弘 前 医 学 第
1 1
巻 第2
号精神科領域 にお け る大量 ア トロピン療 法
(At r o pi neTo xi c i t yThe r a py)
の治療経験堀 寵 昭 次
HORI GOME‑ SHOJI
弘前大学医学部精神医学教室 (主任 和田豊治 教授)
( 4. 7. 1 9 5 9
受附)‑ 強引l
Il ' l
r:1 9 3 8
年にDoNNADI EU
がVagot o ni a
を伴 っ た緊張病 の患者 にAt r o pi ne
を授 与 した とこ ろ,それが寛解 に至 った例を報告 した ことが あ る. これは本刑が精神疾患 に対 して何 らか の治療 的効果 を もた らす ことを示唆 した もの2)‑
6 )
で あるが ,これに着 目 したFoRRER
は1 9 49
年 以来,精神病 に対す るAt r o pi l l e
の効果 を種 々追究 し,遂 にt t At ropi neTo xi ci t yTher ‑
*
apy "
とい う新 しい身体療 法 を提 唱す るに至 7) ,
9)
8) った. こ れ に 続 い て10)MI l
lLLER,GRI ) SELL
,GoLDNER
及 びScHWARZ
ら も本療 法 を追究し,それぞれの立場か ら検討 した.本療 法即 ち
A. T.T.
はAt r o pi nes ul phat el mg.
とい った程度の従来 の使用量 ではな く,1日 1回 約3 0‑2 00mg
の大量 を筋肉内注射 し,遇1‑3
回の割合で,4‑1 0
週間 くりか えす療 法で あ る. この よ うな大量注射時には,被検者 は注 射后 間 もな く意識 が次 第に個濁 し,不穏 ・興 奮 ・錯乱 を呈す る場合 もあ るが,概 して昏迷 及 び昏睡状態 に陥 る.然 しそれに対 して何 ら 特殊 な処 置を講 じな くて も,注射后3‑ 9
時 間 を経 ると, やが て 自然 に覚醒す る.換言す れば一過性 の中毒状態 をひ き起す と も言 うべ き治療 法で あ る.適応 と し て はt ens i o nal st at e
を示 す精神障害一般が あげ られ る. し か も精神病理学 的にはegost r uct ur e
が比較 的i nt act
で あ る ものによ り有効で, うつ病 には効果が少 ない とい う.それ は そ れ と して,本療 法 は
I ns ul i n‑ s ho ck
療 法 に比 して操 作が簡易 ・単純, 且つ安全 で あるとForr er
らは結論 してい る.
然 しなが ら,
Forr er
自身 も最 近述べ て い る如 く,本療 法 は現在 なお完全 に確立 され た 治療 法で あ るとは言 えず,従 って幾 多の改善 乃至 は研究 を要す る分野 を含 む もの と我 々に も感 じられ た.そ こで我 々は一昨年夏以来 , 本療 法 を種 々の角度 よ り追究 ・検 討 し て き た.本邦 に於 いては末だA.T.T.
の報 告 が 見 当 らない ことで もあ るので,
われわれの追 試経験 の あ らま しを報告 し,併せてA.T.T.
知見 の補遺 をはか りたい.
被検者並びに投 与法
A.T. T.
を施行 した被検者 の うち, これか らふれ るのは患者 男2 9
・女2 2
の計51
例 と,正 常 人2
例の所見 で ある. これ をま とめてみ ると第
1‑ 6
表 の通 りで ある.疾患別にみ た第
1
表 中,3 9
例 を占め る精 神 分裂病では病型及 び曜病期 間のみでな く,柄 像の特徴 に重点 をおいて,新鮮 ・中間 ・荒境 の 3群 に分類 してみ た.即 ち新鮮例は症状の 発現 よ り本療 法開始迄 の期 間が大 体数 カ月以 内の もので,精神分裂病 に特有な不安感及 び それに密接 な関係 を有す る所謂分裂病怪異常 体験 を もつ例で ある.荒噴例 は数年以上 を経 過 して人格の荒境 の著明な ものを さす.中間*大量 ア トロピ ン療 法 と訳 したが,Par
ki ns oni s m
に対 す る従来 のア トロピ ン療法 と区別す るた めに, 本稿 で は以後t t A.T.T. '
'と略記 す ることにす る.358 ‑
第
1
表 :被 換例 の疾患 別分類 とA. T. T.
の 効果成績病 名
≠
+精 分 新 鮮
3 4 2
堰
計
神 病 荒 贋
1 1 1 1 2 ‑
つ つ 病 ‑ 1 1 2
神 経 質 : ‑
1 ; 1
精 神 病 質
‑ 1 1
計
9 1 9 23 51
例 には,一応急性期 を経 たが ,なお時 に不安 感及び分 裂病性 異常体験 も残存 し, しか も人 格 の荒癖が著明でない ものが属す る.被検者 を年令別 にみ ると
,1 6
才 よ り35
才迄 の ものが多 く (第2表参照),最低年令者 は13第
2
表 :被険例 の年令分布男 女
15
才 以 下1 1
16 ノ ー 20
才5 6 21 ノ ー 25
才 .6 6
計
26 ノ ー 30
才6 3
31 ノ ー 35
才4 5
936 ノ ー 40
才 21 3
41 ノ ー 50
才 13 4
51
才 以 上 ;1 1
計
1 29 22 51
才 で最高59才で ある.第 3表で も分 る通 り魔 病期 間1年以上経過 した ものが約半数以 上を 占め,従 って本墳 法施行以 前に 電 撃 療 法 ・
I ns ul i n‑ s ho ck
療法・Lobot omy
及 びTra‑
T 7 qui l i z er
な どの治療 を うげ, しか もそ れ ら の療法 が効 を奏 さなか った例 も多数含 まれて い る (第 4
表参 照).請
第
3
表 :披険 者の躍病期間と そ の 立 場 か ら み た
A.T.T.効 果 (
但し( ) は 分 裂 病 者 数 )
≠
+
±計
】 L
6カ月一
1年̀
3 (2) 2( 1 ) 3
(3 ) 8 ( 6)
3 ‑ 5
年 ‑ 1 (1)
: 5 (5)6( 6 )
5年
以
上 1 2 (1) 7 (6)10
(7)第
4
表 :使 用前 並 びに併 用療法 別にみ たA. T. T.
