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デザインへの記号論的アプローチ : 事例研究3

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デザインへの記号論的アプローチ : 事例研究3

著者 川間 哲夫

雑誌名 表現学部紀要

巻 14

ページ 69‑78

発行年 2014‑03‑11

URL http://id.nii.ac.jp/1073/00004095/

(2)

1.はじめに

本研究ノートは先の「デザインへの記号論的アプローチ─事例研究 1、2」の続編であ り、「デザイン記号論」の可能性を探求すると共に、具体的事例を通じて記号論的アプロー チの有効性を示す事を目的とするものである。事例研究 1 では 1930 年代に記号論を最初 に導入したニュー・バウハウスのデザイン教育を紹介し、11 の事例について考察した。ま た事例研究 2 においては 1950 年代のウルム造形大学のインフォーメーション学科を中心 とするデザイン教育と記号論との関わりについて紹介し、12 の事例について考察した(1) 本研究ノートにおいては記号論の視点から「情報デザイン」について紹介し、9 の事例に ついて考察する。「情報デザイン」に関しては、最近の情報技術の急激な発展に伴い、さま ざまな書籍が出版されると共に、国内外に数多くの研究教育機関が設置されている(2) しかしながら「情報デザイン」のパイオニアの一人であるG. Bonsiepeも指摘しているよ うに、「情報デザイン」は充分理論体系が確立されないまま、さまざまな形で実践されてい るのが実情である(3)。そしてその領域も無原則に拡大しつつある。

2.情報デザインとは何か

最初に「情報デザイン」の拡大する領域を示すために,さまざまな領域における「情報 デザイン」の名称について紹介する。この事は『情報デザイン原論』において次のように 述べられている。「新聞や雑誌においては、『インフォーメーション・グラフィックス』、ビ ジネスにおいては『プレゼンテーション・グラフィックス』もしくは『ビジネス・グラフィ

デザインへの記号論的アプローチ

─ 事例研究 3 川間哲夫

──要旨

本研究ノートにおいて、私は今日の「情報デザイン」の理論的背景を示すとともに、さまざ まな情報デザインの中から、9 の興味深い事例を取り上げ、情報デザインへの記号論的アプロ ーチを試みた。

研究ノート

(3)

ックス』、科学においては『サイエンティフィック・ビジュアライゼーション』、コンピュ ータ技術者は『インターフェース・デザイン』、会議関係者は『グラフィック・レコーディ ング』、建築家は『ウエイファインディング(経路探索)』、そしてグラフィックデザイナー は単に『デザイン』と呼んでいる。」(4)このように名称が異なるのは、さまざまな領域に おいて「情報デザイン」が関心を持たれている事を示していると共に、領域によってそれ ぞれ関心が異なる事を意味している。こうした「情報デザイン」の多様なあり方を考察す るために,改めてその歴史を振り返ってみるのも意義ある事であろう。「情報デザイン」の 研究者ならびに実践者であるR. E. Hornは自らの著書『視覚言語』において、ラスコーの 洞窟画からバーチャル・リアリティにいたるまで「情報デザイン」の歴史の全体像を年表 にしている(5)。以下にその代表例を示す。

「動物の骨に刻まれた最初の太陰暦」(紀元前 38000 年、フランス、ドルドーニュ)

「アート作品としての最初の洞窟画」(紀元前 20000 年、フランス、ラスコー)

「シュメール人による最初の絵文字」(紀元前 3200 年、メソポタミア)

「最も古いメソポタミアの地図」(紀元前 2300 年、メソポタミア)

「セム族の最初のアルファベット」(紀元前 1700 年、パレスチナとシリア)

「最初の中国の漢字」(紀元前 1500 年、中国)

「イラク南東部の最も古い都市計画」(紀元前 1300 年、メソポタミア)

「楔形文字で書かれた最初の音楽」(紀元前 750 年、メソポタミア)

「最初の地球儀」(紀元前 385 年、ギリシア)

「時間軸上にプロットされた惑星の軌道」(無名の天文学者、西暦 1000 年頃)

「ツリー構図の家系図」(中世初期)

「透視図法」(L. B. Alberti & F. Brunelleschi、イタリアの建築家、西暦 1435 年)

