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3軸加速度計を用いた高齢者の身体活動評価に関する方法論的研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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背景と目的 日本の高齢者人口は激増しており、65 歳以上の高齢者 人口は 3,461 万人で、総人口に占める割合は 27.3%と共 に過去最高となっている。高齢化の進展は、生活習慣病 など様々な疾病の発症率を高くする。一方、運動の実施 身体活動には、全死亡率や生活習慣病やその他の疾病を 減少させ、生活の質を高める効果がある。 高齢者の身体活動と健康との関連に関する疫学研究 の実施において、身体活動量を正確に測定することは重 要である。そのためには、主観的なアンケートの不備を 補うために、加速度センサー内蔵活動量計(以下、「加速 度計」)などを用いて客観的に評価する必要がある。加速 度計は、自由生活下での身体活動や座位行動を客観的に 評価するツールであり、近年大規模な集団を扱う疫学研 究においても利用されている。特に高齢者を対象とした 日常の身体活動調査では、自己申告アンケートは記憶バ イアス等が生じる可能性が高いことから、客観的評価法 が用いられる傾向にある1)。 加速度計による身体活動量を評価する際、適切な測 定・評価手順に従う必要がある(以下、装着コンプライ アンス)。例えば、データ採用の条件として、装着は 1 日 10 時間以上で、かつ 4 日間以上という条件が採用基準 とされている。この他に3 日間の装着でも、身体活動の 採用基準として妥当性はあることが報告されている 2) しかしながら、高齢者は日常生活活動としては中高強度 の活動より不規則な低強度の活動と座位行動の頻度が高 い 3)。低強度身体活動と座位行動は、日々の変動が大き いため、精確に評価するには多くの採用日数が必要であ る。不採用となる例数が増えると、集団の代表性が損な われる可能性があり、それらは選択バイアスとなる。し たがって、多くのデータを採用するため、対象者の装着 コンプライアンスに関連する要因を明らかにすることが 重要である。そこで本研究では、加速度計の装着コンプ ライアンスに関連する要因を検討することを目的として 実施した。さらに、平日と休日で身体活動状況が異なる 可能性があることから、いくつかの先行研究では平日と 休日を分けて採用条件を設定している。特に、採用条件 として装着日数を3 日間と設定した場合でも、その 3 日 間の測定日には、必ず一日の休日を含めることが推奨さ れている 2)。このことから、高齢者においても、休日の 装着状況を明らかにすることが必要と考えられる。 これらの課題に関して、欧米からの報告があるものの、 日本人を対象とした報告は極めて少ない。身体活動水準 は国際間で大きく異なることが報告されていることから、 日本人を対象とした研究は必須である4)。 そこで本研究では、高齢者における加速度計の装着コ ンプライアンスに関連する要因を検討し、装着状況を明 らかにすることを目的とする。 方法 1)研究デザイン 本研究は福岡県糟屋郡篠栗町との共同研究で、5 年間 の前向き研究である「地域における効果的な介護予防対 策に関する前向き研究」のベースライン調査のデータを もとに行われた横断研究である。 2)対象者 本研究の対象者は、福岡県糟屋郡篠栗町に居住する高 齢者で、2011 年 1 月末時点で 65 歳以上の要介護認定を 受けていない4,979 名である。このうち、調査開始前に 町外へ転出、もしくは死亡した 66 名を除外した 4,913 名に事前アンケートを含む初年度調査資料が郵送された。 調査票の郵送後、篠栗町内の公民館・集会所等で 2011 年5 月から 7 月にかけて開かれた測定会に参加するなど の応答が得られたのは、2,629 名であった(応答率女性 55.2%、男性 43.6%)。パーキンソン病および認知症を有 する者、まだ認知機能評価得点が 18 点以下、および回 答に欠損値がある者を解析対象者から除いた。解析対象 者は1,869 名であった。 3)測定項目 ①身体活動量の測定 身体活動量の測定には、3 軸加速度センサー内臓活動 量計(Active Style Pro 、HJA-350IT、オムロンヘルスケ ア株式会社。以下、加速度計と略す)を用いた。加速度計 は体力測定会への参加時に十分な説明を行った後に装着 してもらい、1 週間後に加速度計を郵送で返却してもら った。この加速度計は、身体の動きと強度と変化を捉え

