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小俣 勝治

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(1)

労判1215号(2020年)5頁

育児休業終了後に保育園が見つからなかったために無期・正社員契約から 有期・契約社員契約への契約変更と、その後の当該有期社員契約の雇止め

原審 東京地判平30.9.11 労判1195号(2019年)28頁

小俣 勝治

一 事実

(1)Y(1審被告)の業務等

 YはD(英語・中国語コーチングスクール)

の運営等を主とする、従業員22名の会社である。

Y 代表者は平成23年に亡夫が設立した Y の監 査役になり同26年4月より、Y の代表取締役と なった。E は、D の執行役員であったものであ り、F は D の執行役員で東京校のマネージャー であって、X(1審原告)の上長である。G は Y の顧問社会保険労務士である。

 X は昭和56年生まれの女性であり、平成20 年7月Yに入社、正社員契約(本件正社員契約)

を締結して、Dのコーチ正社員として稼働して いた。平成24年11月当時の本件正社員の X の 労働条件は、所定労働時間7時間(完全フレッ クス制)、賃金等1か月48万円(ただし、本給35 万3640円、定額時間外手当12万6360円の合計)

であった。

 D の主要業務であるクラスは、平日(月曜日 から金曜日)の夜(午後7時30分から午後10時 まで)、並びに週末(土曜日および日曜日)の 朝(午前10時から午後0時30分まで)、昼(午後 1時30分から午後4時まで)、夜(午後4時30分又 は午後5時から午後7時又は7時30分)の各時間

帯に開講される。コーチの就業形態は、平日の 夜および週末が中心となっている。

 コーチは、このクラスを担当し、受講生に対 するコーチング等を行うため、その専門性を考 慮して、管理部門の事務局、セクレタリーに比 べて高い処遇がなされている。Dのコーチは平 成26年9月当時11名、うち女性コーチが6名で あった。開講2か月前にクラスの内容、教室、

担当コーチ等を決定し、インターネット公開、

受講生募集などを行う。コーチのスケジューリ ングの確定は通常約4か月程度を要する。

(2)Ⅹの育児休業の取得及びYの就業規則改 訂等

 Xは平成25年1月から産前休暇に入り、同年3 月2日、長女を出産し、産後休暇及び育児休業 を取得した。Y においてXが初めての育児休業 明けの社員となることから、よりフレキシブル な働き方の選択を可能とする就業形態の導入目 的で就業規則を改訂することになる。主要な変 更事項は契約社員制度の導入(就労【→業=筆 者】規則の見直し)である。

 就業形態は以下の3類型になる。

① 正社員(1日7時間・月140時間)、②正社員

(時短勤務)、③契約社員

(2)

② 正社員(時短勤務)の所定労働時間と給与

  月120時間(給与額は、正社員の給与に0 , 86を乗じた額を目安)、

  月100時間(給与額は、正社員の給与に0 , 72を乗じた額を目安)

  月80時間(給与額は、正社員の給与に0 , 58を乗じた額を目安)

③ 契約社員

  勤務日数4日(所定労働時間が月64時間か ら112時間まで)

  勤務日数3日(所定労働時間が月48時間か ら84時間まで)

 平成26年2月12日付「就労(→業)規則の見 直しについて」には、コーチについては、原則 として、契約社員としての新規雇用をせず、育 児休業明けの者に限り、契約社員として一時的 に契約することができ、Yとの相談により、契 約社員から正社員へ復帰することも可能である 旨が記載されていた。「補足説明」として、「正 社員、時短勤務、契約社員、いずれの形態であっ てもコーチ業務(クラス担当)を必須とします」、

「クラスを担当するコーチは、『突発的な理由に より担当クラスに参加できない』という事態に ならないよう、必要なバックアップ体制などは、

あらかじめ各自で準備するものとします」、「契 約社員は、本人が希望する場合は正社員への契 約再変更が前提です」、などと記載されていた。

 Y は平成26年2月26日従業員らに対し上記の 就業規則の見直しの書面(「本件書面」)を交付 し(同年4月1日施行)、就業規則説明会を実施 する一方で、X に対しては同年2月22日面談し 個別に説明した。その際、Ⅹは、復職後に子を 預ける保育園として自宅近くの保育園1か所し か入園の申込みをしていなかった、平成26年1 月31日付けで欠員がないため入所できないとの 通知を受けており、同年度中の復職は難しく平 成27年4月からは復職が可能であるとの見込み を伝えた。

 育児介護規則4条の2第1号は、「保育所におけ る保育の実施を希望し、申込みを行っているが、

‥‥当面その実施が行われない場合」は、雇用 の継続のために特に必要であると認め、1歳6か 月まで育児休業を取得できるものと認め、1歳 6か月まで育児休業を取得できるものとしてい る。また、Yの育児介護規程にも同様の定めが なされているので、Yは「保育所に入所を希望 しているが、入所できない場合」に該当すると して、Xの育児休業を最長期間の平成26年8月 31日まで延長した。

(3)本件契約社員契約の締結

 平成26年7月20日の面談では、X は平成26年 12月までの3か月間の休職を求めた。保育園入 園が見込める平成27年の4月からは定年となる 実母によるサポートもえられるので、それまで の6か月のうち後半は夫によるサポートも得ら れる可能性があるとして、前半の10月から12月 までの3か月間について休職を求めた。これに 対しYは、就業規則上の休職の要件に該当しな い、特例は認められないとして拒否した。そこ で、「Xは、育児休業終了後に復職できない場 合には解雇になるのかと尋ねたため、Y代表者 は、自己の意思で辞める場合には、解雇ではな く、自己都合退職になる旨」を回答した。

 平成26年8月23日の面談でも、X は再度3か 月の休職を強く求めるが、Yは休職を認めない 方針に変わりはない、他に業務委託の方法もあ りうる旨説明するも、Xはこれを希望しないと し、「退職する意向を表明した。」ところが、3 日後の26日になって、週3日勤務の契約社員と して復職を希望する旨伝えてきた。