「活字による印刷本」(J. Gutenberg、ドイツの印刷技師、西暦 1445 年)

「本のページナンバーの使用」(A. Manutius、イタリア、西暦 1499 年)

「科学と工学における創造的なスケッチ」(L. da. Vinci、イタリア、西暦 1500 年)

「風見鶏」(C. Wren、イギリスの建築家、西暦 1664 年)

「データをプロットした地図」(E. Halley、イギリスの科学者、西暦 1700 年)

「棒グラフ」(W. Playfair、イギリスの社会学者、西暦 1786 年)

「幾何学図形」(G. Monge、フランスの数学者、西暦 1795 年)

「統計的な地図」(C. J. Minard、フランスの技術者、西暦 1851 年)

「円グラフ」(F. Nightingale、イギリスの看護婦、西暦 1858 年)

「視覚的な統計」(M. Mulhall、イギリスの統計学者、西暦 1884 年)

「アイソタイプ」(O. Neurath、オーストリアの社会学者、西暦 1924 年)

「コンピュータのフローチャート」(J. von Neumann、アメリカの数学者、西暦 1945 年)

「グラフィカル・コンピュータ」(I. Sutherland、アメリカのコンピュータ技術者、西暦 1963 年)

070 和光大学表現学部紀要 14 号・2014 年 3 月

(4)

「バーチャル・リアリティ」(I. Sutherland , アメリカのコンピュータ技術者、西暦 1968 年)

「ワールド・ワイド・ウエッブ」(T. Berners-Lee、イギリスの科学者、西暦 1991 年)

以上に示した「情報デザイン」の歴史の代表例を眺めて気づく事は次のような事である。

第一に「情報デザイン」には伝達すべきコンテンツが存在し、そのコンテンツには「時 間」、「空間」、「言葉」、「音楽」、「宗教」、「病気」、「戦争」、「経済」、「社会」といった多様で 複雑な内容が含まれている。第二に「情報デザイン」の方法にはコンテンツに応じてそれ ぞれの制作者の創意工夫が認められる。第三に「情報デザイン」の制作者は、天文学者、

数学者、医者、看護婦、建築家、アーティスト、社会学者、技術者、物理学者と多岐にわ たり、彼らはデザイナーというよりはそれぞれの領域の専門家であると共に、コンテンツ を視覚化する方法に関心を寄せた言わば「アマチュアのデザイナー」と言える。

次に以上に示してきた「情報デザイン」を記号論的な視点で考察するならば次のように なる。アメリカの記号論者C. S. Peirceは「記号とはある観点において誰かに対して何かの 代わりとなるもの」ときわめて簡潔に定義づけている(6)。図 1 はC. S. Peirceの記号の定 義に基づいて記号構造を図化したものである。すなわち「指示対象」とは「記号」が指示 する対象であり、それは単なるイメージである場合も,実在する事物である場合も、形式 的に存在する場合もある(7)。また「解釈項」とは、C. S. Peirceが繰り返し述べているよう に、個々の解釈者ではなく、記号を指示対象に変換するルールとして理解されるものであ

(8)。後にC. S. Peirceは「解釈項」を「直接的解釈項」、「動的解釈項」、「最終的解釈項」

の3つに細分化し、それらをそれぞれ「センス」、「ミーニング」、「シグニフィカンス」と対 比させている(9)。以上に示した記号、指示対象、解釈項の三項関係は極めて単純である が、複雑な記号現象が生み出されるのは、記号の自在性によるものである。すなわち記号 は単に記号であるだけでなく、指示対象や解釈項も記号とみなしうるのである。この事を

C. S. Peirceは「解釈項とはより発達した記号である」と

述べている(10)

次に以上に示した記号構造に基づいて「情報デザイ ン」を解釈するならば次のようになる(図 2)。すなわち 第一に「情報デザイン」における「情報」とは「記号」

と同等のものとみなされるが、そのほとんどが視覚的な 記号である事は注目に値する。そして「情報」が伝える

「コンテンツ」は「指示対象」とみなす事ができるが、

それらには視覚的なものと非視覚的なものが含まれてい る。とりわけ興味深いのは非視覚的な「コンテンツ」を 視覚的な「記号」を使って伝達する方法である。この点

に関してR. E. Hornも「視覚言語」において指摘してい

るが、必ずしも明確には記述してはいない(11)。またユ

図 1 「C. S. Peirce の記号構造」

図 2 「情報デザインの構造」

解釈項

記号 指示対象

変換ルール

情報 コンテンツ

(5)

