【目 次】
Ⅰ はじめに─研究の方法と視点─
Ⅱ 新たなバイオマス政策における事業化への戦略的意思決定と評価の必要性
Ⅲ 新たなバイオマス政策に基づく戦略的評価の視点と分析・評価モデル
Ⅳ おわりに─本稿までの成果と次稿における検討内容─
Ⅰ はじめに─研究の方法と視点─
日本では、2002年12月に『バイオマス・ニッポン総合戦略』(以下、2002年版総合戦略)が閣議 決定され、これに基づき、バイオマスを用いたエネルギー生成や製品開発・製造等に関する計画や 事業が展開された。2006年 3 月には、2005年 2 月に発効した京都議定書の目標達成のために実施さ れるバイオマス利活用事業に関する検討を通じて、今後重点的に取り組むべき課題や施策を明らか にすることも加味した新たな総合戦略が策定された。これが2002年版総合戦略を改訂した2006年版 総合戦略である1。
2006版総合戦略は、2030年頃の日本のバイオマスを総合的に利活用していく姿を実現させるため に、バイオマスを最大限に利用した環境保全型農業、新たな製品や技術の開発、代替エネルギー事 業といった特定の事業や取り組みに着目した「点の目標や戦略」と、この目標や戦略に基づいて国 内の地域内・外や海外との連携を図っていくバイオマスタウン事業といった特定の事業や取り組み を地域全体に拡げていく「面の目標や戦略」の必要性が提示されている。また、これらの目標や戦 略を有効的かつ効率的に実施し、地域を活性化させていくためには、バイオマス事業に対する国民 1 人 1 人の理解および説明や、経済性、環境影響、雇用創出等の視点にしながらビジネスモデルを
1 バイオマス・ニッポン総合戦略に関する具体的な内容や2002年版から2006年版への変更ポイント等に関して は、農林水産省のホームページに掲載されている各種報告書を参照している(農林水産省「バイオマス・ニッ ポン」〈http://www.maff .go.jp/j/biomass/〉(閲覧日:2012年 9 月22日))。
バイオマス政策・事業のための戦略的分析・評価モデル(1)
─新たなバイオマス政策・事業への戦略的意思決定と 分析・評価モデルの必要性─
金 藤 正 直
【論 文】
検討すべきであると述べられている 2。
このように、2006年版総合戦略には、バイオマスの利活用を想定したさまざまな取り組みやその 方法が概念的に盛り込まれている。この総合戦略が公表された後も、表 1 に示されているように、
バイオマス事業関連の政策が次々と作成・公表され、日本各地で事業展開がより一層促進されるこ とになる。
表 1 バイオマス・ニッポン総合戦略以降のバイオマス関連政策
年代 政 策 概 要
2002年 バイオマス・ニッポン総合戦略
(2002年12月閣議決定、2006年 3 月改定)
○バイオマスを総合的に最大限利活用した持続的な社 会「バイオマス・ニッポン」の実現(関係 7 省庁)
○2010年度における目標設定(廃棄物系バイオマス 80%以上、未利用バイオマス25%以上活用等)
2005年 京都議定書目標達成計画
(2005年 4 月閣議決定、2008年 3 月改定)
○輸送用燃料を含むバイオ燃料の普及促進(2010年度 まで50万 Kℓ)
○バイオマスタウンの構築、バイオマスエネルギーの 変換・利用技術の開発
2008年
バイオ燃料技術革新計画
(2008年 3 月バイオ燃料技術革新協議会
(経産省、農水省))
○セルロース系エタノールの技術開発について、2015 年における製造コストの目標設定と普及拡大(国内 未利用バイオマス100円 /ℓ、革新的技術利用40円 /ℓ)
2009年 バイオマス活用推進基本法
(2009年 6 月制定、同年 9 月施行)
○バイオマス活用施策の総合的かつ計画的な推進
○バイオマス活用推進計画の策定(国、都道府県、市 町村)
○バイオマス活用推進会議の設置( 7 府省の担当政務)
2010年 エネルギー基本計画
(2003年10月閣議決定、2010年 6 月改定)
○2020年までに 1 次エネルギー供給に占める再生可能 エネルギーの割合の10%到達、バイオ燃料の全国の ガソリンの 3 %相当以上の導入を目指す
エネルギー供給構造高度化法に基づく非 化石エネルギー源の利用に関する石油精 製業者の判断の基準(2010年11月告示)
○石油精製業者に対し、一定量のバイオ燃料の導入を 課す(2011年度21万ℓ→2017年度50万Kℓ(原油換算))
バイオマス活用推進基本計画
(2010年12月閣議決定)
○2020年における目標設定(約2,600万炭素トンのバイ オマスの活用、約5,000億円規模の新産業の創出等)
○バイオマス活用技術の研究開発の基本方針の設定
2011年
我が国の食と農林漁業の再生のための基 本方針・行動計画(2011年10月食と農林 漁業の再生推進本部決定)
○エネルギー生産への農山漁村の資源の活用促進
○農山漁村資源を活用した分散型エネルギー供給体制 の形成
2012年
電気事業者による再生可能エネルギー 電気の調達に関する特別措置法
(2011年 8 月制定、2012年 7 月施行)
○再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、
バイオマス)の固定価格買取制度(FIT)の施行
(出典:農林水産省『バイオマスをめぐる現状と課題』2012年、 1 2 頁を参考に作成。)
2 農林水産省『バイオマス・ニッポン総合戦略』2006年、8‒28頁。
しかし、総務省が2011年 3 月に公表した『バイオマス利活用に関する政策評価』によれば、2002 年版あるいは2006年版の総合戦略に基づいて実施されたバイオマス利活用の政策・事業の取り組み においては、さまざまな問題が指摘されている。その問題とは図 1 のとおりである。
