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産地企業のマーケティング活動に関する試論 ―― 集積の利益の観点から ――

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(1)

研究ノート

産地企業のマーケティング活動に関する試論

―― 集積の利益の観点から ――

小 宮 一 高

!.は

" 衰退する産地とマーケティング活動

日本の産地!と呼ばれる産業集積が衰退傾向にあると言われて久しい。やや古いデー タになるが,平成17年度の「全国の産地」による全国46産地へのアンケート調査

(中小企業庁26)から,その衰退の状況が読み取れる。図表1には,当該調査にお ける産地の企業数と生産額について,平成13年と17年を比較した数字を示してい る。

(1) 既存研究においては,「産地」と共に「地場産業」の用語も多く用いられるが,本稿 では「産地」の用語で統一したい。この理由については本論を参照のこと。

額(億円)

平成13年 平成17年 変化率(%) 平成13年 平成17年 変化率(%)

7, 1, −1 2, 8, −6 食料品 3, 2, −7 9, 0, 1, 9, −2 6, 4, −2 衣服その他の繊維製品 2, 1, −2 4, 1, −1 木工・家具 3, 3, −1 5, 4, −2 窯業・土石 5, 4, −1 3, 2, −1 機械・金属 3, 3, −1 0, 2, 雑貨・その他 7, 6, −1 3, 1, −1

香 川 大 学 経 済 論 叢 第84巻 第1号 21年6月 19−1

図表1 産地の企業数・生産額の推移

データ源:中小企業庁(26)

(2)

これによると調査対象となった産地全体の企業数は15%減,生産額は6%減と なっている。全体の生産額の減少幅は比較的小さくなっているが,業種別にみると,

その差は大きい。食料品,機械・金属の生産額は増加している一方で,繊維,衣服そ の他の繊維製品,木工・家具,窯業・土石といった業種の生産額の減少幅は非常に大 きくなっている。さらにこれらの業種については,企業数についても減少幅が大き い。このような傾向は現時点においても大きく変化していないだろう。

このような産地の深刻な状況を受け,様々な研究分野において,産地(産業集積)の 活性化を念頭に置いた議論がおこなわれてきた。そこでの視点は,大きく2つのもの があると考えられる。1つは産地全体を分析単位として,それら全体の活性化を志向 する視点である。例えばクラスターの観点から政策への提言をおこなうPorter(1"

や,空間経済学の近年の成果に基づいてやはり政策への提言をおこなっている藤田

(23)などは,その代表的なものといえるだろう。

他方,産地の活性化を志向するためのもう1つの観点は,産地内の個々の企業の事 業のあり方に焦点を当てるものである。上記のように,多くの産地が衰退しているの は紛れもない事実であるが,他方で試行錯誤を繰り返しながら産地で事業を続ける企 業が多く存在しているのもまた事実である。これらの個々の企業の事業が順調に推移 すれば,その企業と関係をもつ産地内企業の発展も見込まれるのであるから,産地の 衰退にも歯止めがかかるはずである。その意味で,産地の個々の企業の事業の特徴に ついて議論することは重要である。

そして,このような産地企業の事業を議論する上では,マーケティングの観点も重 要になってくる。多くの既存研究が指摘してきたように,産地の企業の多くは程度の 差こそあれ周辺企業との分業・共同関係の中で事業をおこなってきたのであり,これ

(2)

Porter

(18)はクラスターを「特定分野における関連企業,専門性の高い供給業者,

サービス提供者,関連業界に属する企業,関連機関(大学,規格団体,業界団体など)

が地理的に集中し,競争しつつ同時に協力している状態」

Porter

8,訳,

!

p

7)

あるいはより端的に「ある特定の分野に属し,相互に関連した企業と機関からなる地理 的に近接した集団」(Porter18,訳,!,p.0)としている。関連機関を定義に明確に 含めたり,レストランやアンティークショップの集団もその概念に含めたりといった点 で,一般的な産業集積より対象が広いことに特徴があり,本稿における産業集積や産地 もそこに含まれる概念であると考えている。

−120− 香川大学経済論叢

(3)

らの企業との関係性は当然重要となってくる。さらに多くの産地では,グローバル化 の進展の中で,従来産地が提供していた製品・サービスとは異なる価値の提供を求め られることが多い。例えば伊丹・伊丹研究室(21)は,今後の日本の繊維産業では 価格的な競争力を求められる「価格志向定番市場」と最も付加価値の高い「差別化市 場」との間の「差別化定番市場」をターゲットとすべきだ,という方向性を示してい る。10年程前の指摘であるが,この方向性については現在も大きく変化していない だろう。そして,この方向性は繊維産地だけでなく他の産業に関わる産地においても 当てはまるケースが多いであろう。つまり,多くの産地企業はグローバル化が進む経 営環境の中で,産地の関連企業と関係の中から新たな価値をもつ製品・サービスを提 供していくことを求められているのである。それは,まさに対市場活動の中で製品や サービスの価値を創造・伝達・流通させようとするマーケティング活動の問題である と考えられる。その意味で,産地企業のマーケティング問題を議論することは,産地 全体にとって重要な示唆をもつと考えられるのである。