 Yは予定していたコーチを変更して、X に同 年9月21日(日曜日)から毎週日曜日午前10時 に開講されるクラス(FB14−9A)1コマを担 当させる予定とした。

 Y は平成26年9月1日、育児休業給付金の申請 手続きをした後、Xに賃金は月額10万6000円で 固定残業代分を除外して時間換算等々の説明を

(3)

した。Ⅹは保育園が決まれば週5日勤務の正社 員に復帰できるのか質問したが、Y代表者らは 正社員としての労働契約に変更するにはYとの 合意を要する旨を述べた。(以下、「本件契約社 員契約」、「本件合意」という。)

(4)Xの復職後の状況

 X は平成26年9月2日付で復職し、同月3日か ら就労を開始した。DのコーチはX以外は正社 員であった。Xが復職後担当した説明会で受講 生の質問に対し沈黙して適切な対応ができな かったことを見てFは、Xにはブランクの解消 が必要と考え、現場感覚を取り戻すこと、クラ スの運営方法が育児休業取得前とは異なる部分 がありそれを理解すること、現役のコーチとの コミュニケーションを図ることなどを目的とし て、他のコーチの担当するクラス(FB14−

8A)のオブザーバーを提案した。同月7日 X は実際にオブザーブをした。同日 X は F に対 し、保育園確保次第週5日勤務の正社員として 働くことになる旨のメールを送信した。F は Y 代表者並びに E に対し、契約社員としてしか るべきパフォーマンスを発揮した場合に正社員 に戻るという認識と X の認識との間で困惑し ている旨を伝えた。

 平成26年9月8日、XはEに対しメールで、高 田馬場にある保育園から同年10月に空きが出る との連絡があった、と伝えた。X は9月9日に電 話でEに対し10月から週5日勤務の正社員とし て就労したいと申し出た。XはEに対しメール で「契約社員は、本人が希望する場合は正社員 への契約再変更が前提です」との記載から、こ の文言をもとに、子を入れる保育園が見つかる まで暫定的に週3日勤務での復職を希望したま でであると、送信した。X は9月9日Eに対しメー ルで、保育園への回答期限が1週間以内として、

早期の面談を希望した。その結果、面談は9月 19日に決まる。9月10日XがY代表者に対して 送信したメールによれば、

① 契約変更の希望

② 就業形態週5日・所定時間1日6時間・1か月 120時間の正社員(時短勤務)

③ 時短勤務の期間は26年10月1日から28年3月 31日まで(子が3歳となる)

 午前9時から午後4時までの勤務時間を希望

④ 担当予定の日曜日のクラスは担当する旨、

が記載されていた。

 これに対し、Y代表は現段階での正社員への 契約変更は考えていない旨メールしている。

 9月中旬、XはG社労士に電話で、Y は正社 員に戻すつもりがないのか、正社員に戻れない ことは辞めなさいと言っているのと同じではな いか、Y から退職勧奨されている旨を訴えた。

G 社労士は正社員契約には「正社員として勤務 する条件が整って双方が合意する必要がある」

旨説明し、退職勧奨には当たらない旨回答した。

(5)9月19日の面談

 Xは平成26年9月19日 Y 代表者、F 及び G 社 労士と面談した。X は、子を預ける保育園が見 付かったとして、週5日勤務の正社員へ復帰を 希望した。X の提案内容は、1日6時間の時短勤 務を選択し、土日の出勤で1週間4コマのクラス 担当を行い、平日のクラス担当はなしとする(9 時―4時で勤務、サポート業務)、というもので あった。Y代表者は、他の正社員と同じ前提(サ ポート業務だけでなくリーダーとしての業務も 負担)で働けるのが条件であると述べ、Fは、

Xには土日のクラスのみを担当させるのは難し いと述べた。またY代表者は、正社員として就 労することについて心配ないと判断できればX を正社員に戻すことはできるが、バックアップ 体制が相当しっかりしてないと難しい、クラス には穴をあけないのが大前提であるなどと述べ た。

 Xは納得できないので「契約社員として働く のを拒否した」らどうなるかの質問に対し、G 社労士が「自己都合による退職」となる旨返答 した。G社労士は、週5日体制に戻っても「子 の養育態勢がしっかりしておらず」、やはり無

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理となった場合、指導、減給、最後は辞めても らう可能性もある、と述べた。後日正社員に復 帰させるのかどうかの X の質問に対し、Y代 表者は信頼関係の問題であり、信頼関係を築い て初めて最終的なゴールにたどり着けるなどと 述べ、G 社労士は最低4か月は無理であり、戻 れる時期を確定できないと述べた。

 Xはこの回答に納得せず、労働局へ行く旨告 げた。FはXが説明には納得できないとの発言 を受けて、クラス担当に支障が生じるおそれも あったことから、「会社との間できちっと労働 契約が結ばれていないという状態になってし まうので、その状態で新業務を担当するのは ちょっと難しいと思う」と述べ、クラスを担当 させるか否かについては追って判断して連絡す ると伝えた。結局9月21日のクラス(FB14−

9A)コーチを変更し、TO E FLコースの資 料作成を指示、以後クラス担当をさせなかった。

(6)その後の面談、団体交渉

 9月22日、X は東京労働局長へ退職勧奨を理 由の個別労働関係紛争の解決援助の申出をし た。10月6日、Y代表者・G 社労士が労働局に 赴きYの説明内容を伝える。労働局はYに対し Xの主張に沿った助言をするも、対応はなされ なかった。

 10月6日ごろ X は女性ユニオン東京(本件組 合)に加入し、同月9日付で正社員への契約変 更、勤務時間6時間を求めた団体交渉を申し入 れた。X と Y 代表者、F は平成26年10月18日、

