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2010年における原油価格の見通しについて

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WTI 原油のファンダメンタルな価格の検討

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計量分析ユニット計量分析・需給予測グループ マネージャー 森田裕二

はじめに

NYMEX(New York Mercantile Exchange)市場に上場されている軽質低硫黄原油(Light Sweet Crude Oil)の先物価格は原油価格の指標として世界の原油価格に大きな影響力を及 ぼしている。取引は 1 枚 1,000 バレル単位で行われ、決済は通常は差金決済が主体である。 ただ、オクラホマ州 Cushing における現物の受け渡しも可能であり、受け渡しの対象とし て WTI(West Texas Intermediate)原油が利用されていることから、WTI 原油が NYMEX の Light Sweet Crude Oil と同義に扱われている。以下、NYMEX 市場における WTI 原油 先物価格の動向とファンダメンタルズな要因を説明変数とする回帰式を用いてファンダメ ンタルな価格の推計を試みた結果について述べる。

1. NYMEX 市場における WTI 原油価格の推移

NYMEX の WTI 原油先物価格は 1990 年の湾岸戦争の際に 40 ドル近い値をつけた後 1998 年末には 10 ドル程度まで下落、その後 2000 年末には再び 35 ドル程度まで上昇した。 2001 年 9 月の米国同時多発テロ、その後の米国の景気低迷を受けて一時は 20 ドルを割る 水準にまで低下したが、2002 年に入ってからは中国の旺盛な石油需要、イラク戦争などさ まざまな要因により上昇の一途をたどっている。直近では 2004 年 10 月 27 日に取引時間中 の最高値で 55.65 ドル(当日の終値は 52.46 ドル)をつけるなど、10 月に入ってからは 50 ドルを超える日が続いている。 図 1-1 原油価格の推移(NYMEX 期近月価格) 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 1 985 年 1 月 1 985 年 7 月 1 986 年 1 月 1 986 年 7 月 1 987 年 1 月 1 987 年 7 月 1 988 年 1 月 1 988 年 7 月 1 989 年 1 月 1 989 年 7 月 1 990 年 1 月 1 990 年 7 月 1 991 年 1 月 1 991 年 7 月 1 992 年 1 月 1 992 年 7 月 1 993 年 1 月 1 993 年 7 月 1 994 年 1 月 1 994 年 7 月 1 995 年 1 月 1 995 年 7 月 1 996 年 1 月 1 996 年 7 月 1 997 年 1 月 1 997 年 7 月 1 998 年 1 月 1 998 年 7 月 1 999 年 1 月 1 999 年 7 月 2 000 年 1 月 2 000 年 7 月 2 001 年 1 月 2 001 年 7 月 2 002 年 1 月 2 002 年 7 月 2 003 年 1 月 2 003 年 7 月 2 004 年 1 月 2 004 年 7 月 ドル/バレル OPEC、18ドル/ バレルの固定 制復帰に合意 (1986.12) イラク空軍機、 イランの石油 基地を爆撃 (1987.8) イラン・イラク戦 争停戦発効 (1988.8) イラク軍、 クウェート 侵攻 (1990.8) 多国籍軍、イラク・ クウェートに侵攻 (1991.2) OPEC、戦争終 結まで増産体 制継続 (1990.12) イラク軍、 クウェート国 境に集結 (1994.10) 国連安保理、イラク の石油輸出を容認 (イラクは拒否) (1995.4) イラク、6年半ぶりに 原油輸出再開 (1996.12) ドバイ原油、1バレル 10ドル割れ (1998.3) ドバイ原油、 22ヶ月ぶりに20 ドル台(1999.8) 米国政府、SPRの 放出を発表 (2000.9) 米国、同時多 発テロ (2001.9) 中国、WTO に加盟 (2001.12) ベネズエラで ゼネスト (2002.12) イラク戦争 開始 (2003.3) (出所)NYMEX 等のデータより作成 1 本報告は(財)日本エネルギー経済研究所・計量分析ユニット刊、EDMC エネルギートレンド 2004 年 11 月号に掲載したものです。

