博 士( 環境科 学)鬼 丸和幸
学 位 論 文 題 名
Factors controlling the vegetation in
pattern of sedge fen Hokkaido
( 北 海 道 に お け る ス ゲ 湿 原 の 植 生 パ タ ー ン 決 定 要 因 )
学 位 論文 内 容 の 要旨
湿原 生ス ゲ属4種の 分布 パタ ーンを調べ、無機環境要因、生物的要因および吸収 栄養回収効 率 の 違 い が 、 こ れ ら の 分 布 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る こ と を 示 唆 し た 。
1スゲ属種の分布パターンと無機環境要因の関係
(1) 勇 払 湿原 に広 く分 布、 生 育す るス ゲ属4種 (ヤ チス ゲ 、ム ジナ スゲ 、ツ ルス ゲ、 オオ ア ゼ ス ゲ ) に つ い て 、 分 布 パ タ ー ン と 無 機 環 境 要 因 の 関 係 に つ い て 分 析 し た 。 (2)調 査地 点は お もに 、北 海道 の低 層湿 原の 特徴 型を 示し てい る氾 濫原 湿原、中間湿原 、 および谷湿原を中心に58地点設定した。
(3)無機環境要因については、平均水位・水位変 動性・泥炭水化学成分濃度(pH,NH。+・N, N03。−N,T−N,T‑P,K゛,Q2十,Mg2十冫について解析した。
(3)デー夕解析には、CくニA解析(canonical correspondence analysis)を用い、種の分布と無機環 境要因との対応関係を明らかにした。
(4)勇 払湿 原の 植 生は 、水 位変 動性 、平 均水 位、 泥炭 水中 窒素 、リ ン、 カリウム濃度に 大 き く影 響さ れて いた 。ツ ルス ゲは 、泥 炭水 中に 無 機栄養元素を多く含み、水位変動が激しい 環 境 に多 く分 布し た。 これ とは 反対 にヤ チス ゲと ム ジナスゲは、比較的貧栄養で、水位変動が 小 さ い環 境に 多く 分布 した 。オ オア ゼス ゲは 、泥 炭 水中の窒素濃度が高い環境に多く分布した 。
2表層 水の 流動 が、 水位 勾配 に沿 って 分布 して い るヤ チス ゲ、 およ びム ジナ スゲ の分 布・
生 育に 及ぼ す影 響
(1) 勇払 湿原 の一 部で ある トキ サタマップ湿原において、表層水の 流動性がヤチスゲ、お よ び ム ジ ナ ス ゲ の 局 所 的 な 分 布 、 生 育 に 与 え る 影 響 に つ い て 分 析 し た 。 (2) ヤチ スゲ の被 度は 平均 水位 と有意に正の相関を示したが、ムジ ナスゲの被度は有意に 負 の相 関を示し た。ムジナスゲが密度および単位面積当りの地上部乾物 重は、平均水位と有意 に 負の 相関 を示 した 。
(3) 表層 水が 停滞 して いる 環境 では、ヤチスゲの丈長およびムジナ スゲの丈長・地上乾物 重 は、 平均水位 と有意に負の相関を示したが、表層水が流動している環 境では、両種の丈長・
地 上部 乾物 重は 、平 均 水位 と有 意な 相関 は示 さな かっ た。
(4)高い溶存酸素濃度を伴う表層水の流動性は、植物の丈長や乾物重に負の影響を与えて いる 水没ストレス の影響を緩和していると考えられた。その結果、表層水が流動する環境 では、水位が比較的低い環境に多く分布する大型のムジナスゲにとって、より水位が高い環境 ヘ進出するチャンスが与えられる可能性が示された。またそれにより、水位が高い環境に生育 する小型のヤチスゲの分布域が、ムジナスゲとの競合により制限されることが考えられた。
3無機環境要因、体内窒素・リン回収効率、およびヨシによる被陰が、ムジナスゲおよび オオアゼスゲの分布に与える影響
(1)無機環境要因の影響、体内窒素・リン回収効率、およびヨシによる被陰に対する比葉 面積(SLA)の可塑性を分析することにより、ムジナスゲ(貧栄養環境に多く分布)、および オ オ ア ゼ ス ゲ ( 富 栄 養 環 境 に 多 く 分 布 ) の 分 布 パ タ ー ン の 違 い を 明 ら か に し た。
(2)ムジナスゲの分布は、ヨシの被度と強い負の相関関係を示したが、オオアゼスゲの分 布は、ヨシの被度と有意な相関を示さ・なかった。
(3)オオアゼスゲのSLAは、単位面積当りのヨシの地上部乾物重と有意に正の相関を示し たが、ムジナスゲのSLAは有意な相関を示さなかった。オオアゼスゲはSLAを可塑的に変える ことにより、ヨシによる被陰の影響を緩和でき、このことがヨシが多く分布している富栄養環 境への進出を可能にしているものと考えられた。
(4)窒素・リンの地上部残存率は、オオアゼスゲがムジナスゲの1.7倍高い値を示した。
(5)ムジナスゲは、吸収した栄養を効率的に再回収できるため、貧栄養環境でも生育でき るものと考えられた。しかし、ヨシによる被陰に対する適応性が欠如しているため、ヨシが広 く分布する富栄養環境へは進出できないものと考えられた。
