建築設計実務における環境配慮型技術のイノベーションプロセスに関する研究 −グリーンビルディング設計支援システムの開発を目指して− [ PDF
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(2) 3 建築設計実務における環境配慮型技術の取組. も多く、その理由は、 「コスト」(13, 81%, 全体では 24, 58%) が最. (1) 採用された環境配慮型技術(表 3):分析対象とした 14の事. も多い。 「エネルギー消費の削減」は採用された技術でも最も. 務所では、合計で 123の環境配慮型技術が採用されていた。こ. 多くなっており、 他の原則と比較しても最も積極的に検討され. れらを GBの原則で分析すると、 「エネルギー消費の削減」に関. ている技術といえる。. わる技術が最も多く( 47, 32%) 、次いで「エコマテリアルの採. 4 採用された環境配慮型技術の検討プロセス. 用」( 20, 16%)「敷地周辺の自然環境、生態系の保全」 ( 12, 9%) 、. 4-1 分析方法(表 5):本研究では、イノベーションを、 「設計. 「建築の長寿命化」 ( 12, 9%) となっている。表 2に示した①最も. 者 あ る い は 集 団 の ア イ デ ア 創 出 に 始 ま り 、技 術 と し て 構. 重視されるべき項目、 ②最も積極的に取り組んでいる項目の結. 想 さ れ 、最 終 的 に そ の 技 術 が 建 築 設 計 実 務 に お い て 最 適. 果を反映しており、特に実務では「エコマテリアルの採用」が. 選 択 さ れ る 一 連 の プ ロ セ ス 」と定義し、イノベーションプ. 多く取り組まれている。 これは製品メーカー等から情報が直接. ロセスを、 「アイデアの創出」 ・ 「技術の構想」 ・ 「技術の最. 的に得られるため容易に採用されていると考えられる。一方、. 適 選 択 」の 3つの段階に区別する。 「アイデアの創出」は、既. 「運用段階のマネジメントシステムの確立」 、 「建設副産物の削. 存にない全く新しい考えを発想すること、 「技術の構想」は、発. 減」 、 「建設副産物のリサイクル化」の採用数は少なく、特に「建. 想した新しい考えや既成の技術を再構成して新たな技術を構想. 設副産物の削減」 「建設副産物のリサイクル化」の技術は、各. すること、 「技術の最適選択」は、新たな技術や既成の技術か. 事例で技術内容が異なっており、 現時点では技術が模索されて. ら、設計の与条件に適合した技術を選択し、採用するというプ. いる段階と考えられる。. ロセスである。. (2) 採用されなかった環境配慮型技術(表4):計画・設計段階に. 本研究では、調査から採用技術の検討プロセスを把握し、イ. 検討されたが結果的に採用されなかった環境配慮型技術は合計. ノベーションプロセスによって 3 つの技術に分類した( 表 5) 。. で 33であり、このうち「エネルギー消費の削減」(16, 48%) が最. 本項では、取組に積極的な 5つの事務所( 表 6) と計 8つの採用 技術を抽出し、採用にいたるまでの検討プロセ. 表 3 建築設計実務で採用された環境配慮型技術 環境配慮型設計の原則. 施設用途:専用住宅( 57). 施設用途:教育施設・事務所・集合住宅・ 体育館・公文書館・宿泊施設( 66). 断熱( 3) , 窓の断熱( 3) , 日射遮蔽( 3) , 自然通 風( 2) , 床暖房( 2) , 外断熱 屋上緑化, 自然採 エネルギー消費の削減(47) 光, 換気, 通風を考慮したデザイン, 深夜電 力. 外壁断熱( 3) , 断熱( 2) , 自然採光( 3) , 日射遮蔽 ( 3) , 自然通風( 2) , 全熱交換器( 2) , 太陽光発電 ( 3) , 壁面緑化, 太陽熱利用, クーチューブ, コ ジェネレーション, 氷蓄熱, 外気冷房, 深夜電 力, 照明の適正区分. 水消費の削減、水循環シス 井戸水の利用 テムの確立(9). 