ーザの「情報」から「コンテンツ」に「変換するルール」やデザイナーの「コンテンツ」

から「情報」に「変換するルール」は「解釈項」とみなされるが、この「変換ルール」に は明確にコード化されたものとコード化されていないものがある。そしてこの「変換ルー ル」は「情報デザイン」の理論化において極めて重要な課題と考えられる。第二に「情報 デザイン」において直接デザインされる対象は「情報」であって、「コンテンツ」でも「変 換ルール」でもない。この事を「天気図」や「楽譜」を例に説明するならば、次のように なる。すなわち私たちが実際にデザインできるのは「記号」としての「天気図」や「楽 譜」であって、「指示対象」としての「明日の天気」や「音楽」そのものではないし、「解釈 項」としての「天気図の変換ルール」や「楽譜の変換ルール」でもない。第三に「記号」

としての「情報」は「コンテンツ」としての指示対象や「解釈項」としての「変換ルー ル」と相互依存関係にあり、「情報デザイナー」は伝達すべき相手の「変換ルール」を考慮 した上で、ある「コンテンツ」を適切に伝えるために「情報」をデザインしている。従っ て「情報デザイン」の事例を記号論的に分析し、その記号プロセスを明らかにする事は

「情報デザイン」の理論化へ向けての第一歩であろう。

3.デザインへの記号論的アプローチの事例

以下に記号論的な視点において興味深い「情報デザイン」の事例を示す。

1)C. Eames の「フランクリンとジェファーソンの世界」

アメリカの第二世代のインダストリアルデザイナーであるC. Eamesは椅子のデザイナ ーとして活躍したが、数多くの映像作品を制作した事で、情報デザインの先駆者としても 知られている。図 3 は「フランクリンとジェファーソンの世界」という彼の映像作品であ る。映像の構成上の一つの特徴は、年表が中央左から右へとフランクリン誕生の 1705 年 から 5 年毎に区切られ、年表の上下には当時の肖像画、住宅、家具、書籍、筆記具、仕事 場、看板などの視覚的イメージが配置されている点である。この細長い年表を左から右へ とカメラを移動させ、時間軸に添ってアメリカ合衆国誕生の時代的、道徳的、社会的雰囲 気を適切に表現している。そしてナレーショ ンによってアメリカを代表する二人の政治家 の一生が紹介されている。この映像作品を

「情報デザイン」とみなし、記号論的な視点 で捉えるならば、その特徴は時間を伴う通時 的(Diachronic)コンテンツを、時間を伴わない 視覚的イメージの配置という共時的(Syn-

chronic)デザイン方法によって表現している点

である(12)。こうした記号論的特徴はカレンダ 072 和光大学表現学部紀要 14 号・2014 年 3 月

図 3 「フランクリンとジェファーソンの世界」

(6)

ー、日記、年表、時計さらには歴史博物館の展示といったあらゆる時間と関わるコンテン ツのデザインに広く観察する事ができる。

2)「東日本大震災直後の各地域の避難状況」

図 4 は東京大学空間情報科学研究センター「人の流れプロジェクト」に関するサイトの 可視化の例である。具体的には東日本大震災のあった 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分 18 秒直 後の陸前高田市の非難状況を再現した映像である。映像の作成方法は「避難経路」(聞き取り 調査)の経路状況、避難開始・終了時刻に基づいており、背景地図のグレーの地域は「浸水 区域」を表わしている。この映像により人々が地震直後からさまざまな方向に避難をおこ ない、最終的には浸水区域に隣接する地域や、浸水区域内の高台に避難していることが分 かる。こうした人々の行動の可視化は今

