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神話理論の新定義に向けて

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Academic year: 2021

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バロソ・イザベル

Towards a New Definition of Myth

BARROSO, Isabel

Abstract

What does Myth mean and what is its purpose? Since 20thCentury, when Absolute Truths began

to be questioned, the hidden ideology beyond mythological discourse has been the focus of a great number of Mythologists researches. Gender Studies or Marxist Criticism emphasized the impor-tance of the discourse behind the words, to be found in any kind of literary production.

As for Japanese Myth, some aspects about Amaterasu or Izanami figures can lead us to think about the role of sexual repression, as much as women coercion, in the society-modelling aspect of Myths.

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神話とは何か。神話の目的とは何か。それ らの問いへの答えは、「事実」や「論理」の 世界からかけ離れたと感じられる神話の「物 語」の中にある隠された意味を理解すること にある。 「神話」の概念には二つの意味が含まれて いる。一つは、神話とは文学的な物語だと いうことである。その物語は、多くは詩の 形で(1)、英雄の雄々しく勇敢な戦闘を述べて いる。そこでは、神話は歴史や伝説のような 過去の物語であり、語られている事柄は事実 に近いと認識されている。もう一つは、神話 とは宇宙の起源を語る物語だということであ る。従って、神話とは宗教や哲学の観点から 見て、世界の起源やその事実を説明できる、 といえよう。 19世紀まで、神話は過去に行われた事実と して考えられた。神話学の研究は「事実」と 「伝説」、すなわち「真実」と「虚構」を区別 すること、または神話の物語を証明できる歴 史的資料を提供することが中心だった。さら に聖書解釈学の影響で、神話は宗教的な面か ら考えられることになった。その結果、神話 が教理(dogma)となり、トートロジーとし て疑問視されなくなった。一例として、チャ ールズ・ R.・ダーウィン(Charles Robert Darwin)の『種の起源』が出版された時のス キャンダルを忘れることができない。ダーウ ィンの進化論によって、聖書の「創世記」が 疑われ、『種の起源』がキリスト教に反する と感じた進化論反対主義者はダーウィンの研 究をボイコットした。そして、今でも進化論 を教えることが許されていない。また、マー ティン・スコセッシ(Martin Scorsese)の 『最後の誘惑』(2)(The Last Temptation of Christ)

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ように神話を「逐語」的に理解する神話学者 か、神話を「アレゴリー」的に解釈する神話 学者かの討論になってしまうのではないであ ろうか。 「この世ではない世界の表現」、すなわち 「狂気」や「シャーマン」の用語とは、どの ように「異常」の世界を示すであろうか。狂 気の用語の文芸的な性質に関して(35)、先ず 20世紀の言語哲学、または語用論学の論理を 参考すると、「事実」や「常識的な知識」の 理解の仕方を見直す必要が出てくる。「事実」 や「日常的な判断力、良識のある分別」とい うものは何であるかの問題については、オー スティンの「意味契約」(36)を考えるべきで あろう。そして、権力者に反対するスピーチ (推理能力)を「精神異常・痴呆」として非 難される傾向はフーコーが『狂気の歴史―― 古典主義時代における』(Histoire de la folie à l’âge classique, 田村俶訳、新潮社、1975 年) の中で分析した。更に、20 世紀の 1950、60 年代の反精神医学(antipsychiatry)の流行を 参考にすれば、「狂気」の概念に隠されてい る「社会を転覆させること」の意味もはっき り証明できる。 フロイトは、社会のプレッシャーに対して 人々の中に神経過敏の症状が見られると指摘 した。 フロイトは非常に文化的な人間であった が、彼によれば文明は人間の知力達成感を抑 え、抑圧的な要素として考えられた。その抑 圧の結果として、大多数の人々は神経症にか かる(37) フロイトによると、宗教的な儀式な役割は 個人と社会を結びつけることであり、社会の プレッシャーの結果として受けた神経過敏症 状を社会の儀式に同化させることである。そ れらの儀式は「プレッシャーを解放する」も のであり、集団という意識を生じさせる(38) しかし、その「集団的な熱情」は簡単に「集 団的なヒステリー」に成り得る。その現象の 最もよい例としてあげれば、古代ギリシャ のエウリピデス(39)の『バッコスの信女』で あろう。長い間の戦争やそれによる精神的不 安定さ、また男性中心の古代ギリシャ社会の 中で、プレッシャーを受けた女性たちは「プ レッシャーから解放」されようとしてキテリ オン山で行うディオニソスの祭りに男性を入 れずに自由に遊び、集団的にヒステリー化し てしまう。しかし、その結果として、女王の アガウエはディオニソスの祭りの秘儀を見た 自分の息子ヘ ゚ ンテオスを殺すことになる が、この問題はもう一つの大きなテーマであ り、稿を改めて考えたい。 反精神医学(antipsychiatry)の動きに関し て、1950、60 年代の映画にあらわれる精神病 院と威圧的な機械との結びつき、その精神病 院に対しての強い異議は非常に興味が深い。 権力者の威圧的な機械として利用されたロボ トミーを中心した例としては、ケン・キージ ー(Ken Keasey)の小説の映画化で、ミロシ ュ・フォアマン(Milos Forman)の『カッコ ーの巣の上で』(One flew Over the Cuckoo’s

