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人身傷害死亡保険金の帰趨

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(1)

■アブストラクト

最近,人身傷害条項の被保険者死亡時の保険金が相続財産には帰属せず,

法定相続人が固有にその請求権を取得すると解した下級審判決が登場した。

人傷の性質を保険法の定める 傷害疾病損害保険契約 と見る立場は,当然 のことながらこの判決を批判する。この立場をとる理論的なメリットは,保 険法の認めた典型契約類型として,人傷に確固たる存立基盤を提供できるこ とにある。この点を強く意識し,保険法の契約分類の明確化により,その施 行前であれば判決のような見方が許されたとしても,同法施行後は,判決の 結論をとると人傷が法の予定するいずれの契約類型からもはじき出されてし まうと指摘する見解さえある。果たして人傷死亡保険金を固有権と解する場 合,人傷は保険法下でその存立基盤さえ失ってしまうのであろうか。本稿は この疑問から,保険法の契約区分の構造論に遡って人傷の法的位置づけにつ いて考察した。そして,たとえ死亡保険金を固有権と解しても,人傷が

(傷害疾病)定額保険 として存立し得るという結論を導くものである。

■キーワード

人身傷害条項,損害填補性,定額給付性

.問題の所在

1998年に東京海上社(当時)が任意自動車保険契約に 人身傷害条項

(以下,人傷と呼ぶ)を設けて以来,これを巡り様々な法律問題が噴出して / 平成27年 月 日原稿受領。

人身傷害死亡保険金の帰趨

保険法における人身傷害条項の立ち位置

大 塚 英 明

(2)

きた。それは,人傷が それまでの自動車保険にはないユニークな約款内容 を有していた 1)ことによるところが大きい。人傷は,それまで長らく任意 自動車保険において傷害補償の中核的役割を果たしてきた自損事故条項や搭 乗者傷害条項とまったく異なる理論構成・実務処理を要求するものだった。

なによりも,人傷がこれら旧態の傷害補償条項とは真逆の性格を垣間見せる とき,その解釈に大きな戸惑いが生まれることを免れない。人傷の導入が自 動車傷害保険としてそれほど大きな抜本的変革であったことから,人傷にか かわる個別・具体的な問題のほとんどは,その法的性質論にまで遡った再検 証を余儀ないものとする。

最近,下級審判決ながら,人傷の被保険者死亡保険金の帰趨について一つ の解釈指針を明確に打ち出す判決が登場した。すなわち, 人身傷害補償保 険は,損害保険契約に属するとしても,物ないし財産を保険の対象とするい わゆる物保険ではなく,被保険者の身体を保険の対象としていることから,

いわゆる人保険としての性質を有する。そして,人保険の典型である生命保 険において…利得が生じるような契約形態を許さない利得禁止原則が及ばな いこと…に照らせば,同じく人保険である人身傷害補償保険においても,利 得が生じるような契約も違法ではないと解すべきである。そうすると,実際 に損害を被った被保険者以外の者に利得を生じさせる契約,すなわち,その ような者に保険金を取得させる契約が,論理必然的に許されないわけではな いと解すべきであ り, 本件保険金請求権は,〔死亡被保険者〕の法定相続 人に帰属し,同人の相続財産を構成しないものと認めるのが相当である 2) 要するにこの判決によれば,少なくとも被保険者死亡時には人傷が生命保険 的性質を持つようになり,受取人として 指定 された法定相続人は(人傷 約款では 保険金請求権者 として 被保険者(被保険者が死亡した場合は,

1) 洲崎博史 人傷死亡事案において被保険者の法定相続人が相続放棄した場合 の人傷保険金の帰属 損害保険研究74巻 号223頁(2013)。なおこれは,注8) の盛岡地裁判決の評釈として書かれたものである。

2) 東京地裁平成27年 月10日判決(Lex/DB25505727)。

(3)

その法定相続人) とする規定が設けられている),生命保険金請求権と同様 に人傷死亡保険金請求権を 原始取得 することとなる。

洲崎博史教授は,保険法の基本構造自体を拠り所に,判決のこのような結 論に異を唱えられる。もし人傷死亡保険金を相続人が原始取得するものと解 釈すると, 死亡保険金部分は,傷害疾病損害保険契約でも傷害疾病定額保 険契約でもない契約と 性質づけざるを得ず,人傷は保険法の保険契約とし ての存立基盤を失うとされるのである3)

しかしながら,人傷の死亡保険金を法定相続人が原始取得するというのは,

それほど奇異なことなのだろうか。まして,そのことは,理論上も人傷の保 険契約としての本質を破綻させるほどの異端要素として捉えなければならな いのだろうか。この疑問を前提に,以下本稿では判決の結論を支持しつつ,

上記の洲崎説への反論を試みたい。

.損害保険契約としての構成と相続財産帰属説

⑴ 人傷の損害保険契約的構成

ところで,人傷がいかなる場面でも 損害保険契約 としての特性を失わ ないと徹底すれば,上記の判決の結論はその論理に真っ向から反し,したが って理論的に 誤り であることになる。山下典孝教授は,約款にもとづき 人傷に適用される代位の規定を主たる根拠として,まず人傷を完全な損害填 補型の保険契約と性質づける。その上で,被保険者死亡の場合の保険金も,

