博 士 ( 医 学 ) 毛 培 忠
学 位 論 文 題 名
ヒト転写調節因子GCF のcDNA 及び蛋白質一次構造の修正 学位論文内容の要旨
転 写 調 節 因 子GCF(GC Factor)は 、 上 皮 増 殖 因 子 受 容 体(EGFR)遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ ー 領 域 のGCーrich配 列 に 結 合 し 、 そ の 転 写 を 抑 制 す る 因 子 と し て 報 告 さ れ た 。 ま た 同 時 に 、 そ の 遺 伝 子cDNAも ヒ ト 上 皮 様 癌 細 胞 株A431か ら ク ロ ー ニ ン グ さ れ た 。 そ の 後GCFは 、 EGFR遺 伝 子 の み で な く 、TGF‑a等 そ の 他 の 増 殖 因 子 や 増 殖 因 子 受 容 体 遺 伝 子 の 発 現 も 制 御 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。 ま た 、GCFを 過 発 現 さ せ た ヒ ト 胃 癌 細 胞 で は そ の 増 殖 が 抑 制 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。GCF蛋 白 質 に つ い て 特 に 注 目 す べ き こ と は 、N末 端 が 著 し く 塩 基 性 に 富 ん で い る こ と で あ る 。 特 に 、 最 初 の30の ア ミ ノ 酸 の う ち19個 が り ジ ン ま た は ア ル ギ ニ ン で あ る と ぃ う 、 極 め て ま れ な ア ミ ノ 酸 配 列 と な っ て い る 。 そ こ で 、 本 研 究 に お ぃ て 、GCF蛋 白 質 のN末 側 の 構 造 お よ び そ のcDNA塩 基 配 列 を 再 検 討 す る こ と を 試 み た 。
[材料と方法]
1. 細 胞 : ヒ ト 細 胞 株A431( 上 皮 様 癌 細 胞 ) 、HeLa(子 宮頚 癌細 胞) 、HL60(前 骨髄 球性 自血 病 細 胞 ) 、HFL( 肺 線 維 芽 細 胞 ) 、LCL(Bリ ン パ芽 球 様細 胞) 、Jurkat (Tリン パ 性自 血病 細胞 ) 及 びヒ ト正 常自 血球 細胞 。
2.5|Rapid Amplification of cDNA End(5|RACE)法 :A431細 胞等 のRNAを抽 出し た後 、GCFに 特 異 的 な プ ラ イ マ ー を 用 いcDNAを 合 成 し 、 こ れ を 鋳 型 と し てPCRとNested PCRを 行 っ た 。 3. RNase Protection Assay:GCFの ゲ ノ ムDNA断 片 を プ ラ ス ミ ド ベ ク ター に 組込 んで 、T3ボ リ メ ラ ー ゼ に よ ル リ ボ プ ロ ー ブ を 作 成 し た 。 こ れ とTotal RNAと を ハ イ ブ リ ッ ド 形 成 さ せ た 後 、RNase処 理 を 行 っ た 。 保 護 さ れ た 断 片 を 変 性 ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ル レ で 電 気 泳 動 し て 解析 した 。
4. Reverse Transcription―Polymerase Chain Reaction(RT―PCR)及びゲノムDNAのPCR:GCFの 特 異 的 な プ ラ イ マ ー ま た はOLigo dTプ ラ イ マ ー を 用 い 、 各 細 胞 のTotal RNAか らcDNAを 合 成 し た 。 こ れ を 鋳 型 と し てPCRを 行 っ た 。 ゲ ノ ムDNAは 、LCL細 胞 とA431細 胞 か ら 精 製 し 、 こ れをPCRに 用い た。
5. DNA塩 基 配 列 の 決 定 :RACE産 物 及 びRT‑PCR産 物 等 を プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ー に サ ブ ク ロ ー ニ ン グ し 、 ジ デ オ キ シ 法 に よ り 螢 光 自 動DNAシ ー ク ェ ン サ ー を 用 い て 塩 基 配 列 を 決 定 し た。
6. 抗 体 の 作 成 :GlutathioneSTransferase(GST)とGCFと の 融 合 蛋 白 質 (GST‑GCF)を 発 現 す る プ ラ ス ミ ド を 構 築 し た 。 こ れ を 大 腸 菌 株 (HB101) に 導 入 し 、 大 腸 菌 か らGST‑GCF蛋 白 質 を 精 製 し 家 兎 に 免 疫 し た 後 、 血 液 を 採 取 し た 。 こ の 免 疫 血 清 をGST蛋 白 に よ り 吸 収 し 、 こ れを 抗GCF抗体 とし た。
7. 免 疫 沈 降 法 と ウ ェ ス タ ン ブ ロ ツ 卜 法 : 培 養 細 胞 由 来 蛋 白 抽 出 液 を 抗GCF抗 体 ま た は 免 疫 前 血 清 と 免 疫 沈 降 さ せ た 。 共 沈 物 を8%SDS‑PAGEで 分 離 し 、 メ ン ブ レ ン に ブ ロ ツ 卜 後 、 抗GCF抗 体 を 反 応 さ せ た 。 ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 標 識 し た 抗 兎Ig抗 体 と 反 応 さ せ た 後 、 化 学 発 光 法に より 検出 した 。
