• 検索結果がありません。

1 May 2011

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "1 May 2011"

Copied!
32
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

111-0409_CS2.indd H1

(2)

1 人 材 教 育 May 2011

優れたリーダーは

内省をしている

八木陽一郎 香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授 永井恒男  野村総合研究所IDELEA(イデリア)事業推進責任者 環境変化の激しい現在では、社員全員にリーダーシップの発揮が求められ ています。ところが、どうしたらリーダーシップを身につけることができ るのか、明確な解がまだ見つかっていないのも事実。そこで本連載では、「自 分を見つめること」=「内省」がリーダーシップを育てるうえで効果的で ある、という最新の研究結果をもとに、新しい“内省型リーダー”のあり 方を解説していきます。

誰もがリーダーになれる!?

 経営者やマネジャーのみならず、 今では現場の一社員にとってもリー ダーシップの発揮を求められる場面 はたくさんあります。現場の一社員 であっても、全社的なヴィジョンを 共有した上で、時と場に応じた適切 な判断や提案によって他者に影響を 与えることが求められているのです。  今日、企業の競争環境は、ステー クホルダーのニーズが益々多様化し、 市場の変化速度もかつてないほど高 まっています。これに対応するには、 トップだけが強いリーダーシップを 発揮し、他の人が指示を待っている スタイルでは間に合いません。多く の組織において、組織の中の隅々に 至るまでリーダーシップを分散し、 多くのメンバーが主体性を発揮する ことで多様性や変化に対応しようす る取り組み――組織や制度の改訂や ことは、リーダーシップ研究の初期 段階で長い間、リーダーシップは特 別な資質やカリスマ性のある人だけ のものだと考えられてきたことにも 原因があります。  筆者らは、リーダーシップと組 織開発の分野における研究者・コン サルタントとして、これまで多くの 企業の現場に入り、多くの方々から 話を聞き、ともにリーダーシップを 高めるためにさまざまな取り組みを 行ってきました。その中で、はじめ は経験的に、そして現在では実証的 なデータを伴ってはっきりとわかっ てきたことがあります。  それは、どうしたらリーダーシッ プを高めることができるのかという ことです。答えは、実にシンプルなこ とで「自分自身を深く見つめ、変え ることができる人は、そうできない 人に比べてより有効なリーダーシッ プを発揮することができる」という 新しい研修の導入などが進められて います。  実際、それらの取り組みが成功し、 主体性を発揮する人が増えるかどう かは、多くの組織にとって経営成果 を大きく左右するほど重要なテーマ です。しかし、それは同時に、達成 が決して容易ではないテーマでもあ ります。  達成が難しい大きな理由としては 2つ挙げることができます。  1つは、多くの人がリーダーシップ を発揮しようとすれば「船頭多くし て船山に上る」といった状況が生じ、 リーダー同士の対立や社内政治の複 雑化がかえって経営効率を落としか ねないという問題があるためです。  もう1つは、現場にいる普通の人々 がリーダーシップを発揮できるよう にするための研究の歴史がまだ浅く、 効果的なリーダーの育成についての 知識が不足しているためです。この

内省型リーダーシップ❶

今回の著者 111-0409_CS2.indd 1 111-0409_CS2.indd 1 11/21/11 1:19:55 PM11/21/11 1:19:55 PM

(3)

2 May 2011 人 材 教 育 事実なのです。そして、そのような リーダーシップが発揮されると、対 立が対話によって解決され、より創 造的な成果が生み出されることが明 らかになりつつあります。  自分を深く見つめ自分自身に変化 を生み出すことは、「内省」と呼ば れるプロセスです。この内省が、リー ダーシップの発揮と組織的な成果に おけるカギを握っていたのです。  実は、リーダーシップにおける内 省の重要性については、これまでに も多くの先人や研究者達が指摘して きたことではあったのですが、実証 的なデータを伴って十分に明らかに されてきたわけではありません。そ こで、本連載では、内省によるリー ダーシップの向上について、現時点 における最新の研究成果を元に、そ の理論的な側面から実際の場面にお ける応用的な側面にまでわかりやす く紹介していきたいと思います。組 織内でいかにリーダーシップを育み、 組織力を高めるかについてぜひ参考 にして頂けたらと思います。  さて、ここで一旦、筆者の八木と 永井の自己紹介をしたいと思います。 八木は、現在香川大学ビジネスス クールで教鞭をとり、リーダーシッ プや組織行動、組織開発論を専門と している研究者です。永井は、野村 総合研究所にてIDELEA(イデリア) という経営者向けのエグゼクティ ブ・コーチングと経営コンサルティ ングを提供している事業責任者です。  内省型リーダーシップ論は、これ まで八木が集中的に研究し、現在も 実証に取り組んでいる新しい理論モ ③リーダーのパワーや影響力に関す  る研究 ④リーダーとリーダーを取り巻く状  況要因の関係に関する研究  これらをよく見てみるとわかりま すが、こうしたこれまでの研究の流 れの中には、重要なものが欠けてい ました。それは、リーダーが自分自 身をリードするという視点です。  上に紹介したリーダーシップ研究 の流れは、図表1に示すようにいず れもリーダーが自分以外の他者に与 える影響としてリーダーシップを捉 えてきました。こういった捉え方は、 言ってみれば「外なるリーダーシッ プ」と呼ぶことができます。  しかし、リーダーが自分自身の内 に向き合い自分自身を変える「内な るリーダーシップ」についてはほ とんど研究の枠外に置かれ、盲点と なってきたのです。  そしてこのことが、結果的にリー ダーシップを学びにくく、身につけ デルです。本連載では、この理論に 永井が実践的な視点と、わかりやす い事例を補い、理論と実践の両面か らわかりやすい解説をしていきたい と思っています。

リーダーシップ論にあった盲点

 リーダーの内省について考える前 に、これまでのリーダーシップ論につ いて簡潔に振り返っておきましょう。  リーダーシップを学問的に言うと 「組織目標を実現するために他者に 影響を与え、組織目標の実現を促進 するプロセス」として捉えられるこ とが一般的です。  このようなリーダーシップを発揮 する上で重要な要因について、これ まで多くの研究がなされ、研究にい くつかの大きな流れが生まれてきま した。それらは、大きく分けると次 の4つに分類できます。 ①リーダーの資質や特性に関する研究 ②リーダーの行動に関する研究 図表1 内なるリーダーシップと外なるリーダーシップ 主体 リーダー 客体 フォロワー 外なる リーダー シップ 主体 リーダー 外的 客体 内的客体 内省 外なる リーダー シップ 内なる リーダー シップ フォロワー 111-0409_CS2.indd 2 111-0409_CS2.indd 2 11/21/11 1:19:58 PM11/21/11 1:19:58 PM

(4)

3 人 材 教 育 May 2011 にくいものとしてきたように思われ ます。  これまで多くのリーダーシップ論 が明らかにしてきた外なるリーダー シップに関する知識として、優れた リーダーに特徴的なさまざまな言動 や影響力があります。しかし、実際に はどのような状況にも通用するよう な言動や影響力といったものがある わけではありません。他者が実際に 動くかどうかは、複雑な状況要因と の相互作用の結果であり、リーダー にとってはコントロールすることの できない要素が多いのが現実です。  相手を直接コントロールしようと すれば、そうできない現実にすぐに 直面するでしょう。そうすれば、結果 的にリーダー自身のセルフ・エフィ カシー(課題を達成できるかどうか に関する自己評価・自信の感覚)を 下げ、そのためにパフォーマンスま で低下させてしまうといった悪循環 に陥ることも少なくないのです。  しかし、どのような状況であっても リーダーは自分の意識や言動につい ては直接コントロールすることがで きます。自分自身に向き合うプロセ ジョンや道徳的価値に基づいて部下 からの共感を集める外なるリーダー シップも、それを発揮するリーダー の内省、つまり内なるリーダーシッ プによって支えられていたというわ けです。  リーダーシップ理論の権威である Burns(1978)は、変革型リーダーシッ プを「リーダーと部下間で相互に刺 激し合い高め合う、部下をリーダー へと変え、リーダーを道徳的な行為 主体者へと変える」ものだと言って います。このようなリーダーシップ をトップが発揮することができれば、 組織内から優れたリーダーを育成で きる可能性も高まるでしょう。  こうした優れたリーダーシップを 発揮するための要因はこれまで十分 解明されていませんでしたが、内省 経験を積むことで強い影響力を持つ ことが明らかになったのです。

