博 士 ( 農 学 ) マ リ テ ス ・ ギ ン ト
学位論文題名
The Cooperative Movement in Philippines
(フイリピン共和国の協同組合運動)
学位論文内容の要旨
本論文の課題は、フ`イリピン共和国の協同組合運動の到達点を特にアキ丿政権以降の現 段階について組織論的に明らかにすることである。
東南アジアにおいては、農村政策は協同組合の組織化をひとつの柱として進められてい るが、政治的民主化以前においては「指令型」のタイプが多く、フィリピンにおいてもマ ルコス政権下においては、同様であった。本論文においては、アキノ政権以降の協同組合 の性格変化をクレイグモデルによりながら整理するとともに、その実際の運営体制を実態 調査から明らかにする。また、バングラデデッシュにおいて成功を収めているグラミンバ ンクの導入事例を調査することによって、今後の多様な協同組合運動の可能性を明らかに する。
第1章に おい て以 上の 課題 設定 を行 った上 で、 第2章、 第3章ではフィリピンにおける 協同組合の展開過程と現状分析を行っている。マルコス政権下において協同組合は開発政 策の詮かに位置づけられるが、それは村落組合、小規模販売・消費者組合、連合会、全国 統合組織という4段階制の官製的組合であり、すべて政府の指導下にあった。アキノ政権 以降、組織体制は3段階となり、民間主導による協同組合の活動が可能となった。しかし、
現 在の 登録組 合の うち 、20〜40%は 休眠 組合 であ り、 多目 的協 同組合 と信 用協 同組 合 の事業は伸張しているが、消費者協同組合と販売協同組合は停滞的となっている。しかも、
協同組合の規模は依然小さなものである。このように、アキノ政権以降も協同組合の事業 に関する限り、その停滞性は否めない事実である。協同組合の設立が最も多い北ミンダナ オの協同組合について財務分析を行った結果によると、協同組合の経営は種類別に一定の 格差が存在するとはいえ、低位の水準にとどまっている。その大きな要因は、政府の補助 金に依存した資金構造、職員教育と経営管理能カの低位性にあり、これらを改善していく 指導体制の構築が必要である。
以 上の 協同組 合の 歴史 と現 状を 踏ま えた 上で 、第4章、 第5章、第6章では、協同組合 の 組織 、経営 、政 府の 支援 手段 にっ いて の考 察を 行っ てい る。 第4章 では 、ICAの指 導 理論となっているクレイグモデルに従って、フィリピンの協同組合の組織構造を分析して いる。フィリピンの協同組合はマルコス政権時代の包括(トップダウン)型からアキノ政 権下に設立された連合(ボトムアップ)型に移行しつっあるが、それは部分的である。系 統組織については3段階をなしているが、中央の全国協同組合中央会の活動は依然として 政府の支援によっている。っぎに、第5章では経営体制の現状について組合員アンケート
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調査に基づぃて分析を行っている。まず、役職員の評価は概して一般職員に対して厳しく、
職員教育 の必要性 が浮き彫りになっている。組合貝の協同組合に対する参加意識はかなり 高く、役 員とのコ ミュニケーションも円滑であるという結果が得られた。対象地は、北ミ ンダナオ であり協 同組合運動が進展している地域であるという限定付きではあるが、先に 分析した 運営にお ける連合 (ボトム アップ) 型への移行を確認できた。第6章では、政府 の協同組 合支援政 策について考察している。マルコス政権下にあっては、政府による協同 組合の組 織化は開 発政策の一環であり、特定計画の受け皿として上から設立されていた。
しかし、このことは協同組合の自主性を著しく後退させるものであった。アキノ政権以降、
協同組合 に対する 政策は全面的とは言えなぃが、自主性を尊重するものに変化しており、
っぎに述 べるNPOなど と協調し た支援体 制を押し 進めるべきであることを指摘している。
