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空間定位における個人差の問題 ―知覚と人格の研究のために―

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(1)

空間定位における個人差の問題

―知覚と人格の研究のために―

武  藤  雪  下

 最近多くの研究者によって 知覚経験を新たな観点から見直そうとする傾向が高まってきた。新 たなる観点とは 知覚経験における知覚者の役割を重視するようになったことである。

 従来の伝統的知覚理論にあっては 一方では 知覚経験を 有機体の直面している場の構造によ って説明せんとし 他方では 知覚経験を生起させる刺戟の性質と 感覚器管および刺戟を媒介す る経神構造の特殊な作用に重点をおいた。そして数多くの実験が多くの実験者達によって熱心に続 けられ その限りにおいて 研究の成果には見るべきもの多く 場の構造的特性の役割 および感 覚的神経過程の役割について それまで見いだされなかった多くの事実が明らかにされた。かくて 近代的知覚理論は 益々その体系を確立して行ったと見倣さるべきであるが 我々は一つの重大な る事実に否応なしに気付かせられる。それは ほとんどすべての実験に現われる 反応の個人差の 事実である。

 「知覚」の定義がどのようになされようとも そこには必ず「知覚者」が存在する。従って実験 結果に現われる知覚経験の個人差は  もし実験上の重大な誤りがない限りは 知覚者の側に知覚経 験の差異を生ぜしめる要因が存在するのでなければならない。その要因が何であるか また いか なる体制をなすものであるかは暫らく措くとしても 伝統的知覚理論にあっては 知覚者の情緒・

欲求その他Personに属する諸要因については ほとんど触れるところがなかった。また感覚表面 に与えられた刺戟の性質と 実際に知覚されるものとの間に 喰いちがいが見られた場合にも 精

々その刺戟についての個人の過去経験の集積された効果に依るとし 個人の一般的生活経験を重要 視するというより むレうその特殊な刺戟に対する特定の経験だけを重要視することによって こ の喰いちがいを説明せんとした。

 Personそれ自身はすべての感覚の要であり その影響を追求すべき動機の根源であるのにPerson それ自身は彼自身の知覚経験の決定因としては ほとんど顧られなかった。そして 実験結果に見 られる個人差は 精密な測定という澄みきった大気中にある厄介なバリテリヤであると見倣され 個人差そのものの究明に専心するどころか むしろいかにしてそれを除去するかという点た努力が 払われた。知覚経験における知覚者要因を考慮に入れない知覚理論の行き方は その実験方法にも 大きな影響を与え知覚経験についての研究は 少数の被験者による実験で十分効果をあげ得ると 期待され 非常に少い被験者の結果だけで結論を出した。

  こめように知覚者を考慮に入れない 或は感覚領域だけの研究に集中していた知覚理論も 知

(2)

覚の投影的性格に注目されるようになって以来 漸く研究の観点が変えられ 知覚過程はそれが十 分に理解されるためには 個々の知覚者の全体的心理的体制の文豚において研究さるべきことが認 められるようになってきた。知覚が情緒や個人の動機を反映するというζとは 長い間認められて きたことであるが 実験心理学においては 投影知覚が複雑であり 操作不能で科学的分析に適し ないものであったために傍観されていた。哲学者や理論心理学者達は 長い間この問題に対して案 を練ってきたけれども 大きな貢献のあったのは 主として知覚を診断の道具として用い 投影知 覚の問題を中心的興味とする臨床心理学者であった。知覚経験の問題が Personalityの構造解明

・診断・治療をその中心的課題とする 臨床心理学者によって大きく採上げられ 観点を変えられ たということは 極めて興味深く 含蓄のあるところである。

 知覚の中にPersonal要因が最も顕著にその役割を発揮するのは 多義的場面においてである。

日常経験で人が遭遇する知覚場面は 極あて多義的な場面から 十分に構造化された場面までの大 きな拡がりを有しているが 経験される多くは かなりの程度に構造化された場面である。構造化 が十分であればあるほど 場面の知覚され方も それだけ決定的であってPersonal要因の果す役 割は減ぜられる。従って投影知覚研究者が 知覚に及ぼすPersonal要因の効果を追究してPers−

onality解明の一助とするために 多義的場面を用いた研究に専念したことは当然の成り行きと云 えよう。かくてRorschachのink届otその他の多義的図形が考案され その面からのpersonality の実際的究明に多大の貢献をしたことは認められねばなるまい。

 しかし臨床学者による投影的知覚研究は 直ちに知覚の一般理論の改訂を意味するものではなか った。科学の統一を策ることは 研究者に課せられた理想的目標ではあるけれども 実際には 人々は屡々自己の独立的弓域内の理論で満足しがちである。 この欠陥は臨床心理学者と一般心理学

との関係においても やはり例外ではなかった。主として知覚の一般理論を発展させる任に当って いる心理学四達は 臨床心理学者達が新しく発展させた問題を無視しがちであったし 他方臨床心 理学四達は 事実の解明からさらに進んで それを理論へと発展させるための意欲的努力を怠り 特に 臨床的事実が 今まで採られてきた理論と相容れないような場合でも 依然として従来の理 論を容認する傾向があった。かくて 知覚におけるPersona1要因の役割が 認識されるようにな りながらも 知覚経験そのものに必須の要因として採上げられるようになったのではなくPersonal 要因は単に多義的な 構造化の不十分な 謂わば特殊の場面においてのみ 重要な役割を果すに過 ぎない要因として 知覚理論にとっては さほど二期的な発見と見徹されるまでに至らなかった。

H.WernerとS. Wapnerは知覚の投影的性格に着目し 1951年から1952年にかけて 一連の 垂直知覚実験を行い 知覚は対象の刺戟と有機体状態との交互作用の産物であることを見いだし 有機体の状態は知覚体制の中に統合された重要な要因であることを明らかにした。 (文献5 7

8 9 ユ0 11)

 実験1〕 視的垂直知覚に及ばず外部刺戟の効果(:文献7)

 ある視的対象の見かけの垂直が その対象以外からの刺戟によって 如何なる影響をうけるかに        (62)

(3)