! 産地企業と集積の利益

では,衰退しつつある産地の企業はどのようなマーケティング活動を展開すればい いのか。あるいは,産地企業はマーケティングに関わるどのような問題に直面してい るのか。この点を考える際に重要なのが「集積の利益」の概念である。産地に立地す る企業がマーケティング戦略を構築する際に考慮するのは,産地に立地していること を活かしながら自身の事業を営む,という点であろう。このことを言い換えれば,そ の産地で獲得できる「集積の利益」をできるだけ取り込みながら事業をおこないたい,

とする意向であると考えられる。そうだとすれば,現代の日本の産地においてどのよ うな集積の利益が追求可能なのかを明らかにすることが求められる。これによって,

今後の産地企業のマーケティング活動にも一定の示唆を与えられると考えられるから である。

しかし,この議論の整理は容易ではない。いくつかの理由がある。まず産地,ある いは産業集積における「集積の利益」については膨大な既存研究があり,それらの議 論は包括的な観点から十分に整理されていない。また関連する点として,多くの研究

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−121−

(4)

業績が経済地理学や空間経済学,そして経営学といった様々な分野に散在し,議論の 全体像が把握するのは容易ではない。さらに,本稿が議論したいのは産地という産業 集積の一種であり,それらの多くは衰退する状況下にある一方で,集積の利益の議論 は,どのような産業集積であるか,また,その産業集積がどのような環境下におかれ ているかによっても異なったものとなる可能性がある。この点も議論を複雑にしてい る。

このような認識から,本稿の目的は,可能な範囲で集積の利益に関わる既存研究の 成果を整理し,集積の利益の観点から産地企業のマーケティング活動を捉えるための 視点を「試論」として提供することである。本稿での議論は既存研究を十分に踏まえ たものとは必ずしも言えないが,ここでの議論をたたき台として今後の産地企業のマ ーケティング活動を捉える視点の確立を目指したい。

以下では,まず本稿が対象とする産業集積としての産地の特徴を議論する。その 後,過去の産業集積に関わる既存研究が,どのような集積の利益を指摘してきたのか を確認し,現代の我が国の産地において,その利益を追求することがどのような意味 をもつのかについて検討する。その上で,集積の利益の獲得,という視点から見た産 地企業のマーケティング活動の特徴について現段階での議論の整理をおこない,今後 の課題を明らかにしたい。

!.産 地 の 特 徴

日本の産地における集積の利益の議論をおこなう前に,本稿が対象とする産地の産 業集積としての特徴について確認しておこう。これは集積の利益の議論をする際に,

どのような産業集積を議論の対象とするかによって,その内容が異なることが予想さ れるからである。

広辞苑!によれば,産地とは「ある物品を産出する土地」であり,地理的な意味を含 んだ用語であることがわかる。既存研究においては類似する用語として「地場産業」

があるが,こちらは「産業」の意味が強調されることが多い。例えば,既存研究にお

(3) 広辞苑第6版,岩波書店。

−122− 香川大学経済論叢

(5)

ける地場産業の定義を概観した上で,その定義付けをおこなっている上野(27)は,

「地場産業は,産業としての歴史性・伝統性をもち,地域内から資本・労働力・原材 料を調達して特産品(あるいは消費財)製品を生産し,これにかかわる企業が社会的 分業形態をとって,特定地域へ集積する(いわゆる『産地』を形成する)という特徴 をもつ産業」(上野27,p.5)としている。つまり!歴史性・伝統性をもち," 域内から資本・労働力・原材料を調達し,#特産品あるいは消費財製品を生産し,$ 企業が社会的分業形態をとって,%特定地域へと集積する,という特徴をもったもの が「産地」であり,産地という特徴をもつ産業を「地場産業」としている。本稿は上 野(27)の理解に沿って産地と地場産業の用語を理解した上で,「産地」の用語を 用いることにする。これは本稿が,集積の利益という地理的な概念について議論しよ うとする点を考慮してのことである。

しかし,現代の日本の産地における集積の利益について議論する際には,この定義 だけでは見えにくい部分がある。上野(27)の定義は産地の5つの特徴を挙げてい るが,それだけでは,産地が他の産業集積とどのように異なるのかについては明確に できないからである。そこでMarkusen(16)による産業集積の類型の議論に沿っ て,本稿が議論する産地の特徴を,他種の産業集積と比較しながら明らかにしよう。