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原油価格が変動する要因は大きく 2 つに大別することが出来る。1 つはいわゆるファンダ メンタルズ(基礎的条件)と称されるもので、石油の需給バランスに影響を及ぼす基礎的 な諸要因を意味している。これには需要サイドと供給サイドの 2 つの側面が考えられる。 最近の国際情勢の中で原油価格に実質的に、あるいは心理的な部分を含めて影響を及ぼす ファンダメンタルズな要因としては以下のようなものが挙げられる。 ① 需要面 ・ 中国をはじめとする世界の石油需要の増大 ・ 石炭、天然ガス等の他のエネルギーとの競合 ・ ガソリン、軽油の硫黄分低減等の製品品質の強化 ・ 各石油製品の需要の変化 ② 供給面 ・ イラク情勢の不透明さと原油生産・輸出の不安定性 ・ ロシア・ユコスの帰趨と石油生産・原油輸出停止への懸念 ・ サウジアラビアにおけるテロ発生に伴う安定供給への懸念 ・ ベネズエラ、ナイジェリアにおける政治的混乱 ・ ノルウェーにおける石油労働者のストライキ ・ OPEC の余剰生産能力に対する懸念 WTI 原油は米国、テキサス州を中心として 40 万 B/D 程度生産されている軽質・低硫黄 の原油2の総称であり、米国内の原油・製品需給のバランスによっても影響を受ける。 ③ 需要面 ・ 天候、あるいは経済の回復に伴うガソリン需要の増大 ・ 寒波の襲来、厳冬などの季節的要因にともなう暖房油需要の増加 ④ 供給面 ・ 石油精製能力の不足 ・ 合理化に伴う原油・製品在庫の縮小 ・ 石油製品の品質強化に対する製油所の装置面での対応 ・ 製油所、輸送パイプラインなどのトラブルに伴う供給中断 ・ ハリケーンによるメキシコ湾の石油生産設備の被害 ・ 原油・石油製品輸入の中断 他の 1 つの大きな要因は石油のコモディティー化に伴うもので、石油を商品の 1 つとし てとらえ、価格の変動を利用して利益(利ざや)を得ようとする投機的な動きである。 NYMEX は先物市場であり、石油関係者(当業者)が価格の変動をヘッジする場であるが、 最近ではヘッジファンド(ファンド)を中心とする投機筋(非当業者)の資金が流入し、 本来のファンダメンタルな価格の変動を大きく助長する傾向が見られるようになった。 例えば 2003 年のイラク戦争開始直前における価格高騰の際には、1バレル当たり 3∼6 ドル程度が需給を反映しない、いわゆる「戦争プレミアム」と見られていた。また、OPEC のプルノモ議長は 2004 年 9 月に開催された WEC(世界エネルギー会議)で昨今の原油価 格には 10∼15 ドルのプレミアムが上乗せされていると語っており、10 月 26 日に NYMEX の WTI 原油価格が 55 ドルを突破した際にも、NYMEX の原油価格は真の価格ではなく「地 政学的な要因」による 10∼15 ドルのプレミアムが含まれているとのコメントを発表してい る。

NYMEX における Light Sweet Crude Oil の取引高(Volume)は 1983 年の上場以来年々 増加しており、2004 年 8 月には 1 日あたり 20 万 9 千枚、9 月には 21 万 1 千枚に達してい る。1 枚は千バレルであるので 9 月の取引高は 2 億 1,100 万バレルとなるが、これは米国の

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原油処理量約 1,600 万 B/D の 13 倍に相当する。

