修 士 学 位 論 文
MRI における CEST Imaging の 撮像条件および臨床症例の検討
(西暦) 2016 年 2 月 8 日 提出
首都大学東京大学院
人間健康科学研究科 博士前期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域
学修番号: 14897627 氏 名:若山 季樹
( 指導教員名:妹尾 淳史)
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2015
年度 博士前期課程学位論文要旨Magnetic Resonance Imaging (MRI) 撮像の際に,特定の物質のプロトンが固有のプリサ チュレーションパルス周波数で飽和され,そのプロトンが自由水のプロトンと交換すること で MRI 撮像の対象である水の信号強度が間接的に低下する現象を Chemical Exchange Saturation Transfer (CEST)現象という.CEST 現象を利用した画像法はCEST imaging と呼ばれ,対象とする物質の濃度・pH および温度変化を反映すると考えられている.生体 内のアミドを対象としたCEST imaging はAmide Proton Transfer (APT) imaging と言 われ,脳腫瘍の悪性度の鑑別,超急性期脳梗塞の検出においてその有用性が期待され研究さ れている.脳腫瘍におけるAmide 濃度の増加は腫瘍内の豊富な細胞質によると考えられて いる.脳虚血においてpH は嫌気性代謝によるアシドーシスで低下し,温度は代謝の変化,
血流低下による熱交換の障害,早期の炎症反応のいずれか,あるいは組み合わせによって上 昇 す る と 考 え ら れ て い る .CEST image の 作 成 に は 信 号 値 の 変 化 を プ ロ ッ ト し た
z-spectrum とよばれるグラフを作成し,それを元に CEST 現象の強さの指標である
MTRasymを算出してマッピングしたものがCEST imageである.CEST imagingは使用す る装置,撮像シーケンス,解析環境によって,最適な撮像条件,解析条件が異なる.本研究 で用いた環境では十分にその検討がされておらず,至適条件を検討する必要がある.そして その結果を元に臨床例を撮像し,臨床的有用性について検討する必要がある.
本研究の目的はAPT imageの撮像においてAmide濃度を反映させる最適な撮像条件を 検討するとともに,脳腫瘍症例におけるAPT imageの有用性を明らかにすることである.
本研究の意義は,適切な条件および解析によるAPT imageを得ることで,従来のMRI撮 像法では鑑別困難であった脳腫瘍・超急性期脳虚血等の病態解析に貢献できることである.
使用撮像機器は MAGNETOM Trio A Tim system(3T, シーメンス社),Head matrix coil(32ch).
撮 像 条 件 は CEST 用 マ ル チ エ コ ー2D GRE 系 シ ー ケ ン ス(work in progress) (TR/TE=316/2.46,FA=10,matrix=128,slice thickness=5 mm),測定範囲:±4.5 ppmの範囲,
周波数オフセット:1.9 ppm(ファントム撮像)/3.5 ppm(臨床例撮像)とした.至適条件を検 討するために,プリサチュレーションパルス印加条件(印加時間,間隔(interpulse delay),
強度),撮像回数および測定点数を変化させて,クレアチン溶液を10,30,50,70,100 mMに 調製したファントムを撮像して,MTRasymの変化を観察した.
脳腫瘍症例におけるAPT imageの検証は,共同研究者である放射線科専門医の協力を得 て,APT imageとMRIの他撮像法,CT,血液検査,生理検査,病理検査等の他検査およ びカルテに記載された臨床経過などの臨床情報を比較して臨床的有用性を検討した.撮像条 件はファントムスタディの結果を用いた.
本研究の遂行にあたっては首都大学東京大学院人間健康科学研究科 研究安全倫理審査 によって承認を受けている(承認番号15060).データ取得にあたった公益財団法人東京都保 健医療公社荏原病院の倫理委員会においても承認を受けている(承認番号2717).
学位論文題名(注:学位論文題名が英語の場合は和訳をつけること)
MRIにおけるCEST Imagingの撮像条件および臨床症例の検討
学位の種類: 修士(放射線学)
首都大学東京大学院
人間健康科学研究科 博士前期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域 学修番号14897627
氏 名:若山 季樹
(指導教員名:妹尾 淳史)
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検討の結果,プリサチュレーションパルス印加時間およびinterpulse delayは極力長い方 が望ましかったため,設定可能な最長時間である99 ms,100 msとした.撮像回数(測定点 数)はデータの信頼性を担保できる最少の点数である14回(13点)(撮像時間0分34秒)とし た.プリサチュレーションパルス強度は強くすると MTRasymは増強するが,1.6 μT前後 で飽和しそれ以後は低下する傾向が見られたため,1.6 μTを至適強度とした.このときの クレアチン濃度とMTRasymの間には正の相関が見られた(r=0.96,p<0.01).
臨床例についての検討では,脳腫瘍症例について,他の画像法(MRI,CT,RI等)および臨床 情報(臨床経過の記録,血液検査,生理検査および病理検査等)により脳腫瘍があると確認さ れている部位のAPT imageの変化を観察した.その結果,悪性度の高い脳腫瘍症例では15 例全例でMTRasymは上昇し,低悪性度症例では8例中5例で上昇は見られず,3例では上 昇が見られた.
適切な MTRasymを取得するためには,適切なプリサチュレーションパルス印加時間,
interpulse delay,撮像回数(測定点数),印加強度を選択する必要があり,本検討により得 られた撮像条件(プリサチュレーションパルス印加時間:99 ms,interpulse delay:100 ms,
撮像回数(測定点数):14回(13点),印加強度;1.6 μT)を用いることで,撮像したファントム のクレアチン濃度を反映したCEST imageを得られることを明らかにした.
脳腫瘍症例のAPT image では,悪性度の高い症例においてMTRasymが上昇していたこ とから,脳腫瘍の悪性度を反映しており,特に高悪性度脳腫瘍の鑑別において一定の有用性 があるものと考えられた.また,低悪性度脳腫瘍症例においてMTRasymが上昇しているも のが8例中3例あった.このうち,びまん性星細胞腫の1例は,1年後の撮像において悪性 転化の所見が認められたことから,APT imageが後の悪性転化を示唆していた可能性があ る.今後更に症例数を重ねて検証することが必要である.
本研究の問題点は次に上げることが考えられる.第一に現在得られるAPT imageには局 所磁場不均一やCSF flowによるartifactが存在し,artifactと病理学的な変化を判別困難 な例が存在することである.これらは局所磁場の均一性を上げるmulti transmit技術を用 いる,撮像スライス上下にflowの影響を取り除くためのsaturation pulseを用いる等の対 策が有用であると考えられる.現在は使用装置の技術的制約によってこれらの対策は困難で あるが,今後のバージョンアップの際には改めて検討したい.第二に本研究の臨床症例数は 少ないため,得られた知見の信頼性は限られたものであるということである.今後更に症例 数を増やして検討していきたい.
今後の展望として,amine(周波数シフト+2.0),aliphatic(周波数シフト-3.0)など Amide 以外を対象としたCEST imageの研究が他の研究者により始められており,腫瘍の悪性度,
壊死組織の鑑別において有用性が期待されている.現在筆者が解析に用いている環境では,
撮像後に周波数シフトを変更することができない.今後 Amide 以外の物質を対象とした
CEST imageを解析するために,筆者は解析用ソフトウェアを開発する予定である.