第7章と第8章は、グ ラミンバ ンク導入 による起 業計画とそ こにおけ る女性の役割に関 する分析を行っている。グラミンノヾンクは、/ヾングラデッシュにおいて貧しい女性に起業 のための 小口貸付 を行っている機関である。その成功を受けてフィリピン各地に導入され ている。 調査対象 としたのは、北ダバオのダバオ協同組合銀行である。組合員数も増加傾 向にあり 、グルー プ・セン ターの活 動も活発 である。資 金償還も94%と順調 であり、バ ンクの収 益率も高 まっている。起業の内容はほとんどが、果物・野菜・乾し肉などの行商 であるが、1家族のそれまでの収入4,100ベソに3,200ベソの収入を加えることが可能にな っている 。また、 計画後に家を新築するなどの成果も上がり、住民の組織力、物を考える カ、意志 決定能カ などの向 上もみら れる。続 いて、第8章では、バンクの組合員の女性か らの面接 調査を行 っている 。年齢は 平均40歳で あり、学歴 は中等以 下であり 、簿記の学 習なども 行ってい る。起業による収入は夫の補助的な位置づけにあり、収入使途は子供の 教育費、 食糧の購 入に当てている。このように、追加的な収入の拡大によって家計費の拡 大が行わ れている 点にこのバンクの目的があることが明かとなった。また、女性により地 域開発計 画が実行 されており、女性が住民運動に積極的に参加する成果も生んでいること を指摘している。
第9章結諭 では、以 上を総括 するとと もに、今 後のフィリピンにおける協同組合の組織 論的課題 を整理し ている。第一には、協同組合の運営体制を連合(ポトムアップ)型に誘 導するこ とである 。マルコス政権下の中央集権的な協同組合育成方針が残存しており、特 に政策目標の一時的な受け皿としての位置づけは急速に変更する必I要がある。協同組合の 内部に干 渉するの ではなく、自立性の強化を支援する指導体制の確立が重要である。その 場合 、 国 際機 関 をも 含むNPOと の提携関 係を強化 する必要 がある。 第二は、種 類別の協 同組合の 目標を明 かにし、農家、農村住民、零細企業者、都市住民、女性など組織すべき 対象を明 確にして それそれの事業目標を確定することである。その上で、必要な休眠組合 の再活性 化を図る べきである。第三には、協同組合に参加する組合員、役員、実務職員と いう各構 成員に対 し、必要な教育訓練の場を提供することが重要である。バングラデッシ ユに お け るグ ラ ミン バンク の成功の 鍵もそこ にあり、 第7‑8章で対 象としたダ バオ協同 組合銀行 において も同様であった。ボランティア組織と政府職員が一体となって、教育活 動を強化する必要があるのである。
学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
太田原 長南 坂下
高昭 史男 明彦
学位論文題名
The Cooperative Movement in Philippines
゛ (フイリピン共和国の協同組合運動)
本 論 文 は 、 序 章 、 終 章 を 合 わ せ9章 か ら な る144ペ ー ジ の 英 文 論 文 で あ る 。 図15、 表37を 含 み 、 他 に 参 考 論 文2編 が 添 え ら れ て い る 。
東 南ア ジ ア にお い て は、 農 村 政策 は 協 同 組合 の 組 織化 を ひ とつ の 柱 とし て 進 めら れ て い る が 、 政策 主 導 型の 協 同 組合 が 主 流で あ り 、 政治 的 民 主化 の 動 きの な か で協 同 組 合の 自 立 化 を 進 める こ と が大 き な 課題 と な って い る 。 また 、 貧 困問 題 の 解決 の た めに ヮ ー カー ズ コ レ ク テ イ ブ の 形 成 が 各 国 で 試 み ら れ て い る 。
本 論文 は 、 フィ リ ピ ンの ア キ ノ政 権 以 降 の民 主 化 の過 程 で 協同 組 合 の性 格 が いか に 変 化 し 、 今 後の 発 展 にお い て いか な る 支援 が 必 要 であ る か とい う 実 践的 な 課 題を 実 態 調査 に も と づ い て追 求 し てい る 。 また 、 パ ング ラ デ デ ッシ ュ に おい て 成 功を 収 め てい る グ ラミ ン バ ン ク の 導入 事 例 を調 査 す るこ と に よっ て 、 フ ィリ ピ ン にお け る ワー カ ー ズコ レ ク ティ ブ を 含 め た 多 様 な 協 同 組 合 運 動 の 可 能 性 を 明 ら か に し て い る 。