Markusen(16)は,アメリカ,日本,韓国,ブラジルの現時調査,および,イタ

リアの産業集積に関する議論を踏まえた上で,産業集積における4つの類型を示して いる。図表2に,その特徴をまとめている。

Markusen(16)の類型によれば,日本の産地はかつてマーシャル(Marshall)が

指摘した産業地域(Industrial District)の特徴を色濃くもつ「マーシャル型」の産業 集積に当てはまると考えられる(長尾20)。もちろんMarkusen(16)も指摘する ように,このような類型の特徴はあくまで仮説的(suggestive)なものであり,特定 の産業集積がいずれかの類型に厳密に当てはまる,というわけではない。しかし産地 の産業集積としての特徴は他の産業集積の特徴と比較することによってある程度明ら かとなるだろう。つまり多くの産地には「ハブ・アンド・スポーク型」の企業が想定 するような大企業が存在し,そこに取引が集中する訳ではないし,地域外に本社をも つ企業の分工場が集まっている訳でもない。さらに政府が主導する公的な機関が核と

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−123−

(6)

・企業は小さく当該地域の人々によって所有され,投資や生産の意思決定も当該地域 でおこなわれる。規模の経済性は相対的に小さく地域の中で実質的な取引がおこな われ,その多くは長期的である。地域外とのつながりや共同は最小限である。

・労働市場は地域の内部に存在していて高い柔軟性があり,労働者と経営者も同一の コミュニティに属している。労働者は企業というより地域に属している。コミュニ ティは安定していて,それが文化的に強いアイデンティティを生み,専門知識を共 有化させる。

・地域の製品や産業に特化した専門的なサービスや長期のリスクを引き受ける金融機 関が存在する。地域のメンバーが共同し,地域全体の競争力を高める努力が発展を 支えている。組合活動が,集団としての戦略を徹底させたり,経営,トレーニン グ,マーケティング,技術,金融の支援を提供したりしている。地域の行政が主要 な産業の規制や促進に中心的な役割を果たしている。

・いくつかの企業や機関が地域経済のハブとなり,サプライヤーと関係の活動が車輪 のスポークのように広がっている。この地域の動きは,ハブ企業の国内あるいは国 際的な位置と関連しており,他の地元企業はこれらの企業に従属している。内部的 な規模と範囲の経済性は比較的大きい。

・地域内の実質的な取引はサプライヤーとハブ企業との間でおこなわれ,それらは長 期的である。共同活動は,サプライヤーの品質向上や適切な納品,在庫管理などに 関しておこなわれ,それらは地域外部の企業にも広がっている。競争者同士の共同 はない。

・労働市場はハブ企業の内部と地域内部に存在しているが,相対的に柔軟性は低い。

労働者はまずハブ企業に忠誠心をもっており,地域,中小企業の順となる。ハブ企 業が独特の地域文化を形成する。スタートアップ企業を支援するような地域のベン チャーキャピタルや地域を管理する制度はない。ハブ企業は国や地域の行政に対し て企業や地域に関心をもつよう働きかける。

・地域の外部に本拠を構える企業の分工場が集まったものである。国や地方の行政機 関によって地域の発展と,企業のコスト削減を目的に,主要な都市圏から遠いとこ ろにつくられる。地域には単純な組み立て型の産業から,洗練された研究施設まで あるが,関連機関と地理的に離れていても成り立つ必要がある。

・地域の事業構造は,主要な投資をおこなった地域外部のハブ企業に強い影響を受け る。各工場の規模の経済性は中程度以上で,工場の入れ替わりは中程度以下であ る。地域内の工場の取引や関係は最小限である。地域は製品分野の異なる企業によっ て形成されており,各工場・企業が共同することはない。

・地域外部との労働者の入れ替わりが頻繁にあり,労働市場は地域内というよりは垂 直的に統合された企業内部にある。地域での雇用は主要なものとならない。長期的 なリスクを引き受ける金融機関はなく,産業が多様であるため,事業をサポートす る組合は発展せず,商工組合のような国や地元行政主導で設立された機関がそれを 補っている。

・軍事関係の機関や大学,刑務所や政府機関の集まりといった公的な機関や非営利機 関が核となった地域である。空間的な配置や経済的な関係性は行政的に決められ,

共通の特徴を見いだすのが難しい。一般的には規模の経済性は比較的高い。

・特定の企業が地域で重要な役割を果たすことは少なく,共同する傾向も見られな い。一般的に組合活動は活発ではなく,地域の行政機関の関与も高くない。

図表2 Markusen(16)による産業集積の類型

出典:

Markusen

(16)に基づいて筆者作成。

−124− 香川大学経済論叢

(7)

なった地域でもない。つまり,このような分類の特徴からすれば,産地では,地域に 本拠をもつ企業が相互に分業関係をもちながら製品をつくる,という部分が産地の特 徴として,まず重要であると考えられる。

このような産地の基本的な特徴を踏まえた上で,さらに確認しておくべき点が2点 ある。第1はMarkusen(16)の類型における「ハブ・アンド・スポーク型」と産 地の関係である。上で述べたように多くの産地にはハブ・アンド・スポーク型の類型 が想定するような地域の核となる大企業が存在する訳ではない。Markusen(16)は この類型の日本の事例としてトヨタを中心とする豊田市を挙げており,産地のような 産業集積を想定していないことは明らかである。

しかし産地においては,その内部において製品の企画・開発をおこない,産地内の 企業との分業関係を通じて,それらを生産する企業の事例も指摘されている(例えば 山崎17,上野27,猪口・小宮27,小宮・猪口29)。これらの企業は,ハブ・