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目 次
第 1 章 序 論 ... 5
1.1 研 究 の 背 景 ... 5
1.2 研 究 の 目 的 と 意 義 ... 6
1.3 本 論 文 の 構 成 ... 6
第 2 章 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI ... 7
2.1 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI の 役 割 ... 7
2.1.1 Gradient Recalled Echo (GRE)法 ... 7
2.1.2 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス ... 10
2.2 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI検 査 ... 11
2.2.1 脳 腫 瘍 の 概 要 ... 11
2.2.2 脳 腫 瘍 診 断 の た め の MRI検 査 と 代 表 所 見 ... 12
第 3 章 CEST imaging の 原 理 ... 13
3.1 CEST 現 象 ... 13
3.2 CEST image の 解 析 ... 14
3.3 局 所 磁 場 不 均 一 の 補 正 法 ... 15
第 4 章 撮 像 条 件 お よ び 解 析 条 件 に よ る MTRa s y mの 変 化 に つ い て の 検 討 ... 17
4.1 目 的 ... 17
4.2 使 用 機 器 ... 17
4.3 方 法 ... 18
4.3.1 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 の 検 討 ... 18
4.3.2 z-spectrum 測 定 点 数 の 検 討 ... 19
4.3.3 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 の 検 討 ... 19
4.4 結 果 ... 20
4.5 考 察 ... 27
4.6 小 括 ... 30
第 5 章 脳 実 質 内 腫 瘍 症 例 に お け る CEST image の 検 討 ... 31
5.1 目 的 ... 31
5.2 使 用 機 器 ... 31
5.3 対 象 と し た 症 例 と 検 討 方 法 ... 31
5.4 検 討 結 果 ... 32
5.4.1 高 悪 性 度 (gradeⅢ , Ⅳ ) 脳 腫 瘍 の APT image ... 33
5.4.2 低 悪 性 度 (gradeⅠ , Ⅱ ) 脳 腫 瘍 の APT image ... 36
5.5 考 察 ... 39
5.6 小 括 ... 41
第 6 章 総 括 ... 42
謝 辞 ... 43
4
引 用 文 献 ... 44 本 研 究 に 関 連 し た 研 究 業 績 ... 46
5
第 1 章 序 論
1.1 研 究 の 背 景
Magnetic Resonance Imaging(MRI)は 中 枢 神 経 疾 患 の 診 断 に お い て 重 要 な 位 置 を 占 め て い る .MRI検 査 は X 線 Computed Tomography(CT)と 比 較 し て ,コ ン ト ラ ス ト 分 解 能 と 細 部 の 描 出 に 優 れ て い る .さ ら に MRIは 撮 像 パ ラ メ ー タ が 数 多 く あ り ,パ ラ メ ー タ に よ っ て 得 ら れ る 画 像 コ ン ト ラ ス ト が 変 わ り , 形 態 的 ・ 解 剖 学 的 情 報 の み な ら ず 詳 細 な 病 態 情 報 を 得 る こ と も で き る .
画 像 診 断 ガ イ ド ラ イ ン 1 )に お い て は 亜 急 性 ・ 慢 性 の 頭 蓋 内 占 拠 性 病 変 が 疑 わ れ る 患 者 の 画 像 検 査 はMRI検 査 が 推 奨 さ れ て お り ,脳 腫 瘍 の 診 療 に お け るMRI診 断 の 重 要 性 は 高 い . MRI 撮 像 に お い て は 新 た な 撮 像 技 術 の 開 発 が 続 け ら れ て お り , 本 研 究 で 用 い た Chemical Exchange Saturation Transfer(CEST)法 も そ の 一 つ で あ る .通 常 の MRI撮 像 に お い て 対 象 は プ ロ ト ン で あ り , 主 に 観 察 さ れ る の は 水 と 脂 肪 に 限 ら れ る .CEST 法 は 対 象 と す る 物 質 に 含 ま れ る プ ロ ト ン と 水 の プ ロ ト ン の 交 換 に よ っ て 生 じ る コ ン ト ラ ス ト を 利 用 す る 画 像 法 で あ り ,MRI に よ る 分 子 イ メ ー ジ ン グ と し て 期 待 さ れ て い る 2 ) , 3 ).
生 体 内 の Amide を 対 象 と し た CEST imaging は Amide Proton Transfer(APT) imaging と 呼 ば れ , 脳 腫 瘍 の 悪 性 度 の 鑑 別 , 超 急 性 期 脳 梗 塞 の 検 出 に お い て 有 用 性 が 期 待 さ れ 研 究 が 行 わ れ て い る 4 ) , 5 ).脳 腫 瘍 に お け る Amide 濃 度 の 増 加 は 腫 瘍 内 の 豊 富 な 細 胞 質 に よ る と 考 え ら れ て い る . 脳 虚 血 に お い て pH は 嫌 気 性 代 謝 に よ る ア シ ド ー シ ス で 低 下 し , 温 度 は 代 謝 の 変 化 , 血 流 低 下 に よ る 熱 交 換 の 障 害 , 早 期 の 炎 症 反 応 の い ず れ か , あ る い は 組 み 合 わ せ に よ っ て 上 昇 す る と 考 え ら れ て い る .
CEST image は 信 号 値 の 変 化 を プ ロ ッ ト し た z-spectrum と よ ば れ る グ ラ フ を 作 成 し , そ れ を 元 に CEST 現 象 の 強 さ の 指 標 で あ る Asymmetric Magnetization Transfer Ratio
(MTRa s y m)を 算 出 し て マ ッ ピ ン グ す る こ と で 得 ら れ る .
6 1.2 研 究 の 目 的 と 意 義
本 研 究 の 目 的 は ,APT image の 撮 像 に お い て Amide 濃 度 を 反 映 さ せ る 最 適 な 撮 像 条 件 を 検 討 す る と と も に , 他 の 臨 床 画 像 お よ び 臨 床 情 報 と 比 較 す る こ と で 脳 腫 瘍 症 例 に お け る APT image の 有 用 性 を 検 討 す る こ と で あ る .
本 研 究 の 意 義 は , 適 切 な 条 件 お よ び 解 析 に よ る APT imageを 得 る こ と で , 従 来 の MRI 撮 像 法 で は 鑑 別 困 難 で あ っ た 脳 腫 瘍 ・ 超 急 性 期 脳 虚 血 等 の 病 態 解 析 に 貢 献 で き る こ と で あ る .
本 論 文 の 作 成 に あ た っ て の 検 討 は 首 都 大 学 東 京 大 学 院 人 間 健 康 科 学 研 究 科 研 究 安 全 倫 理 審 査 に よ っ て 承 認 を 受 け て い る(承 認 番 号 15060). ま た デ ー タ 取 得 に あ た っ た 公 益 財 団 法 人 東 京 都 保 健 医 療 公 社 荏 原 病 院 倫 理 委 員 会 に お い て 承 認 を 受 け て い る(承 認 番 号 2717).
1.3 本 論 文 の 構 成
本 論 文 は 第 1 章 か ら 第 6 章 ま で で 構 成 す る .
第 1 章 で は 本 研 究 の 背 景 と 目 的 を 述 べ る . 第 2 章 で は , 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI 診 断 と し て ,MRIの 原 理 お よ び 本 研 究 で 解 析 対 象 に し た 脳 腫 瘍 に つ い て 概 説 す る .第 3章 で は 本 研 究 で 使 用 し た CEST imaging の 原 理 に つ い て 述 べ る .第 4 章 で は 撮 像 条 件 お よ び 解 析 条 件 に よ る MTRa s y mの 変 化 に つ い て の 検 討 と し て ,フ ァ ン ト ム を 用 い た 実 験 と 結 果 お よ び そ の 考 察 に つ い て 述 べ る .第 5 章 で は 脳 実 質 内 腫 瘍 症 例 に お け る CEST image の 検 討 と し て 臨 床 症 例 に つ い て 述 べ る . 第 6章 で は 総 括 と し て 本 研 究 の 結 論 お よ び 今 後 の 課 題 に つ い て 述 べ る .