面談を行った。X は正社員にいつ戻れるのかの 時期が不明なままであることの不満を述べ、Y 代表者は仕事を預けて大丈夫という信頼関係が 構築される必要があるとして、具体的な時期を 明言することはなかった。FもXには2年間の ブランクがあり、いきなりクラス担当には、ど の程度のリスクがあるかもわからない、徐々に 慣らしていくことが絶対に必要であると述べ、

Y 代表者もこれに同調した。Y代表者はXをク ラス担当から外した理由についてクラス担当に

はリスクが大きいからである旨述べた。その後 Y 代表者は、X に対して各種の対応について業 務改善指示書・指導書・警告書などを交付した。

 10月22日には、F は X に対し①他のコーチ のクラス運営に対する批判(他の社員にも聞こ えるような大声で)、②事実と異なる内容の発 言(産休コーチが帰ると組織の規律が乱れる、

と言われた)、③勤務時間について過度に自分 の希望を主張したことについて、その趣旨を説 明して業務指導書を交付した。Y 代表者は、「文 書の趣旨を理解し、改善向上に努めます」に署 名して提出し、異議があれば記載を求め、「従 わないなら、従わないということで結構です。」

と説明した。

 本件組合は、10月28日団体交渉に先立ち同日 付の抗議申入書を提出した。同月30日の団交で、

本件組合はXを正社員に戻すよう要求したが、

Y代表者は現状ではクラスを担当させることも できない旨回答した。その際、本件組合の関係 者が、事実とは異なり、保育園の入園が決定し ているとして正社員への復帰を求めたが、Xが これを訂正することはなかった。

 11月1日には Y 代表者は X に上司等の指示命 令に従い誠実かつ忠実に業務を遂行することを 求める旨の業務改善指示書を交付した。

 11月19日には9月19日の面談以降の X の言動 に対しYの指示命令に素直に従おうとせず、正 社員に戻りたいとの自己の主張のみを押し通そ うとして、Yとの信頼関係を構築する努力を全 くせず、XとYとの間の信頼関係がすでに破綻 状態となっている状況であるとして、雇用契約 を正社員に変更することは不可能である旨を回 答した。

 12月12日ころ 組合から復帰させないことの 理由を求められたことに対して、Y代表者はX が休業明けに職場復帰した当日にYの全従業員 に対し「保育園が決まり次第、週5日勤務で働 くことになっている」などと誤った内容の挨拶 をし、正社員化への既成事実を作ろうとして不

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誠実な態度をとった、自己中心的な要求を行っ てYの労務管理を混乱させ、Yの女性従業員 に「私、会社にいじめられているから、あなた も妊娠を考えているなら気を付けたほうがいい よ」などと事実でないことを吹聴し、いたずら に女性従業員の不安心理をあおり、企業秩序を 乱す言動を行ったことなど総合判断して、9月 10日時点でXを信頼してコーチとしてクラスを 受け持たせ正社員に契約変更することは現段階 ではできないと決定した、と回答した。

主な争点

(1) 本件合意の解釈及びその有効性

   ア 本件合意は本件正社員契約を解約す るとの合意を含むものであるか。

   イ 本件合意は均等法や育介法に違反し または錯誤等により無効であるか。

   ウ 本件合意は停止条件付無期労働契約 の締結を含むものであるか。

   エ 本件合意は正社員復帰合意を含むも のであるか。

(2) 本件契約社員契約の更新の有無

(3) Y による不法行為の有無

(4) X による不法行為の有無

二 判旨

 争点(1)本件合意の解釈及びその有効性に ついて

(1)本件合意は本件正社員契約を解約する合 意を含むものであるか。

 ア「正社員と契約社員とでは、契約期間の有 無、勤務日数、所定労働時間、賃金の構成(固 定残業代を含むか否か、クラス担当業務とその 他の業務に係る賃金が内訳として区別されてい るか否か。)のいずれもが相違する上、Yにお ける正社員と契約社員とでは、所定労働時間に 係る就業規則の適用関係が異なり、また、業務 内容について、正社員はコーチ業務として最低 限担当すべきコマ数が定められており、各種プ

ロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとさ れているのに対し、契約社員は上記コマ数の定 めがなく、上記リーダーの役割を担わないとの 違いがあり、その担う業務にも相当の違いがあ るから、単に一時的に労働条件の一部を変更す るものとは言いえない。そうすると、X は、雇 用形態として選択の対象とされていた中から正 社員ではなく契約社員を選択し、Y との間で本 件雇用契約書を取り交わし、契約社員として期 間を1年更新とする有期労働契約を締結したも の(本件合意)であるから、これにより、本件 正社員契約を解約したものと認めるのが相当で ある。」

 イ これに対しXは、「1年の契約期間は形式 的なものにすぎず、本件合意は、本件正社員契 約を継続させつつその労働条件の一部を変更す る趣旨の合意である旨主張する」。しかしなが ら、「雇用形態として、正社員と契約社員は明 確に区別され、」「併存するものとはされておら ず、」補足説明には「契約社員は、本人が希望 する場合は正社員への契約再変更が前提です」

とし、改めて正社員契約の締結を要する旨の記 載がある。

(2)本件合意は均等法や育休法に違反するか。

 ア 正社員契約と契約社員契約の比較をする と、後者は賃金が固定残業分がないため10万 6000円であり、「雇用の安定において差があり、

退職金の算定にあたっても契約社員の期間は算 定されないなどの面において不利益があること は否定できない。もっとも、これは、X が週5 日の勤務が可能であることを前提にした場合で ある。」

 「しかしながら、実際には、Xは、本件合意 の時点においては、子を預ける保育園が見つか らず、家族のサポ−トも十分に得られないため、

週5日勤務が困難であり週3日4時間の就労しか できなかったのであるから、子を預ける保育園 が確保できる見込みがないまま、週5日勤務の 正社員のコーチとして復職すれば、時間短縮措