アンド・スポークの形態が想定するような大規模な企業ではないけれども,取引がそ の企業に集中する形となる。その意味で産地の特徴は,マーシャル型を基本としなが らも,ハブ・アンド・スポーク型の特徴が混在する点に留意する必要があるだろう$ 第2の点は都市型の産業集積との関係である。ここでいう都市型の産業集積とは,

東京都・大田区や大阪府・東大阪市といった主に機械工業に関わる企業が集まった産 業集積であり,具体的には,これらを議論の対象に含めるかどうか,という点が問題 となる。上記のMarkusen(16)の分類に従えば,地方の産地と都市型産業集積は,

共通してマーシャル型であると言われる(長尾20)。他方で橋本(17)の日本の 産業集積の分類では,!企業城下町型,"「産地型」集積,#「大都市立地ネットワ ーク型」集積(本稿で言う都市型産業集積)とされ,2つの集積を別のものとしてい る。

結論から言えば,本稿の議論は都市型産業集積を議論の対象に含めない。産地と都 市型産業集積の最も大きな違いは,その産業集積から産出される製品と事業の仕組み の「多様性」であると考えられる。例えば東京・大田区の実地調査に基づいたいくつ

(4) この点は,産地のマーケティング活動の主体を考える際に1つの論点となる。本稿の 最後にも若干触れるが,詳細を議論する余地がないため,他稿で議論したい。

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−125−

(8)

かの研究では,内部の中小企業間の取引によって,多様で少量かつ不安定な製品の生 産がおこなわれていることが指摘されている(例えば,関・加藤10,渡辺17,

額田18,稲水・若林28)。そこでの代表的な事業の仕組みは,様々な製品に関す る発注が集積の外から舞い込むと,集積内の中小企業の分業関係をその都度柔軟に編 成することによって,その発注が求める加工や製品の製造をおこなう,というもので ある。発注ごとに対象となる製品や加工の種類は異なっているし,分業関係のパター ンも変化している可能性がある。他方で,産地企業の事業の仕組みは,多くの既存研 究で事業の仕組みが図として描かれていることからもわかるように(例えば,山崎 7,上野27,太田27),その産地を特徴づける特定分野の製品がある程度パタ ーン化された分業関係によって作り上げられるのが一般的であると考えられ,都市型 の産業集積とは異なっている。

このような製品や事業の仕組みの多様性による差異は,いくつかの集積の利益を得 るプロセスにも差異をもたらす可能性がある。もちろん都市型の産業集積に立地する 企業のマーケティング活動は産地企業のマーケティング活動と共通の要素を見いだせ ることも考えられるが,その差異を十分認識した上での議論が必要となるため,本稿 では対象から除外することとしたい。

!.産地における集積の利益とマーケティング活動

" 中間財・サービスの多様性からの利益

以上のような産地の特徴を踏まえた上で,現代のわが国の産地企業が産地に立地し ていることで得ることのできる集積の利益について,既存研究を検討してみよう。

まず,都市経済学,あるいは空間経済学の分野で見られる議論について取り上げる。

これらの分野では「集積の経済」という用語によって,集積が生じるメカニズムを議 論している。この分野で論じられている集積内企業の得る利益について,藤田(23)

の議論から確認してみよう。

藤田(23)は空間経済学の分野において,集積が形成されるメカニズムを以下の ような循環的因果関係で説明する。ある都市ないし地域において,多様な中間財やサ ービスが供給される。その供給を受ける最終財生産者は,低い輸送費によってこれら

−126− 香川大学経済論叢

(9)

の多様な中間財・サービスが得られるために生産性が上昇する。そのような多様な財 の提供は,より多くの最終財生産者を吸引し企業数が増える。さらに,このことに よって中間財・サービスの需要は拡大するため,多くの中間財・サービス企業が吸引 され,より多様な中間財とサービスが提供される。加えて中間財・サービス需要の拡 大は,中間財・サービス企業に規模の経済をもたらして最終財生産者の生産性を高 め,そこに立地する最終財生産者をさらに吸引する。藤田(23)によれば,以上の ようなプロセスが循環的に継続し,集積が形成されるという。そして,これらのメカ ニズムは,地方に数多く見られる地場産業(産地)の形成のメカニズムであるとも指 摘されている。

以上のような産業集積内のメカニズムにおいては,産業集積内の最終財生産者は,

他地域よりも多様な中間財・サービス財を低い費用で調達できることから利益を得る ことができる。また,中間財・サービス企業は,近隣で大きな需要を獲得できること が利益となる。

しかし,現在のグローバル化が進んだ市場環境においては,日本の産地の企業がこ のような利益を十分に得ているとは考えにくい。Porter(18)も指摘するように,

現在のグローバル化した環境下では,多くの財やサービスの輸送費が低下し,集積の 外部の企業から中間財やサービスの提供を受けることの費用が低下しており,集積の 内部から供給を受けることが必ずしも低い費用に結びつくとは限らないからである。