7
第
2
章 脳 腫 瘍 診 療 に お け るMRI
2.1 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI の 役 割
MRIは ,NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核 磁 気 共 鳴)の 分 野 で 発 見 さ れ た 原 理 と , そ こ で 開 発 さ れ た 各 種 測 定 法 を 有 効 に 取 り 込 ん で 発 展 し た も の で あ る .MRI 検 査 は 強 い 磁 場 と 高 周 波 電 波 を 用 い ,1H(プ ロ ト ン)か ら の 信 号 を 画 像 化 す る 検 査 で あ る 6 ).
MRI の 最 大 の 特 徴 は , 他 の 画 像 法 と 比 較 し て 多 様 な 情 報 が 取 り 出 せ る と こ ろ に あ る . MRIは 軟 部 組 織 の コ ン ト ラ ス ト が 高 く ,撮 像 法 に よ っ て コ ン ト ラ ス ト が 異 な る .そ の 基 本 に あ る の は 組 織 間 で の 緩 和 時 間 と プ ロ ト ン 密 度 の 違 い で あ る 7 ).
2.1.1 Gradient Recalled Echo (GRE)法
グ ラ ジ エ ン ト エ コ ー 法(Gradient Recalled Echo(GRE))に つ い て の パ ル ス シ ー ケ ン ス チ ャ ー ト を 提 示 す る(図 2.1.1.1).
図 2.1.1.1 グ ラ ジ エ ン ト エ コ ー 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス チ ャ ー ト
( 文 献 8 の 図 を 改 変 引 用 )
① 励起パルス
② スライス選択
③ 位相エンコード
④ 読み出し
⑤ MR信号 RF
G
G
G
信号 y
z x
8
図 2.1.1.1 中 の ① が ,ス ピ ン 励 起 の た め の RF パ ル ス で あ る .② は ス ラ イ ス 方 向 の 位 置 情 報 を 付 加 す る た め の ス ラ イ ス 選 択 勾 配 で あ る . こ れ に よ り , 特 定 ス ラ イ ス 内 の ス ピ ン を 選 択 的 に 励 起 す る こ と が で き る . ③ は 位 相 エ ン コ ー ド で あ る . ④ は 読 み 出 し 勾 配 で あ り , 周 波 数 エ ン コ ー ド を 行 い つ つ 信 号 を 収 集 す る . ま た , ④ の 中 心 部 に 一 致 し て 信 号 ⑤ が 得 ら れ る . ④ の 勾 配 は 前 半 の 下 向 き の 勾 配 磁 場 に よ っ て ス ピ ン の 位 相 整 合 性 が 失 わ れ る が , 後 半 の 反 対 向 き の 勾 配 磁 場 に よ っ て ス ピ ン の 位 相 の 変 化 も 反 転 し , 前 半 の 下 向 き 部 分 と 後 半 の 上 向 き 部 分 の 面 積 が 等 し く な る 部 分 で ス ピ ン の 位 相 が 再 び 一 致 し , 最 も 強 い 信 号 が 得 ら れ る . こ の 方 法 を グ ラ ジ エ ン ト エ コ ー 法 ま た は フ ィ ー ル ド エ コ ー と 呼 ぶ 8 ).
GRE 法 で は 高 速 撮 像 を 目 的 と し て 短 い TR を 用 い る こ と が 多 い が ,こ の た め に 横 磁 化 の 残 存 が 問 題 と な る .Spin Echo(SE)法 の よ う に TR が 十 分 に 長 い 場 合 は ,次 の 励 起 パ ル ス が 加 え ら れ る 時 点 で は 横 磁 化 は 消 失 し て い る が ,TR が 数 十 ミ リ 秒 以 下 に な る と 横 磁 化 は 残 存 し て い る . こ の ま ま の 状 態 で 次 の 励 起 パ ル ス を 与 え る と 残 存 横 磁 化 の 一 部 が 縦 磁 化 に 織 り 込 ま れ る と 同 時 に , 横 磁 化 は 励 起 に よ り 生 じ た 新 た な 横 磁 化 と 残 存 横 磁 化 の 和 と な り コ ン ト ラ ス ト が 複 雑 に な る た め , 選 択 的 に 目 的 と す る 信 号 を 収 集 す る よ う な 工 夫 を 加 え る 必 要 が あ る . 残 存 横 磁 化 の 扱 い 方 に よ っ て , 残 存 横 磁 化 を 破 壊 し て 影 響 を 最 小 限 に 抑 え る 非 定 常 状 態 型 GRE(ス ポ イ ル 型)と , 残 存 横 磁 化 を 残 し て そ れ を 利 用 す る 定 常 状 態 型 GRE に 大 別 さ れ る 8 ).
2.1.1.1 非 定 常 状 態 型 GRE-Fast Low Angle Shot(FLASH)法
非 定 常 状 態 型 GREの 一 つ と し て FLASH 法 を 概 説 す る .
CEST image の た め の 撮 像 に 用 い る 撮 像 シ ー ケ ン ス は マ ル チ エ コ ー 型 の FLASH法 を 用 い て い る .
FLASH 法 は は じ め の 励 起 パ ル ス に よ る エ コ ー を 観 測 後 , 次 の 励 起 パ ル ス の 時 点 で 横 磁 化 を で き る だ け 小 さ く す る こ と に よ り T2*の 影 響 を 少 な く し て ,T1 強 調 画 像 と す る 撮 像 法 で あ る .FLASH 法 は ,横 磁 化 の コ ヒ ー レ ン ス を 破 壊 す る た め に 勾 配 磁 場(ス ポ イ ラ ー)を 用 い る 手 法 で あ る(次 頁 図 2.1.1.1.1).FLASH 法 で は ,FA を 大 き く ,TR,TE を 短 く す る と T1 強 調 画 像 と な り ,FA を 小 さ く ,TR,TEを 長 く す る と T2*強 調 画 像 と な る 8 ).
9
2.1.1.2 定 常 状 態 型 GRE-Fast Imaging with Steady state Precession(FISP)法
非 定 常 状 態 型 GREの 一 つ と し て FISP 法 を 概 説 す る .
FSIP 法 は 読 み 出 し 勾 配 を デ ー タ 収 集 後 も 延 長 す る こ と で , 誘 発 エ コ ー や 2 次 エ コ ー を で き る だ け 抑 制 し ,本 来 の FID 成 分 だ け を 収 集 し よ う と す る 手 法 で あ る .さ ら に 次 の 励 起 パ ル ス の 直 前 に ,rewinderと 呼 ば れ る 勾 配 磁 場 を Gy軸 に 加 え て y軸 方 向 の 位 相 を 揃 え て , 定 常 状 態 を 積 極 的 に 維 持 し て い る(次 頁 図 2.1.1.2.1). 得 ら れ る 画 像 は T2*強 調 画 像 と な る
8 ).
