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韓国退職年金制度における諸問題と 改善方案

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韓国退職年金制度における諸問題と 改善方案

申 文 植 李 鳳 周 柳 建 植

■アブストラクト

本稿では,急速な人口の高 化によって退職年金の老後所得保障の役割が 重要視されていることを念頭において,韓国の退職年金制度の運用現状とそ の特徴などを概観して退職年金制度運用上の主な問題を検討した後,退職年 金の役割と機能を高めるための多様な対策を検討した。韓国の場合,退職給 与制度の二元化などの制度的な問題によって退職年金制度への加入率は低く,

また積立金の運用が元利金保証中心に行われていることから退職年金によっ て実現できる実質所得代替率は世界銀行が勧めている老後所得保障の水準

(30%)に届かない13%にすぎない。その結果,退職年金制度の老後保障的 な役割と経済的な役割は不十分であるのが現状である。本稿では,その対策 として低所得の脆弱階層に対する退職年金のメリットの強化,退職年金の転 換が誘導できる制度の改善,加入者保護に向けた退職年金政策の転換,退職 年金積立金の運用規制の転換,実質的な支給保証制度の導入などをあげてい る。

■キーワード

韓国退職年金,年金制度の改善,年金加入者保護

成25年12月20日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成26年2月20日原稿受領。

*平

●●●●●●●●●●英文が入っている場合は段落して右側がどのくらい空いているか確認して

(2)

Ⅰ.はじめに

韓国の高 化は世界で一番早いスピードで進行しており,2026年には65歳 以上の人口が20%にのぼる超高齢化社会へ進入すると予想される。このよう な急速な高 化は公的年金の財政負担を加重させ政府の財政リスクを増大さ せると思われる。そのため国の役割を漸進的に縮小し企業と個人の役割と機 能をより増大させる方向に向けた老後所得保障体系の転換が要求されている。

しかし,退職年金に限ってみると退職給与制度の二元化,退職年金の税制 上のメリットの不十分さなど多様な制度的な問題のため先進国と比べて退職 年金制度への転換は活発になっていないのが現状である。また退職年金積立 金の運用は大部分が元利金保証型中心に行われており,收益率を高めること を通じた年金財源の確保が難しく金融市場の発展にも否定的な影響すら及ぼ している。

このように退職年金制度の老後保障的な役割と経済的な役割が先進国に比 べて低いのが現状である。そのため退職年金への加入を活性化させて退職年 金の老後所得保障機能を高めるための制度的な改善方案が課題の一つになっ ている。

こうしたことをふまえて本稿では韓国の退職年金制度の運用現状とその特 徴などを概観して退職年金制度の運用上の主な問題を検討した後,その改善 方案を模索したい。

Ⅱ.退職年金制度の運営現状と役割

1. 退職年金制度の運営現状 1)退職年金積立金の規模

韓国の退職年金積立金の規模は加入者の持続的な増加によって2013年6月 末現在,70兆4,526億ウォンにのぼっている。制度別積立は確定給付型(DB,

韓国では 確定給与型 という)制度が全体の71.3%を占めており,次に確 定拠出型(DC,韓国では 確定寄与型 という)19.7%,個人型IRP8.1

(3)

%,企業型IRP0.9%の順である。大手企業が選好するDB型の比重が高い 中,最近DC型を選好する中小企業の新規契約が増えたせいでDC型の比重 は増加する傾向にある(DC型の占有率:2012年12月17.8%→2013年6月 19.7%)。

金融機関別積立金額の場合,銀行の比率がもっとも高く生保,証券の順で ある。

2)退職年金の導入と加入の現状

2005年に退職年金制度が導入されて以後,加入は持続的に増加しており 2013年6月末現在,退職年金の導入事業所の数は226,994ヶ所である。

保険学雑誌 第 625号

表1 制度類型別積立金額の現状(単位:億ウォン,%)

