Ⅰ.緒言
内閣府がほぼ毎年実施している「国民生活に関す る世論調査」では,日常生活での悩みや不安につい ての調査も行っている
1).それによると,回答者の 中で悩みや不安を感じている人は,平成 29・28 年で はそれぞれ 63.1%,65.7% であり,それ以前の平成 19
~ 27 年では 66 ~ 71% 程度となっている
1)(図 1,表 1).ただし,平成 29・28 年では 18 歳以上が,それ 以前では 20 歳以上が対象である
1).平成 28 年につい ては 20 歳以上での割合も公表されており,66.0% で あった
1)(図 1).
一方,厚生労働省が毎年実施している「国民生活 基礎調査」でも,3 年に 1 度の大規模調査時には,日 常生活での悩みやストレスについて調査を行ってい る.それによると,回答者の中で悩みやストレスが ある人は,平成 28 年では 47.7% であり,それ以前の 平成 19 ~ 25 年では 46 ~ 48% 程度となっている
2)(図 1,表 1).ただし,これらは 12 歳以上についてのデー タである
2).
調査対象の設定や抽出方法,設問に違いがあるも のの,類似した調査であるにも関わらず,両者で数 値に大きな違いが認められる.本研究では,両者の 結果の違いをより詳しく示し,そのうえで違いの生 じる原因を考察する.
要 旨
内閣府の「国民生活に関する世論調査」による悩みや不安を感じている人の割合と厚生労働省の「国民生活基礎調査」
による悩みやストレスがある人の割合とでは,20% 程度もの大きな違いがある.その違いについての詳細を示し,原因を 考察した.性・年齢階級別にみても,すべての階層で前者の値は後者の値よりも大きかった.ただし,その差は,概ね高 齢層で大きく,若年層で小さかった.違いの原因として,最も重要なのは,調査票の違いであると考えられた.具体的に は,質問文とそれに続く項目の違いが重要であると考えられた.
キーワード:悩み 不安 ストレス 調査 リサーチリテラシー
【資料】
悩みに関する調査の数値の違いについて
-内閣府『国民生活に関する世論調査』と厚生労働省『国民生活基礎調査』-
Difference between results from surveys examining people’s worries: a comparison of the “Public Opinion Survey on the Life of the People” conducted by the Japan Cabinet office and the “Comprehensive Survey of
Living Conditions” conducted by the Japan Ministry of Health, Labour and Welfare
神山 吉輝 Yoshiki KAMIYAMA
東都医療大学ヒューマンケア学部看護学科 E-mail : [email protected]
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Ⅱ.研究方法
内閣府の「国民生活に関する世論調査」と厚生労働 省の「国民生活基礎調査」について,公表されている資 料を用いて,調査対象の設定や抽出方法,設問の違い を比較する.また,両調査とも性・年齢階級別の回答数 が公表されている
1)2).ただし,「国民生活基礎調査」
についてはその母集団における推計値である
2).それら の資料を活用して,厚生労働省の「国民生活基礎調査」
について,20 歳以上についての悩みやストレスがある人 の割合を算出し,内閣府の「国民生活に関する世論調査」
の 20 歳以上の結果との比較を行う.さらに,両調査の 回答者の性・年齢階級の構成割合を比較する.また,性・
年齢階級別に, 「悩みや不安を感じている」人と「悩みや ストレスがある」人の割合を比較する.「国民生活に関す る世論調査」では,性・年齢階級別の割合が公表され ている.「国民生活基礎調査」については,前述の性・
年齢階級別の回答数から算出する.これらの分析から 両調査で違いの生じる原因を考察する.
本研究は既に匿名化されている情報(特定の個人を識 別することができないものであって,対応表が作成され ていないもの)のみを用いており,倫理的問題は生じない.
