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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 渡 辺 千 枝 子

    

学 位論 文題名

Bildungsideen in the Novels of George Eliot

‑ In Quest for Thought and Deed in Noble Agreement ‑

(ジョージ・エリオットの小説における教養理念

― 「思想 と行動との優れた結合」を求めて―)

学位論文内容の要旨

  本論文は、ヴィクトリア朝中期イギリスの作家ジョージ・エリオットの三っの長編小説、

すなわち『アダム・ビード』、『ミドルマーチ』、『ダニェル・デ口ンダ』を取り上げ、そ の中に、ドイツの哲学・文学の影響、特に、ドイツ哲学に影響を与えたスヒーノザ、さらに ゲーテ、フォイエルバッハからの影響をあとづけ、それを教養理念の形成としてまとめ上 げたものである。

  く 第1章 冫工リ オットは 、ふ教に 疑念を 抱いて以 来、信 仰への懐 疑と教会礼拝の義務 感との相克から苦悩が生じ、その後、スピノザの倫理教義に解決を見出すことによって確 固たる信念を確立した。スピァ′ザ教理の特徴は、この世の全てが神によって決定されると いう決定諭を採用した点にある。工リオットはスビノザ『神学・政治論』の翻訳を始め、

さらにフォイエルバッハ『キリス卜教の本質』を英訳刊行し、ルイスとドイツに滞在中、

ゲーテの著作や資料を翻訳する一方、スピノザ『エチカ』を英訳した。それは結局出版さ れることはなかったが|the big book|と呼ばれ、彼女の座右の書として常に重要な役割を 果 たしてき た。帰 国して最初に書いた評論「Wilhelm Meisterの道徳性」において、エリ オ ットは、 スピノ ザ崇拝者を自負するゲーテのBildungsideenを賛美した直後に、小説家 に転向した。

  く 第2章 冫工リ オッ卜の 最初の長 編小説 『アダム ・ビー ド』には 、主人公達が激情に おぼれたために自己矛盾に陥り、苦悩と悲哀を経て、次第に理性に基づく真の認識に目覚 め、自由と愛を獲得するという倫理的発展が描かれているが、そこには、スピノザが『エ チカ』を通して一貫して主張した倫理体系が、明確にみてとれる。本章において筆者は、

『アダム・ビード』と『エチカ』の倫理教義を詳細に分析し、両書を比較検討してエリオ ットの小説理念を明らかにしている。スピノザ教義は、決定諭を採用しながらも人聞の理 性と自然律を一致させ、理性的認識を通して得られる意志の自由を明確に証明したところ に特徴がある。『エチカ』において「神即自然」を説くスピノザは、人間精神も自然の一 部であるから、感情も自然の法則の下にあるとする。また真の認識っまり自己実現に至る 認識には三段階の過程、すなわち「想像と感情」→「理性的認識」→「直観知」がある。

この中で、「理性的認識」と「直観知」は真の認識を得られるが、「想像と感情」は各人 に よって異 なるた めに、誤謬の原因ともなる。『アダム・ビード』も、4人の主人公たち

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の 異 な る 「 想 像 と 感 情 」 か ら 生 じ た 誤 謬 が 原 因 とな り 、正 しい 認識 を欠 如 した ため に生 じ る 苦 悩 や 悲 哀 、 そ し て そ こ か ら の 解 放 が テ ー マ とな っ てい る。 そう した ス ピノ ザ理 論は 、 第 一 段 階 「 想 像 と 感 情 」 の 状 態 に あ る へ テ ィ の 悲惨 と 破減 の中 に特 に明 瞭 に表 現さ れ、 終 Jむ でア ダム とダ イ ナが 最高 段l偕「 直観 知」 に 到達 した とこ ろに も 反映 され てい る 。工 リオ ット は、 道 徳に 果た す理 性 的認 識の 重嬰 性を 説 くス ピノ ザの 理念 を 、作 家独I1の 心恕 体系 に 作 り 」 ニ げ て 『 ア ダ ム ・ ビ . 一 ド 』 の 巾 に flf現 さ せ た の で あ る 。   く 第3学冫 工リ オ ット は小 説家 に転 身 する 直前 に文 芸 誌に おい て、 ゲー テ の教 養小I説 『ウ イル ヘル ム ・マ イス ター』を取りrげ、作品に 流れるBi Ldungの理念を高く .;゛F佃jした。ホ 章 に お い て 筆 者 は 、 『 ミ ド ル マ ー チ 』 の 主 人 公 ド口 シ アの 自己 実現 への 強 い願 望、 小説 に

