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ドイツ福祉国家の変容と成人継続教育 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 教 育 学 ) 高 橋    満

学 位 論 文 題 名

ドイツ福祉国家の変容と成人継続教育 学位論文内容の要旨

  本論文の課題は、ドイツ福祉国家の構造的変動下における成人・継続教育の制度や政策の 新たな展開を理論的、かつ実証的に検討することをとおして、その機能や性格を明らかに することにある。

  ドイツの教育理論研究は、日本の教育制度の確立期における影響の大きさもあって、日 本における教育学研究において極めて大きな位置を占めっづけてきた。現在、その地位を アメリカに譲り渡した感があるとはいえ、ドイツ教育理論の紹介と検討は依然として重要 な課題である。しかし、第1に、従来の諸研究は学校教育、とくに中等教育をめぐる制度 や理論の研究に中心がおかれてきた。職業教育をとりあげる場合にも、二元体系における 教育訓練がおもにとりあげられてきた。これに対して、成人教育・継続教育に関する研究 は立ち遅れている。第2に、 成人教育研究についても、戦前期のドイツ民衆教育運動を取 り上げた歴史的研究やドイツ成人教育方法論の研究にとどまり、実証的な研究の蓄積はほ とんどみられない。生涯学習政策が国際的にも中心的課題になりつっある今日、あらため てドイツの成人継続教育の現実を理論的、実証的に検討することは教育研究として重要な 課題である。

  こうした研究状況のなかで、本研究の方法上の第1の特徴は、現代ドイツの成人教育・

継続教育の実態を質的社会調査の手法を駆使して明らかにしようとするところにある。事 例として、人類史的な出来事である社会主義国家の解体と資本主義的再編としてとらえら れるドイツ統一過程、そして継続高等教育機関を取り上げ、その受講生調査をとおして、

失業から職業的包摂の過程において成人・継続教育がどのような役割を果たしているのか、

その意義と限界を実証的に明らかにしようと試みている。

  第2に、ドイツ福祉国家の発展と危機のなかで展開される成人教育・継続教育政策の機能 を究明することを試みている。教育政策は、国家介入の戦略としてとらえられるが、その 性格は福祉国家の基本原理たる補完原理をめぐる理解の違いに大きく規定されるからであ る。本研究では、成人継続教育を福祉国家の危機のなかでとられる社会秩序政策の一環と してとらえている。

  全体は、大きく三部から構成されている。以下、本論文の構成と要旨を紹介しよう。

  第ー部は、成人継続教育を社会学的視角から、別の言葉で言えば、教育を広義の社会政 策として解明する視角を明らかにする。日本の生涯学習政策がそうであるように、教育政 策はもはや教育としてのみ、ましてや学校教育としてだけでは理解できない。経済政策や 労働市場政策、社会秩序政策といった多様な領域と関連しつつ展開されている。本部では、

とく に社 会秩 序政 策、労働市場政策との関連で教育現象をとらえ る見方を提示する。

  第1章は、社会秩序政策として成人・継続教育をとらえる視点から戦後の政策の展開とそ の原理について検討をくわえている。自由主義は国家の役割を極めて限定的に理解し、個 人の自立と責任を強調する。社会民主主義も、こうした補完性原理にたちつっも同時に社

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会的連帯とその国家による制度化をとおしたサービスの提供を求める。社会秩序政策とし て の 成 人 ・ 継 続 教 育 政 策 の 位 置 づ け に こ う し た 変 化 が あ る こ と を 指 摘 す る 。   第2章では、グローバリズムのもとですすみつっある福祉国家=「労働社会」の解体と、

その彼方にある社会、ポスト福祉国家における継続教育を含む社会的権利の再構成を展望 している。生涯学習政策は、賃労働を基盤とした労働社会の編成を 非正規労働の広がり による個別化と脱標準化された労働を市民的労働によって新たな性格へと組みかえる未完 のプロジェクトとの関連のなかで展開される。