Nest)(40)があり、また『バッコスの信女』の

ような「集団的なヒステリー」の要素はテネ シー・ウィリアムズ(Tennesse Williams)の 戯曲を映画化したジョーセフ・ L.・マンキー ウィッツ(Joseph L. Mankiewicz)の『去年夏 突然に』(Suddenly Last Summer)(41)に見られ

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外のマルキシズム(42)的な意味を忘れること はできない。一例をあげれば、現代日本の 「ニート」社会では、「ホームレス」は「ワー キング・プア」より疎外されていない。しか し他方で、普通のサラリーマンより、ホーム レスは疎外されるものであろう。言うまでも なく、「疎外反対主義」の言葉は社会を転覆 させるとして解釈され、許されるものではな い。 この偏狭(狭量)は権力のレベルでは譴責 として現れ、一般社会のレベルでは汚名を着 せられて非難される。言い換えれば、磔を許 さない現代の世界では、権力者に睨まれた予 言者は狂気のレッテルをはられ、精神病院に 放り込まれ、世捨人にされる。殺されるか投 獄される「厄介者」は殉教者となるから(43) 革命に触媒作用を及ぼす危険性があり、精神 病院で消してしまう方が効果的な選択であろ う。権力に反対しても社会的に危険でない 人々の場合、すなわち権力に同意しない人々 を精神病院に放り込むことを正当と言えない ときには、「村八分」(the black sheep)のよ うな社会の「差別システム」によって、相い れない意見を「社会から隔離する」。その結 果は、批判的・反対的な意見がなくなり、同 質な社会が生まれる。 特に、欧米の「個人主義」と異なって「国 民の集団主義」の考え方が強い東アジアの社 会には、同質な概念は非常に威圧的な道具に なる。 同質化させる道具の一つは、宗教であろう。 フロイトによれば、社会や文化のルールに対 して個人は神経過敏には精神的不安定にな り、それぞれの社会で生じた神経過敏には精 神的不安定さが宗教的に解消されるという。 またフロイトによれば、神は人間を自然の 恐ろしさや人生の苦しさと和解させる役割を 持っている。特に死の恐怖や文明的な生活の 厳しさが宗教的に癒され、人々は運命に身を 任せるという(44)。すなわち、運命に対して 人間の無力さが、宗教的な意識を生じさせる のである(45) このバックグラウンドには、権力の用語以 外の言葉、すなわちアルターナティブ alter-native thinking(代替的思考)文化が「新しい 神話」に表れていると考えてよいのではない であろうか。「新しい神話」というのは、ニュ ー・エイジ(46)の考え方、あるいはパウロ・ コエーリョ(Paulo Coelho)の『アルケミス ト――夢を旅した少年』(Alquimist, 山川紘・ 亜希子訳、地涌社、1994 年)やリチャード・ バック(Richard Bach)の『かもめのジョナ サン』(Jonathan Livingston Seagull, 五木寛之 訳、新潮社、1974 年)などの物語に反映され る「新哲学」ということである。すなわち、 現在の神話にはもう一度社会の制度を疑う 「新しい言葉」を語り得る機能があるという ことである。 神話が事実かどうかを別として、神話は神 話である。従って、理想化であると考てよ い。 結論として、カタルーニャ(47)のユレン ス・ダ・ヴィションガ(Llorenç de Vilallonga) 著『ベアルン(Bearn)』を引用しよう。

