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論文の要約
氏名:安 光 智 洋
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:Immunohistochemical study of FGFs, their receptors and other related factors during regeneration of the rat submandibular gland
(ラット顎下腺再生過程における線維芽細胞増殖因子とその受容体および関連因子の免織
化学的検討)
顎下腺の萎縮・再生過程の解析には導管結紮モデルが広く使用されている。このモデルでは導管結 紮により腺房細胞の消失と結合組織の増加を引き起こし,結紮解除後は腺房細胞が再生する。再生過程 で認められる導管様構造物(DLS)は正常顎下腺の介在部導管(ICD)に相当し,腺房細胞の再生に関わっ ていると考えられている。この DLS の周囲には,コラーゲンに代表される基底膜が存在し,筋上皮細胞 との相互作用が唾液腺の再生に関与していると考えられている。
線維芽細胞増殖因子(FGFs)とトランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)は,組織の発生や修復過 程に関与している。FGFs はヒトでは 22 種類,そのレセプターである FGFRs は 4 種類同定されており, それらを介して胎生期唾液腺発生の分枝形態形成や細胞分化に関与している。また,TGF-β1は正常な 線維芽細胞の形質転換を促進する因子として同定されたが,近年では,細胞の増殖抑制,分化やアポト ーシスの誘導などにも関わっている。
Aquaporin-5(AQP5)は,ラット顎下腺からクローニングされた膜タンパクであり,唾液腺以外にも涙 腺や気管,眼,肺などの水輸送を担っている。また,腺房細胞管腔側に局在するが,腺房間や ICD への局 在も報告されており,腺房細胞の水分泌機能マーカーとしても広く使用されている。
これら,FGFs,TGF-β1,AQP5,ラミニンとの関係は顎下腺再生過程においては不明な点が多い。そこで, 本研究では,顎下腺再生過程における腺房細胞と DLS,その周囲組織の関連を解析する目的で,これら の時空間的な発現パターンを免疫組織化学的に検討した。
第 1 章では、FGF-2,-7,-8,および-10 と FGFR-1,-2,-3,-4 の局在について検討をした。実験動物に は生後 8 週齢の Wistar 系雄性ラットを用いた。ラット顎下腺主導管をチタンクリップにて 7 日間結紮 し,その後解除して 0 日目から 0,1,3,7,11,14 日経過した顎下腺(Day0,1,3,7,11,14),さらに,対照群と して主導管非結紮の顎下腺を採取し,パラフィン包埋切片および新鮮凍結切片を作製した。その結 果,FGF-2 は対照群の顎下腺において,ICD と血管に強度の陽性反応を認めた。再生過程である Day0-7 で DLS に中等度の陽性反応が認められ,また,新たに腺房細胞が再生する Day3 において新生腺房細胞 (NFAC)に中等度の陽性反応を示した。しかしながら,成熟腺房細胞(MAC)になる過程において,FGF-2 の 陽性反応は減少傾向にあり,Day14 の腺房細胞では観察されなかった。FGF-7 は対照群において,陽性反 応は認めなかったが,Day0 において DLS に弱い陽性反応を示した。再生過程にある Day3-7 におい て,NFAC,MAC,さらに DLS に中等度の陽性反応が認められた。FGF-8 は対照群で陽性反応は認められな かったが,萎縮直後から再生初期の Day0-3 において DLS に強い陽性反応を示した。Day7 において は,DLS の強い陽性反応が中等度までに減少し,D14 では全ての陽性反応は消失していた。FGF-10 では, 対照群で ICD と同様,腺房細胞の管腔側と細胞間に強い陽性反応を認めた。萎縮直後の Day0 では,DLS に中等度の陽性反応を示していたが,再生過程の Day3-7 では,DLS と NFAC の管腔側と細胞間に強い陽 性反応を認めた。FGFR-1 の対照群では ICD に中等度の陽性反応が観察された。