2つのタイプのリーダー

 それでは、一体内省とは何でしょ うか? 簡単に一言で言えば、「自分 が自分を認識する」ということです。  このような認識を学術的には「メ タ認知」と呼びます。メタ認知がで きるのは、脳が発達した大型の類人 猿や人間の特徴と言われています。 このメタ認知ができないと、たとえ 人間であっても本能的な反応や、習 慣や常識のように過去に学習したパ ターンを繰り返す以上の行動をとる ことは難しいのです。  自分が自分を認識することで、本 能的な反応や過去の繰り返しに気づ き、それを一旦止め、変化させるこ ス=内省によって、さまざまな状況 における適切な言動や影響力を選択 する力を高めることができるのです。  このように筆者らは、これからの 新しいリーダーシップ論には、外な るリーダーシップだけではなく内省 による内なるリーダーシップが組み 込まれることが不可欠であると考え ているのです。

優れたリーダーが皆していること

 筆者の八木は、中小企業2万4000 社の経営者に内省した経験について アンケートをとり、3500社以上の経 営者から得られた回答を分析しまし た。その結果、内省経験の多い経営 者のほうが、経営に対する積極性(経 営革新への取り組み姿勢等)、部下 の活性化の程度(部下の主体性、革新 性や相互支持性等)、経営者本人の 役割満足感やセルフ・エフィカシー、 ストレス(ストレス要因に対する反 応レベル)などの面でより優れてい ることを統計的に実証しました。  この研究の結果、優れたリーダー ほど自分を見つめて自己理解と他者 理解を深め、自己変革をしているこ とがデータによって明らかにされた のです。  また、八木のこれまでの研究に よって、内省経験が外なるリーダー シップを高める要因としても強い影 響力を持つことも明らかになりまし た(八木、 2010)。外なるリーダー シップ論の代表的な1つである変革 型リーダーシップに対して内省経験 が統計的に強い影響力を持っている ことが明らかになったのです。ヴィ 図表2 氷山モデル 行動パターン できごと 構造 意識・無意識 の前提 111-0409_CS2.indd 3 111-0409_CS2.indd 3 11/21/11 1:20:00 PM11/21/11 1:20:00 PM

(5)

4 May 2011 人 材 教 育 内省型リーダーシップ❶ とが可能になるのです。  では、自分とは何でしょうか? 一言に自分と言っても、その自分は さまざまな経験や、他人や社会との 関わりの中でできあがったものです。 自分と外の世界を決して切り離して 捉えることはできません。したがっ て、ここで言っている「自分」とは、 自分が認識している世界観・人間観 の全てのことを指しています。  つまり、自分が成長の過程の中で 構築してきた世界観・人間観を見つ め直し、再構築する行為が内省であ るというわけです。  筆者らは、内省を通じて発揮され るリーダーシップを「内省型リーダー シップ」と呼んでいます。これは、筆 者らが「反応型リーダーシップ」と呼 んでいるもう1つのリーダーシップと 対比をするとわかりやすくなります。  反応型リーダーシップとは、課題 や出来事に対して内省をせず即時反 応するタイプのリーダーシップです。 一見、リーダーとして意思決定も早く、 率的に見えますが、実は出来事を深 く掘り下げて見ていないために、問 題の本質的な解決に至ることができ ない場合が少なくありません。さら に、実は自分自身が問題の原因の一 部となっている場合、そのことに気 づけず、問題を悪化させてしまうこ とさえあります。  したがって、筆者らは、多くのリー ダーが反応型から内省型リーダー シップにシフトすることが重要だと 考えています。  図表3は、「反応型リーダーの チェックリスト」です。もし、自分に 当てはまる点がいくつかあれば反応 型リーダーシップを発揮している可 能性が高いので是非確認してみてく ださい。  これらの点は反応型リーダーシッ プの特徴的な傾向と言えます。この ような傾向があることに気づくこと ができれば、次のステップはまさに 内省によってそのような傾向を変え ることです。  しかし、それは言うほど簡単なこ とでもありません。私たちには、自 分をあるがままに認識することが難 しい制約要因をいくつか持っている からです。次回はそれらについて解 説し、さらに内省についてお話しし たいと思います。 スピーディーで効率的に思われます が、反応の中身は過去に学習したパ ターンの自動的な繰り返しであるこ とが多く、反応の中身に対する十分 な吟味に欠けることが多いのです。  一方、内省型リーダーシップは、 課題や出来事に対して、その背景や 構造を探求し、より深い理解に基づ いて行動するリーダーシップです。  ピーター・センゲによる氷山モデ ル(図表2)という考え方がありま すが、これによれば、目に見える出 来事というのは氷山の一角であり、 氷山の一角は下のより大きな部分に よって支えられていると考えられま す。反応型リーダーシップは、スピー ディーではあるものの、この氷山の 一角だけを見て判断を下しているこ とが多いのです。一方で内省型リー ダーシップは、この氷山の下の部分 までを探求します。

反応型から内省型にシフトする

 反応型リーダーシップは、時に効 八木陽一郎(やぎ・よういちろう) 組織行動学を専門とし、「内省と対話」による リーダーの成長、組織変革などの研究を行う。 2007年より、現職および慶應義塾大学 SFC 研 究所上席所員に就任。2010年より、NPO 法人 ソーシャルベンチャーズ四国の共同代表およ び理事。 図表3 反応型リーダーのチェックリスト □問題の繰り返し  同じような問題が長年解決されていない。似 たような問題に度々ぶつかる。しかし、深く 問題の原因を探求してきたわけではない。 □関心領域と視点の狭さ  自分に与えられた役割の範囲以外のことには 関心が持ちにくく、責任があるとも思えない。 □過度な自責・他責思考  問題の原因を特定の個人に限定してしまう傾 向が強く、過度に自分または他人を責める想 いをつのらせやすい。人を正しいか間違って いるかで単純に判断しやすい。 □感情のコントロールが不得手  怒りやあきらめなどのネガティブな感情に流 されやすく、ネガティブな感情の解消に多く のエネルギーと時間を必要とする。 □感謝の欠如と対立的な人間関係  出来事に対し不満が多く、周囲に感謝の気持 ちを持ちにくい。他者との不理解や対立が生 じやすく、時に対立が先鋭化してしまう。 □知識の過信と断定的な判断  自分の知識が正しいという前提を疑う経験が ほとんどない。自分の知識に基づいて、もの ごとを断定的に言い切ってしまうことが多い。 人の話を傾聴できない。 □過去思考  漠然と未来は過去の延長線上にあると感じ、 同じパターンが通用すると思っている。予想 もつかない変化などあまり起こらないと考え ている。自分自身がポジティブな変化の原因 になれることもほとんど考えたことがない。 111-0409_CS2.indd 4 111-0409_CS2.indd 4 11/21/11 1:20:02 PM11/21/11 1:20:02 PM

