• 検索結果がありません。

分 裂 病 心 性 - の 接 近 〟.姉 ・妹 ・弟

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "分 裂 病 心 性 - の 接 近 〟.姉 ・妹 ・弟"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

38 ‑ 弘 前 医 学 2 2,38‑4 5,1 9 7 0

分 裂 病 心 性 ‑ の 接 近

〟.姉 ・妹 ・弟 4 人 に現 われた妄想 につ いての一考察

布 施 清

KI YOK AZ t :FUs E

弘 前 大 学 医 学 部 神 経 精 神 医 学 教 室 ( 主任 佐藤時治郎 教 授 )

布 施 病 院

(1 2. I.1 9 7 0 受付 )

措 昌

精神 医学 におけ る妄想研究 は,近代精神 医 学が確立 され る以 前か らの重要 な主題 の一つ で あ る.

現在 ,妄想 につ いて,特 に分裂病性妄想 に つ いての代表的 な理解 の仕方 には, K.J as p‑

er s ,H.W .Gr uhl e,S.Fr eud,E.Bl eul er 及 び人 間学的立場 が あげ られ る.

K.J as per s らは,原発性妄想 体験 ,す なわ ち妄想気分 ,妄想知覚 ,妄想表 象 な どは,心 理学的 には 了解不能 な もの とし,その病的体 験 の背後 に特別 な Pr oz e s s が あ ると考 えた.

H.W .Gr uhl e は現 象学的 に還元不能 , 了 解不能 な原発体験 で あ る真性 妄想 は,器質的 大脳病理学 的症 状で ある とした.

しか し , K. J as per s ,H. W. Gr uhl e らのいわ ゆ る Hei de l ber g 学派 の上 記の如 き妄想 に対 す る見解 は, 分裂病妄想 に "unver s t andl i c h"

とい うレ ッテル を張 りつ け ることに よって, 病者 の心性 の理解 に大 きな障害 とな って きた

ことも否 め ない事実 であ る.

一方 ,E.Bl eul e r は病者 を全 体的状 況 の l ∵ に把握 しよ うとす る精神分析学 の影響 を受 け て,分裂病性妄 想が 自閉 と分裂 とい う二大基 本症状 に還元 で きる と考 えた.

この Bl eul e r 的 な人 間的共感性 の喪失 を基 本 と考 えた妄想論 は ,Mi nkows ki らに受 けつ がれ なが ら次第 に,人間学的理解‑ と発展 し

て きつつ あ るので あ る.

S.Fr eud は 妄想 を, 深刻 な精神的破局状 況 を必死 に防 ご うとす る自我 の営 みが ,疾病 へ の抵抗す なわ ち,無意識衝動的観 念が意識 へ侵入 す る ことを二次的 に防衛 した結果 とし て理解 してい るよ うに思 われ る.

か くして S.Fr eud は,有 名 な Sc hr e be r 症 例 を通 じて,被害妄想 ・被愛妄想成立 の公式 を作 りあ げ た. この S.Fr eud の妄想理論 に は,深 い人 間理解 の まな ざ しを認 め ることは で きるに して も,そ こには 多 くの独断的公式 化 ,飛躍 を認 め ない訳 にはいか ない.

また近年 , Bi ns wanger らは現存在分析的 立場 か らの妄想論 を展開 し,精神療法過程 , 詳細 な縦断的生活史 の検討 を行 ないなが ら, 分裂病妄想 を現存在 として の病者 の もつ非木 采的態度可能 の具体的現 出に他 な らない とし てい る.

以上 ,簡単 に近年 におけ る分裂病妄想理解 の諸立場 につ いて述 べ たが ,現在 なお,分裂 病妄想 の本質的 な ものへ の接近が模索 されつ つ ある現況で あ る.

特 に最近 は,分裂病者 の 精 神 療 法 を 通 し て,その発病状況 の解 明 ,妄想成立機転 の分 析 が 精 力 的 に な されつつ あ るよ うに思 われ る.

今回,著者 は ,母 の性 的無軌道 ,近隣 の人

々の噺笑 に さ らされ る とい った深刻 な葛藤状

況で.ほほ 同時期 に発病 した と推定 され る,

(2)

姉妹 ,弟 4人 の分裂病者 の妄想 を,患者 の生 活 歴,家族 関係,心的葛 藤状況 な ど種 々の面 か ら検討 す る機会 を得たので,妄想 発生 の心 的機制 を中心 として追求 してみ たい.

発病 までの家庭生活

父 は農村 の比較 的裕福 な家庭 の 6 人兄弟 の 第 5 子 , 3 男 として生 まれ,師範学校卒業後 は,小学校教師 として生活 して きた.