オープン・インタレスト(Open Interest、取組高、未決済約定残高、未決済の建玉)3は 各取引日終了時における市場参加者が保有する契約残の総量である。CFTC(米国商品先物 取引委員会:US Commodity Futures Trading Commission)によると、2004 年 10 月 26 日現在のオープン・インタレストは 706,503 枚で、うち当業者の買い建玉は 466,039 枚と なっている。残り 240,464 枚が非当業者ならびに小口の非報告者4の買い建玉である。 図 1-2 に示すように、NYMEX の WTI 価格は非当業者ならびに非報告義務者のネットポ ジション、即ち買いのオープン・インタレスト(買い建玉)と売りのオープン・インタレ スト(売り建玉)の差(買い越し枚数)がプラスに動くと上昇し、手仕舞いのために売り に入りマイナスに動くと下降する傾向にある。 図 1-2 オープン・インタレストの推移 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 199 9年1月 199 9年4月 199 9年7月 1 999 年10月 200 0年1月 200 0年4月 200 0年7月 2 000 年10月 200 1年1月 200 1年4月 200 1年7月 2 001 年10月 200 2年1月 200 2年4月 200 2年7月 2 002 年10月 200 3年1月 200 3年4月 200 3年7月 2 003 年10月 200 4年1月 200 4年4月 200 4年7月 2 004 年10月 -300,000 -200,000 -100,000 0 100,000 200,000 300,000 400,000 非当業者+非報告者買いポジション(右軸) 非当業者+非報告者売りポジション(右軸) WTI期近物価格(左軸) 非当業者+非報告者ネットポジション ドル/バレル 買いポジション 売りポジション ネットポジション WTI原油価格 (出所)CFTC 等のデータより作成 非当業者(非報告義務者を含む)のネットポジションは 2004 年に入ってから大きく膨ら んでおり、丁度 2003 年 3 月のイラク戦争開始直前に WTI 原油が大きく買い進まれた状況 に似ている5。ただ、2004 年 3 月 23 日の 96,500 枚(うち、非当業者 80,040 枚)をピーク に、以後はむしろ減少傾向にあり、投機筋は既に原油先物市場に見切りをつけたとも言わ れている。表 1-1 に示すように最近では当業者のオープン・インタレストに占めるシェアが 大きく増加しており、最近の価格の上昇にはむしろ当業者が大きな役割を演じているよう に見受けられる。 3 一個の先物契約には一対の売主と買主が必要であるが、オープン・インタレストは先物契約残の個数を 表すものであり、売主サイドあるいは買主サイドいずれかの側の先物契約残の合計である。 4 保有枚数が 300 枚を超すトレーダーは自らのアイデンティティー(当業者、非当業者の区別)を NYMEX に報告する義務が生じる。 5 因みに 2003 年のイラク戦争の際には開始直前の 2003 年 2 月 14 日にオープン・インタレストはピーク をつけ、その後減少に転じたが、この時点におけるオープン・インタレストは 662,058 枚、うち当業者の 買い建玉は 444,747 枚、非当業者ならびに非報告者の買い建玉は 217,311 枚であった(表 1-1 参照)。

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表 1-1 2004 年 10 月 26 日現在のオープン・インタレスト (出所)CFTC のデータより作成 買い 売り スプレッド ネット ポジション 買い 売り 買い 売り 117,340 96,377 59,800 20,963 466,039 470,161 63,324 80,165 706,503 16.6% 13.6% 8.5% 66.0% 66.5% 9.0% 11.3% 100.0% トレーダー数 69 74 67 85 81 - - 248 88,940 96,756 59,286 -7,816 444,747 450,526 69,085 55,490 662,058 13.4% 14.6% 9.0% 67.2% 68.0% 10.4% 8.4% 100.0% 158,945 78,905 57,809 80,040 216,754 136,714 68,810 52,360 672,809 23.6% 11.7% 8.6% 32.2% 20.3% 10.2% 7.8% 100.0% 当業者 非報告義務者 合計 非当業者 オープン インタレスト (参)オープン インタレスト (03年2月14日) (参)オープン インタレスト (04年3月23日) NYMEX の原油先物取引は 6 年先までの取引が行なわれており、2004 年 10 月の取引の 最終限月は 2010 年の 12 月である。2002 年 8 月からの推移を見ると、6 年先の最終限月の 価格は期近月の価格ほど大きくは変動していない。たとえば 2003 年初のイラク戦争開始時 点を中心とする時期には期近月の価格は大きく変動しているが、最終限月の価格は 23∼24 ドル近辺で安定的に推移していた。 図 1-3 NYMEX・WTI 原油の当月限価格と最終限月価格の推移 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 20 02 /8 /1 20 02 /9 /1 20 02 /1 0/ 1 20 02 /1 1/ 1 20 02 /1 2/ 1 20 03 /1 /1 20 03 /2 /1 20 03 /3 /1 20 03 /4 /1 20 03 /5 /1 20 03 /6 /1 20 03 /7 /1 20 03 /8 /1 20 03 /9 /1 20 03 /1 0/ 1 20 03 /1 1/ 1 20 03 /1 2/ 1 20 04 /1 /1 20 04 /2 /1 20 04 /3 /1 20 04 /4 /1 20 04 /5 /1 20 04 /6 /1 20 04 /7 /1 20 04 /8 /1 20 04 /9 /1 ドル/バレル 価格差 最終限月 当月限 価格差 最終限月価格 当月限価格 (出所)NYMEX 等のデータより作成 これは市場参加者の将来における価格の見方が比較的安定していることを示しているが、 2004 年 7 月以降は次第に上昇し、8 月以降は 35 ドルを上回る程度に上昇した。11 月 2 日 現在では 37.8 ドルと 40 ドルを若干下回る程度の水準で推移しており、期近月との価格差 は従来の 5 ドル程度の格差から 10 ドル程度にまで拡大している。