政策目的の達成度等
を測る指標の設定 政策全体のコストや
効果の把握等 バイオマスタウンの効
果の検証等 バイオマス関連事業
の効果の発現状況 バイオマスの利活用 によるCO2の削減
○総合戦略では政 策目的の達成度を 測る指標として、平 成 22年を目途とす る数値目標を設定
○総合戦略の実施 により、地球温暖化 の防止等4 つの効 果が期待
①政策目的の達成度 を測る指標である数 値目標について、そ の設定に係る具体の 根拠が明確ではない。
②総合戦略の実施に より期待される効果の 発現を測る指標が設 定されていない。
①政策目的の達成度 及び政策効果を的確 に把握するための指 標の設定
○総合戦略では、施 策の効果等を評価し、
必要な見直しを行う ことを規定
○バイオマス・ニッポ ン総合戦略推進会議 では、平成18年度か ら20年度までのバイ オマス関連事業の実 績のみ取りまとめ
①数値目標の達成度 の把握が不十分
②7年以上にわたって 行われてきた政策に ついて、バイオマス関 連の決定額が特定で きておらず、政策全体 の効果も把握されて いない。
②政策のコストや効 果の把握および公表
○総合戦略では、バ イオマスタウンの構 築を重要施策と位置 付け
○農林水産省を中心 として、バイオマスタ ウン構想の作成や実 現を支援
①構想に掲げる取組 項目の進捗は低調
②構想の実施による 効果がほとんど把握 されていない。
③構想に掲げるバイ オマス原料の賦存量 や利用量の算出根拠 が明確でないものあり
等
③バイオマスタウンの 効果の検証及び計画 の実現性を確保
○平成15年度から20 年度までの6年間に6 省で計 214事業を実 施
○「施策導入」が予算 規模では全体の 8 割 以上を占める。
①バイオマス関連事 業が効果的かつ効率 的に実施されていな い。
②バイオマス関連施 設における稼働や採 算性が低調
④バイオマス関連事 業の効果的かつ効率 的な実施
○「カーボンニュート ラル」の特性を有す るバイオマスは地球 温暖化防止に貢献
○「京都議定書目標 達成計画」において、
バイオマスタウンの 構築によりCO2削減 の見込み
①バイオマス関連 132 施設において、CO2の 収支を把握しているも のは3 施設
②当省の試算による と、CO2収支等の4 項 目のいずれの試算項目 においても CO2削減 効果が発現しないもの あり
⑤バイオマスの利活 用によるCO2の削減 効果の明確化
図 1 総務省による「バイオマス・ニッポン総合戦略」の評価結果と勧告事項
(出典:総務省『バイオマスの利活用に関する政策評価〈評価結果及び勧告〉』2011年、 2 頁。)
図 1 には、バイオマス政策・事業に関する分析・評価の方法が十分に構築されなかったことか ら、2006年版総合戦略としての成果自体も十分に評価できていなかったことが明らかにされてい る。こうした総務省による総合戦略の評価結果が公表されたにもかかわらず、2012年12月現在で も、バイオマス活用推進計画の作成やバイオマスタウン構想の策定が324市町村で行われている3。 また、表 1 に示されている『バイオマス活用推進基本計画』(以下、基本計画)の目標達成に向け て、2012年 9 月には、「関係府省・自治体・事業者が連携し、コスト低減や安定供給、持続可能性 基準を踏まえつつ、技術とバイオマスの選択と集中等によるバイオマスを活用した事業化を重点的 に推進し、地域におけるグリーン産業の創出と自立・分散型エネルギー供給体制の強化を実現して いくための指針」として 4、『バイオマス事業化戦略』(以下、事業化戦略)が公表されている。
3 農林水産省「地域バイオマス活用推進計画・バイオマスタウン構想の策定状況(324市町村)(平成24年12月現 在)」〈http://www.maff .go.jp/j/shokusan/biomass/b̲kihonho/local/pdf/keikaku̲241227.pdf 〉(閲覧日:2013年 2 月
6 日)。
4 バイオマス活用推進会議『バイオマス事業化戦略─技術とバイオマスの選択と集中による事業化の推進』
2012年、 1 頁。
このように、日本では、バイオマス政策・事業が不十分であったにもかかわらず、新たな制度が 整備されている。今後、基本計画や事業化戦略に基づいて、日本各地でバイオマス利活用に向けた 政策・事業が展開されることが予想される 5。しかし、図 1 の総務省が指摘した諸問題を二度と繰り 返さないような政策にしていくためにも、この事業に関わる組織(以下、事業関係主体)、主とし て、行政組織、事業者、市民・住民組織は、信頼性、公平性、透明性を担保するという 3 つの視点 から、各主体相互間での合意形成を図りながら、戦略的に協働体系を構築して、有効的にバイオマ ス政策・事業を行っていくべきである。また、その協働体系の中で、それぞれの主体が戦略的な意 思決定を有効的かつ効率的に実施していくためには、図 1 の「勧告事業」を考慮に入れた新たな分 析・評価システムの検討が必要不可欠であると考えられる。そこで、その協働体系の中で各主体が 行うべき戦略的な意思決定と分析・評価システムとの関係を示した概念図は図 2 のように表わされ る。また、各主体による情報利用とそれを支援する評価情報の対象範囲および内容は、表 2 のとお りである。
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図 2 バイオマス事業関係主体による協働体系上での意思決定と戦略的分析・評価システム
(出典:金藤正直「バイオマス事業における参加・協働体系を支援する評価情報モデル─青森県中南地域の取 組を中心として─」『弘前大学経済研究』第34号(2011年)、34頁の図 3 をもとに作成。)