図 2.1.1.1.1 FLASH 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス チ ャ ー ト
( 文 献 8の 図 を 改 変 引 用 )
10 2.1.2 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス(presaturation pulse)と は , 信 号 の 抑 制 や 特 定 の コ ン ト ラ ス を 付 加 す る こ と を 目 的 に , パ ル ス シ ー ケ ン ス の は じ め , ま た は ス ラ イ ス 選 択 RF パ ル ス の 前 に 印 加 す る RF パ ル ス で あ り 9 ), 傾 斜 磁 場 と 併 用 し て 特 定 の 空 間 の 磁 化 だ け を 飽 和 さ せ て 信 号 を 抑 制 す る 空 間 選 択 制 の RF パ ル ス で あ る . 横 磁 化 の 残 存 が 励 起 パ ル ス に 反 応 す る た め , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス の 直 後 に は ス ポ イ ラ ー 傾 斜 磁 場 に よ っ て 横 磁 化 の 位 相 を 分 散 し て 消 失 さ せ る .一 般 的 に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス は ,Magnetic Resonance Angiography(MRA)の 撮 像 領 域 の 上 部 ( ま た は 下 部 ) に 印 加 し て , 静 脈 信 号 の 信 号 抑 制 に 用 い ら れ る 1 0 ).
図 2.1.1.2.1 FISP 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス チ ャ ー ト
( 文 献 8の 図 を 改 変 引 用 )
11 2.2 脳 腫 瘍 診 療 に お け る MRI 検 査
2.2.1 脳 腫 瘍 の 概 要
脳 腫 瘍 と は 頭 蓋 内 に 発 生 し た 新 生 物 の 総 称 で あ り , 脳 実 質 の み な ら ず 髄 膜 , 下 垂 体 , 脳 神 経 な ど 頭 蓋 内 に 存 在 す る あ ら ゆ る 組 織 か ら 発 生 す る . 脳 は 機 能 局 在 で あ る た め , 腫 瘍 の 発 生 部 位 に よ っ て 様 々 な 症 状 が 出 現 す る . 脳 腫 瘍 は 原 発 性 脳 腫 瘍 と 転 移 性 脳 腫 瘍 に 大 別 さ れ , 原 発 性 脳 腫 瘍 は 全 脳 腫 瘍 の 約 8割 を 占 め る . 原 発 性 脳 腫 瘍 は さ ら に 脳 実 質 外 腫 瘍 と 脳 実 質 内 腫 瘍 に 大 別 さ れ , 前 者 は 主 に 良 性 で あ る の に 対 し 後 者 は 悪 性 で あ る こ と が 多 い . 脳 腫 瘍 の 分 類 に は World Health Organization(WHO)に よ る 組 織 分 類 が 用 い ら れ ,130 以 上 の 組 織 型 が 含 ま れ て い る(下 表 2.2.1) 1 2).
表 2.2.1 脳 腫 瘍 の 組 織 型 分 類( 文 献 1 2 )の 図 を 改 変 引 用 )
12
WHO の 分 類 で は 組 織 学 的 所 見 だ け で は な く , 臨 床 悪 性 度 ( 予 後 ) を 考 慮 し て , 悪 性 度 の grade が 決 め ら れ て い る ( 下 表 2.2.2)1 2).
2.2.2 脳 腫 瘍 診 断 の た め の MRI 検 査 と 代 表 所 見
脳 腫 瘍 の 画 像 検 査 で は 腫 瘍 が 実 質 内 に あ る か 実 質 外 に あ る か を 判 定 す る .MRI で は T1 強 調 画 像(T1 Weighted Image(T1WI)),T2 強 調 画 像(T2 Weighted Image(T2WI)),FLuid Attenuation Inversion Recovery(FLAIR)画 像 と い っ た 通 常 用 い ら れ る 画 像 が 撮 像 さ れ る ほ か , ガ ド リ ニ ウ ム 造 影 剤 を 用 い た 造 影 T1 強 調 画 像 も 撮 像 さ れ る . 頻 度 の 高 い び ま ん 性 星 細 胞 腫 , 退 形 成 性 星 細 胞 腫 , 膠 芽 腫 や 乏 突 起 膠 腫 は 境 界 不 明 瞭 な び ま ん 性 ・ 浸 潤 性 の 病 変 を 呈 し そ の 他 の 腫 傷 で は 比 較 的 境 界 明 瞭 な 限 局 性 腫 癒 を 形 成 す る こ と が 多 い .
鑑 別 を 進 め る う え で は , 画 像 上 の 病 変 を 腫 蕩 の 嚢 胞 成 分 , 充 実 成 分 お よ び 周 囲 の 浮 腫 に 分 け て 考 え る 必 要 が あ る . 嚢 胞 は 内 部 均 一 で 造 影 さ れ ず , 通 常 は T2 強 調 画 像 で 脳 脊 髄 液 と 同 等 以 上 の 高 信 号 を 示 す . 浮 腫 も 造 影 さ れ ず ,T2 強 調 画 像 お よ び FLAIR で 均 一 な 高 信 号 を 示 す . 腫 瘍 に 伴 う 浮 腫 は 原 則 と し て 白 質 に 広 が る た め , 皮 質 に 似 た よ う な 異 常 信 号 が 見 ら れ た 場 合 は 腫 瘍 自 体 と 考 え ら れ る . 造 影 増 強 効 果 は 血 液 脳 関 門(Brain Blood Barrier(BBB))の 破 綻 に よ っ て 生 じ る た め ,必 ず し も 血 流 の 多 寡 を 反 映 す る も の で は な い . び ま ん 性 の 神 経 膠 腫 で は 悪 性 ほ ど 強 く 造 影 さ れ る 傾 向 が あ る が , 良 性 腫 瘍 で も 強 く 造 影 さ れ る も の が あ る . 腫 瘍 内 壊 死 は 充 実 成 分 の 内 部 に 存 在 す る 不 整 形 の 造 影 不 領 域 と し て 認 め ら れ , 悪 性 を 示 唆 す る 所 見 で あ る . 腫 瘍 内 出 血 は T1 強 調 画 像 に お け る 高 信 号 ,T2 強 調 画 像 ,T2*強 調 画 像 に お け る 低 信 号 と し て 認 め ら れ る . 拡 散 強 調 画 像 (Diffusion Weighted Imaging(DWI)) は 細 胞 密 度 を 反 映 し , 細 胞 密 度 の 高 い 悪 性 腫 瘍 で は 高 信 号 , 細 胞 密 度 の 低 い 良 性 腫 瘍 は 低 信 号 を 呈 す た め , 良 悪 性 の 鑑 別 に お い て 重 要 で あ る .
こ の 他 に も MR 灌 流 強 調 画 像 (Perfusion Weighted Imaging(PWI)),MR Spectroscopy (MRS)な ど も 用 い ら れ る .
PWI で は Relative Cerebral Blood Volume(rCBV)は 血 管 床 を 反 映 す る た め ,血 管 床 の 豊 富 な 膠 芽 腫 , 悪 性 度 の 高 い 神 経 膠 腫 な ど で は 高 値 を 示 す .
MRS で は 細 胞 膜 マ ー カ ー の choline の 上 昇 , 神 経 細 胞 マ ー カ ー で あ る N-AcetylAspartate(NAA)の 低 下 ,嫌 気 性 代 謝 に よ る lactate の 出 現 ,壊 死 を 反 映 す る lipid の 出 現 な ど の 所 見 が 認 め ら れ る 1 3 ).
表 2.2.2 脳 腫 瘍 の 組 織 型 分 類 と 悪 性 度 ( 文 献 1 2 )の 図 を 改 変 引 用 )
13
第
3
章CEST imaging
の 原 理3.1 CEST 現 象
MRI 撮 像 の 際 に ,特 定 の 物 質 の プ ロ ト ン が そ の プ ロ ト ン に 固 有 の 周 波 数 の RFパ ル ス で 飽 和 さ れ ,そ の プ ロ ト ン が 自 由 水 の プ ロ ト ン と 交 換 す る こ と で MRI撮 像 の 対 象 で あ る 水 の 信 号 強 度 が 間 接 的 に 低 下 す る 現 象 を CEST(Chemical Exchange Saturation Transfer)現 象
( 下 図 3.1.1) と い う .
