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(1)

機 器 を 用 い た 作 文 指 導

(ワープロ コ ミュニケーション)

おく むら くに

奥 村 訓

1.は じ め に

語学の4技能の中で一番難 しいとされているのが ̀ き'である 特 に日本語 は、4種の表記 (ひ らがな、 カ タカナ、漢字、 ローマ字)を ミックスす るので諸外国の 学習者にとっては頭の痛いことであろう 私が、その難 しい作文指導を担当す るようになったのは6年前になる。

ご承知のよ うに文章 とは、各個人の意志を文字で表 した ものであるか ら、その表現 は本来 自由でなければな らな い。従 って一つ間違 うと他人の意志や感覚を歪めて しま うことに も成 りかねないと考えていた私 は、長 く作文を 担当す るのをため らってきた。そんな私 に作文担当を決 意 させた ものが実 はコンピュータ (ワー ドプロセッサー) であった。対象が外国人留学生であるということと、コ

ンピュータを使用す ることにより単なる作文の基本学習 (演習)であ り、込み入 った概念や深層構造 、精神 や表 現の自由にまでは至 らないと考えたか らである

さて、現在私 は、留学生の作文を次のように3つの レ ベルに区分 し指導 している

1)漢字や語嚢の表記上起 こりうる ミスの レベル 2)助詞、動詞 などの母語干渉等 による文法上の ミスの

レベノ

3)語順や文脈を中心 とした表現上の問題、あるいはテ クニ ックを要す る レベル

特に初級、中級者 においては、1) 2)に注意 し、中級 以上 においては3)に重 きをおいて指導 している。 この 論文 においては、過去6年間の実践か ら、コンピュータ による留学生の為の作文指導を実際の授業 と照 らし合わ せなが ら指導者 の立場か ら、その意図す る所 と効果を検 証 してい くものである

2.ワープ ロ導入の経緯

前任校であった、京都外国語大学留学生別科 (以下京 都外大)在職中にコンピュータルーム開設のメンバーに 加わ ったことか ら、ワープロを10台購入 して もらうこと ができた。それが留学生の日本語教育に、ワープロを導 入す る具体的な動機付けとなった。当初 は、作文 という

よりはむ しろ漢字教育の一環 としてワープロ導入を試み た。その理由 も、いたって簡単であった。京都外大の留 学生 は、ちょうど半数が中国語圏で、他の半数が英語圏 であり、その英語圏の学生が、漢字に異常 な抵抗意識 を 持 っているのがひしひ しと感 じられたか らである。それ らを何 とか緩和 し、日本語 に早 く馴染んでほしいと願 っ たか らである 彼 ら (英語圏の学生)の多 くは、日本語‑

漢字 というイメージさえ伺えるほど熱心に漢字を練習 し ていた。 しか し、彼 らの書 く漢字 は、字 というよ りもむ しろ絵 に近 いものが多 く、時間 も他の留学生 (漢字圏) の数倍かかるという場合が少なくなかった。それらがワー プロを使用す ることによ りうま く解消 されはしないか と いう淡い期待を持つにいたった。従 って、当初の3年間 の担当科 目は、作文ではな く書 き方 (漢字 )であった。

事実、辞書機能を持っ ワープロは、漢字 をはじめて学 ぶ留学生 にとっては非常 に有難 いものであった。筆順 も 画数 も意味 も、とにか く無関係である全てを無視 し、

先ずは漢字を文字 として、音 として定着 させることに専 念すればよいのである。 とにか く、発音が正 しければ文 節入力で一括変換 し、そこそこ正 しい漢字 を自動的に提 供 して くれるのである とはいって も、英単語等がそ う であったように漢字の導入にも、やはり句や節、文章、

しか も学習者の生活に密着 した表現 (文句や内容)が望

(2)

正 しい発%)

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意味

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正 しい入力 で知芸IRl

荏 :外 向 きの矢印 は、不要あるいは取 り除 くを意味 し、内向 きの矢印 は 必要 あるいは指導上のポイン トを意味す る。

1.漢字指導から作文指導へ

ま しいのは当然であ る そ こで漢字教育 は、文章表現 (作文)へ と発展 し拡大 してい くので あ る これを図式 化す ると図 1のようになる

尚、 この場合正 しい発音 と正 しい入力に基づ く適切 な 漢字 の選択 を第一義的 とし、視覚 として問題の漢字が充 分認識 し定着で きてか ら、書 きに移行す る方法が最適で あるという考えに基づ く