3 軸加速度計を用いた高齢者の身体活動評価に関する方法論的研究

キーワード:3 軸加速度計,コンプライアンス,身体活動,高齢者,方法論 行動システム専攻 鄭 文利

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て、様々の動きを認識することで、通常な歩行の活動だ けでなく、掃除、洗濯などのさまざまな生活活動と軽強 度の身体活動量も精度よく評価できる利点を有している。 測定期間は連続の7 日間として、風呂に入る時間と睡眠 時間を除いて起床時刻から就寝時刻までの活動量を測定 した。データ記録の間隔は1 分間とした。本研究では加 速度計の採用条件が10 時間以上および装着日数は 4 日 以上と定義した。身体活動量を強度によって分類された。 身体活動水準は活動強度1.5 メッツ以下の活動を座位行 動とし、活動強度 1.6-2.9 メッツの活動を低強度の身体 活動とし、活動強度3.0 メッツ以上の活動を中高強度の 身体活動量とした。 ②装着コンプライアンス 加速度計による身体活動量を評価する際、適切な測 定・評価手順に従うことを装着コンプライアンスと定義 した。採用条件としては、1 日の装着時間が 10 時間以 上でかつ4 日以上の有効日数を満たしている場合を装着 コンプライアンス良好群にした。 ③他の項目 対象者の社会人口学的要因(年齢、性別、教育年数、 一人暮らし、主観的経済状況、仕事の有無)、身体と心理 的健康(肥満、転倒、転倒恐怖、運動制限、手段的日常 生活活動、知的行動性、社会的役割、主観的健康、心理 的ディストレス、多疾病罹患、社会孤立、認知機能)、行 動的要因(趣味の有無、喫煙の有無、飲酒の有無、買い 出すあるいは散歩する状況、習慣的運動、能動的交通手 段)は、自記式質問紙法よりデータを得た。 4)解析方法 本研究の全ての統計解析は SAS ver.9.3 を用いた。最初 に対象者の特性について、社会人口学的要因、身体と心 理的健康、行動的要因および平日と休日の装着状況で、 カテゴリー変数は割合で示した。加速度計装着コンプラ イアンスに関連する要因を検討するため、ロジスティッ ク回帰分析を用いた。すべての要因を調整因子とした。 休日の装着状況で、連続変数は平均値で示し、カテゴリ ー変数は割合で示した。休日の平均装着日数の差を比較 するため、傾向検定を行った。休日に装着した対象者の 割合の差の比較するため、χ2 検定を行った。統計学的有 意水準を 5%とした。 結果 1) 対象者の装着日数の分布 1,869 名の解析対象者では、装着時間が 10 時間以上 の日を有効日とした対象者の装着日数の分布を示した。0 日の対象者は 4%、1 日のみの対象者が 3%、2 日間の対 象者が 3% 、3 日間の対象者が 4% 、4 日間の対象者が 5%、5 日間の対象者が 7%、6 日間の対象者が 11%、7 日間以上の対象者が 63%であった。そのうち、装着コン プライアンス良好群(≧4 日)の割合は 85.8%(n=1,603) であった。 2)対象者特徴 表1は解析対象者(n=1,869)の人口社会的要因、 身体と心理的健康要因また行動的要因の特徴を示した。 解析対象者における、装着コンプライス良好群とコンプ ライアンス不良群の男女比は、男性38.3%、女性 61.6% と男性66.5%、女性 33.5%であった。両群間で 75 歳以 上の対象者は38.4%対 48.1%であった。装着コンプライ アンス良好群(有効日数 4 日以上)は装着コンプライア ンス不良群より、女性、75 歳以下の者、転倒経験がない 者、手段的日常生活活動制限がない者、知的能動性制限 がない者、社会的役割制限がない者、主観的健康感がい い者、心理的ディストレスがない者、興味ある者、能動 的交通手段を使う者、および飲酒と喫煙習慣ない者が有 意に多かったと観察されました(P<0.05)。 3)高齢者における加速度計の装着コンプライアンスの 関連要因 表2 は高齢者における加速度計の装着コンプライアン スの関連要因を示している。そのうち、女性は、装着コ ンプライアンスが良好であった可能性が男性より 3.38 倍 ぐ ら い 高 か っ た[odds ratio (OR): 3.38 、 95% confidence interval (CI): 2.46-4.62]。75 歳以下の者は、 装着コンプライアンスが良好であった可能性が 75 歳以 上 の 者 よ り 1.47 倍 ぐ ら い 高 か っ た (OR: 1.47 、 95%CI:1.10-1.95)。心理的ディストレスがない者は、装 着コンプライアンスが良好であった可能性が心理的ディ ストレスある者より1.56 倍ぐらい高かった (OR: 1.56、 95%CI: 1.18-2.08)。知的能動性制限がない者は、装着コ ンプライアンスが良好であった可能性が知的能動性制限 のある者より1.66 倍ぐらい高かった (OR: 1.66、95%CI: 1.24-2.22)。認知機能障害がない者は、装着コンプライ アンスが良好であった可能性が認知機能障害のある者よ り2.4 倍ぐらい高かった (OR: 2.40、 95%CI: 1.52-3.79)。 活動的交通手段を使う者は、装着コンプライアンスが良 好であった可能性が使わない者より 1.45 倍ぐらい高か った (OR: 1.45、95%CI: 1.10-1.92)。(P<0.05)。 4)対象者の休日装着状況 表 3 は装着日数に対する休日の日数を示している。1 日、2 日、3 日、4 日、4 日、5 日、6 日、7 日以上の装着 日数に対して、休日平均日数はそれぞれが 0.45 日、0.64 日、0.73 日、1.05 日、1.26 日、1.59 日、1.97 日であった (P<0.05)。 4 日以上の装着日数では休日が平均 1 日以