後防災やマーケティング・リサーチ等の領 域においてますます重要な役割をになう と考えられる。こうした可視化を記号論 の視点で捉えるならば次のようになる。

すなわち記号に指示対象との現実的な対 応関係が認められる場合、その記号はイ ンデックス(Index)と呼ばれ、この映像 における人々の現実的な行動を示す地図 上の痕跡もまたインデックスとみなされ (13)。そしてそれらの痕跡の集合は人体 における心電図のように人々の行動をリ アルに伝えている。

3)「ヒューマノイドロボット」

従来ロボットは工場内の産業用のもの が主流であったが、最近では私たちの身 近な環境でも観察されるようになった。

図 5 は産業技術研究所が開発した限りな く人間に酷似したヒューマノイドロボッ トであり、現在病院等で患者の安心感を 得られるかどうかの実証実験がおこなわ れている。こうした人間に酷似したヒュ ーマノイドロボットを観察して気づく事 は、リアルに人間の表情が再現されれば

される程、逆に不気味さを感じてしまう 図 5 「ヒューマノイドロボット」

図 4-1 「東日本大震災直後の陸前高田市の避難状況」

14 時 50 分

図 4-2 「東日本大震災直後の陸前高田市の避難状況」

15 時 26 分

(7)

という点である。ロボット工学者森政弘はこうした現象を「不気味の谷」と呼んでいる(14) こうした指示対象との類似性を持つ記号は「アイコン(Icon)」と呼ばれる。そして「アイ コン」は強い類似性を持つ「プレロメータ(Pleromata)」と、弱い類似性を持つ「スキメータ

(Schemata)」に細区分される(15)。私たちは「プレロメータ」の例を食品サンプルやD. Hanson の生き写し彫刻やバーチャル・リアリティにも観察できる。

4)「春画」

図 6 は医学者養老猛司が『日本人の身体観の歴史』の中で紹介した春画である(16)。彼 はこの絵は画家が虚構として描いたものではなく、性交時の人間の脳内における生殖器の 大きさを考慮して描いたものである事を指摘している。私がここで問題にしたいのは、ど うしてこうした記号の増幅作用が人間には起こるが、機械には起こらないのかという点で ある。記号論的な視点で捉えればこうした記号の増幅作用は「仮説法(Abuduction)」と無 関係ではないであろう(17)。そして注目すべき はこうした記号の増幅作用が私たちの想像力と 関わり、コミュニケーション上の誤解やさまざ まな創造活動の原動力となっている点である。

5)M. Bill の「15 のバリエーション」

図 7 はウルム造形大学のM. Billによる「15 のバリエーション」と題する作品である。15 のすべてのバリエーションは多角形が内接する 最初の原画に基づいて制作されており、言わば 幾何学的論理に支えられた造形作品と言える。

記号論的な視点でこの作品を解釈するならば、

記号と記号との関係を取り扱う「構文論(Syn-

tactics)」による造形とみなす事ができる(18)。こ

うした論理に支えられたデザインはモダンデザ インの普遍的な思想とも合致する。そして同様

の例はM. Billの数学的な論理によって正当化

された壁掛け時計のデザインにも観察できる。

6)M. Duchamp の「階段を降りる裸体」

図 8 はM. Duchampの「階段を降りる裸婦」

(1912 年)という作品である。この絵を情報デザ インと結び付ける事に違和感を感じる人がいる か も し れ な い 。し か し な が ら 美 術 史 家S.

074 和光大学表現学部紀要 14 号・2014 年 3 月 図 6 「性交時の人間の脳内では生殖器がやたら

に肥大化する」

図 7 「M. Bill の『15 のバリエーション』」

(8)

Giedionが指摘しているように、私たちの目には一つのまとまりのあるものとしてしか見 えない運動を分節化し、視覚化したこの絵が、当時の労働の科学的管理法であるアッセン ブリーラインによる生産方式を表象しているとすれば、明らかに情報デザインの役割を果 たしていると言える(19)。記号論における「分節化(Articulation)」は「あ」、「い」、「う」、「え」、