3.ワープロによる作文指導の目的

長崎大学留学生指導 セ ンター (以下 セ ンター)での日 本語教育 は、対象 こそ研究生や大学院生であるが、京都 外大の留学生別科 と同 じような内容を要求 されている。

つまり自分の専門に関 してはかな りの能力を擁す る人で も学部留学生 と異な り、入学の条件に日本語能力試験 1 級 を要求 されていないので、日本語学習歴がほとんどゼ ロに近 く日本語があま り理解で きない人 もかな りいる

従 って ここでは、そのよ うないわゆる初級 日本語学習者 のためのワープロによる作文指導 に限定 し論を進めてい

くこととす る

作文指導の方法には色々な ものがあるが、セ ンターの 私 のクラスにおいては、毎回学生 に課題作文を課 し、そ れを必ず ワープ ロ打 ちさせ次の授業 に準備 させ るところ に学習の目的がある 従 って授業 には、お決 りのテキス トも参考書 もない。只在 るのは、ワープロ打 ちされた学 生各 自の作文である 以下 にワ‑プロ打 ちを必須 とす る 教育上 の目的、意義を示す。

目的1 視覚を最大限に生かす (課題作文をワープロ打 ちす ることにより、文字 と発音を視覚で確認 し定 着 を強化す る)

1‑例 3の場合、学習者 はワープ ロ打 ちす ることに より、少 な くともア ンタや‑ライ ン部分の間違 いを生 じな い確率が非常 に高 い。それは学習者 の発音が正 しいに も 拘 らず、漢字で書 くとい う過程で誤 りが生 じているか ら である 通常漢字変換 に関 しては (漢字が既習であれば なおさら)お目当ての漢字が発見で きない場合、Input

した文字 、つまり発音 に最大の原因があることを知 り、

自分の求 める漢字が見っけ られなければ、そ こに学習 の フィー ドバ ックが行われ、文字 (漢字 )と自分の発音お よびローマ字 (ローマ字入力を原則 としているか ら)に 敏感かつ最大の注意 を払 うようになる

目的2 誤文 自己分析 (自分の レベルに合 うように, 自 己修正)

人 は、得て して他人の欠点 は良 くわか るものである

従 って他人の文章には非常 に巧妙 に異論や批評を付 ける ものである しか し、所詮 は他人の文章。なかなかそれ らが身 に付かないもの らしい。又、 レベルの異なる文章 においては、全 く手の出 しようがない場合、或 は改悪 の 恐れ もおおいにある そ こで私のクラスで も、全員で皆 の文章 の誤 りを発見 し、意見や能力を出 し合い、ああで もない、 こうで もないと議論 し訂正 していくのであるが、

基本的には自己分析 による自己修正能力の養成を主 目的 としている そのためには、 クラスでは、次の要領で授

(3)

1(アメ リカ ・男性)

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業を進 めている

1)目的1で も述べたように、まず ワープロ打 ちす るこ とによ り発音が正 しいかどうかを探 り、未知の漢字 を ディスプ レイ上で調べ (あるいは同音異字語 より適語 選択 し)、文章全体をプ リントア ウ トして くることを 宿題 とす る

2)そのプ リントアウ トされた各 自の文章をクラスの始 めに回収 し、人数分 コピー し、作者である学習者 に読 ませ る

3)一人が読み終える毎 に、その内容 に関す る質問を他 の学習者にさせ る。

4)質問に答えなが ら、自然 と誤 りに気づ くようア ドバ イスを与える

5)大体全体 の討議が出尽 くした頃を見計 らい、いよい

よ訂正 に乗 り出す という手筈である。

この場合大切なのは、一度 に全てを訂正 しようとす るのではな く、段階を踏んで一つ一つ納得 させなが ら 進 めることである そのために も "は じめに" の項 に書 いたように1)表記上の指導、2)文法上の指導、