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上であった。 表 4 は休日に装着した人数と割合を示した。1 日、2 日、3 日、4 日、4 日、5 日、6 日、7 日以上の装着日数に 対して、休日に装着した人数と割合はそれぞれ 26 名 (44.8%)、29 名(52.7%)、46 名(59%)、79 名(79.8%)、 105 名(80.0%)、187 名(95.4%)、1,176 名(100.0%)で あった。休日に装着した人数と割合には有意差が認めら れた(P<0.001)。すなわち、装着日数が少ない群は休日 の装着率が低下していた。 図1 は表 4 に基づいて、装着コンプライアンス良好群 (≧4 日)と装着コンプライス不良群(<4 日)の休日 に装着した対象者の割合の比較を示した。それぞれ38%、 97%であった。装着コンプライアンス群は非装着コンプ ライス群に比べて、休日に装着対象者の割合は有意に多 かった(P<0.001)。 <4日 (n=266) ≥4日 (n=1,603) p 値 社会人口学的要因 男性, n (%) 177 (66.5) 614 (38.3) <.0001 年齢, ≥ 75 yr, n (%) 128 (48.1) 615 (38.4) <0.05 教育年数, ≥ 13year, n (%) 45 (16.9) 270 (16.8) 0.98 一人暮らし, n (%) 36 (13.5) 212 (13.2) 0.89 主観的経済状況 (very poor/poor), n (%) 98 (36.8) 644 (40.2) 0.30 仕事有, n (%) 59 (22.2) 285 (17.8) 0.09 身体的健康要因 BMI, ≥ 25kg/m2 , n (%) 71 (26.7) 402 (25.1) 0.58 転倒, n (%) 67 (25.2) 312 (19.5) <0.05 転倒恐怖, n (%) 106 (39.9) 639 (39.9) 1.00 運動制限, n (%) 76 (28.6) 353 (22.0) <0.05 手段的日常生活活動制限あり, n (%) 41 (15.4) 137 (8.6) <.0001 知的行動性制限あり, n (%) 110 (41.4) 463 (27.2) <.0001 社会的役割制限あり, n (%) 129 (48.5) 644 (40.2) <0.05 心理的健康要因 主観的健康感 (Poor/fair), n (%) 68 (25.6) 318 (19.8) <0.05 心理的ディストレスあり ( (K6>5), n (%) 104 (39.1) 459 (28.6) <.0001 多疾病罹患(>1), n (%) 129 (48.5) 757 (47.2) 0.70 社会孤立 (LSNS<12), n (%) 58 (21.8) 294 (18.3) 0.18 認知機能障害あり(MMSE<24), n (%) 35 (13.2) 78 (4.9) <.0001 行動的要因 趣味有, n (%) 212 (79.7) 1350 (84.2) 0.07 習慣的運動, n (%) 162 (60.9) 981 (61.2) 0.93 買い出すや散歩する状況 ≥ 5 回/週, n (%) 159 (59.8) 1031 (64.3) 0.15 能動的交通手段 (cycle/walk), n (%) 148 (55.6) 1094 (68.3) <.0001 飲酒者, n (%) 139 (47.7) 632 (39.4) <.0001 喫煙者, n (%) 33 (12.4) 118 (7.4) <0.05 表 1.解析対象者の特徴

Statistical significance based on chi-square tests , as appropriate.