効果≠ :+
±
計電 撃 療 法
使 用前
7(5)1 9( 1 6) . L 1 8(1 6)44( 37)
併 用1
(l)2
(1) :3( 2 )6( 4 ) I ns u】 i n一
使 用前‑ 7( 6)1 2(1 2). 1 9(1 8
) 療 法 併 用11 (1) 2 (2)‑ 3
(3
) Chlorpro‑ 使用前16 ( 5)1 0( 6)1 2( 10)28( 21)
使 用前 !
‑ 7( 3) 7 ( 7日 4( 1 0)
Res er pl ne
併 用
弓 ‑ 1( 1 ) 3( 3).4( 4)
本療 法の施行に先 きだち, まず 肺 ・心 ・肝 ・ 腎及び血液 な どの異常所見 の存在 を確か め' 胸部 レ線写真 ・心電 図 ・血液像 ・肝機能 検査 及 び尿検査 な ど も行 い,万 全 を期 した. ま た 中耳炎及 び鼻 炎な どの慢性疾患 は本療 法 に悪
3)
化す る憤向が あ るとい う報告が あ るので.そ の ため特 に耳鼻 科に税著 し,異常のない もの にだけ施行 した.
施行 当 日は,軽 い朝食の摂 取后約1時 間 目 に
At r opi nes ul phat e
を筋注 , 初期量 は当 初1 0mg
よ り始 めたが,后 述す る如 く何 ら重 篤 な副作用がみ られ なか った ことか ら,以后 は30‑40mg
とした.女子 ・老年者及び 年少精神科領域 におけ る大量 ア トロピン療法 (
At r opi neToxi ci t y Ther apy)の治療経験
‑35 9
者は梢低量 よ り始 めた ことは言 う ま で も な い.そ してその時 もた らされ る意識澗濁な ど の症状及 び経過な どを観察 して,大 体
1 0‑2 0 mg
づつ漸増 ま たは漸減 し,隔 日お きに週3
回,大 体3‑ 7
週間施行 した.At r o pi l l eS u l p hat e
の濃度 については,実 験 当初 においては1 cc0. 5mg
含 有の もの を使 用 したが,1 cc5‑5 0mg
含有の もので も大差 がないので,以后は后者 を使用 した.その他 の処置 と しては,瞳孔 散大 に対 して
1 % Es eri r ) e
眼軟膏 を,At r o pi n e
注射時 に , それ以後 よ り注射后3
時間 まで は約3 0
分お き に,最 后には覚醒状態‑ の移行時に,それぞ れ塗布 した. 口唇 の乾燥 に対 しては適時 に棚 砂グ リセ リンを塗 布 した.また覚裡状態 に入 って も頭重 感 ・倦怠感な どを訴 える ものには ソフ ト・ク リームな どを投 与 した.覚醒 せ し め る際 の処 置 としては, 1)高張Gl u cos e・
vi t ami n
剤・Met hi o ni n
,2) Per es t o n‑ N
な どの解毒剤,j)Ac et yl chol i n,4)Vagos ‑ t i gmi n
な どを併用 した.治療時に掛 ナる一般的経過
本邦文献上
At r opi r ) e
を比較 的多量使用 し た ものに脳外傷及 びPar a 2 t 0 hi
/o ne
中毒の治験 韻告が あ る. 例 えば高 山 らは脳列傷21)に対 して1
日5mg
の分割注射法,また平 木 らはPar a・
t hi o n e
中毒に1
日2 5mg
程度 を使用 して も差 支 えなか った とい う.然 しなが ら本剤 は衆知 の如 く各種 の副作用 を有 し, しか も本 A.T・T.
は従来 の使 用量 をは るかに上廻 る量 を一 時 に大量注射 す るので,我 々は予 め便 局員 を 種 々検討 した上で治療 を続行 した. もちろん 治療 によ って種 々難多な臨床症状 が 発 来 す る.それ を列記 す る前にまづ症 例 をあげて具 体的に記載 してみ よ う.症 例は女
,1 5
才,精神 々経症 (強迫神経症) で,身長1 5 9cm
・・体重4 3 kg
であ る.第
1
日.At r opi nes ul p hat el Omg
注射1 5
分 后頃 よ り瞳孔散大,皮 膚粘膜の乾燥,晩晴 数増加,及び一時的な悪心 ・唱吐 を数回訴 え,20‑40mm Hg
程度 の血圧克進及 び睡 反射 の 克進が認 め られ た.それ と共 に 「考 えが ま と ま らない し,浮かばない」 ・ 「舌が もつれ る よ うだ」 と多少不安 そ うに訴 えていたが,間 もな く荘然 として軽 い憤巨則夫態に入 る.時 に 不穏状態 とな る こと もあ る.か よ うな状態 は 注射后4‑ 5
時 間継続 したが,次 第に覚 理状 態 に移行 して頭重 感 ・倦怠感 を残すのみ.昼 食時 は箸 を二 ・三度 つ けたが,食慾 はな く, 夕食は再三のす ゝめで全量 を摂 乱 また睡眠 障害 は認 め られない.尚注射后1
時間,2
時 間,3
時間 目の血液 像では,中等度 の白血球 増加 とEos i l l O phyl i a
が認 め られた.第
2日.軽い視力障害及び全身 の倦怠感 を
訴 えるのみで ,署変 はない.At r o pi l l eS ul p h at e
の注射 は行 わない.第 3
日.At r o pi nes u l phat e1 5mg.
(第2
回注射).第 1
回注射時 にみ られ た身 体症状の 他に,注射后約3 0
分 よ り顔面 及び頚部の紅 潮 が 著明 とな り, 更 に37. 5c
c程度 の 体温上昇 が認 め られ た.意識障害 の程度 は前回 と殆ん ど大差がなか ったが,梢 々早 目に覚理状態 に 移行.第 5
日.At r o pi nes u l phat e2 0mg.