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(1)ヨーロッパ文学の場合は、詩の形で語られ た叙事詩が多い。『イリアス』『ベオウルフ』 『ローマンの歌』『わがシッドの歌』などを 参照。 (2)ニコス・カザンザギス(Nikos Kazantzakis) の小説、『キリスト最後のこころみ』(The Last Temptation of Christ, 児玉操訳、恒文社、 1982年)に基づいた 1988 年の映画。 (3)ジェンダー論は、比較文学におけるフェミ ニズム論を契機として発展したもので、社 会での男性中心的なイデオロギーを批判し、 そのイデオロギーの捉え方自体を再検討す る運動ともなっている。比較文学における フ ェ ミ ニ ズ ム 論 の 代 表 格 と し て 、 ジ ュ リ ア・クリステバ(Julia Kristeva)などを参 照。 (4)マルクス主義の基礎理論(史的唯物論)に よる、歴史の基本的な動因として考えられ る経済的または政治的に対立する階級間の 争い。 (5)フロイトによれば、芸術とは性欲が抑圧さ れた性衝動である。

(6)Madwoman at the Attic. The Woman Writer and the Nineteenth- Century Literary Imagina-tionー. 1979 (Yale University Press).(『屋根裏 の狂女』山田晴子・薗田美和子訳、朝日出 版社、1986 年)

(7)ライヒ『性と文化の革命』(The sexual revo-lution)中尾ハジメ訳、勁草書房、1969 年、 を参照。

(8)フ ー コ ー 『 監 獄 の 誕 生 ― ― 監 視 と 処 罰 』 (Surveiller et punir : naissance de la prison)田

村俶訳、新潮社、1977 年、を参照。 (9)イーグルトン『文学とは何か』(Literary Theory. An Introduction)大橋洋一訳、岩波書 店、1997 年。 (10)天動説ともいう。 (11)地動説ともいう。 (12)2009 年に最初の黒人米大統領(第 44 代)に 成ったバラック・オバマ(Barack Obama) の選挙運動のモットー。 (13)現象学の創始者。 (14)Phänomenologie。意識に直接的に与えられる 現象を記述・分析するフッサールまたはメ ルロ = ポンティなどの哲学。 (15)構造主義言語学の祖。

(16)Mc Luhan, Marshall & Fiore, Quentin, The medi-um is the massage. New York, 1967 (Bantam

Books).(『メディアはマッサージである』南

博訳、河出書房新社、1955 年)

(17)Speech Act Theory のこと。分析哲学の日常言 語学派の中心的指導者オースティンの研究 によれば、話すことは「言語行為」として 考えられ、それらの「言語行為」とは「事 実確認的」行為(constative act)、「発語内的」 行為(illocutionary act)、「発語媒介的」行為 (parlocutionary act) の三つの種類に分かれ る。 (18)ドイツの文芸評論家、ヴォルフガング・イ ーザー(Wolfgang Iser)が唱えた。『行為と しての読書――美的作用の理論』(Der Akt des Lesens:Theorie asthetischer Wirkung)轡田 収訳、岩波現代選書、1982 年、参照。 (19)ポストモダニズムとは 20 世紀末頃の変化が 反映されている。その世界は自己中心的で、 多元論的である。この時代の美的価値は、 日常の体験に由来している。 ポストモダニズムについて多くの評論家 は、それが現代のどこにでもある懐疑的な 態度に関係している文化だとしている。 (20)イタリアの記号学者・作家。Apocalittici e In-tegratiで、エーコはマスコミを研究し、現 代社会の「英雄神話」を分析した。エーコ によれば、アメリカの漫画のスーパーマン (Superman)とは大衆文化(mass culture)の 結果であるという。

