看護学生のためのru-eg 変換による知識の構造化をめざした教授プランの開発に関する研究 [ PDF
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(2) 1)知識は孤立して存在するのではなく、お互いが. されることになる。. 正しい ru に基づいた関係性のある要素として存在. 具体的な研究方法は次のようになっている。. し、しかも上位 ru に向かって階層化(構造化)さ. 1)看護学生の知識の獲得状況を把握し、教授活動. れている。. の目標を明確化させるために事前調査を行う。. このように知識が構造化されるためには看護学生自. 2)前述した( 1)∼( 6)をふまえて教授方略、教授. らが、. プランを立てる。. 2)知識の構造化を強化するために、不足した知識. 3)ru-eg 変換を中心とした教授活動を実施する。. を獲得することができる。. 4)教授内容に関する事後調査を実施し、その結果. 3)知識どうし(要素)の間に働く ru を獲得し、. から教授活動の実際、教授方略におよび教授プラン. 知識どうしを結びつけることができる。. に対する評価を行う。. 4)ある事柄を ru の事例(eg)であると判定でき. 5)実験授業の総合的な考察から、教授プラン開発. る。さらに ru から eg を探索することができる。. の原則および教授方略について提案する。. 前項1)∼4)が可能となる教授活動について次の ように計画した。. 3.教授活動の実際 1)実験授業1・2. ( 1)ある事柄について、看護学生がどのような知識. 実験授業1は、F 看護専門学校生 27 名に対して、. をすでに獲得しており、またどのように理解してい. 看護学生の知識の獲得状況を把握する目的で実施され. るのかを確認する。これは、看護学生の現状を把握. た。教授活動の前後に行った事前・事後テストの誤答. し、教授活動の目標を明確化するためである。その. を分析することによって、看護学生は、当該の授業の. 結果、. 前提となる知識の獲得が不十分であり、しかも知識ど. ( 2)これから学習する事柄の前提となる知識が、十. うしの結びつきが弱く、構造化されていない。また、. 分獲得されていない場合は、他のカリキュラムとの. 教授内容を単純に覚えようとしており、さらに判断基. 関連性をもたせた教授活動を行う。. 準を持っていない看護学生がいるという「前提実現値. ( 3)孤立した知識であれば、関連する項目と結びつ. 8). 」を確認することができた。 実験授業2では、実験授業1の結果をふまえ、J 看. ける教授活動を行う。 ( 4)知識の構造化が弱い場合は強化する教授活動を. 護大学生 111 名に対し、母性看護学の「性ホルモン. 行う。. と性周期」に関する教授項目を、ru-eg 変換を中心に. ( 5)要素間の ru について、誤った解釈をしている. した教授活動を実施した。教授活動の前後に行った事. 場合は、修正をする教授活動を行う。. 前事後テストの分析から教授効果を評価することと、. (6)ru を提示し、複数の eg を使った、(ルールを事. さらに看護学生の実態を再考することを目的とした。. 例に適用させる)ru-eg 変換を看護学生に複数回実. その結果、看護学生の誤ルール( ru)を修正するた. 施させる。. めには、 ru を直接使わせないような教授方略が有効 7). を用いた。これ. であると推測され、さらにワークシートの使い方を検. に従うと、研究目的である教授プランの開発の原則、. 討する必要性や、看護学生の新たな前提実現値(論理. および教授方略に基づいた教授活動を行うことで、看. 操作が苦手)が明らかになった。. 護学生の知識の構造化を支援することができるという. 2)実験授業3. 本研究は、研究方法として構成法. ことが仮説となり、予定している教授活動を行わない. 実験授業3は、実験授業1,2の結果をふまえ、 J. 場合にも教授活動を行った場合と同様の目的が達成さ. 看護大学生 111 名に対し、事前調査で前提実現値を. れることが対立仮説となる。しかし、看護学生の実態. 確認し、母性看護学の教授項目である、家族計画・受. から推測すると、本研究の教授活動を行わない、つま. 胎調節の授業を、性ホルモンと性周期を ru とし、低. り、従来通りの教授活動を行っている限り、同様の目. 用量ピル(経口避妊薬)を eg とする ru-eg 変換を中. 的が達成されるとは考えにくく、この対立仮説はすで. 心とした教授方略を用いて実施した。事後調査の結果. に否定されていることになる。したがって、本研究で. から教授活動を評価し、看護学生にとって最適と思わ. 実施する教授活動の前後に教授内容に関する事前・事. れる教授プランおよび教授方略についての提案を行う. 後調査を実施し、それを分析、評価することにより、. ことを目的とした。. 本研究における教授活動の有効性については十分検証. 事前調査による看護学生の前提実現値として、ホル.