3) 保険法 条 号の 傷害疾病損害保険契約 の一般論として,保険法の本質 論との関係で,村田教授はこの問題を早くから指摘されていた(村田敏一 保 険の意義と保険契約の類型,他法との関係 落合=山下(典)編 新しい保険法 の理論と実務 36頁(経済法令研究会,2008))。なお,同39頁注⑾には,次の ように述べられている。 傷害疾病損害保険契約においては,生命保険契約や 傷害疾病定額保険契約の場合とは異なり,被保険者の死亡による給付は,相続 に際し,相続財産に組み入れられることとなり,被相続人たる被保険者の債権 者の引当財産の一部を構成するものと解される。また,傷害疾病損害保険契約 においては,受取人概念がないことから,遺言による保険金受取人の指定変更 もなすことができないものと解される 。

(4)

当然に被保険者(死亡の場合は相続財産)に帰属すべきという見解を強く提 唱される。

同教授は,人傷の代位について, 裁判基準差額説を採る判例や人傷保険 における人傷保険会社の求償債権の消滅時効に関する下級審裁判例やその見 解を支持する多数説においては,当該保険契約に適用される約款の請求権代 位の条項を改正前商法662条とは法的性質の異なる約定代位とは捉えていな いのではないか と指摘される4)。すなわちこれは,人傷の代位が,損害保 険契約の利得禁止原則によって理論上当然に導かれる代位であるところから,

人傷の損害填補性が絶対的前提になっていると遡上する解釈である。そして 山下教授は,保険法の下でも 法務省法制審議会保険法部会での論議を踏ま えれば,人傷保険契約は傷害疾病損害保険契約…と解するのが素直な解釈と なる 5)と述べられる6)

確かに代位は,加害者に対する損害賠償請求権等の他の 損害賠償(補 償)制度 と競合する場合に,人傷の法的性格を際立たせることに役立つ。

損害保険契約で填補される 損害 を私法,とくに民法上のそれと同一に解 せば,その損害概念は損害補償を目的とする全ての制度・手段(例えば,損 害賠償,保険契約はもとより,労災補償,自然災害補償等)において共有さ

4) 山下典孝 人身傷害補償保険の被保険者死亡における保険金帰属 TKC ロ ーライブラリー,新・判例解説 Watch 商法78 (z18817009‑00‑050781231) 頁。

5) 山下・前掲注4) 頁。

6) さらに山下教授は,人傷による内払いの実務を挙げる。すなわち, 例えば,

被保険者が交通事故を原因に直ちに死亡せず,一定期間入院治療後に死亡した 場合,すでに支払われた内払額の処理が問題となる。原始取得説の立場によれ ば…内払額の控除はできないとも考えられる。被保険者の相続人は保険金受取 人と位置づけられ,被保険者とは異なる法的位置づけにあると考えられるから である。これに対して相続人承継説の立場によれば,被保険者の支払われた内 払金は控除されることになる (山下・前掲注4) 頁)。内払金と死亡保険金の 同一性を認めるためには,両者ともに損害の填補を目的とする給付であると構 成する必要があるという趣旨である。しかし,これに対しては,内払金の性質 は支払時には確定できない以上,事後調整そのものが約定(本文後述)によっ て当事者間で合意されていると見れば足りるのではないか。

(5)

れる。そのため,いずれかの制度・手段によって 一回 だけ当該損害の回 復に成功すれば,当該損害の補償のために起動した諸々の制度・手段は全て その目的を達成したことになる。損害が二重に補償されることはあり得ない。

つまりここでは,利得禁止の原則は決して保険法だけに固有の原理にとどま るものではなく,実は法的な損害補償という要請の全体に君臨する大命題と して捉えられる。そして,損害の過多な補償が行われないために,損害補償 のための諸々の制度・手段にまたがる形で,代位等の調整策が設けられてい 7)

このような厳格な 絶対説 的理解によると,代位は,保険法の範囲にと どまらず広く私法上の損害補償 体系 に組み込まれたデバイスとしてこれ を機能させなければならない。保険代位が 私法上の 三大代位といわれ,

保険契約の単なる 約定 としての範囲を超えた効果をもたらすのは,まさ にこうした背景から説明づけることができよう。いわゆる裁判基準差額説の 確立過程は,人傷を,民法が主導する損害賠償(補償)体系に取り込んで位 置づけようとする努力の一環であると見ることができる。したがって山下教 授が, 裁判基準差額説を採る判例 と指摘されるのもこの点を強調する意 図であり,人傷の諸々のシステムは広く損害填補性による強い拘束を受けな ければならないとする趣旨であろう。