「お」といった言葉の分節や「ド」、「レ」、「ミ」といった音楽の分節や「赤」、「青」、「黄」と いった色彩の分節にも広く観察される。

7)「花の嘘」

イタリアの記号論者U. Ecoは「記号論とは原則的に言えば、嘘を言うために利用しう るあらゆるものを研究する学問」と定義づけ、人間の記号の本質的な特徴を暴いている(20) これに対し生物学者日高敏隆は「『人間はうそをつくが、自然はうそをつかないから美し い』と昔から言われてきた。だが残念ながらこれはうそである。……自然はうそとごまか しに満ちあふれている。ハナバチランと呼ばれるランの花は、ある種のハナバチの雌にそ っくりである。大きさ、色、おまけに匂いまで、そっ

くりなのだ。」と述べている(図 9)(21)。仮に日高敏隆の 指摘が正しければ、U. Ecoの人間の記号の定義はその 妥当性を失う事になる。そこで私は次のように解釈す

る事でU. Ecoの考え方を擁護したい。この場合確かに

花の擬態は昆虫をだますために用いられているが、人 間の嘘とは本質的に異なる。すなわち人間の嘘は気ま まで、任意で、恣意的であるが、自然の擬態は気まま でもなければ、任意でもなければ、恣意的でもなく、

現実とリアルに結びついている。従って人間の嘘と自 然の擬態は等価には扱えない。

8)「Siri(音声認識技術)」

1980 年初頭、私は家電メーカーのデザイン部門に 勤務していた。この頃から家電製品にも電子部品が組 み込まれ、デザイナーもインターフェースの重要性に 気づき始めた。すなわち彼らは自分たちがデザインし た製品が何であるか、そしてどのように使うのかをユ ーザに伝える事も自分たちの仕事であるという認識を 持つようになった。そしてデザイナーが用いる手段も 従来の「色」、「形」、「テクスチャー」に加え、「言葉」や

「音」や「音声」や「光」や「振動」といった手段も 用いられるようになった。一方当時同メーカーの技術

図 8 「階段を降りる裸体」

図 9 「ハナバチラン」

(9)

部門においては音声入力ワープロの開発が押し進められていた。しかしこの開発は後に中 断される事になる。理由は音声認識がきわめて難しい技術である事が明らかになったから である。30 年後の現在iPadiPhoneに搭載された音声認識技術、Siriは主要8カ国語に 対応している(図 10)(22)。実際日本語、英語、韓国語、中国語で検証してみたところ、その 性能は 100%完全ではないものの、驚く程すばらしいものである。今後Siriのような音声 入力技術はナビゲーション、自動翻訳、さまざまな機器の操作、そして障害者のサポート 等に幅広く利用されるであろう。そしてこうした新たな情報技術の進歩は製品のインター フェース・デザインに大きな影響を与え、デザイナーの仕事の一部はモノをデザインする 事から記号の運び手(Sign Vehicle)をデザインする事へとシフトすることになるであろう(23)

9)「3D プリンター」

最近「3Dプリンター」の開発が話題になっている。

「3Dプリンター」とは樹脂等を塗り重ねる事によって、

コンピュータ内の 3Dデータを出力できる装置であり、

キャラクター、アクセサリー、模型、車のバンパー、

人工骨等の立体物の制作に幅広く利用される事が期待 されている。図 11 はMITのメディア・ラボの例である。

「3Dプリンター」の一番の特徴はコンピュータの制御 により、熟練した制作技術なしに、立体物を精巧に一 品生産できる点にある。記号論の視点で「3Dプリンタ ー」による制作物を捉えるならば、コンピュータによ ってコントロールされたタイプ(Type)としての数理的 データを、トークン(Token)として現実化するレプリ カ(Replica)とみなす事ができる(24)。こうした「3Dプ リンター」によるデザインはまさに今日の高度情報技 術に支えられた「情報デザイン」の代表例である。

4.おわりに

本研究ノートにおいて、私は歴史の中の多様な「情 報デザイン」のあり方を検討するとともに、記号論的 な視点から「情報デザイン」を捉え直し、興味深い 9 の事例の記号プロセスを考察した。今後新たに開発さ れる情報技術は「情報デザイン」に大きな影響を与え ていく事が予測され、そうした中でデザイナーはます ます「コミュニケータ」としての役割を果たさなけれ 076 和光大学表現学部紀要 14 号・2014 年 3 月

図 10 「Siri」

図 11 「3D プリンター」

(10)

