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中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について

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(1)

茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)37−50       37

中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について

?c洋平 ・野田浩平 ・仙波敬通 ・藤井伸二 斉藤 修**・樫村いずみ*糖吉沼 充絆*

(1989年9月9日受理)

AFactor Analysis on Enjoyment in Physica1 Education on the Bas玉s of Observations of Junior High School Teachers

Yohei NoDA, Kohei NoDA, Yorimichi SENBA, Shinji FuJII,

Osamu SAITo, Izumi KAsHIMuRへ, and Mitsuru YosHINuMA

(Received September 9,1989)

は じ め に

昭和53年に改訂された中学校指導書 )(文部省)では,体育分野の目標の一つに,「各種の運動 の合理的な実践を通して運動技能を習得させ,運動の楽しさを味わわせるとともに,生活を健全に 明るくする能力と態度を育てる」とある。これは,生活を健全にし,明るくするためには,運動の 合理的な実践によって運動技能を身につけ,生徒の能力に応じて運動の楽しさや喜びを体得できる ように指導することが必要であることを示している。その中で「運動の楽しさを味わわせる」とい うのは,生徒が現在及び将来の生活において運動を実践していくためには,運動の特性や課題を明 確にし,自発的にそれを解決していく能力と態度が必要であり,その解決の過程において,運動技 能を獲得する喜びや仲間と共に運動を行う楽しさを体得させることの必要性を強調している。

したがって,運動の喜びや楽しさの内容は,運動技能の獲得と仲間と運動をすることの二つにつ きることになる。高田は2)体育指導の経験的,実態的側面から,体育授業における「楽しさ」を,

①精一杯運動する楽しさ ②友人と仲よくする楽しさ ③技と力を伸ばす楽しさ ④何か を発見する楽しさと規定した。また,大内は3}①種目の本質(特性)を理解し習得する楽しさ,

② 目標を達成する楽しさ ③感情をからだの動きで表現できる楽しさ ④相手に勝つ楽しさ をあげている。同様に,西は4)楽しい体育授業づくりをねらいにして,運動の楽しさの内容を二つ のタイプに分類した。楽しさAは,レクリェーション型の楽しさ ①活動それ自体の楽しさ・心 地よい活動量による運動の喜び・解放感がある ②楽しさは比較的「一過性」のものである ③ 一時間ごとに楽しさが求められる。楽しさBは,向上欲求充足型の楽しさ ① 目標(技能,体力

・教育学部保健体育科.

**茨城県教育委員会保健体育課体育研修室.

***教育学研究科保健体育専修保健体育科教育研究室.

(2)

38      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

等)の達成又は目標への接近(進歩)による喜び・充足感がある ②楽しさは比較的「接続性」

がある ③ 1時間ごとの楽しさより,単元全体を通して課題に挑戦し,困難を克服してゆくとこ うに楽しさがある。これら三氏の「楽しさの内容」の提示は,岡田ら5)の指摘する,実態的・帰納 的アプローチであり,教師側の体験的・実感的方法に頼り客観性に欠ける傾向が危惧される。

指導する側の主観性を排除し,出来るだけ客観的に「体育の楽しさ」を分析しようとする試みも         6)

ンられる。賀川は 体育授業において楽しさを感じる場面を表現した109項目の調査をし,結果を 因子分析し,楽しさの因子構造を明らかにしようとした。その結果,体育授業において学習者が楽

しさを感じる因子には,寄与率の高い順に,「できばえ・成果」 「挑戦・熱中」 「くつろぎ」 「成 功感」 「応援・観戦」 「賞讃」 「非競争性」 「脚光」 「優越感」といった因子が存在することを明

らかにした。そして,従来,楽しさを支える要因として「基本的活動欲求の充足」 「技能の向上」

「人間関係」があげられていたので上記の因子と整合させて,これらの要因は,楽しさを規定する       7)

v因のうち,ごく一部にしか注目していないと指摘した。岡田は 楽しさの概念の受けとめ方の多 様性を配慮しながらも,「楽しさ」そのものの解明とこれまでの論議を四点にまとめた。一つは,