そしてこのように,損害賠償(補償)体系における絶対的調整策として代 位を重視する解釈をとれば,具体的問題もその原理の維持を主眼に解決しな ければならない。つまり,この厳格な絶対説的解釈と密接に結びつけて代位 を機能させるためには,代位の対象となる賠償請求権が確定的に帰属する相 続財産,換言すれば人傷支払をした保険者が代位を行うことが常に可能な相 続財産に保険金を支払う,という解決以外はとれないことになろう。人傷被

7) ただし,わが国の全ての損害補償制度に完璧な調整策が完成しているかとい う問題は残る。おそらく,各制度・手段間の 調整 は,決して整合的・体系 的に完備してはいない。

(6)

保険者の相続人が相続を放棄した場合8)などに,もし放棄相続人が人傷死亡 保険金を原始取得してしまうと,保険会社が代位による調整を行えず,実際 の損害を上回る補償がなされてしまうおそれがあることとなる。

⑵ 山下説への反論

しかしながら,この山下教授の解釈をそのまま受け容れることはできない。

もし,裁判基準差額説を説示した平成24年 月20日の最高裁判決9)が,人 傷保険金も裁判基準損害額と一致させよという趣旨であるなら,この判決は 損害填補 制度としての人傷そのものの法的性質を絶対的に拘束すること になるかもしれない。民法上の 損害賠償 システムと人傷による保険金支 払システムで, 損害 の概念が完全に同一化するからである。しかしなが ら,そもそもこの判決は,裁判基準損害額と共存できる概念として,人傷基 準損害額という概念を容認し,両者が相違することを当然の前提としている。

同最判の宮川裁判官の補足意見にあるとおり,人傷は 被保険者が死傷した 場合に所定の基準により算定された損害の額に相当する保険金を支払う 旨 の契約である。たとえ算定基準には 損害 的要素が含まれていようとも,

支払われるべきはあくまで 保険金 である。そして,この損害額と保険金 額の相違こそ,いわゆる差額説論争を生じさせたそもそもの原因であった。

同最判は,決して 損害 概念の絶対的一元化を目指すものではない。

約款によって契約関係にはいった保険契約の当事者(保険者・保険契約者)

および関係者(被保険者・保険金請求者)は,契約内容となった約款規定に 拘束され,人傷基準による損害算定がなされるが,これこそが人身傷害保険 における損害である。そこに,加害者,被害者,過失相殺などは存在しない。

加害者が賠償法理を基礎とする法的効果として負うべき損害賠償額を算定す 8) 盛岡地裁平成21年 月30日判決(Lex/DB25480033)はまさにそのような事 案で,やはり,相続放棄した相続人が死亡保険金を原始取得することを認めた。

山下典孝 人身傷害補償保険に基づく保険金の充当の問題 自動車保険ジャー ナル1820号 頁以下(自動車保険ジャーナル,2010)参照。

9) 最判平成24年 月20日第一小法廷判決・判例時報2145号103頁。

(7)

る前提である裁判基準損害額とは,全く異なる内容である。損害といっても,

唯一無二のものが絶対的に存在するのではなく,当事者間で相対的に捉える ことは可能であるし,このような捉え方に実務上の抵抗もない 10)。最高裁 もまた,このような解釈方針をもって, 損害 概念の多元的共存は容認し ているのである。

そして,補足意見に見られるように最判の本音は, 一般に人身傷害条項 所定の基準は裁判基準を下回っているので,先に保険金を受領した場合と比 較すると不利となることがある ため,これを是正する点にある。つまり,

ふつう 高く 見積もられるはずの 裁判基準損害額を確保する ことによ り,被害者(被保険者)に最も有利となる損害の補償を実現させようという 趣旨である。これにより人傷保険者は,たとえ約款で 賠償義務者から既に 取得した損害賠償金の額等 を保険金額から差し引くと定めていても,これ を字義通りに適用することが難しくなる11)。要するにここで最判が強制する のは,裁判基準損害額という最大容量のバケツが満たされるまでは,複数の 蛇口がそれぞれ事前・事後に流水量を制限してはならないという 量的調整 のルール にすぎない。最判は決して,損害補償策相互間の代位のような調 整手段の法的性質(法定代位か約定代位か等),さらにそこから遡って各補 償策自体の法的性質を確定しようとはしていない。

さて,以上のように捉えるとき,次に問題となるのは,裁判基準損害額以 外の 損害 を,とくに保険法 条 号にいう 損害 と同義に解さなけれ ばならないかという点である。あらためて確認しておけば,人傷の保険金は 約款の算定基準に基づき算出される。したがってそこでは,保険者・保険契 約者間の 約定 を基礎におく 損害 が前提とされている。このように約 定を介さなければ算出できない損害は,例えば火災保険の目的物について論

10) 古笛恵子 人身傷害保険をめぐる実務上の問題点 裁判基準差額説のその 保険学雑誌618号241頁(2012)。

11) 古笛前掲注10)242頁参照。ただし古笛氏は,最終的には人傷を傷害損害保険 と解している。

(8)