ついてWemerらは被験者の右側または左側の頸部運動神経に電気刺戟をあたえて 垂直判断を なさしめた。その結果暗室内の発光棒の見かけの垂直は 刺戟をうけた頸部と反対側にずれること が知られた。さらに聴刺戟による場合にも 電気刺戟の場合と同じく 刺戟をうけた方の耳と反対 側にずれ しかもずれの程度も同じであった。 このことは感覚的要因と筋肉的要因が 知覚過程に おいて 機能的等価(functional equivalence)を有することを示す。 さらに何らの外部的刺戟 があたえられない時にも 見かけの垂直は真の垂直位から幾分ずれる そしてそのずれ方は個入に 一貫性がある。このことは個々の有機体の状態は 外部刺戟とは独立に 見えの垂直に影響する重 要な変数であることを示すものである。

 実験皿〕 視的垂直知覚に及ぼす身体傾斜の効果(文献8)

 身体を少し傾けて暗室内の棒を観察すると 見かけの垂直は身体の傾き方向と反対側に少しずれ ることは所謂E−phenomenonとしてAubert, G. E. Miiller, H. A. Witkin&Aschらによ って明らかにされているが これは身体が椅子や板で支えられている状態での観察結果である。

Wernerは被験者が自己の筋肉的な努力だけによって身体を傾けた場合には何かに支えられて いる場合にくらべて 筋肉的状態が異っているので 発光棒の見かけの垂直は変るであろうとの予 想で実験を行った。その結果Wernerは 身体が支えられていない場合には 見かけの垂直は身 体が支えられている場合よりも 身体の傾きと反対側に大きくずれ さらに両方の場合において 身体の傾きが大きくなると 見かけの垂直のずれも大きくなることを見いだした。 これは 身体が 支えられていない場合 および身体の傾斜度が大きい場合には筋肉的の関与度(muscular−invo1−

vement)が より大になるためであるとし 知覚的ずれの程度は 身体の傾きの程度それ自身に 依存するよりも むしろ身体における筋肉的関与度に依存すると解釈した。

 実験亜〕 視的垂直知覚に及ぼす身体旋回効果(文献9)

 身体をコマのように旋回させることによって蝸牛殻に刺戟をあたえ 垂直位を判断させると 見 かけの垂直は 加速的旋回か減速的旋回かによって それぞれ異った影響をうける。加速的旋回の 場合には 旋回方向と反対側にずれ 減速的旋回の場合には 旋回方向と同じ側にずれる。 この結 果は実験1および実験皿と軌を一にする。

 実験IV〕 見かけの垂直に及ぼす棒の始動位置効果(文献10)

 垂直知覚において 対象の最初の傾斜方向が左右いずれの側であるかによって 見かけの垂直の 真の垂直位からのずれの方向は異なり 対象は最初の傾斜方向にずれることを明らかにし このこ

とからWernerは対象の最初の傾斜方向は 有機体の状態に影響をあたえるものであるとした。

 実験V〕 触運動的垂直に及ぼす身体状態効果(文献11)

 WernerとWapnerの前記諸実験は 視的垂直の知覚に関するもめであったが 本実験では種 々の有機体状態が 触蓮勤たよる垂直判断た及ぼす効果について実験された。その結果有機体状態 が右側的(頭部右側傾斜・身体右側傾斜・右方向加速的旋回)の場合には 見かけの触運動的垂直 は左側にずれ 左側的(頭部左側傾斜・身体左側傾斜・左方向加速的旋回)の場合には 見かけの 垂直ほ右側にずれることを見いだし 視的垂直判断に関して得ら.れた結果と同じ結果が得られた。

(4)

 これらの一連の実験に基づいてWernerらは知覚に関与している諸因子は 単なる感覚的因子 ではなく 感覚的であると同時に筋緊張的因子であるとし 知覚は感覚的因子と筋緊張的因子の交 互作用による全体的な力動的過程であるとし 感覚的一筋緊張的場の理論(Sensory−tonic field theory)を提唱することによって 有機体状態を統合部分として含む一般的知覚理論を展開してき

た。

 Wernerらは 知覚経験における有機体状態の重要性を明らかにせんとして 有機体にあたえら れた刺戟の誘発する筋緊張と垂直知覚との関係について実験を行ったが それよりももっと積極的 に 知覚を通してのPersollalityの研究に 垂直知覚を採入れたのは 1948年以来H. A. Witkin

とS.E. Aschによってなされてきた一連の実験的研究である。(文献1 2 3 6)

 Witkinらは垂直知覚における判断基準の求め方は 個人によって特定であると、の見地から そ れとPersonalityとの関係を明らかにしょうとした。我々が日常やっているように 鉛直方向を迅 速 効果的且つ正確に設定することができるその基準となっているのは 一つには 身体の方向が 重力の方向と一致しているからであり 他の一つは 視的環境が枠組の性質を持ち その主要方向 は真の鉛直と水平方向を表わしているからである。通常の条件下では 視的鉛直と重力的鉛直は方 向が一致しているので 鉛直の判断は視的手掛りに依拠しても また身体的手掛りに依拠しても さらにその両者に依拠しても同じ結果になる。だから個人が視的基準と身体的基準のいずれの基準 に より多く依存して判断をするかという点で もし個々人の間に差異があるとしても その差異 を見いだすことはできない。そこでWitkinは その差異を発見するために 鉛直判断における視 的手掛りと身体的手掛りとを分離するための 特殊の装置を用いた。

 〔1〕 傾斜部屋一傾斜椅子テスト(Tilting−Room−Tilting−Chair Test)

 部屋と椅子は別々にどちら側にも傾けることができるようになっており 部屋または椅子を傾け たままで それぞれ椅子または部屋を鉛直位に調整させる。 ここで鉛直判断の手掛 りとなるのは