雨水利用( 3) , 中水利用( 2) , 水循環, 空調熱源 機器の空冷化, 節水器具. ステンレス管の使用, モジュール寸法を用 RCガラの削減, ラス型枠の使用 いた設計 建築副産物のリサイクル化 リサイクル容易な材料, 屋根瓦の再利用, 古 リサイクル材, RCガラの再利用 材の再利用 (5) 敷地内緑化( 3) , 既存樹木の保全( 2) , 透水性舗 敷地周辺の自然環境、 敷地内緑化( 2) , 既存樹木の保全 装( 2) , 雨水流出抑制, 自然水路の活用 生態系の保全(12) 建築副産物の削減(4). エコマテリアルの採用(20) 建築物の長寿命化(12). 自然素材( 9) , リサイクル材, F1以下合板. リサイクル材( 4) , 自然素材( 3) , 地元産材( 2). 燻煙処理材( 2) , 大断面部材, 白蟻対策, 改修 部材の劣化防止( 2) , 耐力強化, 改修容易な建 容易な構造, バリアフリー, フレキシブルな 具, 長寿命に対応し得るデザイン プラン. 室内環境(インドアエアクロリティ) 珪藻土( 3) , 人体に害の少ない建材( 3) , F1以 人体に害の少ない塗料・建材( 2) の安全性(11) 下合板( 2) , 自然塗料 運用段階のマネージメント メンテナンス( 2) システムの運用データ収集 システムの確立(3). 環境配慮型技術. OAフロア(ガラス廃材の再利用), 天井板 建築副産物のリサイクル化 の再利用, 建築副産物の削減, 既存蔵のリ (2) サイクル 敷地周辺の自然環境、 生態系の保全. 13. 事務所で、設計事例は町営宿泊施設の建替であ る。施主の要望である『省エネルギー対策』に 対し、事務所は、太陽光発電及び二重屋根を提 案した。本事例では、予算が少なく、設計期間 が短いことで、設計者は質を落とさずに設計す るという課題に取り組んでいる。[太陽光発電. 果、太陽光発電が選択された。当初、設計者は 2 11 1. たが、予算が厳しいことから、施主が採用さえ できれば最低限の性能であってもかまわないと. 3. 2 1. 要望し、性能が最小限に抑えられて採用される. 11. 結果となった。また、曲面の二重屋根にパネル. 11. を組み込む方法を検討した際に、曲面パネルは. -. コストが高いことと景観的には目立たないとい. F0合板, VOCの少ない塗料, リサイクル材, 再生タイル, エコマテリアルの採用(8) オレフィン系ビニルクロス, 脱PCVのタイルカーペット, 地元産杉, 無農 薬畳 建築物の長寿命化. [設計事例の概要]技術職9名の中規模意匠設計. 高い性能を設定し、コストの調整を検討してい. 水消費の削減、水循環シス 雨水利用( 2) , 雨水循環システム, 中水利用 テムの確立(4) 既存蔵のリサイクル. (1) A社/採用技術:太陽光発電. 種類の技術をコストの比較によって検討した結. 判断理由. ペアガラス( 2) , パッシブソーラ, 井水利用 による( 空調) ヒートポンプシステム, 庇・ バルコニー・縁側、屋上緑化, 外断熱, 遮 エネルギー消費の削減(16) 熱のペアガラス, 太陽熱利用, 太陽光発電, セルロースファイバー, 昼光センサー, 通 風窓, 二重サッシ, 氷蓄熱. 建築副産物の削減(1). 4-2 技術事例の検討プロセス. の検討内容] 『省エネルギー対策』に対して、数. 表 4 建築設計実務で採用されなかった環境配慮型技術 環境配慮型設計の原則. スを整理する。. う設計者の判断から、直にパネルを組み込む方. 3 11. 6. 式を選択したが、結果的に二重屋根の機能を損. -. 室内環境(インドアエアクロリティ) 珪藻土 の安全性(1). 1. 運用段階のマネージメント メンテナンスについての資料 システムの確立(1). 1. コスト. デザインコンセ プトに合わない. 目標性能を満足 しない. 施主の要望と 合わない. 性能が不明確. 検討する時間が 不足. 34- 2. なうことになった。これは技術の与条件が厳し いものであったために、検討が十分になされず に採用され、技術本来の効果が十分に活かされ.
