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現代日本企業の経営者

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Academic year: 2021

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     博士(経営学)石井 学位論文題名

現代日本企業の経営者

学位論文内容の要旨

  本研究は、現代日本企業とくに大企業の経営者を対象とした研究である。現代 日本企業の経営者の選任と選任された経営者による全社経営戦略についての研究 である。前半の現代日本企業の経営者の選任にっいての研究に第I部から第ni部 までが、後半の経営者と全社経営戦略についての研究に第W部があてられている。

  第一の経営者の選任は、株式会社制度の発達とともに、長い間、研究者の分析 対象となってきた。バーリ・ミーンズの「所有権と支配の分離」に関する議論を 出発点として、所有者あるいは大株主以外の経営者、チャンドラーのいう「常勤 の俸給管理者がミドル・マネジメントだけでなく、トップ・マネジメントをも支 配しているという点で、企業者企業と区別される経営者企業」が研究されてきた。

  まず、基本的には、経営者には、所有者あるいは大株主である経営者と、専門 経営者の二類型がある、ということには、これまでの研究の合意があるといって もよいだろう。そして、現在でも中小企業の経営者あるいはそこから急成長した 企業の経営者 には、創業者 あるいは同族の所有者が経営者である場合が多い。

  それでは、専門経営者とは誰か。現代日本の大企業の専門経営者には、内部昇 進者が多いことは、衆目が一致する。従って、内部昇進の仕組みと経営者の選任 についての研究が、専門経営者の研究においては重要である。内部昇進の仕組み とは、労働経済学が主たる研究対象としている企業内の人事制度、雇用慣行の中 に存在する。第I部では、労働経済学とりわけ小池和男教授の議論をふまえて、

日本企業の内部昇進の仕組みについて検討する。日本企業の大卒ホワイトカラー の内部昇進の仕組みは、  「おそい昇進方式」というきわだった特徴を持っている。

おそい昇進方 式では、おお よそ入社15年目ごろまでの第一段階において、それ ぞれの「やや幅広い」専門領域での現場の働きが重視され、昇進・収入などで格 差はほとんどっかない。管理職への選抜をメルクマ―ルとする第二段階では、業 績評価・能力向上などの査定による資格(ランク)への昇進格差が、急、速に拡大 する。そういう意味で、日本企業の大卒ホワイ卜カラ―の人事制度は、競争原理 にもとづく長期内部昇進競争なのである。

  おそい昇進方式の第二段階において、常に変動する市場環境に対応して、ミド ルアップによる長期・短期に戦略的な意思決定そして戦略的行動をとりうる少数 の中心的な役割を担うミドルマネジメントが周囲にも明確になってくる。こうし

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た企業に最も貢献する実権リーダー連が、っぎの経営者選任の候補者になる。こ こでは実権リーダ―仮説を中心に、経営者選任への長期内部昇進競争を分析する。

  一方、第n部は、経営者と株主、従業員の関係を分析する。専門経営者による 経営において、株主の影響カがまったくなくなってしまったと考えることは、事 実においても、会社法制度の上からも、正しい認識ではない。株式所有の分散が 専門経営者の登場のーっの契機になったということはありえても、専門経営者に よる経営と、大株主の所有ある。、は株主の連携による議決権の確保による株主の 影響カは両立しうる。こうした専門経営者と株主の影響カの関連の問題は、近年 はコーポレー卜ガバナンスの問題として議論されている。さらに、日本の大企業 では、安定株主化、メインバンク慣行、株式持ち.合いなどがこれまで研究対象と なっており、専門経営者と株主の影響カの問題を検討するにあたって重要である。

  第I部における日本企業のコーポレートガバナンスの問題は、企業の所有と経 営の分離、企業の最高意思決定の所在、最高意思決定に対するチェック機能の問 題に整理できる。急成長企業における「所有と経営の一致」や親会社による子会 社に対する株主としての影響カは、経営者の選任という経営の最高意思決定にお いて、顕著に表れる。他方、長期内部昇進競争を経て経営者に選任された内部昇 進の専門経営者の最高意思決定に対しては、どのようなチェック機能があるのか。

本研究では、安定株主グループの代表としてのメインバンクの機能、企業グルー ブによる株式持ち合いと安定株主の機能の違いなどの分析を通じて、専門経営者 へのチェック機能を検討する。さらには、長期内部昇進競争による経営者選任の あり方自体がチェック機能としても重要である。