じられるような損害とは,多少ニュアンスを異にする。すなわち, この契 約では, 損害 という概念は,これこれの算出基準に基づく金額をいうこ とにしておこう という約定は,少なくとも典型的な被保険利益概念からす れば不要な約定であるはずだからである。後述するように,筆者は 非 損 害保険契約を 定額 保険契約であるとする分類に異を唱える。損害保険契 約の 逆 は,なんらの性質的確定効を持たない 約定 保険契約だと考え ている。そうすると,少なくとも被保険者死亡時については,人傷の 約定 損害 もまた,その後半ではなくむしろ前半の 約定 の部分に重きを置い て理解すべきであろう。

ところで,上述のように 損害 の出自そのものまでは遡らないにせよ,

自由な約定を,人傷死亡保険金の 帰属 確定効に限って認める立場もある。

洲崎教授は, 保険契約において,一方では,被保険者が被る 損害 に対 して保険金を支払う(しかも被保険者が被った損害の額を算定して保険金を 支払う)ことを定めておきながら,他方において,被保険者ではない者に保 険金を支払うという一見矛盾するような定めをすることが許されるか とい う問題設定の下,次のように結論づけられる。 人傷保険のように,被保険 者の損害を算定して支払保険金額を定めるタイプの保険契約であるからとい って,被保険者以外の者に保険金を取得させる約定が論理必然的に許されな くなるわけではないと解すべきである 12)

このように,損害の算定すなわち 保険の目的や保険給付が何か につい ては被保険利益を重視するとしても,保険給付の帰属については 被保険 者 の存在に拘束されないという解釈にまで行き着けば,伝統的被保険利益 論は見直しを迫られることになろう13)。被保険利益は,一定の内容をもつ保

12) 洲崎・前掲注1)328頁。これにより洲崎教授は,保険法制定以前であれば人 傷の柔軟な約定が許され,被保険者死亡の場合の保険金が相続人に原始取得さ れることも許されるとする。しかし,保険法の下では,本文後述のようにこれ が許されなくなったと解される。

13) 人傷の保険金請求権者については,すでに保険法制定の過程でも問題が意識 されていた。法制審保険法部会の第22回議事録には次のようなやりとりがみら

(9)

険金請求権の 発生 までを取り仕切るが( 被保険者 が存在しなければ 内容さえ確定できないから,この限りにおいても 被保険者 は意味を持 つ),その後の 帰属 については任意契約が許されるのである14)

いずれにせよ,被保険者が死亡しているという事実は,なんといっても被 保険者が生存している場合とは異質の状況である。とくに人傷では,そのこ とに注意しなければなるまい。

.保険法の三分法と人傷の位置づけ

⑴ 洲崎教授の基本認識

洲崎教授は,保険法の制定によってこの人傷保険の死亡保険金受取人問題 には大きな影響が生じたと考えておられる。

れる。すなわち, 人身傷害補償保険を損害保険契約であるというふうに位置 付けると,損害保険契約である以上は被保険利益がある人にしか保険金は支払 ってはいけないということになる はずである。しかし,人傷のように一定の 基準にしたがって 保険金 を算定するという,ある意味で自由な約定が許さ れるとすれば, 保険金受取人は被保険者が指定する相続人以外の者であって も,そういう者に支払いたいという場合には,そういう保険商品というのは設 計が可能だと いうことにならないか。ただ,この発言をした委員自身は,保 険法のいわゆる 三分論 の方向に保険法改正の流れが行き着くことを意識し,

人傷の損害保険契約性を維持する以上は,この種の受取人の自由設定が難しい ことを自認していたようである。もっとも,さらにその議論の中で一歩踏み込 み,〔利得禁止原則にいう〕利得というのは,損害以上のものは払ってはいけ ないという意味で,それが誰に帰属するかというところまで要求されるものか というところがまた一個出てくるのか… という発言もなされている。(法制 審議会保険法部会第22回会議議事録52頁以下を参照(http: www.moj.go.

jp content 000012388.pdf)。

14) もう一つクッションをいれて, 発生 と 帰属 を被保険者本人とした上 で, 最終的帰属 だけを別様に考える立場もあり得よう。その場合, 発生時 の帰属 が被保険者であることは動かせないが,被保険者は死亡しているので,

その後の扱いがどうなるかは,被保険利益では必ずしも決定づけることができ ないと解するのである。保険契約者(=被保険者)は,将来発生すべき自身の 死亡保険金請求権の譲渡・移転を 予約しておく という法的構成をとらざる をえないであろうが,とくに相続財産との関係で慎重な配慮が必要となろう。

(10)

まず同教授の考え方の大前提には,〔保険法が定める類型の保険契約〕以 外に保険契約の類型がありうるかについて保険法が明言していないが,共済 契約も含めて保険契約を網羅的に規律する(しかも契約者保護の見地から,

片面的強行規定を通じて規律する)というのが保険法の基本構想であること からして,保険法の適用対象となるべき保険契約はすべて〔保険法の予定す る〕 類型のいずれかに分類され,いずれにも属しないような保険契約はな いというのが, 少なくとも保険法制定当時の 一般的了解であったと思わ れる とする理解がある。ただ,同教授は前述したように,保険法がこうし た 契約類型分類 を導入する以前の人傷については,被保険者以外に人傷 死亡保険金を原始取得させる約定の有効性を容認していた。そのため苦悩さ れるが,結局のところ,保険法の下ではそのような自由約定は許されなくな ったという結論をとられる。