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置を講じたとしても、コーチとしてクラスを担 当すること自体が困難になったり、クラスを担 当してもその運営に大きな支障が生じたりし、

あるいは欠勤を繰り返すなどして自己都合によ る退職を余儀なくされるか、勤務成績が不良で 就業に適さないとして解雇されるか(就業規則 34条1項2号)、さらには出勤常ならず改善の見 込みがないものとして懲戒解雇される(就業規 則31条2号)おそれがあるなどの状況にあった ものである。」

 イ 「X には、育児休業終了までの約6か月の 間、子を預ける保育園の確保や家族にサポート を相談するなどして、復職する際の自己に適合 する雇用形態を十分に検討する機会が与えられ ていたものである。そして、X は、時間短縮措 置を講じても正社員として週5日勤務すること が困難な状況にあったため、一時は転職や退職 を考えたものの、育児休業終了の6日前になっ て、正社員ではなく週3日4時間勤務の契約社員 として復職したい旨を伝え、育児休業終了の前 日に、契約書の記載内容、契約社員としての働 き方や賃金の算定方法等について説明を受け、

これを確認して、本件契約社員契約を締結した ものである。」

 「このようなYによる雇用形態の説明および 本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びに その状況、1審原告が自ら退職の意向を表明し たものの、一転して契約社員としての復職を求 めたという経過等によれば、本件合意には、X の自由な意思に基づいてしたものと認めるに足 りる合理的な理由が客観的に存在するものとい える(広島中央保険生協事件・最高裁平成26年 10月23日第3小法廷判決・民集68巻8号1270頁参 照)(以下「広島中央最判」という。)。

 したがって、本件合意は、均等法9条3項や育 介法10条の「不利益な取扱い」にはあたらない というべきである。」

 ウ X は9月8日になって認証保育園に入園 可能になったとして正社員契約の再締結を求め

た。しかし、Y との面談が19日になってしまい 週5日勤務に戻してくれないので、キャンセル したあるいは申込を断念した等と供述する。

 「実際、X は、平成26年9月19日の面談におい て、正社員に戻す前提であれば保育園に入れて 勤務してみてもよいとか、週5日勤務で問題が 生じたらいつでもクビにしてもらってよいなど と発言しており、週5日勤務が可能になったこ とを理由として、正社員契約の再締結を求めて いたものではない。そして、最終的には、X は、

平成27年3月になってようやく子を預ける保育 園を確保できたのであるが、これは育児休業中 の平成26年2月時点における想定とは何ら変わ るものではなく、この間、保育園への入園の目 途が立ったような事情もなく、また状況が変化 して、家族のサポートが整ったような事情もな い。……結局、X は、本件合意の時点はもとより、

近い将来においても、週5日の就労が困難であ り週3日4時間の就労しかできない状況にあった ものと認められる。X は、週5日労務提供をす る旨の意思表示をすれば足り、子の保育状況を 報告し、就労可能性を証明する必要はないなど と主張するが、就労可能性は、単に主観的な意 思のみで判断されるものではない。」

 また、X は「休職」を認めるべきであると 主張するが、「X は欠勤したわけではないから、

休職事由である『家事の都合、その他やむを得 ない事情により1か月以上欠勤したとき。』(就 業規則38条1項2号)に該当しないことは明らか であるし、育会規則及び育児介護規程に基づき

『保育所に入所を希望しているが、入所できな い場合』に該当するとして、最長1年6か月の育 児休業をすでに取得した X が、さらに3か月に 及ぶ休職を求める理由は、前記の通り、子の保 育方法を限定するなどしたことによるものであ るから、『特別の事情があって、会社が休職を させることを必要と認めたとき。』(就業規則38 条1項3号)に該当しないとして X【➡ Y(筆者)】

が判断したことも不当なものとはいえない。も

(7)

とより、労働契約における信義則上の配慮義務

(労働契約法[以下「労契法」という。]3条4項)

に反するものともいえない。」

 Xは、本件契約社員契約は、「マミートラッ ク」の典型であり、育児休業明けの労働者の キャリアの形成を阻害するものであるとか、育 児休業制度を空洞化するものであるなどと批判 するが、「育介法等が求める時間短縮を講じて もなお就労が困難な労働者に対し、雇用の継続 を保障するという面があることは否定できない から、上記批判は当たらないうえ、本件は、時 間短縮措置を講じてもなお正社員のコーチとし て週5日就労することが困難なXが、それを踏 まえ、Yの雇用形態においては正社員として稼 働する選択もできるようになっていた中で、自 らの意思でその選択肢の中から契約社員のコー チとして週3日4時間勤務することを選択した事 案であるから、これを育児休業明けの労働者の キャリア形成の問題に一般化して批判すること は適当ではない。」

(3)本件合意は自由な意思に基づくものか。

 Xは、本件合意には労働者が不利益な労働条 件を受け入れる側面があることから、労働者の 自由な意思に基づいてされたものと認めるに足 りる合理的な理由が客観的に認められることを 要する(山梨県民信用組合事件・最高裁平成28 年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁 参照)(以下、「山梨信組最判」という。)として、

本件合意は真に自由な意思に基づくものではな いから、無効であると主張する。

 しかしながら、‥‥、「X において、そのよ うな状況に適合する週3日4時間勤務の契約社員 を自らの意思で選択し、本件契約社員契約を締 結したものであって、Y が契約社員契約を強要 した事実など全くないであるから、本件合意に 至る経緯、Y による雇用形態等の説明等に照ら し、本件合意は、X の自由な意思に基づいてさ れたものと認めるに足りる合理的な理由が客観 的に存在するものというべきである。」

