジクロロメタンとメタノールの混合溶液を用い た. 薄層クロマトグラフィーの原点へ,C 重油は 5 wt% ジク ロロメタン溶液として,土壌中元来の有機化合物の代表と して用いた試薬は 1 wt% ジクロロメタン溶液として試料 を重ねて添着した.従来の TLC/FID 分析の検証のため, 1. n-ヘキサン(展開長 8.7 cm),2. トルエン(展開長 5 cm), 3.ジクロロメタン : メタノール=95 : 5(容量比)の混合溶 媒(展開長 2.5 cm)で展開を行った.一方,後述する分離 条件の改良法では,3 の溶媒混合比を 3́. ジクロロメタン : メタノール=99 : 1(容量比)の混合溶媒(展開長 10 cm) として展開を行った. 2・2 モデル汚染土壌の作製 日新運輸の C 重油を汚染源とし,更に土壌中元来の有機

(2)

1

2

Development with 2

Development with 1

Development with 2 Development with 3

Development with 1

a b c d

Development with 1

e f g h

a b c d e f g h

a b c d

e f g h

Sat.

Asp.

Res.

Aro.

Development with 2 Development with 3

Development with 1

e f g h

3

a b c d

´

Sat.

Aro.

Res.

Asp.

Fig. 1 Photographs of TLC plates developed with developing solvents 1-3 in sequence

Developing solvent 1 : n-hexane ; Developing solvent 2 : toluene ; Developing solvent 3 : dichloromethane : metha-nol=95 : 5 (in volume) mixture, 3́ : dichloromethane : methanol=99 : 1 (in volume) mixture ; SampleA : Palmitic acid ; SampleB : Linoleic acid ; SampleC : Oleic acid ; SampleD : Methyl Oleate ; SampleE : Diethyl Oxalate ; SampleF : β-Sitosterol ; SampleG : 1 wt% extracted from leaf mold ; SampleH : 1 wt% C crude oil ; Sat. : Saturates ; Aro. : Aromatics ; Res. : Resin ; Asp. : Asphaltene

化合物モデルとして腐葉土抽出分によるモデル汚染土壌を 作製した.腐葉土抽出分は,タカムラ製の園芸用腐葉土の ジクロロメタン(和光純薬製)の抽出物を用いた.具体的 には腐葉土 50 g へ硫酸ナトリウム(和光純薬製)150 g を 添加し,ジクロロメタン 150 mL を抽出溶媒として 25℃ で 30分間の振とう抽出を 3 回繰り返した.抽出液はアドバン テック製 PTFE 製フィルター(孔径 0.20 μm)で沈殿物を 除去後,減圧濃縮でジクロロメタンを留去し,腐葉土抽出 分を得た. 次にモデル試料に用いる土壌の洗浄を行った.タカムラ かくはん 製の園芸用黒土 100 g に対し,水 150 g を添加し撹拌した. 得られたスラリーを遠心分離し,上澄み液を除いた.本操 作を 3 回繰り返した後,沈殿層の黒土分を 110℃ で重量恒 量化するまで乾燥させた.洗浄恒量化した黒土へ,C 重油 及びジクロロメタンによる腐葉土抽出分をそれぞれ一定量 添加し,モデル汚染土壌を作製した. 2・3 モデル汚染土壌からの抽出 モデル汚染土壌 10 g に対して硫酸ナトリウム(和光純薬 製)30 g を添加し,二硫化炭素(和光純薬製)30 mL を抽 出溶媒として 25℃ にて 30 分間の振とう抽出を 3 回繰り返 した.抽出後に二硫化炭素にて 100 mL にメスアップし, アドバンテック製 PTFE 製フィルター(孔径 0.20 μm)で 沈殿物を除去し取得した抽出液は 5 倍に濃縮し,TLC/FID 測定試料とした. 2・4 TLC/FID 測定 2・4・1 装 置  TLC/FID は 三 菱 化 学 ヤ ト ロ ン 製 の

(3)

Fig. 2 TLC/FID chromatograms of the extraction from the model polluted soil. A Conventional method, B modified method

Developing solvent 1 : n-hexane ; Developing solvent 2 : toluene ; Developing solvent 3 : dichloromethane : methanol=95 : 5 (in volume) mixture 3́ : dichloro-methane : methanol=99 : 1 (in volume) mixture ; solid line : Sample ; dotted line : Baseline ; Sat. : Saturates ; Aro. : Aromatics ; Res. : Resin ; Asp. : Asphaltene ; Int : interfering substance ; solid line : Sample ; dot line : Baseline