藤田(23)においても「集積を支える活動グループがより差別化された,また,よ り多様な『中間財』を供給しており,かつその中間財の(広い意味での)輸送費が高 いほど,より強い外部性が集積内部に生まれる」(藤田23,p4)と指摘されて いる。このことから言えば,逆に差別化されず,輸送費の高くない財・サービスにつ いては,集積の外部から提供されることになりやすいと考えられる。

集積の外部から財やサービスが提供されるようになれば,集積外の企業も同様の条 件で供給を受けることになり,その分産地企業の利益としての多様性は小さくなる。

さらに,現実の産地では,製品・サービスの競争力の低下や経営者・従業員の高齢化 の問題等で企業数が減少していることから,上記とは逆の循環的因果関係が働き,さ らに多様性は減少しているものと考えられる。例えば小宮・猪口(29)は,それま

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−127−

(10)

で産地内企業に依託していた加工が,委託先従業員の高齢化によって継続できなくな る事態が想定され,その工程の内部化を検討している事例について紹介している。こ のような事態は,本来産地内部にあってまだ需要のある企業の製品やサービスが,高 齢化などが問題で供給されなくなることを意味しており,多様性による利益とは逆の 状況を示唆している。

以上のことから考えると,現在の産地において中間財やサービスの多様性に伴う利 益は,かなりの程度減少していることが想定されるし,それが今後回復することも期 待しにくいといえるだろう。そしてこのことは,産地企業のマーケティング活動にお いて,次のような2つの点を示唆するだろう。第1は,産地外部の企業との取引が増 加することを通じて,その重要性が増し,産地の内部と外部の企業を使い分ける視点 を必要とさせることである。日本の事例ではないが,Kaufmann and Todtling(20)

は,集積内企業のイノベーションが,集積の外部との関係の中で発生するケースが多 いことを指摘している。この点は,以後の産地企業のマーケティング活動を議論する 際に留意すべき点である。

また第2の視点は,それでも産地内部には多くの関連企業が存続している,という 点への認識である。上記の議論に沿って言えば,差別性が高かったり,輸送費が高 かったりする製品・サービスについては,依然として産地において供給される可能性 が高い。そのような企業との関係をどのように構築するかが,産地内企業にとって重 要となるはずである。この点は次に議論する「調整の利益」に関わっている。続いて,

調整の利益の議論に移ろう。

! 規模の利益,公共的外部条件の利益,調整の利益

集積の利益として「調整の利益」の用語を提示したのは藤川(19)である。まず その議論の概要を確認しよう。藤川(19)は過去の産業集積論の蓄積を活かすため には,集積の利益の概念の明確化が必要であるとし,古典的な集積論の1つである ウェーバー(Weber)の議論を基礎としながら,マーシャルや日本の既存研究も踏ま え集積の利益の概念を整理している。それを整理したものが図表3であり,大きく「規 模の利益」「公共的外部条件の利益」「調整の利益」の3つの集積の利益を提示して

−128− 香川大学経済論叢

(11)

いる。

藤川(19)の提示する集積の利益は,まず大きく内部経済と外部経済によるもの に分割される。内部経済による集積の利益とは,単一企業の工場が複数集積する場合 に得られる利益を意味しており,その内実は「規模の利益」である。そして,外部経 済としての集積の利益は,複数の経営主体が空間的に近接することによって生まれる 利益であり,「公共的外部条件の利益」と「調整の利益」に分けて捉えられる。公共 的外部条件の利益とは,水,ガス,電気の供給やそれらの移送手段の共同利用から発 生する利益であり,インフラの共同利用から得られる利益と考えることができる。

そして「調整の利益」とは,集積内部の多数の企業の近接性のために,取引費用と 輸送費用の総和である「リンケージ費用」が削減される利益であり,さらに「同一リ ンケージ上での調整の利益」と「リンケージ転換による調整の利益」の2つに分割さ れる。まず同一リンケージ上での調整とは,「任意の企業がもつリンケージ構造を替 えることなしに,その内容を調整することであり,これを円滑におこなうことにより 生じる利益」(藤川19,p1)とされる。また「リンケージ転換による調整の利益」

とは,「任意の企業が持つリンケージの構造の再構築を通した調整」であり「この調 整を円滑に行うことにより生じる利益」(藤川19,p2)である。これらのことか ら調整の利益とは,集積の内部において取引を継続する際,あるいは,新たな取引を 構築する際に,それらが近接しているがゆえに,その取引費用と輸送費用が削減され ることを表していると考えられる。

内部経済

新しい

集積利益の分類 規模の利益 公共的外部 条件の利益

調整の利益

同一リンケージ リンケージの転換 ウェーバーの

集積利益の分類 規模の利益 数量の利益 接触の利益 マーシャルの

集積利益の分類 規模の利益 補助産業の発達による 利益

地域労働市場の発達に よる利益

技術の波及による利益 図表3 藤川(19)による集積利益の分類

* 「新しい集積の利益の分類」の部分が,藤川(19)が提示した新たな分類を示している。

出典

:

