読書活動の推進をめざした中学校での実践
-絵本の読み聞かせを中心に-
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 小 坂 浩 嗣 教職実践力高度化コース 実習指導教員 大 林 正 史 江 口 文
キーワード:絵本の読み聞かせ,読書活動,学校図書館,中学校
第1章 実践研究課題 1 実習校の状況と課題
実習校は,平成 28 年度に隣接校との統合が決 定している。統合される中学校の学校経営につ いて話し合いが持たれた中で,学校図書館の経 営が課題の一つに挙げられた。そこで,両校の 教職員にインタビューと意識調査を行った結果,
2校の実態に差があることが明らかとなり,統 合に向けて,学校図書館経営の姿を2校でそろ えていきたいと考えた。
2 実践研究の目的
実習校が抱える統合とそれに伴う学校図書館 に関わる課題を踏まえ,実習では生徒,教職員 ともに充実感を味わえる読書活動を推進するこ とに取り組みたいと考えた。この取り組みを通 して,学校図書館の経営についての両校の差を 少しでも埋め,地ならしできればと考え,主と して,絵本の読み聞かせの有用性について検討 することを目的とした。
3 実習課題に関する先行研究について 読書活動を推進していく上で,学校図書館の 活動が基軸となってくると考える。学校図書館 で果たすべき役割や機能について,文部科学省
(2014)では,これからの学校図書館には,三 つのセンターとしての役割があり,その三つの 機能とは,読書センターとしての機能,学習セ ンターとしての機能,情報センターとしての機 能としている。これらの果たすべき機能を作用
させていくことが読書教育を推進していくため には重要であると考える。この点を念頭におき ながら,実習校での読書活動を活発化させるた め,教育活動の支援をできればと考えた。
これまでの学校図書館の経営と実状を踏まえ,
読書活動を推進していくために,主たる取り組 みとして,絵本の読み聞かせを実践することに した。余郷(2013),谷木(2014),美馬中学校
(2001)などにより,読み聞かせの有用性が報 告されている。そして,「聞くこと」によって喜 び,感動を味わい,読み聞かせを行う教師との コミュニケーションのきっかけにもできればと 考えた。さらに,そこから読書活動の広がりを 探りたい。
以上のような点を参考に,教科担任等の声で 読み聞かせを実践していくようにした。ただ,
役割の違いや,声を変えた方がよいと考えられ るものは相談の上,分担して読むようにした。
第2章 実践の計画 1 全体計画
実習校の現状と課題から,読書活動を推進し ていくために,学校図書館担当の補佐役として 担当教諭に協力しながら実習に取り組むことと した。その内容は,次の三点である(図1)。
2 計画内容
(1)落ち着いて学習に取り組む心を耕すため の取り組み
絵本の読み聞かせや朝の読書時間に活用で
きる本の提供。各教科学習に資料を提供したり,
必要な資料収集をしたりする。
(2)学習図書委員会の活動を活性化するため の取り組み
放課後の時間などを利用して図書室を開館す る。学習図書委員会の活動を見直し,学校図書 館の積極的な運営を進める。
(3)統合する2中学校図書委員会の交流と協 同活動
公立図書館や2中学校の図書館担当と連携を 取り,教科学習や読書活動に役立つ資料提供な どをする。
図1 実習の計画
第3章 実践の結果
1 落ち着いて学習に取り組む心を耕すため の取り組み
(1)2年生国語科での絵本の読み聞かせ 授業の導入に絵本の読み聞かせを行うことで,
生徒の聞く姿勢,落ち着いて授業に入る心を育 てることをねらいとした。
方法としては,毎週火曜日に国語科の授業の 初めに教科担任と筆者がTTで絵本の読み聞か せを行った。
絵本の選定は,筆者が事前に複数冊の絵本を 提示し,教科担任と協議によって決定した。大 型絵本は,実習校の所蔵だけではなく,徳島県 立総合教育センターや徳島県立図書館のものも 利用した。大型絵本がない場合は,実物投影機