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図 1-4 NYMEX・WTI 原油取引価格の推移 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 月10 1112月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 101112月 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 ドル/バレ ル 2月12日 8月13日 7月14日 5月12日 9月17日 10月15日 11月2日 (出所)NYMEX 最終限月の価格は 2010 年 12 月という将来の価格であることから、価格の変動から短期 間で利鞘を稼ごうとする非当業者の投機の対象には不向きであり、むしろ当業者の純粋な ヘッジの対象として利用される傾向が強いものと思われる。従って 10∼15 ドルに及ぶとも 言われる直近時のプレミアムのような要素が入り込む余地は乏しく、市場関係者の見方に よるファンダメンタルな WTI 原油価格の水準は 35 ドル程度の水準であると見ることが出 来よう。

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2. 米国の石油精製業の動向

米国では 1990 年代以降の合理化に伴い 56 ヶ所の製油所が閉鎖され、製油所数は 205 か ら 149 に減少した。一方、1 製油所あたりの精製能力は 1990 年の 76 千 B/D から 111 千 B/D に増加した。需給のバランスの改善により稼働率は堅調に増加し、1980 年の 75%が 1986 年には 80%、1993 年には 90%を上回るようになり、1998 年には 95%にまで上昇し た。 2001 年 9 月の同時多発テロは米国の経済に影響を及ぼし、製油所の操業にも微妙な影を 落とすようになったが、2004 年 5 月以降、米国経済の回復基調と旺盛なガソリン需要に支 えられて原油処理量は大幅に増加、稼働率は 95%を上回る状況が続いた。ただ、稼働率の 上昇は石油精製業者にとっては精製コストの低下という点で有利な状況にはあるが、経済 の動き、季節的な変動、あるいは国内の石油生産を補う形でヨーロッパ、中南米などから 輸入されている石油製品の供給状況、製油所のトラブルといったさまざまな要因による製 品需給の変動、特に製品需要の増加に対しては即応することが難しいという問題を抱える ことになる。 図 2-1 原油処理量、稼働率の推移 14.0 15.0 16.0 17.0 18.0 2003 年1月 2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月 2004年 1月 2月 3月 4月2 日 4月 9日 4月 16日 4月 23日 4月 30日 5月7 日 5月 14日 5月 21日 5月 28日 6月 4日 6月 11日 6月 18日 6月 25日 7月2 日 7月 9日 7月 16日 7月 23日 7月 30日 8月6 日 8月 13日 8月 20日 8月 27日 9月 3日 9月 10日 9月 17日 9月 24日 10月 1日 10月 8日 80.0 85.0 90.0 95.0 100.0 精製能力 原油処理量 稼働率(右軸) % 百万B/D 精製能力 稼働率(右軸) 原油処理量 (出所)DOE/EIA のデータより作成 2004 年 9 月 10 日頃から大型のハリケーン Ivan がメキシコ湾に接近し、13 日頃から湾 内の石油生産・精製設備の多くが操業を停止した。Ivan は石油生産設備に大きな被害をも たらし、米国内務省鉱物資源管理部(MMS)によると 10 月 27 日現在で 33.2 万 B/D の生 産能力が停止している。これは国内生産量の約 25%を占めるメキシコ湾内生産量(170 万 B/D)の 19.5%に及び、9 月 11 日以降の累積生産量では 25.45 百万バレル、年間生産量の 約 4.2%が失われたことになる。この結果、製油所の稼働率も大きく低下しており、これに 伴う製品供給への不安が 9 月以降の原油価格の上昇に更に拍車をかける結果になったとさ れている。 製油所の統廃合に伴い石油事業者の在庫能力は低下傾向にある。石油事業者は合理化の 過程の中で原油在庫、製品在庫を極力減らす方向で努力を行なってきた。表 2-1 に示すよう に 1990 年に比較し、原油の在庫能力にはあまり大きな変化は認められないが、石油製品、 特にガソリンの在庫能力は低下が著しい。