(6)

5 人 材 教 育 June 2011

リーダーシップの

2つのタイプ

 前号、内省がリーダーシップを発 揮するうえで重要な要因であること を述べました。  優れたリーダーの多くは、内省し、 自分の世界観や人間観を見つめ直す 経験を重ねていることが、筆者のこ れまでの調査の結果から明らかにさ れてきたのです。優れたリーダーは、 表面的な物事にただただ反射的に反 応するのではなく、自己の世界観・ 人間観を見つめ直し、より深く物事 の構造やパターンを探究し、必要に 応じて自己変革を起こし、周囲との 深い対話によって事態をより良い方 向へと導いていたのです。  筆者は、この内省を自分が自分を リードする「内なるリーダーシップ」 と呼んでいます。実は、この内なる リーダーシップが、他者をリードす  これらの2つのタイプのリーダー シップを比較していくと、多くの リーダーが反応型から内省型のリー ダーシップにシフトすることがとて も重要であることがわかると思いま す。以下にそれぞれのリーダーシッ プのより詳しい特徴を挙げ、比較を してみましょう。

反応型と内省型の

リーダーシップの特徴

 前回もご紹介しましたが、もう一 度反応型リーダーシップの特徴につ いて説明したいと思います。反応型 リーダーシップは、即断即決のため、 時に勇敢で効率的に見えます。けれ ども、実は出来事を深く掘り下げて 見ていないために、問題の本質的な 解決に至ることができない場合が少 なくありません。  さらに、自分自身が問題の原因の 一部となっている場合、そのことに る「外なるリーダーシップ」に対し ても良い影響を与えていることが実 証的にも明らかになってきたのです。  前回は、リーダーシップを2つのタ イプに分ける考え方を紹介しました。  1つのタイプは、目の前の出来事 に反射的に応じてしまう傾向が強い 「反応型リーダーシップ」。これは一 見すると意志決定がスピーディなよ うでありますが、実は自分が過去に 学習したパターンを繰り返してばか りいるタイプです。  もう1つは、目の前の出来事の背 景や構造を読み解き、内なるリー ダーシップを働かせようとする傾向 が強い「内省型リーダーシップ」で す。内省型リーダーシップは、自分 をコントロールし、場の中で自分が 発揮する影響力を適切なものに配慮 することで結果的に他者への外なる リーダーシップを高めていると考え られるのです。

なぜ内省が

できないのか?

八木陽一郎 香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授 永井恒男  野村総合研究所IDELEA(イデリア)事業推進責任者 現代の企業では、創造性を高めることが求められている。そこで有効なの は、内省型リーダーシップだ。だが、自分を見つめ内省をするのは簡単で はない。今回は、内省を阻む要因を紹介したうえで、どうしたらそれらか ら解放され、内省ができるのかを紹介する。

内省型リーダーシップ❷

今回の著者 111-0409_CS2.indd 5 111-0409_CS2.indd 5 11/21/11 1:20:03 PM11/21/11 1:20:03 PM

(7)

6 June 2011 人 材 教 育 なかなか気づけず、問題を悪化させ てしまうことさえあるのです。  図表1は、筆者が考える「反応型 リーダーのチェックリスト」です。 もし、当てはまる点がいくつかあれ ば反応型リーダーシップを発揮して いる可能性が高いので是非確認して みてください。  これらの点は反応型リーダーシッ プの特徴的な傾向と考えられるもの です。一方の内省型リーダーシップの 特徴はこれらとは対照的な特徴を持 つと考えられます。「内省型リーダー のチェックリスト」(図表2)も同 じく確認してみてください。  内省型と反応型は、そのどちらか にきれいに分類されるというよりも、 誰もが両方のタイプの特徴を潜在的 には有していて、経験を通じてどち らかが強くなったり、状況や仕事な どによって傾向が変わったりする場 合もあるかもしれません。ここでは自 分の傾向をご理解いただく目安とし て活用していただければと思います。  さて、いかがでしたでしょうか? このチェックリストに示した内省型 と反応型は、リーダーシップの特徴 を対照的なタイプとして表したもの です。しかし、このタイプはDNAや 血液型のように先天的で不変的なも のではなく、内省の経験によって変 化しえる認識のあり方によるタイプ 分けだという点が重要です。つまり、 現時点で反応型であるとしても、変 化できる可能性は十分にあるという ことです。 テークホルダーのニーズが多様にな ると、製品やサービスは陳腐化しや すく、単なる効率化を推進するだけ ではすぐにライバルにキャッチアッ プされ、競争力の源泉としては不十 分だからです。  このような時代には、メンバーの 創造性を高めることが戦略的により 重要な要因であり、メンバーの創造 性を高めるにはリーダーのより深い 人間理解が不可欠であると考えられ ます。  こうした背景から、集団の創造性 を引き出すうえで、深い人間理解を もたらす内省がリーダーにとって極 めて重要な経験であり、内省型リー ダーシップがより有効であると考え られるのです。

なぜ、

内省ができないのか?

内省を阻むもの

 ところで、内省をすることが重要 であるとしても、それが必ずしも簡 単にできるのかといえばそうでもな いのが現実です。

集団の創造性を高める

内省型リーダー

 内省型リーダーシップと反応型 リーダーシップのどちらが優れてい るか――これは実は単純には断定で きない問題です。たしかに、これま でに筆者が行ってきた実証研究によ れば、内省型リーダーシップのほう が優れているといえるでしょう。  しかし、例外も当然考えられます。 その例外の1つは、集団の創造性を 重視する必要が全くない場合です。 単純な作業をいかに効率的にさせる かが課題であるといった場合、いわ ゆるアメとムチ型の取引的なマネジ メントが有効であると考えられ、し たがってリーダーの内省はそれほど 求められないように思われます。  しかし、現代の企業が抱える課題 の中で、戦略的な重要性は単純作業 の効率化というよりも、むしろ集団 の創造性を高めることに移行しつつ あるといえるのではないでしょうか。 環境の変化が今日のように速く、ス 図表1 反応型リーダーのチェックリスト □問題の繰り返し  同じような問題が長年解決されていない。似た ような問題に度々ぶつかる。しかし、深く問題 の原因を探究してきたわけではない。 □関心領域と視点の狭さ  自分に与えられた役割の範囲以外のことには関 心を持ちにくく、責任があるとも思えない。 □過度な自責・他責思考  問題の原因を特定の個人に限定してしまう傾向 が強く、過度に自分または他人を責める想いを つのらせやすい。人を正しいか間違っているか で単純に判断しやすい。 □感情のコントロールが不得手  怒りやあきらめなどのネガティブな感情に流さ れやすく、ネガティブな感情の解消に多くのエ ネルギーと時間を必要とする。 □感謝の欠如と対立的な人間関係  出来事に対し不満が多く、周囲に感謝の気持ち を持ちにくい。他者との不理解や対立が生じや すく、時に対立が先鋭化してしまう。 □知識の過信と断定的な判断  自分の知識が正しいという前提を疑う経験がほ とんどない。自分の知識に基づいて、物事を断 定的にいい切ってしまうことが多い。人の話を 傾聴できない。 □過去思考  漠然と未来は過去の延長線上にあると感じ、同 じパターンが通用すると思っている。予想もつ かない変化などあまり起こらないと考えている。 自分自身がポジティブな変化の原因になれるこ ともほとんど考えたことがない。 111-0409_CS2.indd 6 111-0409_CS2.indd 6 11/21/11 1:20:05 PM11/21/11 1:20:05 PM

(8)