出典:金融監督院, 退職年金の営業実績 ,2013年6月。

出典:金融監督院, 前掲書 ,2013年6月。

表2 金融圏域別積立金額の現状 (単位:億ウォン,%)

DBDC型 企業型IRP 個人型IRP 合計

積立て金額 502,124 (71.3)

139,023 (19.7)

6,642 (0.9)

56,737 (8.1)

704,526 (100.0) 増加額 6,881 7,738 26 2,532 17,177

全体 銀行 生保 損保 証券 勤労福祉公団 金額 673,459 362,989 166,175 51,898 121,821 1,643 比重 100 51.5 23.6 7.4 17.3 0.2

(4)

退職年金制度への加入勤労者の数は2005年末の導入当時5,024人に過ぎな かったが,2013年6月末現在は,全体常勤勤労者(10,160,000人)の45.0%

にあたる4,574,000人へと大きく増えている。加入勤労者の退職年金制度の 種類別の加入比重は,勤労者が多い大手企業らが主に確定給付型制度を中心 に加入したことで確定給付型制度65.3%,確定拠出型制度32.6%,企業型 IRP2.1%の順になっている。

3)退職年金積立金の運用現状

運用方法別には元利金保証型商品の比重が93.0%であり,実績配当型は 5.8%に過ぎない。加入者の安定的で保守的な性向によって元利金保証商品 の比重は依然として高い比率を維持している。元利金保証型商品では預金が もっとも大きい比重(57.9%)を占めており,金利型保険(33.9%),ELS などの順になっている。

出典:雇用労働部, 退職年金の導入現状 ,各年度。

表3 退職年金制度の導入事業所の推移

出典:雇用労働部, 前掲書 ,各年度。

注1:全体の常用勤労者の数は2011年現在 1,016万名。

注2:個人型IRP加入勤労者の数は,1,231,450名。

表4 退職年金制度の種類別加入者の数 (単位:千名,%)

2005.12 2006.12 2007.12 2008.12 2009.12 2010.12 2011.12 2012.12 2013.6 事業所数(ヶ所) 389 16,287 30,882 50,462 70,503 94,455 139,151 203,488 226,994 加入率 (%) 0.10 3.10 6.00 9.70 13.60 6.60 9.20 13.40 14.10

合計 DBDC型 企業型IRP 勤労者の数 4,574(100) 2,890(65.3) 1,591(32.6) 93(2.1)

(5)

制度類型別にはDB型の98.2%が元利金保証型として運用されており,

DC型の場合は実績配当型の運用が比較的に高い方である。

また,元利金保証型商品の比重は保険がもっとも高く,証券は比較的低い。

その運用の場合は,1年未満の商品の比重が83.2%であり,短期商品中心の 運用ぶりがわかる。

図1 運用方法別積立金額の現状 (単位:億ウォン,%)

出典:金融監督院, 前掲書 ,2013年6月。

表5 制度類型積立金額の現状 (単位:億ウォン,%)

出典:金融監督院, 前掲書 ,2013年6月。

DB   DC 企業型IRP 個人型IRP 合計

金額 比重 金額 比重 金額 比重 金額 比重 金額 比重

元利金保証型 493,185 98.2 107,677 77.5 5,982 90.1 48,579 85.6 655,422 93.0 実績配当型 6,343 1.3 29,302 21.1 616 9.3 4,739 8.4 41,000 5.8 その他 2,596 0.5 2,045 1.5 44 0.7 3,418 6.0 8,103 1.2 合 計 502,124 100.0 139,023 100.0 6,642 100.0 56,737 100.0 704,526 100.0 保険学雑誌 第 625号

(6)

積立金運用の場合,退職年金積立金の93.1%が元利金保証型として運用し ており,実績配当型は5.1%に過ぎない。特に,元利金保証型が持続的に増 加している反面,実績配当型の比重は2007年12月以後持続的に減少している。