  第3章は、こうした動向を背景に、国際的な協調のなかで進められている成人‐継続教育 政策の新たな展開を考察する。福祉国家体制は有カな社会的パ―トナーたちによる「対立」

と「妥協」あるいは「協調」をとおして諸政策はっくられ、そして実施されることとなる。

1980年代末に、まさにこうしたアIJ−ナのーっとして形成された「継続教育協調行動」の 未 公開 議事 録の 検討 をと おし て、 成人 ・継 続教 育 政策 の形 成過 程を 明らかにする。

  第二 部は 、社 会主義から資本主義への体制的 転換という人類史的転換における継続 教 育政 策の 対応 と、その機能をとりあげる。具 体的には、現実に存在した社会主義体 制 下の 継続 教育 制度と機能の把握をふまえ、体 制転換の過程のなかで、この継続教育 制 度が いか に再 編され、また、社会階級・階層 の再構造化の過程においてどのような 役 割を 果た した のかを実証的に明らかにする。 チューリンゲン州ワイマール市におけ る 継 続 教 育 機 関 の 社 会 学 的 調 査 に よ る デ ― タ を 使 っ た 分 析 を 試 み る 。   第4章で は、 社会 主 義体 制下 の学 校教 育制度 や継続教育制度の史的展開について概 観 する とと もに 、社会主義体制下の階級‐階層 構造と継続教育との関連について、継 続 教育 によ る資 格付与と女性に焦点をあて分析 する。社会主義体制下の継続教育が、

社 会的 平等 をい かにすすめ、にもかからわずど のような限界があったのかを明らかに している。

  第5章で は、 青年 層 の失 業お よび 価値 の変容 とも関連する学校教育制度の変革、二 元 シス テム にお ける養成訓練市場に起こりつっ ある変容の実態をとらえるとともに、

失 業者 にた いす る労働市場政策として展開され る職業継続教育が、どのような機関に よ って 担わ れて いるのか、旧東ドイツ地区の継 続教育の構造的変容の実態を明らかに する。

  っづ く第6章 では 、 社会 変革 にと もな う経済 解体、失業問題を統計的に把握すると と もに 、職 業継 続教育受講生調査をとおして社 会主義体制下の職業移動と資格‐職業 継続教育との関連、労働 者の失業 ̄再雇用過程における職業移動と継続教育との関連、

生活問題や不適応問題等の実態の一断面を把握している。

  第三部の「継続高等教育政策と成人」は、日本における生涯学習政策のなかでも重要な 領域となっている高等教育機関に対する社会人学生のアクセスの問題を扱っている。リカ レント教育をめぐる問題である。ここでは継続高等教育政策の歴史的展開を素描するとと もに、ドイツ福祉国家を支える社会的パートナーである経済団体、労働組合、学術団体の

「対立」と「協調」をとおして形成される継続高等教育政策と、この施策の実態をーつの 大学継続教育センターを事例に明らかにしている。

  第7章では、ドイツの戦後の継続高等教育政策の史 的展開を素描するとともに、「第 3の領 域」 (高 等教 育 セク タ‑)と 「第4の領域 」(継続教育セクタ―)の狭間に、い か な る 過 程 を 経 て 、 ど の よ う な 形 態 で 制 度 化 さ れ た の か を 明 ら か に す る 。   第8章で 、福 祉国 家 の社 会的 パ― トナ ―とい われる諸集団が、この政策に対してど の よう なス タン スをとっているのか、そこにど のような対立が存在するのか、にもか か わら ず、 いか なる基盤あるいは認識空間のな かで「協調」が形成されるのかをみて いる。

  第9章で は、 継続 高 等教 育政 策の 具体 的展開 を考察する。事例として、ニ―ダ―ザ

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クセン州の新大学である オルデンブルク大学継続高等教育センターの受講生・講 師に 関するデータを使っている。

