• 検索結果がありません。

【学位論文審査の要旨】

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "【学位論文審査の要旨】"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【学位論文審査の要旨】

1. 研究の目的

超新星残骸(SNR) は、白色矮星や大質量の星が起こす超新星爆発の後に形成される、爆発 放出物、星間物質、星周物質からなる高温で巨大な天体である。爆発によって放出された

物質は10000 km s�1もの速度で広がりながら周辺の星間ガスなどと相互作用し、衝撃波を

形成し、107 K ほどにまで加熱された爆発放出物は、輝線を多く含む熱的X線を放射する。

X線観測から、星の内部や爆発で合成された重元素の存在量を調べられるほか、衝撃波に より高エネルギーの宇宙線が加速される状況を調べることも可能であり、SNR を研究する 意義は大きい。SNR が出す豊富な輝線スペクトルは、ドップラー効果を通じてガスの運動 状態を探ることを可能にする。SNR の中でも爆発後1000 年以内の若いものは、爆発放出 物とその運動をよく保持しているため、放出物の組成、速度、空間的な非一様性、さらに 衝撃波や加速現象を調べるのに適しており、SNR の形成と進化を知る上で重要な天体であ る。

米国が1999 年に打ち上げたX線天文衛星Chandra は0.5 秒角という高い角分解能をも ち、超新星残骸のX線画像をもとに運動状態や場所ごとのエネルギースペクトルを調べる ことに適している。一方、日本が2005 年に打ち上げた「すざく」は、X線信号に混入する 雑音が少ないため、表面輝度の低い領域でも高い感度をもつほか、優れたエネルギー分解 能が特徴である。米国が2012 年に打ち上げたNuSTAR は約80 keV という硬X線に感度 をもち、非熱的放射や核ガンマ線によい感度をもつ。本研究は、Chandra を中心としつつ、

「すざく」やNuSTAR のデータも用いることで、若いSNR におけるガスの運動状態や、

衝撃波に関係した高エネルギー過程の解明を目的として行ったものである。

2. 研究の方法および結果

申請者は若いSNR である、Tycho SNR (1572 年爆発), Kepler SNR (1604 年), Cassiopeia A (1680 年ごろ、以下Cas A) の3 天体についてX線観測データを解析した。はじめの2 つ がIa 型超新星爆発によるもので、この爆発は白色矮星が電子の縮退圧で支えられる限界(チ ャンドラセカール質量) を超える時に起きるものであり、Fe やNi などの元素が多く放出 される。一方、Cas A は大質量星が進化の最終段階で起こす重力崩壊型超新星爆発の残骸 であり、この爆発では中性子星やブラックホールが作られると考えられている。これらの SNR は見かけの大きさが直径4–8 分角の範囲であり、X線輝度分布の詳細な構造を調べる のに適している。

Tycho SNR は見かけが円形に近いが、SNR 全体にわたってX線で光る塊が多く見られ

る。Chandraによる734 ksec に及ぶ観測データをもとに、SNR 内のいろいろな場所につ いてエネルギースペクトルを調べた。Si を多く含む領域について、輝線の幅をもとに膨張

速度が約4840 km s�1 と決められた。さらにX線で明るい塊27 個のエネルギースペクト

(2)

ルを解析し、電離状態を表す指標(電子密度と時間の積net) と視線速度を求めた。結果とし て、赤方偏移する塊の速度は7800 km s�1 以下、青方偏移するものの速度は5000 km s�1 以下という制限が得られた。こうした速度分布の結果は、Tycho SNR が球対称に膨張する 球殻と考えてほぼ矛盾しないことを示している。

Kepler SNR はTycho に比べて複雑なX線構造を示しており、北と中心部が明るい。X

線で明るい14 個の塊に着目し、それらの2000–2014 年にかけての天球上の運動をX線画 像から求めるとともに、X線輝線のドップラー偏移を用いた視線速度を調べた。こうして 各塊の三次元速度をもとにSNR の構造とその発展を調べた。最も速い5 つの塊は約10000

km s�1 で広がっており、Ia 型超新星爆発の初速度がほとんど減速されずに膨張している

ことがわかった。この結果は、半径r の時間発展として、r / tm; m = 0:75 � 1:0 という関 係で表される。また、それらの運動を過去へ戻すことで、爆発中心の位置を推定すること ができた。一方、最も低速の塊は約1000 km s�1 でで広がっており、m _ 0:1 と減速の具 合も著しい。さらにこうした塊の組成をX線エネルギースペクトルから求めたところ、速 度の大きい塊は爆発放出物が支配的であり、遅い塊は星周物質を多く含むことがわかった。

このSNR の周辺の物質分布に非一様性が大きいと考えられる。

Tycho SNR とKepler SNR について本研究から明らかになった膨張速度の分布を見る

と、Tycho は球対称で一様な膨張、Kepler は球対称からはずれた非一様な膨張と特徴付け

られる。この要因として、SNR を取り囲む星間ガスの分布がTycho では一様、Kepler で は非一様であると推定される。一方、Ia 型超新星の機構として、通常の星と連星系を作る 白色矮星が爆発するSingle degenerate (SD) モデルと、2 つの白色矮星が合体し爆発する Double degenerate (DD) モデルが提唱されている。爆発時の周囲の状態は、SD の方が星 風が作る非一様な星間ガスに囲まれ、DD はガスの少ない環境にあると考えられる。この 考察に立てば、Tycho はDD、Kepler はSD のモデルに合う結果と言える。さらに2 つの SNR の元素組成を比較すると、Tycho はFe, Ni が少なくSi, S, Ar, Ca が多めで、Kepler はそれと逆の組成となっており、この点からもTycho がDD、Kepler がSD により合うこ とが示された。