7 人 材 教 育 June 2011  先のチェックリストに示された内 省型リーダーシップの特徴を見て、 自分には難しそうだと思われた方も 少なくないかもしれません。確かに 内省型リーダーシップは簡単に発揮 できるようになるものではありませ ん。内省型のリーダーシップを発揮 する第一歩として何が内省を阻むの かを知ることは役に立つでしょう。  内省を阻む制約要因にはさまざま なものがありますが、ここでは代表 的な次の2点を紹介しておきましょ う。1点目は「認知的拘束」、2点 目は「認知不協和」と呼ばれる要因 です。  まず、1点目の「認知的拘束」に ついてですが、この要因の影響を主 張してきたのは、経営学を構成する 一分野である制度論の研究者たち です。制度論の研究者たちの特徴 は、経済学が前提とするような理性 新的なビジョンや創造性の発揮を難 しくする理由を明らかにしてくれて います。  次に、内省ができにくい2点目の 理由ですが、それは人間が「認知不 協和」を避けようとするためです。 私たちは必ずしも自分の認識が現実 世界と整合性を保っているとは限ら ないにも関わらず、大抵は、自分は 現実世界を正しく理解できていると 強く信じる傾向を持っています。  フェスティンガー(米国の心理学 者)によって提唱された認知不協和 理論によれば、人間は自己の認識す る現実(認知的枠組み)と合わない もの(不協和な情報)に対して素直 な反応を示すわけではありません。 なぜなら不協和な情報は、個人に とって自分の認識の枠組みを変えな ければならない不快な圧力になるか らです。不快な情報への具体的な反 応としては、不協和な情報に対する 過小な評価、認知の歪曲、人やその 他の情報源に対する選択的な接触に よる状況の否認や回避等があります。  内省をするためには、自分にとっ て不快な圧力も受け入れなければな りませんが、このように人間は認知 不協和を避けようとするため、結果 的に内省をすることもできなくなっ てしまうのです。

リーダーシップを

発揮するための内省のヒント

 リーダーは環境の変化や創造の必 要性に応じて、時にメンバーの中で 無自覚になっている認知的な拘束を 解き放ち、変革を起こさなければな 的で合理的な存在としての人間が存 在するという立場をとらないこと です。合理性の代わりに、人間は社 会的な共通認識に強く影響されると 主張しました。つまり、人間は環境 に存在する正統性(何が正しいか についての社会的な共通認識)、規 範(どのように振る舞うべきかに ついての社会的な共通認識)、同形 化(周囲や社会の常識と同じように なること)のプレッシャーに反応し、 拘束されていると主張しているの です。しかも、こうした拘束に人間 は無自覚だといいます。無自覚である ために、本人にとっては、自分が考え る認識が、当然のこととなっているの だと指摘されています。だからこそ、 その影響力はとても強いといえます。  このように制度論が指摘する認知 的拘束は、人間が環境の中にいつの 間にか埋没してしまうプロセス、革 図表2 内省型リーダーのチェックリスト □根本原因の探究  問題を表面的にのみに捉えた反応をせず、問題 の背後で繰り返されているパターン、問題を維 持させている構造、問題と自分自身とのつなが りを深く掘り下げ、より根本的な原因に手を打 とうとする。 □視点と役割範囲の広さ  自分が周囲に与える影響を自覚することができ、 影響範囲の捉え方が広い。影響範囲を自分事と して認識するため、関心領域や視点が広く、自 分の役割範囲を広く捉える。 □自他非分離の思考  社会的な現実を深く掘り下げ、自分と他者の循 環的な相互作用を認識することができる。現実 を自分または他者の一方的な影響の結果として 認識するのではなく、自分と他者の非分離な関 係の結果として捉える。そのために過度な自責 や他責には陥らない。そして自分の達成したこ とに対して他者へ感謝の気持ちを持てる。 □感情の吟味  ネガティブで強い感情に流されそうになっても いったん止めてよく吟味することができる。こ れは感情を持たないということではなく、感情 に率直でありながらも、感情の表出が周囲に与 える影響や自分自身の感情の源泉や背景につい ての理解の深さを示すものである。 □受容的でオープンな人間関係  他者が自分とは異なる世界の捉え方をし、異な る背景や価値観を持っていることを認識してい る。そのため、他者への傾聴や受容的な態度を 大切にし、他者に対して自分を開き、敬意を持っ て接しようとする。多様で個性的な考えや意見 が場にもたらされることを混乱の原因とは捉え ず、創造的な成果を生むために不可欠な要素と して、積極的に受け入れることができる。 □判断の保留  常に変化し、その変化の全てを把握することが できない世界の現実に対して、断定的な判断が 危険であることを認識し、仮の判断を下しつつ も同時に判断を保留する余地を残し、より良い 判断のための探求の姿勢を大切にしている。 □未来志向  自分と世界のつながりを認識し、自分が変化す ることによって世界にも変化が生み出されるこ とを理解している。そのため現在の状況に可能 性を見出し、より良い未来の状況を自らの変化 によって起こそうとする未来志向の姿勢がある。 111-0409_CS2.indd 7 111-0409_CS2.indd 7 11/21/11 1:20:06 PM11/21/11 1:20:06 PM

(9)

8 June 2011 人 材 教 育 内省型リーダーシップ❷ りません。また、それが時には痛み を伴うものであろうとも、現実とは 不整合な認知的枠組みに気づき、変 化を起こす必要があるのです。  内省を深めリーダーシップを発揮 するうえで、唯一絶対的な正解はな いと思いますが、ここでは筆者が重 要と考えている基本的な事柄を紹介 したいと思います。  最も基本的で、しかも重要と思わ れることは、「自分自身が変化しよ うとする姿勢」です。そして同時に、 「他者には決して変化を強要しない」 ということも重要です。  リーダー自身が変化する。そのた めにはまずリーダー自身が内省に よって一段高い視点からそれまで当 然のこととなっていた自らの認知的 な拘束を自覚し、それを自分自身で 解き放つ経験を深めておく必要があ ります。  仮に自分は変わりたくないのに、 相手だけを変えようとすればうまく いかない可能性が高いでしょう。相 手だけを変えようとすると、いつの 間にか、自分が求める変化に相手が 従えばアメ、従わなければムチとい う具合になりやすく、相手の主体性 と創造性を損ないやすいのです。  変化を起こすには対話を通じ、自 分自身の判断を保留し、予期せぬ偶 発を取り入れながら、相手とともに 変化を起こしていくという姿勢が重 要です。  また、変化は時に痛みを伴います が、自分自身の変化を拒むリーダー は、他の人の痛みを理解できず、人 に対する配慮に欠き、場に過度な緊 づきをもたらし、自らの成長を促す ことができるのです。  次に、認知不協和に対処する方法 を紹介します。それは「意識と行動 の因果関係を問う」ことです。  私たちは常に何かの行動を選択し ていますが、そこにはその行動を選 んだ理由があります。たとえ無自覚 であろうと理由があるのです。その 理由は、その場その場の自分の想い や認識によって生じたものかもしれ ませんし、もっと古い経験から学習 された情報が無自覚に活用された結 果かもしれません。いずれにせよ、 そうした因果関係を問うことを日常 的な習慣にするのです。  特にあまり心地よくない感覚がし た時や、何かを避けようとした時の 行動などは因果関係を深く掘り下げ るといいでしょう。そこに自分に とって無自覚だったことへの多く の気づきがあるので、学びと成長の 大きなチャンスになるからです。も ちろん、辛過ぎて直視できないよう な経験を掘り下げようとすると、心 理的なインパクトが大き過ぎるので、 取り組めそうなレベルの経験から始 めることをお勧めします。  次回から、内省を通じて発揮され る具体的なリーダーシップの事例と その分析について永井氏が4回にわ たってご紹介していきます。 張や混乱、反発を招く可能性が高い ともいえます。  あくまで自分に変化を起こすこと が基本です。そして、対話を重視す る姿勢と、痛みへの配慮が同じよう に重要なのです。