第1章 に お い て 以 上 の 課 題 設 定 を 行 っ た 上 で 、 第2章 、 第3章 で は フ ィ リ ピ ン に お け る 協 同 組 合の 展 開 過程 と 現 状分 析 を 行っ て い る 。マ ル コ ス政 権 下 にお い て 協同 組 合 は開 発 政 策 の な かに 位 置 づけ ら れ 、す べ て 政府 の 指 導 下に あ っ たが 、 ア キノ 政 権 以降 に 民 間主 導 に よ る 協 同 組 合 の 活 動 が 可 能 と な っ た 。 し か し 、 現 在 の 登 録 組 合 の う ち 、20〜40% は 休 眠 組 合 であ り 、 その 規 模 は依 然 と して 小 さ い 。ア キ ノ 政権 以 降 も協 同 組 合の 事 業 に関 す る 限 り 、 その 停 滞 性は 否 め ない 事 実 であ る と し てい る 。 また 、 北 ミン ダ ナ オの 協 同 組合 の 分 析 か ら 、協 同 組 合の 経 営 は種 類 別 に一 定 の 格 差が 存 在 する と は いえ 、 低 位の 水 準 にと ど ま っ て い る と し て い る 。
第4章 、 第5章 、 第6章 で は 、 協 同 組 合 の 組 織 、 経 営 、 政 府 の 支 援 手 段 に つ い て の 考 察 を 行 っ て い る 。 ま ず 、 工CAの 指 導 理 論 と な っ て い る ク レ イ グモ デ ル に従 っ て 、フ ィ リ ピ ン の 協 同組 合 の 組織 構 造 を分 析 し てい る 。 フ ィリ ピ ン の協 同 組 合は マ ル コス 政 権 時代 の 包 括 ( ト ップ ダ ウ ン) 型 か らア キ ノ 政権 下 に 設 立さ れ た 連合 ( ボ トム ア ッ プ) 型 に 移行 し つ っ あ る が、 そ れ は部 分 的 であ る と して い る 。 っぎ に 経 営体 制 の 現状 に つ いて の 組 合員 ア ン ケ ー ト 調査 か ら 、役 職 員 の評 価 は 概し て 一 般 職員 に 対 して 厳 し く、 組 合 員の 協 同 組合 に 対 す る 参 加意 識 は かな り 高 く、 役 員 との コ ミ ュ ニケ ー シ ョン も 円 滑で あ る とい う 結 果を 得 て ―965―
いる。限定付きではあるが、運営における連合(ボトムアップ)型への移行を確認してい る。政府の協同組合支援政策については、アキノ政権以降、全面的とは言えないとはいえ、
自主性 を尊重す るものに 変化して おり、っ ぎに述べるNP○などと協調した支援体制を押 し進めるべきであることを指摘している。
第7章と 第8章は、 グラミン バンク導 入による 起業計画と そこにおける女性の役割に関 する分析を行っている。グラミンバンクは、バングラデッシュにおいて貧しい女性に起業 のための小口貸付を行っている機関であり、フィリピン各地に導入されている。調査対象 としたダバオ協同組合銀行では、組合員数も増加傾向にあり、グルーブ・センターの活動 も活発 である。 資金償還 も94%と順 調であり 、パンクの 収益率も高まっている。起業の 内容はほとんどが、果物・野菜・乾し肉などの行商であるが、その収入は夫の補助的な位 置づけにあり、収入使途は子供の教育費、食糧の購入に当てている。また、女性により地 域開発計画が実行されており、女性が住民運動に積極的に参加する成果も生んでいること を指摘している。
第9章結 諭では、 以上を総 括するとともに、今後のフィリピンにおける協同組合の組繊 論的課題を整理している。第一は、協同組合の運営体制の連合(ポトムアップ)型への誘 導であり、協同組合の内部に干渉するのではなく、自立性の強化を支援する指導体制の確 立が重要であるとしている。第二は、種類別の協同組合の目標を明かにし、農家、農村住 民、零細企業者、都市住民、女性など組繊すべき対象を明確にしてそれそれの事業目標を 確定すべきことを指摘している。第三は、協同組合に参加する組合員、役員、実務職員と いう各構成員に対し、必要な教育訓練の場を提供することであり、グラミンバンクの経験 がそれを示しているとしている。
このように、本論文では民主化以降のフィリピンにおける協同組合運動の性格とその到 達点を初めて明らかにし、今後の方向を提示している。よって審査員一同は、マリテス・
ギ ン ト が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
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