. 貫 し て 流 れ る 「 思 想 と 行 動 と の 優 れ た 結 合 」 の理 念 と、 『ウ ィル ヘル ム .マ イス ター 』 の 教 養 理 念 と の 関 連 を 比 較 ・ 考 察 し て い る 。 っ ま ル ド 口 シ ア は 、 理 性 的 倫 理的 なt1L形 成 を 願 っ て 結 婚 し た も の の 裏 切 ら れ 、 失 意 の 悲 哀 や苦 悩 を味 わう 道程 で次 第 にt川 胞 愛にH覚 め 、 社 会 に 生 き る 個 た る 自 己 の 使 命 を は っ き り 自覚 し た時 に、 自己 実現 を 達成 した 。こ れ は ウ ィ ル ヘ ル ム が 自 己 形 成 の 修 業 時 代 を 終rし た 段 階 に 相 当 す る 。 そ し て ウィ ルヘ ルム が 外 科 医 と し て 「 全 体 に お け る ー っ の 器 官 」 と し て共 同 社会 に貢 献す るの と 同様 に、 自己 実 現 を 果 た し た ド 口 シ ア も 、 ウ ィ ル ・ ラ デ ィ ス 口 ーと の 「愛 」を 媒介 とし た 結婚 によ って 初 め て 、 個 に お け る 内 と 外 、 精 神 と 肉 体 、 理 性 と 感性 と の問 の真 に調 和し た 人問 性を 完成 す る。 さら に 市民 社会 にお い て優 れた 改革 を実 行 する とい う、 全体 に 奉仕 する 和・ 為 なる 個と な っ た 段 階 が 、 『 ミ ド ル マ ー チ 』 序 文 に 書 か れ た聖 テ レサ の「 思想 と行 動 とを 立派 に結 合 さ せ る 」 理 想 の 到 達 点 で あ り 、 そ れ は と り も な おさ ず 、人 間性 の完 成を 目 ざす 多面 的な 段 階 的 発 展 と い う ゲ ー テ のBildungの 最 終 目 標 で も あ る 。 こ の こ と か ら 、 ジ ョー ジ・ エリ オ ッ ト は 『 ミ ド ル マ ー チ 』 を 、 グ ー テ 的 な 意 味 で の教 養 小説 とし て執 筆し た と推 論で きる 。   く 第4章 冫 小 説 家 ー の 転向 に際 し て、 エリ オッ トの 不 安材 料は 劇化 能カ の 不足 であ った 。 に も か か わ ら ず 、 小 説 『 ダ ニ エ ル ・ デ 口 ン ダ 』 にお い て, 美し い主 人公 グ エン ドレ ンと 陰 険 な 貴 族 グ ラ ン ド コ ー 卜 と の 問 の 、 求 婚 を 巡 る 賭け 引 きは 、ま るで 「劇 」 を見 てい るよ う だ と 好 評 だ っ た 。 本 章 で は 、 エ リ オ ッ ト が 世 界 の最 高 作品 とし て生 涯座 右 の書 とし たゲ ー テ の 戯 曲 『 フ ァ ウ ス ト 』 を 、 最 後 の 小 説 『 ダ ニ エル ・ デロ ンダ 』と 詳細 に 比較 して いる 。 グ エ ン ド レ ン と フ ァ ウ ス ト は 「 能 カ よ り 欲 望 の 方が 大 きい 」「 善き 人間 は 暗い 衝動 に駆 ら れ て も 、 正 道 を 忘 れ る こ と は な い 」 と い う 資 質 を共 通 にも つ一 方, 「万 有 との 融和 」が 、 両 作 品 に 一 貫 す る 理 念 で あ る 。 ま た 作 者 が 創 造 した と され るグ ラン ドコ ー 卜像 は, 悪魔 メ フ イ ス 卜 フ ェ レ ス を 、 そ し て グ エ ン ド レ ン 像 は ファ ウ スト をモ デル にし て いる 。さ らに 、 グ エ ン ド レ ン と グ ラ ン ド コ ー 卜 と の 結 婚 と い う 「賭 け 」を 巡る 会話 は, フ ァウ スト とメ フ ィス 卜フ ェ レス との 「賭 け 」を 巡る 駆け 引ー き を翻 案し てい る。 亠 方、 二つ の強 い 衝動 をも つ フ ァ ウ ス 卜 と 同 様 、 グ エ ン ド レ ン の 内 奥 に も 「一 種 の潔 癖さ 」が 元来 備 わっ てお り、 彼 女 の 「 心 の 中 の 善 な る 部 分 」 は 、 善 と 美 と を 兼 ね備 え 、よ り良 き人 生を 模 索す るユ ダヤ 青 年 ダ ニ エ ル ・ デ ロ ン ダ と 結 び っ く 。 小 説 の 題 名 にな っ てい る主 人公 デロ ン ダは 刊行 当初 か ら不 評で あ った 。し かし 、 作者 の小 説執 筆意 図 はこ のデ ロン ダ・ プ ロツ 卜に あっ た 。` ウィ ル ヘ ル ム ・ マ イ ス タ ー と ス ピ ノ ザ を モ デ ル に し て描 か れた デロ ンダ が、 自 己文 現を 模索 し た 末 に 民 族 指 導 者 を 志 す と い う 壮 大 なBildungsromanを 書 く こ と が エ リ オ ット の第 一の 執 筆 意 図 で あ っ た 。 こ れ に 対 して グエ ンド レン ・ プロ ット は『 フ ァウ スト 』を 翻j案し た「 小 さ な 社 交 ド ラ マ 」 と し て 書 か れ た と 言 え る 。 そ こで は ヒ口 イン が自 己認 識 を獲 得し て「 地 上 と 天 界 の 至 福 の 美 し さ 」 ^ 至 り 、 救 済 と 再 生 を遂 げ ると いう 、小 さな 個 人的 世界 にお け るBildungsroロianとし て描 かれ てい る 。これ が第二の執筆意図である。 エリオットのBildung の 理 念 は 、 最 後 の 小 説 『 ダ ニ エ ル ・ デ ロ ン ダ 』 の両 プ ロッ トに おい て、 も っと も明 確に 読