楽しさの「深さ」をめぐる論議,二つは,体力づくりや技術獲得と楽しさの関連についての論議 三つは,楽しさを保障するための学習指導上の諸条件をめぐる問題,四つは,楽しさの種類,運動 種目との対応,発達段階によるその変化をめぐる議論である。これらを背景にもちながら,体育の 授業の楽しさの解明を因子分析によって行なっている。その結果,賀川とかなり似かよった因子構 造を示唆した。中学生では,男子が「レクリエーション」 「できばえ・成果」 「脚光」 「激励」「学 習過程」 「くつろぎ」 「激励」 「挑戦」 「指導協力」,女子では「成果・できばえ」 「レクリエー ション」 「挑戦」 「レクリエーション」 「ゲーム」 「脚光」 「創意工夫」 「学習過程」 「協力」

「学習環境」が主な因子であるとした。同義の因子が重なってみられるが,中味はかなりことなっ ている点には注意しなければならない。

    8)

?cらは ,SD法により,体育の楽しさに関するイメージを解析し,体育好き群と嫌い群の因 子構造の相違を明らかにし,体育の楽しさをより高めるためには,仲間関係の改善,体育授業に関 する明確な価値感の醸成,被支配性を感じさせない指導力,無気力をもたらす条件・要因の排除,

技能向上への積極的意欲,学習の自律・自発性,身体活動の快感・充実,賑かな,愉快な,親密な,

授業での人間関係の暗さ・陰気さ・粗雑さの排除,活発な・強い活動性の確保などの条件・要因の 整備や改善が必要であると提案している。

   9)

蜩№ヘ 快楽を「気持ちよく,楽しいこと」と定義し,「性欲・食欲・集団欲」といった三大本 能のそれぞれが満たされることを快楽原則と言っている。そして,人間が幼いときから養わなけれ ばいけないのは快,不快,怒り,恐れ,喜び,悲しみなど,原初的でとても単純な感情(情動)で あり,この情動は,読み,書き,ソロバンでは決して育たないとしている。情動として快感を説明

       10>

オたものにワロンの説がある。ワロンは ,快感を外面にあらわれた痙れんなり内面的な痙れんを 取りはらう時に生じるものとし,快楽を追求する人は,ちょっぴりまじった苦痛と不快をうまく快 にかえることができると論じている。松田は11)ニューカムのモデルを説明し,人間が運動やスポー ッ行動へかりたてる動因ないし動機を基底にして志向されるとし,スポーッ行動がレクリエーショ ンを志向するとき,活動する喜びをえ,娯楽になるとし,そこに価値があるとしている。そして,

(3)

野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        39

松田12)自身も「楽しさ」は,個人で経験される感1青であり,同じ経験をしても人によって楽しいと 感ずる人もいるし,そうでない人もいるとしながら,一般的に楽しいと感じ,喜びを味わうのは,

①欲求や願望が充足されたとき ② 自由があり,自分から行動するとき,③価値があると考 えたことが実現したとき ④創造や未知の解明⑤ 自分の能力に合致した行動をするときとし,

体育の授業の中で学習を促進するために用いられる「楽しさ」の原則を,④種目の多様性,⑤ 場や運動の変化性 ◎ 競争性 ④ 集団性と規定した。

嘉戸13)沢田14)加賀15)らは,チクセントミハイのフローモデルを検討し,楽しさが自己の行為能力

(技能)と行為への機会(挑戦)の水準のバランスによるものであるとし,このフローの状態の幅 を広げていく指導過程を工夫することが大切であり,フローモデルが楽しさを求めて運動への自発 的,自立的なとりくみを可能にする理論として貴重な手掛りであると述べている。その中でも,嘉 戸は16)楽しさの発展を求める学習過程の一般的原則を「今できるやさしいめあて」 「工夫してでき

るむずかしいめあて」の過程に「能力の高まり」があると論じた。

森は17),「楽しさということですが,探求への積極的な参加,さらに,教師から与えられたとい うよりも自分で自分に課した容易でない課題を解く努力,その努力のなかにともだちや先生も一緒 に参加してそれをやった。そしてついに糸を解いたという経験。……これが子どもにとって楽しい       18)

アとの最も本質的な内容ではないかと思うのです」とまとめている。それを受けた形で,小林は , よろこびを育てることが授業の基底だとし,「よろこび」を「心がおどるほどの楽しさ」と定義。

体育の授業でひたむきな学習活動を通じてしか生まれないものであるとしている。

       19}

サの他,楽しさについての論は,遊び論を中核にした展開 ,体育科教育法からの運動の特性に       20)2D

モれる楽しさ,自から工夫し協力してえられる楽しさの課題  ,生涯スポーツを指向した子ども にとって運動の楽しさとはへの言及22),スポーツハイ23},荒井24}の爆発的な楽しさ,喜びとはクロ スゲームの終了後の一気にまとまった喜び,とするなどの論が新しい視点である。

