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線路近接地への保育施設等開業が周辺地域に与える影響について

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Academic year: 2021

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1.はじめに

線路近接地(鉄道高架下や線路脇用地)は、騒音や 振動等の負の外部性があると考えられるが、人々の 生活の変化に合わせた多岐に亘る土地活用がなさ れ、従来のような駐車場や商業施設での利用だけで なく、認可保育所をはじめとする保育施設等iの整備 も進められている。これは、各鉄道事業者のCSR 事業の一環であり、地域の課題を解決し、地域社会 へ貢献することと考えられるが、その社会的意義は 検証されていない状況である。一方都市部において は、社会問題化している待機児童の解消のためにも 保育施設等の整備が喫緊の課題として挙げられてい る。保育施設等は、社会的便益の向上や周辺住民の 利便性向上といった正の外部性が考えられるが、保 育施設等から発せられる子どもの声や音については 負の外部性と考えられている。本研究では、線路近 接地に保育施設等が開業した場合、線路と保育施設 等双方の負の外部性の変化に着目し、複数の仮説を 立てた上で、2つの分析を行った。

2.

線路および保育施設等が周辺へ与える影響

2.1

線路近接地の外部性

線路近接地は、鉄道が発する騒音や振動、線路に よる景観阻害等の負の外部性が存在していると想定 される。都市交通から発せられる騒音・振動による 地価への負の影響を貨幣価値化している先行研究も 存在し、鉄道が発する騒音・振動が地価へ影響を与 えている可能性も考えられる。線路の外部性と距離 の関係は図1のように示せる。なお、線路近接地が 一般的に利便性が高いとされる駅の近接地と同義で あるという条件は考慮していない。

図1 線路の負の外部性

2.2

保育施設等のもつ外部性

保育施設等は正の外部性と負の外部性の両面を有 すると考えられる。正の外部性は、近隣に暮らす子 育て世帯の利便性が主と考える。立地により保育利 用料金が変わることが無いことから、便利な場所に 保育施設等があることで、市場には表れない便益が 生じ、それが地価に反映されると考えられる。一方

負の外部性は、保育施設等から発せられる音や子ど もの声等の騒音が挙げられる。立地条件や設備上・

運用上の対策により影響範囲は異なるが、近隣住民 に対して少なからず影響を与えると考える。騒音は 距離により逓減していくことから、負の外部性も逓 減し、距離が離れるほど正の外部性が表れると考え られる。以上のことを踏まえ、保育施設等の外部性 と距離の関係は図2のように示せる。

図2 保育施設等の正・負の外部性

2.3

線路近接地かつ保育施設等近接地の外部性 線路近接地かつ保育施設等の近接地における外部 性について考える。騒音等の負の外部性を持つ線路 の近接地については、騒音等があることを認識した 上で住んでいる人がいる可能性がある。この場合、

保育施設等が開業して追加的に負の外部性が生じに くく、逆に利便性向上等の正の外部性が上回る可能 性も考えられる。つまり、負の外部性を持つ線路及 び保育施設等が近接する場合、負の外部性の単純な 合計でなく正の外部性が混在した上で地価に影響が 生じるとも考えられる。しかしながら、鉄道、保育 施設等それぞれから発せられる音は、音質も異なれ ば、発生時間帯も異なる。また、騒音に対する人の 感じ方は異なるため、負の外部性が単純に合算され 影響を与えるとも考えられる。これらを踏まえる と、2つの負の外部性が組み合わさった時の考え方 として、以下の3つの仮説が考えられる。

仮説1 大きい方の負の外部性に内包化される 仮説2 単純な合算でなく微増する

仮説3 双方の負の外部性が合算される

3.実証分析

3.1

分析の目的と方法

本研究の目的は、前章で示した線路近接地、保育 施設等近接地および双方の近接地の立地特性を示 し、線路近接地での保育施設等開業による外部性を 明らかにすることである。そのため、資本化仮説を 前提としたヘドニック・アプローチにより線路、保

線路近接地への保育施設等開業が周辺地域に与える影響について

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16704 岡田 泰之

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2 育施設等および双方の影響を受ける範囲の地価関数 の変化を観察し、外部性を分析する。

分析対象地としては、東京都(島嶼部除く)とし、

2016年4月時点で存在する鉄道網と認可保育所、

認証保育所、認定こども園を対象とする。地価につ いては、規制緩和により保育施設の立地に民間用地 の活用が可能となった2000年以降2016年までを 対象とする。本研究ではパネルデータを用いて、2 つの推定を行う。第1に、最小二乗推定による立地 特性の把握である。第2に、固定効果・変量効果モ デルによる保育施設等の開業効果の把握である。