内省を阻むものを壊す

 ではここで、内省を制約する認知 的拘束と認知不協和に対処し、自分 自身が変化する方法をご紹介したい と思います。  まず、当たり前になり過ぎて気づ きにくくなっている認知的拘束を解 く方法です。それは「違和感や予期 せぬ出来事を大切にする」というこ とです。  それらの出来事は、自分の無自覚 な前提では整合的に捉えきれない何 かを含んでおり、その違和感を無視 せずに大切にすることで自分が現実 を把握するうえで無意識に“前提” としていることを浮かび上がらせ、 再構成するチャンスを与えてくれる のです。  「プランド・ハップン・スタンス・ セオリー(計画的偶発性理論)」と 呼ばれるキャリア理論があります。 この理論では、キャリア上の予期せ ぬ出来事が持っている、キャリア発 達上の望ましい効果を指摘していま す。そして、この望ましい効果は、 予期せぬ出来事を深く受け止めよう とする本人やカウンセラーの努力に よって高められることが指摘されて います。この予期せぬ偶発的な出来 事から学ぶ姿勢を大切にすることで、 自らの無自覚な前提に、自覚的な気 八木陽一郎(やぎ・よういちろう) 組織行動学を専門とし、「内省と対話」による リーダーの成長、組織変革などの研究を行う。 2007年より、現職および慶應義塾大学 SFC 研 究所上席所員に就任。2010年より、NPO 法人 ソーシャルベンチャーズ四国の共同代表およ び理事。 111-0409_CS2.indd 8 111-0409_CS2.indd 8 11/21/11 1:20:07 PM11/21/11 1:20:07 PM

(10)

9 人 材 教 育 July 2011

ビジネスシーンで

内省を実践する

永井恒男  野村総合研究所IDELEA(イデリア)事業推進責任者 八木陽一郎 香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授 今月号から、筆者を交代し、八木氏の研究成果である「内省型リーダーシ ップ」をビジネスに活かす手法を紹介します。一般的に多くの人が成果を 上げるべく行動の振り返りを行っていますが、抜本的な改革や継続的な成 果にはほとんどつながっていません。そうしたMBA的アプローチの限界 を超え、新たな問題を発見することができる内省をビジネスでも活用する 方法と有効性について、事例を交えて解説します。

抜本改革のカギは内省

 筆者(永井)は野村総合研究所に おけるIDELEAという事業の事業 推進責任者です。IDELEAは経営 者に対するエグゼクティブコーチン グ事業と、対話を活用して組織のビ ジョンを磨き上げ達成することをサ ポートする事業を行っています。  事業立ち上げから5年間で約65社 の一部上場企業のトップに対してエ グゼクティブコーチングを行った他、 約10社で経営層や経営幹部、時には 全社員が集まり対話を通じて内省を 深めた実績があります。  これらの経験から、ビジネスにお いても内省型リーダーシップを取り 入れることにより、業績や新商品開 発などビジネス上の成果を高め、持 続的に成果を出し続けることができ ると確信しています。  個人レベルでも、自分自身のスト  一般的に、このような内省思考を 一人で進めるのは難しいことです。 そのため、私のようなコーチがいる わけですが、今回は、私がコーチン グを行った老舗メーカーA社のB社 長の内省の様子を紹介し、内省が現 実のビジネスに、どのように役立つ かを解説していきます。

ケース:老舗メーカーA社

〈MBA的アプローチの限界〉  家電メーカーA社は老舗である。 もともとはステレオのコンポーネン トで高い評価を得ていた会社である。 だが、近年の消費者のステレオ離れ、 ハイエンドな海外ブランドの参入に より、業績は悪化していた。  この状況に危機感を覚えたB社長 は、経営陣との合宿を行い、PDCAサ イクルの検証やSWOT分析を行っ た。その結果、強みであるステレオ の音質と、コストの両方を追究しよ レスを低め、部下の活性度を高める ことができることは、八木先生の研 究の成果でも示されている通りです。  エグゼクティブコーチングでは、 2週間に一度、90分ほどの対話を行 います。基本的には、経営者が問題 であると考えているテーマについ て、コーチの言葉をきっかけとして 深く考えを巡らせていきます。八木 先生は、内省型リーダーシップは氷 山モデルの下の部分(行動パターン、 構造、意識・無意識の前提)まで探 究すると述べています。筆者は、ビ ジネスにおいて、より実践的な探究 の仕方を提示します。探究の対象は、 図表1のように形式的に4つのレベ ルに分けることができます。この4 つのレベルで、 自分の置かれている 現状を客観的に認識し、現状がベス トではないかもしれないという仮説 を持って考えを巡らせ、内省を深め ていきます。

内省型リーダーシップ❸

今回の著者 111-0409_CS2.indd 9 111-0409_CS2.indd 9 11/21/11 1:20:08 PM11/21/11 1:20:08 PM

(11)

10 July 2011 人 材 教 育 うと決定。だが、半年たっても業績 は、改善どころか悪化するばかりで あった。  自社での取り組みに限界を感じた B社長は以前から親交のあった経営 コンサルタントC氏に相談。C氏は、 「市場の変化に十分対応していない ことが最大の課題であり、開発にお ける高コスト体質やマーケティング 機能の不足が喫緊に改革されるべき である」とアドバイスした。    ステレオブームは、はるか昔に過 ぎ去り、今や若者は、携帯音楽プレー ヤーや携帯を片手にヘッドホンで音 楽を聞く。従来A社は技術本部が主 導して新商品を開発し、ヒットして にはつながらなかったわけである。 この原因は、経営や業界の専門知識 や論理的思考などのMBA的アプ ローチ(行動、仕組みレベルでの内 省)だけでは、その根本原因を発見、 解消することができないことにある。 そこで、より深いレベルでの内省が 必要になるのだ。 〈B社長の気づき〉  筆者がB社長とお会いしたのは ちょうどその頃であった。B社長の 話を聞くと、社員、特に他の役員の危 機感不足に憤っていたことがわかっ た。そこで私は、その憤りは十分わ かるが、それを一度脇に置き、仕事 の仕方や組織文化を認識するための 質問を投げかけた。  それらはたとえば次のような、B 社長に自社の組織文化を感じてみる ことを促す質問だ。 「新人だった時、組織風土に違和感 を覚えたことはありましたか? そ れは今でも見受けられますか?」、 「日頃、経営上の意思決定をする際 に、基本となっている価値観にはど のようなものがありますか?」、「望 ましくない状況を引き起こした原因 が、社員に染みついた思い込みにあ るとしたら、それは何でしょうか?」  このような問いかけを通じて私は A社がどのようなメンタルモデル(個 人や組織の中で支配的な意識・無意 識の前提)に支配されているのかを 明らかにし、明文化した(図表2)。 「この状況を見てどう思いますか?」 と私はB社長に聞いた。  B社長は「こういった考えが自分 も含めた社員の頭の中で支配的なの きた歴史を持つ。そんな技術本部が、 現在の市場を意識していないことは 明らかだった。  B社長は考えた――そもそも創業 者も技術者だった。現在も技術本部 は膨大な費用を使って、R&Dに打 ち込んでいる。だが、社長の自分もそ の費用がどのようなテーマに使われ、 どのようなリターンをもたらしてい るかよくわからない。自分もユー ザーのニーズがわかるとはいえない が、携帯音楽プレーヤーへの自社の 対応が後手に回っているのはわかる。  コンサルタントC氏がさまざまな データを用いながら現状分析の結果 を発表するのを聞きながら、B社長 は自社にユーザーのニーズを取り入 れる仕組みがないことを痛感した。  そこで、B社長の号令により、技術 本部担当のD常務を中心に、技術偏 重から顧客ニーズを重視したモノづ くりに変わっていこうという取り組 みが始まった。営業と技術から混成 されたマーケティング企画部が新 設され、顧客の動向を技術に伝える 仕組みが整備された。技術主導から マーケティング主導への転換はトッ プダウンで順調に滑り出した。  ところが約8カ月後、この変革活 動は細々としたものになってしまっ た。一旦は顧客志向への転換が大き く叫ばれ、現場を巻き込んださまざ まな活動が行われたが、現場の反応 は冷ややかだった。  つまりA社では、経営陣の合宿と いった自社での取り組み、外部コン サルティングを導入しての取り組み も現場には浸透せず、本質的な改革 図表1 ビジネスにおける内省の手順 LEVEL① 行動    企業活動における各社員の 行動を振り返る LEVEL② 仕組み   戦略、仕事の仕方、組織体 制、制度等のビジネスプロ セスを振り返る LEVEL③ メンタルモデル 個人や組織の中で支配的な 意識・無意識の前提(個人 であれば価値観や思い込み、 組織の場合は組織風土や組 織文化と表現される)を振 り返る。 LEVEL④ 自己定義  個人や組織の目的や存在意 義( た と え ば「( 特 定 の ) お客様に○○という価値を 提供する」と表現される) を再定義する。 111-0409_CS2.indd 10 111-0409_CS2.indd 10 11/21/11 1:20:10 PM11/21/11 1:20:10 PM