このような元利金保証型中心の資産運用は2007年と2010年に発生したアメ リカとヨーロッパの経済危機の後で拡大された金融市場の不確実性のために 生じてきた安全資産に対する認識が拡大されているからである。またこの傾 向は厳格な資産運用に対する規制や自社商品の運用許容などによるのも大き いが,これは加入者の多 な投資商品選択の権利を制約する結果を招いてい

表6 元利金保証型 商品の積立金の運用期間別比重 (単位:%)

注:金利連動型は商品の構造上,満期の概念がない。

出典:金融監督院, 前掲書 ,2013年6月。

銀行 生保 損保 証券 勤労福祉公団 全体 1年未満 4.0 0.6 0.0 5.5 1.3 3.1

1年型 82.7 71.6 84.0 82.3 97.8 80.1 1年〜3年以下 4.4 3.1 0.1 4.1 0.7 3.7 3年型 5.6 8.3 2.8 4.4 0.2 5.8 3年以上 3.4 5.1 0.0 3.5 0.0 3.6 金利連動型 0.0 11.3 13.2 0.2 0.0 3.7

出典:雇用労働部, 前掲書 ,各年度。

表7 退職年金積立金の運用方法別推移 (単位:10億ウォン)

2005.12 2006.12 2007.12 2008.12 2009.12 2010.12 2012.12 62,702 (93.1%) 3,438 (5.1%) 1,205 (1.8) 67,346 25,787

(88.5%) 1,900 (6.5%) 1,461 (5%) 29,148 11,990

(85.3%) 125 (8.9%) 812 (5.8%) 14,046 5,422

(82.0%) 759 (11.5%) 431 (6.5%) 6,612 1,928

(70.0%) 457 (16.6%) 370 (13.4%) 2,755 564

(74.6%) 79 (10.4%) 113 (15.0%) 757 7

(44.2%) 1 (6.4%) 8 (49.4%) 16 元利金保証型

実績配当型

その他 全体

(7)

る。 退職年金の種類別元利金保証型の運用は,確定給付型が97.5%でもっ とも高く,次に個人型IRP89.3%,企業型 IRP89.2%,確定拠出型76.6%

の順になっている。

2. 退職年金制度の役割

韓国の退職年金積立金の規模は2005年12月に比べて,2013年9月現在 45,017倍以上増加した。事業所も全体の13.4%である203,488ヶ所が退職年 金を導入している。しかしアメリカなどと比べると依然として低い加入水準 である。すなわち,韓国のように退職年金の加入が任意加入形式をとってい るドイツ,英国,アメリカなどは全体勤労者の50%を上回る高い水準を見せ ている。その結果,GDP対比の退職年金資産は4.5%に過ぎず,退職年金資 産が国民経済に及ぼす影響は低い。

表8 退職年金の類型別積立金の現状 (単位:10億ウォン,%)

出典: 雇用労働部, 退職年金の導入現状 ,2012年12月。

DBDCIRP企業型 IRP個人型 計

元利金保証 実績配当型 その他

全体

金額 62,702

3,438 1,205 67,346 比重 89.3

6.8 4.0 100 金額 4,487

339 200 5,027 比重 89.2

9.7 1.2 100 金額

592 64 8 664 比重 76.6 21.3 2.2 100 金額 9,152 2,543 260 11,955 比重 97.5

1.0 1.5 100 金額 48,471

490 737 49,698

比重 93.1

5.1 1.8 100 保険学雑誌 第 625号

(8)

このような退職年金加入率の低さによって退職年金制度の国民経済的な役 割は低く,それはまた社会保障的な役割にも否定的な影響を及ぼし退職年金 の老後所得保障的な役割も物足りない結果を招いている。実際,保険研究院 が標準的な勤労者(勤労期間は35年を仮定)を対象とした退職年金の実質的 な所得代替率,すなわち老後所得保障水準を検討した結果,退職年金によっ て実現できる実質所得代替率は13.0%に過ぎなく,世界銀行(World Bank) など国際機構が勧めている老後所得保障の水準30%にはるかに届かないもの となっている。

図2 10 GDP 対比退職年金資産の比重 (単位:%)