       25)

{研究は,体育教師側に立ってみた生徒の楽しさに関する調査を,内山 の「遊び・運動行動の 成立要因・条件に関するモデル」の主体条件,環境条件,健康条件に適合させて構造し,結果を因 子分析する。本県の中学校体育教師が,楽しさの条件をどのように構造しているか,これまでの研 究結果や内山のモデルとの整合性を検討しながら,因子構造を明らかにする。

著者らは内山のモデルでの主体としての条件,環境条件,健康条件などが阻害されたとき,行動 が成立しにくくなり,行動の楽しさも阻害されるという立場をとり,研究の基本的理念とした。

尚,これまでの楽しさに関する概念は,体育教師の実感的・実態的,帰納的アプローチ,客観的 な解析手法を用いた因子分析からの検討,心理学,体育心理学からの論議,遊び論との関連,チク セントミハイのフローモデルの解釈をめぐっての論議,体育科教育法・学習指導要領を中核とした 考え方,教育学的接近など,いくつかの新しい視点から構造されている。

研 究 対 象 及 び方 法 1 対象・調査期間,人数

(4)

40      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

対象  茨城県公立中学校 体育主任又は主任代理 期間  平成元年5月〜6月

人数  197名

2 内容

A票 主体に関する項目 54項目 意欲,欲求,動機,体力,運動能力,スキルなど

B票 環境に関する項目 44項目 人的,教育的(体育的一学校,教師〉,家庭,身体の調子

3 方法 因子分析(バリマックス法)

結果 及 び考察

1 主体的要因に関する因子構造

       26)

燻Rは, 「遊び・運動行動の成立要因・条件に関する概念図式」 のなかで,主体の条件をA,

B二つの領域に区分し,Aには,遊びの意思,意欲,欲求,動機,信念など各種遊びのヤル気のア ル,ナシを決定する条件を含み,Bには,遊びの能力・スキルを配した。その中味には,①精神 的能力(認知的領域感情・情緒的領域) ②身体的能力・体力・運動能力・スキルを構造し,

各種遊びのデキル,デキナイを支える条件とした。これらの内容をふまえた上で54項目の質問を設 定した。

表1は,54項目への反応を因子分析した結果である。負荷量の棄却検定をした上で,0.40以上の 負荷量を示した項目を選び8因子を抽出し命名と解釈をした。しかし,バリマックス回転後の全分 散に対する,累積分散寄与率(貢献度1)が36.89%と低く,解釈と命名に不安がある。

第1因子は, 「よい評価をもらったとき」 「ゲーム相手に勝てたとき」 「みんなの注目をあびて いるとき」 「よいプレーをして友達にほめられたとき」 「自分のプレーで得点できたとき」に0.40 以上の負荷量があり,生徒自身が自分の力彌を認められよい評価をもらい,よいプレーを他からも 認められて,賞讃される。自分のプレーが得点につながり,ゲーム相手に勝ち,注目を浴びる。こ れらの中には,自分の力禰や技能の高さがよい評価と賞讃に価し,更に自分のもっているすぐれた プレー,よいプレーが得点につながり,勝利に貢献し,注目を浴びるという二つの要素を含んでい る。したがって,スキルの評価と発揮への賞讃と脚光の因子と命名できる。

第H因子は,「運動のルールについて詳しく知ったとき」 「味方や相手の動きに合せて運動でき たとき」「自分の健康に自信があるとき」「自分の体力や技術の欠点を理解したとき」「トレー二 ングの方法や技術などの知識が得られたとき」 「自分たちの練習方法を考えているとき」「先生の 話しによく集中できたとき」に0.40以上の負荷量がある。これらの項目には,運動のルール.トレ 一ニングの方法や技術の知識,健康への自信,体力や技術の欠点の理解や練習方法への工夫,教師の 指導への集中と相手の動きに対応した運動の成就など大きく分類すれば,三つの要素を含んでいる。

(5)

野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        41

表1 主体的要因の因子負荷量(バリマックス回転後)

質  問  項  目

1 2 3 4 5 6 7 8 共通性

よい評価をもらったとき .5774 .4507

ゲームや相手に勝てたとき .5609 .4361

みんなの注目をあびているとき .5580 .3990

よいプレーをして友達にほめられたとき .4968 .4730

自分のプレーで得点できたとき .4354 .2430

他の人のできない運動が自分にできたとき .3881 .4073

友達から声援を送られたとき .3642 .3693

運動のルールについて詳しく知ったとき .5758 .413!