(第3
回注射).意識澗濁の程度 は前回 よ りも強度 と な り, 血圧 ・体温測定に対 して拒絶的態度 を とる事 も多 くな った.時 々眼を見開 き,意味 のないゝ日詞 な言二葉を連続 的に叫び,べ ・ソトの 上で反転 し, 多動的 とな る.然 し間 もな く平 穏 とな り,傾 眠状態 とな る. また鷹反射克 進 が著明で,Babi ns ki ,Chaddo ck
反射 な ど も 一時的に出現 し,四肢 の数回繰返 す撃縮運動もみ られ た.体温 上昇 や上半身の紅 潮 も認 め られ た.意識快 復は約
5
時間后 にみ られた.第
8
日.At r opi l l eS ul phat e2 5mg.
(第4
回注射).注射后約3 0
分 よ り傾 眠的 とな り,早 がて堵眠状態に入 る.四肢 の特異的な不随意 運動 や撃覇が相変 らずみ られ るよ うにな り,Babi ns ki
やChad do ck
等 の反射 も陽性 で ある.意識快 復は約6時間后.
第1 0
日.At r o pi l l eS ul phat ej 0mg.
(第5
3 6 0 ‑・
垢回注射 ). 注射時 出現 した 身体症状及び意識 障害 の程度 は前回 とは ゞ同様.
第
1
2日.At r o pi r l eS ul pha t ej5 mg.
(第6
回注射 ).時 々一過性 に昏睡 に入 る と い った 深 い堵 眠状 態 を示 す よ うにな ったが,覚 憧時 間は以前 と比べ て大差が ない.第
1 5
日.At r o pi n es u l phat e4 0mg.
(第7
回) 第1 7
日.At r o pi n es ul p hat e45 mg.
(第8
回 注射 ).両回 と も第6回注射時 と大差 な し.以上,所 見の あ らま しを述べ たが,被検者 に は勿論 個人差及び症状 の軽重 はみ られ ると は言 え,
At r o pi n es u l p hat e2 0‑4 0mg.
以内 の薬量 で も大抵 の場合 は上記 の よ うな意識個 濁 を来 す.その他 ,
At r o pi n es u l phat e
筋注時 に生ず る身休症 状 をのべ る と凡 そ次 の通 りで あ る.神経 系 :瞳孔 散大 は例外 な く認 め ら れ る が ,これ は
Es er i n e
眼軟 膏 に よ り軽快 す る.At r o pi nes u l p hat e
筋注 后には反射機能 は一 般 に克 進 し,Ba bi ns ki ,Cha d dock
な どの 病 的 反射 も被検例 中半数 以上 に出現 した. また 特 異的 な四肢 の撃縮 ・不随意運動が6例にみ られ たが,療撃 発作 まで発展 した ものは認 め られ なか った.尚Lobo t omy
施 行 例 と 非施 行 例 との問に は特 に著 明 な差異 はなか った.心臓血管系 :大抵 の例 において, 心俸 克進 及 び速脈が もた らされ る.意識潤 濁 の程度 が 進 むにつれて心俸克進 の訴 えはな くな るが) 腺縛 数 は治療 中
1
分 間1 2 0‑1 60
にまで も上昇 す る.最高 血圧に若干 の上昇 を示 す例 もあ る が ,一般 に大 きな変動 はみ られ ない.然 し最 低血 圧は多少 上昇す る傾向が認 め られ る.赤 血 球 沈降速度 は一般 に中等度 促進 を示 し, ま た血液 像で は白血球増 多Eos i ne
細胞 の減少 が み られ る.尚,血糖 値には測定誤差 以上の 著 明 な変動 は認 め られ なか った.皮 膚 :殆ん ど例外 な く著 明 に乾燥 し,熱 感 を帯 び る. また顔面 ・頚 部及 びその他 の上半 身部 の紅 潮が認 め られ た もの もあ り,時 には 紅 斑性 の発疹 をみ る.
竃
消 化器系 :一般 に 口腔内乾燥が著 明で, 口 渇感 ・悪 心及び唱牡 を訴 え る もの もあ る. こ れ らの苦訴 の 多 くは僅 少 の水 を与 えることに よ り軽快 す る.然 しこの症 状 は治療 日数が ま すにつれ て余 り訴 え られ な くな る事が 多々 あ った. 食慾 は概 して減少 し,昼 食を とろ うと しない ものが 多い.然 し夕食はす ゝめ る と摂 取す ることが 多 く,従 ってその よ うにす るの
3) が 妥当で あろ う.肝機能 障害 は
FoRRER
らの 報告 と同様 ,われわれの場合 で も特 に認 め ら れ なか った.便 通 には殆ん ど異常がみ られ な い ものが 多か ったが ,時 に一 日数回の下痢 を 生 じた もの もあ った.その他 :勝朕 の刺 戟症状 と思 われ る配意頻 数 ・排 尿困難 を訴 える もの もあ ったが ,蛋 白 及 び赤 血球 な どの異常 尿所見 は認 め られ なか3〕 った.
FoRRER
らは一時糖 尿 をみ た例 もあ る と報告 してい るが)われわれの経験 例ではそ の よ うな もの は発見 出来 なか った. ま た3 7‑
380
代の体温 上昇 をみ る もの もあ ったが , そ れ以上 に上昇す る例 は認 め られ ない. 尚つ Fo‑RRI i
k は休重減少 を重 要な所見 と して述べ て い る し,われ われの例で も一般 に休重 は減 少 す る傾 向が 多か ったが,逆 に体重 の増 加 を釆 た した例 もみ うけ られ た.最 后に,われわれ の例 で は本療 法 に よ る死亡 例が なか ったが,3. ,
6′FoRRER
は5 3
才 の白人婦人が体温 上昇 ・呼吸 麻 樺 に よ る死亡 例 を報 告,
たゞし剖検 の結果 は本療 法 に よ る もの とい うよ り, む しろ伝染 性 の疾患 に よ り死亡 した事が判 明 した とのべ てい る.従 って一般 に従来記載 され た極量 よ りも更 に大量 の2 0‑2 0 0mg
を投 与 して も, 殆ん ど生 釦 乙は危 険が なか っ た こ と は,本A. T. T.