その部屋自体から得られる視的手掛りと 自己の身体傾斜感だけであるので 部屋調整シリーズ

(身体は傾けられている)においては 垂直判断が真の鉛直の近くになされれば それは身体感覚 を基準としてなされたことを意味し 他方 最初部屋が傾けられた時 部屋が鉛直だと報告されれ ば 被験者は部屋自体の垂直軸を真の鉛直と認あたことになる。また椅子調整シリーズ(部屋は傾 けられている)において 被験者が部屋の傾きの方向にずっと偏ったところで 身体が真直だと報 告したら その被験者は身体の位置を場とめ見えの関係から判断したことになるし 他方真の 鉛直に近いところで 身体が真直だと報告したら その被験者は視的場の影響に抵抗して 身体の 圧迫感に特に注意していたことになる。

 〔皿〕二一枠テスト(Rod−and−Frame Test)

 装置は正方形の枠と一本の棒からできており 被験者は身体を鉛直にして または傾けて棒を鉛 直に調整する。ここで鉛直判断の手掛りとなるのは 傾けられている正方形枠から得られる視的手 掛りと 自己の身体感だけである。すべての試行において 棒の傾きが真の鉛直から大きく傾いた 時に 棒が真直だと報告すれば 判断は視野に固執してなされたことを示し 傾きが小なる時は        (64)

(5)

視野に依存しないで 身体感に依存したごとを示す。

 〔亜〕 旋回部屋テスト(Rotating−Room Test)・1

 レール上を箱部屋を旋回させることによって 部屋の中にいる被験者の身体に作用する力の方向 を変化させ重力方向と遠心力の合力の方向になるようにする。旋回中に身体または部屋を鉛直位 に設定させる。身体または部屋が身体に作用している力の方向(合力方向)に一致すれば 判断が 身体感覚に依存してなされたことを示し 身体や部屋が最初のま\の客観的鉛直位で真直だと判断 されれば 判断は視野に依存してなされたことを示す。

 これら三つのテストは 鉛直知覚において 主要な判断基準となる視的基準と身体的(体位的)

基準が 喰いちがうように仕組まれており 従って各被験者は この喰いちがった感覚経験を統合 して 一つの統一ある知覚印象に達しなければならない。実験の結果はすべてのテスト状況におい て 被験者はこの喰いちがいを 各自明らかに異った方法で解決したことを示し 従って各個人は 同じ場面を異って知覚することが明らかにされた。いくらかの例をあげると 傾斜部屋一傾斜椅子 テストにおいて 場の構造はすべての被験者にとって同じであったのに ある被験者には!実際に は56。も傾いている部屋が真直に見え ある被験者にはや堅雪いているように見え またある被験 者には非常に傾いているように見えた。身体位置の知覚の仕方についても その傾斜感は被験者に よって種々に異っていた。 多くの被験者は 身体を傾斜部屋の垂直と真の垂直との間の 回る位置 まで動かした。他の被験者は部屋の傾きを無視して 身体を真の鉛直にうまく合わせた。さらに他 の被験者は 全く反対に 身体感覚を無視して視的基準だけにたより 身体を傾斜部屋と一致させ

た。

 棒一壷テストの場合においても 判断の個人差は顕著であった。ほとんどの被験者にとって 真 の鉛直位は枠の傾きと反対側に傾いているように見え 棒を垂直にしょうとするときには 真の鉛 直から枠の傾きの方向に動かした。 このように垂直判断は枠の影響をうけるが しかし影響の程度 は個々人の間に大きな差が見られた。若干の被験者は 傾斜している枠がそのま、鉛直に知覚され いつも棒を枠の線と一線にしたが 他の若干の被験者は ほとんど枠の影響をうけず 枠が傾いて いても 棒を真の鉛直に近く調整した。このことはその被験者が視的場面を分析的に処理して 棒 と枠とを独立に知覚することができることを示し 垂直判断に身体的基準を有効に利用することの できる個人であるということができる。

 旋回部屋テストの場合にも 身体的にはどの個人にも同じ方向と強さの力が作用しているにも拘 らず 視的印象と体位的印象とを統合する仕方は 個人によって大きなちがいが見られた。

以上の諸テストに見られた知覚の個人差が 各個人に深く根ざした特性と見倣されるためには 諸テストにおける個人の知覚の仕方に 一貫性と安定性がなければならない。 この点に関しては 諸テスト間には高い相関が見いだされ また一年以上後の再テストとの間にも 非常に高い相関が 見いだされたので 各個人の垂直定位判断が 主として視的枠組に依存してなされるか 或は主と して身体的経験に依存してなされるかは 各個人における かなり一般的特性であることが明らか にされた。

(6)

 さらに 定位判断に見いだされた個人の一般特性が 知覚一般を特徴づけるほどに 深く滲透し た特性であるか否かを究明するためにWitkinは 多くの非定位的場面での知覚経験と関係づける ことを試みた。

 先ず 定位場面の前記三種のテストは その課題の構造からFiel(}as−a−Whole課題(被験者が Field自身の位置を知覚する課題で この課題に相当するのは 傾斜部屋一傾斜椅子テストにおけ

る部屋調整シリーズと 旋回部屋テストにおける部屋調整シリーズ)とPart−Qf−a−Field課題(被 験者がField内の小物体を知覚する課題で この課題に相当するのは 棒一枠テストと傾斜部屋一 傾斜椅子テスト・旋回部屋テストにおける各椅子調整シリーズ)に分類することができる。そして Part−of−a−Field課題はField内の小物体を周囲から分離する能力を評価するのに 都合のよい課 題である。この意味でErロbedde¢Figureテスト(複雑図形の中に一つの簡単な図形をはめこま せる)はPqrt−of−a−Fleldの課題構造を有する非定位テストと考えることができる。

 ・Embedded.Figureテストと定位テストとの間には 正の相関が見いだされEmbedded Figure テストにおいて 小図形を大きな複雑図形の文豚から分離することの困難な個人は 定位テストに おいても 自己の身体を傾いたFieldから分離することがむずかしく 身体位置をFieldと無関 係に決定することがむずかしいということが明らかにされた。

 このように定位諸テスト問に見られた個人の知覚特性が 非定位テスト場面においても見られる というζとは 知覚特性が個人の中に深く滲透した一般的特性であることを 一層確かに示すもの である。