  第m部では経営者選任の実証研究を日本の大企業を対象として行う。本研究で は、内部昇進、同族、親会社、官庁・金融機関それぞれからの新社長選任のケー スを分析し、社長選任の仕組みについての枠組みと類型についての考え方を示す。

  特に内部昇進の新社長選任の仕組みにおいては、その取締役選任時期が重要で あることが分析され、スポンサー型、ファース卜トラック型、標準型、超長期競 争型という多様な経営者選任の仕組みがあることが明らかにされる。そして、そ の仕組みの違。ヽは、人事戦略、実権リーダーの選抜の時期、中高年ミドルマネジ メントのインセンティブ、経営者のりーダーシップなどに影響をおよぽす。さら に、株主の影響カのな。ヽという意味できわだった特色を持つ生命保険産業を具体 例とした、長期内部昇進競争による詳細な取締役選任のあり方について、、実証的 に分析される。ここでも、ファース卜トラック型と標準型の経営者選任の仕組み が確認され、能力主義の人事戦略へのシフトが起きていることが明らかにされる。

  次に第I部では、大企業における全社経営戦略とそこにおける経営者の役害uに ついて諭じる。企業の経営戦略は、各事業戦略、製品戦略、生産戦略、マーケテ イング戦略、財務戦略などとして、各担当組織で企画・実行されている。社長を はじめとする経営者が関与する戦略は、そうした個々の戦略ではなく、  「全社」

経営戦略である。経営とは、全社経営戦略での意思決定に関わる主体間の調整や りーダーシップのとり方である。しかも、それは短期間ではなく、長期間に渡る プロセスである。ある意思決定が単独でなされることはなく、連続的なあるいは

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積み重ねとしてなされるのである。また、全社経営戦略は経営者の選任と密接な 関連がある。前任の経営者との同質な経営をめざすのか、異質な経営をめざすの か、それは誰が経営者として選任されるのか、によって異なってくるからである。

  ケーススタディとしては、産業の成熟化と企業の多角化という「長征」におけ る内部昇進経営者の長期のりーダーシップとその弊害、国際化の進展に伴う「異 質経営」の導入が求められた企業における経営者選任の仕組み、高成長と研究開 発志向の組織におけるエンジニアのインセンティプ重視型の「超長期昇進競争」

が分析される。さらには、現在議論となっている「日本企業の転機」諭に対して、

その議論の主たる対象になっているエレクト口ニクス産業のケーススタディを行 う。本研究では、シリコンバレーモデルと総合工レク卜ロニクス企業の競争は、

全社経営戦略の競争であり、経営者の競争であるという立場に立っ。両者の経営 者選任の仕組みの違いを明らかにし、そのインプリケーションを導く。最後に、

日本企業の組織変革の仕組みを、ケーススタディによって明らかになった実権リ ーダーたちの役割から、解明する。

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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査   教授    小林好宏 副査   教授    寺本義也 副査   教授    金井一頼

副査   教授   永井   猛(早稲田大学)

副査   教授   内野   崇(学習院大学)

学 位 論 文 題 名

現 代 日 本 企 業 の 経 営 者

  本 研 究 は 、 現 代 日 本 企 業 と く に 大 企 業 の 経 営 者 の 選 任 と 選 任 さ れ た 経 営者 によ る 全 社 経 営 戦 略 に つ い て の 研 究 で あ る 。 前 半 の 現 代 日 本 企 業 の 経 営 者 の 選 任に つい て の 研 究 に 第I部 か ら 第m部 ま で が 、 後 半 の 経 営 者 と 全 社 経 営 戦 略 に つ い て の 研 究 に IV部 が あ て ら れ て い る 。 「 日 本 の 大 企 業 は 、 誰 に よ っ て 、 ど の よ う に 経営 され て い る の か 」 と い う 課 題 で あ る 。