3.2 推定モデル

3.2.1 立地特性の推定モデル

立地特性の把握をするために次式の推定モデルを 用い最小二乗推定を行う。

= + 100 + 100

+ 100 × 100 + + + …(1)

:公示地価(円/㎡)の対数値

100 :線路から100mに立地していれば1、そうでなけ

れば、0をとるダミー変数

100 :保育施設等から100mに立地していれば1、そう

でなければ、0をとるダミー変数

:ヘドニック・アプローチにより地価を構成する要素で ある変数(敷地面積(㎡)の対数値、容積率(%)の対数値、

最寄駅からの距離(m)の対数値、東京駅からの距離(m) の対数値、各市区町村ダミー)

:年次ダミー :定数項 :誤差項 :地価ポイント

なお使用するデータは、2000年~2016年までの各 年におけるデータで構成されたパネルデータを用い 東京都全地域、住居系地域ii、商業系地域iii、工業系 地域ivに分類して各々推定を行っている。

3.2.2 開業効果の推定モデル

開業効果の把握のため次式の推定モデルを用い、

固定効果・変量効果モデルによる推定を行う。

= + 100 +

+ 100 × + + + …(2)

:地価ポイントから100m以内にある保育施設等が開業し ていれば1、開業していなければ0をとるダミー変数

:年次

その他の変数等については、立地特性把握のため の分析と同様の考え方である。

4.実証分析結果

4.1

立地特性の実証分析結果

推定式(1)の推定結果を表1に示す。線路100m 圏は、住居系地域と工業系地域において地価が低い ことがわかり、統計的に有意な水準であった。保育 施設等100m圏は、全地域、商業系地域において地 価が低い場所であることがわかり、統計的に有意な 水準であった。そして、双方の100m圏は、工業系 地域以外で統計的に有意な水準な結果を得られ、地 価の下落幅が縮小していることがわかった。しか し、この分析にはそれぞれが元々地価が低い場所に 立地しているという同時性の問題により過大(過小) に推定されている可能性がある。このような内生性 をコントロールするため、次節の分析を行う。

4.2

開業効果の実証分析結果

推定式(2)の推定結果を表2に示す。ハウスマン検 定を行った結果、変量効果モデルを採択したため、

その結果を掲載する。保育施設等の開業効果とし て、住居系地域で約9.6%、工業系地域で約3.2%の 表1 立地特性の推定結果

表2 開業効果の推定結果

***,**,*はそれぞれ1%,5%10%水準で統計的に有意であることを示す

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3 地価上昇が見られ、統計的に有意な水準であった。

また、線路近接地での保育施設等開業効果として は、住居系地域で、いずれにも該当しない立地と比

較して約1.8%の地価上昇が見られ、統計的に有意

な水準であった。しかし、全地域、商業系地域、工 業系地域では、統計的に有意な水準の影響は見られ なかった。この分析結果は、保育施設等が地価が低 い場所に立地しているという内生性をコントロール した上で開業効果を抽出したものと解釈できる。

5.立地特性と開業効果の分析結果の比較の考察 5.1

線路近接地の考察

開業効果の推定結果は、統計的に有意な水準の影 響は見られなったため、立地特性の推定結果を中心 に述べる。立地特性の推定結果より、線路がもつ騒 音や振動等の負の外部性が地価へ影響を与えている とも考えられる。一方で、統計的に有意な水準でな い結果を得た商業系地域については、用途地域の指 定場所の影響と利用者・居住者の属性によるものと 考えられる。具体的には、商業系地域は駅近接地に 指定されることが多く、用途上の規制が住居系地域 と比較して少なく、商業等の業務の利便を図る地域 とされている。つまり住居系地域と比較して騒音に 対して鈍化傾向か高いエリアと考えられ、これが影 響していると考えられる。

以上より、第2章で述べた外部性の考え方同様、

線路近接地は騒音や振動の影響があると解釈できる が、用途地域毎に鈍化傾向が異なることから、外部 性の表れ方が異なっていると考えられる。なお、線 路が元々地価が低い場所に敷設されたという同時性 の問題については、本分析で明らかにしていない。

5.2

保育施設等近接地の考察

立地特性の推定結果より、商業系地域において は、地価が低い場所であることが統計的に有意な水 準で明らかとなった。全地域においても約5.9%地 価が低い場所であることが明らかになり、総じて保 育施設等が地価が低い場所に立地しているという可 能性を示唆するものと考えられる。