幼少時 よ り,無 口,内気 で学 生時代 に も芦 社交的 ,孤立的 な性格 のため変 人あっ かい を 受 けた とい う.

烏 は父 と同 じ村 の地主 の 7 人兄 弟 の 第 2 千 ,次女 として生 まれ ,性格 は明朗 ,勝気 で 社 交 性 に 富 み , 多 少神経質 な面 もみ られた が,何事 に も積極的 で,患者 らの発病後 は保 険 の外交員 として毎年優秀 な成績 をあげ てい

た .

父 母 の家 系に特 に精神病的負 因はみ られ な か っ た .

両親 は見合結婚 で,結婚せ 活 は塩端 に異 な る性格傾 向のためか , しっ くり行 かず,常 に 心 の内で反 凝 しあい,母 は何時 も離婚 の こと が念頭 か ら離 れ なか った とい う.

しか し,つ ぎつ ぎ と子 供が生 まれたため, 離婚 には至 らなか ったが,夫婦 の間柄 は打 ち とけ合 わず極 めて冷た く,家庭 の雰 囲気 も暗 か っ た .

父 は,長女 ( 症例 1) には比較的強い愛情 を示 した ものの,他 の子供 にはほ とん ど無 関 心 で, 口をき くことも少な く,子供達 も父 に は余 り馴染 まなか った とい う.

母 はほ とん ど子供 に愛情 を もたず,憎 しみ に近 い感情 さえ もっていた と述 べ てい る.

両親 は結婚後 ,父 の勤務地 で あ った北海道 の数か所 の小学校 を転勤 とともに移 り住み, つ ぎっ ぎ と 5 人 の子供 を も うけた.

ところが 昭和 1 9 年 ,父が炭鉱 での " 勤労作 業 〝遂行 中,落盤事故 に あい急死 した. この ため一家 は郷里 に戻 った.

なお この父 の事故死 は,父 と全 く関係 のな

い坑道 で起 こった もので,非常 に危 険 なその 坑道 に無 断で 入 って死亡 したため,周囲 の人 々か ら異様 に思 われた らしく, 自殺 では ない か との噂が た った とい う.

その後約 3 年 間,父方祖 父母の下で子供達 と母 との生活が続 いた.

しか しその後 ,母 は末 子 ( 後 に溺死) のみ を ともな って,函館 の姉 の嫁 ぎ先 に裁縫 の修 業にでかけた.

このため女 3 人 は父方実家,長男 は母方実 家 にひ き とられて暮 した . こ の 期 間 の 生活 は,患者達 に とって非常 に楽 い 、 生活 で あ っ た と述べ てい る.

母が修業 を終 えて実家 に戻 り,仕立物 な ど を しなが ら細 々 と生計 をたて るよ うにな った が ,娘達 はなお父方祖父 母の許 に止 ま った.

その後 ,母 が実家 か ら独立 して家 を借 り, ク、 し摂 りに母子全体が揃 っての生活が始 ま っ J / ‑● ̲

当初 は暮 しも比較的楽 で あ ったが ,次第 に 経済 的 に困難 とな り,父方 ・母方 か ら経済 的 な援助 を受 けて生活 す るよ うにな った.

ところが ,昭和 29 年頃 よ り母 は,隣村 の 1 0 才 も年下 の男性 と親 し くな った .

この男 は次第 に,酒 を飲 んでは母 の所 に泊 り込み,同室 に寝 てい る長男の側 で性的 な行 為を行 ない,乱暴 を し た り,二階 に寝 てい る 娘達 の部屋 に入 りこんでは性的 な悪 戯 を した り,暴力 を振 る って母 と口論 を繰 り返 す こと もしば しばで あ った.

こ うした乱脈 な家庭 の状態 は村 中に知れわ た る ところ とな り,村 人や級友 か ら陰 口 とし て噂 され ることは勿論 ,面 と向か って非難 の 言葉 を浴びせ られ ,子供達 は 男 が 家 に 来 る と,激 しい不安感情 と,母 に対す る強 い嫌悪 と憎 しみの湿 りあ った気分 にな った らしい.

母 とその男 との関係は約 2 年 間続 き,その 男の結婚 に よ り終止 符が うたれた.

しか し,昭和 31 年初 め,男 の結婚式 に母が

錯乱状態 で聞入 し,同席者 の強 い非難 を浴び

た と い う.

(3)

4 0 ‑ なお,恩者達 は面 と向か って母 を非難 す る こともな く,姉妹弟 同志 で もお互 いにそれに つ いての話 し合 い を避 けていた らしい.

昭和31 年春頃 か ら同胞 4 人 ともほほ相前後 して発病 してい る.

