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「平成不況」後の日本経済

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(1)

一長期的視点から見た 現状と位置

有 泉   哲

はじめに

I l970年代半ば以降の日本経済の発展過程 H l985年の円高転換の提起した課題と今回の不況 皿 機械産業に見る今回の不況の意味

IV 日本経済「空洞化」の懸念について

@      、 はじめに

1991年春に始まった今回の長期不況も,1994年に入って漸く回復過程を辿り つつある。今回の不況は,その長さをとっても深さをとっても戦後最大規模の ものであった。とりわけ,民問企業設備投資が2年間にわたって大幅なマイナ ス成長を示すという経験は,第1次石油危機後の不況以来のことである。

今回の不況が長期かつ深刻なものとなったことの背景には,直接には,次の 3つの要因のあったことを指摘することができる。

第1は, バブル の崩壊と資産デフレーションである。1980年代後半の日 本経済は,日銀の超金融緩和政策を重要な要因として激しい資産インフレーショ ンを経験し, バブル と呼びうるような様相を呈するに至るのであるが,日 銀の金融引き締めへの転換を契機に バブル は崩壊し,資産デフレーション を伴う不況局面へと移行することとなった。このような資産デフレーションは,

逆資産効果を通じて消費支出を抑制するとともに,企業のリスク許容力を引き 下げ,資金調達コストの上昇と相侯って投資を抑制することとなった。更に,

(2)

資産デフレーションは, バブル 期に資産と負債を両建てで積み上げてきた 企業部門に対し,資産価格の低落とその不良資産化を通じてバランスシートの 悪化をもたらしている。これは特に不動産業及び金融機関に顕著であり,そこ から生ずるバランスシート調整が不況の長期化をもたらした1つの要因となっ

ている、、

第2に,今回の不況の長期化,深刻化を直接に規定しているものは企業部門 の設備ストック調整である。一般に設備投資循環の不況局面は通常の短期循環 の不況局面に比べて長期化,深刻化することが知られているが,今回の場合は 特にその調整過程を深刻なものとする要因が作用している。1980年代後半期の 内需の急拡大は,今目ではそれが長期的に持続可能なものではなかったことが 明らかとなっているが,当時,それは企業の期待成長率を上方にシフトさせ,

強気期待の下で資本ストックの大幅な積上りをもたらした。育はば, バブル 的な需要の拡大に対応した過大な資本ストックが形成された訳である。この過 程は,エクイティ・ファイナンス等を通じた当時の資金調達コストの低下によっ て更に促進され,また,円高に直面した企業の内需転換努力の表面上の成功に よって増幅されることとなった。そして, バブル の崩壊とともに過大な期 待成長率の下方修jEの生じていることが,今回のストック調整過程をより深刻

なものとしている要因である。

第3に,1993年春以来の円高である。図1は、{f川(1992)第6章に基づいて

図1 均衡為替レートの推移

(円ハル)

100 均衡為日レート

(貿易則の購買力 r価1こ基づくIIJドルレート)

150

200

現実の為替レート 350

73  74  75  76  77  78  79  80  81 82  83  84  85  86  87  88  89  90  91 92  93 (自二〉

(備考) 経済企画庁「国民経済計算」,大蔵省「貿易統嗣,H本銀行「卸売物価指数」,

米国商務省「A皿ual Survey of Manufactures」により作成。

(出所) 平成6年版経済白書。

(3)

平成6年版経済白書の試算した貿易財の購買力平価であるが,そこでは,日本 の平均的な輸出産業の競争力を上同る水準への円高が生じている。このことが,

すでに大幅な悪化を示していた企業収益を層圧迫すると同時に,国内生産の 海外生産への代替,製品輸入の拡大を通じて,不況の…層の長期化,深刻化に

つながっている。

ところで,今回の不況は,それに先立つ バブル 的なブームと言い,不況 の深刻さと言い,それ自体として十分な検討を要する出来事であるが,更に,

今後の日本経済の発展のあり方に対して,いくつかの重要な問題を提起するも のとなっている。そこで,今回の不況のそれ自体としての性格と要因の検討に ついては本稿と対をなす拙稿】の参照を請うこととして,ここでは,より長期 的な視点から,今回の不況の持つ意味とその提起する問題について検討してみ

たい。

1 1970年代半ば以降の日本経済の発展過程

戦後の日本経済の大きな転機は,第1次石油ショック後の1974−75年世界同 時不況であった。この不況をもって高度成長は終焉し,日本経済は成長率の大 幅な下方屈折を経験する。それ以降,ヨーロッパは大量失業の時代を迎え,ア メリカ経済は生産性停滞の20年を経験する。これに対して,日本経済は,生産 性や経済成長率で見ても,あるいは失業率で見ても.比較的良好なマクロ・パ

フォーマンスを示して80年代を終えることとなった。

このような日本経済の「安定成長」を支えた要因は,基本的に次の2点であ る。すなわち,1つは,70年代後半以降,現実経済に大きな影響を及ぼし始め たマイクロ・エレクトロニクス(ME)を中心とする技術革新であり,もう1 つは,輸入の伸びが停滞する中での輸出の堅調な成長である。

一般に技術革新が経済成長を起動する過程において最も重要なものは,核と なる新技術の持つ潜在力である。ここで「潜在力」とは技術領域内部における それであるばかりでなく,経済的影響力という点での潜在力である。そして,

その経済的影響力は生産i生一ヒ昇として供給サイドに作用するばかりでなく,新 たな需要の創出を通じて需要サイドからも経済成長を主導するものである121。

後の議論のために上の点を確認した上で,日本においてME技術革新の急速な 普及の生じた背景にある要因を指摘しておくと,1つには,技術革新の核にあ るMEが広範な応用領域をもつ要素技術3であることが,その比較優位が開発・

(4)

