要旨 要旨 要旨 要旨::::
本稿は,伊藤・原口・徳田(2019)[1]で使用したデータをもとに,統計分析ソフトHAD(清水,2016)
[2]を用いて,媒介分析を行う方法を解説したものである。まず,Excelに入力したデータをHADに読み 込む方法について,次に,説明変数と目的変数との関係,および,媒介変数との関係を確かめるために 相関係数を求める方法について,最後に,Baron & Kenny(1986)[3]の媒介分析の手順に従って線形回帰 モデルを適合させ,媒介の効果を検定するために,ブートストラップ検定を行う方法について解説した。
1. はじめに はじめに はじめに はじめに
HADは,関西学院大学の清水裕士氏が主に心理統計分析を行うために開発したフリーソフ トウェアである[2]。相関やクロス表などの基本的な統計解析から,分散分析・重回帰分析,因 子分析,そして構造方程式モデル,混合分布モデルといった,心理学でよく用いられる多変量 解析が可能である。また,級内相関係数や階層線形モデル,マルチレベルSEMなどの分析も 実行できる。
統計を行う際にHADをお勧めしたい理由が3つある。1つめは,HADはExcel上で動くこ とである。そのため,WindowsあるいはMacを利用している人なら誰でも使うことができる。
自宅でも自分で分析ができ,統計学習ツールとしても利用可能である。2つめは,無償のプロ グラムということである。HADは,学生や若手研究者など,商用ソフトが手に入らない人で も使えるようにと作られたものである。Excel さえ入っていれば,使うことができる。3 つめ は,出力が分かりやすいということである。HADは結果にグラフや表が出力される。初学者 が分かりやすいだけでなく,研究者が試行錯誤しながら最適なモデルに到達するために使うの にも便利である。また,リサーチミーティング中にその場で分析結果をすぐに共有することも できる。
本稿は,心理統計学を学び始めた大学生を対象としている。また,本稿で使用しているデ ータは,伊藤・原口・徳田(2019)[1]のデータである。このデータを用いて,入力したデータ をHADに読み込む方法,相関分析,媒介分析の基本的な心理統計学の手法を解説する。なお,
HADのダウンロードについては,清水裕士のウェブサイト(http://norimune.net/had)を参照の こと。
2. 時間管理 時間管理について 時間管理 時間管理 について について について
近年,人間心理の肯定的な側面に焦点を当て,より充実した生活を目指すことが重要である と言われている(伊藤・相良・池田・川浦,2003)[4]。その側面の一つに主観的幸福感がある。
主観的幸福感とは,「感情状態を含み,家族・仕事など特定の領域に対する満足や人生全般に 対する満足(伊藤他,2003)[4]」である。
HAD による媒介分析 による媒介分析 による媒介分析 による媒介分析
Mediation analysis using HAD
伊藤 萌恵† Moe Ito†
†久留米大学大学院 心理学研究科
†Graduate School of Psychology, Kurume University.
大学生は,多忙な毎日にストレスを感じており,そのストレスコーピングには,時間管理が 必要であると言われている(岡崎,2012)[5]。時間管理とは,「目標を達成するために時間を 効果的に使用する行動(井邑・髙村・岡崎・徳永,2016)[6]」と定義されている。時間管理は 心理的ストレス反応に負の影響を及ぼす(井邑他,2016)[6]ことから,時間管理は精神的健康 と関係すると考えられている。
また,高い時間管理の能力は課題への成功を導きやすく,成功経験は特性的自己効力感を高 めること(松田・橋本・井上・森田・山崎・三宅,2002)[7],計画的に課題をこなす大学生は 特性的自己効力感が高い傾向にあること(三宅・橋本・井上・森田・山崎・松田,2004)[8]
が示されている。なお,特性的自己効力感とは,「具体的な個々の課題や状況に依拠せずに,
より長期的により一般化した日常場面における行動に影響する自己効力感(成田・下仲・中里・
河合・佐藤・長田,1995)[9]」と定義されている。
そこで,伊藤・原口・徳田(2019)[1]では時間管理の有用性を高めるために,時間管理が特 性的自己効力感を介して主観的幸福感に及ぼす影響について検討した。
この研究で使用したデータは,時間管理尺度(井邑他,2016)[6],特性的自己効力感尺度(成 田他,1995)[9],主観的幸福感尺度(伊藤他,2003)[4]である。大学生186名を対象に質問紙 調査を行い,完全回答をした180名を分析対象としている。
3. 媒介分析について 媒介分析について 媒介分析について 媒介分析について