出典:柳建植, 私的年金の役割と政策方向 ,年金政策セミナー資料,保険研究 院,2013.(OECD, “OECD  guidelines for pension fund governance”, June2012,再引用)

単位:%

(9)

特に,私的年金による所得代替率は国際機構が勧告している所得代替率 40%台にはるかに届かない21.2%にとどまっており,私的年金による老後所 得保障機能は物足りないことがわかる。したがって,退職年金の所得代替率 水準を高まるための対策が必要であるといえる。すなわち退職年金の活性化 を通じて老後所得保障が高められるように退職年金制度の改善が行われるべ きである。

Ⅲ.退職年金制度の諸問題

1. 退職年金の脆弱階層の存在

退職年金制度の恩恵(メリット)をまともに享受できない新たな形態の脆 弱階層が現れている。具体的には次のようである。

まず,法的には賃金勤労者であるにもかかわらず制度的に退職年金の加入 が原則的に許容できない非定規職(1年未満の期間制勤労者,週15時間未満 の短時間勤労者)賃金勤労者があげられる。すなわち,1年未満の期間制勤 労者と1週15時間未満の短時間勤労者などは使用者の退職給与設定の義務対 象から除外(勤退法第4条)されている。すなわち,使用者の支給能力,事 業の規模,勤労者の所得規模,勤労者の年 などとは関係なく,単に勤続期 間と勤労時間の数だけによってのみ退職給与設定の義務の例外を認めている

図3 退職年金の老後保障水準に対する評価

出典:柳建植 私的年金の役割と政策方向 ,年金政策セミナー資料 保険研究院,

2013.1。

険学雑誌 第 625号

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初 校 戻 りに な っ たら

(10)

のである。2010年の統計庁の勤労形態別調査の結果によると,非定規職に勤 めている勤労者の数は約568万5千人であり,全体賃金勤労者のおよそ33.3

%にのぼっている。

次は,10人以下の事業所の退職年金制度における死角地帯の問題である。

これは常時勤労者数300人以上の大手企業の退職年金加入率が73.3%である のに対して10人未満の小規模の零細事業所の退職年金の加入率は9.6%に過 ぎなく平均加入率13.4%にもとどかないことからもわかる。

2. 退職年金への転換の不十分性

退職給与受領者の98%が一時金として受領しており,退職年金制度の役割 は極めて低いのが現状である。その原因は次のとおりである。

表9 賃金勤労者のうち,非定規職 (非常勤) の比重

出典:統計庁, 経済活動人口調査―勤労形態別調査― ,2010年。

出典:雇用労働部, 前掲書 ,2012年12月。

表10 事業所の規模別退職年金の導入率 (単位:ヵ所,%) 2008.8 2009.3 2009.8 2010.3 2010.8

・賃金勤労者 (千名)

―定 規 職 (千名)

―非 定 規 職 (千名)

・賃金勤労者 対比 (%)

16,104 10,658 5,445 (33.8)

16,076 10,702 5,374 (33.4)

16,479 10,725 5,754 (34.9)

16,617 11,119 5,498 (33.1)

17,048 11,362 5,685 (33.3) 15,993

10,356 5,638 (35.2) 2008.3

10人以下 10〜29人 30〜99人 100〜299人 300〜499人 500人以上 合計 (A)導入

事業所の数 121,781 53,369 20,978 5,369 873 1,118 203,488 (B)全体

事業所の数 1,273,047 178,396 54,720 10,969 1,425 1,293 1,519,850 導入比率

(A/B,%) 9.6 29.9 38.3 48.9 61.3 86.5 13.4

(11)

まず,退職給与制度の二元化があげられる。韓国は法定退職金制度を存続 したまま退職年金制度が選択できることから退職年金への転換が期待ほど行 われていない。すなわち退職年金制度への加入は任意加入の形態をとってお り,勤労者の一時金選好の現象のため退職年金への転換が積極的には行われ ていないのである。