味方や相手の動きに合わせて運動できたとき .5340 .4905

自分の健康に自信があるとき .5009 .5590

自分の体力や技術の欠点を理解したとき .4925 .3152

トレーニングの方法や技術などの知識が得られたとき .4769 .3996

自分たちで練習方法を考えるとき .4538 .2976

先生の話によく集中できているとき .4141 .2815

先生や友達の応援に余裕をもってこたえられるとき .3982 .3705

苦しいこと,辛いことを克服し最後までやりぬいたとき .3956 .4172

自分の体力や技術の長所がわかったとき .3545 .3484

自分の技術が上達していくのが分かるとき .5551 .3513

今までできなかった技術が身につくようになったとき .5353 .3608

新しいワザに挑戦できるとき .5210 .3767

運動のコッがわかったとき .4921 .3935

自分の目標が達成できたとき .4777 .3253

今までにやったことのない新しい運動をするとき .4333 .3287

むずかしい運動をするとき .3987 .2747

自分の納得のいくプレイができたとき .3535 .2658

自分が他の人を指導してあげられたとき 一.5474 .4309

他の人の手助けができたとき 一.5290 .4106

失敗しても友達がはげましてくれたとき ㍉5271 .3059

B常やりたくてもできなかった運動をやれたとき 一.5143 .3727

チームプレーがうまくできたとき 一.4253 .3728

自分の意見がみんなから入れられたとき 一.4203 .4388

簡単にできる運動をするとき 一.6375 .4825

見学しているとき 一.5901 .5137

自分が手本としてみんなの前で運動するとき 一.4516 .3619

体育の授業が待ちきれないでそわそわしているとき .3948 .2670

熱中して,一生懸命やったとき .5725 .3991

自分の技術が発揮できたとき .5134 .4203

やったという満足感を得たとき .4790 .3432

自分のやりたい運動をするとき .3640 .3099

運動で気分転換をしているとき 一.6077 .5163

運動でストレスを解消しているとき 一.5630 .5209

運動不足を解消しているとき 一.4426 .4463

味方の誰かがファインプレイをしたとき 一.3959 .3837

運動をして汗をかいたとき .4862 .3970

固     有     値 3.0934 3.1933 3.4462 2.9220 1.9101 2.0186 2.Ol79 1.3240 19,925

貢  献  度  1(%) 5.7285 5.9135 6.3818 5.4111 3.5372 3.7381 3.7368 2.4518 36,899

貢  献  度  韮(%) 15,524 16,026 17,295 14,664 9.5862 10,130 10,127 6.6447 100.00

(6)

42      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

一つは,知識系であり,二つは,健康への自信,三つには,理解・思考・集中など認知領域である。

その中でも知識と理解は,項目の上で重なり,競技の知識と理解・工夫と健康の因子と言える。こ の因子は,体育の楽しさが技術獲得だけでなく,ルールを知り,トレーニングを理解し,技術を改 善し,種々の条件を考えて工夫し,指導者の意見を聞きながらレベルアップしていく姿勢や過程を 楽しみとしていると推測できる。そして,それらの基礎に健康があることも大きな条件となる。

第皿因子は,「自分の技術が上達していくのがわかったとき」「いままでできなかった技術が身 につくようになったとき」「新しいワザに挑戦できるとき」「運動のコツがわかったとき」「自分 の目標が達成できたとき」 「今までにやったことのない新しい運動をするとき」 「むずかしい運動 をするとき」の各項に0.40以上をこえる負荷量がある。含まれている要素は,技術の上達,獲得,

挑戦,コッの理解と新しい運動をする,困難な運動をするなど運動経験の幅を広げることと,自分 の目標の達成である。これらは,技術・運動の改善と目標達成の因子と言える。この因子は,技術 の上達や獲得の目標達成には,一つには,新しいワザへの挑戦意欲,二つには,技術を支える要因 としての運動のコッの理解と新しい運動や困難な運動など運動の幅の拡大とが必要であること,そ れが楽しさの要因であることを示唆している。