5 国家戦略室「グリーン戦略大綱(骨子)」〈http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20121127/shiryo4-1.pdf〉
(閲覧日:2012年12月 3 日)。
表 2 図 2 の各事業関係主体による評価情報の対象範囲と内容
事業関係者 情報利用 情報の対象範囲および内容
行政組織 政策・合意形成の有効的・効率的運営の ために利用(バイオマス政策・事業プロ セス全体のマネジメント)
地域内外の採算性、環境影響、社会的影 響に関するデータ
事業者 地域にもたらす事業による採算性や環境 保全、地域社会の影響に関する評価
個別主体レベル、製品レベル、事業レベ ルに関する採算性、環境影響、社会的影 響に関するデータ
市民・住民組織 提言書作成と現在実施中の事業の分析・
評価(地域振興や環境・社会的取り組み の現状分析)
地域内の採算性、環境影響、社会的影響 のデータ
※情報の対象範囲
①個別主体レベル: 特定製品事業(ex:木質ペレット事業)あるいは同種製品事業(ex:木質バイオマス 製品事業)に関わる主体のみを対象
②製品レベル:特定製品事業に関わるすべての主体を対象
③事業レベル:同種製品事業に関わるすべての主体を対象
④地域レベル:複数の製品事業(ex:木質系、稲わら系)に関わるすべての主体を対象
(出典:金藤正直「バイオマス事業における参加・協働体系を支援する評価情報モデル─青森県中南地域 の取組を中心として─」『弘前大学経済研究』第34号(2011年)、40頁の表 1 。)
事業関係 3 主体が行う意思決定上の取り組みは、自主的ではなく、当該地域の慣習や法規制等に より、慣例的に行われているケースが多いのが現状である6。各主体は、図 2 のように、それぞれの 政策・事業の目的・目標を共有化できる協働体系を構築するとともに、戦略的分析・評価システム を利用することによって、それぞれの活動のガバナンスの強化、活動結果の情報開示によるアカウ ンタビリティの遂行、そして、現在実施されている政策・事業への意見・質問に関する情報に基づ く今後の政策形成や事業活動等の再検討・修正等が可能となる。その結果、将来的には、こうした 慣例的な意思決定への取り組みの現状を打開でき、地域に根ざしたバイオマス政策・事業にしてい くことができると考えられる。
そこで、本研究では、先行研究の検討を通じて、事業関係 3 主体が基本計画や事業化戦略といっ た新たなバイオマス政策に基づいて行うべき図 2 の戦略的協働体系およびその中での意思決定を支 援する分析・評価システムを構築していくためのモデルについて検討する。そのうち、本稿では、
基本計画や事業化戦略の分析を通じて、事業関係 3 主体が行うバイオマス政策・事業のための戦略 的協働体系およびその中での意思決定の可能性と、その協働体系や意思決定のための評価の必要性 および視点について明らかにする。
6 中島によれば、自治体と NPO を含む民間機関との協働に関する現状調査から、何らかの事業の評価等に際し て公平性や透明性を確保する対策等を講じていないところが多いために、協働の制度化への必要性が述べられ ている(中島智人「自治体と NPO との協働の現状と課題」岡田浩一・藤江昌嗣・塚本一郎『地域再生と戦略的 協働─地域ガバナンス時代の NPO・行政の協働』ぎょうせい、2006年、102‒108頁)。
Ⅱ 新たなバイオマス政策における事業化への戦略的意思決定と評価の必要性 1 .バイオマス活用推進基本計画における戦略的意思決定と評価の必要性
基本計画では、2002年版および2006年版の両総合戦略に関して、バイオマスの利活用に対する国 民的理解の醸成や、バイオマスタウン構想の策定を契機とした市町村における地域づくりや地域活 性化の実証を行ったこと、という点から一定の評価をしながらも 7、未利用バイオマスの利活用や各 地域のバイオマスタウン構想に基づく取り組みが十分に進んでいない課題における主たる原因とし て、次の 3 点を指摘している 8。
①バイオマスの利用に関するさまざまな技術を組み合わせて、バイオマスを効率的に利用するた めの技術体系を確立するまでには至らなかった
②バイオマスタウン構想に基づく各地域の取り組みを統一的な基準によって評価し、構想の見直 しや地域における事業の改善を図るといった具体的な枠組みが構築されていなかった
③「地球温暖化の防止」、「循環型社会の形成」、「競争力のある新たな戦略的産業の育成」及び「農 林漁業、農山漁村の活性化」の 4 つの効果の発現を目指していたが、これらの目指すべき効果 と数値目標との関係が明確でなかったこと等から、全体の成果の評価が困難となっていた
上記①から③の指摘点は、図 1 に示された総務省の指摘点と重なる部分がある。日本は、総合戦 略の課題やその原因である 3 つの指摘点を加味し、今後さらなるバイオマス利活用を推進していく 政策・施策に取り組んでいくために、農林水産省が中心となって2009年に『バイオマス活用推進基 本法』を制定し 9、また2010年には、この法律に基づき基本計画を作成し、公表している。
この基本計画では、「農林漁業者等のバイオマス供給者、バイオマス製品を製造する事業者、当 該活動が行われる地域における行政機関、関係府省等が一体となって、バイオマスの発生から利用 までが効率的なプロセスで結ばれる総合的な活用システムの構築を推進する」ことを基本方針とし て設定されている10。これには、事業関係者が、表 3 のような事業化のための役割を果たしながら、
相互に密接に連携していく、つまり、事業関係者間で協働体系を構築していくことによって、バイ オマス利活用事業を推進すべきことが示されている。
7 農林水産省『バイオマス活用推進基本計画』2010年、 2 ‒ 3 頁。