症 例

長女 .34才 .発病時短大学生。

性格傾向 :内気 ,無 口で 社 交 性 に 乏 し い が ,空想的 な一面 も強 か った .

発病及び経過 : 21 才時 ( 昭和31 年)春頃 よ り ( 短大 2 年時), 何 とな く物思 いに沈みが ちにな った. この頃 よ り短大の教師 の態度 ・ 視線が ,すべ て 自分 を中心 に して動 くよ うに 思 われ , 自分 に好意 を寄せ て い る よ うに 感 じ, 先 生 の こ とはか り空想す るよ うにな っ

た .

しか し,特 に行動上 の破轟封よみ られず卒業 し た .

こ うした被 愛感情 はその 後 も持 続 して い た.‑年後 よ り中学校 の英語教 師 として勤務 した .勤務後 間 もな く,同僚 の男性教師 の何 気 ない行動が ,何か意味 あ り気 で, 自分 に好 意 を寄せてい るのではないか と考 え るよ うに な り, 自分 もその先生が好 きにな った .

しか し,その感情 を打 ちあけ ることは しな か っ た ,

4 月の新学期 にな り,今 まで只一人 の 女教 師で あ った患者 の外 に,新 任の女教師が赴任 して きた.それ以来 ,その女教 師 に 自分 の好 きな先生 を奪 われて しまいそ うな気が して , 次第 に活気が失 なわれて しま った.食事 を し て も誰 かに食べ させ られてい るよ うな気がす る.先生 を見 ると副食物 に見 えて食べ て しま いた くな る. 自分が 自分 で な くな っ た よ う だ.景色 をみて も何 も感 じない.食べ ること はか りに気持 が集 中 して授業 もす る気力が な

くな り,母 と共 に来院入院 した.

来 院時 の症状 としては,作為体験 ・離人体 験 ・被愛妄想 ・食事 に関す る訴 えが 中心 に認 め られた.

入 院後 , I S T を 2 6 回,その他 , 薬 物 療法 を行 ない,ほぼ寛解状態 で 3 か月後 に退院 し

た .

しか し2 か月後 に再び,離人体験 ,注察 ・ 関係妄想 ,幻聴 ,異性 に関す る強迫観念がみ

られ るよ うにな り再入院 した.

再入院後 は,各種の向精神薬 による薬物療 法 ,ES T,I S T ,作業療法が行 な わ れ た が , 人格水準 の低下 は高度で あ った.

入院 5 年 に して,ほほ社会的 寛解状態 に達 して退院 した.

退院後 も,症状 は不安定 で,感情 の動揺 も 大 き く,向精神薬 の投与 に よ って,入院 には 至 っていないが,簡単 な家事程度 の仕事 を行 な ってい るのみで ,完全 な社会生活 には耐 え 得 ない状態 が続 いてい る.

次女 .33 才 .無職 .

性格傾 向 :非常 に内気 で 無 口, 友 人 もな く,孤独で あるが ,短気 で無頓着 な傾 向 もみ られた.

既往歴 :軽度 の難聴 が幼 少 時 よ りみ られ

た ,

発育及び経過 : 2 0 才春 ( 昭 和 31 年) 頃 よ り,急激 に抑 うつ ・嫌人的 とな り,母 に会 い たが らず ,男がつ きま と っ て 困 る と言 いだ し,某病院 で電撃療法 を一 回受け ,その後 は 大体病前 に回復 した .同年秋 には 自分か ら働 らきに行 くとい って上京 し,女 中 ・女工 な ど の職 を転 々 としたが,電車の定期 券の不正 を 発見 され 罰金 を科せ られ た . こ の 事 件 の直 級 , 自殺 を図 ったが救命 されて帰郷 した.

帰郷後 間 もな く,睡 眠障害 ,拒食 ,人 のい ない所 に行 きたい,何か家 の内に変 な雰囲気 が ある,何か起 きそ うだ と言 って俳個す るよ

うにな った .

来 院時 ,衛 奇的 な姿態 を示 し,時 に児 戯的 な振舞 い もみ られ ,母 に殺 され る とい った被 害的内容 の幻聴 ・妄想 ・作為体験 な どが主 に 認め られた.

入 院後 , ES T,I S T ,薬 物 療 法 を強 力 に

(4)

実施 し ,1 0 か月後 に軽度 の不 関状態 を残 して 退 院 した.

しか し‑ か 月後 ,母 に殺 され る とい う妄想

・幻聴 を主 症状 として再入 院 した .