 さらにWitkinは定位知覚には顕著な性差のあることを明らかにした。傾斜部屋一傾斜椅子テ ストの部屋調整シリーズにおいて 女性はr般に男性の場合よりも もっと傾いた位置で 部屋を 垂直と知覚し また椅子調整シリーズにおいては 目を閉じて視的枠組の影響を除去した条件下で は 性差は認められなかったが 視的枠組が存在するときには 女性は身体を場の方向にずっと傾 けた。三一枠テストにおける女性の棒設定は 男性にくらべて ずっと傾斜枠の方に近くなされ た。ζのことは身体が直立の時も 傾けられている時も同じであった。旋回部屋テストにおいて 部屋を調整する場合 女性は身体に作用する力の方向に合致させるζとが少なく 部屋の最初の傾 斜位置で真直と見た。身体調整において 目を閉じている時は 性差は認められなかったが 視野 が存在する時は 女性は身体感に依るというより 場の軸に一致させる傾向が見られた。 ζのよう に定位知覚において 女性は男性よりも視的場に合致させる傾向が強く 身体経験に依存ずる度合 は少ない。

 同じ種類の性差はE斑bed¢ed:Figロr¢テストにおいでも観察され 女性は男性よりも図形をは めこむのに長い時間を要した。また身体のバランスを保持する動作が 周囲の不安定な場の影響を うける度合についての実験からも 女性の場合には より強い影響をうけるζとが見いだされた。

さらにBrighthe鈴Co撫t髄醇テストにおいても 統計的に有意でぽなかったが 女扇嫉高い恒 常性を示し 場の影響が大である傾向を示した。

 女性の判断が身体感に基づかないで 視的場に依存しようとする傾向は 必ずしも身体感を利用        (6蔭)

(7)

する能力が欠除していることを意味するのではなく 視的場が身体位を知覚するための基準として 利用できるときに それに依存しようとするのである。これに対して男性においては 常に身体感 を利用しようとする傾向がある。

 またField−as−a Whole課題構造を有するテストと Part−of−a−Field課題構造を有するテスト の見地から 男性の判断と女性の判断を検討してみると 男性は構造の異なった課題においても 高い相関を示すが 女性は構造の類似したテスト問においてのみ 有意な相関を示し 相関は男性 よりも高い。男性が異種構造課題間に高い一回忌を示すことはFieldをactive analyticalに処 理する傾向を有することを示すものであり 女性の場合に一貫性がみられないのは 場面がpassive、

acceptanceを許容するときにはpassive acceptanceを採りactive analytical apProachが 強調されるときには よりactive analytical apProachを採る傾向のあることを示すものである。

 このように知覚者の性という最も根本的なちがいが 知覚経験の差をもたらすということは 知 覚過程がPersonの基本的心理学的体制と 本質的に関連していることを一層明確にするものであ

る。

 Personの基本的心理的体制が 知覚過程の基底にあるとすれば 発達段階もまた 一つの重要 な役割をもつ変数でなければならない。

 Witkinは これに関して 8才・ユ0才・13才・15才・17才・成人(平均年令 約20才)の各年 令群に 棒一同テストを実施し 8才児と10才児群は 他の年令群にくらべて 垂直判断が 視的 枠組に依存する度合は 最も大きく 13才児になると 枠組への依存度は急に減少し 17才群は さらに依存数が減少するが 17才を過ぎると 再び視的枠組への依存度は大になる。成人群は 8 才〜10才児よりは 周囲の影響を少なくうけるが 15才ん17才群よりは多く影響される。定位知覚 の発達的変化は 性差とも関連しており 8才児群においては 顕著な性差が認められ 女児は男 児よりも視的枠組に依存する傾向が大である。その後性差は減少し 13才児段階では全く小さ

くなる。しかし 成人段階になると 性差は再び大になる。

 上述のようにWitkinらの知覚経験に関する系統的にして綿密な実験ならびに考察によって 知 覚経験は 単なる対象の刺戟特性や 場の構造に規定されるものではなく 知覚経験には 知覚者 が重要な役割を演じていることが明らかにされた。

 Wemerは 知覚経験は対象と有機体との関係から成る場において 両者の交互作用の所産とし て生起することを明らかにしたがWitkinは 知覚特性は各知覚者の中に深く滲透した一般的特性 であることを明らかにした。この一般的特性が知覚者のPersonality特性と密接な関係を有する

ことが見いだされるならば 今日なお その構造の複雑性と研究法の不十分さのために 教育学者 や心理学者を温ませているPersonalityの研究にとって 飛躍的貢献を期待することができよう。

 Witkinは この期待に応えるべく Rorschachテスト・T. A. T.・Draw・A−Personテスト

・連想語テスト・文章完成テスト・自救・臨床的面接など 種々のPersonality研究法を用いて 定位判断において見いだされた各個人の知覚特性との関係を究明するための研究を続けた。そして 各個人にみられる知覚特性は 個人のPersonality とも関係があり 知覚の際に 外界視野に依

(8)

存する型の個人は 外界環境に対しても一般に依存的であり また 自分自身に対して確信を持つ ことができず 自分の衝動を抑圧しようとする傾向がある。これに反して 知覚の際に場の影響 をうけず 自己の身体経験に依存する型の個人は 一般に自己の衝動によって動作を起しがちであ ることをほのめかした。

 Witkinの発見と考想は 卓越したものであるが 幾らかの問題が残されている。身体傾斜感は 判断の基準となり得るほどに正確であるか? 日常生活に必須の機能を有し 多分個人に深く滲透 していると思われる空間の主方向は 視野傾斜一身体傾斜条件下で 何らかの機能を有するか?