8 .免疫螢光法:A431 及びHela 細胞をスライドガラスに蒔き、4 %ノくラホルムアルデヒドで 処理 した 。一 次抗 体( GCF 抗 体) と反 応さ せた 後PBS で洗 浄し 二次抗体(FITC‑conjugated goat antlIrabbitantibody )を反応させた後、其焦点レーザー螢光顕微鏡にて観察した。
[結果]
1 . GCF cDNA5 |末端の再決定:
5tRACE 法 を用 いて GCF cDNA の5t 末端 をク ロー ニン グし た。 この 5 |RACE 産 物の 塩基 配 列 は、 以前 に報 告さ れた GCF cDNA の309 番目から3t 傾U の塩基配列と一致したが、308 番目 よ り5 |側 は全く異なる配列であった。また、5 |RACE 産物は、308 番目より5 |側に新しぃ 31bp を 含 ん でい た。 この 新し ぃGCF cDNA の 5 味端 の塩 基配 列を 確認 する ため に、 相当 す る ゲ ノ ム DNA の 数 百 塩 基 対の 配 列 を 決 定 し た 。 そ の 結 果 、 新 し く ク ロ ーニ ング され た 31bp の 配列 は、 以前 に報 告さ れた cDNA の309 番目に相当するゲノムDNA のすぐ5 |側に続い て い る こ と が 示 さ れ 、 上 述 の RACE に よ る結 果と 一致 した 。し かし 、以 前に 報告 され た GCF cDNA の 308 番目 から5t 側の 配列 は、 見い 出さ れな かっ た。 また この308 個の塩基対の cDNA は 選択 的ス プラ シイ ング の結 果で はな いこ とが示 され た。 A431 細胞及びHeLa 細胞由 来のRNA を用いたRNase Protection Assay の結果は、保護された主なノヾンドが約180 塩基の 大きさであり、これはRACE の結果と良く一致した。
2 . 以 前 報 告 さ れ た GCF cDNA の 787 番 目 の ¨ T ¨ は 実 際 に は 存 在 し な ぃ : A431 細 胞 由 来 の RT‑PCR 産 物 の 塩 基 配 列 を 決 定 し た と こ ろ 、 以 前 に 報 告 さ れ た GCF cDNA の 787 番目の¨T ¨を見い出すことができなかった。その他の細胞株と正常自血球細胞 も 同様 に検 討し たと ころ 、A4 31 細 胞と 同じ結果であった。これをさらに確認するため、
A431 細 胞 と LCL 細 胞 か ら 回収 し た ゲ ノ ム DNA の塩 基配 列を 決定 した 。そ の結 果、 RT‑PCR の結果と一致して、787 番目の¨T ¨は認められなかった。
3 . GCF cDNA の中に見い出された114bp の新しぃ塩基配列:
GCF cDNA 全て の部 分に つい てRT −PCR を行 って 塩基 配列 を決 定し たと ころ 、以 前に 報 告 され たcDNA の 851 番目と 852 番目 との 間に114bp からなる新しぃ配列を見い出した。これ は 、 ヒ 卜 正 常自 血球 細胞 を含 む数 種の 細胞 由来 のRNA で確 認さ れた 。A4 31 と LCL 細胞 か ら 回 収 し た ゲノ ムDNA の 塩基 配列 を調 べた結 果、 GCF cDNA の851 と 852 番 目に 対応 する ゲ ノ ム DNA に も 、 新 し く 見 出さ れ た 114bp から なる 配列 が認 めら れる こと が確 認で きた 。 GCF cDNA の そ の 他 の 部 分 に つ い て は 、 以 前 に 報 告 さ れ た 塩 基 配 列 と 一 致 し た 。 4 .修正されたGCF アミノ酸配列:
本 研 究 で 修正 され た野 生型 GCF cDNA は、 2661 個の 塩基 対よ りな り、GCF 蛋 白質 につ い て は781 個 のア ミノ 酸から なる 。以 前に 発表 され たも のに 比べ てN 末 の部分のアミノ酸約 200 個 が 全 く 異 な っ て い た 。 新 し ぃ 翻 訳 開 始 点に 近 く の 塩 基 配 列 (CTCGG CCATGG ) は Kozak のコ ンセ ンサ ス配列 と良 く一 致し た。 また DNA と 蛋白 質デ ータ ベース検索の結果に よ ると 、修 正さ れた GCF に 対し て、 以前 に報 告さ れた GCF の 他に 高い ホモログは存在しな かった。
5 .抗GCF 抗体の特異性とGCF 蛋白質の細胞内局在:
作成 した 兎抗 GCF 抗体が 検出 した 細胞 蛋白 質は 、ほ ぼlOOKd 位 であ った。また、免疫吸 収 実験 結果 によ り、 この 抗体 の活 性は 、GCF を特異的に認識するものであることが示され た 。 こ の 抗 体 を 用 い て GCF 蛋 白 質 の 細 胞 内 局 在 を 免 疫 螢 光 法 に て 検 討 した 。そ の結 果 HeLa 細胞とA431 細胞其に核内に強い染色像が認められた。