は案夕日こ安全 な治療 法で あ ることを 示 唆 してい る と言 い得 よ う.A.T.T.の筋注時 に意識個 潤 を来 す ことは 前述 した通 りで あ る. その意識 障害 の内容 を 検討 す るため,特 に積極 的に協力 した健康成 人
2
例 に対 して施 行す る機会 を得 たので, そ の1
例についてや ゝ詳 しく記 してみ よ う.被 検者 は男子看護 人で, われ われの実験 当初 よ精神科 領域 における大 量ア トロピン療法
r At r opi neToxi ci t y Ther apy)
の治療経 験‑ 361
り被検者 の看護 に あた ってお り, その状況 に 向 を見 上 げ るよ うな 更応 だ けを示 す.
比較的 くわ しい経験 を所 有 してい た もので あ る.
正常人被検例 被検者 :須○忠○
,3 3
才,7 5 kg.
家族歴 ・既往 歴に特記 すべ き事項 な し.
性格並 びに体 型 :社交性 ・ユ ーモ アに富 む 肥満型 .
午 前
8. 00:At r opi nes ul phat ej Omg
筋注 .′/
8. 1 7:
「口の中が乾 いて きた」・「心臓 の動倭 が速 くな り始 めて きた」 な どとい う.//
8. 2 4:
「目が ち らち らす る」 「辺 りの ものが ま るで波打 つ よ うに,絶 えず揺れ動 い て見 える」 とい って悪 心 数回訴 え るが,唱虻 はない.顔面梢紅 潮 し,注射直 后 にみ られ た 緊 張感はみ られず,身体 をべ ・′トの中 に投 げ 切 って い るとい う感 じで あ る.〝
8. 32:
「身体が だ るい. 口が乾 いてい るためか ‑‑・・」 と言 って 口唇 をなめ, 「うま く喋れ ない,頭 の中に考 えが浮かぶが,速か に言 えない」 とい う.時 ・場所 に対す る見 当 識 に異常 を認 めず , ま た人物誤認 もない.//
8. 40:
「考 えが浮んで もす ぐ消 え, ま た別の考 えが浮 んで は消 え,前の考 えが想 い 出せ ない」.1 5
円×j?
(正答 ).1 5
円×6?
(正答 ).
1 5
円×12?(間 を聞 き返 すが,間 も な く正 答).欠 伸 を繰 り返 し,口渇 を訴 え,すぐ傾 眠的 とな る.
//
8 . 45:
「‑‑・・この気分 は何 と言 った ら よいか. よ くもないが I憂 うつで もない」 と い う.不安 な様 子 もな く,体 温計 を厳 竃 にい れ た事 を忘れが ち とな る.絶 えず うと うと し てい る.//
8. 5 2:
べ 、ソトで しき りに寝 返 り を う つ.//
9. 00:
問診 に対 して何 か2‑ 3
返 答す るが ,は っ き り聞 きとれ ない.次 第に惰 眠状 態 に入 る.血 r=f測定 に対 して うるさが るよ う に拒絶 的 とな る.//
9. 1 5:
大 きな声で名 を呼ぶ と,声の方′′
9. 30:
相変 らず の惰 眠状態.′′
9. 4 4:
一時 軽い昏睡 に入 る も, やが て 噴 眠状態 に もどる./
/1 0. 3 0:
強 い刺戟 に対 して僅かの 反応 を 示 す だ けで あ る./
/ l l . 0 0:
次 第 に覚醒状態 に移行 ./
/ l l. 2 0:
眼 をパ チ リと開 き,2‑
づ欠 仲 す る. しか し間 もな く寝返 りを うち,再 び入 眠./
/ l l. 43:
一人でべ・
ソトよ り起 き上 り,2‑ 3
度 辺 りを見廻 しなが ら,ペ ソ トよ りT り てふ らふ らしなが ら歩 き始 め る. 「何 処へ行く」 と再 三 問われ て 「便所 に」 と舌廻 りの悪 い声で言 うが, 出口を間違 えた りす る.介添 えで便所 に行 くが,排 尿 しない.ペ ソ トに寝 つかせ るが,再 び起 きて尿意 を訴 え る.見 当 識悪 く,腰臆状態続 く.
午后
0. 2 3
:欠伸.無為だ 然 と してい る.良 事 をす ゝめ るが ,「食べ た くない」 と断 わ り, 背中 を丸 め るよ うに して フ トンをかぶ る.〝
1. 37:
欠伸2‑ 3回.
′′
1. 41:
眼 を開 き,ぼんや りと窓 の外 を 眺 めてい る. ソフ ト・ク リームをす ゝめ ると「うまい」 と言 いなが ら食べ 終 る. 「気分 が 少 しす っき りした.何ん だか朝 に 目を覚 ま し た時 の よ うだ.気分 は‑‑.二 日酔 で もして い るみ たいだ.頭 がぼんや りして,身休 もだ る い」 とは っき り言 う.
//
2. 30:
軽度 の頭重 感 ・倦怠感 を残 すの みで, 殆ん ど覚醒状態 とな る.その后, 自己の体験 につ いて内省せ しめた が ,その あ らま しは大休次 の よ うで あ る.皮 膚清華が乾燥 し,身体全体が熱 感 を帯 びて き た ところ,間 もな く悪 心 ・心俸 冗進 ・口渇感 が 出現 し, 多少 不安 な気分 にな った.視覚 は 焦点 が合 わず ,間 もな く辺 りの風 物が波打 つ よ うに見 えて きたのは追想 出来 るが, その后 の経過 については 自覚 してお らず,完全 健忘 が み られ る. ソフ ト・ク リームを食べ たのは かすか に記憶 してい るとい う.外 の明 りが ま
3 6 2 ‑‑
堰ぶ しく,時 々部屋の電球 を青白い見 知 らぬ男 と錯覚 す る場合が あ った.然 しそれ について 特 別 に不安 ・恐怖 とい った感情 はお きなか っ
た と も述べ た.