第IV因子は,「自分が他の人を指導してあげられたとき」 「他の人の手助けができたとき」 「失 敗しても友達がはげましてくれたとき」 「日常やりたくてもできなかった運動をやれたとき」 「チ 一ムプレーがうまくできたとき」「自分の意見がみんなから受け入れられたとき」の各項目に0.40 以上の負荷量がある。教師の考えている楽しさの要因は,仲間を指導したり,協力したり,自分の 意見が受け入れられることなど生徒自身が他に対して起こす行動と他の生徒からの励まし行動,チ 一ムプレーの成就,日常性をこえた運動の実行などとまとめられる。このことは,仲間との指導の やり合いや励まし,意見の提言が受け入れられることによって,チームプレーがうまくいく,運動 の実行が促進されることを意味していると考えられる。これから,仲間との協調・激励の因子と命 名する。

第V因子は,「簡単にできる運動をするとき」「見学しているとき」 「自分が手本としてみんな の前で運動するとき」に0.40以上の負荷量がある。成就・実施が容易な運動,運動の示範,見学を 含み達成可能な運動を獲得し,身についた運動の発表が楽しさの要因であり,それに見学も加えら れる。単純集計でみても,生徒が見学を楽しく感じると考えている教師は実に81%いる。したがっ て,・この因子を運動遂行と成果発表・見学の因子とする。

第W因子は,「熱中して,一生懸命やったとき」「自分の技術が発揮できたとき」「やったとい う満足感を得たとき」に0.40以上の負荷量がある。一生懸命やり,技術を発揮して,満足感がえら れたとき楽しさが生起することを意味し,能力発揮と満足感の因子と言える。

第W因子は,「運動で気分転換をしているとき」「運動でストレス解消をしているとき」「運動 不足を解消しているとき」に0.40以上の負荷量がある。これらの項目は,体育の授業が,スポーツ 素材を主な教材として,そのスポーッのもつ楽しさを気分転換,ストレス解消,運動不足解消につ なげているといえる。心身のリフレッシュの因子と命名する。

第皿因子は,解釈不可能である。

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野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        43

H 環境的要因などに関する因子構造

表2は,44項目を因子分析した結果の因子負荷量と貢献度を示したものである。この環境的要因 のなかには,人的,教育的,家庭,身体の調子を含み,主に,学校の運動施設や環境,教師・校長,

友達,両親との人的環境,身体の調子や生活習慣などを含んでいる。主体的要因と同様の統計的処 理をし解釈,命名をした。前要因とことなるのは,環境的要因の方が累積分散寄与率(貢献度1)

が44.83と高いことである。

第1因子は,「きれいな体育館やよく準備されたグランドで運動するとき」「充分な数の用具や 整った施設を使って運動するとき」 「授業中,ゲームが最後まで出来たとき」 「運動場(体育館)

で充分な広さを使って運動できたとき」「天気のよい日に外で運動するとき」「学校が運動に理解 を示したとき」に著しい負荷量を示している。これらは,教育環境のもっとも直接的施設であるグ ランド,体育館に充分な広さがあること,よく整備されていること,充分な数の用具が準備されて いること,ゲームの満足のいく遂行度,学校の運動への理解,戸外での運動など二つの内容をもち,

場所と施設の質量や機能の充実とそれらを充分に生かした活動が楽しさの要因となる。これを,学 習の場と施設の充実因子と命名する。

第II因子は,「グループ活動の際みんなから活発に意見が出されるとき」 「先生の指導が厳し いとき」「下手な人と運動するとき」「先生と話しが出来たとき」「上手な人のプレイをみるとき」

に0.40以上の負荷量がある。これらは,グループ活動が活発化する話し合いが生徒同志,教師と生 徒の問で充分になされることと,教師の指導と生徒間の交流の内容を含んでいる。すなわち,教師

と生徒,生徒と生徒の人間関係が楽しさの基本にあることを示している。この因子を,人間関係充 実の因子とする。

第皿因子は,「失敗しても先生が叱らず助言をしてくれたとき」「先生がえこひいきをしないと き」 「校長先生や他の先生がほめてくれたとき」 「先生がプレーをよくみてくれたとき」「先生が すばらしい手本をみせてくれたとき」「先生にほめられたとき」に0.40以上の負荷量がある。この 因子は,教師の適切な助言,公正な指導,賞讃,よい観察,よい示範と校長先生の賞讃が中核にな る。生徒の活動をより活発化し,深め,学習を高めていくために教師側のより適切な態度や指導哲 学が切っても切れない関係にあることを示している。この因子を,教師の態度・指導の因子とする。

第IV因子は,「運動が終って,友達と話しをするとき」「異性と一緒に運動するとき」「気心の 知れている仲間と一緒に運動するとき」に0.40以上の負荷量がある。これらには,異性やよい仲間