媒介分析は,影響を与える変数(独立変数)と,影響を受ける変数(従属変数)との間を,
他の変数(媒介変数)が介在しているようなモデルを検討する分析であり,独立変数と従属変 数の間にある心理的なプロセスを検討するのに有効な方法である[10]。
X
M
c Y (c') a b
図 図 図
図1 媒介モデルの概念図
まず,独立変数(X)と従属変数(Y)との関係を検討するために,(1)の回帰分析を行い,
独立変数(X)が従属変数(Y)に与える効果をあらわす回帰係数であるc’の値を推定し,こ の値が有意かどうかを確認する(Step1)。
Y = 切片 + c’X + 誤差 (1)
次に,(2)の回帰分析を行い,独立変数(X)が媒介変数(M)に与える効果をあらわす回
帰係数であるaの値を推定し,この値が有意であることを確認する(Step2)。
M = 切片 + aX + 誤差 (2) 続いて,(3)の式に基づき,重回帰分析を行う(Step3)。
Y = 切片 + cX + bM + 誤差 (3)
この式は,(1)の式にbM の項を追加した式になる。この項を追加したため,(1)の c’
の値と比べると,cは媒介変数(M)の影響を取り除いた時の独立変数(X)が従属変数(Y) に与える効果になる。この式で,bが有意であれば,媒介モデルがほぼ成立したことになる が,一般的には独立変数(X)が媒介変数(M)を介して従属変数(Y)に与える効果(4) が有意であるかを検定し,有意であれば間接効果が認められたと解釈する(Step 4)。
c’ – c = a × b (4)
4. HAD 上での分析の実際 上での分析の実際 上での分析の実際 上での分析の実際
4.1
分析するデータを 分析するデータを 分析するデータを 分析するデータを
Excelに入力する に入力する に入力する に入力する
図2のように,手元にあるデータはあらかじめExcelなどで作成しておき,保存しておく。
Excelのシートの上部は空白にせず,ラベルをつける。データは,対象者を識別する識別子(こ
こでは ID)を必ず左端に入力しておく。また,媒介分析では,媒介変数,独立変数,従属変 数の順に並べておくと後の操作が容易となる。
図図
図図2 Excelへの入力例
4.2 HAD
の起動 の起動 の起動 の起動
図3は,HADを起動した時の初期画面である。起動時,シートの上部にセキュリティの警 告が出てきた場合,「コンテンツの有効化」を押す。
図 図 図
図3 データシート
4.3
相関関係を求める 相関関係を求める 相関関係を求める 相関関係を求める
まずは,時間管理,特性的自己効力感(以後,表記を自己効力感とする),主観的幸福感の 間に共変関係が認められるかを確かめるために,相関係数を求める。図2のデータをコピーし,
HADのデータシート(図3)にペーストする。図4は,元データをHADのデータシートにペ ーストした状態のものである。
次に,「データ読み込み」をクリックしてデータを読み込む。
図図
図図4 ExcelのデータをHADにペーストしたデータ
モデリングシートを開き,「使用変数」をクリックする。分析に使用する変数として,デー タリストにある変数を選び,「追加」をクリックし,使用変数へと移す。最後に「OK」をクリ ックする(図5)。
図 図 図
図5 使用変数の入力の方法
まず,「分析」をクリックし,統計分析マクロを開く。次に,「相関分析」を選び,「OK」を クリックする。その際,同じ分析で行う場合は,同じシート名で出力されるため,上書きされ ることに注意をしておく。そのため,上書きしたくない場合は,「出力を上書きしない」にチ ェックをつけておく(図6)。
図図
図図6 相関分析の手順 ④
①
②
③
②
①
③
すると,相関行列が表示される。本データでは,自己効力感と時間管理(r=.599,p<.01), 主観的幸福感(r=.669,p<.01)は,中程度の正の相関があることが示されている。また,時間 管理と主観的幸福感はr=.401(p<.01)となり,中程度の正の相関があることが示されている(図 7)。
図図
図図7 相関分析の結果
4.4
媒介分析 媒介分析 媒介分析 媒介分析
独立変数を時間管理,従属変数を主観的幸福感,媒介変数を自己効力感とする媒介分析を行 う。まず,①と②の「回帰分析」をクリックし,「媒介分析」を選ぶ(図8;9)。
図 図図
図8 媒介分析の手順(1)
①
図図図
図9 媒介分析の手順(2)
次に,使用変数の主観的幸福感のセルを選び,「目的変数を投入」をクリックする。すると,
目的変数の欄に主観的幸福感が入る(図10)。
図 図 図
図10 媒介分析の手順(3)
そして,使用変数の自己効力感と時間管理のセルを選び,「主効果を全投入」をクリックす る。すると,モデルの欄に自己効力感と時間管理を入れることができる。この時,媒介変数,