(12)

11 人 材 教 育 July 2011 だから、コスト削減も顧客志向も進 まないはずだねえ」と深いため息を つきながら、自社の問題の根深さに 愕然としていた。 「B社長も御社に長いですよね?こ れらメンタルモデルはB社長にも当 てはまりませんか?」  さらに私は質問した。B社長はし ばらく言葉に窮し、深いため息をつ いた。 「全てとはいい難いが、自分にも当 てはまるものが多いね。自分も現場 にいた頃、本社からの通達を『話し 半分』に聞いていた。それに自社の 製品は品質が高いのになんで売れな いんだろう、と今でも思っている」  これまで多様な施策を行ってきた が、形だけで全く効果を上げてこな かった。その原因であるメンタルモ デルは社長以下多くの社員が共通し て持っていたのだ。 「じゃあ、どうしましょうか?」私 は聞いた。「メンタルモデルを改めな 言」を出すということは、一見簡単 なように見えて、実は非常に勇気の いることなのである。   この発表は、多くの社員の心を打 ち、社員が自分自身のあり方(もの の考え方、仕事への姿勢、仕事の仕 方、等)を振り返る機会となった。 顧客志向のモノづくりやコスト削減 の取り組みが本格化し、何より自分 の仕事が会社全体へどう影響するの かを考える社員が増えてきた。  こうした社内の変化の兆しを受け て、B社長は、従来から必要性を感 じていたビジョン策定に着手した。 社員を巻き込んだ新ビジョン策定プ ロセスの検討を始めることとなった のだ。このフェーズでA社社員は自 分たちがお客様に何を提供する企業 なのかを再定義することになる。

4つのレベルでの内省

 それでは、改めてA社で行われた 内省を図表1の4つのレベルに基づ き解説していきます。(なお、A社 では、①と②までは、筆者が関わる 前に行われていたことになります)  はじめに、①行動レベルの内省に より、問題の洗い出しおよび解決策 を考えます。ここで行う振り返りは、 一般的なPDCAと同様です。A社で 最初に実施した合宿では、SWOT 分析を行い、自社の強みであると思 われた、音質をさらに強化していく べく、R&Dを強化するという解決 策が導き出されました。  さらにA社は、外部のコンサルタ ントを入れて②仕組みレベルでの内 省も行いました。仕組みとは、戦略、 ければ新しい仕組みは定着しないの だから、この発見を伝え、まず我々経 営陣から改めることを宣言します」。 B社長は力強く答えた。ちなみに筆 者の経験上、A社で見られたメンタ ルモデルはモノづくりや現場が強い 多くの日本企業に共通のものだ。 〈抜本的改革が起こる〉  その後、筆者はB社長主催の取締 役合宿でメンタルモデルレベルの内 省をサポートし、B社長は取締役全 員の反省として「変革宣言」を発表。 この「変革宣言」は、今までのA社 の仕組みやメンタルモデルをわかり やすく説明し、それを改め、新しい あり方を提示したものである。それ を社員に改めろ、というのではなく、 まず自分たち経営陣から始めると宣 言したのだ。  これは、競争原理を勝ち抜いてき た役員にとっては、自身の勝ちパ ターンを自ら否定することを意味す る。役員が一枚岩になり、「変革宣 図表2 A 社のメンタルモデル(一部) 価値観・哲学 思い込み ●良い商品を作れば売れる ●良い商品を作るためにはコストは  いくらかかってもしょうがない ●低価格品を買うお客様は相手にし  たくない ●一般のお客様は製品の品質を正確  には評価できない(自分たちが良  い商品だと思う物が売れるはずだ) ●本社は実態をわかっていない ●本社の指示は話し半分で聞く 「技術がビジネスを創る」 「高級・高額な商品を 購入する層が 弊社のお客様である」 「弊社は現場主導の 会社である」 収益の 源泉 顧客 マネジ メント 111-0409_CS2.indd 11 111-0409_CS2.indd 11 11/21/11 1:20:11 PM11/21/11 1:20:11 PM

(13)