これらの事を調べるために 筆者は次のような一連の鉛直判断テストを試みた。(文献141516 1718)

 鉛直位設定実験(一一枠テスト)

(装 置)

 イ)実験用暗箱;高さ65cm 巾60cm 長さ105cmの木製箱(机上設置)

 ロ)棒一枠;長さ31cm 巾0.3cmの木製棒(被験者の位置より100cmの距離にあり 中心で左    右に回転)

   巾0.3cm 一辺の長さ25cmの正方形木枠

(遺 口)

  被験者は 椅子に坐し 頭部のみ特定の角度傾け 両孔の観察窓を通して観察し 棒を真の鉛  直に調整する(実験者調整)。

  変化刺適法にて左右2回つつ計4判断

(条 件)

  頭部の傾斜度と正方形枠の傾斜度を 次の6つの組合わせで行う。

\\  Series

条バ\\

頭 部 傾 斜

傾 斜

a b C d e f

30。右  45。右  30。右  30。右  0。 30。右

欠除  欠除  0。 20。右  20。右  20。左

(被験者)

  10才児:男20名   12才児:男 6名   15才児:男17名

  20才  :男  6囲

女 18名 女  6名 女 12名 女  6名

註)10才児 ]5才児の実験は 装置に多   少のちがいがある。(文献1716)

      (68)

(9)

(結 果)

  鉛直設定テストにおける平均偏心

10才

12才

15才

20才

a

2.13。

3.59。

2.630 3.13。

一〇.75。

一4.60。

1.79。

2.92。

b C

4.22。

2.72。

1.73。

2.63。

一3.42。

一6.58。

1,86。

3.96。

1.46。

0。030

1.29。

0.54。

一1.30。

一〇.66。

1.21。

1.63。

d

4.77。

8.84。

5.33。

4.63。

2。30。

2.67。

3.54。

2.25。

e

5.57。

5.04。

2.67。

4.58。

i.82。

2.89。

0.71。

1。00。

f

一1.32。

一2.18。

0.75。

一1.63。

一〇.02。

一3.90。

一1.21。

3.13。

    (註) 表中質の符号は客観的鉛直より左側(頭部傾斜と反対方向)に設定したことを示す。

(考 察)

 (1) 10才児の鉛直判断(文献17)

 (i) Series a, bは いずれも視枠組の存在しない 従って視的手掛りを得ることのできない 条件である。この条件下での鉛直判断は 男女とも幾分右側(頭部傾斜方向)にずれる。

 (ii)SerieS Cは視的枠組が存在し しかも枠組は鉛直位におかれている。この条件下では 男 女とも鉛直判断はかなり正確になされる。

 (玉⊥1)Series cとSeries dの間には 男女とも有意な差が認あられる。両Seriesとも頭部傾 斜は全く同・じくSeries dにおいては 枠組が頭部傾斜方向に傾けられている。従ってこのことか

ら 男女とも鉛直位判断に視的枠組の影響をうけることが知られる。

 (iv)Series cとSeries fの間には 女性においては有意な差を認めることはできないが 男 性では統計的に有意な差が認められる。すなわち 枠組が頭部傾斜と反対側に傾けられている場合 には 鉛直位判断は枠の傾きの方向にずれる。 このことから 男性は視的枠組の影響をうけること が知られる。

 (v)枠組の影響はseries dとseries fを比較した場合に さらに明白になる。両series間 には 男女とも有意な差が認められる。つまり頭部傾斜条件が同じで 枠組の傾斜方向が互に反対 である両seriesにおいて 鉛直判断は枠組の傾きの方向にずれる。

 (vi)series eは枠組は傾けられているけれども 頭部は鉛直に保たれている。従って身体条 件を判断の手掛りとするのに 最も都合のよい条件である。それにも拘らず 鉛直判断は枠組の傾 き方向に かなりのずれがみられる。そして枠組の直立しているseries cとの間に統計的に有意 な差が認められる。 このことは鉛直判断にあたって 男女とも視的枠組の影響を強くうけることを

(10)

示す。

 10才児の鉛直位判断は 男女とも視的枠組の影響を かなり強くうけ 身体感覚は判断の基準と しては利用されない。

 (2) 12才児の鉛直判断(文献15)

 (i)Series aとSeries cの間には 男性の場合には有意な差が認められないが 女性におい ては有意な差が認められ 鉛直の枠組の存在するときは 鉛直判断は非常に正確になされる。 この ことから女性の鉛直判断は 視的枠組の影響をうけると言える。

 (ii)Series cとSeries dとの間には 男女とも有意な差が認められ 鉛直の枠組のある Series cにおいては 男女とも鉛直判断は かなり正確に行われるのに 傾斜した枠組のある Series dにおいては 枠組の傾きの方向にずれる。このことから 男女とも視的枠組の影響をうけ

ることが知られる。

 (iii) さらにSeries dとSeries fとの間には 男女とも有意な差が認められる。 Series fは 枠組が頭部の傾きと反対側に傾けられている条件であって 鉛直判断が男女ともかなり正確になさ れるのは 枠組の欠除したSeries a, bの場合には 鉛直判断は頭部の傾きの方にずれていたが 枠組の影響をうけて反対側に引戻されて真の鉛直に近くなるのであろう。特に女性の場合には Series a, bとSeries fとの間に 統計的にも有意な差が認められる。

 (iv)Series cにおいては 男女とも鉛直判断は かなり正確になされるがSeries aとSeries cとの間に 女性においては有意な差が認められ 視的枠組の欠除したSeries aでは 女性の鉛 直設定が幾分拙劣になるのに反して 男性においては 有意な差は認められない。 このことは 女       の性は鉛直を設定するにあたって 視的枠組と一線にする傾向があり これに対して男性の場合には 視的手掛りの欠除した条件下においても 他の手掛りに依拠して 判断がなされるものと考えられ る。そしてその手掛りになるのは 多分視野外の経験的な枠組であろうと思われる。頭部の傾斜感 が手掛りになるとも考えられるが 傾斜した頭部位置の判断は かなり不正確であることが知られ ている(文献15)ので 単に頭位の感覚に依るのであれば 鉛直の設定はずっと不正確になるであ ろう。従って先に鉛直設定が男女とも視的枠組の影響をうけ 枠組の線と一線にする傾向があると したことについては さらに検討する必要がある。