Ⅲ.結果
表 2 に悩みに関する部分について両調査の比較を簡単 に示した.表に示された集落抽出法とは, 「母集団がいく つかの個体からなる『集落』から構成されている場合に,
その集落を抽出し,集落内のすべての個体を調査する抽 出法」
2)である.表には示していないが, 「国民生活に関
する世論調査(内閣府)」では,国勢調査の後置番号 1
~ 4と8 の調査区が調査対象となっているのに対し, 「国 民生活基礎調査(厚生労働省)」では,後置番号 1と8 の調査区のみが調査対象となっている
1)2).国勢調査の 調査区の後置番号については表 3 に示した
3).また, 「国 民生活基礎調査(厚生労働省)」では「単身赴任者,
出稼ぎ者, 長期出張者(おおむね 3 か月以上), 遊学中の者,
社会福祉施設の入所者,長期入院者(住民登録を病院 に移している者),預けた里子,収監中の者,その他の別 居中の者」で世帯に不在の者を調査対象から外している
2).
図 2 に,平成 28 年の両調査の当該部分の調査票を示 した.両者とも続く設問で,具体的な項目を挙げて,その 内容についても調査していた
1)2).平成 19 年以降の調査 票は両調査ともほぼ同一であった. 「国民生活に関する世 論調査(内閣府)」では「悩みや不安を感じていますか」
と問うており, 「国民生活基礎調査(厚生労働省)」では,
「悩みやストレスがありますか」と問うているが,以下で は, 前者の問いに「悩みや不安を感じている」と答えた者,
及び後者の問いに「ある」と答えた者をともに, 「悩みが ある者」と簡便のために記述する.悩みがある者の中で,
その内容として最も多く選ばれていたのは, 「国民生活に 関する世論調査(内閣府)」では,平成 19 年以降全て の年で「老後の生活設計について」であり,選択された 割合は常に 50%を超えていた
1). 「国民生活基礎調査(厚 生労働省)」では,平成 19 年以降全ての年で「自分の 仕事」であり,選択された割合は常に 30% 台であった.
図 1 に, 「国民生活基礎調査(厚生労働省)」で 20 歳以上としたときの悩みやストレスのある者の割合を○で示 した.平成 19・22・25・28 年でそれぞれ,48.9%,47.1%,
49.3%,48.9% であった.
×で示した 12 歳以上としたとき の数値とほとんど変わりなく, 「国民生活に関する世論調査
(内閣府)」の悩みや不安がある者の割合よりも,20% 程 度低かった.
図 3 に, 両調査の 18 歳または 20 歳以上の回答者の性・
年齢別の割合を示し,比較した. 「国民生活に関する世論 調査(内閣府)」の方が「国民生活基礎調査(厚生労 働省)」よりも,60 歳以上の高齢層の構成割合がやや大 きかった.
表 4 ~ 7 に,平成 19 ~ 28 年の性・年齢階級別の回 答の比較を示した.全ての年の男女の全ての年齢階級で,
悩みがある者の割合は, 「国民生活に関する世論調査(内
閣府)」の方が「国民生活基礎調査(厚生労働省)」よ
りも大きかった.その差は,概ね高齢層で大きく,若年層で
資 料
小さかった.平成 28 年の男性 60 歳以上,女性 60 ~ 69
歳,平成 25 年の男性 50 ~ 69 歳,女性 60 ~ 69 歳,平 成 22 年と19 年の 50 歳以上の男女では,その差が 20%
を超えていた.また,両年の男性全体でもその差が 20%
を超えていた.一方,平成 28 年の男性 29 歳以下,平成 28 年,25 年,19 年の女性 39 歳以下,平成 22 年の女性 30 ~ 39 歳では,その差は 10% 未満であった.
Ⅳ.考察
両調査での悩みがある者の割合は,平成 19 年以降 安定しており,信頼性は高い.また,両調査の標本スケー ルの大きさから見ても,結果の違いを偶然誤差で説明す ることはできない.「国民生活基礎調査(厚生労働省)」
では,病院に長期入院している者等が対象者から除か れている.そのことが違いに寄与している可能性は否定 できない.また,抽出方法の違いが結果の違いに寄与 している可能性も否定できない.しかし,それらの理由
によって 20% 程度もの違いを説明することは難しい. 「国 民生活基礎調査(厚生労働省)」が留め置き調査である のに対し, 「国民生活に関する世論調査(内閣府)」では,
聞き取り調査を行っている.その違いが結果に影響して いる可能性は否定できない.