  本研究は、現代ドイツ の成人継続教育研究に関する実証的研究としては唯―の 成果 である。社会主義から資 本主義への体制転換という人類史的な転換のなかで、成 人継 続教育機関がどのような 役割を果たしてきたのか。その意義と限界を明らかにし てき た。社会主義体制下の継 続教育は、階級・階層的な平等を実現する手段として重 要な 役割が期待されてきた。 しかしながら、やがて1980年代にはいるやインテリゲン チヤ

―の階層的再生産を実現 する機能を顕在化させるようになる。女性に焦点をあて て見 ても、継続教育が、資格付与をとおして女性の労働参加と平等に大きな貢献をしてきた ことは強調されてよい。 しかし、それもジェンダ―による分断を前提にした職務 配分 であったこと、女性と社 会的弱者の排除を廃棄するものではなかった。そのこと は第 三部の継続高等教育の分 析でも指摘しうる。1970年代には労働者の高等教育への アク セスをはかる機能をはた しながらも、やがて、1980年代には「高等教育修了者」 に対 する再教育の機関としての性格を強める。

  分権化された、多元的 な社会を展望するとき、継続高等教育による「すべての 人へ の高等教育の開放」とい う機会均等の実現は不可欠な前提をなす。継続高等教育 は、

こうした役割を期待され ている。しかし、ここで確認してきたように、成人継続 教育 に可能性をみるだけでは なく、その現実的機能を冷徹に評価・批判することを疎 かに してはならない。  ゜

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ドイツ福祉国家の変容と成人継続教育

  本 論 文 は 、 ド イ ツ 福 祉 国 家 の 構 造 的 変 動 期 に お け る 成 人 継 続 教 育 の 制 度 や 政 策 の 新 た な 展 開 を 理 論 的 か つ 実 証 的 に 検 討 す る こ と を と お し て 、 そ の 機 能 や 性 格 を 明 ら か に す る こ と を 課 題 と し て い る 。

  ド イ ツ の 教 育 訓 練 に つ い て は デ ュ ア ル シ ス テ ム や マ イ ス タ ー 制 度 で 知 ら れ て い る が 、 継 続 教 育 に つ い て の 研 究 は 立 ち 後 れ て お り と く に 実 証 的 な 研 究 の 蓄 積 は ほ と ん ど み ら れ な い 。 他 方 で 、 民 衆 教 育 運 動 の 歴 史 や 成 人 教 育 方 法 論 の 研 究 も み ら れ る が 、 現 代 ド イ ツ 成 人 継 続 教 育 の 実 態 に せ ま る も の で は な い 。 こ の 欠 落 を 埋 め よ う と し て い る の が 本 論 文 で あ り 、 と り わ け 、 統 一 ド イ ツ 後 の 動 向 を 理 解 す る 上 で 不 可 欠 な 旧 東 ド イ ツ に お け る 実 態 調 査 を ふ ま え た 分 析 、 西 ド イ ツ 時 代 か ら の 継 続 教 育 政 策 に つ い て の 未 公 開 議 事 録 資 料 な ど を 駆 使 し た 実 証 研 究 は 、 従 来 に な い 研 究 成 果 と し て 注 目 さ れ る 。

  論 文 は 、 第I部 「 ド イ ツ 福 祉 国 家 と 継 続 教 育 政 策 」 、 第H部 「 ド イ ツ 統 一 と 職 業 継 続 教 育 」 、 第m部 「 継 続 高 等 教 育 政 策 と 成 人 」 の 3部 か ら な る 。   本 論 文 の 理 論 的 枠 組 み に お け る 最 大 の 特 徴 は 、 旧 来 の 教 育 訓 練 制 度 研 究 を 越 え て 、 労 働 市 場 政 策 ・ 社 会 政 策 と の 関 連 で 継 続 教 育 を 理 解 し て い る と こ ろ に あ る 。 す な わ ち 、 成 人 継 続 教 育 を 技 術 ・ 資 格 の 高 度 化 や グ □ ー バ ル 化 へ の 対 応 と し て 理 解 す る 機 能 主 義 的 研 究 に 対 し て 、 福 祉 国 家 の 危 機 と 再 編 の プ 口 セ ス に お け る 国 家 介 入 戦 略 の 転 換 、 っ ま り 競 争 的 秩 序 維 持 の た め の 「 社 会 秩 序 政 策 と し て の 継 続 教 育 」 と 把 握 し て い る こ と で あ る 。