ばならないであろう。そして「情報デザイン」の全体像を理論的に捉えるためには、かつ てウルム造形大学のE. Waltherが新たに提案した「セミオティック(記号論)・デザイナー」

の活躍もまた期待される(25)

──注

(1) 川間哲夫、「デザインへの記号論的アプローチ─事例研究 1」和光大学表現学部紀要、第 12 号、2011 川間哲夫、「デザインへの記号論的アプローチ─事例研究 2」和光大学表現学部紀要、第 13 号、2012

(2) 情報デザインアソシエイツ編、『情報デザインソースブック』、グラフィック社、289-306、2003

(3) G. Bonsiepe、「武蔵野美術大学課外講座」2000.9.28

(4) R.ヤコブソン編、篠原稔和監訳、『情報デザイン原論』、電機大出版局、12、2006

(5) R. E. Horn. Visual Language, Macro VU press, 23-50, 1999

(6) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-2」和光大学表現学部紀要、第 2 号、2001

(7) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-3」和光大学表現学部紀要、第 3 号、2002

(8) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-1」和光大学表現学部紀要、第 1 号、2000

(9) C. S. Hardwick ed. Semiotic and Significs, Indiana University Press, 109-111, 1977

(10) 川間哲夫、「A Study of C. S. Peirce’s Semiotic Terminology」和光大学人文学部紀要、第 20 号、138、1986

(11) 前掲(5)に同じ

(12) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-2」和光大学表現学部紀要、第 2 号、2001

(13) 同上

(14) 森政弘、「不気味の谷」、季刊エナジー、vol.7、No.4、33-35、1970

(15) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-4」和光大学表現学部紀要、第 4 号、2003

(16) 養老孟司、『日本人の身体観の歴史』、法蔵館、141-142、1996

(17) 前掲(8)に同じ

(18) 前掲(7)に同じ

(19) S.ギーディオン、栄久庵祥二訳、『機械化の文化史』、鹿島出版会、97、1977

(20) U.エコー、池上嘉彦訳、『記号論』、8,1980

(21) 日高敏隆、『人類はいません』、福村出版、38-40、1990

(22) http://ja.wikipedia.org/wiki/Siri

(23) 川間哲夫、「デザインのための記号論用語研究-2」和光大学表現学部紀要、第 2 号、2001

(24) 同上

(25) E.ヴァルター、向井周太郎他訳、『一般記号学』、勁草書房、187-189、1987

──図

(図 1)「C. S. Peirceの記号構造」

(図 2)「情報デザインの構造」

(図 3)「C. Eamesの『フランクリンとジェファーソンの世界』」

(http://eamesdesigns.com/catalog-entry/franklin-jefferson-film/)(2014.2.8 図版許諾申請)

(図 4)「東日本大震災直後の陸前高田市の避難状況」

(http://m.youtube.com/watch?v=nNZxGq70Q_U&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3DnNZxGq70Q_U)(2014.2.9 図版許諾申請)

(図 5)「人間に酷似したヒューマノイドロボットに弟が誕生#DigInfo」

(http://m.youtube.com/watch?v=NzIqA9ITOZk)(2014.2.8 図版許諾申請)

(図 6)「性交時の人間の脳内では生殖器がやたらに肥大化する」養老猛司著、『日本人の身体観の歴史』、法 蔵館、141、1996

(11)

(図 7)「M. Billの『15 のバリエーション』」

(http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/449/1/57-2-kyoiku-17.pdf)

ならびに(http://metrocs.jp/special/maxbill/fifteen_variations.html)(2014.2.8 図版許諾申請)

(図 8)「M. Duchampの『階段を降りる裸体no.2』」(リチャード・ガイ・ウィルソン他著、永田喬訳、「アメ リカの機械時代 1918-1941」、鹿島出版会、49、1988

(図 9)「ハナバチラン」(出典不明)

(図 10)「Siri」(http://www.apple.com/jp/ios/siri/)(2013.12.2 図版許諾申請)

(図 11)「3Dプリンター」

(http://www.kraftwurx.com/ja/3d-model-printing/3d-printing-news/2031-why-a-diy-pioneer-dislikes-3d-printing)

(2013.11.28 図版許諾申請)

078 和光大学表現学部紀要 14 号・2014 年 3 月

参照