図 3.1.1 CEST 現 象
14 3.2 CEST image の 解 析
CEST image を 取 得 す る た め の 撮 像 は , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス を 変 化 さ せ て 複 数 回 撮 像 し , 複 数 の 画 像 を 得 る . 撮 像 に 用 い る の は GRE 法 の 一 種 で あ る Fast low angle shot(FLASH)法 の multi echo 型 で あ る ( 下 図 3.2.1).1 shot あ た り の echo 数 は segmentationと い う パ ラ メ ー タ で 設 定 さ れ る .
得 ら れ た 複 数 の 画 像 の 信 号 値 を 測 定 し , 横 軸 に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス の 周 波 数 , 縦 軸 に 信 号 値 を と っ た z-spectrum と 呼 ば れ る グ ラ フ を 作 成 す る .CEST 効 果 に よ る 信 号 値 の 現 象 は ご く 小 さ い も の で あ る た め ,CEST 効 果 の 強 さ の 指 標 と し て MTRa s y mを 算 出 し て マ ッ ピ ン グ に 用 い る .MTRa s y mを 算 出 し ,各 ピ ク セ ル に マ ッ ピ ン グ し た も の が CEST image で あ る .
MTRa s y mは 対 象 と す る 物 質 に 固 有 の 周 波 数( + Δ ω ,周 波 数 シ フ ト )に お け る 信 号 値 と ,
正 負 逆 の 周 波 数( - Δ ω )に お け る 信 号 値 の 差 を ,プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン な し の 信 号 値(S0) で 除 し た も の と 定 義 さ れ る ( 次 頁 図 3.2.2).
CEST image は CEST 効 果 が 強 い ほ ど MTRa s y mが 高 値 に , 弱 い ほ ど 低 値 で 表 さ れ , カ ラ ー マ ッ プ に お い て 前 者 は 赤 色 , 後 者 は 青 色 で 表 現 さ れ る .
生 体 内 の ア ミ ド を 対 象 と し た 場 合 は ,周 波 数 シ フ ト Δ ω は +3.5ppm と な り ,こ の CEST imageは Amide Proton Transfer (APT) Image と 呼 ば れ る 3 ).APT image は 脳 腫 瘍 の 悪 性 度 の 鑑 別 、 超 急 性 期 脳 梗 塞 の 検 出 に お い て 有 用 性 が 期 待 さ れ 研 究 が 行 わ れ て い る 3 ) , 4 ) , 5 ). 脳 腫 瘍 に お け る Amide 濃 度 の 増 加 は 腫 瘍 内 の 豊 富 な 細 胞 質 に よ る と 考 え ら れ て い る
3 ) , 4 ) , 5 ).脳 虚 血 に お い て pH は 嫌 気 性 代 謝 に よ る ア シ ド ー シ ス で 低 下 し ,温 度 は 代 謝 の 変 化 ,
血 流 低 下 に よ る 熱 交 換 の 障 害 , 早 期 の 炎 症 反 応 の い ず れ か , あ る い は 組 み 合 わ せ に よ っ て 上 昇 す る と 考 え ら れ て い る 2 ) , 3 ) , 5 ).
図 3.2.1 CEST image を 取 得 す る た め の 元 画 像 撮 像
15 3.3 局 所 磁 場 不 均 一 の 補 正 法
CEST image の 解 析 に お い て は プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス の 周 波 数 に お け る 信 号 値 を 用 い る た め 局 所 磁 場 不 均 一 が 解 析 結 果 に 影 響 す る こ と が 懸 念 さ れ る . 本 研 究 で 用 い た 補 正 法 は z-spectrum の フ ィ ッ テ ィ ン グ カ ー ブ が 最 小 値 を 取 る 位 置 を 水 の 共 鳴 周 波 数
(=z-spectrum で 横 軸 が 0 と な る 位 置 ) と 定 義 し て 解 析 し た ( 下 図 3.3.1).
図 3.2.2 z-spectrum と MTRa s y mの 算 出
図 3.3.1 局 所 磁 場 不 均 一 補 正 法
16
さ ら に 局 所 磁 場 不 均 一 の 影 響 を 低 減 さ せ る た め に ,MTRa s y m算 出 に あ た っ て 周 波 数 シ フ ト 一 点 で の 信 号 値 を 用 い る の で は な く ,周 波 数 シ フ ト を 中 心 に 一 定 の 幅 (delta frequency (Δfreq)) の カ ー ブ 下 面 積 を 用 い た ( 下 図 3.3.2).
図 3.3.2 カ ー ブ 下 面 積 を 用 い た 局 所 磁 場 不 均 一 補 正 法
17
第
4
章 撮 像 条 件 お よ び 解 析 条 件 に よ るMTR
asym の 変 化 に つ い て の 検 討4.1 目 的
CEST imaging は 影 響 を 受 け る 因 子 が 多 い た め ,適 切 な 撮 像 条 件 を 設 定 す る 必 要 が あ る . 本 検 討 の 目 的 は プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 の 変 化 に よ る MTRa s y m の 変 化 を 測 定 し , 適 切 な 撮 像 条 件 を 検 討 す る こ と で あ る .
4.2 使 用 機 器
MRI装 置 は シ ー メ ン ス 社 製 3.0T MR 装 置 MAGNETOM Trio A Tim system, 撮 像 コ イ ル は 32channel Head Matrix Coil を 使 用 し た .
使 用 し た シ ー ケ ン ス は CEST 用 2D-GRE シ ー ケ ン ス(work in progress(WIP)), N4_632_VB17A_CEST_Ortho Version D で あ る .
フ ァ ン ト ム は ク レ ア チ ン ( 下 図 4.2.1)1 水 和 物 (C4H9N3O2・H20) 粉 末 を 溶 解 し た ク レ ア チ ン 溶 液 を 100mM に 調 製 し て 封 入 し た プ ラ ス チ ッ ク 製 の 円 筒 と , プ ラ ス チ ッ ク 製 容 器 に ク レ ア チ ン 1 水 和 物 粉 末 を 溶 解 し た 試 薬 瓶(そ れ ぞ れ 濃 度 を 100,70,50,30,10mM に 調 製)を 並 べ て 配 置 し , 試 薬 瓶 の 周 囲 に は 水 を 満 た し た ( 下 図 4.2.2) も の を 用 い た . 使 用 し た ク レ ア チ ン 1 水 和 物 粉 末 は , 市 販 の ザ バ ス ク レ ア チ ン ( 株 式 会 社 明 治 製 , 純 度 99.8%) 粉 を 使 用 し , フ ァ ン ト ム 作 成 に あ た っ て は こ れ を 蒸 留 水 で 溶 解 し て 濃 度 を 調 製 し た .
図 4.2.1 ク レ ア チ ン の 構 造 式
図 4.2.2 使 用 し た フ ァ ン ト ム お よ び 模 式 図
18 4.3 方 法
4.3.1 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 の 検 討
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 を 変 え て 100mM ク レ ア チ ン 溶 液 を 封 入 し た 円 筒 状 の フ ァ ン ト ム を 撮 像 し ,MTRa s y mの 変 化 を 測 定 し た . 条 件 は , ① プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 を 49 お よ び 99ms, ② 印 加 イ ン タ ー バ ル は 1ms と し ,1 回 の interpulse delay(① + ② に 相 当)を 50 お よ び 100ms と な る よ う に 設 定 し た .100ms は 設 定 し 得 る 最 長 の 値 で あ る .こ の 時 ,プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 μT と interpulse delaymsの 積 が 10〜300 と な る よ う に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 変 化 さ せ た(表 4.3.1.1). z-spectrum 解 析 に 用 い た 周 波 数 シ フ ト は ク レ ア チ ン の 固 有 値 と し て 知 ら れ る 1.9ppm1 4 )を 用 い た .