(4)本件合意は錯誤により無効か。

 Xは希望すれば直ちにかつ確実に正社員に戻 れると思って本件雇用契約書に署名した旨の供 述があるが、採用できない。また、本件契約社 員契約は正社員として復職するための一時的な つなぎという意味が、Xが希望すれば直ちに正 社員に戻れることを言うのであれば、上記面談 の際の発言等に照らし、同様に採用できず、将 来において正社員に復帰する途があることを言 うのであれば、内心の意思と表示ないし表示意 思は一致しており、そもそも錯誤があるとは言 えない。」

(5)本件合意は停止条件付無期労働契約の締 結を含むものであるか。

 「本件書面中の『契約社員は、本人が希望す る場合は正社員への契約再変更が前提です。』

との記載は、契約社員については、将来、正社 員として稼働する環境が整い、本人が希望をし た場合において、本人とYとの合意によって正 社員契約を締結するという趣旨であり、本人か らの申出のみで正社員としての労働契約の効力 が生じるというものではない。」

(6)本件合意は正社員復帰合意を含むものか。

 「そして、正社員は、契約社員とは異なり、コー チ業務として最低限担当するべきコマ数が定め られていることから、正社員として再契約する には、コマ数を増加させるためのスケジュール 調整が必要であるが、それに加えて、正社員は、

各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担 うとされているのであるから、コーチとして十 分な業務ができるか否かについてYの評価や判 断を抜きにして、スケジュールの調整ができさ えすれば、一般【審―筆者】被告=Yに正社員 契約の締結が義務付けられる性質のものではな い。」

 「契約社員について、将来、正社員として稼 働する環境が整い、本人が希望をした場合にお いて、本人とYとの合意によって正社員契約を 締結するとされていても、それはあくまで将来

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における想定にすぎず、本件契約社員契約の締 結時において、契約社員が正社員に戻ることを 希望した場合には、速やかに正社員に復帰させ る合意があったとは言えない。」

 争点(2) 本件契約社員契約の更新の有無

(1)「Yにおける契約社員制度は、育児休業明 けの社員のみを対象とするものであり、子の養 育状況等によって、将来、正社員(週5日勤務)

として稼働する環境が整い、本人が希望する場 合には、正社員として期間の定めのない労働契 約の再締結を想定しるものであるから、本件契 約社員契約は、労働者において契約期間の満了 時に更新されるものと期待することについて合 理的な理由があるものと認められる有期労働契 約(労働契約法19条2号)にあたるものという べきである。」

(2)本件雇止めにつき、客観的に合理的な理 由があり、社会通念上相当であると認められる か否かについて、検討する。

 エ「上記アからウの一連の行為のみをもって しても、Y代表者の命令に反し、自己がした誓 約にも反して、執務室における録音を繰り返し たうえ、職務専念義務に反し、就業時間中に、

多数回にわたり、業務用のメールアドレスを使 用して、私的なメールのやり取りをし、Yをマ タハラ企業であるとの印象を与えようとして、

マスコミ等の外部の関係者らに対し、あえて事 実とは異なる情報を提供し、Yの名誉、信用を 毀損するおそれがある行為に及び、Yとの信頼 関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省 の念を示しているものでもないから、雇用の継 続を期待できない十分な事由があるものと認め られる。

 したがって本件雇止めは、客観的に合理的な 理由を有し、社会通念上相当であるというべき である。」 以下、争点(3)及び(4)は省略。

 なお、本研究では争点(1)のみを対象とする、

残余の部分については、すでに発行されている 本判決批評を参照されたい。1

三 本判決の検討

1)本件事案における問題の複雑性

 本件は、X が育児休業終了段階で保育園が見 つからなかったために正社員としての復職が困 難として Y において設けられた契約社員とし ての有期契約を締結し復職したものの、その直 後保育園が見つかったとして正社員契約への変 更を希望したのに対して、Y がこれを拒否した ために、単独での問題処理を断念し、労働局の 個別労働関係紛争の解決援助の制度を利用した り、さらに労働組合に加入して正社員への復帰 のための交渉をする中で、X と Y との関係が 険悪化していく中で Y により1年の有期契約の 更新が拒否された事案である。本判決では、復 帰直後(平成26年9月)の段階で保育園が見つ かったとの発言が虚偽であったことが重大視さ れ、X の Y との交渉のみならず裁判過程にお ける誠実性が疑われている。しかしその背景に は、Y の勤務時間の特殊性(平日の夜間・週 末のほぼ全日)からして X が単に保育園を確 保したからと言って必ずしも正社員としての仕 事を全うできるものではなく、保育園確保に加 えて特別のサポート体制が必要となる事情があ る。X の場合は母親のサポートを期待できるよ うになる(7か月後の)平成27年4月以降であれ ば本格復帰も可能であり、その段階での保育園 の確保を予定していたと思われる。本判決は、

月160時間以上の勤務でなければ区からの補助 金を受給できないため週5日勤務の目途が立っ てから保育園を探そうとしたとの X の陳述か ら、そのように「子の保育方法を限定」したこ とが保育園が見つからず3か月の休職を要求す

――――――――――――――――――

松井良和・本判決「批判」、労働法学研究会報2713号(2020年)22頁、鳥蘭格日楽(オランゲレル)・本判決「批 判」、季労269号(2020年)193頁

(9)

る原因とみているが、Y の勤務時間を直視する 限り、上記のように推察される。その意味では、

休職の承認が X にとっては最も望ましいもの であり、X 自身当初はこれを打診している。し かし Y から拒否されている。

 次に、育児休業終了後直ちに就労可能となら なければ労働契約が終了するとの認識が当事者 間にあったと思え、これが問題を複雑にしてい る。X としてはこの時期にはまだ本格復帰のた めの条件が整っていない段階で、法的知識の乏 しさもあって自らの客観的法的状態を把握でき ずに、選択を迫られている。しかし、育児休業 終了後直ちに就労可能でなければ退職せざるを 得ないとの前提は、私傷病による休職からの復 職過程においては「一定の猶予を置くことを求 める」裁判例の傾向との整合性に欠ける、との 指摘がある。育児休業終了時における本件正 社員契約の終了は法的に既定事項ではないとの 前提に立てば、本件正社員契約の解約を伴う本 件契約社員契約の締結は、将来にわたり雇用の 安定を喪失するという大きな不利益を X にも たらすとの視点で、対応することが望まれる。