[結論]
本研 究で は、 既に 発表さ れて いる 遺伝 子の GCF cDNA とそ の遺 伝子産物のアミノ酸配列
に 著 し ぃ 誤 り が あ る こ と を 明 ら か に し た。遺 伝子 の機 能を 明ら かに する ため には その
cDNA 及 び蛋 白質 のア ミノ酸 配列 に誤 りが ない こと が必 須で あり 、本研究は近年のゲノム
プロジェクトを初めとする生物学研究に対するーつの警告と考えることができる。本研究
により明らかになったGCF cDNA は2661 個の塩基対よりなり、コードされるGCF 蛋白質は
781 個のアミノ酸からなる核蛋白質であった。修正されたGCF cDNA とアミノ酸配列に基
い て 、 こ の 核 蛋 白 質 の 本 来 の 機 能 を 明 ら か に す る こ と が 可 能 と な っ た 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ヒト転写調節因子GCF のcDNA 及び蛋白質一次構造の修正
転 写 調 節 因 子GCF (GC Factor)は 、 上 皮 増 殖 因 子 受 容 体(EGFR)遺 伝 子 プ ロ モ ー タ ー 領 域 のGCに 富 ん だ 配 列 に 結 合 し 、 そ の 転 写 を 抑 制 す る 因 子 と し て 報 告 さ れ た 。 し か し 報 告 さ れ て い たGCF蛋 白 質 の1次 構 造 は 、N末 端 が 著 し く 塩 基 性 に 富 む 極 め て ま れ な ア ミ ノ 酸 配 列 か ら た っ て い た 。 本 研 究 で は 、GCF蛋 白 質 のN末 側 の 構 造 お よ び そ のcDNA塩 基 配 列 を 再 検 討 し 、 野 生 型GCFの 全cDNAの 塩 基 配 列 と そ の 蛋 白 質 の ア ミ ノ 酸 配 列 を 決 定 し た 。 ま ず 、5 RACE法 やRNase protection assayに よ りGCFの5 末 端 を 決 定 し た と こ ろ 、 以 前 に 発 表 さ れ て い たcDNAの308番 目 よ り5 側 の 塩 基 配 列 は 検 出 さ れ な か っ た 。 ま た そ れ に か わ っ て 新 た な31bpの 塩 基 配 列 が 同 定 さ れ た 。 同 時 に 正 常 細 胞 を 舎 む 複 数 の 細 胞 のRNA由 来RT−PCR産 物 を 用 い てGCFの 塩 基 配 列 を 解 析 し た と こ ろ 、 以 前 に 発 表 さ れ て い るcDNAの787番 目 のTは 、 実 際 に は 存 在 し な か っ た 。 さ ら に 、851と852番 目 の 塩 基 の 間 に は114塩 基 よ り な る 新 た な 配 列 が 、 正 常 細 胞 を 合 む 複 数 の 細 胞 で 見 い 出 さ れ た 。 こ の cDNA塩 基 配 列 の 結 果 は 、Genome DNAの 塩 基 配 列 と も 一 致 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 修 正 さ れ たGCF cDNAは2661個 の 塩 基 対 よ り な り 、 コ ー ド す る 蛋 白 質 は781個 の ア ミ ノ 酸 か ら な っ て い た 。 次 に 、 家 兎 にGCF蛋 白 質 を 免 疫 し 、 分 子 量 約100kDaの 蛋 白 質 を 特 異 的 に 認 識 す る 抗 体 を 作 製 し た 。 こ の 抗 体 を 用 い た 免 疫 螢 光 法 に よ り 、 修 正 さ れ たGCF 蛋 白 質 の 細 胞 核 内 の 局 在 が 確 認 さ れ た 。 本 研 究 に よ り 明 ら か に な っ たGCFcDNAは2661 個 の 塩 基 対 よ り な り 、 コ ー ド さ れ るGCF蛋 白 質 は781個 の ア ミ ノ 酸 か ら な る 核 蛋 白 質 で あ っ た 。
審 査 に 当 た っ て は 、 副 査 西 教 授 よ り 、1. 修 正 前 のGCFcDNA配 列 で3種 類 の 誤 り が み ら れ た 理 由 と し て ど の よ う な こ と が 考 え ら れ る か に つ い て 、2. 新 た に 作 製 し た 抗 体 を 用 い た 結 果 と す で に 報 告 さ れ て い る 成 績 の 異 同 に つ い て 、 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は こ れ ら の 質 問 に 対 し て ほ ぼ 適 切 な 回 答 を お こ な っ た 。 さ ら に 副 査 守 内 教 授 よ り 、1. 修 正 さ れ た GCF蛋 白 質 のDNA結 合 活 性 な ど 転 写 調 節 因 子 と し て の 性 質 に つ い て 、2.修 正 さ れ た
暹三 也 信哲 巻 内 葛西 守 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副