以上の所見 で もわか る通 り
,At r o pi nes u ‑ 1 phat e2 0‑4 0mg
程度 の筋注 によ り,注射后 大体3 0
分〜 1
時間で殆ん どの例 に於 て意識澗 濁が 出現す る.然 しなが ら荒療せ る分裂病2
[列では1 8 0mg
叉は2 0 0mg
の投 与で, な氾臨 床的 に意識障害 を殆ん ど示 さ な い 例 もあ っ た.意識澗濁の外 に,術中妄想 ・錯覚 ・幻覚 及 び これ に基づ くと思 われ る異常行動がみ ら れ た場合 もあ った. これ らの症状 の中で比較 的 多 くみ られ るのは,視覚 に関す る錯覚及 び 幻 覚 で あ り, その内 容は人物 及びそれ に顎似 した ものが多い. しか も同一人にた とえ同一 量 を投 与 して も, それ によ って もた らされ る 症状 が毎回同一で あるとは限 らない.概 して 治療 回数 を重 ね,投 与量 を漸増す るに従 って 諺妄 乃至 アメンチ ア様状態 よ り単純 な意識澗第
1
図 :A. T・ T.
治案中の処置及 び経過( E
はEs er i ne
眼軟膏 )竃
濁へ と移行す るかの如 くみ られた.なお荒墳 例では一般 に反応 は多彩ではなか った.
以上述べ た
A. T. T.
時 に出現 す る身 体並 び に精神症状 及び処置を図式 化す ると,第 1図 の如 くな る.図中 ,実線で表 わ した体温の変化 は著 明な上昇 を呈す る もの と,呈 しない もの との各々の平均値 を示 した もので あ り, また 血 圧 ・晩晴の変動 も全列数の平均 値 を示 す.終 りに
A. T. T.
時の覚 醒 を透か に恢 変す る た め,われわれは種 々の薬物 を使 閏 したが, 特 別著明 に覚 醒時間を縮 小せ しめ得た ものは み られなか った.治療成績
1 )
精神分裂病群 (3,4,5
表参照)まず先 きに症 例をあげてみ よ う.
症例
A :
男,1 6
才,緊張型 (新鮮).体型 :細長型.負因 :長姉が精神分 裂病.
既往歴 には特記すべ き事項 はない.約
5
ケ 月前,中学校卒業后に商 rjjA/rこ勤務 したが,間 もな く被害並 びに関係 妄想 や幻聴が 出現 し, 多弁 ・不穏 ・多動の傾向 とな った.入 院后直 ちに電撃療法( 1 2
回) 及びChl or pr o maz i l l e
時
間
A.帆̲P. M.
7
89 1 0 11 0 1
2 3 4 5血ー
1 1 1
60 4 2
圧00 0 0
陳1 1
11 40 2 00
時600
体439 38 3
温07 I/a / ノ ‑;, j{ ■、
.二 て こ = T
1、 ‑ ‑ ‑ ト I ̲
I̲一十 ‑ .一 一2‑ ‑ 一
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8 0 80 3 6 ′ \、
̲一一↑ /′ 、 1‑7 .‑‑‑
一一‑‑‑‑‑‑‑‑/十 十処 置
芸 結 T E.….T E. E T. 雲 ヽ . ′
….享子▲ 芸椴 的 程
過 葦 萱蔓
雪
雲 芸重
責蔓
●ヽ ‑ ■ ‑ ■
要 聾 ‑ 汁
(註 ) ●
‑ 1 1 4 血 E E
=;( T) 体 温
‑‑・一 (P)陳 特(全量
5 , 2 0 0mg)
の併 岡療 法で殆ん ど改善 されず,本 療法施行直 前 には拒食及び 支離滅裂 を伴 った緊張病性 興奮が著 明で あ った.第
1
回 目 のAt r opi ne
s u l phat ej Omg
筋 注 后 約3 0
分頃 よ り意 味の とれない よ うな事 を断片 的 に言 うの みで'傾眠的 とな ったが,2
時 間泣経過す ると意識澗 濁の度 が浅 くな り, 多動的 とな った.彼検者 は他 人の 制止 を も聞かず,べ .トよ り下 り, ふ らふ らす る足 ど りで俳掴 し,理 由な く他 人 の病室 に出入 す る.午后3
時頃 に覚 醒 したが,昼食 は精神科領域.こおける大量ア トロピン療法
r At r opi neTo xi ci t yTher apy)
の治療経験‑ 3 63
勿論 ,夕食 も拒絶 ,依然 と して多動的 で不唄 .術后 第
3
日目 に 第2
回 目 注 射At r opi ne s ul phat e40mg
,第 5
日目に第3
回 目注射5 0 mg
を施 行 したが,第3
回 目の注射后 の覚硯 時 よ り不穏 ・不眠の幌向 は少 くな り,荘然 としI:顔貌 を呈 しなが ら も,食 事 を とるよ うに な る.
/
第
L 4
lFl目注射 時6 0mg
迄増量 した ところ, 始 めて浅 い昏睡 に入 り, それが脳 波上 におい て も認 め られ た (第2
図参照).以后 同量 を もL‑ F L二 C Lp L二 F R● ‑ F
R二c RLpRl ・ F M̲ V
・不穏 及び濫貫 の傾 向が 出,家 人が制 止 す る と興奮 し,暴力的 とな る. その うちに関係 ・ 誇大 ・潰依 妄想 及び幻視 がみ られ るよ うにな
り,入 院 后電 撃療 法
( 1 1
回)及びChl or pr o一 ma z i ne
(全量4, 8 0 0mg)
の併用で梢不穏 の慎 向が少 くな ったが ,依 然 と して上記症 状が残 存 していた.これ に対 して
At r opi nes ul phat e
を第1回2 5mg
,第2回j Omg
, 第 j回以后40mg
と し て,全 部 で7
回施 行 した. 第 1回 目の注射 后 被検 者 は次 第 に傾 眠的 とな り,約 1時 間 日頃・一一‑∫‑
rJ V
一一ノ‑;∴√
一や :‑ よ り恰 か も虚 空 に何 物 (○■▲い 、L
J・
̲̲、,〜一、.∫
,..1 一 . ㌔, 一
一 かが存在 し, それ をつ 第2
回 症例 A
に於けるA. T. T.