(3) (3)C社/採用技術:燻煙処理された国産材. なかった事例といえる。. [設計事例の概要]技術職 3名の小規模意匠設計事務所で、. (2)B社/採用技術:部材の劣化防止策 [設計事例の概要]技術職10名の中規模意匠設計事務所で、. 設計事例は新築の専用住宅である。施主は『民家のイメー. 設計事例は築34年共同住宅の改修である。施主の要望はコ. ジで』という要望を出した。打合せで徐々に施主の環境へ. ストのみであった。設計者は既存建築の再生( 長寿命化) を. の関心の高さがわかったと設計者は述べている。設計者は. 主要テーマとして設計を行っている。[部材の劣化防止策. 従来から民家の再生や古材利用を積極的に取り組み、民家. の検討内容]築年数の経過でRCの強度が増していることか. 再生を進める団体を運営したり、林業組合等のメーカーと. ら、この強度を維持するために部材の劣化を防ぐ技術が検. 交流を持っている。 [燻煙処理された国産材の検討内容]設. 討された。設計者は、従来の部材に直接張られるタイルで. 計者は欠陥住宅の調査を行った経験があり、木材のひび割. は、ひびから雨水が進入し、部材を劣化させることを考慮. れに対し施主からのクレームが多いことを認識していた。. し、タイルに当たる保護材を部材から切り離して接合する. 設計者は人工乾燥、自然乾燥、燻煙処理された各産地の木. ことによって部材を雨水から護る綱板の膜を考案した。ま. 材を比較検討し、床暖房を使った場合の影響を考慮した結. た、既成の製品を使用するとコストが高くなることから、. 果、乾燥によるひび割れが少ない燻煙処理材を選択した。. 業者に依頼して製造することにより、安価に抑えた技術を. 燻煙処理は、伝統的な住宅で、木材が囲炉裏の煙によって. 開発することができた。日頃、設計者はコストを抑えるた. 燻されることで細胞が変化し、乾燥して長持ちする性質を. めに、サッシ等の開発を行っており、本事例でも既製品を. 現代に再現した技術である。設計者は日頃から木材に関す. できるだけ使用せず、設計者が自ら再構成した技術を開. る情報収集を行っており、性能による比較検討で伝統を活. 発・採用することによって、コストを抑えつつ性能を満足. かした技術を再評価し、採用した事例といえる。. させる取組を行っている。. (4)D社/採用技術:膜屋根・吸音膜. 表 5 環境配慮型技術のイノベーションプロセス 環境配慮型技術のイノベーションプロセス※1. 該当技術. 技術分類. 小分類. アイデアの創出. 技術の構想. 技術の最適選択. −. −. ○. 既存技術の選択. −. ○. ○. 既存技術の再構成. ○. ○. ○. 技術例. 近代技術の選択 ( A社) 太陽光発電 ( D社) 膜屋根 近代技術の改善 ( B社) 部材の劣化防止策 ( D社) 吸音膜 伝統技術の再生 ( C社) 燻煙処理 ( E社) 地元産材. 新技術の創造※2 − ※2 本調査では該当する技術例を把握できなかった. ※1 各技術分類が該当するプロセスに○. −. 表 6 建築設計実務で採用されなかった環境配慮型技術 ( 技術事例として検討プロセスを整理した技術をゴシック体で示し、覧に色を付けた) 事 務 所 及 び 設 計 事 例 の 概 要. 設計事務所名 総売上高(H11). A社( 宮崎市・技術職8名) 1億∼5億円. B社( 大分市・技術職10名) 5千万∼1億円. C社( 福岡市・技術職3名) 2千万∼5千万円. D社( 福岡市・技術職15名) 1億∼5億円. E社( 那覇市・技術職220名) 5億円以上. 実施度 設計体制. 特定の設計に対して実施 「内部協力」. 全ての物件において実施 「ガイドライン」. 全ての物件において実施 「外部協力」. 全ての物件において実施 「担当者裁量」. 全ての物件において実施 「地域独自」. 所内で専門チームを組織 外部の専門家と協力. 所内でガイドラインを作成 外部の専門家と協力 物件ご 物件ごとに担当者の裁量 とに担当者の裁量に任せる に任せる. 沖縄の地域特性への配慮と して社内ノウハウを持つ. 宮崎県東諸県郡綾町 宿泊施設 自治体 1. 058㎡ 地上3階 RC造. 福岡県福岡市城南区 共同住宅 法人 1, 325. 55㎡ 地上5階 RC造( 一部鉄骨造). 