みとることができる。 53

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学位論文審査の要旨

    

学位 論文題 名

Bildungsideen in the Novels of George Eliot

‑ In Quest for Thought and Deed in Noble Agreement ‑

(ジョージ・エリオットの小説における教養理念

― 「思 想と行 動との優れた結合」を求めて―)

  本論文は、ヴィクトリア朝中期イギリスの作家ジョージ・工リオットの三っの長編小説、

すなわち『アダム・ビード』、『ミドルマーチ』、『ダニエル・デ口ンダ』を取り上げ、そ の中に、ドイツの哲学・文学の影響のあとを、検証しようとした論文である。ジョージ・

エリオッ卜の思想形成に大き、<かかわった哲学者・文学者として、スピノザとゲーテとフ ォイエルバッハを取り上げ、その哲学、思想、芸術技法等がエリオットに与えた影響を考 察している。

  ジョージ・工リオットは、小説家になる前に、スピノザ『エチカ』、フォイエルバッハ

『キリス卜教の本質』、シュ卜ラウス『イエスの生涯』等を英訳し、中でもスピノザ『エ チカ』を常に座右の書と称していた。また、ゲーテ『ファウスト』のグレートヘン挿話を はじめ、ゲーテ文学への傾倒は生涯変わることがなかった。ゲーテの芸術とドイツの聖書 批 評 が 、 小 説 家 ジ ョ ー ジ ・ エ リ オ ッ 卜 を 形 成 し た と 言 っ て も 過 言 で は な い 。   このような理解に立って、本論文は、スピノザ『エチカ』、ジョージ・エリオット『ア ダム・ビード』、ゲーテの小説『親和力』、ジョージ・エリオッ卜『ミドルマーチ』、ゲー テ『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』、ジョージ.エリオット『ダニエル・デ口ン ダ』、ゲーテ『ファウスト』等々、文学・哲学の大作を次々に取り上げて、比較対照研究 を展開している。

  18世紀 末から19世紀にか けての ドイツの 哲学は 、最初コ ールリッ ジによ ってイギリ スに紹介され、イギリスロマン主義の形成理念となった。ドイツ文化から学ぶという姿勢 は、その後カーライルに引き継がれ、さらにはアーノルドに引き継がれ、功利主義に対抗 する19世紀の 中心的な 時代思潮 をっくっていった。本論文のエリオット研究は、哲学や 文学の大作を次々と取り上げながら、ニっの文化圏にまたがる比較対照を行いながら、こ の英文学史の一局面をしっかりととらえており、かなりのカ作と言ってよいと、審査委員 会は判定した。

  審査委員会の審査は、まず、哲学と文学、ドイツ文学とイギリス文学という異なる領域     ‑ 54

彦 三

輝 貞

尾 田

長 山

授 授

教 教

査 査

主 副

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にまたがる比較対照研究という、その試みのスケールの人きさを|;f価した。ジョージ・エ リオットの作ltflだけに限ってみても、収り上げて詳細に諭じた作lMよ、いずれもTぺージ に及ぶk繍小IJ1である。またスビノザの『エチカ』は、それ.っでも、‑r:<|Z論文のテーマ になってもおかしくない難解な読み物であることは苫を待たない。さらにゲーテの作dlr亅は、

『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』、『ファウス卜』のいずれをとっても、itC界丈 学の名著として、゛鯢縄ではいかなし、、重J寥な文学作I弛である。これらの五嬰な作dflを、

本論文の執筆者は、f.分に読みこなし、自家築籠巾のものにしていることが、何よりも評 価されるべきことだと、審査委員会は考えた。

  次に先行研究が少ないと いう点も評価した。ジョージ・エリオットとドイツ文学という テーマは、重要なテーマと して誰もが認めるところであるが、このように詳細にわたって 類似関係をたどった論文は 、英米においても少なぃ。また19世紀イギリスのこの重要な 小説家を研究対象として取り上げる人がそもそも少ない口本においては、なおさらである。

その意味で本論文の成果は大きいと考えた。

  審査担当者は、学位申請者に対する口述試験を含め、前後6回に及ぶ審査委員会をもち、

入念な審査を重ねた。口述 試験に臨んだ学位申請者の受け答えは、博識に支えられ、自信 に満ちた堂々としたもので あった。これらの審査の末に、審査担当者は、本論文が、長年 にわたる研鑽と熟慮の成果 を、壮大なスケールで展開したものであり、学位授与の基準を 十分満たす研究成果である という点で、意見の―致を見て、その旨の審査報告を教授会に 対して行った。

55 ‑

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