人身保険契約の死亡保険金に関する部分…については,保険法が認める 類型のいずれかに分類することが難しいという問題が生じている。損害を 被っていない者に保険金請求権を与えるような保険契約を損害保険契約とみ ることができないという点は…旧商法の下でも同じであったが,旧商法の下 では,そのような契約であっても,傷害保険契約と見ることは可能であった。

これに対し,保険法の下で残された選択肢は次のようなものとなろう。

死亡保険金部分は,傷害疾病定額保険契約とみる(相続人原始取得説 a)。

死亡保険金部分は,傷害疾病損害保険契約でも傷害疾病定額保険契約 でもない契約とみたうえで,死亡保険金は約款の文言に従い相続人が原 始取得するとみる(相続人原始取得説b)

被保険者の法定相続人が死亡保険金の保険金請求権者になることを定 めた約款規定は,被保険者が取得した保険金請求権を相続人が相続によ り取得することを言い換えたものであり,死亡保険金部分も傷害疾病損 害保険契約であるとみる(相続構成説)。

そしてこのうちの については,前述の山下教授と同様に, 現に広く販

(11)

売されている人傷保険の約款規定が実は約定代位の例であるという理解に対 しては,強い違和感を覚える保険実務家が少なくないのではなかろうか と され,代位を主たる根拠としてこれを否定する。

さらに についても,次のような懸念を呈され,これを否定する。 … の解釈によれば,人傷保険の死亡保険金部分は, 類型以外の保険契約であ る(あるいはそもそも保険契約ではない)ということになりそうであるが,

これは,少なくとも保険法制定当時の一般的了解とは合致しない解釈であ る 。この結果,残された のみが,保険法の厳格な契約分類の下で成り立 ち得る論理ということになる15)

このように,洲崎教授は,基本的に人傷死亡保険金問題を, 損害を直接 被る者以外の者を保険金請求権者と定めて損害相当額を保険金として支払う ような傷害保険契約は傷害疾病損害保険契約にも傷害疾病定額保険契約にも 該当しなくなってしまうのではないか,という観点からの議論 に乗せて決 着させようとするのである16)

⑵ 定額傷害保険契約による 損害の填補 の可否 金澤博士の問題提起 しかし,この 〜 の分類と同教授による への誘導的立論には,少なか らぬ違和感を覚える。とくに, の相続人原始取得説bは,本当に人傷を 傷害疾病損害保険契約でも傷害疾病定額保険契約でもない契約とみ なけ れば導き出せない結論なのだろうか。保険法の下で洲崎教授の解釈に反論す るためには,現行保険法の契約分類の意味そのものを見直してみる必要があ ろう。

金澤理博士によれば, 保険契約の大分類として…損害〔不定額〕保険契 約と…定額保険契約の二分法を採用した 保険法の姿勢は, 従来商法が採 っていた損害保険と生命保険の二分法を改め ,さらには, 人保険と物・財

15) 洲崎・前掲注1)236‑237頁。

16) 洲崎・前掲注1)234頁。

(12)

産保険の二分法を採用することもな い,まったく新たな手法である17)。こ うした新分類法は,物保険,それ以外の財産保険および傷害疾病損害保険契 約を 損害保険 という範疇の下に統一した。いうまでなく,これらに共通 する属性は損害の填補性である。保険法では, 実損てん補概念を中心に据 える損害保険契約は,強力な保険契約類型であり,当該概念のもとに多くの 下位の保険契約類型を統括可能である 18)という見方が,最上位の区分基準 として採用された。この 強力な 区分基準を前にして, 傷害保険契約 という伝統的な契約類型把握は道を譲らざるを得ず19), 傷害保険契約 うち傷害疾病損害保険契約は 損害保険契約 に属すこととなった。

そうした経緯のなか,金澤博士は,この保険法による新たな保険契約分類 の下で,あえて次のような大胆な疑問を提示される。すなわち,他人のため にする傷害定額保険契約において,保険契約者が被保険者に損害賠償責任を 負担する可能性がある場合に(たとえばスポーツセンターの運営事業者によ る,利用者のための契約等),被保険者が契約者の過失によって死亡したと する。保険金受取人(被保険者の相続人)が定額の死亡保険金を取得した際 に,この金額を契約者(加害者)の死亡被保険者(被害者)に対する損害賠

17) 金澤理 傷害保険契約の本質と保険法 児玉康夫=大塚英明編 新保険法と 保険契約法理の新たな展開 387‑388頁(ぎょうせい,2009)。

18) 村田・前掲注3)36頁。

19) 金澤博士は,傷害保険契約というものが 完結した自足的な独立した体系を もつ小宇宙…を形成して いるという理解を前提とされ,なによりも,保険法 によりそれが傷害損害保険と傷害定額保険の二類型に分断されてしまったこと に とまどい を感じておられる(金澤・前掲注17)404頁)。もともと傷害保 険契約は,二つの特性によって,損害保険契約とも生命保険契約とも区別され るべき独立した保険契約範疇を形成したはずである。第一に,傷害保険契約は