によって映し出し,提示する試みも行った。こ れらの読み聞かせの概要と感想をまとめた。特 徴的な読み聞かせの実践の際にはエピソードと して記述した。
1)『へいわってすてきだね』
沖縄への修学旅行を控えて,平和学習を意識 して選書し,シーサーの置物や沖縄,沖縄地上 戦についての資料をそろえ,読み聞かせだけで なく,沖縄県平和記念資料館などについても紹 介した。生徒は資料館の写真などについても興 味深くのぞき込んでいる様子が見られた。小学 1 年生の朗読した詩の作品で,分かりやすい表 現とあたたかい絵で味わっていたようだ。修学 旅行につながる作品や資料を提示することで具 体的にイメージができていたようである。
昼休みに2年生の生徒から,「また絵本読ん で。」と声をかけられた。声をかけられたことか らも,絵本だけでなく,関連する資料などの効 果について手応えを感じた。
2)『ミライのミイラ』
読み聞かせをした後,前の週に読んだ絵本の 作者で,徳島県出身の方の講演が行われるとい うことで何冊か絵本を紹介した。あるクラスで 絵本を見せると,「その絵本は読まないの。」と いう要望があり,そのクラスのみ急遽を読み聞 かせを設定した。TTに来られていた先生から
「あれだけ聞くことができるんだね。絵本の力 かなあ。」と,筆者につぶやかれたのが印象に残 った。
3)『ひさの星』
人の生き方,やさしさ,命とはといったこと をテーマに選書した。絵本の絵や内容,さらに 文体などについても引き付けられる面があると いうことがわかった。以前の絵本の読み聞かせ に関するアンケートからも見えてきていたが,
人の心の動きなどを細かく追った作品が生徒を 引きつけているようであった。どのクラスとも 穏やかな雰囲気で読み聞かせを終えた。なかで も,後ろの席にいるときには読み聞かせに関心 がないと感想を書いていた生徒が, 一番前の席 になり,文字一字一字を目で追っていたのも印 象に残った。
提示について教科担任と話し合った。大型絵 本以外は教室全体に見せることは限界がある。
提示方法も考慮する必要があると確認できた。
(2)1年生での絵本の読み聞かせ
小学校でも絵本の読み聞かせを体験している らしく,最初の学年集会から,スムーズに聞く 姿勢ができていた。2年生の実践と違い,教科 の時間割の中に組み込んでもらうのではなく,
総合的な学習の時間や朝の読書の時間にプログ ラムを組んで,次のような実践を行った。
1)総合的な学習の時間「こどもの読書週間」
『クレヨンからのおねがい!』『バムとケロのお かいもの』『にじいろの さかな』『おまえ う まそうだな』
4月 23 日から5月 12 日が「こどもの読書週 間」であったため,読み聞かせのプログラムを 組み,実施した。
2)学活「歯と口の健康週間について」
『はははのはなし』『あれあれ?そっくり!』
『あした花になる』『しんでくれた』
6月4日から 10 日が「歯と口の健康週間」と いうことで,「食育」の授業に合わせてプログラ ムを組んだ。
3)朝の読書「2年生のおすすめの絵本」
『ともだちや』『8月6日のこと』『へいわって すてきだね』
1年生と2年生をつなぐという意味もこめて,
2年生に読み聞かせをしてきた絵本について,
「1年生におすすめしたい絵本」のトップ5に 選ばれた絵本の中から,三冊の絵本を朝の読書 の時間に読み聞かせをした。
(3)教科学習などへの資料の提供
絵本の読み聞かせと合わせてすすめていたの が,教育活動での絵本などの提供である。
1)特別支援学級での取り組み
季節に応じた大型絵本や1・2年生に読み聞 かせをした絵本などを紹介し,時間によっては 筆者もTTとして特別支援学級での読み聞かせ を行った。
2)国語科・理科・家庭科への取り組み 教科書の進行状況を教科担任に確認し,教育 課程において,求めている資料や補足したい情 報を収集していった。科学的な資料や写真集な ど,実習校に所蔵していないものは公共図書館 を検索して提供することができた。