8 前掲書、 3 頁。
9 バイオマス活用推進基本法に関しては、農林水産省のホームページを参照されたい。農林水産省「バイオマ ス活用推進基本法」〈http://www.maff .go.jp/j/shokusan/biomass/b̲kihonho/pdf/kihonho.pdf〉(閲覧日:2012年 10月29日)。
10 農林水産省『バイオマス活用推進基本計画』2010年、 4 頁。
表 3 バイオマス利活用事業における関係者の役割
関係者の種類 役割の内容
行政組織 都道府県 市町村と密接な情報交換を行いつつ、市町村の範囲を超える広域 なバイオマス活用体系の構築や市町村間の連携の促進等の観点か ら、当該都道府県におけるバイオマス活用推進計画の策定に努め る。
市町村 地域の特性を踏まえつつ、市町村バイオマス活用推進計画等に基 づいて、地域におけるバイオマス活用システムの構築に計画的に 取り組むほか、地方公共団体の施設・事業等においてバイオマス 製品等の利用を推進するとともに、地域住民との連携や情報提供 等を通じて地域におけるバイオマス活用の中心的な役割を果たす よう努める。
生産者・事業者 農林漁業者 農山漁村の 6 次産業化を推進する上で重要な資源の一つであるバ イオマスの供給者として、また、自らその活用を図る者として、
地域資源の有効活用を図りつつ、循環型社会の構築に大きな役割 を果たすことが期待されることから、バイオマスの供給に際して は、供給時期、量、品質等についてバイオマス製品等の製造業者 のニーズに適確に対応するよう努める。
バイオマス製品 等の製造業者
効率的なバイオマスの変換施設の設置や製造コストの低減に資す る製造方式の導入等に取り組むとともに、バイオマス製品等の製 造に伴う副産物を肥料その他の物品としての有効利用を図る。
非営利組織 国民の一人ひとりがバイオマスの活用に自主的かつ積極的に取り
組む社会的気運の醸成を図っていくうえで、大きな役割を果たす ようになってきているために、バイオマス活用推進基本法及びバ イオマス活用推進基本計画において示した方向性を考慮しつつ、
バイオマスの活用に資する自律的な活動を行う。
国 民 バイオマスの活用の意義等を十分に理解し、その活用に自主的か
つ積極的に取り組むよう努める。
(出典:農林水産省『バイオマス活用推進基本計画』2010年、27‒28頁を参考に作成。)
この基本方針に基づいて達成すべき目的・目標としては、地球温暖化の防止、循環型社会の形 成、産業の発展及び国際競争力の強化、農山漁村の活性化、バイオマスの種類ごとの特性に応じた 最大限の活用、エネルギー供給源の多様化、地域の主体的な取組の促進、社会的気運の醸成、食 料・木材の安定供給の確保、そして、環境の保全への配慮、という10の具体的な取り組みを促進さ せることが示されている。基本計画は、これらの目的・目標の中で、「地球温暖化の防止や循環型 社会の形成に大きく貢献するものであり、また、バイオマスを活用する新たな産業の発展及び国際 競争力の強化、農山漁村に豊富に存在するバイオマスを活用することによる農山漁村の活性化等の
効果が期待されることから、その活用の推進に関する施策の更なる加速化が強く求められている」
ことから11、2020年までに達成すべき目標を図 3 のように設定している。
農山漁村活性化 産業創出 地球温暖化防止
★ 600市町村においてバ イオマス活用推進計画を作 成
★バイオマスを活用する 約5,000億円規模の新産業 を創出
★炭素量換算で約 2,600 万 トンのバイオマスを活用
図 3 2020年までにバイオマス活用推進基本計画で達成すべき目標
(出典:農林水産省「バイオマス活用推進基本計画の概要」〈http://www.maff .go.jp/j/shokusan/biomass/ b̲ki- honho/pdf/keikaku̲gaiyo.pdf〉(閲覧日:2012年10月29日)。)
基本計画では、国や地方自治体といった行政組織が、図 3 の目標の達成に向けたバイオマスの高 度活用を推進し、持続可能な経済・社会システムを実現していくために、表 3 に示された他の事業 関係者と一緒になって、将来の技術体系の確立を考慮に入れた実現可能な共通の目標を設定し、そ の達成を目指して計画的に取り組むとともに、その取り組みの成果や達成度を客観的な指標によっ て把握し、評価していくことの必要性が示されている12。なお、この指標については、農林水産省 食料産業局バイオマス循環資源課が2012年 9 月に公表した『都道府県・市町村バイオマス活用推進 計画作成の手引き』の中で取り上げられている13。そこで、この手引きに示されている都道府県・
市町村がバイオマス利活用の取組成果の評価に利用することを想定した指標例は、表 4 のとおりで ある。
11 前掲書、 4 頁。
12 前掲書、8 頁。農林水産省「バイオマス活用推進基本計画の概要」〈http://www.maff .go.jp/j/shokusan/biomass/
b̲kihonho/pdf/keikaku̲gaiyo.pdf〉(閲覧日:2012年10月29日)。
13 農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課『都道府県・市町村バイオマス活用推進計画作成の手引き』
2012年、1‒77頁。この手引きは、地域の特性を加味しながらバイオマス活用推進計画のより円滑な策定が進め られるように、バイオマス賦存量の算定方法、バイオマス利活用の取組結果の把握・評価方法、地域推進計画 の記載等を盛り込んだものになっていることから(前掲書、 1 頁)、国が提示した図 3 の600市町村においてバ イオマス活用推進計画の策定という目標を達成させるための支援ツールといえる。