と運動する楽しさと体育の授業という中での少し緊張感のある時間を終えてホッとしたときのヤレ ヤレ感覚での友達との交流の楽しさの二側面を含んでいる。したがって,この因子を,仲間との互 譲・協調の因子とする。

第V因子は,「体の調子がよいとき」「思いっきり体を動かせたとき」「自分の活動する場面が あったとき」に0.40以上の負荷量がある。体の調子がよく,思いっきり体を動かし,活躍する場面 があると楽しさが増加することを裏づけている。体の調子が基本で,全力感の発揮と自己表現・活 躍場面が構成されると教師側からみた楽しさが成立することを意味しよう。これを,身体のコンデ

イションと活動・活躍の因子とする。

(8)

44      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

表2 環境的要因の因子負荷量(バリマックス回転後)

質  問  項  目 1 2 3 4 5 6 7 8 共通性

きれいな体育館やよく準備されたグランドで運動するとき .7487 .6830

充分な数の用具や整った施設を使って運動するとき .7386 .7082

授業中,ゲームが最後までできたとき .6541 .6353

運動場(体育館)で充分な広さを使って運動できたとき .6441 .6021

天気のよい日に外で運動するとき .6147 .6112

学校が運動へ理解を示したとき ,6044 .5462

グループ活動の際,みんなから活発に意見が出されるとき .5773 .5865

先生の指導が厳しいとき .5665 .3939

下手な人と運動するとき ,5202 .3034

先生と話ができたとき .4809 .4737

上手な人のプレイを見るとき .4631 .3740

失敗しても先生が叱らず助言をしてくれたとき 一,6033 .4522

先生がえこひいきをしないとき 一.5826 .4789

校長先生や他の先生がほめてくれたとき 一.5754 .4776

先生がプレーをよくみてくれたとき 一.5637 .4958

先生がすばらしい手本を見せてくれたとき 一.4996 .4671

先生にほめられたとき 一.4069 .3770

運動が終わって,友達と話をするとき .6401 .5115

異性と一緒に運動できるとき .4993 .3944

気心の知れている仲間と一緒に運動するとき .4705 .5350

体の調子がよいとき 一.5748 .4276

思いっきり体を動かせたとき 一。5524 .3994

自分で活躍する場面があったとき 一.4619 .3663

家庭でよい生活習慣をしているとき 一.6597 .6426

両親とのコミニュケーションがうまくいっているとき 一.6223 .6261

元気な顔で登校したとき 一.4886 .6092

先生がおもしろいとき .6163 .5062

運動後,給食をおいしそうに食べているとき .5062 .5040

グループによいリーダーがいるとき .3611 .4902

運動を通じて友達ができたとき .5202 .4175

みんなで協力できたとき .4522 .4634

いばる子がいないとき .4248 .3500

固     有     値 4.1959 2.8899 3.2517 1.4717 1.9847 1.8714 2.0447 2.0179 19,727

貢  献  度  1(%) 9.5361 6.5679 7.3902 3.3447 4.5106 4.2531 4.6470 4.5861 44,835

貢  献  度  皿(%) 21,268 14,648 16,482 7,460 10,060 9,486 10,364 10,228 100.00

(9)

野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        45

第W因子は,「家庭でよい生活習慣をしているとき」 「両親とのコミニュケーションがうまくい っているとき」「元気な顔で登校したとき」に0.40以上の負荷量がある。生徒側の背景としての,

家庭や家族間の生活習慣やコミニュケーションが楽しさの根底にあることを示し,よい家庭環境の 結果として表面にあらわれ,内実さも表わしている元気さが観察のポイントであると推察される。

この因子を,家庭親和の因子とする。

第W因子は,0.40以上の負荷量を示した項目が二項目であり,更に0.36以上の項目一つを加えて も,三項目が独立であり,解釈と命名は困難である。

第皿因子は,「運動を通じて友達ができたとき」 「みんなで協力できたとき」 「いばる子がいな いとき」に0.40以上の負荷量がある5これには,楽しい運動が行なわれる条件としての協力とその 結果生じた仲間感が大きな柱となることが含まれる。いばる子がいないことは,一人のリーダーに 従属しなくてもよいことを意味し,これが協力につながることは容易に推察できる。それは,友達 ができることにつながることを示し,この因子を,仲間との協和因子とする。

3 考察

これまで,1)主体的要因 2)環境的要因の二方向からそれぞれ教師が「生徒は楽しい」とす る因子を検討し,解釈,命名をした。そこで,本項では,これらの因子や因子の構造とこれまでの 研究成果や論理との整合性を確認していきたい。