開業効果の推定結果より、住居系地域、工業系地 域において、保育施設等の開業が地価上昇効果があ ることを統計的有意な水準で明らかにしたが、第2 章で述べた保育施設等の外部性の仮説とは逆の結果 であった。これは、保育施設等から発せられる音に より生じる負の外部性よりも、周辺住民の利便性向 上等の正の外部性が上回って表れているとも考えら れる。また、そもそも保育施設等から発せられる音 が、大きな負の外部性を生じていない可能性もあ る。これは保育事業者側の設備上・運用上の努力に よるものでもあるし、近隣住民の考え方によるもの とも考えられる。

以上より、立地特性の分析においては、保育施設 等が地価が低い場所に立地しているという同時性の 問題が含まれることを示唆した。この内生性をコン

トロールした開業効果の分析においては、第2章で 述べた保育施設等の外部性の考え方とは異なる結果 となった。しかし、保育施設等の開業には、負の外 部性を上回る正の外部性が生じ、地価を上昇させる 可能性を示唆することができた。

5.3

線路近接地かつ保育施設等近接地の考察 立地特性の推定結果より、住居系地域において は、通常の線路近接地よりは4.7%地価が高い場所 であり、商業系地域においては、保育施設近接地よ

りは10.7%地価が高い場所であると考えられる。住

居系については、線路近接地の騒音等を認識した上 で住んでいる人がいる可能性があり、保育施設等が 開業しても追加的に負の外部性が生じにくく、逆に 利便性向上等の正の外部性が上回っているとも考え ることができる。

一方、開業効果の指定結果より、線路近接地以外 で保育施設等を開業させるよりは約7.7%地価上昇 効果は低いが、通常の線路近接地と比較すると約 0.9%地価上昇効果があると考えられる。線路近接地 以外での保育施設等開業効果と乖離が生じている点 については、保育施設等と地価ポイントの立地関係 が考えられる。立地関係については、開業効果を観 測できたサンプルの大半が保育施設等と地価ポイン トの間に平地線路が立地しており、直線距離では 100m以内だが、道路距離では100m以上離れてい る場所であった。このように線路に分断されること で、正の外部性、負の外部性ともに分断され、線路 近接地以外の保育施設等の地価上昇効果と乖離が生 じたとも考えられる。

第2章のいずれの仮説とも異なる結果だったが、

線路近接地への保育施設等開業は、総じて周辺地域 に対して否定的な影響を与えていない可能性がある と考えられ、保育施設等があることによる追加的な 騒音等の負の外部性よりも周辺住民の利便性向上等 の正の外部性が上回っている可能性を示唆できた。

5.4

移動費用削減効果

線路近接地に保育施設等が開業することで、移動 時間が短縮され、利便性が向上することが期待でき る。本節では利用者の移動費用削減効果を明らかに するための事例研究を行う。対象施設は、2014年 開業したグローバルキッズ武蔵園とし、対象地域 は、グローバルキッズ武蔵園の最寄駅であるJR中 央線武蔵境駅を最寄とする市内16町丁vにて分析vi をした。

その結果、16町丁の1人当たりの平均移動短縮 時間が3.76分/日と算出でき、1ヶ月の通園日を20 日間とした場合、約900分/年の削減となる。これ に徒歩による時間価値viiを乗じると、1人当たり約

47,000円/年の費用削減となる。さらに16町丁の認

可保育所入所数(613名)を乗じると、約29,000,000 円/年の移動費用削減効果が見込めることとなる。

以上より、線路近接地への保育施設等開業は、地 域住民の便益を向上させる可能性があることを明ら

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4 かにした。つまり広域で捉えれば、表2の線路およ び保育施設等の100m圏の開業効果よりも大きな正 の外部性が生じる可能性があると考えられる。

なお、待機児童の多い地域では、認可保育所の入 所が困難であることを想定して申込をしないこと や、就労を断念する世帯がいるため、潜在需要を含 めた待機児童数は公表されている数よりも格段に多 いと考えられる。よって、保育施設等の整備は、親 が子どもを保育施設等に預け働くことによる社会的 便益が大きいと考え、事例研究で明らかにした移動 費用削減効果以上の便益が生じる可能性もある。

6.政策提言

住居系地域、工業系地域において、保育施設等の 開業に正の外部性があることが地価の上昇傾向によ って示され、迷惑施設でない可能性を示唆すること ができた。このことからも保育施設等の開業場所に ついては、地域全体の効用や便益を考慮して慎重に 判断するべきである。判断するに当たっては、既存 施設の開業効果を分析することで一つの指標にする ことができると考える。ただし、最小二乗推定によ る分析だけでなく、本研究で用いた固定効果モデル や変量効果モデルのように内生性をコントロールし た分析をすることが重要であると考える。