表 4 都道府県・市町村がバイオマス利活用の取組成果を評価するための客観的な指標例
効 果 評価指標
地球温暖化の防止 二酸化炭素排出量の削減 ①二酸化炭素排出量や化石燃料消費量の削減
②排出権取引による収益の確保
循環型社会の形成 地域資源の有効利用
③バイオマス資源の利用率等の向上
④バイオマスによる堆肥やエネルギー等の自 給率(地産地消率)の向上
廃棄物処分量の削減 ⑤廃棄物の処分量・コストの削減
産業の発展 新産業の創出、既存産業の
活性化 ⑥バイオマス関連産業・雇用等の増加等
農山漁村の活性化
(地域活性化)
農林漁村の振興 ⑦農林水産物のブランド化
⑧バイオマス関連製品の利用の増加 住民等の環境意識の向上 ⑨住民参加の促進
⑩環境学習の促進 視察者観光客の増加等 ⑪視察者観光客等の増加
⑫市町村の知名度向上(報道数等)
エネルギー供給源の多様化 エネルギー安全保障の強化 ⑬再生可能エネルギー供給源の増加
地球環境の保全
悪臭・水質汚染等の軽減 ⑭生活環境や自然環境の保全 耕作放棄地の減少 ⑮耕作放棄地面積の減少
森林の保全 ⑯二酸化炭素固定量の増加
(出典:農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課『都道府県・市町村バイオマス活用推進計画作成の手引き』
2012年、23頁の表Ⅳ ‒ 1 。)
2 .バイオマス事業化戦略における戦略的意思決定と評価の必要性
事業化戦略の基本的な考えは、2011年に発生した震災・原発事故以降より注目されている地域の バイオマスエネルギー事業を展開していくために、当該地域で発生する多種多様なバイオマスに対 してどのような利活用技術を組み合わせれば、有効的かつ効率的な自立・分散型エネルギー供給体 制の構築やその事業化が可能となるのか、という点にある14。また、ここでは、関係府省・自治体・
事業者が連携しながら、この戦略を着実に実施していくことによって、基本計画で設定された図 3 の目標を達成していくことの必要性も述べられている15。
このような考えに基づいて、事業化戦略には、図 4 に示されているように、基本戦略、技術戦略
(技術開発と製造に関する戦略)、出口戦略(需要の創出・拡張に関する戦略)、入口戦略(原料調 達に関する戦略)、個別重点戦略、総合支援戦略、そして、海外戦略という 7 つの戦略と、それぞ れの戦略に対して2020年度までに行うべき取組内容やその目標値が設定されている。
14 バイオマス活用推進会議『バイオマス事業化戦略─技術とバイオマスの選択と集中による事業化の推進』
2012年、 1 頁。
15 前掲書、 1 頁。
図 4 バイオマス事業化戦略の内容と工程表
(出典:バイオマス利活用推進会議『バイオマス事業化戦略─技術とバイオマスの選択と集中による事業化の 推進─』2012年、17‒18頁。)
各地域では、これら 7 つの戦略に基づいて、バイオマスとその利活用技術の選択と集中を繰り返 しながら自立・分散型エネルギー供給体制が構築されるとともに、その結果としてグリーン産業が 創出される。そこで、関係府省・自治体・事業者が、こうした取り組みをより一層現実化していく ためには、基本戦略にも示されているコスト低減、安定供給、持続可能性基準を考慮に入れなが ら、原料生産から収集・運搬・製造・利用までの一貫システムを構築していくことが必要とされ る16。換言すれば、バイオマス資源のフローやストックに関わるサプライチェーンであるバイオマ スチェーン(Biomass Chain:BC)、あるいは産業クラスターであるバイオマスクラスター(Bio- mass Cluster:BC)といったバイオマス資源の発生からエネルギー供給や利用に関わる連携組織 体を構築し、事業化に取り組んでいくとともに、この取り組みを有効的かつ効率的に行っていくた めには、コスト低減、安定供給、持続可能性基準という 3 つの視点から評価すべきである、という ことが示されている。
事業化戦略には、これら 3 つの評価の視点に関する定義や説明は十分に述べられていないが、そ のうちコスト低減や安定供給の視点については、図 4 に示された 7 つの戦略の説明の中にいくつか 示されている。これら 2 つの視点に関連する内容を整理した例が表 5 である。
表 5 事業化戦略におけるコスト低減と安定供給の例
評価の視点 該当戦略 評価の内容
コスト低減
出口戦略
・バイオマス製品は化石燃料や海外原料と比べて供給コストが高いため に、新たな投資家・事業者の参入を促す税制によるインセンティブ付 与が必要であること
・高精製バイオガス製造設備の低コスト化
入口戦略 ・広く薄く存在するバイオマスをいかにして効率的・安定的かつ低コス トで確保していくことの必要性
個別重点戦略 ・間伐材等の搬出に対してかかる収集・運搬コストへの対応
安定供給
入口戦略
・広域に存在するバイオマスの確保は、民間事業者の取組だけでは限界 があり、行政による支援が必要
・多様なバイオマスの混合利用・組み合わせによって原料を安定的に確 保することが必要(廃棄物系+未利用系、下水汚泥・家畜排泄物+食 品廃棄物等)
個別重点戦略
・都市部では、下水汚泥、食品廃棄物、木質、農村部では、木質、家畜 排せつ物、食品廃棄物の徹底的な利用を推進するが、その際、エネル ギー回収率の向上等のために、関係府省・自治体・事業者の連携によ り、廃棄物系と未利用系、下水汚泥・家畜排せつ物と食品廃棄物等の 混合利用を積極的に推進すること
海外戦略
・大量な原料を安定的に必要とする火力発電所等の大規模利用施設にお いて、国内木質バイオマスの混焼など海外からの原料との混合利用に より国内バイオマスの活用を促進すること
(出典:バイオマス利活用推進会議『バイオマス事業化戦略─技術とバイオマスの選択と集中による事業化の 推進─』2012年、3‒10頁をもとに作成。)