藤川(19)p.2。

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−129−

(12)

以上のように,藤川(19)は集積の利益を「規模の利益」「公共的外部条件の利 益」「調整の利益」の3つに整理している。わが国の産地の状況は,これらの3つの 集積の利益については,どのような状況であると考えられるだろうか。まず規模の利 益について言えば,この種の利益を現在の日本の産地で追求することは難しいであろ う。産業集積における規模の利益は,典型的なハブ・アンド・スポーク型の産業集積 のように,核となる大規模な企業が多数の工場を地域に立地させたり,それと関係の 深い系列の工場が集積したりする場合に獲得できると考えられる。産地の企業がこの ような大規模な経営に変化することがない限り,規模の利益は産地の企業が追求する ものではないと考えられる。

公共的外部条件についても,この利益の追求が産地企業に優位性をもたらすことは 考えにくい。公共的外部条件から集積の利益が発生する典型的なケースとは,先の産 業集積の類型におけるサテライト型の産業集積が得ているような,高速道路や物流関 連施設に代表される社会的インフラの共同利用からの利益であると考えられる。一般 的に古くから地域に根付いている産地においても,ある程度の公共的外部条件の利益 が存在していることは間違いないが,それが優位性につながっている,という傾向を 見ることは難しいと考えられる。

他方で深い議論が必要なのは「調整の利益」である。先にも指摘したように,現在 産地の企業は減少傾向にあるとはいえ,それでも関連性の高い多くの企業が事業を継 続している。産地の企業は古くから事業を続けているものも多数存在していて,独自 の技術や資源を蓄積しているものも存在するだろう。産地内において,これらの企業 と低いリンケージ費用で取引をおこなうことを通じて,産地の企業が新しい価値を追 求することができれば,産地企業の事業としての優位性につながる可能性が見いだせ ると考えられる。

例えば猪口・小宮(27)は,岡山県倉敷市,児島産地のジーンズ企業が産地内部 の企業との緊密な関係の中で差別化されたジーンズを生産していると指摘する。企業 が近接していることによって,デザインなどについては細かく頻繁に調整でき,長年 取引をおこなっていることから取引先の技術や戦略についても熟知している。さらに 取引先の独自技術を前提としたデザインも存在しており,産地内企業との緊密な取引

−130− 香川大学経済論叢

(13)

関係が製品の優位性を生んでいると考えられる。また同じく児島のジーンズ産地を調 査した田中(20)によれば,産地の企業は毎年のジーンズの質的な変化への対応を,

産地内の特定の企業との長期的・固定的な関係の中でおこなっていることを指摘して いる。これらは,藤川(19)の用語によれば「同一リンケージ」における調整の利 益を利用したものであると考えられる。

このように調整の利益を得ながら,それを優位性につなげることは,産地企業のマ ーケティング活動として実行可能であると考えられる。そして,上記の事例のように すでに長期的な取引関係にある企業との間においては,同一リンケージによる調整の 利益を得ながら,事業をおこなってきた企業も多いと考えられる。そして,今後マー ケティング活動として,このような調整の利益を拡大していこうとすれば,新たな取 引先との間での調整の利益,すなわちリンケージ転換による調整の利益を獲得してい くことを目指すことが必要となる。

このような調整の利益は,かつてPiore and Sabel(14)が唱えた「柔軟な専門化」

の議論とも密接な関係があるだろう。柔軟な専門化は,必ずしも産業集積に特化した 概念ではないが,Piore and Sabel(14)がイタリアの産業集積を1つの事例として 議論を展開したために,近年の産業集積研究を特徴づける概念の1つとなっている。

この研究においては,イタリアのプラトの織物産地において小さな事業所が緊密に連 携して,流行に対応する事例が紹介され,柔軟な専門化が達成されているとされる。

このような規模の小さい企業の連携が可能となる1つの要因は,調整の利益を得られ る産業集積であることと考えられる。つまり柔軟な専門化による優位性の追求は,調 整の利益の追求によるものとも考えることができるのである。

! 調整の利益とイノベーション,ネットワーク

さらにこのような調整の利益は,産地,あるいは,産業集積におけるイノベーショ ンとの関連も深い。上記の藤川(19)は,産業集積における調整の利益の獲得とイ ノベーションに強い関係があることを示唆している。また藤田(23)も,フェイス・

トゥ・フェイスの業務・社会的コミュニケーションが,地域レベルのイノベーション に大きな役割を果たす,と指摘しており,近接性にともなう調整の利益がイノベー

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−131−

(14)

ションにつながることを示唆しているといえるだろう。

しかし,このような調整の利益の獲得,あるいはそこからのイノベーションの発生 というものが,産業集積内の社会的なネットワークを前提とするものであることは,

注意が必要である。小田(24)は藤川(19)の調整の利益の議論を評価した上で,

それでも産業集積内部で潜在的な取引相手の中から新規の取引先を探し出す取引費用 の大きさは無視できない,と指摘している。そして,そのような新規取引先の開拓が 低い取引費用で可能となるためには,何らかの社会的ネットワークが存在して初めて 可能となると主張している。つまり調整の利益,特にリンケージの転換による利益を 想定する際には,たとえ産業集積の内部であっても多くの費用を要するものであり,