第2に,退職一時金に対する過度な税制上のメリットを与えていることと,

それがまた退職年金加入の加入と活性化に影響を及ぼしていることがあげら れる。現在,個人年金と合算して400万ウォンまで所得控除が可能であり,

年金受領の際には900万ウォンを限度に控除のメリットが与えられている。

退職年金への転換を誘引するには年金税制のメリットが極めて低い水準であ るといえる。所得控除金額を1人当りのGDP対比比率に換算すると,韓国 は19.5%にすぎないが,アメリカは47.4%であることからも相対的に税制の メリットは低い水準であるといえる。しかも一時金として支給した場合の退 職所得税は年金受領の際の年金所得税との差異があまりなくこれが一時金へ の選好として現れている。

第3に,年金加入と支給に対する義務化の規定がなく年金受領の基準も厳 しいことがあげられる。特に,10年以上の退職年金加入者に対してのみ5年 以上の年金が受領できるように厳しく制限することによって年金への転換が 少ない原因となっている。

3.加入者保護と制度参加の低調 1)運用体系の側面

韓国は年金制度の管理や基金運用などを金融会社に一括的に委託すること ができる契約型(規約型)の退職年金支配構造の形式をとっている。そのた め規約型と基金型という退職年金の支配構造で運営している日本と比べて制 度の運用幅が相対的に低く,勤労者が退職年金制度の運営に参加できる機会 も相対的に低いほうである。したがって勤労者と退職年金を運用する利害関 係者間の利益相反の問題が発生する可能性もあるのである。

保険学雑誌 第 625号

(12)

調査によると,退職年金の導入や運営と関連する意思決定の場合,使用者 が主導的に行っているという。契約型の支配構造では年金の運営にかかわる 意思決定の場合,使用者の影響力が大きいことが伺える。表11と表12に示す ように,使用者79.2%,勤労者17.2%,公開競争入札3.6%であった金元 植・申文植(2008)の調査と比べて改善されたとはいえ,依然として高い数 字をみせている。特に,企業が意思決定のすべてを行使しその責任も企業側 に帰属されることから企業の権限と責任が絶対的であるDB型とは異なり DC型の場合は,意思決定の権限が勤労者に集中することから選択と責任の すべてが勤労者に帰属される形にもかかわらず,実際の意思決定においては 企業側の意思が強く反映されているほどである。

表11 退職年金導入の際の主導者

出典:MIRAIASSET退職年金研究所, 企業の退職年金認識 と運営実態分析 ,2010。

注:退職年金の導入企業300社を対象。

表12 退職年金の制度類型別の主導者

出典:MIRAIASSET退職年金研究所, 前掲書 ,2010。

注:退職年金の導入企業300社を対象。

% 主導形態

使用者主導 58.0%

労使主導 37.3%

勤労者主導 4.6%

11.7%

46.3%

37.3%

3.9%

1.3%

全的に使用者によって 使用者が主導的に

労使が対等に 勤労者が主導的に 全的に勤労者によって

使用者主導 労使主導 勤労者主導 DB 64.3% 34.3% 41.2%

DC 55.8% 36.4% 7.7%

DB&DC 41.2% 52.9% 5.9%

(13)

また,表13に示すように,退職年金導入企業の大部分は1〜2社の金融機 関だけを退職年金事業者として選択している。しかしその選定においても使 用者の影響力は最も高く(79.2%),しかも94%の企業の運用管理機関と資 産管理機関が同一であることから事業者に対する監視機能が作動しているの か疑問さえ残る 。

2)加入者教育の側面

韓国では勤労者退職給与保障法において,加入者教育を使用者の責務とし て規定し年1回以上の教育の実施を明示している。退職年金事業者に教育を 委託することもできる。しかし,加入者教育を通じた加入者保護が完全には 行われていないのが現状である。その原因としては次のことがあげられる。

まず,加入者教育の内容の問題である。法令で規定した加入者教育は退職 年金に対する教育に焦点があり,老後所得保障の装置としての年金制度の機 能や重要性などを明確に認識するのはなかなか難しい 。

表13 退職年金の運用と資産機関の数およびその一致割合 運用・資産管理機関の数

出典:金元植・申文植, 退職年金制度の導入と運営に関する実態 調査報告書 ,雇用労働部,2008.12。

1) 金元植・申文植, 退職年金制度の導入と運営に関する実態調査報告書 ,雇 用労働部,2008.12.