16 前掲書、 3 頁。
また、持続可能性基準の視点については、事業化戦略の中で定義や説明はほとんど触れられてい ないが、その内容を明らかにしていくための手掛かりとしては、欧米や日本において注目されてい るバイオ燃料事業を対象とした持続可能性基準である。この基準については、欧米では、国際バイ オエネルギー・パートナーシップ(Global Bioenergy Partnership:GBEP)が2011年12月に公表し た『The Global Bioenergy Partnership Sustainability Indicators for Bioenergy』の著書の中で、環 境、社会、経済の視点からそれぞれ 8 つの指標、つまり合計24の持続可能性指標が提示されてい る17。一方、日本では、GBEP が著書公表前に行っていた持続可能性の基準や指標への検討や整理を 受けて、農林水産省がバイオ燃料の持続可能性に関する国際的基準・指標の策定に向けた日本の考 え方を整理している18。また、経済産業省も2009年 4 月に経済産業省『日本版バイオ燃料持続可能 性基準の策定に向けて』を公表し19、その基準について検討している。そこで、GBEP、農林水産省、
経済産業省の持続可能性基準を整理していくと、表 6 のように示される。
表 6 バイオ燃料事業における持続可能性基準
国際基準 国内基準
GBEP 農林水産省 経済産業省
【環境】 【社会】 【経済】 1 .温室効果ガス
2 .土壌肥沃度 / 土壌生 産力
3 .土地利用変化 / 炭素 ストック / 森林減少 4 .水質 / 量
5 .生物多様性及び生 物系保全
6 .貿易政策の直接 / 間 接の影響
7 .食料安全保障 8 .経済 / 農村振興
1 .LCA での GHG 排出 削減効果
2 .土地利用変化 3 .食料競合
4 .供給安定性・経済性 5 .その他生物多様性
や労働問題等 1 . ライフサイクルGHG
排出量
9 .新たなバイオエネ ルギー生産に対する 土地の分配と所有権
17.生産性
2 .土地の質 10.国内の食料の価格 と供給
18.純エネルギー収支
3 .森林資源の採取水準 11.所得の変化 19.粗付加価値 4 .大気有害物質を含
む非 GHG 大気汚染の 排出量
12.バイオエネルギー 分野の雇用
20.化石燃料の消費と 伝統的なバイオマス の利用の変化 5 .水の利用と効率性 13.バイオマスを収集
する女性や子供たち によって費やされる 不払い時間の変化
21.職業の訓練と再資 格取得
6 .水質 14.現代のエネルギー サービスへのアクセ スを拡大するために 利用されるバイオエ ネルギー
22.エネルギーの多様性
7 .生物多様性 15.屋内のばい煙が原 因による死亡や疾病 の変化
23.バイオエネルギー供 給のためのインフラと ロジスティクス 8 .バイオエネルギーの
原料生産に関連する土 地利用とその変化
16.労働災害や死傷事 故の件数
24.バイオエネルギーの 利用におけるキャパシ ティと柔軟性
17 Global Bioenergy Partnership, 2011, p.3.
18 農林水産省「バイオ燃料の持続可能性に関する国際的基準・指標の策定に向けた我が国の考え方 とりまと め概要」〈http://www.maff .go.jp/j/press/kanbo/kankyo/pdf/081105̲1-01.pdf〉(閲覧日:2012年10月31日)。
19 バイオ燃料持続可能性研究会『日本版バイオ燃料持続可能性基準の策定に向けて』2009年、1‒92頁。
このように、事業化戦略においても、表 6 に示されたバイオ燃料の持続可能性基準を参考にしな がら、国内外において展開されるバイオマス利活用事業に関する取組成果を分析・評価していくこ との必要性が提示されていると考えられる。
Ⅲ 新たなバイオマス政策に基づく戦略的評価の視点と分析・評価モデル 1 . 2 つの政策における事業化のための戦略的意思決定と評価の視点
2006年版総合戦略の反省を踏まえて、新たなバイオマス政策として作成し、公表された基本計画 および事業化戦略は、日本各地で現在実施している、あるいは将来実施しようと考えている事業関 係主体によるバイオマス利活用事業のための戦略的協働体系および意思決定やその取組成果の分 析・評価を想定したガイドラインとして利用されることが予想される。
基本計画では、農林漁業者等のバイオマス供給者、バイオマス製品を製造する事業者、当該活動 が行われる地域の行政機関や関係府省等が相互連携しながら、バイオマスの発生から利用までの総 合的な利活用システムの構築が基本方針として設定され、また、この方針に基づいて10の具体的な 取り組みに関する目的・目標が提示されている。そのうち、2020年までに達成すべき目標として は、農山漁村の活性化、産業創出、地球温暖化の 3 つに注力することの必要性が示されている。ま た、この基本計画に基づいて実施される都道府県や市町村におけるバイオマス利活用事業を通じ て、これら 3 つの目標の達成度やその取組状況を把握し、評価していくための方法としては、表 4 に示されている経済・環境・社会という 3 つの側面からの指標が推奨されている。
それに対し、事業化戦略では、基本計画で設定された2020年までに達成すべき 3 つの目標を実現 させるために、当該地域で発生するさまざまなバイオマスとその利活用技術を組み合わせ、有効的 かつ効率的な自立・分散型エネルギー供給体制を構築していくことが基本方針とされている。そこ で、この方針に基づいて有効的かつ効率的に事業化を進めていくためには、関係府省・自治体・事 業者が協働しながら、図 4 の 7 つの戦略に基づいて、原料生産から収集・運搬・製造・利用まで の、BC のような事業システムを構築していくことの必要性が述べられている。ただし、このシス テムを構築するにあたっては、コスト低減、安定供給、持続可能性基準という 3 つの視点から評価 すべきことが示されている。