再入 院後 は ,急速 に荒療状態 に転 落 し,塗 力 な各種治療 に抵抗 し,高度 の無為 ・自閉 を 示 し,時 に刺激 的 で興 奮状態 とな り,昭和 3 5 年 には Lo bot o mi e が実施 され ,昭和 4 4 年現 在 も入院 中で あ る.

3 女 .事 務 員 .30才 .

性格 傾 向 :無 口 ・孤独 で友人 も少 な く心配 性 な方 で あ る.

発病 及 び経過 : 1 7 才時 ( 昭和 31 年 )春頃 か ら,高校 の先生 の視線 が気 にな り,先 生 が 自 分 を変 な 目で見 てい る,また 自分 も先生 を変 な 目つ きで見返 してい るのでは ないか と考 え るよ うにな り, この こ とが頭 の 中 を占領 して 他 の事 は考 え られず ,特 に男 の先生 の視線が 強 く意識 され た. こ うした強迫観 念 ・注察念 膚は次第 に増強 して,バ スの 中の人 々や ,道 で出会 う人 々にまでひ ろが り,人 前に出 るの が ひ ど く苦痛 に な り,母 と共 に来 院 した .

当時 ,幻 覚 ・妄想 な どは認 め られ なか った が ,視 線 につ いての強迫観 念 ・注察念膚 が強

く認 め られ ,不安感情 も高度 で あ った . 強迫神経 症 の診 断 の下 に精神療 法 ・薬 物療 法が行 なわれたが軽快 せず ,J L的接触 も充分 得 られ なか ったため, ES T4 回 , I S T2 9 回 施 行 し,寛解状態 に達 し退 院 した .

その後 ,現 在 まで特 に著 変 な く,社 会的 に も充分適 応 した状態が続 いてい る.

なお ,前記 3 症例 はすべ て ,全 経過 を通 じ て ,発病 前 の葛 藤状況 につ いて 自 ら語 った こ

とはなか った .

長男 .大学生 .昭和 36 年 自殺 ( 当時 2 0 才).

本 症例 は,著 者が主治 医 として治療 を担 当 した .

性格傾 向 :非常 に明朗 で, 交 友 関 係 も多 く,大胆 な こ とをす る方 で あ った .

既往歴 :軽度 の内耳性難聴 が あ った . 発病及 び経過 :昭和 31 年春頃 よ り,次第 に 無 口 とな り,人嫌 い の傾 向が強 ま り,今 まで の明 るい性格 とは全 く正反 対 に,暗 い感 じを うけ る ことが多 くな った. これ と同時 に難 聴 に対す る劣等感 が増 強 し,誰 か と一緒 にい る と相手 の視線 が強 く意識 され ,憂 うつ な気分 にな る と洩 らす ことが時 々見 られ ,母親 もそ の気性 の変化 に驚 くほ どで あ った .

しか し, こ うした状態 は特 に増悪 す る こと もな く数年 間持続 した .

大学入学後 間 もな く,新 しい環境 ,新 しい 級 友 に馴染 めず,大 きな教 室 で講義 も聞 き と り難 い こ とが多 く,種 々思 い 悩む よ うにな っ た.

この頃 よ り,他人 の視線 が 自分 に向け られ る と, 自分 の劣 ってい る こ とが みすか され は しないか と心配 にな り,特 に若 く明朗 で社交 的 な女性 の視線 に会 うと,相手が 自分 に好意 を寄 せ てい るよ うな気 持 にな り,そのため 自 分 の表情 が変 わ って硬 くな り,相手 に誤解 さ れ ,気特 を傷つ け るのではないか と考 え, ま す ます視線 を合 わせ るのが苦痛 とな り, この 苦痛 を処理 で きず ,学 業 もほ とん ど手 につ か ず , 自 ら入 院 を希望 して来 院 し,入 院 した . 入 院後 も前記 の症状 は持続 し,表情 も暗 く 硬 い もので ,無 口で, 同室 の患者達 との接触 に乏 し く,常 に うつ 向 き勝 ちで,主 治 医 との 深 い心的交 流 は得 られ なか った .

各種薬 物療 法 ,ES T と並行 して支持 的 な精 神 療法 を行 な ったが 目立 った改善 は得 られ な か った .時 に多 少の軽快 状態 を示 して も持続 せ ず ,短期 間で悪 化す るとい った経過 を とっ ていた .

しか し,入 院 4 か 月 日に入 って間 もな く,

面接 中に何 の前触 れ もな く急激 に,発病前 の

激 しい葛 藤状 況 ,母 に対 す る惜 しみ ( 特 に 自

分達 を残 して函舘 に行 った こ とと,男性 との

不倫 な性 的交渉 につ いて) を,強 い感 情 とと

もに主治 医 に語 り,その後 ,急速 に激 しい錯

乱 興奮状態 とな った.