2) 申文植・柳建植・李鳳周, 韓国型退職年金制における受給権保護と今後の 運用管理機関の数

資産管理機関の数

運用・資産管理機関の一致割合

一致割合 (%) 1.3 1.3

全部一致 80.7%

80.6%

12.3%

12.0%

4.3%

4.7%

2.7%

2.7%

一部一致 不一致 94.0% 2.3% 3.7%

平均 1社 2社 3社 4社以上 保険学雑誌 第 625号

(14)

第2に,加入者教育の内実化(充実化)の問題があげられる。法律上には 加入者教育の事項が規定されている。しかしそれに対するガイドラインがな いことから,加入者教育の場合,その方法は集合教育(44.4%),冊子や書 面(25.2%)の順であり,しかもその回数も年間平均1.3回に過ぎないなど 形式的な教育になってしまうのが現状である 。

第3に,加入者教育を行なう専門家の養成の問題があげられる。加入者が 正確に退職年金制度を理解し適切な運用商品を選択するためには,専門的な 教育知識を持っている専門家を通じた効果的な教育内容の提供が必要である が,加入者を教育させる専門家の養成プログラムが足りないのが現状である。

調査によると,退職年金教育者の資格に関する基準は企業ごとに異なるとい う 。これは場合によっては教育者がどのような資格や専門知識を持ってい るかによって,加入者が影響される可能性があるのを意味する。したがって,

資格者養成や教育プログラムを通じて加入者教育の専門家を養成して加入者 教育の機会や質を高める必要があるといえる。

4. 厳格な積立金運用に関する規制

韓国は善良な管理者の義務に基づいた質的な規制(自律規制)よりも年金 運用の安全性を高めるという次元から量的な規制(legal list rule)を指向 している。しかし量的な規制は長期的には勤労者の運用商品に対する選択の 幅を制限して投資收益率の低下などを招き,金融市場の活性化にも障害要因 として作用しかねない。このため,2008年3月の規定の改定に続き,2011年 下半期からDC型も株式型と混合型に対して積立金の40%の範囲において投 資を認めている。

課題 ,保険学雑誌,2006.6,を参照されたい。

3) 金元植・申文植, 前掲書 ,雇用労働部,2008.12.

4) 金元植・申文植, 退職年金 加 入 者 の 教 育 方 案 ,韓 国 投 資 者 教 育 財 団,

2008.1.

(15)

しかしこのような厳しい退職年金積立金の規制の影響によって定期預金な どの元利金保証中心の投資が主に行われており,金融市場の発展に肯定的な 影響は与えていないのが現状である 。すなわち,日本などの諸国と比べて 積立金に関わる規制が極めて厳格であり,分散投資の原理に基づいた収益率 を高める難しさが存在するのである。

5. 受給権保護装置の不足

使用者である企業や退職年金の事業者が倒産した場合でも受給権保護がで きるように支給保証装置として退職給与優先返済制度,賃金債権保障基金制 度,預金者保護制度がある。

表14 退職年金の積立金における規制

出典:柳建植・李 禹, 退職年金の規制体系と政策の方向 ,保険研究院,

2011.3.

