博 士 ( 農 学 )
ク リ シ ュ ナ ハ ン
学位論文題名
The Evolution of Indigenous People Forestry Practices and the Current Challenges of Community Forestry in Ratanakiri
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Cambodia(カンボジア・ラタナキリ州における少数民族の林業活動の展開と
共有林業の課題)
学位論文内容の要旨
1.目的
カン ボジアで は30年に及ぶ激しい内戦が1993年に終了して、カンボジア王国が成立した。そ れとともにカンボジアの森林政策が開始され、まず森林伐採権の制度が導入された。次いで共有 林業が導入されて、政策の中心は森林伐採権から共有林業へとかわった。その過程で、伝統的に 森林からの木材・非木材生産物取得と焼き畑によって暮らしをたてていた少数民族一カンボジア で焼き畑を行うのは少数民族だけであるーの生活は大きく変化した。本研究の目的は、最も多く の少数民族が生活するカンボジア北東部のラタナキリ州において、少数民族が遭遇している変化 を次の3つの視点から考察することである。第一に、特に少数民族による天然資源管理の変化に 注目して、共同体内部の変貌を明らかにすること。第二に、カンボジアの主要民族であるクメー ル人による開発行為が、少数民族の生活にどのような影響を与えているか把握すること。第三に、
共有林業政策は理論上、少数民族の貧困改善に有益であると考えられているが、実際の機能と意 義はどのようなものか、明らかにすること。本研究は、以上の視点を通じて得られる少数民族の 現状と問題点を踏まえて、カンボジアにおける今後の林業政策のあり方を考えてみようとするも のである。
2.森林政策の変遷
カ ンボジア の国土面積は1,810万ha、そのうち森林は1,050万haで国土の58%を占める。現 在 の人口は1,340万人であるが、その40%は貧困ラインでの生活を余儀なくされている。1993 年に成立したカンボジア王国は農山村地域を対象に、森林資源の保護、貧困の減少、教育の発展、
良い統治という4つの政策の柱を設定した。そのもとで政府の歳入を増大させるために、世界銀 行 などの支 援を受 けて1994年から森林伐採権の制度を導入した。1997年までに国内、国外の資 本 に 付与 された森 林伐採 権は30箇所 、約650万ha、全 森林の62%に達し た。し かし、森 林伐 採権区域の内外で不法伐採が横行したこともあって政府歳入は見込額をはるかに下回り、また経 済 成長と貧 困の減 少がほとんど連動しないことも明らかになって、政府は1999年を境に森林伐 採 権の契約 を打ち 切る方向 に政策転 換した 。その結 果、2002年 時点では13社が19の森林伐採
権(387万ha)を保持 してい る状態ま で減少した。それにかわる形で政策の中心に位置づけられ たのが、 共有林業である。1995年に南部のタケオ州で初めて、ついで1997年にラタナキリ州で 共有林業が導入された。少数民族を対象とする共有林業としては、ラタナキリ州が最初である。
共有林業 は2002年ま でに237設定さ れ、少な くとも416の村 、41万人の住民がそれに参加して いる。共 有林業 の導入に 当たっ てはカンボジア内外の多くのNGOがカンボジア全土で、共有林 管理と現地住民の自立を援助する活動を行っている。共有林業の目的は、貧困の減少という国家 目標の達成に向けて現地住民の参加による森林管理を行い、野生生物を保護して、地元住民の利 益を最大限に追求しようというものである。ただし共有林業は、2002年に成立した森林法に「森 林区域のなか、あるいはその近傍にある共同体に対して慣習的な権利を国が認め、保障する」と 規定されているように、伝統的慣習についての新しい用語である。
3.研究結果
ラタナキ リ州の 全面積は125万ha、そのうち森林は70―80%に達する。豊富な天然資源に恵 まれて生 活していた同州の少数民族のうち、共有林業が設定されている6つの集落(3つの共有 林組合)を選定し、計150世帯を無作為に抽出して面接調査を行った結果、以下のことが明らか になった。この地域はかって森林伐採権が設定されていたが、いまは解消されて共有林業だけに なっている。共有林業の土地は森林、農地、住宅地の3種類から成る。共有林業が導入される前、
少数民族は比較的自由に森林に出入りして木材・非木材生産物を取得していたが、森林伐採権に よる伐採が進んだこと、森林伐採権区域の内外で不法伐採が行われたことを踏まえて、共有林業 導入後は森林資源を保全する意図から、産物取得に一定の規制が加えられるようになった。焼き 畑は、共有林業開始以前に焼き畑地であった範囲内だけで行うことになり、森林、農地を問わず 新しい土地で焼き畑を行うことは禁止された。他方、貨幣経済の浸透、近代的な消費・生活物資 の流通拡大などを目指して、換金作物としてのカシュー栽培(定住農法)が開発当局により奨励 され、農地における焼き畑対象地がカシュー栽培用地に取って代わり、自家用作物の栽培を中心 とする焼き畑は用地の減少が著しい。かっては焼き畑対象地が広大にあったため、同一地点に循 環する焼 き畑の間隔は25年ほどだったが、現在は10年以下に短縮されている。あと数年もする と焼き畑は完全に姿を消すと予想される。このような動きと連動して、そもそも土地所有の概念 が成立していないにもかかわらず事実上の農地売買が行われ、農地価格が上昇し、投機的な農地 移動すら見られる。そこで必然的に少数民族内部に2極分解が発生し、農地を拡大して上向展開 する少数の家と、ますます貧困化して賃労働者に転化する多数の家に分かれる事態が進展してい る。また、他地域から移住してくる、あるいは他地域に居住しながら当地域の農地を取得するク メール人がカシュー栽培を行う事例も増えていて、少数民族の2極分解に少なからぬ影響を与え ている。
4.考察
少数民族自身の開発行為とクメール人による開発行為が進行し、これに貨幣経済の浸透が相ま って少数民族の2極分解が急速に進展している。少数民族はその内部に新たな貧困層を生み出し ながらも、貨幣経済と物質主義への崇拝を強めているのである。共有林業を導入したため、かつ て広範に見られた森林の消失がほとんど見られなくなったが、共有林業の目的にかなう成果はほ とんど挙がっていなぃ。だからといって、共有林業の森林内に新たな焼き畑を許可しても、上層
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部への土地集中に拍車がかかるだけである。少数民族が貧困から脱出するには、土地を中心とす る共有林業の各資源を適切に管理する能カを少数民族みずからが養うことである。それは単なる 天然資源管理にとどまらず、共有林業が発展する明確なビジョンを持っことであるといえる。そ の た め に は 、 少 数 民 族 自 身 の 学 習 とNGOに よ る 一 層 の 支 援 が 不 可 欠 で あ る 。
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学位論文審査の要旨
主 査
教 授
神 山公 三 郎 副 査
教 授
柿 澤宏 昭 副 査
助 教 授 秋林 幸 男
副 査
助 教 授 祖田 亮 次(大学 院文学研究 科)
学位論文題名
The Evolution of Indigenous People Forestry Practices and the Current Challenges of Community Forestry in Ratanakiri
.