人保険契約性 ,すなわち保険事故が人の身体に発生するという特質によって,

物保険契約ないし財産保険契約と対立 していた。第二に,傷害保険契約は,

保険事故の特性において, 発生の時期のみではなく,発生自体,及び態様や 程度においても不確定であ る点で,生命保険とは異なる。それゆえにこそ,

伝統的に傷害保険は第三分野保険として独立性を保ってきたのである(金澤・

前掲注17)401‑402頁)。

(13)

償金額に充当することが可能かという問題提起である。もしこのような性質 を帯びた他人のためにする傷害定額保険契約が可能であるとすれば,一方で 保険契約者が過失を負わない場合には,被保険者(保険金受取人)に対して 支払われる保険金は損害填補性を有しないが,他方,加害者の損害賠償責任 が発生したときは支払われた死亡保険金には損害填補性が備わることになる。

金澤博士は,このことを 傷害保険と責任保険の両性を具有するいわゆる 玉虫色の保険 の性質を帯びる と表現されている20)

金澤博士はこうした 玉虫色の 傷害保険契約を容認する立場をとられる が,その理由について,支払保険金を損害賠償に充当する場合と充当しない 場合と どちらが衡平であろうか と指摘するにすぎない。しかし,新保険 法の保険契約分類を十分に認識した上で,なお上記のような傷害定額保険契 約の有効性を提示するためには,単なる 衡平性 を挙げるだけでは少々も のたりない感を否めない。とくにその理論的裏付けについて,さらに掘り下 げる必要があろう。

.保険法の契約区分の再検討

⑴ 二分法

実は,保険法の分類下における人傷の立ち位置の問題は,金澤博士が呈さ れた 定額保険 による 損害の填補 は可能か? という上述のような 疑問と,その根底において通じている。いずれも,保険法の新たな保険契約 分類の理論的背景自体に,その論拠を見いだすことが可能である。以下,こ の点を論じてみたい。

出発点として,現行保険法のいわゆる 三分法 について,あらためてそ の基本構造を確認しておかなければなるまい。前述のとおり,保険法におい て実損填補の理念は極めて 強力な 保険契約の区分基準としてクローズア ップされた。財産としての保険対象物に生ずべき 損害 というものを観念 する保険(法)的アプローチ,すなわち被保険利益概念は,損害保険契約に

20) 金澤・前掲注17)409‑410頁。

(14)

ついて,その存在意義から支払保険金額や支払先などの具体的問題まで,お よそ全てを画定する。保険契約の法的性質に盤石の基礎を提供するからこそ,

保険法でも損害の填補性(被保険利益論)を法体系に組み込まざるを得なか った。

これに対して,生命保険契約と傷害疾病定額保険契約の区別は,次のよう な理由による。すなわち, 同じ定額保険契約といっても,人の生死に関し てのみ一定の保険給付を行う生命保険契約と…一定ではあるが多様な保険給 付(入院,手術,通院,死亡)を行う傷害疾病定額保険では保険給付の態様 が相当程度異なっており共通の概念でくくることに躊躇が覚えられる 。要 するにそこでは,理論というよりはむしろ, 規範のユーザーの利便性(ユ ーザーにとっては,ある種類の保険類型に適用される規律が準用等によらず 書き下されていた方が一般的には利便性が高い) という視点が優先された ものと考えられる21)

したがって,保険法の採用する 三 分法を,字義どおりに保険契約を 分類化するものという単純な捉え方をすると,むしろ分類根拠としての背景 理論を見失いかねない。損害填補性という厳格な性質論的契約区分こそ重要 なのであり,生命保険契約と傷害疾病定額保険契約との区分は,単なる便宜 的区分にすぎない。前述した箇所で,金澤博士が現在一般的に言われている ような 三分法 ではなく 二分法 と示されたのは,この意味でまさに正 鵠を射た表現であった。

そうだとすれば,保険法の下で本来の理論的意味での分類として真剣に検 討すべきは, 損害填補 と 定額給付 の二概念であることになる。

⑵ 損害塡補性という基準の意義

なによりも重要なのは,この二分化によって生まれる 損害保険 と 定 額保険 が,同じ尺度で測れる対立的概念とはならないことである。実は,

この二分法による損害填補型保険契約と定額給付型保険契約という類型のう 21) 村田・前掲注3)36頁。

(15)

ち,そこに投げ入れられる個々の保険契約を受け止めることのできる 器 としての役割は,前者の損害填補型保険契約という枠組みのみが果たすこと のできるものである。後者の定額給付型保険契約というものは,本来は,特 定の 範疇 ないし 類型 としての意味さえ有しない。

一方の損害填補性は,保険の目的の 価値 という普遍的な要素を前提と する。この要素を厳密に捉える限り,その毀損は,民法などにも共通する 損害 として,共通の価値認識の下で導かれる概念である。その意味で損 害保険契約は,民法の領域でこの価値の滅失・減少をベースとして構築され る法システムと同じレベルで, 器 としての役割を果たすことができる。