(3) モンに関する ru を持っており、経口避妊薬(低用量. 開発の原則および教授方略は次のようになる。. ピル)に関しての知識が不十分であることが明らかに. 1)教授プラン開発の原則. なった。そのことをふまえ、不足した知識を獲得させ、. まず、(1)当該の授業の「前提値10)」を明確にする。. 孤立した知識を関連する事柄と結びつけることにより. そのためには、(1)-1 教授項目内で最も重要と思われ. 知識の構造化を強化しつつ、 ru を組みかえるような. る事柄を特定し、(1)-2 最重要事項を中心とした要素. 教授プランを立てた。さらに看護学生自身に、ワーク. を ru と eg の関係性によって階層化する。また、(1)-3. シートの空欄に解答を記入するための時間を与え、記. 必ず知識として獲得させるべき要素( ru)を明確にす. 入状況を確認しながら授業を進めた。事後テストを分. ることが必要である。さらに前提値を明確にする際に. 析した結果、性ホルモンと性周期に関する ru は獲得. は、(1)-4 他科目との関連性を考慮する事が必要であ. できたと推測され、ru-eg 変換を用いた教授活動およ. る。. び、ワークシートを使った教授方略は効果的だったと. 次に、( 2)看護学生の知識が不足していると予測さ. 思われる。教授プランおよび教授方略について明らか. れる箇所や、すでに持っていると思われる ru を予測. になったことは次の事柄である。. した質問項目を作成し、( 3)その質問項目により、学. ①教授目標および教授項目をしぼったことは教授内. 習者の前提実現値を確認する。次に( 4)前提値と前提. 容を精選する事につながり、限られた時間の中で知識. 実現値を比較検討することにより、教授目標を決定す. 獲得させるためには効果的だった。②教授項目間の要. る。その際、教授目標はできるだけ取捨選択し、精選. 素を構造化したことは、重要な項目の選定に有効だっ. することを前提とする。教授目標が決まれば、( 5)教. た。構造化する際には、1つの事柄を ru とした場合、. 授目標に応じた、教授方法、教授内容を決定する。(6). どれを eg とするのかを教授者が十分に吟味し、決定. 最後に目標実現の時間的順序にしたがって教材化す. する必要がある。また、看護学生に時間を与えて回答. る。. させるべきものとそうでないものを再検討する必要が. 2)教授方略. ある。③看護学生の知識の獲得状況を予測し、そのこ. (1)看護学生にとって、ru でも正しく予想できるよ. とが確認できるような事前調査をしたことは、看護学. うな eg から導入し、ru-eg 変換を繰り返し行い、ru. 生の状況をふまえた教授目標および教授方略の選定に. の使用習慣を強め、概念の内包を拡充しながら知識ど. つながった。④ワークシートは、看護学生に記入する. うしの結びつきを強化し、最終的に ru を組みかえて. 時間を与え、記入状況を確認して教授者が解説すると. いく、 「じわじわ型ストラテジー11)」を用いる。また、. いう方法が知識どうしを結びつけることに効果的だっ. ( 2) ru-eg 変換により、知識どうしを結びつけること. た。⑤孤立しやすい知識を関連づけるための方略とし. により知識の構造化を強化し、 ru を獲得させる。さ. ては ru-eg 変換を複数回行うことが有効だった。⑥看. らに、(3)発展課題を課し、概念の外延を拡大して ru. 護学生の不足した知識を獲得させ、概念の内包の拡充. の獲得を強化させる。( 4)ワークシート、 OHC など. を図りながら知識の構造化を強化し、ru-eg 変換を繰. を使用する際には、看護学生自身に記述させるための. り返し行いながら ru を組みかえる方略は、ru を獲得. ヒントとなるように作成し、まず看護学生自身に記述. することと併せて ru を組みかえるためには有効だっ. させる。その後正答と比較させる。. た。. 以上の教授プラン開発の原則と教授方略を用いた教. なお、実験授業1を F 看護専門学校、および実験. 授活動の実施が、看護学生の知識の構造化を支えるこ. 授業2・3を J 看護大学で実施した理由は、筆者の. とにつながり、看護学生、および看護師が看護実践の. 勤務校であり授業実践が可能であること、F 看護専門. 場において、自己の判断基準に基づきよりよい看護を. 学校および J 看護大学に在学している看護学生は、. 実践できることにつながると考える。. 県内の高校からほぼまんべんなく入学して来ており、. 5.今後の課題. これら2校に在学している看護学生の状況が、一般に. 1)本研究の限界について. 述べられている看護学生の学生像. 9). とほぼ一致するた. 本研究は構成法に基づいて行った。本研究の教授活. め、一般化が可能であると考えたからである。. 動において、先に示した教授プランや教授方略を用い. 4.結論. ることが看護学生の知識の構造化を強化するために有. 実験授業1∼3の教授活動を総合的に評価すると、. 効であるという知見は得られた。しかしながら、これ. 看護学生のための知識の構造化をめざした教授プラン. らの有効性が示されたことが、教授プランおよび教授.