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表 2-1 石油事業者の在庫能力(単位:千バレル) 1990年 1995年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 原油 174,490 163,111 160,624 159,815 157,986 157,582 161,892 基材 77,614 80,000 79,810 78,239 77,337 77,011 76,369 ガソリンブレンド基材 77,614 68,502 69,460 68,566 68,739 69,146 69,166 石油製品 541,070 475,030 458,064 436,235 434,648 426,165 414,853 ガソリン 97,892 78,997 75,840 73,987 71,589 70,129 69,153 中間留分 101,083 77,530 70,091 66,412 67,463 66,588 66,801 重油 50,718 35,344 27,728 26,166 26,240 25,262 23,636 825,469 763,680 731,592 704,756 703,274 695,511 687,413 在庫能力(日数) 原油(前年処理量基準) 12.9 11.6 10.6 10.6 10.3 10.3 10.7 ガソリン(基材を含む) 25.2 21.7 19.3 18.8 18.2 17.7 17.2 (前年生産量基準) 合計 (出所)DOE/EIA 原油の在庫量について見ると、SPR(国家戦略備蓄)を除く民間の原油在庫量は 2002 年 の夏以降、過去の水準(1995 年∼2001 年の最低在庫水準)を大きく割り込んで推移してい る。また、2002 年 10 月以降はイラク戦争開始への懸念の中で、ベネズエラのゼネストや ナイジェリアの石油労働者のストなど供給面における不安も拡大しており、原油の輸入が 順調には行なわれなかった可能性も指摘されている。WTI 原油価格はこの推移に従って上 昇傾向を強めているように見受けられる。 図 2-2 原油在庫量の推移 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 19 96/ 1/3 19 96/ 4/3 19 96/ 7/3 19 96/1 0/3 19 97/ 1/3 19 97/ 4/3 19 97/ 7/3 19 97/1 0/3 19 98/ 1/3 19 98/ 4/3 19 98/ 7/3 19 98/1 0/3 19 99/ 1/3 19 99/ 4/3 19 99/ 7/3 19 99/1 0/3 20 00/ 1/3 20 00/ 4/3 20 00/ 7/3 20 00/1 0/3 20 01/ 1/3 20 01/ 4/3 20 01/ 7/3 20 01/1 0/3 20 02/ 1/3 20 02/ 4/3 20 02/ 7/3 20 02/1 0/3 20 03/ 1/3 20 03/ 4/3 20 03/ 7/3 20 03/1 0/3 20 04/ 1/3 20 04/ 4/3 20 04/ 7/3 20 04/1 0/3 ドル/バレル -100,000 -50,000 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 対前年比原油在庫増減 WTI価格 原油在庫 WTI価格 原油在庫量対前年比増減 原油在庫量 原油在庫量1995-2001最低水準 原油在庫量1995-2001最高水準 (出所)DOE/EIA 等のデータより作成 2003 年における全米の石油製品需要量 2,004 万 B/D のうち、ガソリンは 894 万 B/D、約 45%を占める主力商品である。製油所では暖房油の需要が終了した春先6からガソリンの生 6 ガソリンは冬期と夏期で規格が異なる。製油所、輸入業者のタンク、ターミナル、パイプラインでは 5 月 1 日から、小売段階では 6 月 1 日から 9 月 15 日の Labor Day まで夏期規格の供給が義務付けられてい る。