Cambodia(カンボジア・ラタナキリ州における少数民族の林業活動の展開と
共有林業の課題)
1.目的
共有林業は発展途上国 に広く導入されている。その目的は、貧困の減少に向けて現地住 民の参加による森林管理 を行い、野生動植物を保護しつつ地元住民の利益を最大限に追求 することである。カンポ ジアでは他の諸国より遅れて1990年代中盤から共有林業が導入さ れた。その導入、定着の 過程で、自給自足的に生活していた少数民族の生活は大きく変化 した。本論文の目的は、 最も多くの少数民族が居住するカンポジア北東部のラタナキリ州 を対象に、少数民族によ る天然資源管理の変化と共同体との関係、共有林業政策が少数民 族の貧困改善に果たして いる意義と限界などを明らかにして、少数民族の生活の現状と問 題点を論じ、今後の林業 政策のあり方を考えることである。
2.森林政策の変遷
カンポジアでは30年に及ぷ内戦が1993年に終了して 、カンポジア王国が成立した。王 国政府は歳入増大のため1994年から森林伐採権の制度を導入し、その範囲は森林面積全体 の62%に及んだ。しかし、森林伐採権区域の内外で不法伐採が横行したこともあって政府 歳入は見込額を大きく下回り、政府は1999年を境に森林伐採権の契約を打ち切る方向に政 策転換した。それにかわって政策の中心に位置づけられたのが、共有林業である。1995年 に南部の州で初めて、ついで1997年にラタナキリ州で共有林業が導入された。今日、カン ポ ジ ア 全 土 で237箇 所 に 達 し 、416の 村 、41万 人 の 住 民 が そ れ に 参 加 し て い る 。
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3.研究結果
ラ タナキリ 州で共有 林業が 設定され ている地域のうち、6つの集落の計150世帯に面接 調査 を行っ た。調査結果によると、共有林業の土地は森林、農地、住宅地の3種類から成 る。共有林業が導入される前、少数民族は比較的自由に森林から産物を取得していたが、
導入後は森林資源を保全するため、産物取得に規制が加えられるようになった。少数民族 にとって森林は非常に大切であり、その多様な効用を深く認識している。焼き畑は、共有 林業開始以前に焼き畑地であった範囲内だけで行うことになり、新しい土地では禁止され た。他方、商品経済の浸透、社会の近代的などを目指して、換金作物としてのカシュー栽 培(定住農法)が政策当局により奨励され、農地における焼き畑対象地がカシュー栽培用 地に転換している。あと数年もすると焼き畑は完全に姿を消すと思われる。また、土地所 有の概念が成立していないのに農地売買が行われ、農地価格が上昇し、投機的な農地移動 すら 見られ る。そこで必然的に少数民族内部に2極分解が発生し、農地を拡大して上向展 開する少数者と、ますます貧困化して賃労働者に転化する多数者に分かれる事態が進行し ている。さらに、他地域から移住してくるクメール人が農地を取得してカシュー栽培を行 う 事 例 も 増 え て い て 、 そ れ が 少 数 民 族 の2極 分 解 を 促 進 さ せ て い る 。
4.考察
商品経済の浸透とともに、少数民族の内部に新たな貧困層が生まれている。共有林業の 導入により、広範に見られた森林の消失は少なくなったが、共有林業の目的にかなう成果 はほとんど挙がっていない。少数民族が貧困から脱出するには、土地を中心とする共有林 業の各資源を適切に管理する能カをみずから養う必要がある。それは単なる天然資源管理 に と ど ま ら ず 、 共 有 林 業 が 発 展 す る 明 確 な ピ ジ ョ ン を 持 つ こ と で あ る 。
以上のように本論文は、カンポジアにおける少数民族の生活と共有林業との関連を、同国 では初めて実証的、理論的に分析し、共有林業の理解に関する理論的水準を大きく向上さ せた。また、この研究成果は林業政策の発展にも貢献するところ大であり、学術的、応用 的に 高く評 価されて いる。よ って審 査員一同はクリシュナハンが博士(農学)の学位を 受けるのに十分な資格を有するものと認めた。
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