これら 2 つの政策内容の分析を通じて、事業関係主体間において相互連携体系を構築すること、
そして、経済・環境・社会という 3 つの視点からの分析・評価、つまり、持続可能性基準による分 析・評価が必要であること、という共通点がみられる。確かに、事業化戦略は、基本計画をより具 体化させた政策であるために、基本計画の考えが事業化戦略に継承されることは当然である。しか し、これら 2 つの政策は、2006年版総合戦略よりもバイオマス利活用事業を実現化させるための具 体的な提案がなされているといえる。
2006年版総合戦略は、事業関係主体間の連携については触れられているが、基本計画が提示して
いる表 3 のような各主体の役割までは詳細に示されていない。こうした事業関係主体との相互連携 の必要性については、バイオマス事業と同じ新エネルギー分野として現在検討されている洋上風 力、波力、潮力を利用した海洋エネルギー事業に関する政策でも、地域での事業展開の必須条件と して示されていることから20、新エネルギー関連の政策では、各主体相互間の連携を重要な取り組 みとして位置づけていると考えられる。
また、バイオマス利活用事業の分析・評価への必要性についても、2006年版総合戦略でも触れら れているが、基本計画や事業化戦略のように、いかなる基準を用いて分析・評価していくべきか、
というところまでは十分に示されていない。この点については、総務省が図 1 のように指摘してい る問題であり、また、基本計画でも2006年版総合戦略の課題に対する原因として取り上げているこ とから、基本計画や事業化戦略は、バイオマス利活用事業の分析・評価も重要視すべきものとして 位置づけている。
このように、基本計画や事業化戦略における新たなバイオマス政策には、表 2 に示された事業関 係主体が、図 2 のような戦略的な協働体系を構築し、その中で意思決定を行うとともに、経済面、
環境面、社会面といった持続可能性を基準としてバイオマス利活用事業の取組成果を分析・評価す べきであることが提示されている。そこで、この分析・評価にあたっては、各主体が、Ⅰ.で述べ たような「点の目標や戦略」や「面の目標や戦略」を事前に検討できるとともに、検討後に設定さ れたこれらの目標や戦略がどの程度有効的かつ効率的に遂行されているかを明らかにできるシステ ムを整備することが必要であると考えられる。すなわち、各主体が、事業化によって事業対象地域 内・外への直接的影響や間接的影響を事前に分析・評価でき、また、その分析・評価の結果に基づ いて当該地域における事業化のための目標や戦略を設定し、これらを BC の構成事業主体やその個 別事業主体に落とし込み、その取組成果を分析・評価していくためのシステムである。こうした分 析・評価システムを構築していくための基礎モデルには、地域内・外の直接的および間接的な影響 を俯瞰的に分析・評価し、「点の目標や戦略」や「面の目標や戦略」を検討していくためのモデル として、マクロレベルを中心とする産業連関表(input output table)ではなく、メゾレベルを中 心とする評価マップ(evaluation map)と意思決定カード(decision making card)が利用できる。
また、評価マップと意思決定カードでの評価結果に基づいて、BC の構成事業主体やその個別事業 主体を対象に設定される「点の目標や戦略」や「面の目標や戦略」の具体化およびその落とし込み を行うとともに、その遂行状況を分析・評価し、経営改善に生かしていくためのモデルとしては、
バランス・スコアカード(balanced scorecard:BSC)が利用できると考えられる。
20 総合海洋政策本部『海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取組方針』2012年、 1 ‒ 6 頁。
2 . 2 つの政策における評価の視点に基づく分析・評価モデル
(1)評価マップと意思決定カードの利用
評価マップとは、特定の時点において、特定主体内または異なる 2 つ以上の主体間で行われる経 営資源の変換や交換という会計上の取引概念に基づいて、事業対象地域内・外の経済活動(経済事 象)を概念的に表わしたモデルである。すなわち、「取引に関係する主体」、「その主体が行う経済活 動」、「その活動に関わる経営資源」という 3 つの要素を主として明らかにしながら、評価すべき経 済対象を表現していく概念モデルである。評価マップの作成ステップ(①〜④)とその表現方法に ついては表 7 のとおりである。
表 7 評価マップにおける作成ステップとその表現方法
作成の順序と内容 表現方法
①域内外の事業関係主体の特定化 事業関係主体を「四角形」
②個別主体の活動および主体間の関係性の明確化 個別主体の活動は①の四角形内に括弧書き
③個別主体や主体間を流れる、あるいは主体内に 蓄積している経営資源の特定化
個別主体や主体間を流れる経営資源を「クリップ アート」
④主体別の評価項目の設定 主体別の評価項目を「吹き出し」
そこで、「化石燃料からりんご剪定枝チップ(木質チップ)に変更し、その生産を行うケース」
の事業対象地域内・外の影響評価を明らかにしていく評価マップを示せば、図 5 のとおりである。
図 5 評価マップの事例
(出典:金藤正直・八木裕之「バイオマス政策・事業評価情報の利用方法に関する研究:青森県中間地域を中 心として」『日本 LCA 学会』Vol.8 No.2(2012年)、174頁の図 3 。)