Cas A については、2000–2010 年にかけて4.2–6 keV 範囲の連続X線が弱くなってきて いることが報告され、その原因は衝撃波の減速による非熱的X線放射の減少という解釈が 出されていた。申請者はCas A の熱的な放射に着目し、Chandra の2000–2013 年にわた る観測データをもとに、熱的放射の指標となるFe のK 輝線と、非熱的放射を多く含む4.2–

6 keV の連続X線の強度変動を調べた。その結果、SNR 全体ではFe 輝線と連続X線の減

少率はほぼ等しいこと、また熱的放射が卓越する東側の領域での減少率が、Fe 輝線でも連 続X線でも最も大きいことがわかった。さらに熱的放射については、emission measure (イ オン密度、電子密度、体積の3 つの積) も温度も減少しており、m = 0:66 で表される断熱 冷却に合う。さらに、非熱的X線放射が強い領域では連続X線の変動率が小さく、特に 順行衝撃波に対応する領域では有意な長時間変動が見られない。このことは、衝撃波の大

(3)

幅な減速がおきていないことを示唆する。したがってCas A のX線減衰の原因は熱的成分 の断熱冷却であるという新しい解釈が提示された。

Cas A 内の西側の領域はシンクロトロン放射と考えられる連続X線が強いほか、_0 粒子

の崩壊によると考えられるガンマ線放射も強く、電子・陽子が加速されていると考えられ る。また爆発中心へ向かう逆行衝撃波も電波で見られている。申請者はChandra による

2000–2014 年のX線像から逆行衝撃波のフィラメントの固有運動を測定した。結果として、

逆行衝撃波は2100–3800 km s�1 の速度で

あり、これを放出物の系から見ると5100–8700 km s�1 と、順行衝撃波より速い。また衝 撃波フィラメントの一部は数年の時間スケールでX線強度が増減しており、このことから

0.5–1 mG ほどに増幅された磁場で粒子加速が行われていると解釈される。一方、NuSTAR

で観測されたカットオフエネルギーが逆行衝撃波で低いことから、逆行衝撃波では順行衝 撃波より磁場が強く乱流が発達していないと考えられる。結果として加速された電子の最 大エネルギーは8–11 TeV となり、順行衝撃波の加速で達するエネルギー15–34 TeV より も小さいと推定される。

3. 審査の結果

本研究は、Chandra 衛星がもつ非常に高い角分解能を生かしつつ、暗い放射に対する感度 とエネルギー分解能が高い「すざく」衛星や、高エネルギーまで感度をもつNuSTAR 衛星 のデータも合わせて、Tycho, Kepler, Cas A という代表的な若いSNR について、ガスのダ イナミクスや高エネルギー過程を明らかにしたものである。特に15 年にわたる長期間の観 測データをもとにSNR の膨張運動をX線画像から明らかにするとともに、SNR 中に多く 見られるX線で明るい塊などについての輝線スペクトルから、いろいろな領域での視線方 向の運動を明らかにしたことは、申請者自身による新しい成果である。さらに申請者は、

これらを組み合わせてSNR の3 次元的な運動状況を導出し、SNR がどのように進化して いくのかを、さまざまな側面から解明しており、その手法も含めて極めて独創性の高い研 究となっている。こうした結果に加えて、SNR 中のガスの組成や膨張速度の場所ごとの違 い、膨張の球対称性からの逸脱、速度ベクトルに基づく爆発中心位置の推定、断熱膨張に よるガスの冷却の検証、逆行衝撃波の速度の導出や粒子加速に対する制限など、SNR に関 する数多くの新しい知見を得ている。また、Ia 型超新星の起源として提案されているSD、 DD という2 つのモデルに対して、Tycho はDD に、Kepler はSD に合うとする結果を出 しており、これはIa 型超新星が単一起源でない可能性を高めるとともに、これらの超新星 を標準光源として用いること正しさや、銀河・銀河団の化学進化のこれまでの描像への問 題提起となっている。

このように、本研究の結果は、3 つの若いSNRの進化の理解を深めるだけでなく、宇宙 プラズマの加熱と冷却、爆発および衝撃波に関連したガスの運動学や高エネルギー過程に ついても、新しく興味深い物理を提示するものである。さらに、本研究は角分解能に加え

(4)

て分光能力の重要性を示す結果が多くあり、日本が主導する将来のX線天文計画によって、

本論文の結果が新しい展開を見せる可能性もあり、将来への波及効果という観点からも本 研究結果は高く評価される。このように本研究は、撮像と分光を組み合わせた超新星残骸 のX線観測という新しい手法を開拓することで、広く宇宙物理学にとって重要な結果を出 したものである。以上により、本研究は博士(理学)の学位に充分値するものと判定した。

4. 最終試験の結果

本学の学位規定に従って、最終試験を行った。公開の席上で論文内容の発表を行い、物理 学専攻教員による質疑応答を行った。また、論文審査委員による本論文および関連分野の 試問を行った。これらの結果を総合的に審査した結果、合格と判定した。

参照

関連したドキュメント

しい昨今ではある。オコゼの美味には 心ひかれるところであるが,その猛毒には要 注意である。仄聞 そくぶん

• 家族性が強いものの原因は単一遺伝子ではなく、様々な先天的要 因によってもたらされる脳機能発達の遅れや偏りである。.. Epilepsy and autism.2016) (Anukirthiga et

しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成

 第一の方法は、不安の原因を特定した上で、それを制御しようとするもので

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o

の繰返しになるのでここでは省略する︒ 列記されている

定を締結することが必要である。 3