回答者の構成をみると,「国民生活に関する世論調査
(内閣府)」では「国民生活基礎調査(厚生労働省)」よ りも高齢層の割合が大きかった.また,性・年齢階級 別にみると,全ての年の男女の全ての年齢階級で,悩 みがある者の割合は,「国民生活に関する世論調査(内 閣府)」の方が大きかった.また,その差は,概ね高齢 層で大きく,若年層で小さかった.性・年齢階級別で認 められる違いに高齢層の割合という重みが係って,全体 としては 20% 程度の大きな違いとなって現れたのだと考 えられる.
結果の違いの原因として,最も重要だと考えられるの は,調査票における設問の違いである.まず,質問文
2
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図2. 調査票の当該部分図3. 内閣府「国民生活に関する世論調査」と厚生労働省「国民生活基礎調査」の回答者の性・年齢構成の比較
資 料
が異なっている.「国民生活に関する世論調査(内閣府)」
では「悩みや不安を感じていますか」と問うており,「国 民生活基礎調査(厚生労働省)」では,「悩みやストレス がありますか」と問うている.「不安」という語よりも「ス トレス」という語の方がより差し迫った状況を連想させる のかもしれない.「不安」を「感じて」いると思う人の方が,
「ストレス」が「ある」と思う人よりも多いのかもしれない.
また,今現在「ストレス」がなくても,将来に向けて「不 安」を「感じ」るという人も多いのではないだろうか.
さらに,両調査とも続く設問に具体的な項目が挙げら れていることにも注目される.回答者はこれらの具体的 な項目を見たうえで,そこに自分に当てはまるものがあれ ば「悩みや不安を感じていますか」「悩みやストレスがあ りますか」という問いに「感じている」「ある」と答えて いるのかもしれない.「国民生活に関する世論調査(内 閣府)」では,具体的な項目の中で最も多く選ばれてい たのは, 「老後の生活設計について」であった.しかし, 「国
民生活基礎調査(厚生労働省)」では同一の項目はない.
内容としては同調査の「収入・家計・借金等」が相当する.
しかし,「老後の生活設計について」について「悩みや不 安を感じて」いる人が,「収入・家計・借金等」という項 目が必ずしも自分に当てはまるとは考えなかったのでは ないだろうか.「国民生活に関する世論調査(内閣府)」
の項目の方が自分に当てはまる項目を見出す人が多かっ た可能性がある.
悩みがあるかないか,感じているか感じていないか,
とは主観の問題である.必ずしもどちらか明確に答えら
れるとは限らない.したがって,悩みについての調査の
結果は,設問等の調査方法に大きく影響を受ける可能
性が高い.悩みの調査を利用する際には,その調査方
法をよく参照したうえで,適切に利用をする必要がある
のではないだろうか.
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文献1) 国民生活に関する世論調査.内閣府.
2) 国民生活基礎調査.厚生労働省.
3) 総務省統計局:6 調査区番号の構成 (2) 後置番号.平成 27 年国勢調査 調査区関係資料利用の手引.東京:総 務省統計局;4,2017
受付日:2017年10月10日 受諾日:2017年11月18日
資 料
Abstract
In the “Public Opinion Survey on the Life of the People” conducted by the Japan Cabinet office, the rate of Japanese people who reported feeling worried or anxious in everyday life ranged from 63%-71% between 2007 and 2017. On the other hand, in the “Comprehensive Survey of Living Conditions” conducted by the Japan Ministry of Health, Labour and Welfare, the rate of people living in Japan who reported feeling worried or stressed in daily life ranged from 46%- 48% between 2007 and 2016. Why were the two results so different? In a breakdown of persons according to sex and age-group, the rates were higher in the former survey than in the latter across all groups. The differences were larger in older age groups than in younger age groups. Differences in the wordings of the questionnaires might be the most reasonable explanation for the differences in the results.
Key words:worry, anxiety, stress, survey, research literacy
【Reference】