 (v) このことはSeries eとSeries cとを比較考察するとき さらに明白になるようである。

すなわち 男性においては両Series間に有意な差が認められない。つまり視的枠組が傾いている 条件においても その傾きの方向に著しくずれるのではない。これについてはSeries eが頭部直 立条件であるので 鉛直設定に最も有力な判断基準として 頭位が利用されるのであろうと考えら れる。これに反して女性においては 両Seriesの間に有意な差が認めら、れる。 このことは女性が 鉛直設定をするにあたって 頭位を判断基準として利用しようとせず 専ら視的枠組の影響をうけ ることに依るのではないかと推測せしある。つまり男性は状況に応じて 種々の手掛りを利用して 鉛直判断をするに反して 女性は専ら視的枠組に依存する傾向があると考えてよいであろう。

 12才児の鉛直判断は 男女とも視的枠組の影響をうけるけれども 女性が専ら枠組の影響をうけ        (70)

(11)

るのに対して 男性は身体感覚や実験室外の経験的枠組などの依拠しやすい手掛りがあるときには それを利用しようとするようである。

 (3)15才児の鉛直判断(文献16)

 (i)Series aは視的枠組の存在しない従って視的手掛りに依存することのできない条件であ る。 この条件における鉛直判断は 女性においては かなりのずれがみられるが 男性は大体正確 な判断をすることができる。男女間には統計的にも有意な差が認められ 女性の判断は真の鉛直よ りも左側に すなわち頭部の傾きと反対側にずれる。男性が視的手掛りのないときにも 比較的正 確な鉛直判断ができるのは 身体下手掛りを利用することに秀れているためと考えることもできる が 頭位の判断はかなり不正確である(文献16)から 身体的手掛りに依存すると考えるのは妥当 ではあるまい。むしろ男性は実験条件に含まれない外部の手掛り(柱・建物など)を利用すること に回れているのではあるまいか。

 (ii)Series bは視的手掛りに依存することができない点ではSeries aと同じであるが 頭部 の傾斜がSeries aより大きい。この条件においては 男女とも鉛直判断は真の鉛直よりも左側に すなわち頭部傾斜と反対側にずれる。

 (iii)Series cは視的枠組が存在し しかも枠組は鉛直位におかれている条件である。この条件 においては 男女とも鉛直判断はかなり正確になされる。 この結果だけからみれば 男女とも枠組 の影響をうけて 枠の線と一線にしょうとするたあとも考えられるが Series aの結果と比較して みると 男性においては有意な差が認められない。男性はSeries aにおいても比較的正確な判断 がなされるので 枠組の影響をうけるとは言えないだろう。これに対して女性においては 有意水 準5%にはわずかに達しないけれども Series aとの間に差があると考えてよいのではなかろう か。つまり女性の鉛直判断は 視的手掛りによってなされるものらしく 視的枠組の線と一線にし ょうとする傾向があるようである。このことはSeries d, Series eの結果から さらに明らかに

される。

 (iv)Series dは頭部は30。傾けられ 枠組は:20。同じ側に傾けられている条件である。この条 件においては 鉛直判断は男女ともわずかに頭位の方にずれる。Series aの結果との間に男女とも 統計的に有意な差が認められる。 したがって男女とも枠組の影響をうけて 枠の傾きの方に判断が ずれると考えられる。しかしSeries cの結果とくらべると 男性においては有意な差が認められ

ないので 一概に視的枠組の影響をうけるとは言えないだろう。 これに対して 女性においては統 計的に有意な差が認められるので 女性の鉛直判断は視的枠組の影響をうけると言える。

 (v)Series eは頭部は重力方向と一致するように保たれており 視的枠組だけが傾けられてい る条件である。従って鉛直判断が身体的手掛りによってなされるのであれば鉛直判断はかなり正 確になされるであろう。結果は男女ともかなり正確な判断がなされるようであるが 各個人の結果 を検討してみると 男性の場合は非常に正確な判断をする者も多く 枠の傾きの方向にずれる者も その価は小さいので 枠組の影響を認めることはできないようである。 これに対して女性の場合に は ほとんどの者が枠の傾きの方にずれ その価も大であるので その鉛直判断は視的枠組の影響

(12)

をうけるものと考えられる。

 (vi)Series fは頭部は30。傾けられ 視的枠組は頭部の傾きと反対方向に真の鉛直から20。傾け られている条件である。 この条件においては男性の判断は非常に正確になされ 女性の判断は枠組 の傾きの方向にずれ その差は統計的にも有意である。また男性の場合はSeries aとの間に有意 な差が認められないので その鉛直判断は枠の影響をうけないと考えられる。しかし 先にも近べ たように頭位の判断はかなり不正確であるので 頭部の傾斜感をもって判断の手掛りにすると考え るよりは むしろ男性は実験条件に含まれていない部屋などの水平・垂直を手掛りとして利用する と考えるのが妥当ではあるまいか。女性の場合にも Series aとの間に有意な差が認められないの で 枠組の影響をうけないとも考えられるが Series cとの間にも またSeries dとの間にも統 計的に有意な差が認められる。従ってSeries fにおける結果は女性の鉛直判断が枠組の影響をう けることを示すと考えてよいであろう。

 (4) 20才学生の鉛直判断(文献14)

 (i)Series a, c, d, fはいずれも頭部の傾斜は同じであって 枠組の条件だけが異っている。

従ってこれらの諸Seriesの結果を比較考察することは鉛直判断が視的枠組の影響をうけるかど うかを知るのに都合がよい。男性の場合には枠組が20。左(70。右)に傾けられたSeries fと他 のSeries a, c, dとの間に有意な差が認められ さらにSeries cとSeries dとの間にも有意な 差が認められることから 男性は鉛直を設定するにあたって 枠組の影響をうけ 枠組の傾きの方 にずれる傾向があると言える。

 (ii)女性においてはこのような結果は認められないので 視的枠組の影響をうけるとは言えな

い。

 鉛直知覚が知覚者の特性と密接な関係があり またWitkinが明らかにしたように 視的枠組 に依存的な個人は 自己に対する確信少なく 外界環境に対しても依存的であり 場に対して非依 存的な個人は 自信強く 自己の衝動によって動作を起す傾向があるとすれば 知覚者の情緒状態 もまた 鉛直知覚に関与する一つの変数となり得るであろう。そして情緒的に安定した:Personは 場への依存性少なく 自己の身体感覚に判断の基準を求める傾向があるに対して 情緒的に不安定 なPersonはむしろ場に依存する傾向が大であろうとの仮設が立てられる。この仮設を検:証するた めに鉛直位判断テストが試みられた (被験者に関する以外はすべて前記10才児の実験の場合に同