(5)

42 ‑

しか し,毎 日の精神療法的面接 の繰返 しに よ り,状態 は急速 に改善 され , ラポ ールは一 層深 ま った.その後 ,イ ンンユ l )ン ・サ ブシ ョック療 法 を併用 し,翌年 2 月か らは,近 く の精神病 院‑規則正 し く作業療法 に通院で き るほ どに改善 された. この頃 ,対人 関係 に多 少の問題 は認 め られたが ,表情 も明 る く,忠 者 間の交渉 も非常 に豊 かにな った.

また,新学期 か らは,病 院 よ りの通学 を始 めた.

この頃 ,主治 医であ った著者 の学会 出席 , その後 ,地方病 院‑ の赴任 のため に主治 医の 交 替 と続 いたため,患者 との面接 は長期 間行 なわれ なか った. このため復学後 の患者 の心 の動 きにつ いては知 ることが で きなか った.

新学期 が始 ま って 1 か月後 の 5 月初 旬 ,莱 局 よ り買 い求 めた眠 剤 に よ る 自殺 企 図 が あ

り, このため死亡 した . 長女 についての考察

長女 は妹弟 の 中で最 も父 に愛 され ,父 に対 して強 い愛着 と尊敬 の感情 を抱 いていた.母 との不本意 な別離 と母 の性 的 なふ しだ らさに 対 しての強 い憎悪感 は,一層父 に対す る愛情 と憧憶 を強 めた もよ うであ る.短大 の教 師 に 対す る,被 愛感情 ・恋愛感情 は,その教師 が 父 に似 ていた とい う患者 の言葉 か らして も, 人生 の比較的早期 に失 った父 に対す る感情 の

"置 き変 え 〝 とみ る ことが で きるであろ う.

その後 ,田舎 の 中学校 の英語 教師 として教 壇 に立つ よ うにな り,非社交的 ・内気 な患者 は一層強 く,女性独 りとい うことを意識 し始 め,庇護者的愛 を一身 に注 いで くれ る新 ら し い父代理 としての可能性 を男性教 師 の中に見 出 した もの と考 え られ る.

しか し,新 任 の女教 師の出現 は,か って父 を不慮 の事故 で失 った記憶 を呼 び醒 し,かつ 父代理 とな った愛情 の対象 で あ る,男性教 師 を奪 われ は しないか とい う強 い不安感 ・被害 念慮 を増強せ しめ, この強烈 な不安 ・緊張感 は一層 自我 の衰弱 を惹起 し,離人感 ・作為体

験 ‑ と症状 を進展せ しめ,父 代理 を食物 とし て摂取す る とい う願望 体験 に よ り,父親 ・男 性教 師 を同一化 ・一体化 して他者 か らの脅威 を免がれ よ うとした もの と思 われ る.

次女 についての考察

本症例 の 20 才時 の症状す なわち,母に会 い たが らない こと,男 につ きま とわれて困 るな どは,母 と関係の あ った男 に しば しば寝 室 を 覗 かれた とい う事実が あ り,また患者が この 記憶 に強 い不安 を示 してお り,病 的状態が こ れ らの出来事 と連続 して起 こってい る ことか

ら直接理解 で きる もので あろ う.

また, こ うした事実 と連続 的 に起 こって き た精神病状態 で あ ったため と,複雑 な心理機 制 を欠 いたが故 に,短期 間の治療 で軽快 した

もの と考 え られ る.

20 才秋 に 自分か ら上京 し,女 中 ・女工 な ど の職 を転 々 としたが , これ らの職業 は,彼女 の性格 か ら考 えて も無 理 な もので あ った.

その上 ,難聴 が彼女 の生活 に一層強 い緊張 を強 いた もの と思 われ る.

こ うした緊張状態 は,定期 券の不正使用 の 発覚 とい う事件 を契機 に して一挙 に破局 に達 し, 自殺 とい う行動 に追 い こまれ た もの と考 え られ る.

治療 に よ り,一旦 回復 に向か ったかに思 わ れた彼女 の 自我 は,不馴 れな環境 におけ る職 業従事 ,不正行為 の発覚 , 自殺企 図 とい った 一連 ので き ごとに よ り,再 び解体 の道 を歩 み 出 した.

その上 ,帰郷 した家 においては,彼女 に と って発病 の直接的契機 とな った母 との同居 生 活が待 っていた.