応用段階にあるという日本の技術開発の特性に適合的であったことを挙げるこ とができる。2つに,ME機器の生産工程への導人という点では,日本型生産 システムの持つ相対的なフレキシビリティが,ME化が・∫能とする効率的な

「多品種少量生産1に適合的であった点がある。これは,国際的に見れば フォー ド主義的 大量生産がその行詰りに直面した中で,日本企業が逸早く効率的な

「多品種少量生産」方式( フレキシブル・マニュファクチュアリング・シス テム )を確立したことを意味している。そして,70年代後半の 減量経営 がME技術革新と一体となって,日本の機械産業4の国際競争力を強化するこ

ととなった。

ところで,このような技術革新の経済成長への寄与を数量的に確定すること は著しく困難である。もちろん,新古典派マクロ生産関数の存在を前提として 全要素生産性(TFP)を推計するという作業は広く行われている。しかし, T FPは残差であるという点は別としても,この枠組みでは,技術革新が新たな 事業フロンティアを切り拓き,投資機会を拡大することの効果は,それとは切

り離されて,資本ストック増の寄与として扱われることとなってしまう。

このように,技        表1 製造業部門別生産、雇用及び生産性変化率 術革新が経済成長       (1973〜90年)

を主導する効果を (年率:%)

直接に数値をもっ 付加価値ノ屠 ャ 長

就業者叙

ャ長 生産性P一昇率

付加価値増 ヨの寄 あ率

て示すことは困難 製造業(計) 50 0ユ 49 1〔}0.0 であるが,しかし, 一一 食  糧  品 1.6 0.8 0.8 3.9 繊     維 一〇.6 一21 1.5 一〇,3

70年代後半以降の

パルプ ・紙 37 0.0 3.7 2.1 日本経済の「安定 化      f: 8.9 一1.1 10.0 12.3 n 成長」に対して, 石油・石炭製品 一6.o 一2.5 一3.5 一27

窯業・土石製品 1.4 一1.7 3」 /.3

ME技術革新51が … 次 金 属 2.3 一α4 2.7 4.2

中心的な役割を果 金 属 製 品 2.8 一〇.7 3.5 33 一般 機 械 8.2 0.4 7.8 16.7 たしたことは間違 電 気 機 械 14.9 2.4 12.5 34.5

いない。表1は, 輸 送 機 械 5.4 0.2 5.2 ll.6 1973年から90年に 精 密 機 械 7.4 一〇.3 7.7 2.0

そ  の  他 3.6 0.2 3.4 11.1

かけての製造業各 (注1)ユ985年価格による実質値である。

業種の付加価値生  〔注2性産上昇率は,付加髄生産成長率畿業者数成長率として求めた・      〔注3)付加価値増への寄与率は,1973〜90年の間の付加価値生産増に占めるシェアである,

産成長率,就業者  僻D経済企画庁個民緬鰍集

(5)

数成長率,生産性上昇率等を見たものである。製造業全体として,高度成長期 の2分の1を下回る成長率となっている中で,ME技術革新の中心にある機械 産業(とりわけ電気機械及び一般機械)が,際立って高い成長率と生産性上昇 率を示していることが確認できる%そして,表の第4列に示されるように,こ の間の製造業付加価値生産成長の半ば以上の部分が電気機械と一般機械とによ るものである。更に,機械産業全体で見ればその寄与は3分の2に達する。

これらの数値は,ME技術革新を核として,機械産業が1970年代半ば以降の 日本経済の成長主導産業の役割を果たしてきたことを明瞭に示している。

次に,外需の寄与という点については,図2がこれを集約的に示している。

図2 輸出,輸入の変化とその経済成長への寄与(実質)

(%)

30 輸出(寄与率)

25        

@      

@       

g      、       

20

      一       、

15

      、       

@      、              、

@      、       

@       、       

@       、             、

10

(%)

               、

A出 轍      \/\(増加率)(増加率)        輸入(寄与率)

5

20 0

15 10

昭和35〜40 40〜45  45〜50  50〜55  55〜60 60〜平成5年

(注) 1)輸入の経済成長への寄与率はマイナスの寄与を符号を変えて表したもの。

2)増加率は左目盛,寄与率は右日盛り。

3)平成5年の数値は速報値である。

4)増加率は年率である。

(資料)経済企画庁「国民経済計算」

(出所)平成6年版労働白書。

(6)

第1次石油危機以降世界経済の成長率が大幅に低下したことを反映して日本の 輸出成長率も低下しているが,しかし,世界GDP成長率の2倍を越える率で

の日本の輸出成長という関係は,1980年代半ばまで継続している,,そして,日 本のGDP成長率が低トしている分,成長に対する輸出の寄与率はL昇するこ

ととなっている。これに対して輸入の側は,省資源・省エネルギーの進展もあっ て,経済成長に対するマイナスの寄与率を縮小している。そして,図の実線と 破線との乖離幅が外需の寄 」一率を示すこととなるが,見られる通り,70年代以 降その大幅な拡大を示している、,なお,1980年代前半には,経済成長の4分の

1は外需によるというところまで外需寄与率がヒ昇しているが(この期のGD P成長率を毎年1%高めるというかなりの大きさである),これが レーガノミ

クス によるドル高を反映したものであることは言うまでもなし㌔

ところで,上の「外需」はSNA統計一ヒの「財貨・サービスの純輸出」を示 すものであるが,このような対外収支の大きさは,マクロ諸変数の相互依存関 係の結果として決まってくるものである。したがって,財貨・サービス収支の 黒字の拡大(「外需」の拡大)が,必ずしもそれ自体として外需主導型経済成 長を意味するものではないという点への注意が必要である。この点は,累嶺債 務途上国のケースを考えてみれば明らかであろう。80年代初頭の債務危機に直 面して,メキシコ,ブラジルは80年代を通じて大幅な貿易黒字を作り出すこと によって,その利払いに当てることを余儀なくされた,,その際,その貿易黒字 を作り出したものは強力な内需圧縮である。ここでの黒字拡大は外需主導型経 済成長とは全く無縁である、,