その費用を低くするためには社会的なネットワークの存在が影響する,と考えられる のである。

このような点を示唆する研究も多い。例えばSaxenian(14)の研究である。Saxenian

(14)は米国のシリコンバレーとルート18の2つの産業集積を比較し,統合的で 独立した少数の企業によって占められるルート18地域が競争力を失う一方で,非公 式のコミュニケーションとコラボレーションを可能とする地域的なネットワークを もっているシリコンバレーが国際的な競争パターンの変化に適応したことを示してい る。産地の研究ではないが,このような研究も社会的なネットワークが産業集積内の 企業の取引関係に影響を与えることを示唆しているといえるだろう。

またクラスターとイノベーションとの関係を強調するPorter(18)は,クラスタ ーにおいてイノベーションが促進される要因として,!顧客ニーズを迅速につかめ

る,"技術・オペレーション,製品提供といった面での新しい可能性に気づきやす

い,#迅速に行動するための柔軟性と能力が与えられる,$新しい製品やプロセス,

サービスに関する実験を低費用でおこなうことができる,%競争のプレッシャー,と いった要因を挙げているが,これらはすべて地域的なネットワークがあって初めてイ ノベーション創出の優位性につながると考えられるものである。例えば,IT化の進 んだ現代において産業集積の企業が顧客ニーズを迅速につかめるとすれば,それは地 域の社会的なネットワークの中でのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーション から発生するものと考えられるからである。他の要因についても,同様に地域的な

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(15)

ネットワークの存在が想定できるものである。

さらに,産業集積内のネットワークに関わる議論は「イノベーティブ・ミリュー」

「エンデベッドネス論」といった形で別途多くの研究の蓄積がある(小林29)。本 稿ではこれらの議論に深く立ち入ることはできないが,少なくとも調整の利益を得る ためには,そのベースとなる地域内の社会的ネットワークの存在が影響を与えること は間違いないだろう。

このように調整の利益とネットワークとの関係性は,産地において調整の利益,特 にリンケージ転換による調整の利益を得ようとする場合には,例えば経営者の社会的 ネットワーク構築能力や社会的ネットワークの形成を目指すマーケティング活動の問 題が存在することを意味している。マーケティング活動として調整の利益による議論 をおこなう際には,この点に留意する必要がある。

! 共同活動の利益

かつてマーシャル(Marshall)は多くの著作の中で,産業地域,本稿のいう産業集 積について言及してきた(特にMarshall0,3)。先に述べた中間財・サービスの 多様性や調整の利益に関わる議論も,その根本にはマーシャルの外部経済に基づく産 業地域の議論がある'。そして,マーシャルの産業地域の議論には,本稿でこれまで議 論した集積の利益と異なるものとして「提携的な建設的協同」の議論がある。

マーシャルの産業地域論の現代的な意義について議論した小田(24)は,マーシャ ルが産業地域において発生すると考えていた提携的な建設的協同とは「主に各業種の 同業組合のおこなう諸施策」(小田24,p1)であるとし,その要約的な内容とし !広報活動と市場拡大,"共同購買,#受注分配,$技能者養成,%新技術導入,

&インフラ整備,を挙げている。またBrown et al.(20)は,産業集積の企業が共 同しておこなうことによって得る外部性を能動的外部性(active externalities)と呼び,

共同マーケティング活動(展示会への参加,受注窓口の設置,代表営業担当者の派

(5) 本稿では詳細に議論していないが,空間経済学とマーシャルの議論の関係性について は大塚(28),調整の利益とマーシャルとの議論の関係については,藤川(19)を 参照のこと。

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−133−

(16)

遣,企業の紹介,情報の収集),インフラ構築の支援,共同企画・開発,といった活 動を挙げている。このような共同活動は,関連する企業が近接して存在するからこそ 低い費用でおこなうことが想定されるために,集積の利益の1つと考えられるのであ る。

Brown et al.(20)が端的に指摘するように,このような共同活動としての利益は

企業が単に産業集積に立地しているだけで得られるものではなく,具体的な活動が存 在して初めて得られる性質のものである。その意味で,これまでに議論してきた集積 の利益とは異なる性質をもつといえるかもしれない。しかし,先に見た調整の利益に おいても,獲得のためには社会的なネットワークの構築・維持が必要となると指摘し た。そうであるとすれば,具体的な活動があって初めて得られるこの種の利益も集積 の利益の1つとして議論すべきであろう。中身については今後詳細に検討する必要が あるが,ここでは仮に「共同活動の利益」と呼んでおこう。