中の脳波の変化‑‑j ‑ ノ 叫 1‑1/ ‑I)
・ r
\メ. , ' ‑
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一′\√ナ、 十 ・ ・ ‑
‑:ノ ー へ‑ 、一
一 ㌧ へ.r ・̲・ か むよ うな行為 を繰 返
I
、. L/, 呼びか け ると困惑こ した顔で振 り向 くが,‑ ヽ.一∴
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ーソ 、.‑' ‑
■
ー‑ ヽ へ 、 ′ ノ
ヽ〈V〜人‑㌧ノ1‑′(I(̲r.ヽ〜"了:.. . . . . . ̲」 ‑ ‑ ‑
‑Lt〜,へへ〈,Iゝ・ヽー‑\ノヽ‑J へ\\J̲
ナ ・ へ I J
・・.
∴
√羊 ∴.
・∴∴
U li
(註 ) 指標 1秒
5 0 〃V L
‥左則半球R
取別半球F :
前頭部C
中心回転部P
:頭頂部AT :
側亘員前部MT =l
lllu頭中部 pT :側頭後部 MV :正中線中心回転部MP:
正中線頭頂部E. K・ G
・心電図 って治療 を継 続 したが,次 第に問診 に対 して 疎 通性 の あ る態度 を と り,幻 聴 及び作 為体 験 な どの内黍 を 自 ら言 い出す よ うにな り,症 状 を客観視 す るよ うな態度 に変 ってい った・ そ してA. T. T.
10回迄施 行 したが ,第8
回 日頃 よ り殆 ん ど寛解 状態 とな った.退 院 後約7
ケ 月にな るが,現 在 なお経過良 好 で あ る.症
( 5 l J B :
男,2 8
才,按 枝型 (FFlm).体型 :斗 士 型.小 学校 就学時 よ り成績 は余 りよ くな く,軽度 の精神薄弱が あ った とみ ら れ る.
約
3
年半 前 よ り人格 変 化が認 め られ, 多弁MF :正中線前頭部
再び前 の動 作 を繰返 す とい った アメンチ ア様 乃至諮妄状態が覚 醒迄 持続 した.か よ うな状 態 は注射 回数 を重 ね, 投 与量 を増 加す るにつ れ て少 な くな り, それ と共に惰 眠状態が よ り 持続 す る よ う に な ゥ た. また 治療 中に幻視 が有形 考慮 に 移 行 し た.即 ち被検者 は本療 法 前で は,本 人の意 志 ・思 考 とは 関 係 な く
「自家の周 辺 で幼 いてい る家 人達 が, 自家の 方 の地平線 上 に見 え る」 と訴 え, それ につ い て非合理性 を疑 うこ とが なか った. ところが 本療 法実施 后
4‑ 5
回 目よ り, 「自分 の家で は今 頃 人手 が足 りな くて忙 しいだ ろ うと思 っ て い ると, 目前 の万 に家 人が忙 しく仇 いてい る光景 がぼ んや り見えては消 失す る」 と変 り 彼 検者 もその症 状 に対 して以 前の如 く確 信が な くな り, 「現 在 の 自分 は本 当の 自分 ではな い」 と多少 不安感 を伴 うよ うにな った. また 日常生 活 で も以前の如 き軽卒 な点 はな くな り364 ‑
興奮 もみ られ な くな った.以后治療 を中止 し 経 過観察 を行 ったが,症状が再燃す ること も な く, 次第に寛解状態 に達 し, その ま ゝ退院 した.
症 例
C :
女,2 4
才,破瓜型 (荒療).休型 :細長型. 凡そ
6
年以来, 自閉 ・無為 の傾 向が次第に著明 とな り,独語及び空笑 も み られた.発病初期 には多少拒絶的 とな り, 衝動的行為 も認 め られ,約4年前 よ り入院加 壕 を うけたが,奏効せず,無為荒境の著 しい例であ る.
これ に対 して最初
At r op i n es u l pat e4 0 mg
次 に6 0 mg
と,10‑2 0mg
づ ゝ漸増 して1 8 0 mg
迄増量 した.然 し瞳孔散大 ・晩晴 数増加及び 皮膚粘膜乾燥な どの症状のみみ られ るが,意 識 澗潤は殆ん ど認 め られなか った.即 ち被検 者 は注射后静かに就床 し,梢々緊張 した顔貌 を呈す る他 ,傾 眠的 とな る事 もな く,注射前 と殆ん ど大差がない. また脳 波において も著 変 な く, 時に∂波が 出現 す るのみで あ った(第
3
図参照).本症 例では
A. T. T.2 0
回施行 し, 精神症 状 には殆ん ど改善がみ られず,以后療 法 を中 止 した ところ,中止后2
日目よ り突然衝動的 に精神運動の興奮が認 め られ, 株にな ってr田 下を走 り廻 るなど,興膏が数 日続 いた.然 し記
その后は興奮 も少 な くな り,再 び以前の無為 状態 に逆 行 した.
以上, 2‑ Jの症 例について述べ たが,精 神分 裂病 に対す る臨床効果 を概 括すれば第
5
表 の通 りとな る.即 ち3 9
列中,著明な改善が第
5
表 精神分裂病の病鷲は:̲1みたA. T. T.
効果緊 張
破 /n 三Ei̲u 妄 想 三担
1 8 I 1
2 12 1 4 1 2 L 2 8
計l
6 〜1 4 1 9 i 3 9
もた らされた もの男5
・女 1の計6
例であ り, 中等度 の改善 をみた もの男5・亥 1
の計1 4
例 で あ る.