例えば, 不法行為 や 債務不履行 が一定の要件を備える法的現象を括 る範疇であるのと同様に, 損害保険 もまた,保険契約のうち,価値の毀 損=損害という概念を構造的に組み込んだ契約を受け入れるための範疇であ る。この意味で,損害という普遍的要素は,保険契約の領域において,損害 保険契約という一つの有意の類型,すなわち 器 を提供するものとなるの である。

それに対して,そもそも 定額給付 という表現は,何らかの法的意義,

少なくとも損害填補と同じ水準の積極的な法的意義を持つものとはいえない。

損害填補 の反対概念は損害の 非 填補であり,決して 定額給付 で はない。つまり, 損害を填補しない ということはただちに 支払保険金 額が一定である という特性を導くものではない。

もともと, 近代の保険契約法においては,被保険利益の存在は損害保険 契約の不可欠の要素であり,被保険利益の存在しない契約は保険契約ではな く賭博契約として無効とされてきた といわれる22)。こうした見方をするな らば,損害の填補という性質は,元来は賭博と区別もできない混沌状態の射 倖的契約群の中から,確固たる法的な存在基盤・存在意義を持つものだけを 選り分ける ための基準であった。 射倖性 は,必ずしも,法的な意味で の契約の合理性ないし正当性を裏付けるものではない。そのため,この混沌

22) 山下友信 保険法 247頁(有斐閣,2005年)。

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の中におかれた契約のうちあるものは, 損害の填補 という一つの強力な 特性を拠り所として,その存在意義や効果を法的に安定して説明づけること のできるセーフハーバーに入ることを志向する。損害填補性は,この経緯で 用いられるべき選別基準であった。

したがってここで強調しておかなければならないのは,その選り分けにも れた契約群には何ら積極的な性質付けが行われてはいないという点である。

非 損害保険契約群は損害填補のセーフハーバーに入れなかった以上,依 然として混沌状態の中にあり,とくに賭博契約と明確な境界(少なくとも法 的な意味で)を画定できてはいない。損害保険と定額保険という二つの呼び 方を用いると,あたかも 青色と黄色が混ざっているところを,青と黄に分 けた というイメージに捉えられがちである。しかしそれはミスリーディン グであろう。実際には, 様々な色が混在する中から,青だけを選りだした と捉える方が,むしろ正確といえる。

定額保険契約 の本当の意味

それでは, 定額 性が強調されるのはなぜであろうか。被保険利益の効 用として, 損害保険契約における保険の目的や保険給付が何かを確定する という機能を果たしている ことが挙げられる。そして, 被保険利益は,

その経済的評価をすることにより保険給付の額を決定することをも可能とす 23)のである。すなわち,損害保険契約では損害の填補性によって契約の 目的・内容などあらゆる要素が確定される。とりわけ,損害概念との完全な 連動により,保険給付の額がおのずと確定する。これを反対側から見れば,

損害の填補性を欠く射倖契約群はこうした 確定効 を備えないこととなる。

その場合どのように契約内容を構成するかは,完全に当事者間の約定に委ね ざるを得ない。そして上に述べた損害保険における保険給付額の 確定 と の対比で,当事者間約定の一つの 象徴 として捉えられたのが保険給付の 約定金額 である。いわゆる定額保険において当事者間で約定しておかな 23) 山下・前掲書注22)249頁。

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ければならないのは,なにも保険金額のみではない。生命保険契約における 被保険者や保険金受取人なども,当事者間約定の重要な必須項目なのである。

結局のところ, 非 損害填補性ということから導かれるのは, 契約内容 確定効の欠如のために,当事者がその内容を明示的に約定しておかなければ ならない という事実である。そして, 損害保険以外の保険契約 という 本来は特徴の無いはずの射倖契約にとって,この当事者間約定こそ,保険契 約としての大きな展開を導く契機となる。

このように, 定額保険契約 には,法的には何ら積極的意味は認められ ない。保険法が決めたのは,結局は 損害保険契約 の枠組みだけにすぎな い。 定額 とは 約定で決めない限り不明 と同義である。この種の契約 ではあらゆる内容を約定しなければならない。したがって,洲崎教授の挙げ る と は,その内容決定のための約定の範囲ないし程度の点に差があるに すぎず, が現行保険法の 枠外 にはみ出す契約であるとは思われない。

その点では,給付額の約定と受取人の指定(約定)とはまったく同列で,い ずれも契約内容として 当事者間で約定しておかなければならないことが ら に属する。

そして 定額給付 の意義を以上のように解せば,金澤博士の命題も保険 法における人傷の立ち位置の問題も,結局のところ 非 損害保険における 約定の自由性という視点から捉えることが可能となるのである。