こ うした不安状況 に さ らされた生活状況 に

あ っては,最 も単純 な抑圧 は失敗 して,母へ

の・ 激 しい憎悪 ・攻撃感情 を投射 して,母 に殺

され る とい った被害 的 な妄想世界 に退行す る

以外 に,彼女 の衰弱 しきった 自我 を防衛す る

手 段が なか ったのではなかろ うか と考 え られ

る.す なわち,彼女 の実在 は ," 病 め る実在

(6)

としての妄想可能 の現 出で あ った もの と思 わ れ る.

三女 についての考察

深刻 で,強烈 な母 に対す る非難 ・憎悪 の感 情 を直接表現 で きなか った患者 は,激 しい攻 撃性 を抑圧 しよ うとしたが ,抑圧 に失敗 し, この病的 な努力に費 された大 きなエネル ギ ー の消耗 に よ り,彼女 の 自我 は衰弱 し,母‑の 憎悪 の反動 として父に向け られた愛情 は,一 層増強 され ,父が教職 にあ った とい うことか ら,学校 とい う場 で破綻 し,教師 の まなざ し は,母 を批難 す る父親 の まな ざ しと変 り,そ れ を自己への非難 として受けいれ ざるを得 な い状況 に追 い こまれた ものであ り,次 いで, この非難 の まなざ しは.周 囲 の 人 々 に 拡 散 し,視線 に対す る恐怖 ,すなわち, 自己 と同 一視 した母 の性的 なふ しだ らさに対す る非難 を意味す る視線恐怖 とな って出現 した もの と 思われ る,

長 男 に対 す る考察

本症例 は軽度 の難聴 を有 し,学校友達や村 人か ら面 と向か って母 の性 的 なふ しだ らさに つ いて非難 された ことが多か った事実か ら, 明朗 で あ った患者が ,急激 に引 っ込み思案 に な り,荘察念慮 ・敏感傾 向 を増大 させ た こと は充分理解 で きるもので ある.

また ,若 い女性 の視線が , 自分 に向け られ ると, 自分が愛 されてい るのではないか とい う被愛感情 と同時 に,相手 を傷つ けは しない か とい う強迫的 な感情が出現 したが , これは 長期 間母 と離 れて生活 していたために,何時 も母 に側 にいて もらいたい と考 えた願望 の一 方 で,待 ち望 んだ母 との同居生活が実現 した 後 に起 こった母 の乱脈 な性生活 ,母 の情夫 に よる暴力行為 な どに よ り,母 に対す る激 しい 愛着 と憎悪感 との矛盾 した心的葛藤 に よって 生 じた もの と考 え られ る.

す なわ ち,母に対す る深 い愛着 と憎悪感 の 混 入 し た複 雑 な 感情 ( 両価感情)が投射 さ

れ ,特 に母 と性格 の似た,明朗 で社交的 な女 性 に対す る被 愛感情 と同時 に相手 を傷つ けは しないか とい う強迫感情 の両価的 な感情 にな って出現 した もの と考 え られ る.

総括及び結論

以上 を総括 してみ る と. これ ら 4 人 の患者 は,幼 少時 に父 を 自殺 とも考 え られ る不慮 の 事故 で失 い,母 との長期 間に亘 る別居生活 を 送 り.待 ち望 んだ母 との生活 に入 った後 ,母 の性的不倫 の生活 と相手 の男性 の無法 な行為 に悩 み ,その男性 の結婚式 に母が取 り乱 して 聞入 し,周 囲の人 々か ら強 い非難 を浴び ると い った大 きな心的外傷 を体験 し,その後 間 も な く,ほほ時期 を同 じ くして,いずれ も病 的 状態 を現 出 した とい う比較的稀 有 な症例 で あ

る.

さて, これ ら4症例 の診 断につ いて個 々に 述 べてみ よ う.

長女 ・次女 の 2 症例 は,症状 ・経過 ・現在 の状態像 か ら考察 して,精神分裂病 とす る こ

とには特 に異論 はない と思 われ る.

また,長男 は発病 5 年 に して 自殺す ること に よ って 自らの生 を絶 った. この間の経過 ・ 症状 は,典型的 な分裂病 とはいい難 い ものを 含 んでい る. しか し,分裂病 に特有 な接触 の 悪 さ,心 因の明確化 した後 に までみ られた症 状の根深 さ,死後発見 された 日記 中に示 され た対人 関係 の高度 の硬直化 , (この症例 につ いては, 日記 を中心 として別 の機会 に再 び発 表す る予定 で ある), 性格 の変化 な どか ら推 定 して ,分裂病 とす るのが一番妥 当の よ うに 思 われ る.ただ,基礎性格がむ しろ循環気質 に近 か ったために,状態像が不純化 した もの

とも思われ る.