説明変数の順になっていることに気を付ける。最後に,「分析実行」をクリックする(図11)。
④
③
②
図 図図
図11 媒介分析の手順(4)
回帰分析の結果,時間管理から主観的幸福感(β=.401,p<.001)への有意な正の効果が見ら れた。また,時間管理から自己効力感への有意な正の効果が見られた(β=.599,p<.001)。さら に,自己効力感と時間管理を独立変数とし,主観的幸福感を従属変数とした重回帰分析を行っ たところ,自己効力感から主観的幸福感(β=.669,p<.001)への有意な正の効果が見られた。
時間管理が自己効力感を介して主観的幸福感に与える間接効果の検定のためにbootstrap 検 定(Efron,1979)[11]を行った。検定の結果,間接効果が有意となり(z=6.571,p<.001),媒介変 数投入後のβ=.401 がβ=.000 となったため,有意でなくなった。つまり,時間管理から主観 的幸福感の直接のパスがなくなったため,時間管理から主観的幸福感の関係は媒介変数の自己 効力感によって完全に説明されることになった(図12)。
⑥
⑤
図図
図図12 媒介分析の結果(5)
図13は,N=180のサンプルサイズで媒介分析をした場合の間接効果のブートストラップ標
本の分布である。95%信頼区間が0.298~0.546となり,正の値であることから間接効果が有意 であることがみてとれる。
図 図 図
図13 媒介分析の結果(6)
5. まとめ まとめ まとめ まとめ
本稿では,伊藤・原口・徳田(2019)[1]のデータを用いて,データの入力から媒介分析ま での手法を解説した。媒介分析を行う際,まずは理論的に媒介が想定できることを説明する 必要がある。また,独立変数と従属変数に関係があることを確かめることがとても重要であ る。この2つの要因に関係があることを示すことができれば,媒介変数を含めた分析を行う ことができる。HADは結果の出力が表や図であらわされており,相関分析および媒介分析
の結果も見やすいことが分かる。このように,HAD での正しい分析の手順と,結果の見方 を知っておくと,質問紙調査における論文作成の効率を向上させることができる。今回の解 説によって,HADで分析する際の一助となれば幸いである。
参考文献 参考文献 参考文献 参考文献
[1] 伊藤萌恵・原口雅浩・徳田智代,大学生における時間管理が主観的幸福感に及ぼす影響
―特性的自己効力感を媒介変数として―,久留米大学心理学研究,18,21-30,2019. [2] 清水裕士,フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習。教育,研究実践にお ける利用方法の提案,メディア・情報・コミュニケーション研究,1,59-73,2016. [3] Baron, R. M., & Kenny, D. A., The moderator-mediator variable distinction in social
psychological research:Conceptual, strategic, and statistical considerations.Journal of Personality and Social Psychology,51,1173-1182,1986.
[4] 伊藤裕子・相良順子・池田政子・川浦康至,主観的幸福感尺度の作成と信頼性・妥当性の 検討,心理学研究,74,276-281,2003.
[5] 岡崎善弘,時間管理研究の現在,時間学研究,5,45-53,2012.
[6] 井邑智哉・髙村真広・岡崎善弘・徳永智子,時間管理尺度の作成と時間管理が心理的スト レス反応に及ぼす影響,心理学研究,87,374-383,2016.
[7] 松田文子・橋本優花里・井上芳世子・森田愛子・山崎理央・三宅幹子,時間管理能力と自 己効力感,メタ認知能力,時間不安との関係,広島大学心理学研究,2,85-93,2003. [8] 三宅幹子・橋本優花里・井上芳世子・森田愛子・山崎理央・松田文子,時間管理能力のタ
イプと,自己効力感,メタ認知能力,時間不安との関係,福山大学人間文化学部紀要,
4,1-10,2004.
[9] 成田健一・下仲順子・中里克治・河合千恵子・佐藤眞一・長田由紀子,特性的自己効力感 尺度の検討―生涯発達的利用の可能性を探る―,教育心理学研究,43,306-314,
1995.
[10]野崎優樹,荘島宏二郎(編)計量パーソナリティ心理学,大学入試期間のストレス対処経 験は情動知能の成長感を高める?-多母集団の同時分析と媒介分析-,ナカニシヤ出版,
121-135,2017.
[11] Efron, B,Bootstrap methods:Another look at the jackknife.The Annals of Statistics,7,1-26,
1979.