Odds ratio# 95% 女性 (Ref: 男性) 3.38 2.46-4.62* 年齢<75 yr (Ref: ≥ 75 yr) 1.47 1.10-1.95* 一人暮らしではない, (Ref: 一人暮らし) 0.72 0.48-1.09 仕事ない (Ref: 仕事有) 0.77 0.54-1.08 心理的デイストレスない (Ref: 心理的デイストレスあり) 1.56 1.18-2.08* 運動制限ない (Ref: 運動制限あり) 1.34 0.97-1.85 知的能動性制限ない,(Ref: 知的能動性制限あり) 1.66 1.24-2.22* 認知機能障害ない (Ref: 認知機能障害あり) 2.40 1.52-3.79* 飲酒者ではない (Ref: 飲酒者) 0.81 0.60-1.09 活動的交通手段 (Ref: 非活動的交通手段) 1.45 1.10-1.92* *P<0.05 #

Odds ratios are mutually adjusted.

装着コンプライアンス 表2. 加速度計装着コンプライアンスの関連要因

休日平均日数(日) 0.45 0.64 0.73 1.05 1.26 1.59 1.97 <0.05

Data are represented as n (%).

* Statistical significance based on trend tests, as appropriate.

6 日 (n=196) 7日以上 (n=1,176) p値* 表 3.装着日数における休日の平均日数 1 日 (n=58) 2 日 (n=55) 3 日 (n=78) 4 日 (n=99) 5 日 (n=132) 図1装着コンプライアンス良好群とコンプライス不良群で休日に装着率 考察 本研究の目的は、地域在住高齢者における加速度計の 装着コンプライアンスの関連要因の検討に加え、速度計 の休日装着状況を分析することであった。加速度計の装 着コンプライアンスの関連要因に関しては、欧米の成人 での研究において既に報告されているが、高齢者を対象 とした研究が極めて少なく、かつ日本では皆無である。 本研究では、まず地域在住高齢者における加速度計の 装着状況を検討した。加速度計の装着コンプライアンス の基準として、1 日の装着時間が 10 時間以上および装着 日数は4 日以上を採用した。その結果、対象者の 85.8% (n= 1,603)は装着コンプライアンス良好群であった。 アメリカの成人を対象に客観的測定された身体活動を検 討する研究で、加速度計装着コンプライアンスは74%で あった。Troiano らは、加速度計によって測定された身 体活動を検討した研究で、女性参加者の装着コンプライ アンスが68%であることを報告した。縦断研究で、個人 が複数回繰り返し測定されるため、拒否、転居などによ り追跡不能になる群が大きくなると、加速度計の装着コ ンプライアンスは縦断研究において低下することが報告 されている。対象者の装着コンプライアンスが低い場合 には、不採用のデータ数が増えることから、対象集団の 代表性が損なわれる可能性がある。 本研究では、加速度計の装着コンプライアンスの関連 要因を分析した。女性のほうは装着コンプライアンスが 良好であった。成人対象者の装着コンプライアンスは男 性のほうが高いことが報告されている。この違いについ て、本研究の対象者は高齢者のため、成人を対象とした 先行研究とはそもそも対象が異なること。また、厚生労 働省調査によると、日本の女性の平均寿命は86.83 歳と 3 年連続世界一。女性の方が男性よりも長寿である傾向 がある。男性より女性の方が医療機関を受診する頻度が 高い、食事で栄養バランスに注意したり、アルコールの 摂取が少なかったり、自分の生活習慣を見つめ健康に気 を遣う傾向がある。その傾向が、女性は男性より健康に 気を遣う傾向があり、加速度計の装着コンプライアンス も高いと考えられた。 また、本研究では 75 歳以下の対象者は装着コンプラ <.0001 7日以上 (n=1,176) 4 日 (n=99) 5 日 (n=132) 6 日 (n=196)

Data are represented as n (%).

*Statistical significance based on chi-square tests, as appropriate. 表 4. 休日に装着した人数とその割合 1 日 (n=58) 2 日 (n=55) 3 日 (n=78) p値* 79 (79.8) 105 (80.0) 187 (95.4) 1,176 (100.0) 休日装着人数(名) 割合(%) 26 (44.8) 29 (52.7) 46 (59.0)