2)労働条件の一つとしての労働時間・期間設

 原審及び本判決では契約社員契約の選択(本 件合意)により正社員契約を解約したとみられ ている。すなわち、本件有期契約の締結は正社 員契約の解約=退職を前提に行われたとみるわ けである。これに対して、X 側では、「本件合 意は、正社員としての無期労働契約を継続した

まま一時的に勤務日数および勤務時間を減らす という合意」であると主張している。

 学説の中にも、労働契約法においては、特定 の労働者が特定の使用者に「使用されて労働 し」、使用者がそれに対して「賃金を支払う」

ことを合意することで、特定の同一性を持った 一つの労働契約が確定する、との主張がある。

この枠組みが維持されている限り、継続的契約 関係である労働契約の進行中に、契約の内容で ある労働条件の一部に変更があっても、労働契 約の同一性は維持されるのは理論上当然であ る、とされる。 しかし、このような理解は、

ヨーロッパでは当然のものであるが、日本でも 同じように主張しうるかは問題であろう。すな わち、正社員=無期契約、非正社員=パート・

有期契約という両者の契約類型を峻別して労務 管理するわが国の雇用慣行では難しい主張とい えようか。例えば、日本型雇用システムの下で は、「労働契約の期間は単なる労働条件の一つ ではない。」との見解が有力である。これによ れば、無期雇用であることは、企業が長期的な 観点から人材を育成する対象として選別した結 果を示すものである。 企業にとって正社員 は、費用をかけて長期的に人材育成をして活用 していく対象となる労働者である。 他方で 非正社員は、この日本型雇用システムの下では、

正社員の地位を補完する機能を果たす存在とし て位置づけられる。それは、低賃金や雇用の不 安定性などの問題があるとしても、社会全体か ら見れば、許容しるものであった、と説明され る。

――――――――――――――――――

石崎由紀子・本件1審「批判」ジュリスト1532号(2019年)107頁以下110頁。なお、同著「病気休職・復職を めぐる法的課題―裁判例の検討」労働判例1202(2019年)号6頁以下参照

石崎・前掲注(2 )「批判」110頁

野田進・本件鑑定意見、労旬1942号(2019年)10頁以下16 ~ 17頁、なお、同号には山田省三・本件鑑定意見(27 頁以下)、出口かおり・本件経緯説明(6頁以下)が掲載されている。

大内伸哉『非正社員改革』中央経済社(2018年)74頁。

大内・前掲注(5)書162頁

大内・前掲注(5)書54頁

(10)

 これに対し本件では、「契約社員契約と正社 員契約という2本の労働契約がX・Y間で併存 しているという可能性も否定できない」とする 見方もある。すなわち、「本件契約社員制度が、

『いずれ当該従業員が希望すれば無期労働契約 を再締結して正社員に復帰することを想定した もの』【1審判旨】であるとすれば、同制度を定 める規定の合理的解釈(労契法7条)として、

育児休業終了後、直ちに正社員として復帰する ことが困難な労働者が、本件正社員契約につい て休業状態(=労働契約上の権利義務が停止し た状態)を維持したまま、本件契約社員契約を 別途締結していると構成」するのである。  しかし、本件では、休職を Y 側が明確に拒 否しているため黙示的に契約が停止した状態と いえるかが疑問であり、また、本件では、X が休職を拒否された以上解雇必至と考え有期契 約を締結しているといえるため、厳密にいうと 二重の関係が成立しているとも言いにくい。と はいえ、本件の上記の特殊性を考慮すると興味 深い見解である。10

3)本件合意が均等法や育介法に違反するか

(1)妊娠、出産、産前産後休業及び育児休業 の申出または育児休業をしたことを理由とする 差別取扱いの禁止(均等法9条3項、育介法10条 注)に違反するか。

 本判決は、実際上 X は本件合意の時点では 週5日勤務は無理で週3日1日4時間の就労しかで きなかったのであるから、複数の選択肢につい て説明を受けた中で契約社員契約を選択したの であって、本件合意には X の「自由な意思に

基づいてしたと認めるに足りる合理的な理由が 客観的に存在する」として、広島中央最判や山 梨信組最判を引用する。

 広島中央最判によれば、均等法9条3項は強行 規定であり、妊娠中の軽易業務への転換等を「理 由として解雇その他不利益な取扱いをすること は、同項に反するものとして違法であり、無効 である」。

 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす 処遇であるところ、・・・女性労働者につき妊 娠中の軽易業務への転換を契機として降格させ る事業主の措置は、「原則として同項の禁止す る取扱いに当たるものと解されるが、①当該労 働者が軽易業務への転換および上記措置により 受ける有利な影響並びに上記措置により受ける 不利な影響の内容や程度、②上記措置に係る事 業主による説明の内容その他の経緯や③当該労 働者の意向等に照らして、当該労働者につき自 由な意思に基づいて降格を承諾したものと認め るに足りる合理的な理由が客観的に存在すると き、または…業務上の必要から支障がある場合 で・・・・上記措置につき同項の趣旨および目 的に実質的に反しないものと認められる特段の 事情が存在するときは、同項の禁止する取扱い に当たらないものと解するのが相当である。」

 この判決に対しては、均等法9条3項(差別禁 止規定)の構造からすると、差別禁止事由(妊 娠・出産等)を理由とした不利益取扱いか、ま たは他の合理的な理由に基づくものか(合理性 の欠如は差別意思の存在を推認)という不利益 取扱いの理由・意思を問うべき、との批判があ る。11