しかし,ヒに述べた期間の日本経済については,明らかに,外需主導型経済 成長の性格を強く示してい胤,この点を明示するものは,平成5年版経済自書 から引用した表2である。同表の①は,表中のマクロ諸変数についてグレンジャー の因果性をテストしたものであり,②はVARによる分散分解結果を示したも のである。①に見られるように,高度成長期には有意となっていない輸出→

GDPの因果性が,70年代半ば以降の期間について有意に確認されている。ま た,②は,高度成長期には独立性の高かった民間設備投資が,70年代半ば以降 には輸出の影響を大きく受けるようになっていることを示している。これらの 結果は,輸出がこの間の日本経済の成長を主導したことを明確に示すものとなっ ている。

(7)

表2 各需要項目間の波及関係

① 各需要項目とGDPの因果関係

(1〕高度成長期(1957年第1期〜1973年第IVr期)

需要項目間の波及関係 F値 m1蹴罐}

民間設備投資    → GDP 2.28 **

GDP       → 民問設備投資 0.88

民間最終消費支出  → GDP 1.39 GDP       → 民間最終消費支出 1.44

民間設備投資    → 民間最終消費支出 2.40 **

民間最終消費支出  → 民間設備投資 /.51

財貨・サービスの輸出一+ GDP 1.52 GDP       → 財貨・サービスの輸出 0.89

(2)安定成長期(1974年第1期〜1992年第IV期)

需要項目間の波及関係 F値 m1蹴罐〕

民間設備投資    → GDP 1.83 *

GDP       レ 民間設備投資 3.11 **

民間最終消費支出  → GDP 0.99 GDP       → 民間最終消費支出 1.49

民間設備投資    → 民問最終消費支出 1.58 民間最終消費支出  → 民間設備投資 i.ll

財貨・サービスの輸出→ GDP 4.01 **

GDP      → 財貨・サービスの輸出 1.90 *

(8)

②GDP,設備投資,輸出間の波及関係(VARによる分散分解)

〔1)高度成長期(1956年第皿期〜ユ973年第IV期)

S.E. 民間設備投資 輸  出 G D P

民間設備投資 0,Ol4 87.3 12.4 0.4

輸    出 0,039 63.1 34.4 2.5

G  D  P 0,037 56.5 3.3 40.2

(2)安定成長期(1974年第王期〜1992年第IV期)

S.E. 民間設備投資 輸  出 GD P

民間設備投資 0,007 38.5 40.0 2L3

@  『一 輸    出 0,Ol5 16.0 57.2 26.8

G  D  P 0,026 8.3 8.7 83.1

(備考) 経済企画庁「国民経済計算年報」により作成。分散分解は20期先の結果を示す。

(出所〉 平成5年版経済白書

さて,以上のように輸出成長(外需の寄与)が70年代半ば以降の日本経済の

「安定成長」を支えたもう1つの要因となっている訳だが,この点と,先に述 べたME技術革新主導の成長という点とは,当然のこととして無関係で はない。そこには,一方で,ME技術革新(日本型フレキシブル・マニュファ

(9)

クチャアリング・システム)によって獲得した輸出競争力が外需主導の経済成 長を起動したとすれば,他方で,とりわけ80年代前半のドル高が,日本の機械 産業に対して拡大する輸出市場を提供することによって,(ME技術革新の中 心にある)これらの諸産業が日本経済の成長主導産業の役割を果たすことを可 能とした,という関係がある。この点で注意を要することは,輸出競争力の強 化は長期的には円高要因であって円高がこれを相殺する方向に作用する,とい う点である。これに対して,図1に示される80年代前半の実質円安の継続は,

「長期均衡」とは逆方向の大幅な為替レート・ミスアラインメントの生じたこ とを意味している。そして,このことが,高い輸出成長を導き,日本の機械産 業が日本経済の「安定成長」を主導することを需要サイドから可能としたとい

う関係にある。

なお,機械産業の成長に対する輸出の寄与という点で若干の数値を挙げてお くと,その国内生産に占める輸出依存度は,産業連関表ベースで見て,1975年 の21.0%から85年には28.4%まで上昇している。これを,この10年間の生産増 加額に占める寄与率で見ると33.5%となる。つまり,この間の生産増の3分の

1は輸出増によるということになる。更に,平成6年版労働白書は機械産業の 最終需要項目別生産誘発額を表示しているが,これを用いて計算すると,同期 問の生産増加額の4α8%は直接,間接に輸出増の誘発したものという数値とな

る。

以上,1970年代半ば以降,経済成長トレンドの大幅な低下を経験した中でも 日本経済が比較的良好なマクロ・パフォーマンスを示しえたことの背景には,

1つにME技術革新による機械産業の高成長,2つに輸出の堅調な成長(外需 の寄与)のあったこと,そして,両者は不可分に結びついており,この間の成 長主導産業が日本経済の「安定成長」を主導しえたのも,国内市場のみでなく 輸出市場の拡大があったからだ,という点を確認しておきたい。

ところで,この間の日本経済については,もう1点指摘しておかなければな らない点がある。この期の日本の労働市場は,欧米諸国と比べてかなり良好な 実績を示したとはいえ,第1次石油危機後の不況期から1987年にかけて失業率 の持続的上昇を記録している。また,同期間の有効求人倍率は1を大幅に下回っ て推移している。図3は失業率と欠員率との間にUV曲線(ベヴァリッジ曲線)

を描いたものである。高度成長期には(65年不況期を除いて)45度線の右側に あって,労働市場は大幅な労働力不足を示していたものが,75年以降は,

(10)

図3 U−V曲線

(%)