  第 一 の 経 営 者 の 選 任 は 、 株 式 会 社 制 度 の 発 達 と と も に 、 長 い 間 、 研 究 者の 分析 対 象 と な っ て き た 。 バ ー リ ・ ミ ー ン ズ の 「 所 有 権 と 支 配 の 分 離 」 に 関 す る 議論 を出 発 点 と し て 、 所 有 者 あ る い は 大 株 主 以 外 の 経 営 者 、 チ ャ ン ド ラ ― の い う 「 常勤 の俸 給 管 理 者 が ミ ド ル ・ マ ネ ジ メ ン ト だ け で な く 、 卜 ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト を も 支配 して い る と い う 点 で 、 企 業 者 企 業 と 区 別 さ れ る 経 営 者 企 業 」 が 研 究 さ れ て き た 。   ま ず 、 基 本 的 に は 、 経 営 者 に は 、 所 有 者 あ る い は 大 株 主 で あ る 経 営 者 と、 専門 経 営 者 の 二 類 型 が あ る 。 そ し て 、 現 在 で も 中 小 企 業 の 経 営 者 あ る い は そ こ から 急成 長 し た 企 業 の 経 営 者 に は 、 創 業 者 あ る い は 同 族 の 所 有 者 が 経 営 者 で あ る 場 合が 多い 。   そ れ で は 、 専 門 経 営 者 と は 誰 か 。 現 代 日 本 の 大 企 業 の 専 門 経 営 者 に は 、内 部昇 進 者 が 多 い 。 内 部 昇 進 の 仕 組 み と 経 営 者 の 選 任 に つ い て の 研 究 が 、 専 門 経 営者 の研 究 に お い て は 重 要 で あ る 。

  内 部 昇 進 の 仕 組 み と は 、 労 働 経 済 学 が 主 た る 研 究 対 象 と し て い る 企 業 内の 人事 制 度 、 雇 用 慣 行 の 中 に 存 在 す る 。 第I部 で は 、 こ れ ま で の 日 本 的 経 営 諭 を 再 点 検 し た 後 に 、 労 働 経 済 学 と り わ け 小 池 和 男 教 授 の 議 論 を ふ ま え て 、 日 本 企 業 の 内部 昇進 の 仕 組 み に つ い て 検 討 し て い る 。 日 本 企 業 の 大 卒 ホ ワ イ ト カ ラ ー の 内 部 昇 進の 仕組 み は 、 「 お そ い 昇 進 方式 」と いう き わだ った 特徴 を持 って いる 。お そい 昇進 方式 では 、 お よ そ 入 社15年 目 ご ろ ま で の 第 一 段 階 に お い て 、 そ れ ぞ れ の 「 や や 幅 広 い 」 専 門 領 域 で の 現 場 の 働 き が 重 視 さ れ 、 昇 進 ・ 収 入 な ど で 格 差 は ほ と ん ど っ か ない 。管 理 職 へ の 選 抜 を メ ル ク マ ー ル と す る 第 二 段 階 で は 、 業 績 評 価 ・ 能 力 向 上 な どの 査定 に よ る 資 格 ( ラ ン ク ) へ の 昇 進 格 差 が 、 急 速 に 拡 大 す る 。 そ う い う 意 味 で 、日 本企 業

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の大卒ホワイトカラーの人事制度は、競争原理にもとづく長期内部昇進競争である と、石井氏は特徴づける。

  これまでの労働経済学における研究は`ほとんどが課長クラス、部長になるまで しか対象にしてこなかった。その上位層(それは経営学にとって重要な領域だが)

の選任過程の研究はほとんど扱われていなかった。氏の研究の主眼点はそこに向け られる。おそい昇進方式の第二段階において、常に変動する市場環境に対応して、

ミドルアップによる長期・短期に戦略的な意思決定そして戦略的行動をとりうる少 数の中心的な役割を担うミドルマネジメントが周囲にも明確になってくる。そこで 氏は実権リーダー仮説と呼ぷものを提示する。実権リーダーとここで呼んでいるの は、トップマネジメントの支援を受けて戦略的意思形成を推進する少数のミドル層 である。この企業に最も貢献する実権リーダー達が、っぎの経営者選任の候補者に なる。氏は実権リーダー仮説を中心に、経営者選任への長期内部昇進競争を分析す る。この長期内部昇進競争のあり方が日本企業の全社経営戦略を大きく左右するの である。