  そ の こ と を 論 証 す る た め に 第I部 で は 、 戦 後 ド イ ツ 社 会 政 策 の 成 立 ・ 展 開 過 程 を た ど り 、 そ れ を 支 え た キ リ ス 卜 教 民 主 党 ・ 同 盟 に よ る 「 新 自 由 主 義 」 と 社 会 民 主 党 に よ る 「 新 社 会 主 義 」 の 相 互 規 定 関 係 を 明 ら か に し 、 福 祉 国 家 編 制 の 基 底 的 原 理 と し て 「 連 帯 性 原 理 」 と 「 補 完 性 原 理 」 を 抽 出 し て い る 。 そ し て 、

正 久

一 透

敏 輝

木 井

崎 内

鈴 町

姉 小

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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1980 年代以降の福祉国家の政策変容は、再解釈された「補完性原理」にもと づいて競争的秩序を維持しようとするものであり、そこに「社会的秩序維持政 策としての継続教育」が重要な位置づけをもって展開するとしている。そして、

その後のグ口ーバリゼーションの中で、業績主義を内在化させた資格・職業能 カの高度化政策が展開され、継続高等教育が中心的課題となってきたこと、そ れらから排除された人々への社会的包摂政策の対象領域として代替的な労働分 野 が 現 段 階 的 焦 点 と な っ て き て い る こ と を 指 摘 し て い る 。    以上をふまえて第n 部では、旧東ドイツおよび統一ドイツ体制における継続 教育の制度と現実、とくに失業者の増大の中で展開された職業教育の現実的機 能を、質的調査方法を駆使して明らかにしている。とくに継続教育受講者に関 する資料分析、中そも社会的に排除されがちな女性を対象にしたライフコース 分析をしていることが注目される。それらを通して、継続教育が失業者に対す る雇用の機会を保障することができていないことや、資格社会ドイツにおいて 無資格労働が一般化していることなど、社会的秩序政策がかかえている矛盾を 明らかにしたことは重要な研究成果であると言える。

   第 m 部は、90 年代以降の継続教育の焦点となっている継続高等教育の性格 を明らかにするために、戦後西ドイツにおける政策と法制度の展開過程を整理 をした上で、福祉国家再編段階における高等教育の大衆化と卓越性をめぐる対 立と、政・労・使・学のコーポラティズムとして展開する「協調行動」の内実 を、政策成立過程における作業部会議事録にまで遡って検討している。そして、

統計的分析と事例研究により、継続高等教育が、70 年代には労働者の高等教 育機関へのアクセス機会という実態があったが、80 年代以降は高等教育修了 者に対する第2 ないし第3 の挑戦機会に変質してきていること、その結果、労 働者とくに社会的不利益者が継続高等教育から実質的に排除されてきているこ とを実証的に明らかにした。こうして高等教育のユニバーサル化〓さらなる高 度化が進む90 年代以降、労働力需給調整のみならず、社会的秩序維持政策と し て の ド イ ツ 継 続 高 等 教 育 の 妥 当 性 が 問 わ れ て い る と し て い る 。    全体として、大きな理論的枠組みに対して実証分析の対象が限定されている こともあり、十分に証拠づけられていない部分もあるが、以上で述べたような 研究成果は、関連学界に新たな知見を加えると同時に、現在先進諸国が直面し ている政策的課題の理解に対して重要な情報を提供するものとして評価できる。

   よって著者は、北海道大学博士(教育学)の学位を授与される資格があるも

のと認める。

参照

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