1. はじめに
仮設構造物は比較的短い期間だけに存在する構造物で ある。これらの構造物は、通常の恒久建築物や構造物の 設計風速を用いて耐風設計されると、安全ではあるが、 過剰な設計となることは明らかである。一般に、建築基 準法では、建築物は50年の再現期間を想定した基準風速 から計算される風荷重に対して安全であるように設計さ れる。短い期間だけに存在する仮設構造物の設計風速に 対する適切なガイドラインは存在しない。 「風荷重に対する足場の安全技術指針」1)では、その解 説に、「平均存置期間が足場6.2 ヶ月、シート4.5 ヶ月で あるという事実に基づいて足場の設計用再現期間を1年 とするのが適切であるとし、設計風速および風荷重を決 めている」と述べられている。しかし、1年再現期間の 適切性についての根拠は希薄であるように思われる。Boggs and Peterka2)は仮設構造物の設計風速の再現 期間を考慮する論文を発表した。これによると、安全率 を考慮した許容応力度設計法では、恒久構造物と同じ損 傷確率で仮設構造物を設計することが合理的であるとし ている。
本稿では、Boggs and Peterka2)の方法を用いて、あ る気象観測データが適用できる場合の仮設構造物の設計 風速を与え、このときの損傷確率を計算する例を示す。 また、同様の手法で、平成12年建設省告示第1454号に示 された基準風速から換算した仮設構造物の設計風速を提 案する。
2. Boggs and Peterkaの方法
一般に風荷重Qは速度圧q(∝U2)に比例する式で計 算されるので、荷重と風速Uの関係はQ=αU2で与える ことができる。ここで、αは比例定数である。設計風速 をUd、損傷風速をUfとすると、それぞれUd=(Qd/α)1/2、 Uf=(Qf/α)1/2で表される。損傷荷重と設計荷重の比が 安全率Fであるので、F=Qf/Qdで定義される。これより 損傷を引き起こす風速は、式(1)で与えられる。 Uf=F1/2Ud ………(1) 一般の恒久的な構造物では、設計風速は再現期間50年 または100年の基準風速から計算される。基準風速は観 測された地点ごとの年最大風速の極値解析から推測され る再現期待値である。年最大風速は式(2)の極値I型確率 分布に従うことが多いとされている。 Ud=U0+a{-ln[-ln(1-P1d)]} ………(2) ここで、U0とaはデータにフィットするパラメータで、 それぞれ年最大風速のモードと分布の広がりを意味す る。P1d=1/Tdは再現期間Td年の風速Udが1年間に超える 確率である。 損傷風速が1年で超過する確率は、式(2)から式(3)の ように書くことができる。 P1 f=1 exp− −exp 1−( )a Uf−U0 ………(3) 構造物に仮定した存置期間T年で構造物が損傷する確 率は、式(4)で定義される。 Pf=1-(1-P1f)T ………(4)
Boggs and Peterka2)は、上の式を組み合わせて、一 般の構造物の損傷確率を式(5)で表した。 Pfp= Tp TdpF 1/2e U0/a 1 ( )( )−F1/2 ………(5) 式(5)では、恒久構造物への適用を表すために、添字p *1 NISHIMURA Hiroaki:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 建築物理部 耐風試験室 室長 博士(工学)
西村 宏昭*
1Design wind speeds for temporary structures
式(6)を式(5)と等しいとすると、期間Ttで晒される仮 設構造物の再現期間を式(7)で与えることができる。 Tdt= TTt d F−1/2 ×Tdp ………(7) 式(7)は、観察された気象データの特性によらずに、 恒久建築物と同じ損傷確率の仮設構造物の再現期間を与 える。図-3は、安全率をF=1.5としたときの、種々の供 用期間と再現期間を考慮して設計される恒久構造物と同 じ損傷確率を与える仮設構造物の風速の再現期間を示し ている。供用期間が50年の構造物は、供用期間と同じ再 現期間50年の風速を用いて、与えられた安全率を考慮し て設計することができるが、供用期間が短い仮設構造物 は、供用期間と同じ再現期間を用いて設計することはで きないことが分かる。