4.0 87年2期一→F勢

  3.5

@ 3.0

ル用失  2.5業

     ㌔鍵.ゆ      1%

^ 、  麟撫撫,

サ1:蜜轟誘

◇・・、      90{卜3即1

2.0 心㌔

1.5 67年1期

67年1期〜77年4期での推計

1.0

1.O       l.5       2.0       2.5       3.0       3.5       4.O (%)

未充足求人率

(備考) 1.総務庁「労働力調査」,労働省「職業安定業務統。Uにより内国調査第一

・灘棄率一雇用慧鷺失糊・1…%)

         未充足求人数      Xloo(%)未充足求人率一

@      雇用者数+未充足求人数

(未充足求人数=1翌月への繰越求人+(当月の有効求人一当月の就職件 数M÷2〔人))

(出所) 平成5年版経済白書。

ブル ・ブーム期に一時的に右側へ移行するまでの問,常に45度の左側にあっ て労働需要不足を示している。

もちろん,職安業務統計のカバリッジを考えれば,45度線の右左をもって単

(11)

純に供給不足,需要不足を言うことには少々問題がある181。しかし,−L記の期 問について図3に示される動きは,ほぼ垂直方向の動きであり,おおよそ同一 の欠員率の下での失業率の上昇である。明らかに労働需要不足にあった 減量 経営 期以降そのような動きの生じているということは,(推計線のシフトに 示される)ミスマッチ失業の上昇を勘案してもなお,労働需要不足局面にある

ことを意味している。

70年代後半以降,日本経済はME技術革新と輸出に主導された「安定成長」

を示すのであるが,その下でも,必ずしも完全雇用を実現していた訳ではない という点は,確認しておかなければならない。

H 1985年の円高転換の提起した課題と今回の不況

さて,以上が1985年のドル急落・円高転換に先立つ日本経済の状況である。

そして,以上の流れからすれば,1985年もまた日本経済にとって1つの転機で あった。それは一言で言えば,対外経済摩擦の深刻化とも相侯って,外需主導 型経済成長がその限界に直面した年であった。

このことは,日本経済に次のような課題を提起していた。すなわち,1970年 代後半以降の日本経済の「安定成長」も輸出市場の拡大に依拠する部分が大き かったのであり,とりわけ80年代前半の為替レート・ミスアラインメントの下 で,その傾向は顕著なものとなっていた。したがって,今後とも順調な経済成 長を遂げようとするならば,それに相応する需要成長の源泉を国内に創出しな ければならない,という課題である。また,これをより静学的な視点から見れ ば,80年代前半の大幅な実質円安の下で日本経済は外需依存の体質を強めた訳 だが,このことは,日本経済の供給サイドに「適正な」為替レートの下では国 内に基盤を持たない生産能力(その意味では「過剰能力」)が形成されたこと を意味している。85年以降の円高転換の迫った課題は,この「過剰能力」を整 理・縮小するとともに,そこから遊離される生産要素(とりわけ労働力)に対

して,その十分な雇用を確保するに足るだけの内需基盤を形成することであっ

た。

そして,1980年代後半はこの課題を見事に成し遂げつつあるように見えた時 代であった。外需がマイナスの寄与へと転換する中で,1987年から90年の4年 問の経済成長に占める内需の寄与度は年率で5%を越え,そのほぼ半ばずつを 個人消費と企業設備投資の成長が説明するという内需主導の経済成長が,この

(12)

期を際立たせている19}。

それを可能とした要因として最も重要なものは,日銀の超金融緩和政策を背 景とする バブル を伴う資産インフレーションである。これは,資産効果を 通じて高額品をはじめとする消費ブームを惹き起こすと同時に,企業のリスク 許容力を高め,また資金調達コストを引き下げることによって投資を促進する こととなった。第2は,かなりの額となった円高差益である。これの消費者へ の還元が十分に進んだかどうかは別問題としても,家計・企業両部門の実質購 買力の増大をもたらしている。第3に,輸出主導の限界を強く意識した企業に よる内需転換努力である。企業は新商品開発(製品の多様化・高機能化・高額 化),新規事業分野進出,販売部門の拡張に取組み,それに対応する活発な投 資を行うこととなる。今日から見れば,この期の取組が企業の高コスト体質化 を推し進め,新規事業分野進出の失敗と相倹って,今回の不況において企業収 益を著しく圧迫することとなるのだが,当時は,上の要因による バブル ・ ブームの中で,ことごとく成功を治めたように見えていた。

そして,これらの要因による過大な内需の成長が企業の期待成長率を高め,

加速度原理を通じて資本ストックを積み上げたことはすでに指摘したところで ある。また,消費についても,上の過程による雇用者所得の増大が消費の一層 の増大をもたらし,投資と並んでブームの主導因の役割を果たすこととなった。

このように見てきたとき,今回の不況のもつ意味は,まず第1に,80年代後 半の内需主導の成長も一時的な要因によってもたらされたものという性格が強

く,85年の円高転換によって提起された課題に的確に対応する構造転換を成し 遂げたことによるものではない,という点を明らかにした点にある1〔抑。

これを貯蓄・投資バランスを示す図4に即して言えば,80年代後半の企業部 門投資超過の拡大(国内貯蓄超過の縮小)も,長期的な投資機会の拡張によっ てもたらされたものではなく,長期的に持続可能ではないという意味で パブ ル ・ブームの下で生じた現象であって, バブル の崩壊とともに消失すべき ものであったということである。また,これを日本経済の供給サイドから見れ ば,先に述べた「過剰能力」の整理・縮小は,確かにその一部は急増する海外 直接投資という形態をとって進行したとはいえ,基本的には, バブル ・ブー ムによる内需転換の表面的な成功によって温存され,拡大されたこととなる。

その意味では,今回の不況によって進行した資本ストック調整は, バブル ブームによって積み上がった生産能力の調整であると同時に,85年以降の円高

(13)

図4 経常収支と部門別貯蓄投資差(GDP比)

(%)

15

家計

11.2%

7.3%

w里  5 経常収支 4.2%@ 1.2%32%31%

一一 f    、

    