沖縄県南風原町 公文書館 自治体 7, 757. 49㎡ 地下1階 地上4階 塔屋1階 RC造. 外壁屋根, 床の断熱, 二重屋根, 庇, 通風, 自然採光, 太陽光発電. ルーバー、壁面緑化、夜間電力 外断熱( 壁、屋根) 、床暖房. 事例所在地 用途 施主 延床面積 階数 構造 エネルギー消費の削減. 採 用 さ れ た 環 境 配 慮 型 技 術. 採 用 さ れ な か っ た 環 境 配 慮 型 技 術. 水消費の削減、水循環システムの確立. 水循環( 風呂). 福岡県福岡市東区 専用住宅 個人 167. 09㎡ 地上2階 無筋コンクリート造( 一部S造). −. 洗浄水、散水の中水利用. −. 地中部ラス型枠の使用. −. RCガラの削減. 建築副産物のリサイクル化. −. RCガラの再利用. 旧屋根瓦を瓦敷きとして使用. 緑の保全、敷地内緑化. 国産材の多量使用. エコマテリアルの採用 建築物の長寿命化. 既存樹木の保全, 自然水路の活 用 地元産材 長寿命に対応し得るデザイン. − 部材の劣化防止策. 室内環境(インドアエアクオリティ)の安全性. −. −. 運用段階のマネジメントシステムの確立. −. −. エネルギー消費の削減. 通風, ミラ, 二重サッシーガラス, ペアガ ラス, パッシブ, 外断熱, 氷蓄熱ソー ラー, 太陽熱利用. 水消費の削減、水循環システムの確立. −. −. 建築副産物の削減. −. −. 建築副産物のリサイクル化. −. −. 敷地周辺の自然環境、生態系の保全. −. エコマテリアルの採用 建築物の長寿命化 室内環境(インドアエアクオリティ)の安全性 運用段階のマネジメントシステムの確立. 地場産材, 再生タイル. 膜屋根の採用による昼間照明の 二重屋根、ルーバー、ダブルスキ 削減、ソーラー温水システム ン、氷蓄熱、全熱交換器、照明区 分の細分化. −. 建築副産物の削減. 敷地周辺の自然環境、生態系の保全. 福岡県糟屋郡粕屋町 体育館 自治体 8, 161. 96㎡ 地下1階 地上1階 RC造( 一部鉄骨造). 雨水利用、節水器具 −. − 透水性舗装. 漆喰、再生タイル、庭の木を材料 廃材利用の人工石 自然素材 に使用 断面の広い材料を使用、薫煙処理材. 深い軒. 塗料に木タール( 自然塗料) を使 用. 吸音膜. − 敷地内緑化、透水性舗装、雨水流 出抑制 地元産材( 琉球瓦、石灰岩) − −. −. ペアガラス. −. −. 井水利用による( 空調) ヒートポ 昼光センサー ンプシステム. −. 雨水循環システム. 既存蔵のリサイクル. 中水利用. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. −. メンテナンス資料. フレキシブルなプラン. 34- 3.
(4) [設計事例の概要]技術職15名の中規模組織設計事務所で、. 解決することにより、与条件に適合しつつ性能を総合的に. 設計事例は町立体育館である。施主の要望は省エネルギー. 高めて採用された事例といえる。. 対策であった。 [膜屋根の検討内容]膜屋根は照明の電気料. (2)既存技術の再構成. 金を抑えるために自然採光を取り入れる方向で、当初から. 本研究では、 「近代技術の改善」として、B社の部材の劣. 検討されていた技術である。設計者は、体育館が開けた敷. 化防止策と D社の吸音膜を、 「伝統技術の再生」として、C. 地に建つことから、景観的に屋根の高さを抑えたいという. 社の燻煙処理材と E 社の琉球瓦を事例として取り上げた。. 考えがあり、省エネとデザインの両方を満足させる技術と. 部材の劣化防止策は、従来の技術にこだわらない自由な発. して採用された。膜屋根は、当時採用事例が少なく、情報. 想で手法を再構成することにより創造された事例であり、. 収集が大変であったが、施主と共に施設見学をし、意見交. 吸音膜は、他の技術の材料を本来の機能に立ち返ることに. 換を行った。採用の際の問題の一つに、熱負荷の増大が. よって見出した、効果的な技術事例といえる。一方、燻煙. あったが、敷地の風向を活かしたダクトによる通風を採用. 処理材は、伝統的建築が生み出した利点を技術として現代. し、解決している。