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図 5 に示された各主体とその関係の 1 例をみていくと、たとえば、域内農・林業家と域内生産者 は実線で繋がっている。この関係は、域内農家から剪定枝を生産者が逆有償で引き受けるという取 引、つまり、「提供 / 支払(域内農・林業家)⇔取得 / 受取(域内生産者)」というモノとカネの流 れとして表わされている経済事象である。もし生産者が逆有償ではなく、無償で引き取る取引であ れば、両主体の関係は点線で表現されることになる。
また、各事業関係主体に書かれている吹き出しには、この事象を評価するための項目が示されて いる。この評価項目は、各主体が行う意思決定に基づいて設定される経済面、環境面、社会面に関 するデータ群である。このデータには、各主体が、バイオマス政策・事業によって明らかにされる 地域内・外に及ぼす影響や、各主体に及ぼす影響の因果関係を分析し、今後の政策・施策や経営戦 略等の改善に役立てていくために、政策評価(行政評価)で利用されるインプット、アウトプッ ト、アウトカムに関する情報・指標が収集される。なお、これらのデータは、マテリアルフロー分 析、LCA(Life Cycle Assessment)、環境会計等の既存評価モデル、あるいは技術情報基盤やバイ オマス政策・事業評価システムから提供される。
これら 3 側面に関する各データは、並列表示される現状とシナリオ、あるいはシナリオと他のシ ナリオにそれぞれ整理されていくが、そのためのモデルが意思決定カードである。このカードに は、誰が(主体項目)、どのような意思決定を行うために(アクティビティ)、どのようなデータを 利用すべきかが明確な形で示される。たとえば、行政組織が政策立案時(草案作成時)に、図 5 に
表 8 地域内の農・林家、生産者、利用者の 3 主体を対象とした取引に基づく意思決定カード例
(出典:金藤正直・八木裕之「バイオマス政策・事業評価情報の利用方法に関する研究:青森県中間地域を中 心として」『日本 LCA 学会』Vol.8 No.2(2012年)、175頁の図 5 。)
示された地域内の農・林家、生産者、利用者の 3 主体間取引に基づく域内評価を行うことを想定し た意思決定カードは、表 8 のように作成される。なお、表 8 に示されている①から⑨までの取引に 関する説明は表 9 のとおりである。
意思決定カードは、各データに基づいて、個別事業主体から地域全体の評価が現状対シナリオ、
あるいはシナリオ対シナリオで比較できるために、各主体が行う意思決定だけではなく、主体相互 間の政策・合意形成やそれによる BC の形成に対して有効的なツールとして利用できる。
このように、評価マップと意思決定カードは、各事業関係主体が事業対象地域内・外への直接的 影響や間接的影響を事前に分析・評価できるために、当該地域に拡げていく事業化のための目標や 戦略、つまり BC の構成事業主体を対象とした「面の目標や戦略」やそれに基づいて個別事業主体
表 9 表 8 の記載内容の説明
取引番号 取 引 内 容
①
域内の農家が収集した剪定枝を、木質チップ生産者に販売するという取引、つまり、農家から剪 定枝が無償で販売(提供)され、生産者がそれを購入するというモノの流れが記載される。また、
逆有償での取引であれば、モノとカネの流れとなる。
②
域内の木質チップ生産者が生産したチップをチップ利用者に販売するという取引、つまり、生産 者が生産した木質チップが販売され、利用者がそれを購入するというモノの流れと、生産者が収 入を得て、利用者が購入額を支払うというカネの流れが記載される。
③ 現状では剪定枝は放置・野焼あるいは廃棄物として処理されているが、シナリオでは剪定枝を収集 することになるために、その収集に要する雇用数(増加人数)とコスト額(増加額)が記載される。
④ 各事業主体が域内自治体から得た補助金が記載される。
⑤
生産者は現状では製品生産時に化石燃料のみを利用しているが、シナリオでは購入した木質チッ プも利用している。そのために、シナリオでは、化石燃料使用量の減少が明らかになるために、
その減少量が削減効果(削減量)として記載される。
⑥
従来のエネルギーとバイオマスとの利用差額:現状利用されていた化石燃料とシナリオで利用さ れる木質チップとの利用額(または価格)の差額が環境保全コスト額として記載される。A:化 石燃料>木質チップ⇒ プラスの経済効果(環境保全コストの減少)B:化石燃料=木質チップ⇒
維持された経済効果(環境保全コストの現状維持)C;化石燃料<木質チップ⇒ マイナスの経済 効果(環境保全コストの増加)また、ここでは、バイオマスを利用することにより、CO2 排出量 の差(環境保全効果)も記載される。
⑦ ⑥の CO2 排出削減量に基づいて、売却可能な排出権の取引額が記載される。
⑧
現状では剪定枝は放置・野焼あるいは廃棄物として処理されているが、シナリオでは剪定枝は収 集されるために、廃棄物排出量やその処理コストが減少することになる。そこで、現状とシナリ オには、廃棄物としての排出量やその処理コスト額が記載され、また、排出量の差とコスト差額は、
廃棄物削減量(環境保全効果)と環境保全コスト額として記載される。
⑨
現状では剪定枝は放置・野焼あるいは廃棄物として処理されているが、シナリオでは剪定枝は収 集されるために、野焼による市民・住民の健康被害が減少することになる。そこで、現状とシナ リオには、野焼による市民・住民の被害人数と被害額(社会的コスト)と、これらの差に基づい た回避効果額が記載される。
(出典:金藤正直・八木裕之「バイオマス政策・事業評価情報の利用方法に関する研究:青森県中間地域を中 心として」『日本 LCA 学会』Vol.8 No.2(2012年)、176頁の表 3 。)