じ) (文献ユ7)。

(被験者)

 次の基準によって情緒安定群と情緒不安定群に分けられた。

 WISC知能検査(日本版)の動作性下位テストの中 情緒因子をより多く含むとされる絵画完成

・積木模様・組合せ問題の得点の三分の五倍の得点と 言語性下位テストの得点との比をとり そ の値の大きい者の中から6名を選び情緒安定群とし 値の小さい者の中から6名を選び情緒不安定 群とした(文献ユ3)。

(72)

(13)

(結 果)

鉛直位判断テストにおける平均偏碕 i\\聖e「 es

 Subjects 、\\

安  定  群

不 安 定 群

a

3.19。

3,73。

b

1.96。

3.44。

C

一〇.35。

1.37。

d e f

3.89。 4.40。 0.11。

7.73。 8.71。 一8.27。

(註) 丁丁負の符号は客観的鉛直より左側(頭部傾斜と反対方向)に設定したことを示す。

(考 察)

 (i)視的手掛りを得ることのできないSeries aにおいては 鉛直位の判断は安定群・不安定 群とも 幾分頭部の傾きの側にずれる傾向がある。但し両群間に有意な差は認められなかった。

 (ii)視的枠組が鉛直位におかれているSeries cでは 判断は心血ともかなり正確になされ た。そしてSeries aとSeries cとの間には 安定群においては有意な差は認められないけれど も 不安定群においては有意な差が認められた。 このことから安定群は鉛直位の判断をするにあた って 棒を視的枠組と一線にしょうとするとは言えないけれども 不安定群は枠組の線と一線にし ょうとする傾向があると言えよう。

 (iii)Series aとSeries fの間には 安定群では有意な差がないが 不安定群においては有意 な差が認あられた。不安定群は棒を視的枠組の線と一線にしょうとするために 判断は頭部の傾き と反対側にかなりずれると言える。

 (iv)Series cとSeries d, fを夫々比較してみると 安定群においては いずれも有意な差 を認めることができないが 不安定群においては いずれも統計的に有意な差が認められ さらに Series dとSeries fとの間にも有意な差が認められた。このことから安定群の鉛直判断は 視的 枠組の影響をうけないけれども 不安定群の判断は視的枠組の影響をうけて 枠組の傾きの方向へ ずれることが知られる。

 (v)Series fにおいて安定群と不安定群の間には有意な差が認められた。さらにSeries cと Series fとの間に 安定群においては有意な差が認められなかったけれども 不安定群においては 統計的に有意な差が認められた。 このことから不安定群の鉛直判断は安定群にくらべて 視的枠組 の影響をうけて枠の傾きの方向へずれることが知られる。

 (vi)身体条件を判断の手掛りとするのに最も都合のよいSeries eにおいては 鉛直判断は両 群とも枠組の傾きの方向にかなりずれた。そして視的枠組を判断基準とするのに最も都合のよい Series cとの間には 両三とも有意な差が認められた。従ってこの結果だけから言えば 鉛直判断 は情緒的安定群も不安定群も身体的手掛りに依拠せず むしろ視的枠組を判断基準にすると考えら れるが これについてはさらに検討の必要があろう。

 本実験の被験者は人数も十分でなく また標準化された情緒性検査に基づいて抽出されたのでも ないところに 幾分の疑義を残しているが 情緒因子と鉛直知覚との関係について 先に設けられ

(14)

た 情緒的に安定しているPersonは外界視野に依存しないに対して 情緒不安定の 外界に依存しようとする傾向がある,という仮設の検応に寄与する、ものと言えよう。

Person・は

 10才児から20才学生にいたる筆者の一連の実験は 先のWitkinの研究にヒントを得て試みられ たものであるが 実験の結果は 彼の結果と全面的な一致をみることができなかった。例えば Witkinの実験においては 13才児はその鉛直判断において成人の場合よりも視的枠組の影響を 少なく受けるとされたが 筆者の12才児についての実験では 男女ともかなり視的枠組の影響を受

けることが知られた。さらにWitkinにおいては 成人の鉛直判断は 男性は身体感覚に基づいた 判断がなされ女性は枠組の線に一線にしょうとする傾向があるとされたが 筆者の実験結果の考 察からは むしろ男性が女性よりも枠組の影響を強くうけるように思われた。

 またWitkinの場合被験者の鉛直判断が何を手掛りにしてなされたかを決める手続きは 真の 鉛直に近いか 大きく偏るか 或は視野の傾ぎに近いかという見地からなされ 調整が鉛直のいず れの側になされたか その方向は無視された。すなわち 傾斜部屋一傾斜椅子テストにおいて 部 屋調整シリーズの場合は 部屋の調整が真の鉛直に近くなされれば 身体感覚を基準として調整さ れたことを意味し 一方最初の部屋傾斜位に近く調整されれば 視的枠組を基準として調整された ことを意味するという。椅子調整シリーズの場合は 調整が部屋の傾きの方向へ大きく偏れば 視 野に依存したことを示し 一方真の鉛直に近く調整されれば 身体感に俵拠して調整されたことを 示すとする。

 棒一音テストにおいては 棒の調整が真の鉛直から大きく偏れば 視野に依存したからであり 真の鉛直からの偏りが小さければ自己の身体感に基づいて調整したためであるという。

 調整の偏りの方向を無視することに問題はないであ,ろうか?Witkinの部屋調整シリーズにおい て 部屋の最初の傾きの方向の効果のために 最初部屋が身体と同じ側に傾けられている時には 部屋調整は鉛直から身体傾斜方向に偏り 最初部屋が身体と反対側に傾けられている時には 部屋 調整は鉛直から身体傾斜反対方向に偏ることが知られている(文献12P.53)。この事実は筆者が Witkinとほゴ同じ装置で行った傾斜部屋一傾斜椅子テストにおいても確かめられた(文献18)。