例えば、供用期間が1年の仮設構 造物が、 50年の供用期間で50年再現期間を用いて設計さ れる恒久構造物と同じ損傷確率で設計されるには、少な くとも2年の再現期間を設定しなければならない。 図-4は、50年の供用期間で50年再現期間を用いて設計 される恒久構造物と同じ損傷確率で設計される仮設構造 物の安全率の変化による再現期間を示している。安全率 F=1で許容応力度設計を行う場合、再現期間はその構 造物の供用期間と同じである。これより、再現期間を構 造物の供用期間と同じとした場合、図-2に示すように、 その損傷確率は1である。適切な安全率を選択した場合、 恒久建築物と同じ損傷確率で仮設構造物を設計するため の再現期間が選択できる。安全率の選択は、特に供用期 間が短い場合、再現期間の決定に大きい影響を与える。 なお、仮設足場のような存置期間が1年に満たない場 合の扱いについては注意を要する。観測された気象デー タの年最大風速が主に台風によってもたらされる場合、 構造物の存置期間が仮に6 ヶ月であるとしても、台風シ ーズンを含む場合は台風シーズン中の最大風速が年最大 がPf、TおよびTdに付けられている。 上の手順は長期間の恒久構造物に限定されない。晒さ れる期間Ttと設計風速再現期間Tdの仮設構造物では、式 (5)は式(6)になる。 Pft= Tt TdtF 1/2e U0/a 1 F1/2 ( )( )− ………(6) 図-1と図-2に、恒久構造物の供用期間と風速再現期間 および安全率を仮定して行われる従来の許容応力度設計 における構造物の損傷確率分布を示す。図-1は安全率F =1.5としたときの構造物の供用期間と再現期間の3種類 の組み合わせにおける構造物の供用期間内の損傷確率を 表している。風速の極値分布におけるパラメータの積 U0/aは無次元量で、特性積(Characteristic Product) と呼ばれ、10分間最大平均風速の観測データを解析した 建築物荷重指針・同解説(1993年版)3)(以下、荷重指針) ではU0/a=3 ~ 12.6の範囲にばらつき、それらの平均値 は5.6であったとしている。この特性積の値が大きいと き、モードに近い極値が生じ易く、逆に小さいときには 実際の極値の値が非常にばらつくことを意味している。 U0/a=5.6のとき、供用期間50年の安全率F=1.5で設計 された構造物は、建告1454号で規定している50年再現期 間(Tp=Tdp=50)では約12%、荷重指針で想定している 100年再現期間(Tp=50, Tdp=100)では約5.0%の損傷確 率を考えていることになる。 図-2は構造物の供用期間を50年、風速の再現期間を50 年として安全率を1 ~ 3の範囲で変化させたときの構造 物の損傷確率を示している。安全率F=1、つまり設計 荷重に対して許容応力度ではなく、終局応力度で設計さ れた(言い換えると損傷耐力で設計された)構造物は供 用期間内に確実に損傷する危険性が高いことを示してい る。許容応力度設計では、安全率による構造物の損傷確 率の変化は著しく、再現期間の設定よりも損傷確率に与 える影響は大きいことが分かる。 0.01 0.1 1 4 5 6 7 8 9 10 Pf U0/a Tp=50,Tdp=50 Tp=100,Tdp=100 Tp=50,Tdp=100 図-1 構造物の損傷確率(安全率1.5) 0.00001 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 4 5 6 7 8 9 10 Pf U0/a (years) F=1 F=1.5 F=2 F=2.5 F=3 図-2 構造物の損傷確率(Tp=Tdp=50)
(ただし、γはオイラー定数≒0.577) で 表 す こ と が で き る。 こ れ よ り、1/a=0.57、U0= 16.9m/sが得られる。この場合の特性積はU0/a=9.6であ る。 Y気象台の近くのサイトに供用期間1年の仮設構造物 を建設する場合、Tp=Tdp=50年で、安全率F=1.5を用い て許容応力度設計される恒久建築物と同じ損傷確率で設 計されるためには再現期間Tdt=2年を選ぶ必要がある。 これらの値を式(1)に代入して、 Udt= +U0