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産に重点を移し、夏場のガソリン需要の増加に備えて在庫の積み増しを行なう。2004 年の ガソリンの在庫量も 1995 年∼2001 年の最低水準に近い量で推移しており、ガソリンの需 要が毎年増加していることを勘案すると、決して十分であるとは言えない水準にある。 ガソリンの需給逼迫に対して長期的にはガソリンの輸入による対応も考えられるが、短 期的には製油所の稼働率を上げ、増産により対応するしかない。この場合、原油の在庫量 が少なければ近接地に存在するという意味から国産の WTI 原油に需要が集中することにな る。WTI 原油は軽質かつ低硫黄であることから、ガソリンの収率が高いという利点もある。 図 2-3 ガソリン在庫量の推移 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 19 96/ 1/3 19 96/ 4/3 19 96/ 7/3 19 96/1 0/3 19 97/ 1/3 19 97/ 4/3 19 97/ 7/3 19 97/1 0/3 19 98/ 1/3 19 98/ 4/3 19 98/ 7/3 19 98/1 0/3 19 99/ 1/3 19 99/ 4/3 19 99/ 7/3 19 99/1 0/3 20 00/ 1/3 20 00/ 4/3 20 00/ 7/3 20 00/1 0/3 20 01/ 1/3 20 01/ 4/3 20 01/ 7/3 20 01/1 0/3 20 02/ 1/3 20 02/ 4/3 20 02/ 7/3 20 02/1 0/3 20 03/ 1/3 20 03/ 4/3 20 03/ 7/3 20 03/1 0/3 20 04/ 1/3 20 04/ 4/3 20 04/ 7/3 20 04/1 0/3 ドル/バレル -50,000 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 ガソリン在庫増減 WTI価格 ガソリン在庫 WTI価格 ガソリン在庫量対前年比増減 ガソリン在庫量 ガソリン在庫量1995-2001最低水準 ガソリン在庫量1995-2001最低水準 (出所)DOE/EIA 等のデータより作成 一方、暖房油の在庫量はガソリンが需要期を過ぎた 9 月頃から増加し、10 月から翌年 3 月までの需要期間の中で 1 月頃をピークに減少に転じる。米国の 1 億 7 百万世帯のうち、 暖房油を使用する世帯数は 870 万世帯に過ぎないが、このうち 75%が米国北東部に分布し ている。従って、この地域が厳冬に見舞われると暖房油の需給は一気に逼迫することにな る。2004 年 10 月 22 日現在の暖房油在庫量は 4,886 万バレル、前年の 2003 年 10 月 18 日 における在庫量が 5,559 万バレルであったことからすると、約 67 万バレルの減少であり、 今後の動向が注目される(図 2-4 参照)。

DOE/EIA の Annual Energy Outlook 2004(2004 年 1 月)では今後は製油所における精 製能力の増強が進むものと想定されている。2002 年から 2025 年にかけての GDP 成長率が 3.0%のレファレンスケースでは、2010 年の石油精製能力は 1,867 万 B/D と 2001 年の 1,679 万 B/D に対し 188 万 B/D の増加となる。また、経済成長率が 3.5%と高い伸びを示す高成 長ケースでは 1,904 万 B/D、経済成長率が 2.4%の低成長ケースにおいても 1,818 万 B/D の 拡充が予想されている。ただ、稼働率で見るとレファレンスケースにおける 2010 年の稼働 率は 93.1%となっており、今後も依然として石油製品の安定的な供給に対しては不安要因 を抱えたまま推移するものと見られる。

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図 2-4 暖房油在庫量の推移 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 199 6/1/3 199 6/4/3 199 6/7/3 1996 /10/3 199 7/1/3 199 7/4/3 199 7/7/3 1997 /10/3 199 8/1/3 199 8/4/3 199 8/7/3 1998 /10/3 199 9/1/3 199 9/4/3 199 9/7/3 1999 /10/3 200 0/1/3 200 0/4/3 200 0/7/3 2000 /10/3 200 1/1/3 200 1/4/3 200 1/7/3 2001 /10/3 200 2/1/3 200 2/4/3 200 2/7/3 2002 /10/3 200 3/1/3 200 3/4/3 200 3/7/3 2003 /10/3 200 4/1/3 200 4/4/3 200 4/7/3 2004 /10/3 ドル/バレル -40,000 -20,000 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 暖房油在庫増減 WTI価格 暖房油在庫 WTI価格 暖房油在庫量対前年比増減 暖房油在庫量 (出所)DOE/EIA 等のデータより作成

(10)

3. 回帰分析によるファンダメンタルな WTI 原油価格の検討

DOE/EIA は毎週水曜日の東部時間午前 10 時 30 分に前週金曜日時点における原油在庫 量、ガソリン在庫量、暖房油在庫量等の諸データを発表する。石油関係者はこれらのデー タにより全米の石油需給バランスを推し量り NYMEX における取引に臨むことから、この 日に NYMEX 市場の WTI 価格は時に大きく変動する。