.おわりに 人傷に見る自由な当事者間約定

赤津貞人氏は,主として代位の射程を考察するにあたってではあるが,保 険法制定後においても,次のような解釈が可能であるとされる。すなわち,

人身傷害補償保険は実損てん補をするものの,実損てん補の意味は被保険 利益の額ということではなく,不当利得性を防止するだけの役割を持った 額 を算定し,支払う機能を持っているということである。損害額基準の 拘束力は契約に淵源するものであり,保険金請求権者と保険者を支払保険金 の上限を算定するものとして拘束するが,損害額基準そのものは,保険者が

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支払責任を負う損害の 額 を適法に算定するためにのみ機能している。よ って,損害額基準の拘束力の射程は,請求権代位に当然には及ぶこととはな らない 24)

つまり赤津氏は,人傷において語られる 損害 は,人傷の支払保険金 額 の算定基準として用いられる基準にすぎないと理解される。なぜ人傷 支払額が決まるかは,決して民法的な損害(賠償)論理によるものではなく,

もっぱら 契約に淵源する のである。この赤津氏の見解を契機として25) それをさらに積極的に展開すると,人傷保険契約を 損害填補保険契約 の 枠外に置くことが可能となる。極端な言い方をすれば,人傷保険では,民法 的な 損害算定に似た手法 で支払保険金額を算定することを約定している のである。

人傷の 定額保険性 ,実は 約定保険性 をそこまで徹底して解するの であれば,死亡保険金の帰属を約定の受取人とすることは,もちろん可能で ある。民法の損害算定に 似た 方法で算出された死亡保険金は,被保険者 とは法的な性質論として牽連性を持つものではない。したがって,その帰属 もまた当事者間約定を 淵源 として決めるほかない26)

24) 赤津貞人 傷害・疾病保険の意義・性質と人身傷害補償条項・無保険車傷害 条項 ,児玉康夫=大塚英明編 新保険法と保険契約法理の新たな展開 471頁

(ぎょうせい,2009)。

25) 赤津氏は,このような契約を 傷害保険のうち,損害保険でも定額保険でも ないもの (傷害保険−損害保険−定額保険=不定額給付型傷害保険)と理解 される。そして,この不定額給付型傷害保険は, 実損てん補性の強いものか ら弱いものまで 様々存在すると解しておられる。つまり,前掲の洲崎分類の が保険法の下でも非典型保険契約として認められるという前提をとる。そし て,その種の非典型保険契約では, それぞれの保険給付についての適法性を 個別に吟味しなければならない とし,合目的性・適法性が認められる限り,

そうした非典型保険契約も排除されないと解されている。しかし私見では,

と は同じく 損害てん補 性を持たない保険契約に属し,契約をもって内容 を規定するほかない。その点で,私見は赤津説とも異なる。

26) こうした理解の大きな障害は,人傷約款 条が, 被保険者…が被る損害に 対して…保険金を支払います と定め, 条には, 損害額の決定 というタ

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そもそも,自動車保険による傷害補償への大衆の期待は,もっぱら自らの 払い込んだ保険料に基づき,独立した確実な保険金支払が行われるというも のであろう。契約者の側は,契約の有償性をもって,傷害給付は当事者間で 閉鎖的に完結していると理解しているのではないだろうか。人傷についても,

それが理論的に損害賠償(補償)体系に吸収されるという契約者意識は極め て乏しいように思われる。その意味で筆者は,代位を基礎におく山下教授の 損害保険契約構成には与することができない。そしてさらには,保険法の下 で傷害疾病定額保険契約の自由なデザインが禁じられるとする洲崎教授の厳 格解釈にも疑問を持つ。人傷のような任意的な 非損害保険契約 は, 何 も決められていない という特性を逆手にとれば,今後は保険契約の効用を 広げる可能性さえ秘めているといえる。そうした見方からすれば,本件判決 の結論は十分に支持できるものであり,実際の結論よりは,むしろ人傷の性 質論議により重大な影響を及ぼすものである。

(筆者は早稲田大学教授)

イトルが付されていることである。つまり,人傷における給付は,文言上は民 法的な 損害 と強くリンクして扱われている。しかし,その決め方は,何も 具体的金額を定めることには限定されない。実際の給付実行時にその給付額を 容易に決定することのできる 計算方法 でも,給付内容を定める約定として は十分に機能するはずである。 条にいう 損害額 という語を用いていると はいえ,これは民法的な意味での 損害 とは一線を画し,人傷約款に固有の 給付金額 を示すにすぎず, 条の 別表…に定める損害額算定基準に従い 算出した金額の合計額 が実際の給付金額となる。つまり,人傷では支払保険 金の 計算を経た定額性 を定めているのである。このように理解すれば,人 傷を損害填補性の枠外に置くことも可能となる。今ひとつ,人傷を傷害定額保 険に分類しようとする場合に,代位をどのように性格づけるかも残された課題 である。もっともこの問題は, 定額 給付型保険に設けられた代位条項をど のように理解するかという,相対説の宿命的課題の一環に位置づけられる。し たがって,人傷固有の問題として取り上げる必要はあるまい。どのような捉え 方をするのが適切かであるが,さしあたり,ここでは賠償請求権等の任意的譲 渡約定と捉えるのが妥当であると考えている。

参照

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