一方、線路近接地への保育施設等の開業は、総じ て周辺地域に否定的な影響を与えていないことを示 し、保育施設等利用者にとっては、移動費用削減の 可能性があることを示唆できた。このことからも保 育施設等のための適地が乏しい状況下においては、

選択肢の一つとして検討する意義が有ると考える。

線路近接地への保育施設等開業は、三者の便益を向 上させる可能性があると考えられるからだ。地域住 民にとっては、線路から発せられる騒音等の負の外 部性よりも保育施設等による利便性向上等の正の外 部性が上回ると考えられ、騒音に対する追加費用の 削減にもつながると考えられる。加えて、保育施設 等利用者にとっては、移動費用の削減効果があると 言える。また、鉄道事業者にとっては、線路近接の 土地の有効活用となる上に地域住民や鉄道利用者の 利便性向上へ寄与できる。さらに自治体にとって は、住民の満足度向上に寄与でき、新たな住民の転 入の可能性も期待できる。以上のことからも、線路

i本研究では、公立および私立認可保育所、認証保育所、公立お よび私立認定こども園をいう。

ii第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中 高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地 域、第二種住居地域、準住居地域をいう。

iii近隣商業地域、商業地域をいう。

iv準工業地域、工業地域、工業専用地域をいう。

v境一丁目、境二丁目、境三丁目、境四丁目、境五丁目、境南一 丁目、境南二丁目、境南三丁目、境南四丁目、境南五丁目、桜堤 一丁目、桜堤二丁目、桜堤三丁目、関前一丁目、関前四丁目、関 前五丁目をいう。

近接地への保育施設等の開業は周辺地域に対して否 定的な影響を与えず、かつ三者の便益を向上させる ことが期待できるため、適地が乏しい状況下では、

選択肢の一つとして検討する意義が有ると言える。

7.

おわりに

保育施設等の外部性の定量化は、小飼(2016)が保 育施設等の騒音に着目し、その負の外部性を定量分 析していた。しかしながら、保育施設等が地価の低 い場所に立地しているという同時性が含まれた現況 把握に留まり、開業効果についての定量化はなされ ていなかった。本研究において、この内生性をコン トロールした上での資本化仮説に基づくヘドニッ ク・アプローチにより保育施設等の開業効果の定量 化を試みた。ヘドニック・アプローチについては、

外部性が地価の上昇分と一致するためには「small- openの仮定viii」が成立する必要があり、事業評価 を行う際に正確性は一般には保障されないとの指摘 もあることから、本研究の分析結果のみを用いて事 業評価を行うことには慎重になる必要がある。しか し、これまで定量化が行えていなかった保育施設等 の開業効果には、正の外部性があることを明らかに したこと。また、線路近接地への保育施設等開業に ついては周辺地域に対して否定的な影響を及ぼして いない可能性を示唆し、利用者にとっては便益が生 じることを明らかにしたことに本研究の意義がある と考える。

今後の課題について述べる。開業効果の分析にお いては、周辺事業の整備効果を分離できておらず過 大(過小)に推定されている可能性は拭えないため、

さらに地域を限定し、可能な限り他条件をコントロ ールした上で分析をすることが望ましい。また、本 研究でデータ入手が困難であった鉄道の高架橋の高 さ等の仕様、保育施設等の広さや構造、各年齢の児 童数等も加味することでより精度の高い分析が行え ると考える。なお、本研究はそれぞれの立地に着目 したのみであり、鉄道から発せられる騒音や振動が 児童の人体へ与える影響については加味していな い。よって、本研究による考察は、線路近接地の有 効活用策の一つである保育施設等の開業における普 遍的な結論ではなく、あくまでも現時点で成し得る 範囲での分析であることを付しておく。

vi 武蔵野市内各町丁における認可保育所入所児童数を市内町丁 別未就学児人口で比例按分を行った。次に各町丁の重心から保育 施設、保育施設から駅までの直線距離をArcGIS(Esri社開発の 地理情報システム)にて算出した。各町丁の児童が近隣の保育施 設に通園していると仮定し児童数を割り振った上で、線路近接の 保育施設開業前後の平均移動時間の差を算出した。

vii鉄道プロジェクト評価手法マニュアル(2005)駅構内水平移動価 52.3円/分を参照。

viii個人や企業の移転が自由であること(open)、その移転が他の 地域に何の影響ももたらさないこと(small)。

参照

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