OECD の石油在庫は毎月 IEA の Oil Market Report の中で発表される。市場関係者はこ の値を先進国における原油需給の状況を表す指標として利用していることから、これも WTI 価格を動かす要因と見ることが出来る。 そこで、米国の原油在庫量、ガソリン在庫量、暖房油在庫量ならびに OECD 諸国の石油 在庫量をファンダメンタルズな要素として説明変数に用い、回帰分析により WTI 原油のフ ァンダメンタルな価格水準(NYMEX 先物市場価格、期近月)の推計を行った。 説明変数として用いた原油在庫は、毎週水曜日に発表される当該週の原油処理量で除し た備蓄日数ベース、ガソリン在庫は混合基材を含んだ量で同じく当該週のガソリン供給量 で除した備蓄日数ベースを使用した。OECD の石油在庫についても同様に備蓄日数ベース として説明変数に用いている。暖房油在庫については、気候によって暖房油需要が変動す ることから、前年からの増減量を使用している。 回帰期間については 1998 年 1 月∼2002 年 12 月としたが、これはアジアの通貨危機以後 石油のコモディティー化が進み、需給のバランスをより反映した価格へと変化したことを 勘案したものである。 2003 年 1 月以降は、得られた回帰式に説明変数の実績値を代入し WTI 原油価格の推計 を行なった。その結果、図 3-1 に示すように 2004 年 10 月待つ時点におけるファンダメン タルな WTI 原油価格は 30.8 ドルと 30 ドルを若干上回る程度の水準にあるものと推計され た。 図 3-1 WTI 原油価格の推計 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 199 8/1 /14 199 8/4 /14 199 8/7 /14 1998 /10 /14 199 9/1 /14 199 9/4 /14 199 9/7 /14 1999 /10 /14 200 0/1 /14 200 0/4 /14 200 0/7 /14 2000 /10 /14 200 1/1 /14 200 1/4 /14 200 1/7 /14 2001 /10 /14 200 2/1 /14 200 2/4 /14 200 2/7 /14 2002 /10 /14 200 3/1 /14 200 3/4 /14 200 3/7 /14 2003 /10 /14 200 4/1 /14 200 4/4 /14 200 4/7 /14 -10.0 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 実績値との差 実績値 推計値 推計期間:1998年1月~2002年12月 実績値 推計値 実績値との差(右軸) 米国政府、SPRの 放出を発表 (2000.9) 米国、同時多 発テロ (2001.9) ベネズエラで ゼネスト (2002.12) イラク戦争 開始 (2003.3) ドバイ原油、 22ヶ月ぶりに20 ドル台(1999.8) ドバイ原油、1バ レル10ドル割れ (1998.3)

(11)

回帰式: WTI(ドル/BBL)= 9.97−0.118×原油在庫(日)−0.085×ガソリン在庫(日) (2.81) (−1.18) (−1.49) − 1.22×10−5×暖房油在庫増減(千バレル)−0.06×OECD 石油在庫(日) (−1.69) (−1.49) + 0.912×前週値(ドル/BBL) (36.09) 期間 1998 年 1 月∼2002 年 12 月、R2=0.964、標準誤差=1.24、DW=2.06 この回帰式は 1 週間毎の WTI 価格を説明しているので、この間における価格の変動は考 慮されていない。また、式を見ると前週値で全体の 91%を説明しており、残る 9%がファ ンダメンタルな要素で変動していると見ていることになるが、91%という値は過大のよう にも思われる。ファンダメンタルな要素としては他にも製油所の稼働状況(精製能力、稼 働率)や前週からの在庫の増減、原油・石油製品の輸入量などのさまざまな要素が考えら れるが、ここでは考慮されていない。係数の殆どがマイナスであり、原油価格を上昇方向 に導く変数は暖房油の前年増減しかないといった点についても改善すべき余地が残されて いる。 ただ、この回帰式で推計した値を実績値との対比で見ると、1999 年半ば頃から OPEC の 生産枠遵守が浸透し、2000 年初の米国の寒波により東部の暖房油需給が逼迫する中で WTI 原油価格が上昇して行った状況を上手くトレースしているように見られる。また、同時多 発テロが起きた 2001 年 9 月 11 日以降の景気後退に伴う実勢以上のディスカウント、ある いは 2003 年 3 月のイラク戦争開始以前の戦争プレミアムと言われた 6 ドル程度のプレミア ムの状況も反映されている。 一方、2004 年以降の推計値は大きく実績値と乖離する傾向があり、直近時における WTI 原油の推計値が 30 ドルをわずかに上回る程度であるのに対し、実績値は 50 ドルを上回り、 価格差は 20 ドル以上に及んでいる。これは、この回帰式の説明変数として採用した要素で は説明しきれない部分で原油価格が大きく変動するようになったものと見ることが出来る ように思われる。