3)表現上の指導 と文章 を最低3度練 り直 し、考え させ る作業を定着 させ る

6)指導の全てが完了 したところで、作者 に もう一度改 良後の文章を読ませ、全員で再吟味 し一人の宿題文訂 正が完了す るのである

尚、宿題 には作文のタイ トルだけを提供す る場合 と、

課題文を読 ませその感想文を要求す る場合 とがある。た とえば、"母の日"、"梅雨"、"長崎の夜景"、"日本人"、

"新年の抱負"、"アフターファイブ '、"私の研究 "等 は タイ トルだけであるが、次のように読物 を指定 し、その

(4)

感想文や意見を求 める場合 も少な くない 。"蟻 とキ リギ リス"、"北風 と太陽"、"Noと言えない日本人"、"風立 ちぬ"、"走れメロス"など。

目的3 学習意欲の向上 (学習者 自身が読みやす く、興 味を覚える)

作文の最終 目的は、時枝誠記の言語過程説 に見 られ る よ うに、やはり伝達 にある とりわけ作文 は、"文字 に よる自己主張 "であ ると考 え る そのために は、文字 は正確で早 く書 けるにこしたことはない。時 として我 々 は、自分の文字す ら読めないことがある それは、略 し

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す ぎたり早 く書 きす ぎた りす る時に多い。例えば、中国 の留学生が漢字 の書取 りテス トにおいて欧米人よ り点数 がひ くい場合 もこの様 な原因によると考え られ る つま り、漢字 は知 っているのだが、丁寧 じゃないので読 めな いと判断 されて しまった り、注意を怠 ったので中国漢字 を書 いて しまうのである その点、ワープロを使用す る

とそのような ミスは無 くな り、全員が奇麗で読みやすい 文章を作成す ることがで きる

4をワープロ打 ちす ると例5のよ うに非常 に見やす く、読みやす くなる

4(タイ ・女性)

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蟻 とキ リギリスとい う物語 りは、世界中の人たちによく知 られている。

小学校 の時に、私は 「蟻のや り方をまね して、やって行 きなさい」 とよく先 生か ら教わった。その時、私は 「もちろんキリギ リスは悪い例 だか ら、キ リ ギ リスのようにするわけない じゃない」 とひとりごとを言 った。 しか し、今 の私は 「アリのようにするのはむずか しくて しょうがないとい うことを梧 った。私の性格で、何か しようとする時から、実際にす る時 までかな り時間 がかかる。 もちろん、準備 として何か しようと.する時 にア リのや り方の よう にや りたい という気持ちである。だが、 とちゅうで 「少 し休 んだ り進 んだ り して もいい じゃない。まだ時間があるか らと思って しまった ことは少 な く ない。そ うすると、いつの間にか締め切 りの日が近付いて来て、困ることに なる。 この悪い性格 をなお したい気持ちがあったが、いつ もの ように とち ゅ うでやめて しまった。それはやは りキリギ リスのや り方だ。

5

(5)

文章 の読 み書 きに抵抗がある人 も、 これな ら読んでみよ うかな、少 な くとも見やす くて感 じはいいと感 じるであ ろう まず、対象 となる文章 自体が他人 に読 ませ る、あ るいは自分で読み取れ る文章 でなければな らない。

4.得 られる効果

ワープ ロを利用す ることによ り得 られ る効果 は思 いの ほか多 い。a)発音 と文字 の違 いの確認 、b)同音異字語 のマスター、C)文字 の上手、下手 を カバ ー、 と言 った 一般的な項 目か ら、d)ゲーム感覚 による興味づけ、e)

ビジュアルイメー ジによる定着 と平易 さ、f)誤字 、脱 字 の訂正 を容易 にす る、g)個人の能力差 のカバー、 h) プ ログラム学習を容易 にす る、i)当用漢字 を はるか に 凌 ぐJIS漢字 の学習 (1)、 j)フロッピーに学習 の全 てを保存で きる等、 ワープ ロな らではの効果がある.