IATROSCAN MK-6sと,クロマトグラフィー用薄層棒にク ロマロッド-S III を使用した.溶媒展開後,空気流量 2.0 mL/min及び水素流量 160 mL/min,スキャン速度 30 s/ scanで FID 測定を行った.測定データは,システムインス ツルメンツ Sic480 II データステーションを用いて積分解 析を施した. 2・4・2 測定  展開距離の延長による油分と土壌中元 来の有機化合物モデルの効率的な分離の比較のため,モデ ル汚染土壌からの抽出液について従来の重質油の分析方法 と改良法により定量を行った. 従来法では,クロマロッド-S III に測定試料溶液を 2 μL 添着し,n-ヘキサン(展開長 10 cm),トルエン(展開長 6 cm),ジクロロメタン : メタノール=95 : 5(容量比)の 混合溶媒(展開長 2.5 cm)の順に展開を行い,FID で測定 した.改良法では,n-ヘキサン(展開長 10 cm),トルエン (展開長6 cm)の順に展開した後,溶出ピーク部分のみFID 測定を行った.その後,ジクロロメタン : メタノール= 99 : 1(容量比)の混合溶媒(展開長 10 cm)で展開し,全 展開範囲の FID 測定を実施した. モデル汚染土壌中の油分濃度を簡便に評価するため,絶 対検量線法で定量を行った.飽和分については,飽和分の 代表的な化合物として直鎖アルカンのエイコサン(和光純 薬製)を標準物質とした.その他の成分は,アントラセン (和光純薬製)を標準物質とした.油分に含まれる芳香族 分,レジン分及びアスファルテン分は,構造中に多環芳香 族を含むため,入手が容易かつ分析再現性が高いアントラ センを標準として選択した.それぞれ 0.2 wt% から 1 wt% までの 5 点の濃度で絶対検量線を作成し,標準物質に換算 したモデル汚染土壌中の重量百分率濃度(wt%)として各 分画を定量した.

3 結果と考察

TLC展開挙動を Fig. 1 に示した.従来法の展開では,土 壌中成分と C 重油中の成分の重複が確認できた.特に,ヘ キサン及びトルエンで溶出される土壌中成分は C 重油のレ ジン分領域に重複しており,レジン分を適正に評価出来な いことが示された.また,ジクロロメタン : メタノール= 95 : 5の混合溶媒による展開では,展開溶媒の極性が高い ため土壌中成分と同時にレジン分も展開された.そこで, Fig. 1中の 3́ に示すように,ジクロロメタン : メタノール の比率を 99 : 1 とすることにより展開溶媒の極性を下げ, レジン分の溶出を抑えた.一方,土壌中成分の溶出挙動は ほとんど変わらなかったため,土壌成分と C 重油の重複を 低減したと考えられる.そこで,TLC/FID へ TLC の結果 の適用を試みた.改良法としてトルエンによる展開後に, FID測定を行い,ヘキサン及びトルエンにより溶出する土 壌中成分を油分と分離定量するとともに,3 段階目の展開 溶媒をジクロロメタン : メタノール=99 : 1 の混合溶媒へ 変更した.同改良法の検証のため,従来の TLC/FID との 比較を行った. Fig. 2 Aに従来法による TLC-FID 分析の結果を示す. TLCの結果より,土壌中成分はレジン分とアスファルテン 分に含まれていると考えられる.C 重油成分と土壌中元来 の有機化合物の分離が不可能であった.一方,Fig. 2 B に示 した改良法では,1 回目の FID 測定で,飽和分,芳香族分 の後方に土壌元来の有機化合物が分析妨害成分(Int.)と して分画された.また,2 回目の FID 測定ではレジン・ア スファルテン分の前方に分析妨害成分が分画された.ま た,絶対検量線法による定量の結果,Table 1 に示すよう に,C 重油を含むモデル汚染土壌では,飽和分,芳香族分 は,TLC/FID の測定方法にかかわらず,定量値の差異は認

(4)

Table 1 Converted concentrations of each fractions Pollutant source, wt% Converted concentration, wt%

Method Oil a)

Others b)

Sat. Aro. Res.&Asp. Int. Total

0 0 Usual Modified 0.00 0.00 0.01 0.00 0.01 0.00 0.02 0.02 0.02 0 1 Usual Modified 0.01 0.00 0.02 0.02 0.24 0.05 0.12 0.27 0.19 1 1 Usual Modified 0.13 0.15 0.43 0.51 0.37 0.06 0.18 0.93 0.90 Usual 0.80 2.45 0.90 4.15 5 1 Modified 0.65 2.51 0.26 0.53 3.95

a) Commercially-supplied C crude oil was used as pollutant source oil. b) Others were obtained by extrac-tion with dichloromethane from commercially-supplied leaf mold.