表 4.3.1.1 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 照 射 条 件
19 4.3.2 z-spectrum 測 定 点 数 の 検 討
4.3.1 の 結 果 か ら プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 を 決 定 し た . 次 に ,z-spectrum 解 析 に あ た っ て 撮 像 回 数 を 6~200 回 に 変 化 さ せ た 際 の MTRa s y m の 変 化 を 測 定 し た . 撮 像 の う ち 1 回 は プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス を 印 加 し な い 撮 像 で あ る た め ,z-spectrum の グ ラ フ 上 の 点 は 5~199 点 と な る . 撮 像 条 件 は , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度:1.6μT, プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 回 数 :5, 印 加 時 間 :99ms, 印 加 イ ン タ ー バ ル:1ms, interpulse delay:100ms, 測 定 範 囲 :±4.5ppm, slice thickness:5mm,TR:316ms, TE:2.46ms,matrix:128×128,FOV:220(read out)×172(phase) (phase FOV:78.1%), segmentation:60,Flip Angle:10degree,Bandwidth:420Hz/Px で あ っ た .解 析 に 用 い た 周 波 数 シ フ ト は ク レ ア チ ン の 固 有 値 と し て 知 ら れ る 1.9ppm1 4 )を 用 い た . 撮 像 回 数 と 撮 像 時 間 は 表 4.3.2.1 に 示 す .
4.3.3 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 の 検 討
4.3.1お よ び4.3.2の 結 果 か ら ,プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 ,interpulse delay, 撮 像 回 数(測 定 点 数)を そ れ ぞ れ ,99ms,100ms,14回(13 点)に 決 定 し た . 次 に 撮 像 条 件 の う ち , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 0.1~5.0μT に 変 化 さ せ て , 複 数 濃 度 の ク レ ア チ ン 溶 液 を 封 入 し た フ ァ ン ト ム(図 4.2.2)を 撮 像 し て 得 ら れ た MTRa s y mの 信 号 値 を 計 測 し た . そ の 他 の 撮 像 条 件 は プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 回 数 :5, 印 加 時 間 :99ms, 印 加 イ ン タ ー バ ル:1ms,interpulse delay:100ms, 測 定 範 囲:±4.5ppm, 撮 像 回 数 14 回(測 定 点 数:13 点),slice thickness:5mm,TR:316ms,TE:2.46ms,matrix:128×128,FOV:220(read out) × 172(phase) (phase FOV:78.1%) , segmentation:60 , Flip Angle:10degree,Bandwidth:420Hz/Pxで あ っ た .解 析 に 用 い た 周 波 数 シ フ ト は ク レ ア チ ン の 固 有 値 と し て 知 ら れ る 1.9ppm1 4 )を 用 い た .
表 4.3.2.1 撮 像 回 数 と 撮 像 時 間
20 4.4 結 果
4.3.1 の 結 果 と し て ,横 軸 に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 μT と interpulse delayms の 積,縦 軸 に MTRa s y mを プ ロ ッ ト し た グ ラ フ を 示 す(下 図 4.4.1).
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 強 く す る と MTRa s y m値 は 上 昇 し た が ,あ る 地 点 で 飽 和 し ,そ れ 以 後 は 低 下 に 転 じ た .interpulse delay が 50ms の と き は 90 付 近 ,100ms の と き は 160 付 近 で 最 高 値 を と っ た .こ の 結 果 か ら interpulse delay:100ms を 至 適 値 と し て 以 後 の 検 討 に 使 用 し た .
図 4.4.1 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 , interpulse delay と MTRa s y m
21
次 に 4.3.2 の 結 果 と し て , 撮 像 回 数 6,10,14,24,100,200 回(測 定 点 数 :5,9.13,23,99.199 点)の 時 の z-spectrumを 下 図 4.4.2 に 示 す .
測 定 点 数 が 5点 ,9点 で は ,199点 の 時 と 比 べ る と z-spectrumの 形 状 は 異 な っ て い る が , 13 点 以 上 で は 概 ね そ の 形 状 は 一 致 し て い た .
図 4.4.2 測 定 点 数 に よ る z-spectrum の 変 化
22
次 に 横 軸 に z-spectrum 測 定 点 数 を ,縦 軸 に MTRa s y mを プ ロ ッ ト し た グ ラ フ を 下 図 4.4.3 に 示 す .
測 定 点 数 の 少 な い 部 分 で は ,MTRa s y mは 安 定 せ ず 各 濃 度 間 の 差 異 が 小 さ い . 測 定 点 数 を 増 や す と す べ て の 濃 度 で 数 値 は 安 定 す る . 次 に 測 定 点 数 が 少 な い 部 分 を 拡 大 し た グ ラ フ を 次 頁 図 4.4.4 に 示 す .
図 4.4.3 z-spectrum 測 定 点 数 と MTRa s y mの 関 係
23
撮 像 対 象 物 質 の 濃 度 を 弁 別 す る た め に は ,濃 度 変 化 が MTRa s y mの 差 異 と し て 現 れ て い る こ と が 必 要 で あ る . 上 図 4.4.4 か ら , 測 定 点 数 が 14 点 以 後 で は 各 濃 度 の MTRa s y m間 に は 十 分 な 差 異 が 見 ら れ た .
図 4.4.4 z-spectrum 測 定 点 数 と MTRa s y mの 関 係
24
次 に 測 定 点 14 点 お よ び 200 点(z-spectrum 状 の 点 数 は そ れ ぞ れ 13 お よ び 199 点)で あ る と き の ,横 軸 を ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 ,縦 軸 に MTRa s y mを プ ロ ッ ト し た グ ラ フ を 示 す( 下 図 4.4.5).
測 定 点 数 が 13 点 お よ び 199 点 ど ち ら に お い て も , ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と MTRa s y mの 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た .
図 4.4.5 ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と MTRa s y mの 関 係
25
次 に 4.3.3 の 結 果 と し て , 横 軸 に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 , 縦 軸 に フ ァ ン ト ム
の MTRa s y mを プ ロ ッ ト し た グ ラ フ を 示 す ( 下 図 4.4.6).
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 強 く す る と MTRa s y m 値 は 増 強 し た が ,1.6μT 前 後 で 飽 和 し , そ れ 以 後 は 減 少 に 転 じ た .
図 4.4.6 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 と MTRa s y m
26
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 1.6μT で 得 ら れ た ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と MTRa s y mの 関 係 を 上 図 4.4.7 に 示 す . 両 者 の 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た .
図 4.4.7 ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と MTRa s y mの 関 係
27 4.5 考 察
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 強 く す る と , プ ロ ト ン が 強 く 飽 和 さ れ る た め に
MTRa s y m が 増 強 す る と 考 え ら れ る . プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 強 く す る こ と で ,
RF パ ル ス の “ し み 出 し ” 効 果 (RF spillover effect1 5)) も 強 く な る .RF spillover effect は , あ る 周 波 数 を 飽 和 す る RF パ ル ス を 照 射 し た 時 に 他 の 周 波 数 の プ ロ ト ン も 飽 和 し て し ま う 現 象(下 図 4.5.1)で あ る .こ の 現 象 が 強 く な る と ,直 接 飽 和 さ れ て し ま う 水 分 子 の プ ロ ト ン が 増 え る こ と に な り , 観 測 さ れ る 画 像 信 号 値 は 全 体 的 に 低 下 す る こ と に な る . し た が っ て CEST 効 果 に よ る 信 号 低 下 が 相 対 的 に 軽 度 に な る た め ,MTRa s y mが 低 下 す る と 考 え ら れ る(下 図 4.5.2).