尚、 この ことについては、拙稿 「ワープ ロを利用 し た新 しい漢字教育」注2)、及 び 「漢字教育 ‑ の新 しい 感触」注3)を参照 されたい。〕

当初 、欧米系の学習者の便宜の為にとも考え られたワー プ ロ利用であ るが、現在で は欧米人 よ り漢字圏の学習者 に受 けている。その理 由は簡単で、彼 らこそ漢字 の本当 の難 しさを知 っているゆえにワープロの偉大 さと効果が 理解で きるのである。つま り、日本漢字 とは異 なる漢字 を有す る漢字圏の留学生 に こそワープロは必要かつ有意 義 な武器だ ったのか もしれない。

5.今後の課題

1)反省か ら学ぶ こと

私が、京都外大在職中にこんなことがあった。私のワー プ ロによる漢字教育 について次 のような指摘があ った。

1)機械 の扱 いの上手 、下手で評価 されて しまう 2)ワー プ ロを使用す るなんて書 き方ではない、というものであっ た。両者 とも、教育論 あるいは本質論 として正 しい。 し か し、か といって旧態依然 の物 の考え方 、指導方法で完 全 といえ るであろ うか。第2外国語 としての日本語教育 の歴史 はまだ浅 く、理論、教授法 とも英語教育の後をおっ かけているのが現状である。例えば、私が担当 している

"作文 " もセ ンターで は作文 と呼んでいる ものの、他大 学 では "漢字 "あるいは "書 き方 " と呼 んで い る 字 、書 き方 、作文 の違 いこそ、本質的な違 いであ り、目

的や到達度 も異 な らなければな らない。さ らに付 け加 え るな らば、初級 において は、その区別 よ りも読 み方、会 話 と呼ばれるもの も区別 し難 いのが現状であ る。従 って 我 々は、いや我 々 こそ固定概念 を打破 し対留学生、異文 化 とい うものを意識 し国際教育 とい うスタンスで文明の 力 を利用 し、多様化す る学習者のニーズに答え るべ きで ある そ して、 もし仮 にワープロを用 いた作文が、機械 遊 びに終わ って もワープ ロ検定 に合格で きるとすれば、

それ も善 とす るべ きである。現 に私 のクラスの学生 たち は、授業 をは じめて未だ3ケ月だが既 にワープ ロ検定3 級 はどの実力 を持っ者 も現れている。

2)よ り充実 した指導へ

欲をいえば切 りがないが、「漢字 か ら書 き方 へ」、 「書 き方か ら作文‑」 と移行す るに従 い、高度な ことを要求 した くなるものである。つま り日本語 (言語 ) と して不 自然 な ものの訂正か ら、言語 として は正 しいがその使 い 方 に問題 のあるものの訂正 、そ して言語 も使 い方 も正 し いが もっと高度 な表現の習得へ とい う欲求であ る。その 1の課題 は、1日も早 くワープロを脱皮 レ ヾソコン上 で作文指導 を進 めることであると考え る。ネ ッ トワーク による日本語 での作文会話 の実現。音声機能 を利用 した 入力文字 の確認、又 は発音矯正 プログラムの導入。‑イ パーテキス トを利用 した作文構築法の確立。他 の周辺機 器を利用 した総合学習 システム (マルチメディア)の開 発 (例えば、キ ャプ ションやカラオケ、 ビデオ、テ レビ 等 との連動 による、よ り臨場感 と感動 のある授業 )の展 開 によ り、作文 を作文本来 の目的である意志疎通 の道具 として、また各個人の人間性 や個性 の表現 として発展 さ せたい ものである だか ら今、 ワープ ロ コ ミュニケー

ションが必要 なのである。

〔注 〕

(1)JIS1水準漢字2965字 (常用漢字1945字 +その 他 の漢字)+第2水準漢字3388字 の合計6353字 をい

う。

(2)京都外国語大学 コス ミカ27号 (昭和633月)

(3)LLA関西支部研究集録 3 (1990年)

参考文献 〕

(1) 伊藤鉄也 『パ ソコン奮戦記』桜楓社 昭和61

(6)

(2)小川芳男他 『日本語教育事典』大修館 1987 (3) 大 『日本語教育‑ ン ドブック』大修館 1990 (4)平沢洋一 『日本語CAIの研究』桜楓社 1992 (5)増田 正 『ワープ ロ漢字辞典』日本経済新聞社 1990

(6)安田幸弘 『ワープ ロ.パ ソコンで書 く技術』 日本実 業 出版社 1991

(外国人留学生指導 セ ンター非常勤講師 ・長崎大学教養 部助教授 )

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