^・、 /・一_    一、         

    、      一、

0 、〆      、       ノ

投資▲5

!       ノ

@       、        1     1.8%      ・▲2.6%   /

@      纐府人虻〉イブ▽\      ノ、! 、  !      、      .▲5,4%

、      /・・臥      !▲5.5%!       \    /

▲10

冒\  /一一 /     ▽∀圏/  遇へ法人企業 ▲鵬

、       \

諱@      、

↓▲15 ▲13.8%

55      6⑪      65      70      75      80      85      90 93(年)

(資料) 経済企画庁「国民経済計算年報」

(出所) 平成6年版通商自書。

転換によって整理・縮小を迫られた「過剰能力」の遅延された調整という性格 をも持つものである。

このように,85年以降の円高転換によって提起された課題から見れば,現状 は言わば 振出し に戻った形であり,長期的に持続可能な内需主導型経済構 造への転換の課題は,これから成し遂げるべき課題として存在しているのであ

る圓。

皿 機械産業に見る今回の不況の意味

さて,前節では,85年以降の円高転換によって提起された課題から見れば,

現状は言はば 振出し に戻った形であると指摘した。しかし,単純に85年時 点の状況へ戻った訳ではない。この間の円高は日本経済を取巻く国際的な比較 優位構造を確実に変えつつある。だが,この点の検討に入る前に,70年代後半

(14)

以降の日本経済の成長を主導してきた機械産業に立ち入って,今回の不況の意 味を考えてみる必要がある。

長期的な視点から見た場合,今回の不況の持つ第2の意味合いは,これが,

70年代後半以降の日本経済の 図5 製造業の業種別資本収益率

成長を}り尊してきた機械産業

%)〔資本収益率〕      (とりわけ電気機械及び輸出

60 へ/徽業種チ、型    搏という面では自蜘)が

40

5°一! 凵A磨 .\  ある種の 行詰り に直面し      たことを示している点にある。

30       塁.,,   、     今回の不況は,機械産業にとっ       噛、し素材型      ・...    て過去20年間で最も深刻な不

況となった,これを売h高経

0

1977 7879 8081 82 8384 85868788 89 9091 92 9:う

年      常利益率で見れば,第1次石 油危機後の不況期を下回るま

〔売隔営業利益率〕       (讐)  でに落ち込んでいる。そして,

   素材型

^瀬    r 一 7   このような不況の深刻化は,

U   単に循環的な要因ばかりでは

 1、「

チ1型  K,1》\    鰍辮/ノ

5   なく,そこにより長期構造的4   な問題のあることを示1唆する32   ものとなっている。この点を

1  確認するものが図5である。

(細〔有形固定資産回転率〕      そこに見られる顕著な特徴は,

9

    ・一ノ      ムにもかかわらず,機械産業   /     へ一・一機械業種     ・.          の資本収益率は80年代を通じ

素材型      て長期低落傾向にあることで

@       ある。なお,資本収益率は売 上高営業利益率と有形固定資

3

197778 79 8081 82 83 84 85 86878889 90 91 92 93

P      産回転率とに分解できるが,

図示されるように,両者とも

(資料)大蔵省「法人企画統言悸報」        に資本収益の傾向的低落に寄

(出所) 「第一勧銀総研研究報告」−941号。

与している。そして,このよ

(15)

うな収益率の低下傾向の延長線上に今回の不況の深刻さがあるということがで

きる。

先に確認したように,機械産業はME技術革新の中心にあって,70年代後 半以降の日本経済の成長を主導してきた産業である。それがこのように資本収 益率の長期低落傾向を示していることの背景には,次のような要因がある。

その第⊥は,高度成長の終焉以降においても,日本の産業技術は基本的に大 量生産技術に比較優位をもって展開してきており,そこでの強さは,既存技術 の改良と効率化における強さであった,ということである。これを日銀(1994)

は「中位ハイテク製品の大量生産技術」と呼んでいるが,例えば半導体につい て見れば,その優位はメモリー生産にある。これは,専用装置による大量生産 技術の優位である。あるいは,日本型生産システムの優位を示すものとしてし ばしば言及されたフレキシブル・マニュファクチャアリング・システムと,そ れによる「多品種小量生産」について言えば,それは,基本的に「どのように 作るか」の優位であって,「何を創るか」という点での優位ではない。そして,

「どのように作るか」という点を見れば,「多品種小量生産」とは,ME機器の 導入によって組合せの基礎となる部品の規格化・標準化を1オーダー細分化し たレベルで行い,そのことによって複雑化する組立工程を含む各工程間の相互 連関を,コンピュータの発達によってコントロール可能としたものである。こ れは,言ってみれば,ME機器の発達が「多品種小量生産」を大量生産の基盤 にのせることを可能としたものである。

このような製造技術の強さは,製品の多様化・差別化,品質改良と生産効率 の高さという点では優れたものではあるが,しかし,本質的な革新性を持ち,

それ故に収益性の高い技術という訳ではない腰。それは大量販売によって始め て利益を確保しうる技術である。

第2に,70年代後半以降のME技術革新は,日本経済の供給サイドにおい て生産方式を変革するような大きな影響を及ぼしてきているが,最終消費の領 域において人々の生活様式を改変するような大きな影響を及ぼしてはいない。

あるいは,かつての自動車や各種耐久消費財の登場が示したような大きな需要 喚起力を持つような画期的な新製品(あるいは新サービス)を創り出してはい ない。このことは,現在の技術革新の展開がしばしば「技術シーズ先行型」と 言われるように,技術の発展方向と人々の潜在ニーズとの間にミスマッチの生 じていることを示しているように思われる。そのようなミスマッチについて,

(16)

森谷(1992)は次のような指摘を行っている。

…言で,「えば,戦後の前半期は,戦中に停滞していた在来技術も含めてさまざまな 分野の技術が大いに進んだのだが,後半期においては,画期的と言えるほど進んだの は,ほぼエレクトロニクスのみであった。その後半,つまりこの20年間の技術進展を,