わが国の産地においても共同活動は各地に見られる。代表的な事例として新潟県燕 市の研磨業の共同受注グループ「磨き屋シンジケート」の事例がある(吉澤26,

宮本20)。磨き屋シンジケートは,燕商工会議所が中心となり23年に設立され た。インターネット等を通じて窓口となっている商工会議所内の事務局に受注の問い 合わせが入ると,このグループで中心的な役割を果たす複数の幹事企業に受注内容が 伝わり,その案件を担当する幹事企業が決定される。幹事企業は,参加企業や賛助企 業と呼ばれる企業の中から協力工場を募り生産に対処するのである。また関(21)

は,同じく共同受注グループの「ラッシュすみだ」の事例を挙げる。ラッシュすみだ は,東京都墨田区の中小企業のグループであり,機械加工,金型,プレスなどの様々 な分野の企業が40社程度集まり,共同で受注をおこなうものである。営業者はメン バー全員を代表して活動をおこない,仕事を受注すると受注者が仕事を割り振り,利 益の配分を考え,メンバー内で仕事を完結させるという。東京都墨田区は厳密には産 地とは言い難いが,産業集積の共同活動の可能性を見いだせる事例だといえるだろ う。

このように産地における共同活動の利益は,現代の我が国の産地企業にも追求でき る利益であると考えられる。ここではBrown et al.(20)が挙げるようなマーケティ

−134− 香川大学経済論叢

(17)

ング活動に直接的に関わるものも考えられるし,小田(24)が挙げるようなより広 範な活動も射程に入ってくるであろう。特に,先に述べた地域的ネットワークを構築 するための活動としての共同活動,例えば,地域での勉強会や交流会も,広い意味で ここに含まれるだろう。

しかし他方で,このような共同活動をおこなう上では多くの困難が存在しているの も事実である。Marshall(13)は,共同活動のために働く従業員や企業のモチベー ションの問題を指摘している。また関(21)はこのような共同活動が,仕事の配分 や利益の配分で問題に直面しやすいことを指摘している。しかし,上記事例の成果を みれば,産地企業がこのような困難を解決しながら共同で活動をおこない,その利益 を獲得することは,産地企業のマーケティング活動における1つの選択肢となると考 えられるのである。

!.むすびにかえて

本稿は,衰退傾向にあるわが国の産地を対象に,そこでおこなわれるべきマーケ ティング活動について考察するために,既存研究において論じられてきた集積の利益 の議論を整理し,産地の現状においてそれらの利益を追求することがどのような意味 をもつのか,そこからどのようなマーケティング活動上の示唆があるのかについて検 討してきた。

本稿の議論は,次のように要約できる。

・現代のグローバル化が進んだ経営環境下,産地の企業数が減少する状況下において は,産地企業が中間財・サービスの多様性の利益から優位性を得るのは難しい。こ のため産地企業のマーケティング活動としては産地外部企業との関係がより重要と なり,産地内部企業との使い分けの視点が必要となる。

・産地の規模構造や立地場所の歴史的な経緯から考えると,産地企業が規模の利益,

公共的外部条件の利益から優位性を得るのは難しい。

・産地企業は同一リンケージによる調整の利益をすでに獲得しながら事業をおこなっ ていると考えられ,引き続き追求可能である。またリンケージ転換による調整の利

産地企業のマーケティング活動に関する試論

−135−

(18)

益についても,イノベーションを創造するために積極的に追求することが必要であ る。しかし,その利益を追求するためには地域的ネットワークの存在が影響してい ると考えられ,ネットワーク構築に関わるマーケティング活動が別途必要と考えら れる。

・共同の利益は産地企業において追求可能と考えられ,直接的にマーケティング活動 の共同化が考えられる。さらに,人材の育成やインフラ整備,勉強会・交流会の開 催など,より広範な事業活動についての共同化も想定できる。

以上のような議論から,我が国の産地企業のマーケティングに活動おいては,次の ような点が特に考慮されているものと考えられる。これらの点は既存の研究蓄積から 見た産地企業のマーケティング活動の基本的な特徴を示している。

・産地外部企業の重要性の高まりと内部企業との使い分け

・産地内部企業との取引における緊密な関係構築・維持

・産地内部企業との新規取引先の開拓とそのための地域的ネットワーク構築努力

・産地内部企業との共同活動の模索・継続

ただし,以上の産地企業のマーケティング活動の特徴を示す考慮点は暫定的なもの である。本来的には個々の考慮点が具体的にどのようなマーケティング活動に結びつ くのかについて,より詳細に議論する必要があるし,それぞれの考慮点間の関連性に ついても議論する必要があるだろう。また冒頭にも述べたように,本稿の議論は産業 集積に関わる既存研究を十分に反映したとは言い難い。本文中でも述べたように,

ネットワークに関わる既存研究についてはさらなる検討が必要であるし,産業集積内 の労働市場,技術のスピルオーバー,産地ブランドなどといった論点については本稿 では触れることができなかった。今後,さらなる検討が必要である。

また本稿で議論していない別の問題として,産地企業のマーケティング活動の主体 に関わる問題がある。本稿では産地企業という用語において一括りで議論したが,現 実には産地には多くの企業が存在しており,さらに産地組合のような共同で設立した

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参照

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