(4) 方略の必要条件あるいは十分条件を示しているもので. 生は個々人で異なる学習の仕方をしていると思われる. はない。つまり、本研究では、特定の要因の組み合わ. ので、一概には、維持リハーサルを繰り返して記憶を. せによって、一応の授業目標の達成がなされたものの、. 保持している看護学生ばかりであるとはいいきれな. それらの要因のうち、どの要因の寄与率が高かったの. い。. かは、現段階では特定できていない。さらに、本研究. 本研究では看護学生の学習方法そのものを調査した. で取り上げられなかった要因群が全て有効でないとい. わけではないので、今後、看護学生がどのような学習. う確証はなく、またこれらの要因群の中により有効な. 方法に基づいて課題解決をしているのかについても実. ものが含まれる可能性も否定できない。したがって、. 態調査を行い、学習方法の型分けをした場合の教授プ. 今後、本研究における教授プランや教授方略の必要十. ラン、教授方略についても考える必要があるだろう。. 分条件を明らかにしていくことが必要となる。そのた. 6.引用文献. めには、教授プランおよび教授方略の記述内容を精緻. 1)石田智恵美・久米弘 (2002). 看護学生の基礎看護技. 化し、属性記述によって型分けを行い、有効と思われ. 術に必要な基礎知識に関する調査研究− F 看護専. る要因を限定していくことが必要である。その上でさ. 門学校における実践を中心に− ,日本教育工学会研. らに有効と考えられる、仮想的にでも条件を統一した. 究報告集,JET02-3,p.63.. 授業を実施し、授業の結果から条件の妥当性について. 2)Evans,J.L.,Homme,L.E. and Glaser,R.( 1962) The. 評価するという作業を繰り返し行うことで条件が精選. Ruleg System for the construction of Programmed. され、必要十分条件の明確化に近づくと考えられる。. Verbal. 2)看護系大学のカリキュラムについて. Res.,55,pp.513-518.. 看護系大学および看護専門学校のカリキュラムの構. Learning. Sequences,. 講座現代の心理学3. 考えられている事柄と、演習を通じ看護技術として獲. .pp.345-388.. に区別され、関連性を持つようには配慮されていない。 例えば、基礎看護技術の中の「バイタルサイン(血圧、 体温、呼吸、脈拍)の測定」は、他の基礎看護技術の 項目と比較すると、技術としては比較的習得が容易で あると思われている。しかしながら、血圧、体温、呼 吸、脈拍の生理的なメカニズムを理解することや、測 定値の意味づけなどは、むしろ難易度が高いものに入 る。演習で繰り返し訓練することによって、看護学生. educ.. 3)細谷純 (1983)「プログラミングのための諸条件」 ,. 成においては、講義を通じ知識として獲得させようと 得させようと考えられている事柄とが、制度上は厳密. J.. 4)細谷純 (2001). 学 習 と 環 境 .小 学 館. 教科学習の心理学 .東北大学出版会. .pp.173-174. 5)工藤与志文( 2002) 学習関係指導論 集中講義( 12 月 24 日∼ 27 日)講義ノート. 6)鈴木宏昭(1987) 「認知・学習・教授」,岩波講座 教 育の方法6.岩波書店.p.179. 7)牛島義友他編( 1969) 教育心理学新辞典 .金子書房 .p.279. 8)細谷は「発問−正答」を、一定の目標と教授法にと. は、単にバイタルサインを測定するという技術だけは、. っても「前提値」と呼び、さらに学習者が示した「発. 見かけ上獲得できるものの、測定をした結果に関し生. 問−応答」をその学習者のその時点における「前提. 理的メカニズムに基づいて意味付けしたり、測定値を. 実現値」と呼んでいる。前掲 4).pp.158-159.. 基に被測定者の未来を予測することは不可能に近い場. 9)吉田喜久代(2001). 学生が主体的に学ぶ授業をする. 合があり、単純には知識が技術や実践と結びつかず、. た め に 教 師 は 何 を 準 備 す る か ,看 護 教 育. それぞれが孤立した状態になりやすい。このような現. Vol.42,No.4,p.173.. 状を改善し、知識と技術が確実に獲得されるためには、. 10)前提 8).. できることならカリキュラムの構成全体の見直しを行. 11)前掲 4).pp.112-120.. い、技術が知識に伴って獲得できるよう、また獲得し. 12)Fergus,I.M.Craik,and. Robert,S.Lockhart(1972). た知識が判断基準として使えるように、カリキュラム. Levels of prcessing:A framework for memory.. 構成を組み立て直すことも必要となるだろう。. Jornal. 3) 看護学生の学習方法について. Behavior.,Vol.11,pp.671-684.. 本研究で明らかになった看護学生の実態では、単に 事柄を暗記し、維持リハーサル. 12). を繰り返して記憶. を保持している看護学生が多かった。しかし、看護学. of. Verbal. Learning. and. Verbal. 参考文献 1)系統看護学講座( 1999) 母性看護学[ 1] ,[ 2] ,医学書 院..
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