12 July 2011 人 材 教 育 内省型リーダーシップ❸ 仕事の仕方、組織体制、制度などの ビジネスプロセスのことです。外部 環境に対応して構築されたものもあ れば、自らのメンタルモデルや自己 定義を支えるために構築されること もあります。  自社にどっぷりと浸かっていると 問題を問題として認識することが困 難になってきます。その原因は八木 先生が解説した認知不協和にありま す。認知不協和とは、人間は自分の 認識する現実や思い込みと合わない ものや出来事を受け入れにくいとい うことです。だから、自社で問題が あっても、なかなか気づくことがで きないのです。  幸い、A社では、B社長が自社に ユーザーのニーズを取り入れる仕組 みがないという問題を発見し、技術 偏重から顧客ニーズを重視したモノ づくりへと体制が変わりました。   このように客観的な視点で自社を 振り返り、仕組みレベルでの問題ま でアプローチすると、従来見えてい なかった事柄が経営上の課題として 認識されるようになるのです。  しかし、これだけでは現場を巻き 込むまでの大きな変革を実現するこ とは難しく、実際A社においても現 場の反応は冷ややかなものでした。 各部門がユーザーに対する調査を 行ったり、ブランド再構築を行った りしたものの、結局従来の「技術重 視」のメンタルモデルを変えること ができていないため、効果が不十分 となってしまうのです。  そのため、続くプロセスとして、 ③メンタルモデルにアプローチして 「変革宣言」により信賞必罰の体制 を構築する姿勢を示したことにより、 従業員においても、各自が自身の仕 事に対する姿勢を再考するきっかけ となっていったのです。  A社では、自然発生的にビジョン 策定を行うこととなりましたが、筆 者が導く内省では多くの場合、最後 に、④自己定義のレベルにアプロー チします(第5回連載予定)。  望ましい結果を得るには、行動を 変える。行動を変えるためには、行 動を生み出す仕組み、さらには仕組 みを生み出しているメンタルモデル を変える。こうして内省を深めてい くと、「自分とは何者か?」という 個人や組織の目的や存在意義にたど りつきます。自己定義レベルでの内 省により、A社では従来の「自分た ちが作りたいモノを作る会社」から 「お客様の自己実現をサポートする モノを創る会社」というふうに自己 定義が再定義されました。その結果、 メンタルモデルは再構築され、仕組 みが変わり、日々の行動が変わって いったのです。  以上、内省がレベルごとに深まる 様子をご説明しましたが、次回は内 省を深めるテクニックである「保留」 についてご紹介します。 いきます。優れた企業は①、②レベ ルでの内省を行っていることが多い ですが、より本質的な変革のために 著者は特に③以降のレベルでの内省 を重視しています。従来のコンサル ティング的アプローチ(行動と仕組 レベルの内省)に、③と④を加える ことで劇的な変化を実現させること ができると考えています。  このメンタルモデルレベルの問題 点を発見し解消するということは、 八木先生が解説した認知的拘束を克 服していくことになります。これは、 人間は無自覚に常識や社会通念など の社会的な共通認識に強く影響され ており、たとえそれが不合理でも 従ってしまい、合理的・理性的に行 動することが難しいということです。  A社のケースでは、B社長の内省 から、「自分たちが良い商品だと感 じるモノは、世の中の多くの人が買 う」というモノづくりに関する思い 込みや「社内で決めた通りに物事は 進まない」という意思決定と実行に おける思い込みがメンタルモデル上 の課題として発見されました。B社 長は、社内のこのようなメンタルモ デルに気づくと、この発見を従業員 に伝えたうえで、まず経営陣から改 める、という対応策をとりました。  内省によりメンタルモデルに関す る問題までアプローチしたことで、 意思決定と実行に対する不徹底さや、 結果に対する無責任さという観点も 経営上の課題として新たに認識され ました。これまでどんな戦略をとっ ても成果が出てこなかった原因が判 明したのです。さらに経営陣自らが 永井恒男(ながい・つねお) 2005年、野村総合研究所の社内ベンチャー制 度を活用して、エグゼクティブコーチングと 戦略コンサルティングを融合した新規事業 「IDELEA(イデリア)」を起案し、立ち上げる。 また、2006年からボランティアで NPO 代表の 方々にコーチングを提供している。 http://www.id.nri.co.jp/ 111-0409_CS2.indd 12 111-0409_CS2.indd 12 11/21/11 1:20:14 PM11/21/11 1:20:14 PM

(14)

13 人 材 教 育 August 2011

思い込みを外す

「保留」

とは

永井恒男  野村総合研究所IDELEA(イデリア)事業推進責任者 八木陽一郎 香川大学大学院地域マネジメント研究科准教授 前号ではビジネスに内省を取り入れて変革を実現した事例をご紹介しまし た。今回は、ビジネスにおいて内省を深めるコツである「保留」について 事例を交えてご紹介します。深いレベルでの内省は、この保留なしではで きません。浅いレベルの内省との違いを解説し、業務上の生産性の向上の ヒントを紹介します。

平時に自分を変える

 前号まで筆者らは、内省型リー ダーシップとは課題や出来事に対し て、その背景や構造を探究し、より深 い理解に基づいて行動するリーダー シップであること、そして内省とは 自分が成長の過程の中で構築してき た世界観・人間観を見つめ直し、再 構築する行為であるということを繰 り返し述べてきました。  内省の方法はさまざまなものがあ りますが、今回は「保留」というテ クニックを紹介します。これは「自 分が明確な事実だと思っている考え に対して、一旦疑念を持って客観視 する」スキルです。「保留」は、通 常は壊すのが難しい自分の思い込み を外して、内省を深めるために非常 に役立つ重要な手法です。  人間はなかなか変わらないもので す。自分の世界観や人間観が揺る 会長・CEOである三枝匡氏は経営者 育成のためには修羅場を体験させる ことが必要であると述べています*1 。  しかし、普通のビジネスパーソン が、自身の成長のためとはいえ、危 機的状況に身を置き続けるわけには いきません。非常事態に自分の世界 観・人間観の再構築を余儀なくされ るのではなく、特に大きな問題のな い平時に自身の振り返りを行い、結 果としてパフォーマンスを向上させ ることができる点が保留から始まる 内省の大きな利点です。  それでは、ここで、保留から始ま る内省の進め方を、ケースと図表1 で示す①∼⑦のステップに沿ってご 説明します。

ケース:部下の遅刻は

    誰のせい?

 A部長は重要な会議に遅刻した部 下(Bさん)を上司として激しくそ がされ、変わるのは苦痛だからです。 そのため人間が劇的な変化を遂げる のは危機的な経験をした時が多くな ります。災害や大病、大切な人との 別れ、経済的危機により、多くの方 が古い価値観を見直し、新しい価値 観に沿った人生を歩んでいます。  経営者の方でも、上司と衝突して 左遷された時、会社に多大な損失を 与え辞表を書いた時、急成長後急激 な業績の落ち込みにより倒産を意識 した時などに、それまでの自身の世 界観・人間観を見直し、大きく自己 変革を遂げた方は数多くいます。  危機的状況は、自分が成長の過程 で構築してきた世界観・人間観に対 し、一旦疑念を持つ機会になります。 つまり、自然と「保留」が起こるの です。危機的な状況は自分を振り返 り、非連続な成長を遂げる機会にな ります。このことは多くの経営者も 認めています。ミスミの代表取締役

内省型リーダーシップ❹

今回の著者 111-0409_CS2.indd 13 111-0409_CS2.indd 13 11/21/11 1:20:14 PM11/21/11 1:20:14 PM

(15)