この事例は、当時まだ新しかった技術. に再現し、採用されるにいたった技術事例であり、琉球瓦. を、可能な限りの情報収集と施主やメーカーとの活発な意. は、意匠面で評価され、性能を他の技術で補うことにより. 見交換を行うことにより、問題点を解決して、より高い性. 採用することができた技術事例といえる。. 能をもつ技術として採用することができた事例といえる。. (3)新技術の創造. [吸音膜の検討内容]膜屋根メーカーと設計者がドーム内. 本研究で対象とした技術事例では、該当する技術を把握. の残響問題を検討した際に、設計者が屋根に使用した膜材. することができなかった。. である布本来の吸音性に着目し、吸音膜としての検討が始. 6 まとめ. まった。吸音性そのものは確かであるとして、次にドーム. (1)環境配慮型技術の採用条件と課題. 内にどのように設置するかという意匠面が検討された。当. [施主]自治体は環境への関心が高く、技術採用も積極的で. 初 11秒の残響が運用段階では 4. 9∼ 6秒と効果を示してい. あるが、法人や個人の場合、予算内で設計できることが重. る。本事例では、既存の技術である屋根材の膜を本来の布. 要となっている。 [設計体制]積極的な取組では、設備等の. として捉え直すことにより、別の機能を持たせた技術を作. 専門家だけでなく、施主やメーカー、施工業者の協力関係. り出すことができた事例といえる。. が効果的な技術選択につながっている。 [設計者の姿勢]取. (5)E社/採用技術:地元産材(琉球瓦). 組は予算や施主の要望、体制によって制限されるが、設計. [設計事例の概要]技術職 220 名の大規模組織設計事務所. 者によっては独自のアプローチで解決しており、設計者の. ( 那覇市) で、設計事例は公文書館の新築である。施主は沖. 姿勢によって取組に違いが出ている。 [課題]技術の効果が. 縄の風土や伝統を象徴する設計を要望した。また、周辺環. 必ずしも明確な認識の上で採用されず、設計者個人の経験. 境に対する配慮と省エネルギー対策を要望した。当初から. や思いこみによって判断されることがある。. 施主の積極的な参加により、施主や設計担当者、施工業者. (2)環境配慮型技術のイノベーションの実態. らの有効な協力関係が築かれ、設計が進められた。 [地元産. 既存技術の選択では、与条件への適合選択が必ずしも性. 材の検討内容]本事例では書庫内の環境を安定させるとい. 能を高める方向で選択されていないことがわかった。既存. う第1の目的があり、屋根を含めた建物全体の断熱性が検. 技術の再構成では、近代技術と伝統技術に区別され、再構. 討されていた。当初、瓦は断熱瓦と沖縄独自の琉球瓦が検. 成された技術が効果的であることがわかった。一方で、新. 討されたが、屋根スラブに直接瓦を載せるという沖縄の一. 技術の創造は把握することができなかった。. 般的な方法では、屋根自体が既に断熱性を持つことから、. (3)GB設計支援システム開発の指針. 沖縄独自の琉球瓦が選択された。本事例では、断熱性では. [技術情報支援]. 劣る伝統的な瓦が、意匠面で評価され、性能においても他. ①総合的な設計のために技術情報の不足した分野を補う。. の技術で補うことによって採用された事例といえる。. ②技術の性能情報を支援するために、設計者の経験知や性. 5 環境配慮型技術のイノベーションの実態. 能の検証結果または運用段階の評価情報を共有化する。. (1)既存技術( 近代技術)の選択. ③また、そのための定性的・定量的指標づくりを行う。. 本研究では、A社の太陽光発電と D社の膜屋根を事例と. [ネットワークの構築]. して取り上げた。太陽光発電は、検討の中で厳しい予算と. 異分野の専門家による協力関係は設計者個人の意欲にも. いう与条件に適合させた結果、性能を最低限まで落として. 働きかけ、より設計や新たな技術開発を促進させる。事務. 採用された事例であった。一方、膜屋根は、当時はまだ新. 所規模に関係なく、実務での十分な検討や情報交流を行え. しい技術であったが、膜屋根によって生じる問題を地道に. るような、異分野間の技術者ネットワークが必要である。. 34- 4.
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