{
a ln ln e−[
−(
− T1/dt)]}
=16.9-1.76×ln(1/2) =17.3 m/s を得る。図-2または式(6)から、その損傷確率は4.9%で ある。 風速として記録されるので、その存置期間は1年間に相 当するであろう。3. 仮設構造物の設計例
前章で述べたように、構造物の損傷確率はサイトの気 象データに依存する。ここでは、観測記録から設計風速 を決定する例題4)を引用する。Y気象台で表-1の年最大 風速の記録が得られたとする。この観察記録が極値I型 分布で近似できるとすると、式(3)を積分して、式(8)の 累積分布関数(非超過確率)で表すことができ、これを 図-5に引用する。 F( )=U exp exp− −( − )1a U U0 ………(8) こ の 記 録 か ら、 平 均 値m=17.2m/sと 標 準 偏 差s= 2.25m/sが計算できる。積率法を用いて係数U0と1/aは それぞれ、 1/ a= π 6s U0=m−ga ………(9) 0.1 1 10 100 0.1 1 10 100 Td ( ye ar s) Tt (years) Tp=50,Tdp=50 Tp=100,Tdp=100 Tp=50,Tdp=100 図-3 仮設構造物の風速の再現期間(安全率1.5) 0.1 1 10 100 0.1 1 10 100 Td ( ye ar s) Tt (years) F=1 F=1.5 F=2 F=3 図-4 仮設構造物の風速の再現期間(Tp=Tdp=50) 0 10 20 30 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 0.01 0.1 0.5 2 0.8 5 0.9 10 0.95 20 0.98 50 0.99 100 0.995 200 0.998 500 年 最 大 風 速 ( m/ s) 基準化変量 y=-ln(-ln( ( )) 非超過確率 ( ) 再現期間 (年) 24.3m/s Hazen Gumbel Gringorten 積率法 図-5 Y気象台における年最大風速の確率分布 年 風速 年 風速 年 風速 年 風速 1975 17.0 1985 20.9 1995 18.7 2005 16.4 1976 17.2 1986 16.1 1996 24.4 2006 16.0 1977 17.7 1987 15.3 1997 17.6 2007 18.5 1978 15.7 1988 15.2 1998 16.5 2008 15.3 1979 20.7 1989 15.9 1999 14.9 2009 16.8 1980 15.8 1990 16.4 2000 16.3 1981 17.2 1991 17.0 2001 19.1 1982 21.6 1992 15.9 2002 17.1 1983 14.4 1993 17.6 2003 15.4 1984 14.4 1994 15.5 2004 21.8 表-1 Y気象台における1975年~2009年の年最大風速も小さいと思われるが、主観ではさらに信頼性のある設 計を推奨したい。特に外装材の強風被害はこれまでも多 く報告されている5)ので、より高い安全率を考慮して設 計することが望ましい。恒久建築物と仮設構造物の供用 期間内の損傷確率が同じであることは、仮設構造物の供 用期間が短いので、損傷を頻繁に目にするという配慮も ある。 安全率をF=2と設定すると、仮設構造物の供用期間1、 2および5年の再現期間はそれぞれ3、5および10年を考慮 することになり、この場合の損傷確率は平均で(つまり、 気象データの特性積U0/a=5.6と仮定すると)2%である。 表-3に安全率2で設計される仮設構造物の基準設計風速 を示す。
5. まとめ