図 4.5.1 RF spillover effect
図 4.5.2 RF spillover effect と z-spectrum
28 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を
強 く す る ほ ど MTRa s y m は 上 昇 す る が , 一 定 以 上 の 強 度 で は 低 下 す る こ と が わ か っ た . 図 4.4.1 の 結 果 か ら , interpulse delay が 長 い 方 が MTRa s y m
の ピ ー ク は 高 く ,RF spillover effect に よ る 信 号 値 の 低 下 も 軽 度 で あ っ た . こ れ は , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 を 長 く す る こ と で ,RF パ ル ス バ ン ド 幅 が 狭 く な り , 飽 和 さ れ る 帯 域 が 狭 く な る こ と か ら RF spillover effect が 軽 度 に な っ た と 考 え た . よ っ て プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 は 極 力 長 い 方 が 望 ま し く , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 と interpulse delayは , 設 定 し 得 る 最 長 で あ る 99 お よ び 100ms を 至 適 条 件 と し た .
次 に z-spectrum の 測 定 点 数 と 解 析 結 果 で あ る MTRa s y m の 関 係 に つ い て 考 察 す る .測 定 点 数 が 5 点 ,9点 で は , 199 点 の 時 と 比 べ る と z-spectrum の 形 状 は 異 な っ て い る が ,13 点 以 上 で は 概 ね そ の 形 状 は 一 致 し て い た (図 4.4.2). 測 定 点 数 の 少 な い 部 分 で は ,
MTRa s y mは 安 定 せ ず 各 濃 度 間 の 差 異 は
小 さ い . 測 定 点 数 を 増 や す と す べ て の 濃 度 で 数 値 は 安 定 し た(図 4.4.3お よ び 4.4.4). 撮 像 対 象 物 質 の 濃 度 を 弁 別 す る た め に は ,濃 度 変 化 が MTRa s y mの 差 異 と し て 現 れ る こ と が 必 要 で あ る . 図 4.4.4 か ら ,撮 像 回 数 が 14 回(13 点)以 上 で は 各 濃 度 の MTRa s y m 間 に 明 ら か な 差 異 が 見 ら れ た .
図 4 . 4 . 1 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 , i n t e r p u l s e d e l a y と M T Ra s y mの 関 係 ( 再 掲 )
図 4.4.4 z-spectrum 測 定 点 数 と
MTRa s y mの 関 係 ( 再 掲 )
29 測 定 点 数 を 13 点 ,199 点 と し た 時 の ク
レ ア チ ン 溶 液 と MTRa s y m の 関 係 を 示 し た グ ラ フ(図 4.4.5)で は ,両 者 の 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た . よ っ て ,z-spectrum の 測 定 点 数 を 13 点 に 減 少 さ せ て も ,
MTRa s y mは ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 を 反 映 し
て い る と 考 え ら れ る . 測 定 点 数 が 少 な い ほ う が 撮 像 時 間 は 短 く な る た め , 臨 床 応 用 に お い て は 得 ら れ る 結 果 に 影 響 し な い 範 囲 で 測 定 点 数 は 少 な い 方 が 望 ま し い . し た が っ て , 本 検 討 の 結 果 か ら 至 適 条 件 は 14 回 撮 像(13 点)と し た .
次 に , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強
度 と MTRa s y m の 関 係 の グ ラ フ(図 4.4.6)
で は , す べ て の 濃 度 に お い て 1.6μT 付 近 で ピ ー ク が 見 ら れ た .1.6μT は 図 4.4.1 に お け る 横 軸 の 値 と し て は 160 に 相 当 し , 図 4.4.1 に お い て も ピ ー ク が 見 ら れ て お り 結 果 は 矛 盾 し な い .
次 に プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 1.6μT と し た 時 の ,ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と
MTRa s y m の 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た(図
4.4.7).
以 上 の こ と か ら , 対 象 物 質 濃 度 を 反 映 し た CEST image を 取 得 す る た め に は , 適 切 な プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 お よ び 強 度 を 適 用 す る こ と が 必 要 で あ り , 本 検 討 で 導 き 出 し た 至 適 条 件 は , プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 は 99ms,interpulse delay は 100ms,撮 像 回 数(測 定 点 数)は 14 回(13 点),プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 は 1.6μT で あ る .
図 4 . 4 . 6 プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 と M T Ra s y m( 再 掲 )
図 4 . 4 . 5 ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と M T Ra s y mの 関 係 ( 再 掲 )
30 4.6 小 括
本 検 討 に よ り ,プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 条 件 に よ っ て 得 ら れ る MTRa s y mの 値 が 異 な る こ と を 明 ら か に し た .
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間 お よ び interpulse delay は 長 く す る ほ ど RF spillover effectが 小 さ く な り ,MTRa s y mは よ り 大 き な 値 を 取 る .そ の た め こ の 値 は 極 力 大 き く す べ き で あ り ,設 定 可 能 な 最 大 値 で あ る プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 時 間:99ms,
interpulse delay:100ms を 至 適 条 件 と し た .
z-spectrum の 測 定 点 数 は 13 点(14 回 撮 像)と 199 点(200 回 撮 像)と し た 時 の ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と MTRasym の 間 に は い ず れ も 正 の 相 関 が 見 ら れ た .し た が っ て ,測 定 点 数 が 13 点(14 回 撮 像)で あ っ て も ,199 点(200 回)撮 像 と し た 場 合 と 同 等 の 結 果 が 得 ら れ た た め , 至 適 測 定 点 数(撮 像 回 数)は 13 点(14 回)で あ る .
プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 強 度 を 強 く す る と MTRa s y m は 上 昇 す る が ,1.6μT 以 上 の 強 度 で は 低 下 す る . よ っ て 至 適 条 件 は 1.6μT と し た . こ の 時 , ク レ ア チ ン 溶 液 濃 度 と
MTRa s y mの 間 に は 正 の 相 関 が 見 ら れ た .
以 上 の 結 果 よ り 本 検 討 に よ っ て CEST imagingの 至 適 撮 像 条 件 を 明 ら か に す る こ と が で き た .
31
第
5
章 脳 実 質 内 腫 瘍 症 例 に お け るCEST image
の 検 討5.1 目 的
本 研 究 の 目 的 は , 脳 実 質 内 腫 瘍 症 例 の APT image を 他 の 臨 床 画 像 お よ び 臨 床 情 報 と 比 較 す る こ と で そ の 有 用 性 を 検 討 す る こ と で あ る .
5.2 使 用 機 器
MRI装 置 は シ ー メ ン ス 社 製 3.0T MR 装 置 MAGNETOM Trio A Tim system, 撮 像 コ イ ル は 32channel Head Matrix Coil,使 用 シ ー ケ ン ス は CEST 用 2D-GREシ ー ケ ン ス(work in progress(WIP)), N4_632_VB17A_CEST_Ortho Version Dで あ る .撮 像 条 件 は 第 4 章 で の 検 討 結 果 を 元 に 決 定 し 次 の と お り で あ る .プ リ サ チ ュ レ ー シ ョ ン 強 度:1.6μT,プ レ サ チ ュ レ ー シ ョ ン パ ル ス 印 加 回 数 :5、 印 加 時 間 :99ms、 印 加 イ ン タ ー バ ル:1ms, 測 定 範 囲:
±4.5ppm、 測 定 点 数 :13 点 ,slice thickness:5mm,TR:316ms,TE:2.46ms,matrix:128
×128,FOV:220(read out)×172(phase) (phase FOV:78.1%),segmentation:60,Flip Angle:10degree,Bandwidth:420Hz/Px. 解 析 に 用 い た 周 波 数 シ フ ト は 生 体 内 ア ミ ド の 固 有 値 と し て 知 ら れ る 3.5ppm3 )を 用 い た .