――――――――――――――――――

石崎・前掲注(2)109頁

石田信平・本件1審「批判」季労267号(2019年)164頁以下168頁によれば、その旨の「明確な合意が必要である。」

10 というのは、後述のドイツの育児(親時間)休業中の被用者は法律上週30時間まで就労可能である。この状態 はまさに休業と就労の二重関係となっているのであり、このような関係は契約を通じてでも形成されうると思わ れる。

11 水町勇一朗・同判決「批判」ジュリスト1477号(2015年)103頁以下106頁

(11)

 次に、均等法9条3項の「理由として」は客観 的な因果関係を指すものとする学説12があり本 判決はこの客観的な因果関係説に立つとの理解

13がある。その根拠として以下の点が注目され る。「労働者に対する性別を理由とする差別の 禁止等に関する規定に定める事項に関し、事 業主が適切に対処するための指針(平成18年厚 生労働省国614号)」の第4の3(1)では「法第9 条第3項の『理由として』は、妊娠・出産時と、

解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係が あることをいう」とされており、「不利益な取 扱い」の具体的内容は、「仮に妊娠、出産をせ ずに働き続けていた場合における当該女性労働 者の処遇」と比較して、妊娠、出産等を理由に 処遇が低下している場合には、これを「不利益」

とみることが妥当14とされている。

 以上のように広い範囲での適用を前提にし て、均等法9条3項が強行規定であるためにすべ ての違反が無効になるというのでは、実務への 影響も甚大であり、硬直的に過ぎて具体的妥当 性を欠くとの批判がなされ得る(いわば法の欠 缺−筆者)。この観点から、「妊娠を契機とする 降格が原則として不利益取扱いとなるとしたう えで、法文上には例外がないが、解釈により、

労働者の自由意思に基づく承諾(例外①)、及び、

規定の趣旨・目的に実質的に反しない特段の事 情(例外②)が存する場合、均等法9条3項に規 定する(不利益)取扱いとしないとすることで、

柔軟な判断の余地を残そうとした」との判旨の 論理に沿った説明がなされる。15)「~を理由 とする不利益取扱い禁止規定」に例外規定が必

要となったのは、不利益取扱い該当性が限定的 に肯定されていたものから原則的に肯定するも のへの転換という解釈の出発点が逆転した結果 であるとみているのであろう。

 他方で、この例外設定の趣旨に関して「判解」

16によれば、それら措置が「事業主の業務上の 必要性」に基づく場合その因果関係が否認され 不利益取扱いとならないとする従来の見解(当 該事件に関する下級審判決も含めて)に対して、

そうなれば、「事業主の業務上の必要性」を理 由に一律に不利益取扱い該当性を否定すること となり、均等法9条3項の趣旨を没却することに なりかねないとの観点から、同判決は、軽易な 業務への転換を契機として降格させる事業主の 措置は、原則として「不利益取扱い」に当たる としてうえで(立証責任を転換して)、降格措 置をとらなければ軽易な業務への転換には「業 務上の必要性から支障」があり、降格措置には 均等法9条3項の趣旨・目的に実質的に反しない ものと認められる特段の事情が存するときはこ れに当たらないとしたのである【例外②】、と する。そして元来均等法9条3項は強行規定であ るからこれに反する取扱いは「労働者の同意の 有無にかかわらず無効であり、当該労働者の主 観的事情は、当該措置が『不利益取扱い』に該 当するか否かの判断、特に労働者への影響の有 利・不利の評価における考慮事情の一つにとど まる。」そのような趣旨で「当該労働者につき 自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認 めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する ときは(シンガー・ソーイング・メシーン・カ

――――――――――――――――――

12 富永晃一「雇用社会の変化と新たな平等法理」、長谷部恭男他編『現代法の動態 第3巻 社会変化と法』(岩 波書店・2014年)59頁以下

13 長谷川珠子・同判決「批判」法教413号(2015年)35頁以下40頁、同旨:市原義孝・同判決「批判」ジュリス ト1488号(2016年)94頁以下96頁

14 21世紀職業財団編・『詳説 男女雇用機会均等法』(2007年)150頁

15 富永晃一・同判決「批判」季労248号(2015年)173頁、179頁

16 市原・前掲注(13)「批判」94頁以下、同・最高裁判所判例解説 民事篇 ((平成26年度))425頁以下

(12)

ムパニー事件・最二小判昭48・1・19民集27巻1 号27頁、日新製鋼事件・最二小判平2・11・26 民集44巻8号1085頁)」、それは「不利益な取扱い」

に当たらないと理解される【例外①】、として いる。17

 ここでは従来の判例法理との整合性が図られ ていると思える。基本的に例外②(業務上の必 要性による正当化の限定)の創設に重点が置か れており、例外①においては個別当事者の具体 的同意はそれ自体それほど有意味ではなく、不 利益取扱い=有利性と不利益性の比較考量(客 観的な不利益性判断)における考慮要素の一つ と位置付けている。

 これに対し、この例外①に焦点を合わせた研 究が存在する。すなわち、先ず労働者の意向(請 求)に基づく軽易業務への転換(使用者の措置)

があり、そしてそれを契機とする賃金低下を伴 う降格(使用者の不利益措置)となり、それへ の労働者の承諾ということである。したがって、

それはいうなれば労働者側での自己決定による 部分があり、単純に使用者の差別意図の結果と は見られない。ただ、労働者としては軽易業務 への転換が降格に結びつくことまでは想定して いないので、この労働者の承諾は慎重に認定さ れるべきことになる。こう言えるのは【例外設 定】は、労働者が希望する有利な措置と不利益 取扱いに当たる措置との間に密接な関連性ない し一体性が認められる場合であり、必ずしも同 条項の不利益取扱い一般に妥当するものではな 18