  一 方、 第n部 は、 経営者と株主、従業員の関係を分析する。専門経営者による経 営において、株主の影響カがまったくなくなってしまったと考えることは、事実に おいても、会社法制度の上からも、正しい認識ではない。株式所有の分散が専門経 営者の登場のーつの契機になったということはありえても、専門経営者による経営 と、大株主の所有あるいは株主の連携による議決権の確保による株主の影響カは両 立しうる。こうした専門経営者と株主の影響カの関連の問題は、近年はコーポレー トガバナンスの問題として議論されている。さらに、日本の大企業では、安定株主 化、メインバンク慣行、株主持ち合いなどがこれまで研究対象となっており、専門 経 営 者 と 株 主 の 影 響 カ の 問 題 を 検 討 す る に あ た っ て 重 要 で あ る 。   第II部における日本企業のコーポレー卜ガバナンスの問題は、企業の所有と経営 の分離、企業の最高意思決定の所在、最高意思決定に対するチェック機能の問題に 整理できる。急成長企業における「所有と経営の一致」や親会社による子会社に対 する株主としての影響カは、経営者の選任という経営の最高意思決定において、顕 著に表れる。他方、長期内部昇進競争を経て経営者に選任された内部昇進の専門経 営者の最高意思決定に対しては、どのようなチェック機能があるのか。本研究では、

安定株主グループの代表としてのメインバンクの機能、企業グループによる株主持 ち合いと安定株主の機能の違いなどの分析を通じて、専門経営者へのチェック機能 を検討する。さらには、長期内部昇進競争による経営者選任のあり方自体が、価格 メカニズムのようにチェック機能としても重要である。

  m部で は経 営者 選任の実証研究を日本の大企業を対象として行っている。本研 究では、内部昇進、同族、親会社、官庁・金融機関それぞれからの新社長選任のケ ースを分析し、社長選任の仕組みについての枠組みと類型についての考え方を示し ている。

  特に多数を占める内部昇進の新社長選任の仕組みにおいては、その取締役選任時 期が重要であることが分析され、スポンサー型、ファーストトラック型、標準型、

超長期競争型という多様な経営者選任の仕組みがあることが明らかにされる。そし て、その仕組みの違いは、企業の人事戦略、実権リーダーの選抜の時期、中高年ミ ドルマネジメントのインセンティプ、経営者のりーダーシップなどに影響をおよぼ

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す。さらに、株主の影響カのないという意味できわだった特色を持つ生命保険産業 を具体例とした、長期内部昇進競争による詳細な取締役選任のあり方にっいて、実 証的に分析される。ここでも、ファーストトラック型と標準型の経営者選任の仕組 みが確認され、能力主義の人事戦略へのシフトが起きていることが明らかにされる。

  次に第IV部では、大企業における全社経営戦略とそこにおける経営者の役割につ いて諭じている。企業の経営戦略は、各事業戦略、製品戦略、生産戦略、マーケテ イング戦略、財務戦略などとして、各担当組織で企画・実行されている。社長をは じめとする経営者が関与する戦略は、そうした個々の戦略ではなく、「全社」経営 戦略である。経営とは、全社経営戦略での意思決定に関わる主体間の調整やりーダ ーシップのとり方である。しかも、それは短期間ではなく、長期間に渡るプロセス である。ある意思決定が単独でなされることはなく、連続的なあるいは積み重ねと してなされるのである。また、全社経営戦略は経営者の選任と密接な関連がある。

前任の経営者との同質な経営をめざすのか、異質な経営をめざすのか、それは誰が 経 営 者 と し て 選 任 さ れ る の か 、 に よ っ て 異 な っ て く る か ら で あ る 。   ケーススタディとしては、産業の成熟化と企業の多角化という「長征」における 内部昇進経営者の長期のりーダーシップとその弊害、国際化の進展に伴う「異質経 営」の導入が求められた企業における経営者選任の仕組み、高成長と研究開発志向 の組織におけるエンジニアのインセンティブ重視型の「超長期昇進競争」が分析さ れている。

  さらには、現在議諭となっている「日本企業の転機」諭に対して、その議論の主 たる対象になっているエレク卜ロニクス産業のケーススタディを行っている。論文 では、シリコンバレーモデルと総合エレクトロニクス企業の競争は、全社経営戦略 の競争であり、経営者の競争であるという立場に立って、両者の経営者選任の仕組 み の 違 い を 明 ら か に し 、 そ の イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン を 導 い て い る 。   最後に、日本企業の組織変革の仕組みを、ケーススタディによって明らかになっ た実権リーダーたちの役割から、解明している。

  本 研究 は、 統計 デー タに もと づく 分析 と、200人 以上 に及 ぷわ が国 の最 上位 企 業の経営者からの直接ヒアリングにもとづく調査を組み合わせた実証研究によって、

同 氏 の 仮 説 を 検 証 し て お り 、こ の 分 野に おけ る先 駆的 業績 とし て評 価し うる 。

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