められなかった.一方,腐葉土抽出分も含むモデル汚染土 壌では,レジン・アスファルテン分の定量値が,従来法と 比較して改良法では減少した.また,改良法では,レジン 分とアスファルテン分の減少量と同程度の分析妨害成分が 定量された.したがって,TLC/FID の改良法により,分析 妨害成分が新たな画分として定量された. 従来法ではレジン分又はアスファルテン分に含まれて定 量されていた土壌元来の有機化合物が,改良法により分析 妨害成分として分画できた.ゆえに,土壌中油分定量への 土壌元来の有機化合物の影響を低減できたと考えられる. 一方,腐葉土抽出分のみで汚染されたモデル汚染土壌で は,成分のほとんどは分析妨害成分として定量されたが, レジン・アスファルテン分として原点に残留する成分も存 在した.また,薄層クロマトグラフィーにて,比較的極性 の高い有機酸類はテーリングの傾向が認められた.ゆえ に,有機酸類は,レジン・アスファルテン分との分離が困 難と考えられる.したがって,本改良法にても,分析妨害 成分としての土壌中元来の有機化合物の完全な分離には達 してない.また,C 重油濃度が 5 wt% と高濃度の場合には, C重油濃度 1 wt% の場合と比較して分析妨害成分の定量値 が高い.これは,C 重油濃度が高い場合には,C 重油成分 の一部も分析妨害物質として定量されてしまうことを示し ている.これらのことから油分の選択的定量法の実現のた めへ向けて,今後も更なる改良が必要であると考えられ る.

4 結   語

TLC/FID法の改良により,土壌中油分の定量における 土壌中元来の有機化合物による影響を低減できた.TLC/ FID法は,土壌中に蓄積しやすい不揮発性油分の定量に適 している.したがって,本法により,土壌の汚染状況の実 態把握や浄化の評価の適正性向上が期待される.また,従 来の分析法では,土壌中由来の有機化合物も定量してしま うために,土壌浄化の終了判定が困難であった.しかし, 本法の土壌中由来の有機化合物の分離により,土壌浄化の 適正な判定を行うことができる. 文   献 1) 美坂康有 : 環境技術,21, 672 (1992). 2) 今村 聰,小松 寛 : 安全工学,43, 12 (2004). 3) 西村 実 : 環境技術,21, 677 (1992). 4) 塩見尚史,加藤滋雄 : 49, 368 (2004).

5) A. D. McLaren, G. H. Peterson :“Soil Biochemistry”, p. 119 (1967), (MARCEL DEKKER, INC., New York). 6) M. M. Kononova, T. Z. Nowakowski, A. C. D. Newman :

“Soil Organic Matter”, p. 47 (1966), (PERGAMON PRESS, Oxford).

7) S. Gagni, D. Cam : Chemosphere, 67, 1975 (2007). 8) M. Goto, M. Kato, M. Asaumi, K. Shirai, K.

(5)

Selective Quantitative Analysis for Nonvolatile Oils in Polluted Soil by

Thin-Layer Chromatography/Flame Ionization Detection

1 1 1 1

Yoshiko S

akuma

, Masaki S

ugita

, Hisaki A

be

, Akinori T

anaka1

and Satoshi N

anba

1

Mitsubishi Gas Chemical Company, INC., Niigata Research Laboratory, 182, Shinwari, Tayuhama, Kita-ku,

Niigata-shi, Niigata 950-3112

(Received 14 August 2009, Accepted 15 January 2010)

It was a problem that soil organic matter overlapped on quantitative analysis for nonvolatile

oils in polluted soil. A selective quantitative analysis for oil using TLC/FID was attempted for

the purpose of a properly/quantitative determination of oil only in polluted soil. Soil organic

matter as the interfering substance of the analysis were fractionated with the development of

TLC. Moreover, the development distance of TLC was extended so as to divide up the

measure-ment with FID in order to improve of the division between the soil organic matter and the oils.

Accordingly, the types of soil organic matter separated from the oils, and the influence for the

quantitative analysis of oils in polluted soil was successfully reduced.

Fig. 1  Photographs of TLC plates developed with developing solvents 1-3 in sequence
Fig. 2  TLC/FID  chromatograms  of  the  extraction  from  the  model  polluted  soil
Table 1  Converted concentrations of each fractions

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