5.3 対 象 と し た 症 例 と 検 討 方 法
本 研 究 の 検 討 対 象 と し た 臨 床 症 例 は 脳 実 質 内 腫 瘍 の 症 例 を 対 象 と し た . 対 象 と し た 症 例 は , 神 経 膠 芽 腫(glioblastoma multiforme)(WHO gradeⅣ):14 例 , 退 形 成 性 星 細 胞 腫 (anaplastic astrocytoma)(WHO grade Ⅲ ):1 例 , び ま ん 性 星 細 胞 腫 (diffuse astrocytoma)(WHO gradeⅡ):6 例 ,乏 突 起 膠 腫(oligodendroglioma)(WHO gradeⅡ):1 例 , 異 形 成 性 神 経 節 細 胞 腫(dysplastic gangliocytoma)(WHO gradeⅠ):1 例 で あ る .
脳 実 質 内 腫 瘍 症 例 に お け る APT image の 検 討 は , 共 同 研 究 者 で あ る 放 射 線 科 専 門 医 の 協 力 を 得 て ,APT image と 他 検 査 お よ び 臨 床 情 報 を 比 較 し て 検 討 し た .
32 5.4 検 討 結 果
検 討 結 果 を ま と め た も の を 下 表 5.4.1 に 示 す .
WHO gradeⅢ 以 上 の 症 例 で は , 全 症 例 に お い て 腫 瘍 部 に 一 致 し た APT image の 高 信 号 域 が 確 認 さ れ た .一 方 で gradeⅡ の び ま ん 性 星 細 胞 腫 に お い て は 腫 瘍 部 の APT image が 上 昇 す る 症 例 と し な い 症 例 が 存 在 し た . 乏 突 起 膠 腫 は gradeⅡ で あ る が ,APT imageで は 信 号 値 の 上 昇 が 認 め ら れ た .
表 5.4.1 脳 実 質 内 腫 瘍 に お け る APT image
33
5.4.1 高 悪 性 度 (gradeⅢ , Ⅳ ) 脳 腫 瘍 の APT image
高 悪 性 度(gradeⅣ , Ⅲ)の 症 例 で は , 全 症 例 で 腫 瘍 部 に 一 致 し た APT image の 高 信 号 域 が 認 め ら れ た . 以 下 に 一 部 の 症 例 を 提 示 す る .
上 図 5.4.1.1 は 65 歳 女 性 , 神 経 膠 芽 腫 の 症 例 で あ る .T2 強 調 画 像 で 中 心 が 壊 死 を 反 映 し た 高 信 号 , 周 囲 に 腫 瘍 実 質 , そ の 周 囲 に 高 度 の 浮 腫 を 伴 う 腫 瘍 像 が 認 め ら れ た ( 図 中 矢 印 部 ).同 部 位 の Apparent Diffusion Coefficient(ADC) map に お い て は ,細 胞 密 度 を 反 映 し て お り 中 心 部 で は 壊 死 に よ り 液 状 に , そ の 周 囲 の 腫 瘍 実 質 部 で は 細 胞 密 度 の 高 さ を 反 映 し た 低 信 号 を 呈 し て い た .ガ ド リ ニ ウ ム 造 影 T1 強 調 画 像(GdT1 強 調 画 像 )で は ,腫 瘍 実 質 部 に 一 致 し た 造 影 増 強 効 果 が 認 め ら れ た .PWI の rCBV map に お い て は ,腫 瘍 実 質 部 の 豊 富 な 血 管 床 を 反 映 し た 信 号 上 昇 が 認 め ら れ た .APT image で は ,こ れ ら の 所 見 と 比 較 し て 腫 瘍 部 に 一 致 し た 信 号 上 昇 が 認 め ら れ た .
次 頁 図 5.4.1.2 は 19 歳 男 性 , 神 経 膠 芽 腫 の 症 例 で あ る .T2 強 調 画 像 で 腫 瘍 内 部 の 高 信 号 と 付 随 す る の う 胞 様 成 分 が 認 め ら れ た .ADC mapで は 中 心 部 お よ び の う 胞 部 は 高 信 号 , 腫 瘍 実 質 部 は 細 胞 密 度 を 反 映 し て 軽 度 低 信 号 と な っ て い た .GdT1 強 調 画 像 で は 腫 瘍 実 質 部 分 に 一 致 し た リ ン グ 上 の 造 影 増 強 効 果 が 見 ら れ ,rCBV map に お い て は 腫 瘍 部 に 一 致 し た 高 信 号 が 認 め ら れ た .APT image で は ,腫 瘍 部 と 付 随 す る の う 胞 部 に 一 致 し た 高 信 号 域 が 認 め ら れ た .
図 5.4.1.1 神 経 膠 芽 腫 症 例 1
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73 歳 男 性 神 経 膠 芽 腫 症 例 を 提 示 す る ( 上 図 5.4.1.3). こ の 症 例 で は ,T2 強 調 画 像 に お い て 腫 瘍 部 の 中 心 に 大 き な の う 胞 様 成 分 を 伴 っ て い た .ADC map で は の う 胞 様 構 造 の 周 囲 に 腫 瘍 実 質 と 考 え ら れ る T2 強 調 画 像 低 信 号 域 , そ の 周 囲 に は 浮 腫 に よ る 高 信 号 域 が 認 め ら れ た .ADC map に お い て は , の う 胞 部 お よ び 傍 腫 瘍 領 域 は 高 信 号 に , 腫 瘍 実 質 部 は 低 信 号 に 描 出 さ れ ,GdT1 強 調 画 像 に お い て は 腫 瘍 実 質 部 に 造 影 増 強 効 果 が 認 め ら れ た . rCBV で は 腫 瘍 実 質 部 に 一 致 し た 高 信 号 域 が 認 め ら れ た .APT image で は 腫 瘍 実 質 , の う 胞 様 領 域 を 含 め た 全 体 で 信 号 が 上 昇 し て い た .
図 5.4.1.2 神 経 膠 芽 腫 症 例 2
図 5.4.1.3 神 経 膠 芽 腫 症 例 3
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退 形 成 性 星 細 胞 腫(gradeⅢ)の 症 例 を 提 示 す る(下 図 5.4.1.4). 症 例 は 33 歳 男 性 で 左 前 頭 葉 に T2 強 調 画 像 に て 内 部 不 整 で 広 範 な 高 信 号 域 が 認 め ら れ た .ADC map 上 で も 内 部 不 整 で 拡 散 制 限 が 混 在 し た 構 造 で あ る こ と が わ か っ た .GdT1 強 調 画 像 で は 明 ら か な 造 影 効 果 が な く ,rCBV の 著 明 な 上 昇 も 認 め ら れ な か っ た .APT image で は T2 強 調 画 像 で 腫 瘍 と か ん が え ら れ る 領 域 に び ま ん 性 に 高 信 号 域 が 散 在 し て 認 め ら れ た . 本 症 例 で は 後 日 の 病 理 検 査 の 結 果 , 退 形 成 性 星 細 胞 腫(gradeⅢ)で あ る こ と が 確 認 さ れ た .
図 5.4.1.4 退 形 成 性 星 細 胞 腫 症 例