三女 は,経過及び発病十数年 を経 た現在 に

おいて も,人格欠損 は見 られず ,社会適応 も

充分 な ことか ら心 因反応 とみ なす こともで き

るで あろ うが ,本症例 が発病直後 に,他症例

よ り最 も早 く治療が加 え られた事実 か ら考 え

て,経過 ・予後 の良好 な分裂病 で あ った と考

(7)

44 ‑ 布

え ることがで きよ う.

次 に, これ らの症例 の発病がほ とん ど同時 期 で あ った ことか ら,感応性 の精神病 の可能 性 を考 え ることもで きよ うが , これ らの 4 人 の患者の間には,強 い心的交流 ,依存 関係 は 認 め られず,特 に長女 と次女 は きわめて仲が 悪 く,終始反 擬 しあ っていた事実 と,前述 し た経過 ・予後 の点及び,三女 ・次女 を除 いた 他 の 2 例 は,症状が比較的 ,主観 的段階 に止 ま っていた期 間が長 く,行動 の異常性 に気付 かれ たのは,発病後数年 を経 た後 で あ った こ とな どか らも否定 し得 るもので あ る.

次 に, 4 症例 の症状 ,特 にその妄想 ・強迫 観念 につ いて考察 してみたい.

これ ら症例 において , きわめて特徴的 と思 われ る事実 は,一貫 して女子患者 においては 男か らの被 愛感情 ・注察 ・関係妄想 が 中心 を な し,男子患者 にお いては女性 か らの注察 ・ 関係妄想 ・罪業念慮様 の強迫観念が 中心 をな

してい ることで あ る.

これ らの症状 か ら性 的 な色彩 の きわめて濃 厚 な妄想 ・強迫観念 と考 え ることが可能 で あ ろ う. しか もこれ らの妄想 ・強迫観 念 は,幼 少時か らの両親 に対す る人 間関係及び生活環 境 に強 く影響 されてお り,彼等 の心的葛藤状 況 と密接 な関連 の上 で形成 された もので あ る

ことは明 らかで あ る.

すなわち,次女 では,男 につ きま とわれて 困 る,母 に殺 され る,家 に何 か変 な雰 囲気 が あ るな どの訴 えがそれで あ り,長男 において は,母 に対す る両価感情 の表現 で あ る被愛妄 想 ・罪業念慮様 の強迫観念で あ り,長女 にお け る父代理 としての男性教 師 に対す る被愛妄 想 ・食入 思考 で あ り,三女 におけ る教師か ら の注察念慮 で あ る.

特 に長男 は,母 を こ面会 す るた

に病状が悪 化 したのに反 して,発病前 の心的葛藤状況 を 面接 中に主治 医に語 った後 ,急激 に錯乱 ・興 奮状態 を呈 したが ,その後 の精神療法 に よ り 急速 に病状 の好転が もた らされ,接触 も深 ま り,母 と相手 の男性 の ことを平静 に話 し合 え

るよ うにな った.その際 ,母 が可愛想 にな っ て きた と述べ るな ど,一見 きわめて安定 した 精神状態が得 られた事実 か ら考 えて も, これ らの症状 におけ る心的葛藤 ,生活史の もつ意 味 は明瞭 で あろ う.

翻 って,分裂病妄想 の成立機制 に関す る理 論 をみ るとき,分裂病 その ものの本態 に関す る理解 の仕方 に よ ってそれぞれ異 な り,それ らの見解 もきわめて複雑 多岐 で,そのいずれ が真で あ るかは現在 の と こ ろ 全 く不 明 で あ り,混沌 としてい る とい うことがで きよ う.

しか し,著 者 は前述 の 4 症例 の考察,特 に 長男例 の精神療法過程 の病像変化 を通 じて, 分裂病妄想が ,その人格 に とって全 く異質 で 了解不能 な観念 ・思考 で あ って , 不 可解 な

" 病的過程

に よってのみ生 ず る ものではな く,む しろ患者 の生活史 の深 い理解 に よ って その成立機転 を明 らかに し得 る場 合が 少な く ない ことを知 り得 た と考 えてい る.

御校閲下さった,佐藤時治郎教授に深 く感謝致し ます.また.症例について種々御助言下さった,元 教浮,山村道雄先生に深 く感謝致します.

参 考 文 献

1)BI NSWANGER ,L∴ 新海,宮本,木村訳 : 精神分裂病.みすず書房, 1 9 61.

2) 井村,懸田,島崎.村上編 :異常心理学講座 1 0 巻.みすず書房 ,1 9 65.

3) 猪瀬,台,島崎編 :精神分裂病.医学書院, 1 9 66.