5) 2013年11月に金融委員会は,金融業競争力強化の目的として退職年金におけ る資産運用の合理化の誘導などを通じて収益率を高めて年金の所得代替率が向 上できるように資産運用規制の再検討をしていると発表した。

株式 不動産 債権 ファンド 貸出 預金

韓国

DB型 30% 50% 制限なし (BBB‑以上)

株式型・混合型:50%

債権型:制限なし

投資

禁止 制限なし DC型 投資 投資

禁止

制限なし (BBB‑以上)

株式型・混合型:40%

債権型:制限なし

投資

禁止 制限なし

日本 法律上の特別な制限はなし

保険学雑誌 第 625号

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しかし,それにもかかわらず次のような問題点が存在する。

まず,退職給与優先返済制度の改善によって退職年金加入者に対する受給 権保障が拡大されたとはいえ,依然として有用性の面からの限界がある。す なわち,退職給与優先返済制度によって最小3年間の退職給与は法的に保障 されるが,3年以上の長期勤労者は保護できないという限界が存在するので ある。

また,賃金債権保障基金制度が企業の倒産の際,勤労者の受給権を保障し ているとはいえ,その基準が厳しく適用の範囲も制限的である。賃金債権保 障法では未払いの退職金(勤退法による退職金)に対して最終3年間の退職 金を保障することに限定しているからである(賃金は3ヶ月分)。しかも退 職金3年分の支給も支給事由は会社が倒産した場合に限られている。

第3には,退職年金は金融機関の特性が存在しない制度型の商品であるこ とから別途の預金保険料率体系をとる必要があるにもかかわらず,一般的な 預金者保護制度と同一な料率体系を指向していることがあげられる。また,

老後生活のための年金の受給権保障や退職年金の長期性を考慮してみても補 償限度の5千万ウォンは極めて低い水準であるといえよう 。

表15 退職年金における支払保障装置の比較

出典:柳建植, 前掲書 ,保険研究院,2013.

6) 2013年11月の発表によると,退職年金における加入者の受給権保護のために 別度の預金者保護限度の適用を推進するという。具体的には,2014年に預金者 保護法の施行令の改定を通じて,退職年金(DCとIRP)商品は他の金融商品

補償範囲 適用対象 特徴 関連法

退職給与優先返済制度 最近の3年分 に限定

退職給与 対象

事業主の財産 がある場合に

支給

勤退法 第12條

賃金債券保障基金制度 最近の3年分,

上限額設定

賃金・休業手 当と退職金

支給保証制度 一部機能

賃金債券保障法 第8條 預金者

保護制度

5,000万ウォン

限度 DC型/IRA ‑ 預金者

保護法

(17)

Ⅳ.退職年金制度の改善方案

これまで退職年金制度の運用の現状と特徴,諸問題を検討したが,退職年 金制度がもっと活性化されて老後所得保障の機能がより高められるためには 次の方向に向けた制度の改善が必要であると思われる。

第1に,まず,低所得の脆弱階層に対する退職年金のメリットを強化する ことである。その方向として次のことがあげられる。①非定規職の賃金勤労 者に対する退職年金の加入を原則的に認める。ただ,事前に脆弱勤労者の解 消のために,適用除外の目的と趣旨を明確にして適用除外の基準を再構成す ることが必要であると思われる。雇用形態の基準,所得基準の導入問題,年 齢基準の導入問題などを具体的に検討する必要があり,脆弱勤労者のための 特別退職年金制度の設計も検討する必要があると思われる。②小規模の零細 事業所には退職年金の積極的な加入を誘導するためにインセンティブを提供 する必要がある。たとえば,共同加入の標準退職年金制度の導入,最低收益 率に対する政府の保証,零細事業所が負担する手数料に対する一部補助など が考えられる。

第2に,退職年金の転換が誘導できる制度の改善である。これは次のこと が考えられる。①二元化された退職給与制度を段階的に退職年金として単一 化することである。すなわち,勤労者の一時金への選好傾向を考慮し無理な 義務化よりは,たとえば企業の規模(零細企業→中小企業→大企業),寄与 の形態(使用者寄与分は義務化→勤労者寄与分の義務化)などを考慮して漸 進的に義務化をすることも考えられる。②一時金の税制上のメリットは縮小 させる一方,年金に対する税制上のメリットは拡大させることが考えられる。