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イアンスが良好であった。年齢層は52.6±17.2 歳の対象 者群では、年齢が高いほど、装着コンプライアンスが良 好であった。この点については、高齢者には 75 歳以上 になると、認知機能障害のリスクが高くなって、加速度 計の装着を忘れ、装着手順を間違う可能性が高いから、 75 歳以下の者は装着コンプライスがより高いと考えら れた。 また、自転車と歩行での活動的交通手段を使う対象者 は使わない者より装着コンプライアンスが良好であった。 先行研究においても歩行活動が多い者は装着コンプライ アンスが高いとする報告があった。本研究では歩行活動 以外、自転車での交通手段を使う者は装着コンプライア ンスが良好であることを初めて示した。一方、18 歳から 74 歳までの対象者においては、歩行での活動的交通手段 と装着コンプライアンスとは関連ないとの報告もある。 結果の不一致の原因は、現時点では不明である。 さらに、本研究では、認知機能障害がない者は認知機 能障害がある者より、装着コンプライアンスが良好であ った。アメリカの高齢者でも同様の結果が得られている。 このことから、認知機能制限がある可能性が高い高齢者 においては、加速度計の装着を忘れ、装着手順を間違う 可能性が高いことが考えられた。 本研究では、装着コンプライアンスに心理的ディスト レス、知的能動性が関連することを初めて示した。高齢 者には、心理的ディストレスがない者は心理的ディスト レスがある者より、加速度計装着コンプライアンスが良 好であった。これまでにも、健康的な対象者はコンプラ イアンスが良好であることが報告されている。このこと から心理的ディストレスは、加速度計の装着意欲を低下 させる可能性があると考えられる。さらに、知的能動性 に制限がない者は知的能動性に制限がある者より、装着 コンプライアンスが高かった。知的能動性の低い者では、 認知機能低下のリスクが高い可能性が示唆されたため、 加速度計の装着忘れや、装着手順を間違う可能性が高い ことが考えられた。高齢者を対象とした研究で加速度計 を用いる場合、より操作手順を簡素化し、より短い装着 期間にすることで測定方法を最適化する必要があると考 えられた。 研究者は、加速度計を配布する際に、加速度計を装着 する対象者、特に装着コンプライアンスが低いと予期さ れる対象者に対して、より多くの特別指示を提供したり、 謝礼を提供したり、あるいは定期的装着注意を与えるな ど、より適切な戦略を提唱できる。よって、本研究の成 果は加速度計の装着コンプライアンスの向上に有益な情 報をもたらすものと考えられた。 本研究では、装着日数が多い群は休日装着率が有意に 多いことも観察された。特に、装着コンプライアンス良 好群は装着コンプライス不良群に比べて、休日での装着 対象者は有意に多かった。装着コンプライス不良群は約 半分以上(62%)の対象者が休日に装着しておらず、装 着コンプライス不良群の休日装着率が有意に低かった。 対策としては、研究指導者は調査に参加する対象者に休 日に装着するよう指示する必要が示唆された。 まとめと今後の展望 本研究は初めて、日本人高齢者における加速度計の装 着コンプライアンスの関連要因を明らかにした。また、 加速度計の装着状況を明らかにした。 本研究の限界として、まず特定の地域に在住する高齢 者を対象としたので、その結果を全国的に一般化するこ とは難しい。今後、同一コホート内での追跡研究を実施 し、本研究と一致した結果が得られるかどうかを検討す る必要がある。 次に、活動量計の装着コンプライアンスに関連する要 因を明らかにしたが、装着コンプライアンスを如何にし て向上するかに関しては課題として残した。装着コンプ ライアンスを向上するため、対象者に加速度計の装着を 依頼する際の効果的なマニュアルの開発と検証は今後の 課題である。 最後に、欧米において青少年や成人を対象とした加速 度計採用条件の妥当性研究は報告があるが、高齢者を対 象としての報告は極めて少なく、日本人を対象とした採 用条件妥当性を検証したのは本研究が初めてである。身 体活動と座位行動水準は国際間で異なることが報告され ていることから、日本人を対象とした研究は重要なもの となろう。本研究の結果から、日本人高齢者を対象とし た場合、10 時間以上、4 日間の採用条件は再検討する必 要があると考えられる。大部分の高齢者は仕事してない から、4 日以下でも採用できるのを検討するため、同一 対象者に1 日、2 日、3 日、4 日間、もしくは平日と休日 を分けて加速度計を装着させて身体活動と座位時間の水 準を比較する。これらの課題を実現するため、今後より 大規模で、精密な研究デザイン、および複数の測定回数 での調査を行うことが望まれる。 主要引用文献

1) Mâsse L.C, et al. Med Sci Sports Exerc. S544-S554. 2005. 2) Kowalski K, et al. IJBNPA. 9-148. 2012.

3) Inoue S, et al. J Epidemiol. 20(6): 446-452. 2010. 4) Paul H, et al. Gait Posture. 8912-917. 2013.

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