比較的短い期間だけに存在する仮設構造物の耐風設計 において、仮設構造物の損傷確率を通常の構造物の損傷 確率と同じにするというBoggs and Peterkaの考えに基 づく風速の再現期間を設定する方法を示し、ある気象観 測データを用いて具体の設計風速の計算例を示した。ま た、建設省告示第1454号に規定される基準風速から、仮 設構造物の供用期間に対応する基準設計風速を示した。 存置期間(供用期間)50年、再現期間50年で許容応力度 設計される恒久建築物の存置期間内の損傷確率と同じ確 率で設計される仮設構造物の存置期間が1年未満の場合、 安全率1.5で設計する際の再現期間は最低でも2年とする ことが推奨される。 本稿では、建設省告示第1454号の基準風速から仮設構 造物の基準設計風速を示したが、元々の気象データの特4. 仮設構造物の設計風速
以上の議論を踏まえて、供用期間50年、再現期間50年、 安全率1.5で設計される恒久構造物と同様の損傷確率を 有するために、仮設構造物の供用期間1、2および5年に おける再現期間はそれぞれ、2、4、および8年とするこ とが推奨される。100年再現期待値と任意の再現期間rの 風速との比を表す再現期間換算係数Rは、荷重指針3)に 次式で与えられている。 R=0.54+0.1ln(r) ………(10) この再現期間換算係数Rは、解析される気象データの 特性積U0/aに依存するが、ここでは簡単のためにいず れの気象データにも適用できると仮定する(つまり、一 律にU0/a=5.6とする)と、平成12年建設省告示第1454 号に示された50年再現期間の風速30 ~ 46m/sの値は、 表-2のように仮設構造物のそれぞれの設計風速に変換し て用いることができる。 表-2に示した仮設構造物用基準設計風速の概算値は、 気象データの特性積の値を一律に仮定したために、設計 風速の値が小さいほど誤差が大きい。したがって、3章 で示したように、建設サイトの気象データに基づいて年 最大風速の解析から仮設構造物の設計風速を決定するこ とが望ましいことは言うまでもない。 ところで、2章で述べたように、供用期間50年の恒久 建築物を、安全率F=1.5、再現期間50年の設計風速で許 容応力度設計をすると、その供用期間中の損傷確率は約 12%もあると述べた。この損傷確率は、材料強度の余裕 度の配慮や設計風速がクリティカルな風向で生じるとは 限らないという事実によって、実際の損傷度はこれより 仮設構造物の基準設計風速(m/s) 供用期間Tt=1 Tt=2 Tt=5 建告1454 号 の基準風速 (m/s) 再現期間r=2 r=4 r=8 30 19.6 21.9 24.1 32 20.9 23.3 25.7 34 22.2 24.8 27.3 36 23.6 26.2 28.9 38 24.9 27.7 30.5 40 26.2 29.2 32.1 42 27.5 30.6 33.7 44 28.8 32.1 35.3 46 30.1 33.5 36.9 表-2 仮設構造物の基準設計風速(安全率1.5,損傷確率12%) 仮設構造物の基準設計風速(m/s) 供用期間Tt=1 Tt=2 Tt=5 建告1454 号 の基準風速 (m/s) 再現期間r=3 r=5 r=10 30 20.9 22.6 24.8 32 22.3 24.1 26.5 34 23.7 25.6 28.1 36 25.1 27.1 29.8 38 26.5 28.6 31.4 40 27.9 30.1 33.1 42 29.3 31.6 34.7 44 30.7 33.1 36.4 46 32.1 34.6 38.0 表-3 仮設構造物の基準設計風速(安全率2,損傷確率2%)性は地方によって異なる。建設地の気象データの解析結 果を用いると、仮設構造物のより実際的な設計風速と損 傷確率を求めることができる。
【参考文献】
1) 仮設工業会:風荷重に対する足場の安全技術指針,2004. 2) Boggs D.W. and Peterka J.A. : Wind speeds for design of
temporary structures, 10th ASCE Structures Congress, 00.800-803, 1992. 3) 日本建築学会,建築物荷重指針・同解説,1993. 4) 社団法人日本鋼構造協会:風を知り風と付き合う−耐風設 計入門−,松井正宏:「2.2.4 観察記録から再現期間100年の 風を推定してみよう」,平成23年3月 5) 日本建築学会:2004年の強風被害とその教訓−強風被害が 残したもの−,2006年3月 【執筆者】 *1 西村 宏昭 (Nishimura Hiroaki)