また,個人年金と退職年金の税制上の体系を二元化して退職年金への加入を 積極的に誘導することも考えられる。たとえば,加入者別,所得別などの特 性を反映して年金の税制を差別化することによって年金の税制の衡平性を模 索することである。③年金の受領基準を大幅に緩和して退職給与の際に,一

とは別に5000万ウォンの保護限度を適用することを検討している。

保険学雑誌 第 625号

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部は一時金として,また一部は年金として受領できる部分年金制度の導入も 検討する必要があると思われる。

第3に,退職年金加入者の権益が保護できて退職年金制度の運営にも加入 者の参加が可能な退職年金政策の転換があげられる。このためには次のこと が考えられる。①DB型の場合,加入者保護のための退職年金の運用体系を 持続的に改善することである。すなわち,退職年金事業者間における相互の 牽制機能を高めるために保険計理士,公認会計士などの第3の監視機能を強 化して事業者に対する受託者責任を強化することである。②現在の契約型の 支配構造においても加入者の制度運用への参加ができるように制度の改善が 必要であることである。たとえば,年金理事会あるいは退職年金管理委員会 などを設けて退職年金制度の運営に加入者の意見が反映できるようにするこ とである。③DB型とDC型両方における加入者教育の体系に対する改善で ある。すなわち,勤労者退職給与保障法における加入者教育の範囲を退職年 金に限ることなく,老後の設計や運用される金融商品の理解,資産運用に関 する基礎的な知識,年金の運用などへと拡大することである。また,加入者 教育の詳細な指針(ガイドライン)を提示するとともに,模範事例を発掘し て企業に提供することによって加入者教育の忠実化(内実化)を模索する必 要がある。

第4に,退職年金積立金の運用規制の方式を自律規制方式へと転換するこ とによって資産運用の効率性を高めて退職年金の活性化を誘導することであ る。退職年金における資産運用の自律性を拡大して老後準備資産の市場を拡 大するためには,量的な規制(投資可能資産の列挙や危険資産への投資制限 など)の方式から自主的に投資できる質的な規制(善良な管理者の注意義 務)方式へと積立金の運用規制の方式を漸進的に転換することである。

第5に,実質的な支給保障装置を設けることによって勤労者の受給権保護 をもっと強化することである。そのためには,現在施行している諸制度の大 幅な拡大とともに,長期的には日本の年金支給保証制度のような別途の支給 保証制度を導入することが検討できる。すなわち,短期的には現行制度の有

(19)

用性を高めるとともに,長期的には法的に年金の支給を保証する方向に向け た制度の改善を行なうことによって実質的な受給権保護ができるようにする ことが必要である。

Ⅴ.終りに

2013年6月現在,退職年金制度が導入されて以来8年になるが,全体事業 所のおよそ13.4%しか導入していない。制度導入の際の期待とは程遠い数字 を見せている。また,運用の商品も定期預金などの短期商品が中心となって いる。しかも退職年金の大部分を一時金として受け取っているなど本来の老 後保障制度としての役割を果たしていないのが現状である。本稿ではこうし たことを踏まえて高 化が老後所得保障体系の全般に及ぼす影響を検討した 後,高 化リスクへの対応次元から退職年金の老後所得保障機能の強化のた めの多様な案を模索した。具体的には,小規模の零細事業所の積極的な加入 を誘導するためのインセンティブの提供,退職給与制度の単一化や税制上の メリットの強化などの制度の改善,退職年金制度の運営における加入者の参 加や加入者教育の体系などの退職年金政策の転換,積立金の運用規制の転換,

受給権保護の強化の5つを提示した。

急速な人口の高 化によって退職年金の老後所得保障役割が重要視されて いるなかで,退職年金の活性化のための制度改善とともに,国民と政府そし て企業のすべてが退職年金の重要性を改めて再認識することにより,退職年 金の役割と機能が高まるものと思われる。

(申 文植:明知専門大学副教授)

(李 鳳周:慶熙大学教授)

(柳 建植:韓国保険研究院先任研究委員)

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参照

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