14 August 2011 人 材 教 育 の場で叱責しました。その会議には A部長をよく知る役員も同席してい ました。その様子を見ていた役員は、 A部長を止め、「部下の遅刻は、上 司であるあなたにも原因があるので はないか?」と逆にA部長をたしな めました。  この時、A部長の思考を支配して いるのは「遅刻をした部下が悪い」 というものです。役員の指摘があっ たにもかかわらず、考え直す姿勢は 一切ありませんでした。  後日、役員や周囲に対しては、そ の部下がいかにミスを繰り返すかに ついて延々と愚痴をこぼしたのでし た。内省思考を持ち合わせていない A部長は、部下の至らない点を当人 や役員に示すことで、自分の優秀さ をアピールしているつもりでした。 周囲から見れば、A部長のマネジメ ント能力や人望の低さを露呈してい るだけとはつゆ知らず……。 <保留を行い内省する場合>  では、もしA部長が保留をしてい れば、事態はどのように変わったで しょうか。私がコーチとなった場合 を紹介しましょう。  A部長は私に、部下だけでなく、 役員に対する恨みごとを10分程話し 続けました。A部長の頭の中では、 自分は正しいということを証明する ためのストーリーが延々と続いてい るのです。そこで私は問いかけます。 「遅刻した人が注意されるのが普通 なのに、親しい間柄である役員はな ぜA部長を注意したのでしょうか? 役員が公衆の面前で注意するのはよ ほどのことですよね?」  この問いかけがA部長にとって自 己正当化を止め、「自分の何かがお かしいかもしれない」という気づき になりました(①)。続けて私は問 いかけます。 「今誰にでも何でもいっていいとし て、誰に何を一番伝えたいですか?」 <保留しない場合>  A部長は役員から指摘を受けたこ とでさらに頭に血が上り、会議が終 わった後、遅刻したBさんを呼び出 して叱責を続けました。「私に恥を かかせるとは、なんてことをしてく れたのだ。今後の遅刻は絶対に許さ ない」と。 図表1 保留を契機とした内省のステップ 手順 例 ●自分の何かがおかしいかもしれない ●現状を引き起こしているのは  自分かもしれない ●私はこんなに頑張っているのに、  部下は十分な努力をしていない ●Cさんは力不足だ ●本当にそうですか? ●何か現状を変えることについて  自分には何かできませんか? ●部下はあんなに頑張っているのに、  私は十分な努力をしていない ●私はまあまあ頑張っているし、  部下もそこそこ努力している ●私はとても頑張っていて、  部下も十分な努力をしている ●Cさんは優秀だ 仮説「部下はあんなに頑張っているのに、私 は十分な努力をしていない」の場合、この仮 説を証明する事実を見つける。たとえば… ●多くの人はCさんを高く評価している ●部下(Cさん)の勤務時間は  同じ職級の人に比べて長い ●自分は共有すべき情報を共有していない ●部下に対して必要な育成を行っていない、等 ●部下は自分の鏡であり、部下を通じて  自分の成長ヒントが得られる。 ●部下は一緒に成長する仲間である 部下に対して育成のための必要な指導やサ ポートを実施する。その結果仕事ぶりの変 化を詳細に観察し、指導前より改善してい たり、自分の成長のきっかけがつかめれば ⑥の世界観・人間観は自身の血肉になる 第三者とのかかわりから、現 状を引き起こした原因が自分 にあるかもしれないと気づく 自分の中で支配的な 考え・想いを文章化する ②に対して疑問を提起する ②の文章を反転した 文章をいくつか作る ④の仮説に沿って 現実を観察し、 その仮説を証明する 事実を見つける ⑤を踏まえ、 より客観的に事実を 描写した文章を作る 実体験を通じて、 新しい世界観・人間観 について確信を持つ ①成長の可能  性の発見   (気づき) ②世界観・人  間観の見え  る化 ③疑問提起 ④仮説策定 ⑤仮説検証  (反証デー  タ集め) ⑥世界観・人  間観の選択 ⑦世界観・人  間観の定着 ステップ 111-0409_CS2.indd 14 111-0409_CS2.indd 14 11/21/11 1:20:16 PM11/21/11 1:20:16 PM

(16)

15 人 材 教 育 August 2011  すると、A部長の主張は「私はこ んなに頑張っているのに、部下は十 分な努力をしていない。重要なミー ティングに時間通り参加することさ えできないと上司にいいたい」と表 現できることが明確化しました(②)。  そこで私は「本当にそうですか? A部長の主張が本当だとしても、こ の場では一旦事実とは違うかもしれ ないと仮定して考えてみましょう」 と提案し(③)、A部長の主張を反 転させた仮説の文章をいくつか作り ました(④) ⑤では、思考実験として、④で作っ た文章のうち、A部長の主張から最 も遠いものを選びます。A部長は「部 下はあんなに頑張っているのに、私 は十分な努力をしていない」を選び ました。続いて、その仮説を証明する ような事実を探すよう依頼しました。 「ちょっと待って下さい」  ここでA部長が疑問を呈しました。 「実際に私はBさん(部下)より働 いているし、彼のミスをカバーして あげることが何度もあるんです。先 日のミーティングだって、前日Bさ んは資料作成が終わらず、私も一緒 に終電まで残りました。結局私も作 成を手伝いました……」  私は微笑んでこう伝えました。 「質、量ともにBさんは不足してい る、とご覧になっていることはよく わかりました。ちなみに彼はA部長 が見てないところではどんな風なの でしょう? もしくは他の人はどう 評価しているのでしょうか?」  A部長は腑に落ちない感じではあ りましたが、次回のセッションまで とめ、作業の目的やゴールイメージ を共有することを自分に課すように なったのです。 「今回の出来事から得た学びは何な んでしょう?」(⑥)。 「今まで私は部下とは面倒をみる対 象と思っていたのですが、部下は自 分の鏡ですね。自分の至らないとこ ろが如実に出ますね」  A部長は少し沈んだ様子だった。 「至らないところだけではないです よ。A部長の仕事の質にこだわる姿 勢がBさんにも影響していますよ ね?」。私は重ねていった。 「そうかもしれません。お互い成長 のステージは違いますが、切磋琢磨 し、お互いに学び合う関係になりた いですね」。A部長は晴れやかだった。  このように、役員やコーチのかか わりがきっかけとなり、A部長は自 分を支配している世界観・人間観を 客観視しました。「保留」により自 己正当化を止め、無自覚であった自 分の世界観・人間観を初めて自覚し たのです。

保留とは自己否定ではなく

選択肢を広げること

 多くの場合、「保留」は1人で行 うのが難しいものです。筆者はコー チとしてA部長の持つ世界観・人間 観を明らかにし、それを客観視する ことをサポートしました。さらには、 その世界観・人間観を今後も持ち続 けることがA部長にとって有用なの かどうか、じっくりと検討すること (内省)を提案しました。このケース ではA部長は新しい価値観を獲得し、 にBさんのことを周囲の人に聞いて みることを了承してくれました。  この宿題を通じて、A部長は意外 に周りの人がBさんを高く評価して いることを知りました。このことで、 A部長は、「自分に原因があるのかも しれない」と本気で考え始めました。  A部長は「Bさんは力不足だ」と 思っていますが、他の人たちの評価 は違います。こういった自分の考え を反証するデータを集めることで自 己正当化を止めることができます。  A部長は、私との対話を通じて、さ らに冷静に自分を振り返りました。  そうしてA部長は自分の考えがま とまる前に部下に対して細切れの指 令を出すことが多く、指示を出した 後にさまざまな変更を要求すること があることにも気づきました。今回 の会議においても、部下を出席させ るかどうか迷いがあり、明確に指示 を出さなかったことが、A部長の作 業を遅らせ、部下の遅刻を誘発した 可能性があるとも考えました。 「では一概にBさんが『力不足』な わけではないのですね?」、私は聞 きました。「そうですね。それどこ ろか努力が足りないのは私かもしれ ません」、A部長は素直に答えた。 「『私はこんなに頑張っているのに、 部下は十分な努力をしていない』と いう主張についてはいかがですか?」 「ちょっと違いますね。どっちの努 力が多いかはさておき、私にも改善 すべきことが多々あります」と、A 部長は少し恥ずかしそうに答えた。  それ以来、A部長は、部下に指 示を出す際に必ず自分の考えをま 111-0409_CS2.indd 15 111-0409_CS2.indd 15 11/21/11 1:20:19 PM11/21/11 1:20:19 PM

参照

関連したドキュメント

大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

In this paper, first we give a theorem which generalizes the Banach contraction principle and fixed point theorems given by many authors, and then a fixed point theorem for

 当図書室は、専門図書館として数学、応用数学、計算機科学、理論物理学の分野の文

アドバイザーとして 東京海洋大学 独立行政法人 海上技術安全研究所、 社団法人 日本船長協会、全国内航タンカー海運組合会

○講師・指導者(ご協力頂いた方) (団体) ・国土交通省秋田河川国道事務所 ・国土交通省鳥海ダム調査事務所

さらに、93 部門産業連関表を使って、財ごとに、①県際流通財(移出率 50%以上、移 入率 50%以上) 、②高度移出財(移出率 50%以上、移入率

廃棄物処理責任者 廃棄物処理責任者 廃棄物処理責任者 廃棄物処理責任者 第1事業部 事業部長 第2事業部 事業部長

公立学校教員初任者研修小・中学校教員30H25.8.7森林環境教育の進め方林業試験場