私は破行と偏向という2つの言葉で表現する。蹟行とは,エレクトロニクスばかりが 進み,輸送,エネルギー,都市,材料などの諸分野が取り残されたことだ。偏向は大

きく進んだエレクトロニクスが,FA, OAなどの産業内の機器,システムや家庭,

個人の量産製品にばかり集中したことである。その集中が,飽和現象につながったと 見てよいだろうq脚。

なお,ここで言われている「破行」と「偏向」とは,狭く技術の領域ばかり に存在するものではなく,むしろ,現在の社会・経済システムのうちに存在す るアンバランスの反映と考えるべきものであろう。現在のシステムの下では,

経済活動の重点は人々の潜在ニーズの高い社会的共同消費には向かわず,その ようなシステムに規定された技術発展の方向も,森谷の言う「社会の豊かさ」

を焦点としては進んでいない,ということになる。

いずれにしろ,現在の技術革新が最終消費の領域で人々の潜在ニーズと結び つくことによって,大きなかつ長期的な需要成長の源泉を切り拓くに至ってい ないという点が,この間の経験の基礎にあるもう一つの事情である。

そして第3に,上のような条件の下で,企業は,一方では「多品種小量生産」

による製品の多様化・差別化によって,他方では既存の諸商品にME(や新素 材)を組込むことによる多機能化・高機瀧化によって,全体として見れば既に 成熟化した市場において新たな需要を創出しようと努めてきたことになる閥。

そして,80年代の前半について言えば,このような国内市場の成熟化にかかわ らず,拡大する輸出市場が,大量生産技術の要求する大量販売を保証すること によって,日本の機械産業に対して利益の確保を可能としていた。

これに対して,80年代後半,輸出成長の限界に直面した企業は,上記の「多 品種小量化」,「高付加価値化」をより一層押し進めることによって,輸出に代 わる新たな需要を,何とか国内に創出しようと努めることとなる。それが ブル ・ブームの中で表面上は非常にうまく行っていたこと,しかし,それに もかかわらず,本業の収益という点では趨勢的低落を示したことは,すでに指

(17)

摘した。この間の事情を電気機械と自動車について極く簡単に触れておくと,

前者については,製品の「高付加価値化」・新商品開発へ向けた試験研究費の 増大が,収益を圧迫する要因となっている。試験研究費の増大は,新たな需要 を切り拓く本来の高付加価値製品の開発に結びついていれば,それ自体として 問題となるものではない。しかし,現実には,この間,交易条件(製品価格/

投入原材料等価格)の悪化が生じており,そのような高収益性の新製品が開発 されている訳ではない。しばしば オーバー・テクノロジー と言われたよう な「高付加価値化」が,収益を圧迫することとなっている。また,後者につい ては,「多品種小量生産化」の一層の追求による高コスト体質化が顕著となっ ている。この間に,乗用車モデル数はかなりの増大を示し,それに伴ってモデ ル当たり生産台数は減少を示すこととなるが,このような動きが部品単価及び 部品点数の上昇をもたらし,収益を圧迫することとなっている。

内橋(1992)は,これを「量産効果追求コストが量産効果を上回る」と表現 しているが,大量生産技術の要求する大量販売を実現すべく,「多品種小量生 産」,「高付加価値化」を追求すれば,その同じ過程が高コスト体質化を押し進 め,企業収益を圧迫することとなるという矛盾である。そして,その限界を示

したのが, バブル 崩壊後の今回の不況である。

1970年代後半以降の日本経済の「安定成長」を主導した機械産業は,上の第 1,第2に指摘した技術特性の下で,80年代前半には輸出市場の拡大によって,

後半には バブル ・ブームによって,高成長を継続してきた。現在,この両 者がともに消失して,どのように国内成長を確保していくのか,「先の見えな い状況」となっている。

なお,上に述べた日本の産業技術の特性について,通産省の中期産業経済展 望研究会(1993)が的確な指摘を行っているので,それを引用しておきたい。

これまでの我が国の研究開発は,先進国によって開発された技術などの改良や応用,

既に市場にある製品やサービスの供給の方法についての研究開発など,研究開発のシー ズも開発の目標も既に存在し,対象とすべきモデルが比較的はっきりしているものが 中心であり,先進国の産業の導入,生産技術の高度化による効率の向上を図ることに 比重が置かれてきた。………

しかし,こうした研究開発は技術的なハードルが比較的低く,激しい国際競争の中 で短期的な開発成果が要請される。この結果,製品の表面的な差別化が繰り返される

(18)

ことにより,ライフサイクルの短期化がもたらされ,一・部ではオーバーテクノロジー という問題が招来されるなど社会や個人が真に求めているモノを創り出すことから隔 たりが見られている。このため,これまで重視されてきた研究開発の方向を単に延長

しただけでは先が見えないという不透明感が生み出されることとなった。

……アのため,我が国産業自身が,「いかにして作るか」に加え「何を創るか1の 観点から,我が国市場や世界の市場ニーズにあった新たな製品,産業群を創造すると ともに,技術の面においても世界のフロンティアを切り拓くような創造的な研究開発 を行っていかなければならなくなってきている㌦。

IV 日本経済「空洞化」の懸念について

以上のように国内的には仲々「先の見えない」状況の中で,日本経済を取巻 く国際的な比較優位構造は確実に変化しつつある。この点では,特に近年の東 アジアの高成長(キャッチ・アップ)が大きな構造変化を予兆するものとなっ

ている。

しかし,その点の検討に入る前に,輸出入関数に現れた日本の輸出入の構造 変化を見ておこう、,表3は,平成5年版経済白書による推定結果である。これ によると,1985年の円高転換以降,各弾性値とも大きな変化を示しているが,