萎縮直後から再生過程 の Day0-7 では,DLS に依然として中等度の陽性反応が認められ,Day3 の NFAC の細胞膜にわずかに陽性 反応を示した。また,Day7-14 の MAC の細胞膜に弱陽性,ICD に中等度の陽性反応を認めた。FGFR-2 は 対照群では,ICD に弱い陽性反応を認めたが,萎縮直後から再生初期の Day0-3 に陽性反応は認めなかっ た。しかし,Day7-14 で ICD に弱い陽性反応が観察されはじめ,最終的には対照群と同様な染色パター ンを示した。FGFR-3 は対照群で,腺房細胞の細胞膜に中等度の陽性反応を認めた。再生初期の Day3 で は NFAC の細胞膜にわずかに陽性反応を認め,再生後期の Day7 と Day14 では ICD にわずかな陽性反応と,
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腺房細胞の細胞膜に中等度の陽性反応を示した。FGFR-4 は対照群において,ICD に中等度の陽性を認め た。Day0 では DLS に中等度の陽性反応を示し,Day3 では NFAC の細胞膜に弱陽性反応を認めた。Day7 と Day14 では MAC の陽性反応が消失し,ICD に中等度の陽性反応を示した。
第 2 章では,AQP5,TGF-β1,ラミニン,α-平滑筋アクチン(α-SMA)の局在を免疫組織化学的に検討し た。なお,実験動物,顎下腺摘出,パラフィン包埋切片および新鮮凍結切片の作製は Day1 および Day11 を除き第 1 章と同様に行った。その結果,AQP5 は対照群において,ICD の管腔側に強い陽性反応,腺房細 胞に中等度の陽性反応を認め,ICD により強く局在することがわかった。また,舌下腺腺房細胞同 様,AQP5 が認められない腺房細胞が存在していた。萎縮直後の D0 では、DLS の管腔側に強度の陽性反 応を認め,Day3 において,陽性反応を示す NFAC に混じて AQP5 陰性の NFAC も存在していた。再生過程 の Day7 においては,陽性の腺房細胞が増加し,より強い陽性反応を示す ICD が認められた。Day14 にお いて,対照群と同様,中等度の陽性反応を示す腺房細胞と強陽性反応を示す ICD が認められた。しかし ながら腺房細胞の中には AQP5 陰性のものも存在していた。TGF-β1は対照群の顎下腺において,顆粒管 と線条部導管に陽性反応を示したが,腺房細胞と ICD には認められなかった。Day0 においては,DLS と その周囲の結合組織に陽性反応を示し,再生過程にある Day3-7 では DLS に弱陽性反応を示した。
TGF-β1と α-SMA の Day3 における蛍光免疫二重染色では,α-SMA 陽性を示す筋上皮細胞に取り囲まれ ている DLS に TGF-β1陽性反応が認められた。また,ラミニンと α-SMA の Day3 と Day14 における蛍光 免疫二重染色では,DLS はラミニンに強い陽性反応を示す肥厚した基底膜に囲まれ,その外側に α-SMA に強度の陽性反応を示す筋上皮細胞が存在していた。
第 1 章 と 第 2 章 の 結 果 か ら , ラ ッ ト 顎 下 腺 主 導 管 結 紮 モ デ ル を 用 い た 再 生 過 程 に お け る FGF,FGFR,TGF-β1およびラミニンの免疫組織化学的局在がわかった。また,唾液腺再生過程におい て,FGF-2 は FGFR-1 と FGFR-4 を介して DLS と NFAC で重要な役割を,FGF-7 は DLS と NFAC で,FGF-8 は DLS に関与していることが示唆された。FGF-10 は FGFR-1 を介して ICD と NFAC で重要な役割を果たし ていることが示唆された。AQP5 は腺房細胞に比べ,ICD と DLS に強度の陽性反応を示した。TGF-β1は 筋上皮細胞とラミニン陽性の基底膜の周囲に局在していた。
以上のことから,ラット顎下腺再生過程において,TGF-β1は FGF-2,-7,-8,および-10 と協同で作用 している可能性が考えられた。また,AQP5 が DLS に陽性を示し,ICD と類似した局在を示したことか ら,DLS と ICD は同様の性質を持つことが示された。さらに,DLS に存在する TGF-β1が肥厚した基底膜 と筋上皮細胞に作用していると示唆された。