(21)Eco, Umberto. Apocalípticos e integrados ante la cultura de masas. Barcelona, 1973. (Lumen) (22)イーグルトン、前掲書、123 頁。

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英雄(culture hero)の役をする。 (24)林道義『尊と巫女の神話学』名著刊行会、 1990年、155 頁。 (25)『古事記』上巻(新編日本古典文学全集 1) 小学館、1997 年、63 頁。 (26)古代では「ことあげ」は不吉なものとされ た。 (27)松村武雄『神話学言論』上巻、ゆまに書房、 1980年、579 頁。 (28)近代科学によれば、近親相姦の肉体関係が あるからといって遺伝子が弱められること は限らないという。しかし、スペースの都 合もあり、その課題に対して著者は意見を 略することとする。 (29)「好色な女」の意味。 (30)柳田国男監修『民俗学辞典』東京堂出版、 1951年、480 頁。 (31)「天の服織女、見驚きて、梭に陰上を衝き て死にき」前掲『古事記』。 (32)イマン『グレート・マザー――無意識の女 性像の現象学』(The great mother: an analysis of the archetype, translated from the German by Ralph Manheim. 2nd ed.)福島章ほか訳、ナツ メ社、1982 年、44 頁。 (33)河合隼雄、『日本神話と心の構造』岩波書店、 2009年、212-214 頁。 (34)確かに、精神病によって、この二つの世界 を行き来する、狂気の人もいれば、現実の センスを失い、非現実的な世界にしか居ら れない人もいる。 (35)「精神異常」とか「天才」という空想家・

神秘家に関しては、Redfield Jamison, Kay, Touched with Fire: manic-depressive illness and artistic temperament, 1993 などを参照。 (36)言語行為という概念を指摘した。ジャン・

ジャック・ルソー(Jean Jacques Rousseau) の「社会条約」の概念に近い、言語に存在 する「因習・慣習」的な要素という「意味 契約的な」局面を分析した。

(37)Storr, Anthony, Freud. A Very Short Introduc-tion, p.105. Oxford,2001. (Oxford Univ. Press)

“As already indicated, Freud was a highly civi-lized man himself, but nevertheless regarded civ-ilization as oppressive, since, in his view, it im-posed more restraints upon instinctual fulfilment than most human beings could tolerate without developing at least some neurotic symptoms”. (38)“In an earlier paper, Freud had laid more

empha-sis upon the dangers threatening the individual from within. He noted the similarity between re-ligious practices and obsessional rituals. In his view, obsessional rituals were was of protecting the ego from the emergence of phantasies, thoughts, or sexual impulses, which the individu-al had repressed; and, at the same time, a dis-placed and partial expression of those impulses”. (Storr, A., op.cit., p.111)

(39)古代ギリシャの悲劇詩人。 (40)1975 年に映画化された。 (41)1959 年に映画化された。

(42)マルクス主義。Karl Marx と Friedrich Engels によって確立された弁証法的史的唯物論に 基づく共産主義思想。 (43)イエス・キリスト(Jesus Christ)、マーチ ン ・ ル ー サ ー ・ キ ン グ ( Martin Luther King)、 ガンジー(Gandhi)、マルコム X (Malcolm X)、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)らを参照。

(44)“They [the gods] must exorcize the terrors of na-ture, they must reconcile men to the cruelty of Fate, particularly as it is shown in death, and they must compensate them for the sufferings which a civilized life in common has imposed on them”. (SE, XXI.18)

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参照

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