特に所得弾性値に着目した場合,輸出の所得弾性値の低下と輸入の所得弾性値 の上昇が顕著である。このことは,口本経済が「輸出が増えにくく,輸入が増 えやすい」体質へと変化しつつあることを示している。そのことの含意は後に

表3 輸出入の所得・価格弾性値の変化

輸出数量 実質輸出 輸人数量

所得弾性値 価格弾性値 所得弾1生値 価格弾性値 所得弾性値 価格弾性値 1965年〜 L52 一〇.69 1.61 一〇.59 1.14 一L80

73年 (48.69) (−2.55) (49.16) (−4.07) (16.17) (−4,09)

1974年〜 1.15 一1.12 L43 一 1.33 0.78 一〇.39 85年 (5.70) (−5.67) (12.02) (−11.19) (10.29) (−5.35)

1985年〜 0.51 一〇.30 0.81 一〇.62 L48 一〇.21 92年 (2229) (−6.48) (17.12) (−6.4L) (13.16) (−2.96)

(備考) 1,大蔵省「貿易統言1」,日本銀行「卸売物価指数」,IMF「lnternanonal Flnanclal Stati一 stiCS」,通商産業省「鉱工業指数」,経済企画庁「国民経済計算年報」等により作成,

2.かっこ内の数値は係数のt値。

(出所) 平成5年版経済自書。

(19)

関説することとして,まず,輸出の所得弾性値の低下について言えばこれは,

対米輸出が,自動車や工作機械のVERに示されるように,管理貿易的な性格 を強めていることに強く影響されている。同時に,この間の海外直接投資の増 大が海外生産を通じて輸出代替を進展させていることが,もう1つの要因となっ ている。次に,輸入

の所得弾性値にっい      図6 直接投資が貿易収支に与える影響

て見れば,その上昇  ①北米       (10億ドル)

をもたらしている中    40 輸出誘発効果

心的な要因は,製品   30 貿易収支に与える影響 輸入比率の上昇にあ 20 逆輸人効果

る。85年には31.0%      10 であった同比率は,      0

93年には52.0%へと 1985 986 正987 1989 1990 1991

       一10

繽クしており,特に 1988

東アジア地域につい  一20 ては25.6%から53.6  −30

    7輸出代替効果

%への上昇である。  −40 そして,それらの製  ②アジア        (10億ドの

i輸入のうちに,日   15      輸出誘発効果貿易収支に与える影響

本の直接投資による      10

海外生産からの逆輸 逆輸入効果 入の含まれることは 5

@       0一言うまでもない。 1985 986

ユ987 1988 1989 1990 1991

なお,同白書が直   一5 接投資の貿易収支に

一10

及ぼす影響の推計結

果を示しているので, 一15 輸出代替効果 それも引用しておこ  一20

う (図6)。対北米  _25

については,貿易摩  騰考)通商産業省r海外事業活動基本調査」,r海外事業活動動向調劃,大蔵 擦対策という点もあっ     省「貿易統訓,国際連合「アジア太平1羊年錦・OECD rNatl。nal・〜c一

counts」, IMF「lntemational Flnancial Statlsucs」等から作成。

て,輸出代替効果が  咄所)平成5年版経済自書。

(20)

輸出誘発効果を上回っている。また,対アジアでは逆輸入効果の増大が顕著で ある。そして,全体として,長期的には直接投資による現地生産増は日本の貿 易黒字を縮小させる方向に作用していることが確認される。

このように輸出入構造の変化が進行している中で,93年春以降の一層の円高 は,海外直接投資の再度の増大と製品輸入の一層の拡大とを導き,日本経済の

「空洞化」への懸念を呼び起こしている。一一般に「空洞化」とは,①国内製造 業製品が輸入品に対して競争力を失い,国内生産が輸入に代替されること,② 国内に競争力の基盤を持ち得なくなった製造業が,海外直接投資を通じて国内 生産を海外生産に置換えること,③以上を通じて国内の製造業生産基盤が縮小 し,そのことが経済成長や雇用等のマクロ・パフォーマンスに悪影響を及ぼし,

国内の経済厚生にマイナスに作用すること,といった意味で用いられている。

但し,国際的な比較優位構造の変化は,当然のこととして①,②を伴って展開 する過程であり,それが長期的に見て③のマイナスの効果が優位を占める結果 となるかどうかは,基本的に国内経済的要因がこれを決定する。「空洞化」と いう言葉は,そのような国内経済的な要因をも勘案した結果,③のマイナスの 効果が優位を占めることとなるという判断を(暗黙の内に)含んだものと考え

ることができる。

ところで,現在言われているところの「空洞化」への懸念は,短期的には1 ドルニ100円を切った円レートのト昇がこれを大きなものとしているが】耐,より 長期的に見た場合,現在の円高それ自体よりも,円高によって促進される日本 からの直接投資をも1つの重要な推進因として展開する東アジア経済のキャッ チ・アップ(アジアNIESによるキャッチ・アップの進展に加えて,とりわけ,

安価かつ豊富な労働力を持つASEAN諸国,中国のキャッチ・アップの開始)

が,より重要な意味を持つ。平成6年版経済白書は,東アジア経済の技術的キャッ チ・アップを通じた高成長の過程を,日本,アジアNIES, ASEAN諸国,中国 が,プロダクト・サイクルに応じてダイナミックに比較優位を変化させて発展 する「雁行形態型の発展」と呼んでいるが,とりわけ80年代後半以降の日本,

欧米更にはアジアNIESからのASEAN諸国,中国への直接投資の急増が,こ の過程を加速している。そこで,このような東アジア経済のキャッチ・アップ による比較優位構造の変化が,日本経済に及ぼす影響について,伊藤(1985)

の提示するモデルを用いて検討してみたい

これは,自国と外国から成る多部門リカード型モデルである。モデルの供給

(21)

サイドについては以下の単純化の仮定を行う。財は無限種類あり,[0,N]