 この見解によれば、同判決の射程は、「軽易 業務への転換という、労働者の権利行使に基づ

く労働者に有利な措置と、職位引き下げとして の降格という、それ自体としては労働者に不利 な措置とが結び付いている事案に対応した枠組 み」と考えるのが妥当である。これに対し、産 前産後休業や育児休業の終了後に現職に復帰 させない措置は、「休業が終了した後の問題で あり、時系列的に見る限り、労働者に有利な影 響と不利な影響が混在しているわけではないの で、このような場合にも労働者の承諾による例 外を認めることには疑問がある。」19この見地 からは、当該判決の射程【例外の許容】は相当 限定されるので、本件のように、時系列的にも 育児休業後の復帰問題にまで及ぶことはありな いであろう。

(2) 育児休業終了後の短時間勤務措置に関す る不利益取扱い(育介法23条の2)の違反  本件に類似した事案であるフーズシステムほ か事件(東京地判平30.7.5労判1200号48頁)では、

育介法23条の2が適用されている。先ず、同事 件は被告会社(被告Ⅰ)に期間の定めなく雇用 され、事務統括という役職にあった原告が、自 身の妊娠、出産を契機として、被告会社の取締 役(被告Ⅱ)及び被告Ⅰの従業員から、意に反 する降格や退職強要等を受けたうえ、有期雇用 契約への転換を強いられ、最終的に解雇された

【事案】であった。判決の判断枠組は以下のよ うになっている。

 ・育児休業法23条は、事業主は、その雇用す る労働者のうちその3歳に満たない子を養育す る労働者であって育児休業をしていない者に関 して、労働者の申出に基づき所定労働時間を短 縮することにより当該労働者が就業しつつ当該

――――――――――――――――――

17 市原・前掲注(13)「批判」96頁

18 山川隆一・同判決「批判」法学協会雑誌第133巻第9号1486頁以下1501頁

19 山川・前掲注(18)「批判」1504頁。また、長谷川・前掲注(13)「批判」41頁によれば、同判決の射程は「均 等法施行規則2条の2各号に示された妊娠・出産に関する事由のうち労働者に有利な影響が及ぶ場合であり、不利 益取扱いとなる措置が労働者にとって有利な措置と連動して実施された場合に限られる。」(長谷川・前掲注(12)

「批判」)とする。施行規則2条の2の6号には労基法65条による他の軽易な業務に転換は載っているが、育児休業 後の有期契約の締結などは存在しない。

(13)

子を養育することを容易にするための措置を講 じなければならないとし、同法23条の2は、事 業主は、労働者が前条の規定による申出をし又 は同条の規定により当該労働者に上記措置が講 じられたことを理由として、当該労働者に対し て解雇その他不利益な取り扱いをしてはならな いと規定している。

 育児介護休業法23条の2の「対象は事業主に よる不利益な取扱いであるから、当該労働者と 事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変 更したような場合には、事業主単独の一方的な 措置により労働者を不利益に取り扱ったもので はないから、直ちに違法、無効であるとはいえ ない。」

 ・育介法23条の2の規定は、「子の養育又は家 族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就 職の促進を図り、これらの者の職業生活と家庭 生活との両立に寄与することを通じてその福祉 の増進を図るため、育児のための所定労働時間 の短縮申出を理由とする不利益取扱いを禁止 し」たのであり、「上記の目的を実現するため にこれに反する事業主による措置を禁止する強 行規定として設けられた」。

 ・当該合意の成立および有効性についての判 断は慎重にされるべきである。「そうすると、

上記短縮申出に際してされた労働者に不利益 な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成 立したというためには、①当該合意により労働 者にもたらされる不利益の内容及び程度、②労 働者が当該合意をするに至った経緯及びその態 様、③当該合意に先立つ労働者への情報提供又 は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働 者の自由な意思に基づいてされたものと認める に足りる合理的な理由が客観的に存在すること が必要であるというべきである。」

 ・「これを本件ついてみるに、それまでの期 間の定めのない雇用契約からパート契約に変更 するものであり、期間の定めが付されたことに より、長期間の安定的稼働という観点からする

と、原告に相当の不利益を与えるものであるこ と、賞与の支給がなくなり、従前の職位であっ た事務統括に任用されなかったことにより、経 済的にも相当の不利益な変更であることなどを 総合すると、原告と被告会社とのパート契約締 結は、原告に対して従前の雇用契約に基づく労 働条件と比較して相当大きな不利益を与えるも のといえる。・・・・」

 ・「原告が自由意思に基づいて前記パート契 約を締結したということはできないから、その 成立に疑問があるだけでなく、この点を置くと しても、被告Ⅰが原告との間で同契約を締結し たことは、育児休業法23条の所定労働時間の短 縮措置を求めたことを理由とする不利益取扱い に当たる。」「したがって、X と Y1との間で締 結した前記パート契約は、同法23条の2に違反 し無効というべきである。」

 このフーズシステム事件では、期間の定めの ない嘱託社員(8時30分~ 17時30分の8時間勤 務)が短時間勤務を要求したところ有期のパー ト社員契約(9時~ 16時までの6時間勤務)で なければできないとして有期契約の締結を強要 された、という事案である。したがって1日6時 間の短時間勤務措置の要件(育介法23条1項−

育介法施行規則74条1項)を充足するので、同 法23条の要件を充足する。そしてこれを理由と した有期契約の締結(不利益取扱い)なので、

同法23条の2が問題となる。その判断では、客 観的な不利益内容の比較がなされ、無期雇用と 有期雇用との差異が重要視される。そしてなん といっても使用者側の説明が無期雇用でもあり うる短時間勤務であるのに有期契約でなければ できないと説明したこと、この虚偽の説明も重 視されて、23条の2違反となる。ここでは原則 と例外という枠組みは明確でないが、「自由意 思に基づく合意」がある場合、「理由として」

の要件を満たさず育介法23条の2に反しないと 述べたと解すると、広島中央最判との共通点が 認められる。20

参照

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