IIB‑2 代替フロンの温室効果に関する量子化学的研 究 (『人間と地球環境』プロジェクトメンバー研究 中間報告 : 地球環境保全とエコシステム)
著者 石田 俊正
雑誌名 静岡大学学内特別研究報告
巻 1
ページ 79‑80
発行年 1999‑06
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00008236
ⅡB‑2
[研 究の概要
]代替フロンの量子化学計算により、理論的に赤外 スペ ク トルを見積 もり、温室効果に対する影響を調 べ る。また、 oHラ ジカル との反応性 を調べ、代替 フロンの寿命を見積 もることも目指す。
[緒 言
]地球 に大気 が な い とす ると、地 球表 面気 温は
‑18°
Cと なるはずであるが 、大気層 の持つ保温効 果のために地表平均気温は
15°Cと なっている。こ の保温効果、いわゆる淵室効果には、水蒸気・二酸 化炭素などが関与している。これは 、水・二酸化炭 素分子が 245K(‑28°
C)の地球放射の赤外領域に強 い吸収をもつためで ある。近年、化石燃料の燃 焼 による二酸化炭素の増加による温室効果の増大が 問題になっているが、オゾン層破壊の原因であるフ ロン
(クロロフルオ ロカーボン
)も、温室効果が大 きい。現在オゾ ン層を全 く破壊 しない代替フロン も開発 されてい るが 、た とえば 、その うちの一つ HFC‑134a(CF3CH2F)は フロン
11の地球温暖化係 数は
1/4から
1/3程度であるが 、それでも、同じ 重量換算で二酸化炭素の 1,890倍 の地球温暖化効果 がある。したが って、代替フロン候補物質の地球温 暖化効果を調べ ることは重要であると考えられ る。
そこで、量子化学計算により、理論的にその効果 を 見積 もろ うと試みた。
[従 来の研究
]イオン化状態 より高い励起状態で ある超励起状 態か らの自動イオン化過程であるペニングイオン 化を量子化学的、反応動力学的に研究 してきた。ま た、量子化学 と反応動力学の接点 となるポテンシャ ルエネル ギー面を自動的に生成する方法について、
Northwestern大 学の Schatz教 授 と共同研究を行 っ
代替フロンの温室効 果に関する量子化学的研究
工学部 石 田俊正
ている。最近では、理学部相原教授 とともに、星間 空間において理論的に考えられ るよりも水素分子が 豊富であるとい う問題 、いわゆる「分子水素問題」
について同様の手法を用いて取 り組んでいる。
表
計算を行 つた第三世代代替フロン・代替フロ ン・ 特定フロン分子
フ ッ素置換 ジ メチルエーテル 類
1,1,1,1',1',1'̲ヘ キサ フル オ ロジ メチルエーテル
1,1,1,1'―テ トラフルオ ロジ メチル エーテル
1,1,1',1'一テ トラフルオ ロジ メチル エーテル
1,1'¨ジ アル オ ロジ メチルエ ーテル
アッ素置換エチル メチルエーテル類 エチル (ト リフルオロ)メチルエーテル フッ素置換■ チレンオキシ ド類
1,1,2,2‑テ トラフルオロエチ レンオキシ ド
1,1,2‑ト リアル オロエチ レンオキシ ド
1,1̲ジアル オロエチレンオキシ ド
フッ素置換プ ロバン類
1,1,1,2,2‑ペン タアルオロプ ロバン 特 定 フロン
アロン
11(ト
リクロロフル オ ロメタン)フロン12(ジク ロロジ アル オ ロメ タン)
代替 フロン
HFC‑134a(1,1,1,2‑テ
トラ アル オ ロエ タン)[計 算方法
]量子化学計算により、第二世代代替フロンについ て赤外スペク トルを計算した。基底関数系として分 極関数の含まれた 卜
31lG**を用い、
B3LYP(Lee―Yang―Parrの
相 関項を用いた
Beckeの 3パラメー タ法
)とい う密度汎関数 と Hartree̲Fock計 算を組 みあわせた方法によつた。 B3LYP法 は、赤外振動 数の再現性のよいことが知 られ ている。
計算を行つた分子は、フッ素置換ジメチルエーテ ル類 4種 、フッ素置換■チル メチルエーテル 1種 、 アッ素置換ェチ レンオキシ ド類 3種 、フッ素置換プ
‑79‑
ロバン類
1種である。この他にモン トリオ‐ル議定 書で
1995年末までに全廃 された特定フロンの代表 としてフロン
11、 12、上記の
HFC‑134aについて も計算を行つた。表に、計算を行つた分子を上げた。
量子化学計算は、原子核を固定して分子中の電子 の運動を量子力学的に調べ るもので ある。各分子 について、電子エネルギーと核の位置エネルギーを 加 えたものが一番小さくなる原子核の配置
(分子構 造 )を 求め、その構造 (最 適化構造 )で 赤外スペ ク
トル を計算した。
[計 算結果・考察
lまず 、
HFC‑134aについて、振動数を理論計算で 求め、実測の振動数と比較した。その結果、実測の 振動数 と計算の振動は相関係数 0,9998の 相関があ ることがわか つた。この結果か ら、振動数について は、絶対値を完全に再魂 しないとしてもかなり信頼 できる値が得 られ ると考 えられ る。
図 1,2に 、
1,1,1,1',1',1'―ヘキサフルオロジメチ
ルエーテル CF30CF3,1,1,2,2‑テ トラフルオロエチ レンオキシ ド CF2CF20に 対する計算赤外スペ ク
トル をそれぞれ示した。
大気の窓と呼ばれる波長の 39.2μ
m,10,212.午mは二酸化炭素、水、オゾンの吸収が少ないので 、こ の領域に吸収が強いと温暖化に対す る関与が大きい
F3‐ 0‐
CF3‑
図
111,■,■ ,■',1'9■'‥ヘキサフルオロジ メチルエー テル CF30CF3に 対す る計算赤外スペク トル
と考えられ るので、この領域に吸収があまりないほ うが望ましい。 この意味で、 CF2CF20の ほ うが、
CF30CF3よ り望ましい と考えられ る。
また、フッ素原子 Fが 増えると吸収強度が増加 すること、フッ素置換エーテル の方がアッ素置換■
チレンオキシ ドよりも 39.2μ mに 吸収が多 く、地 球温暖化 を進 める傾向が あると考 えられ ることが わかつた。とくに、吸収スペク トルの計算のみか ら は、代替フロン
HFC‑134aよりもフッ素置換ューテ ルの方が地球温暖化を進めることにな りそ うである
ことがわか つた。
計算による赤外強度はあま り正確でないが 、赤外 振動数はかな り正確に出 るので 、代替物質の ス ク リーニングをす るには有力な手法になると考えら れ る。
[今 後の展望
]赤外吸収スペ ク トルを計算することに より、分子 がどの程度地醐 ヒに寄与しそ う洲 ま見積 もれ る が、も う一つ重要なのはその分子がどの程度の間、
大気中で存在するかとい う寿命の問題である。寿命 の問題については、大気 中での寿命 を主に支配する と考 えられ ている OHラ ジカル との反応性を遷移 状態理論を用いて評価をする予定で 、計算を進行中 である。
CF2CF20‑
500
≧
還
400300 200 100
0 10 9 8 7 6
:ambdarmicrOmeter
図 2:■,■,2,2‑テ トラフルオロエチ レンオキシ ド
CF2CF20に
対する計算赤外スペクトル剛 5 0 0
4 ︒ ︒ お 一●こ ユ ニ
‑80‑