区間の実数をとる変数nによってインデックス化されている。生産要素は労働 のみとする。各財生産に関する両国の技術水準は,労働投入係数伽,伽・(ア スタリスクは外国を表示)によって表わされる。ここで,それぞれの国の通貨 単位で表わした賃金率をω,ω*とし,自国通貨建て為替レートをeと記すと,

伽ω〈αがeがとなる財については自国が競争力を有し,伽ω〉αバeω*となる 図7       財については外国が競争力を持つこ

詣・ 奮(供撫曲線昂  聯こ潔卿窒努謙         1   需要賃金曲線 1   なお,これが右下りとなるのは,伽・         1 /・。がnの減少関数となるように貝オを

対昔A

.一_一_−

@ i  インデ・クス化したことによる・そ

ハ金比

r  i  五が存在する.このとき,π緬の財 i  i  は自国の輸出財となり,π〉五の財1よ 1    1   外国の輸出財となる。そして財 0 n       N n

財のインデックス      万を限界的な財と呼ぶこととする。

需要サイドについては,各財に対 する所得からの支出比率(支出シェ ア)翻,δバが中心的な役割を果たす。いま,両国の総労働量L,L*を一定と 仮定すると,それぞれの通貨で表わした両国の所得はω五,ω*五*となる。所得

に占める財nの支出シェアδη,δがについては,単純化のため,財の相対価格 の変化にかかわらず一定と仮定する。このとき,所得のすべてが支出されると いう条件の下で,

オ掘一が・伽一1

が成立する。そして,輸出財と輸入財の境界にある財を万で表わすところから,

貿易収支の均衡は,

β伽五一瘡・*繍・L・

(22)

で表わされる(左辺は白国の輸入額,右辺は外国の輸入額)。これを書き直す

と,

_か・伽ひ         ●

㎝*

ゥ譲五

となる。図の右ヒりの線はこの関係を示したものである。

そして,このとき,モデルの均衡は両線の交点で示される。なお,このモデ ルでは資本移動を捨象しているところから貿易収支の均衡をもって長期均衡を 考えることとなるが,均衡において貿易収支インバランスの存在するケースを 考えても,モデルの基本的論理は有効である。

伊藤ほか(1988)の述べるところに従って,自国が技術的キャッチ・アップ 過程にあるケースを考えてみよう。キヤツ  図8

チ・アップ開始時の白国と外国との供給

件は,図8のA、A、線で示されるもの 論 1 とする。このとき相対賃金比はB1で示

1

される。なお,総労働量を一一淀とするこ 1

こでの仮定の下では,B,は同時に両国 フ所得比(GDP比)を示している。技  Al p的キャッチ・アップの過程とは,当初        B2 フ技術格差の一ドでは自国に競争力を持た ネい財(及びそもそも生産技術を持たな  B、

「財)について,技術格差を縮小するこ      0

     C2     1     :      :

鼈鼈鼈鼈黶 cq… …

一一一

とによって次々とこれを自国財へと取込      nlA・n・ A・ Nn んで行く過程である(自国の輸出財のメ

ニューの拡大)1。この過程はA、A,線のAlA、線へのシフトによって示すこと ができる。このとき,均衡点はClからC,へ移行し,相対賃金比及び相対所得 比はB,で示される。なお,自国におけるこのような相対所得の一L昇は,自国 通貨建ての所得の上昇あるいは自国通貨の増価(eの低下)という形で生じう

る。

このように自国は外国よりも高い所得成長(経済成長)を実現するが,これ は[n1, n2]区間の財が新たに自国の輸出財メニューに加わり.,これらの財

(23)

に対する支出分だけ自国の相対所得を高めるからである。すなわち,

[五1,万、]区間の財に対する需要が,自国の生産物に対する需要として加わ る結果,自国の生産要素(労働)への需要が高まり,それが相対所得を高める からである。このことは,貿易を通じた所得分配が自国の側に有利に作用して いることを意味している。なお,このような効果は,新たに輸出財のメニュー に加わる財が支出シェアの高い財であればあるほど大きくなることは明らかで

あろう。

ところで,このような経済発展が自国の側の経済厚生を高めることは明らか であるが,外国の側の経済厚生に及ぼす効果は必ずしも自明ではない。C,点 において,外国は,[nl, n2]区間の財についてより安価に入手しうるとい う利益を得るが,自国の賃金上昇の結果, [0,五、]の区間の財の価格は上 昇することとなる。どちらの効果がより大きいかはモデルからは不定であるが,

外国が国内に生産基盤を失う[nヱ, n2]区間の財が支出シェアの高い財であ れば,それだけ外国の経済厚生にマイナスに作用することとなる。

なお,上のモデルでは,財の集合を[0,N]にとって,その外延的拡大は 無いものとして論じたが,自国のキャッチ・アップに直面して外国の採りうる

もっとも重要な対応は,新たなより技術水準の高い財を開発して,財の集合自 体を拡大していくことである。そのことが,自国のキャッチ・アップによって 生じうるマイナスの効果を相殺し,外国の経済厚生を高めていく基本的な道で

ある。

さて,上に説明したモデルは戦後の日本経済の発展過程を非常にうまく説明 するモデルである。伊藤ほか(1988)から引用しておけば,次のようになる。

日本の産業構造は大きく変化し,造船,鉄鋼,竜気機械,白動車,工作機械,半導 体などが次々に口本の輸出産業として育っていった、その過程で海外の日本の製晶に 対する輸入性向は高まっていった。これに対して,日本の輸入性向の伸びは相対的に 鈍かった。日本の相対的所得の急激な増大の背景には,このような産業構造の変化が あると考えられる 91。

しかし,80年代後半以降進展しつつある事態は,逆に,先のモデルにおいて

「自国」を東アジア諸国に,「外国」を日本にと置き換えようとする過程である。

そして,上のモデルからすれば,長期均衡の枠組で考えても,その過程が日本

参照

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