(1)中学校指導書(文部省)との関連

   27)

w導書 に上れば,「運動の楽しさを味わわせる」の中味には,教師側の条件としての,運動の 特性と課題の明確化があり,生徒側はそれを自発的に解決していく能力と態度が必要であることと,

その解決の過程で,運動技能を獲得する喜びや仲間と共に運動を行う楽しさを体得する楽しさがあ るとしている。まとめると環境的要因からは,教師(特性と課題の明確化)と仲間(運動する楽し さ),主体的要因には,自発的な解決能力と態度,技能の獲得が含まれると考える。

指導書の中味と本調査での因子構造を比較すると,環境的要因の中の人的環境としての教師は,

生徒との人間関係という中での指導力とコミニュケーション,教師の指導態度や方法に秀れている ことの二つの因子に分かれる。このことは,必ずしも,教師の指導態度や方法が生徒との人間関係 をよく改善していくことの決定的要因ではないかも知れないことを示唆し,現場教師が体育の楽し さを体得させる方向を二つに区分して使い分けていると推察される。本調査では特性と課題の明確 化に関する項目を作成していないのでこの件に関する論述は出来ない。仲間については,活発な意 見の交換や仲間との運動,プレイを見るなどの人間関係の要因と,友達と話しをする,異性と運動 する,仲間と運動するなど仲間との互譲・協調の要因,運動を通じて友達ができる,協力できたな ど仲間との協和の要因があげられる。指導書で言う運動する楽しさには,教師達が生徒同志の人間 関係がよい方向に成立していること,仲間とゆずり合い,ヤレヤレとした気分になり,とにかくい ろいろの仲間と一緒に運動すること,強力なリーダーを好まずにみんなで協力し,よい友達ができ ることなど異なる三つの方向があることを指摘していると言える。このことは,運動する楽しさの 中味が,指導書で方向づけている教師側の条件と現実の教師のとらえ方に少し異なる視点があると 推察できる。そして,それが生徒側の運動の楽しさを体得するという条件に結びついていかない点

(10)

46      …茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

もあるのではないかという危惧にも通じる。

主体的要因としては生徒側の自発的解決能力と態度,技能の獲得があげられる。因子の中では,

技術や運動をより改善し,自分の目標を達成する,スキルの評価と発揮,運動の知識と体力・技術 の自己認識とトレーニング,仲間への指導,能力発揮と満足感などが含まれている。現場教師達が 生徒の意欲や心身の能力を支えているのは,賞讃を受ける,脚光をあびるという他からの評価であ ることを認めて,生徒個々の目標達成,スキルの評価,改善,トレーニングの工夫,満足感,指導

(仲間への)などに取り組む姿勢と実行力を体得させようとしていると読みとれる。

しかし,環境的側面では,校長をはじめとする教師集団の生徒へのかかわり方や施設・用具の充 実や整備に相当の貢献度があることから,これらが指導書で言う運動の楽しさをサポートする必須 の条件であり,生徒の活動の質・量や満足感を高める大きいファクターであると考えられる。

(2)実態的側面からの研究成果との関連      281

scの言う 楽しさの四条件は,先に述べた通りである。高田は,この四条件を主体的側面から 検討したと思われる。本調査は,限定された項目内での分析であるので,高田の研究と内容・視点 も大きくことなることはいなめない。しかし,主体的要因に限ったとしても,四条件のように単純

      29)      30}

サされるとは考えにくい。岡田 や賀川 も指摘しているように,比較的高い貢献度を示している 因子に,賞讃を受け脚光をあびることを含む因子がある。このことを高田は四原則の中に入れてい ない。入れていないと言えば,体育に心身のリフレッシュを求めている傾向も見逃すことは出来な い。よく解釈すれば,学校レクリェーション的思考が必要なこと,自己表現や能力発揮,満足感を えることなどを主体の要因と考える視座が必要なことを示唆しており,この視点は高田には見当ら        311

ネい。その中でも,大内 は,感情をからだの動きで表現する楽しさを提示しているが,本調査で は,同様の項目をもっていないので一言で言うことはむずかしいものの,感情表現よりは,より原        32)

遠Iで,発揮が単純な,能力やスキルの発揮の方向を教師は指導していると考えられる。西は 楽 しさAでレクリェーション型の楽しさにふれている。その中味の一つに,解放感をあげているが,