これ を擢柄期間別にみ ると, 6
ケ月 以内7
例,6ケ月〜 1
年 j例,1‑ 3咋 8
例 ,j〜
5年1
例, 5
年以上1
例で,比較的急性 刑に効果がみ られ る.然 しなが ら種 々の療 法 に抵抗 した例にお いて も効果がみ られ る事 は 注意 を要す る.即 ち電撃療 法及びChl or pr 0‑
maz i n e
療 法の単独乃至併用の無効 例で も本 療法 によ り効 を実す る場 合 が 多 か ったが'I ns ul i n‑ s hock
療 法及 びLob o t omy
の如効 5・
.V ・諾 U詰
・蕊・琵・慧蓋 ▼, l
第3回症例CにおけるA . T . T
.「卜の脳波の変化 術前一一うト術後3
時間例では余 り期 待出来 な ぅ いよ うであ る.荒畷例
1 ' ' '
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̲′一〃■■一..■■一一J一ヽ′叫
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L.
‑
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J
では,上述症 例の如 く 一過性の変 化がみ られ る場合 もあ るが,概 し て効果が少なか った.
また電撃療 法
・ l ns ul i n‑
s ho ck
療法及びCh・
l or pr o ma z i n e
の それ ぞれ と本療 法 とのIjf・用 は,本療 法 単独の場合 よ りも多少効 を秦す る よ うにみ うけ られ た.一般 (こ改善 された(5'IJよ りみ ると,幻覚 ・妄想
「
Y
精神科領域 にお ける大量 ア トロピン療法
( At r opi neToxi ci t y Ther apy)
の治療経験 ‑365
は
A. T. T.
によ り次 第に消失 し始 め, そ れ に伴 う不安 とか,異常行動が減弱す る.或 い は これ らの分裂病体験が完全 に消失 しな くと も, これ らの症状 を客観視 す る態度 を とるよ うな傾向がみ られ る.2)
膜 うつ病群 (第1・ 6
表参照) 症 例 :男,5 4
才,燥 うつ病 (燥状態).体型 :斗士型.
2 2
才 の とき操病様状態 とな り,数 ヶ月で 自然寛解.以来現 在まで数回抑 うつ並 びに操状態 を繰返 した とい う.今 回は′ 入院約1カ月前 よ り抑 うつ的 とな り,入 院后 電撃療 法施行 したが,次 第に操状態に移行.
そ こで
Chl or pr oma z i ne1
日2 0 0‑4 0 0mg
を 約3
カ月持続投与 したが,改善 されず,病的 爽快 ・易怒 的で,多弁 ・放 歌 ・不穏 ・不眠及 び誇大妄想などを もつ例で あ る.これ に対 して
At r o pi nes ul phat e
を初期 量4 0 mg
,以后5 0mg
筋注,計2 0
回施行 した.被検者 は注射后
3 0
分位経過す ると,傾 眠よ り やがて堵 眠状態 とな り,時 に昏睡 に入 ることもあ った.約 2‑ 3時 間后,次 第に覚 醒状態 に移行す るのが常で あ ったが,術后 において も多弁 ・高唱 ・放尿 な どの興奮が 著 し か っ た .そ こで
Chl or pr oma z i ne( 1 0 0mg)
筋注 も併用 した. この よ うな状態は数 日持続 した が,第7‑ 8
回 目のA. T. T.
時 よ り興 奮 も 少 な くな り,第1
3‑1
4回 日頃 よ りは極 めて穏 か とな って病識 も出現 し, また抑 うつ的 となる事 もなか った.
もちろん,操 うつ病群では 自然寛解 もあ り 得 る事で あ り,われわれの例数 も少ないので 本療 法が操 うつ病 に対 して奏効す るとはにわ かに断定 し難 い.然 しなが ら, 上記 例は種 々 の療 法で改善 され得なか った例であ ることは 一考 に値 しよ う.また他 の 2例の操病では本 墳 法
1 0
回施行 して中等度 の改善 をみ, その后 電撃療 法 を4‑ 7
施行 して寛解状態 をみた も ので あ る.うつ病状態 に対 して本療 法の単独施行 よ り も,他 の療 法 との併用が望ま しいよ うに思 わ れた.即 ち離 人症 ・注察妄想 ・抑 うつ気分及
び精神運動抑制 を もつ 1例,虚無 ・罪業妄想 ・ 不安 ・抑 うつ気分 を もつ退行期 うつ病例では , 何れ も本療 法のみで余 り効果がみ られず,電 撃療 法或いは
Chl or pr oma z i l l e
との併 用 によ り改善がみ とめ られ た.
3)
精神 々軽症群 (表1・ 6
参照) 症 例 :男,2 3
才,強迫神経症 .捧型 :細長型.元来著 しく内向的な性格 を もち,就学 してよ り友人 も少 な く, 目上の人 に接す ると赤 面及 び動惨 を感ず るよ うにな っ た. また不潔 な ものに病的に嫌悪 を もつ よ う にな った.高校時 代に男女共学 にな り, 自分 の顔貌などに劣等感 を抱 き,大学の入試 に失 敗 してか らは特 にひど くな り
,
他 人 を正視 出 来 な くな り,注察 ・関係 妄想気分 を も有す る よ うにな った.約3
カ月前 に入院 し,電撃癌 法・I ns ul i n‑ s ho ck
療 法及 びChl or pr oma z i ・ ne
などの投与 と共 に, 再三精神療法 を施 行したが,殆ん ど改善 されなか った例で あ る.
これに対 して
At r o pi nes ul phat e2 0 mg
, 以后1 0‑2 0mg
づつ漸増 し,最 高量60mg
にお いてA. T. T.
を持続施行 した. 第1
回注射 后2 0‑3 0
分 で惰 眠状態 に入 り,それが約4 0‑
5 0
分持続 したが,その后 に誼妄状態 に移行 し て排佃 ・独語がみ られた.覚醒 后,被検者 は「術 中に何か変 な事 を したのではないか」 と 気 にかけていたが,完 全に回想す る事が 出来 なか った.第 3日の第 2回注射后 2‑ 3時間 頃 よ り意識澗濁が 軽度 にな ると, 「自分 では 気狂 いでない と思 うのに,みんなで精神病者 扱 いに してい る」など と被害妄想気分及 びそ れ に基 く異常行動がみ られ るよ うにな った.