(12)

4. おわりに

OPEC のバスケット価格はアルジェリアの Saharan Blend、インドネシアの Minas、ナ イジェリアの Bonny Light、サウジアラビアの Arab Light、U.A.E.の Dubai、ベネズエラ の T.J. Light、メキシコの Isthmus の 7 つの油種の単純平均値である。これらの原油の価 格には WTI 原油価格の変動とは直接には関連しないものも含まれているが、いずれの油種 も指標としての WTI 原油価格には間接的な影響を受けることから、従来は WTI 原油価格 にほぼ 5 ドル程度の格差で推移してきた。ここに来て格差は 10 ドル近くにまで拡大してい るが、今後 WTI 原油価格が 40∼50 ドルの水準で推移すればバスケット価格も 30∼40 ド ルの水準で推移することになる。これは OPEC のプライスバンドを現行の 22∼28 ドルか ら 28∼35 ドル程度にまで高めようとする動きを助長することになる。 図 4-1 OPEC バスケット価格の推移 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 20 00 /5/ 1 20 00 /7/ 1 20 00 /9/ 1 200 0/ 11/ 1 20 01 /1/ 1 20 01 /3/ 1 20 01 /5/ 1 20 01 /7/ 1 20 01 /9/ 1 200 1/ 11/ 1 20 02 /1/ 1 20 02 /3/ 1 20 02 /5/ 1 20 02 /7/ 1 20 02 /9/ 1 200 2/ 11/ 1 20 03 /1/ 1 20 03 /3/ 1 20 03 /5/ 1 20 03 /7/ 1 20 03 /9/ 1 200 3/ 11/ 1 20 04 /1/ 1 20 04 /3/ 1 20 04 /5/ 1 20 04 /7/ 1 20 04 /9/ 1 ドル / バ レル 価格差 OPECバスケット価格 NYMEX期近月価格 OPECバスケット価格 NYMEX・WTI原油価格 価格差 (出所)Platts 等のデータより作成 ただ、仮に現在 55 ドル程度の水準にある WTI 原油価格のうち、プレミアムの部分が 20 ドル程度であり、これが石油需給に対する懸念に由来して増幅された結果であれば、いず れ供給上の不安が解消された時点ではファンダメンタルな価格水準である 30 ドル程度の水 準に落ち着くことが予想される。この場合の OPEC のバスケット価格は、WTI 原油との価 格差を 5 ドル程度とすれば 25 ドル程度の水準であり、プライスバンドを敢えて変更する理 由は無い。問題は、イラク情勢を中心とした原油の需給を取り巻くさまざまな国際情勢が いつ落ち着きを見せるかにかかっている様に思われる。 . お問合せ: report@tky.ieej.or.jp

表 1-1  2004 年 10 月 26 日現在のオープン・インタレスト  (出所)CFTC のデータより作成 買い売りスプレッドネットポジション買い 売り 買い 売り117,34096,37759,80020,963 466,039 470,16163,324 80,165 706,50316.6%13.6%8.5%66.0%66.5%9.0%11.3%100.0%トレーダー数6974678581--24888,94096,75659,286-7,816 444,747 450,52669,08555,
図 1-4  NYMEX・WTI 原油取引価格の推移  20.025.030.035.040.045.050.055.060.0 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月
表 2-1  石油事業者の在庫能力(単位:千バレル)  1990年 1995年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 原油 174,490 163,111 160,624 159,815 157,986 157,582 161,892 基材 77,614 80,000 79,810 78,239 77,337 77,011 76,369 ガソリンブレンド基材 77,614 68,502 69,460 68,566 68,739 69,146 69,166 石油製品 541,070 47
図 2-4  暖房油在庫量の推移  0.010.020.030.040.050.060.0 1996/1/3 1996/4/3 1996/7/3 1996/10/3 1997/1/3 1997/4/3 1997/7/3 1997/10/3 1998/1/3 1998/4/3 1998/7/3 1998/10/3 1999/1/3 1999/4/3 1999/7/3 1999/10/3 2000/1/3 2000/4/3 2000/7/3 2000/10/3 2001/1/3 2001/4/3 2001/7/

参照

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