Witkinはこれについて 部屋調整は大部分部屋の最初の傾斜位と鉛直との間に設定されると述べ ているが 身体と同じ傾斜方向に設定されるか 反対方向に設定されるかということは 重要な意 味をもつものと考えるべきであろう。

 これに対して筆者の場合は 頭部の傾きと枠の傾きの組合わせを種々にした6つの条件シリーズ での結果を綜合的に検討して 調整された見かけの垂直が枠組の傾きの方向にずれれば その判断 は視的枠組の影響をうけてなされたものと解したが か\るずれが認められない場合には 単に判 断は枠組の影響をうけないとして 身体感に依存するという見解は努めて採らなかった。その理由 はWitkinが視野欠除の場合の垂直判断(文献3)で明らかにしたように 身体感覚が垂直判断の・

基準として有効に働くのは 身体直立位の時だけであって 少しでも身体が傾けられると たとえ 頭部だけが傾けられた場合も 判断は大きな誤差を示し さらに個人内に一貫性を示さない不安定       (74)

(15)

な判断になるので 身体感覚を垂直判断の基準とするのは適切でないからである。また筆者の行っ た 頭部の傾斜感がどの程度正確になされるかを調べた唖頭位設定テスト (文献14151617の 各頭位設定テスト)の結果からも 個人の判断は極めて不安定であるので 身体傾斜感が鉛直判断 の基準となると考えることは難点があろう。

 筆者の考察中に屡々現われた 黙男性は鉛直判断の基準として 実験条件に含まれない外部の経験 的枠組を利用することに諮れているのではあるまいか というこの外界枠組はWitkinにおいては 殆ど重要視されなかった(文献12P.47)。筆者がこれを考慮に入れたのは 被験者は頭部のみが 傾けられ体躯は真直に保たれ しかも足は水平の床に接しており さらにWitkinの被験者は目 かくしのま\実験室に連れて来られたのに対して 筆者の被験者はそうではなかったので 実験条 件に含まれていない外部実験室の壁・床など鉛直判断の準拠枠(Frame of reference)として最

も有効な手掛りを得ることが多分可能であろうと考えたからである。

 Witkinの実験と筆者の実験の間には 装置や条件・方法にかなりのちがいがあるので単に結 果の相異を以て直ちに他の研究を批判することは厳に慎しむべきことであるが 鉛直実験の判断基 準の問題は 非常に複雑な要因を含んでいるもののごとく これについては尚一層の検討が必要で

あろう。

 知覚経験における顕著な個人差を生ぜしめる要因は 知覚者の基底に一般的特性として深く根ざ した要因であろうとの見解に立ちWerner, Wapner, Witkin, Aschらの実験的研究の跡を辿り ながら さらに筆者の小実験を加えて 知覚を通してPersonalityの理解に達せんとする試みを続 けてきた。彼らの努力によってPerceptionとPersonalityに関して曽てKlein, G S.とSchl−

esinger、 H.をして6 Where is the Perceiver in Perceptual theory (文献4)と嘆ぜしめた Perceptionの研究は 今後も新たなる装いのもとに 歩一歩着実なる進展を続けていくことであろ

う。

参  考  文  献

1.Asch, S. E.,&Witkin, H:. A. Studies in space orientation;LPerception of the upright  with displaced visual fields. J. exp. Psychol.,1948,38,325−337

2.Asch, S. E.,&Witkin, H. A. Studies in space orientation;II. Perception of the upright  with displaced visual fields and with body tilted. J. exp. PsycnoL,1948,38,455−477

3.Witkin, H. A.,&Asch, S. E. Studies in space orientation;IIL Perception of the upright  in the absense of a visual field. J. exp. PsychoL,1948,38,603−614

4.Klein, G. S.,&Schlesinger, H. Where is the perceiver in perceptual theoryP J. Perso・

 nality,1949,18,32−47

5.Werner, H.,&Wapner, S. Sensory−tonic field theory of perception. Perception and  Personality:Asymposium, Duke University,1950,88−105

6.Witkin, H. A. The nature and importance of individual differences in perception,

 Perception and Personality:ASumposium, Duke University,1950,145−170

(16)

7.Werner, H., WapherダS.,&Chandler, K. A. Experilments on sensory−tonic field theory

、of perception;LEffect of extraneous stimulation on the visual perception of verticality.

  J.exp. Psyc』hol.,1951,42,341−345   ¶

8.Werner, H., Wapner, S.,&Chandler, K. A. Experiments on sensory・tonic field theory   of perception;II. Effect of supposed and unsupposed tilt of body on the visual perception   of verticality. J. exp. Psychol.,1951,42,346−350

9,Werner, H:., Wapner, S.,&Morant, R. B. Experiments on sensory−tonic field theory of   perception;III. Effect of body rotation oll the visual perception of verticality. J. exp.

  PsychoL,1951,42,351−357

10.Werner, H.,&Wapner, S. Experiments of sensory.tonic field theory of perception;

  1▽,Effect of initial position of a rod on apparent verticality. J. exp. Psychol.,1952,43,68−74

11.Wapner, S.,&Werner, H. Experiments on sensory.tonic field theory of perception;V.

  Effect of body status on the kinesthetic perception verticality. J. exp. PsychoL,1952,44,

  126−131

12.Murphy, G.(ed.)Personality through Perception,1954, New York

13. Sawa. H. A study in relation to intervention of intelligence and character or person.

  ality.(unpublished)

14.武藤・雪下 空間定位に関する実験的研究〔1〕

      長崎大学 学芸学部 教育科学研究報告 昭和33年 第4号 79−85 15.武藤雪下 空間定位に関する実験的研究〔五〕

      長崎大学 学芸学部 教育科学研究報告 昭和34年 第5号 129−136 16.武藤雪下 空間定位に関する実験的研究〔皿〕

      長崎大学 学芸学部 教育科学研究報告 昭和35年 第6号 69−75 17.武藤・雪下 空間定位に関する実験的研究〔皿〕

      長崎大学 学芸学部 研究報告 昭和36年 第7号 17−26 18.武藤雪下 空間定位に関する研究(第二報告)

       第24回九州心理学会紀要 昭和37年

(76)

参照

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