3)食育での取り組み
栄養教諭から,野菜について食育の授業を行 うという話を受け,野菜について解説した資料 を収集し,資料を提供した。
2 学習図書委員会の活動を活性化するため の取り組み
月に一度行われる学習図書委員会の会合に参 加し,学年単位での委員会の活動を進めていっ た。主として,1年生での委員会活動に関与し,
支援した。学級文庫に関しては,2年生でも設 置を始め,読書への関心や委員会活動への意欲 の高まりが感じ取れた。
3 統合する2中学校図書委員会の交流と協 同活動
当初の計画では2中学校の専門委員会の交流 と活動を協働して行うことを挙げていたが,
様々な実状により,実習では専門委員を校外に 活動範囲を広げることまでは至らなかった。
第4章 実践の成果と課題
計画では,三つの取り組みを挙げていた。し かし,委員会活動への取り組みについては,全 学年にわたる活動には至らなかった。さらに,
統合する2中学校への取り組みについては課題 が残った。これらの要因としては,学校全体の 組織として,共通理解を図り,取り組んでいけ るよう調整をする役割を筆者が担うことができ なかったことが挙げられる。そのような経緯か ら,「1.落ち着いて学習に取り組む心を耕すた めの取り組み」について成果と課題をまとめた。
1 2年生国語科での絵本の読み聞かせ 生徒へのアンケートから分析した成果は次の 三点である。
一つ目は,修学旅行への関心と意欲の向上,
感動を伝えたい,広げたいという共学意識の芽 生えである。
二つ目としては,読み聞かせにより,幼児期 の記憶を振り返ることや,穏やかな時間を体験 することができていたようである。
三つ目は,絵本に関しての考えが変わったと いう読書観への刺激となった点である。
以上述べた三点からは,絵本に限らず図書へ の関心が高まり,読書への意欲づけができたと いえる。
一方で,求めるところの資料をいかに効率的 に収集し,選定して読み聞かせを実践していく のか教職員の共通理解が重要といえる。
2 1年生での絵本の読み聞かせ
1年生教職員のアンケート結果について分析 した結果,教職員が絵本の力を実感できたこと が一つの成果として挙げられた。
また,生活記録などから,生徒の読書活動へ の興味・関心が高まりつつあることを担任教諭 は読み取っていた。
しかし,読み聞かせが「信頼」につながって いく作用を担任教諭にも実感してもらうように 工夫していくことが課題となった。方策の一つ としては,教職員の共通認識と資料整理・準備 のための体制づくりが重要といえる。
3 教科学習などへの資料提供
各教科の教育計画を見直し,教科担任と連絡 を取りながら,学校図書館の「情報センター」
としての機能をどう作用させていくかが課題で ある。
第5章 修了後の課題と取り組みの構想 1 学びの軌跡について
学校図書館担当としてこれまで関わってきた ものの,経営の本質的なことや理論的な裏付け となる知識などが自分には足りないという事実 を何とかしたいと考えた。講義が進んでいくな かで,生徒指導や教科指導,組織マネジメント などと学校図書館経営の根底の部分はつながっ ているのだということが理解できた。また,地 域プロジェクトフィールドワークで,小学校の 実態を知ることにより,実習校での取り組みを 組み立てていく目標と定めることができた 2 私のキャリアデザイン
今まで学校全体から学校図書館をとらえると いう視点は持っていなかった。しかし,教育活 動を図書館資料によりサポートしたり,生徒の 心の安定のために読書活動を推進したりするな どの取り組みを,今後も継続して実践していき たいと考えている。そして,学級担任を経て,
司書教諭として全教育課程を見渡した,「情報セ ンター」,「学習センター」,「読書センター」と しての機能を果たせる学校図書館経営を実践し,
校内外とも連携を図り,落ち着いて学習に取り 組む心を耕せるよう取り組んでいきたい。