これらの結果をもとに、無機環境要因、種間相互作用、および栄養回収効率の違いから、湿 原生スゲの分布のメカニズム゛を考察した。
学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査 教授 甲山隆司 副査 教授 山村悦夫 副査 教授 東 正剛 副査 助教授 福田弘巳
副査 助教授 大原 雅(農学部)
学 位 論 文 題 名
Factors controlling the pattern of sedge fen vegetation in Hokkaido
( 北 海 道 に お け る ス ゲ 湿 原 の 植 生 パ 夕 一 ン 決 定 要 因 )
本 申 請 論 文 は , 北 海 道 勇 払 湿 原 に 広 く 分 布 , 生 育 す る ス ゲ 属4種 ( ヤ チ ス ゲ 、 ム ジ ナ ス ゲ 、 ツ ル ス ゲ 、 オ オ ア ゼ ス ゲ ) を 対 象 と し , そ れ ら の 分 布 パタ ーン を多 角的 に解 析し , 湿 原 生 態 系 に お い て 無 機 環 境 要 因 , 個 々 の 種 の 生 理 特 性 の 違 い , な ら ぴ に 被 圧 を 介 し た 生 物 間 相 互 作 用 が 植 物 の 分 布 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る こ と を 明 か に し た も の で あ る . 本論 文は3章か ら構 成さ れて いる ・
第1章 は , ス ゲ 属4種 の 分 布 パ タ ー ン と 無 機 環 境 要 因 と の 関 係 を 論 じ て い る . 調 査 地 点 は , 北 海 道 の 低 層 湿 原 の 特 徴 型 を 示 し て い る 氾 濫 原 湿 原 , 中 間 湿 原 , お よ び 谷 湿 原 を 中 心 に58地 点 設 定 し た . 無 機 環 境 要 因 に つ い て は 、 平 均 水 位 ・ 水 位 変 動 性 ・ 泥 炭 水 化 学成 分濃 度(pH,NH4+‑N,N03・ ‑N,T‑N,T−P,K゛,Ca2+,Mg2)について解析し,デー夕解 析 に は ,CCA解 析(Canonical Correspondence Analysis)を 用 い, 種の 分布 と無 機環 境要 因 と の 対 応 関 係 を 明 ら か に し た . そ の 結 果 , 勇 払 湿 原 の 植 生 は , 水 位 変 動 性 , 平 均 水 位 , 泥 炭 水 中 窒 素 , リ ン ・ カ リ ウ ム 濃 度 に 大 き く 影 響 さ れ て い た . ツ ル ス ゲ は , 泥 炭 水 中 に 無 機 栄 養 元 素 を 多 く 含 み , 水 位 変 動 が 激 し い 環 境 に 多 く 分 布 し て い た . こ れ と は 反 対 に ヤ チ ス ゲ と ム ジ ナ ス ゲ は , 比 較 的 貧 栄 養 で 水 位 変 動 が 小 さ い 環 境 に 多 く 分 布 し た . オ オ アゼ スゲ は, 泥炭 水中 の窒 素濃 度 が高 い環 境に 多く 分布 した .
第2章 は , 表 層 水 の 流 動 が ヤ チ ス ゲ と ム ジ ナ ス ゲ の 分 布 ・ 生 育 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 論 じ て い る . ヤ チ ス ゲ の 被 度 は 平 均 水 位 と 有 意 に 正 の 相 関 を 示 し た が , ム ジ ナ ス ゲ の 被 度 は 有 意 に 負 の 相 関 を 示 し た . ム ジ ナ ス ゲ の 密 度 お よ び 単 位 面積 当り の地 上部 乾物 重は , 平 均 水 位 と 有 意 に 負 の 相 関 を 示 し た . 表 層 水 が 停 滞 し て い る 環 境 で は 、 ヤ チ ス ゲ の 丈 長 お よ び ム ジ ナ ス ゲ の 丈 長 ・ 地 上 乾 物 重 は , 平 均 水 位 と 負 の 相 関 を 示 し た が , 表 層 水 が 流 動 し て い る 環 境 で は , 両 種 の 丈 長 ・ 地 上 部 乾 物 重 は , 平 均 水 位と 有意 な相 関は 示さ なか っ
た.高い溶存酸素濃度を伴う表層水の流動性は,植物の丈長や乾物重に負の影響を与え ている 水没ストレス の影響を緩和していると考えた.その結果,表層水が流動する 環境では,水位が比較的低い環境に多く分布する大型のムジナスゲにとって,より水位 が高い環境へ進出するチャンスが与えられる可能性を指摘した.またそれにより,水位 が高い環境に生育する小型のヤチスゲの分布域が,ムジナスゲとの競合により制限され ることを示唆した.