4)JASPERS ,K.: Al l gemei nePs yc hopa t hol 0‑

gi e,6.Auf l. ,Ber l i n. ,1 9 53.

5) KoLLE , K∴ 久保,塩崎訳 :精神医学におけ る人間像.文光堂 ,1 9 65.

6)MI NKOWSKI ,E. :村上,野沢訳 :精神分裂 柄.弘文堂 ,1 9 46.

7) 三浦岱栄監修 :精神療法の理論と実際.医学 書院 ,1 9 65.

8) 宮本忠雄 :精神分裂病の世界,紀伊国屋新 i ,1 %6.

9) 村上,蒲田編 :精神医学.医学書院 ,1 96 3.

1 0) 中修三編 :精神分裂病.医学書院 ,1 9 59.

ll) 西九四万 :病める心の記録. 中央公論社, 1 9 6 8.

1 2) 小川信男 :分裂南 L , 性の研究.離人症 と両面 性の問題をめ ぐって.精神経誌 ,63,62‑ 91,1 9 64.

1 3) 荻野恒‑ :精神病理学入門.誠信書房 ,1 9 64.

(8)

14) ScHNEI DER , K∴ 平井,鹿子木訳 :今 日の 1 5) SECHEHAYE ,M.A ∴ 村上 ・平野訳 :分裂 精神医学.1 9 6 1 . 病の少女の手記.みすず書房 ,1 9 5 5.

AN APPROACH TO THE SCHI ZOPHRENI C PartIV. Di s c us s L ‑ on o f del us z l oni n 4 s c h2 ' 之O Phr eni cs 2 ' bl i ngs

By KI YOKAZU FusE

De par t me 7 Z tO fNe ur o ps yc hi at r y,Hi r o s ak iUni ve r s i t y Sc hoo lo fMe di c i ne ,Hi r o S aki( Di r e c t orIPr o f .T.SATO)

Theaut hordi s cus s edt hef ami l i als i t uat i onandps ychodynami ci n4s chi z ophr eni c s i bl i ngs.

I nchi l dhood,t heyl os tt hei rf at herbecaus eofhi spr es umabl esui ci de,and s oon t her eaf t ert heywer es epar at edf r om t hei rmot her .I nadol es c ence,t heys t ar t edt ol i ve t oget herwi t ht hei rmot herwhowass exual l ypr omi s cuous.

Fol l owi ngaps ychi ct r aumaduet ot hei rmot her ' svi ol enceatt hemar r i agec er e‑

monyofherboyf r i end,t heybecamedel us i ona l . Concl us i onsdr awnbyt heaut hor:

1. Del us i on i n s chi z ophr eni a i snotanexpr es s i on ofut t er l y abnor malandun‑

under s t andabl ei deasandt hough t . Rat herde vel opme nt almechani s m oft hi sdel us i on canf r equent l y beel uci dat ed i nnotaf ew cas esby deep i ns i ghti nt o t he l i f e oft he pat i ent .

2. Thedel us i onoft heo】 des tbr ot herwasanexpr e s s i on ofhi sambi val entf eeレ i ng di r ect ed t o hi smot he r . Thos e oft he ot her3S i s t er swer e under s t oodasbei ng r el at edt ot hei rmot her ,t hei renvi r onmentandt he i remot i onalc onf li ct s.

3. Bet weent he s es i bl i ngs ,t her ewer ewi dedi f f er encesi ns ympt omsandpr ogno‑

s i s. They de pended on t he pr emor bi d per s onal i t y,at t i t ude t owar dpar ent sand t he t i meofi ni t i alt r eat men t .

( Aut oabs t r act )

参照

関連したドキュメント

• 自動溶接を行う場合、「金属アーク溶接等作 業」には、自動溶接機による溶接中に溶接機

[r]

1)Ishiyama K, et al : Polyclonal hematopoiesis maintained in patients with bone marrow failure harboring a minor population of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria- type cells. Br

ときには幾分活性の低下を逞延させ得る点から 酵素活性の落下と菌体成分の細胞外への流出と

(注妬)精神分裂病の特有の経過型で、病勢憎悪、病勢推進と訳されている。つまり多くの場合、分裂病の経過は病が完全に治癒せずして、病状が悪化するため、この用語が用いられている。(参考『新版精神医

Series of numerical analysis to estimate structural frequency and modal damping were conducted for a two-dof model using the simulated external forces induced by impulse force and

危険有害性の要約 GHS分類 分類 物質又は混合物の分類 急性毒性 経口 急性毒性 急性毒性-吸入 吸入 粉じん 粉じん/ミスト ミスト 皮膚腐食性

先に述べたように、このような実体の概念の 捉え方、および物体の持つ第一次性質、第二次