これ らの症状 は
Chl o r pr o maz i ne5 0 mg
又 はl s omyt al ‑ s o da0. 5md
の筋注 によ り一時的に 鎮静 され る事が多か った. しか も翌 日にな っ て も,注射 后惹 起 された妄想気分及び異常行 動 を記憶 してお り,極 めて病識 は不確実で あ った. この期 間を利用 して努 めて精神療法 を 附加 した ことは言 うまで もない.本 例では
A. T. T.1 5
回施行 したが,5‑ 6
回頃 よ り先 ず妄想気分が消失 し始 め, それに366 ‑ 堰 伴 って他 の症 状 も改善 され始 めた.
l
l‑1 2
回 よ りは表 情 も明 る くな り,積 極的 とな り,他 人 を も正視 出来 るよ うに な った.一応 の寛解 状 態 で退院 して約8
カ月にな るが ,引続 き経 過良 好で あ る.一般 に精 神 々経症 に対す る本療 法 の臨 床的 効果 は まちま ちで あ るが, 不安 ・恐怖感 ・緊 張状態 ・妄 想気分及 び離 人症侯 な どを主症状 に もつ もの に効果が あ るよ うにみ う け ら れ た. これ らの症状 は本療 法施 行 当初 に時 に一 時増悪 す る場合 もあ るが, なお治療 を続 行 し 殊 に覚 醒状 態 に移行す る時 期 な どを利 岡 して 種 々の精神療 法 を加味す る場合 に,特 に有効 な よ うで あ った.
4) その他
不安及 び不 眠 を訴 え る神 経 質1例,浪 費 ・ アル コール噂癖 ・鴨息 発作 を もち, しか も詐 病 の傾 向 の強 い精 神病 質1例 に対 して,本療 法 を施 行 したが , それ ぞれ 中等度 改善及 び無 効 とい う結果 が み られ た (1表参 照).
以 上, 各疾患 別 にみた
A. T. T.
に よ る臨 床効 果 をのべ たが, これ を症 状 別 に ま とめて み ると凡 そ第6
表 の通 りとな る.即 ち不安 感 ・第
6
表 :症状別にみた臨床効果l
' I
病 識 45 81作 為 体 験 14【 7 妄 想 26 16 離 人 症「 13 8
、
自 発 性 22
9
拒 絶 症 10L 3 質 神 速 警 20 16!病 的爽快感9 7
幻 覚 18! 14㌔抑 う つ 感
51 3
不 安 感 17r 12 常 同 症 .4 1
支 離 滅 裂 ; 15 7 強 迫 現 象 う3 2
柄 的爽快 感 ・精神運 動興奮 ・幻 覚 ・妄想 及び 離 人症 な どに効果 が み られ, と りわ け不安 ・ 病 的爽快 感 ・精 神運動 興 奮及 び幻覚 に効 を奏してい る.
A・ T・ T
・に よ る効果 の 発現 は比 較 的 は や童
く,大 体 j
〜7
回 目の筋注 后 よ り効 果が み ら れ , それがA. T. T.
を継続 施 行す るこ と に よ って一 層 よ く改善 され た と言 い得 る. もち ろん効果 の持 続 性 につ いては治療 中止 后の観 察期 間が まちま ちなので にわか に 決 定 し 難 く,従 って今 后の長期観察 を要す る もの と思 われ るが ,然 しなが ら改善 例 では治療 中止 后 現 在 まで6
カ月乃至1
年 も経 過 して い るの に 症 状 の再燃 を来 した もの はみ られ な い. 尚現 在 まで本療 法 に よ り特 に症 状 が悪 化 した例 は 著 明な緊 張病 型の荒 噴分 裂病1例 だ けで あ っ た.考 接
本療 法 にお け る
At r o pi nes u l phat e
の 投 与量 は従 来記載 され た便 相室 の数 十倍,数 百 倍 で あ る事 は注 目に値 す る. われ われの経験 例 で はAt r o pi I T eS ul phat e
の1
日最 高量 は2 2 0mg
に達 し,また最 高全投 与量 は3, 3 0 0mg
に も及 ぶ. 被検者5 3
名,総計 7 5 6
回施 明 し, 重篤 な副作用 は1例 に もみ られ なか った. 人 体 にお け るAt r opi ne
の致死量 に ついてはな お不明 で あ る模様 で あ るが,GooDMAN
及び12)
GI LLMAN
はAt r o pi nes ul phat el O Omg 1 0
.を人 体 の致死量 と推 定 , しか しGoLDNER
はAt ‑ r opi nes u l phat e21 2 mg
迄 投 与 して も危 険の ない事 を報 告 してい る.動物実験 に よ る致 死23)
量 は ,例 えば成熟 ラ ・テで は
L t) 5 0
は皮 下注射 で7 7 0mg/ kg
, モル モ ・・トのM.L.D.は皮 下 注射 で60mg/ kg
,静脈 内注射 で7 0‑85 mg
,ま た家 兎では経 口の場合 には1 . 4
‑1 ・ 5mg/ kg
,受 下 注射5 0 0‑7 5 0mg/ kg
, 静脈 内注射7 0‑7 5 mg/ kg
で あ るとい う. 研 究者 或 いは動物 の 種 類 に よ り可成 り差 が あ るに して も, われ わ れ の投 与量 は これ らに比 して はなお展 少で あ る事 は諭 をまたない.1
3)1 9 2 3
年 のM ACHT
の研究 で は, 白ネズ ミの 腹 腔内に1. 1 7 mg/ kg
のAt r o pi ne
を注射 す ると,中 枢神経 系の刺 戟作 問 を 示 し,1. 3 3 mg/ kg
で は著 明 な不穏 と と も に, 迷 路 を 解決 す る壁 力 を失い
,更 に追 加 し て い く と(A