本稿での心身のリフレッシュと通ずる面もあると考える。

三氏の楽しさの条件は,主体的要因にかかわる条件が多く,環境的要因がほとんどみられないの に特徴がある。このことは,生徒の体育事象を生態学的な視座でとらえていないことにつながり,

「楽しさ」を実感しながら,生徒個々がみずからの意志で起こす運動行動を教師がどう方向づけて いくのか,個々の意欲や能力が環境とのかかわりの中で,どう動機づけられ,能力・スキルを伸ば

していくのか,主体と環境,心身の状態がどのように関連し,どんなフィードバック機能をもって,

生徒の活動をヤル,ヤラナイに介入していくのかがみえてこない。「楽しい」という感情や行動は 主体的要因だけで成立するとは考えにくいし,環境的要因や心身の健康状態に大きく影響され,そ れらが多様な回路でからみ合い,フィードバックし合いながらよりレベルの高い楽しさを体得して いくものと考える。楽しさが主体的要因のみで考えられるとしたら,その本体にせまることは,困 難であり,楽しくない体育の楽しくない理由や原因も検討できない。

(3)客観的分析としての因子分析的研究との関連

  33)      34>

齔?@,岡田 は,比較的内容の似た項目での因子分析をしている。岡田は,楽しさに関連する 項目を,技術習得,集団の雰囲気,教師の指導・態度,自己実現,学習環境学習過程の6つのカ テゴリーに分類して項目を作成している。その結果を因子分析し,寄与率が高い順に,1 できば

(11)

野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        47

え・成果 2 できばえ・成果 3 レクリェーション 4 学習過程 5 脚光 6 指導 7 指導 8 くつろぎ 9 協力・激励 10 脚光の因子を抽出した。賀川も岡田と同様の因子分析 を行ない9因子を抽出している。1 できばえ・成果(チームワーク発揮,自己実現,優越感,自 己承認,一般的成果) 2 挑戦・熱中(創造性,活発さ,競争性,挑戦) 3 くつろぎ,4 成功感 5 応援・観戦 6 賞讃 7 非競争性 8 脚光 9 優越感である。二氏の研究の 中でも,項目カテゴリーにも環境・心身の状態に関するものは少なく,ほとんどが主体的要因に関 する項目が多く,項目の構成に生態学的視点はみられない。当然のことながら,因子構造が主体に       35)

ミ寄った構造になっている。そして賀川は ,従来の楽しさを支える要因としての, 「基本的活動 欲求の充足」 「技能の向上」 「人間関係」を,自身の研究の結果から, 「できばえ,成果」の範騎 に前2因子が含まれるとして,この三つの要因を,学習者の意識を無視したものと批判している。

しかし,これまでも述べて来たように,楽しさは,生態学的枠組の中で論じられ,解析することが 重要であるとする立場からこれらの研究をみると,主体としての個々のパフォーマンスにかかわる 因子として分析していると言わざるをえない。著者らの研究からは,主体の能力やスキルのパフォ 一マンスの向上,賞讃や脚光,体力や技術の改善,仲間との協調にも,人的な他者の影響が大きい ことが示唆されていて,個々人の努力や学習だけで生起する現象とは考えにくい。更に,環境的要 因として,楽しさに著しく関与する因子には,施設の充実や教師の態度・指導が含まれ,場や施設 と教師との関係が楽しさを大きく左右すると考えられる。賀川の批判した「人間関係」の因子も,

教師と生徒,生徒同志の関係の中でかなりの説明力をもっており,無視することは出来ない。体育 が,運動する場と時間,教師と生徒,生徒と生徒の人間関係という枠の中で活動が行われている限 り,環境要因の視点からの分析は絶対にさけて通れない。それらの場と関係が不在のところに,体 育の楽しい活動は成立しない。したがって,賀川,岡田らの研究と著者との研究では,調査・分析 の視点が,前者では特に主体的要因に中心を置き,著者らは,生態学的枠組から見ている点で著し

くことなる。

(4) その他の諸研究との関連

松田は36},先に述べたように,一般的に楽しいと感じ,喜びを味わうのはとして五つの条件と楽 しさの原則を4原則提示している。これは,前者を松田は,主体的要因として把握しており,後者 を環境的要因と考えていると推察できる。著者らの独立した身体のコンディション(心身の状態)

が加味されると幅広い把握が容易であると考える。

チクセントミハイ37)のフローモデルは,楽しさが自己の行動能力と行動への機会の水準のバラン スに依拠していると言っており,このことは典型的な主体的要因だけで楽しさを説明していること につながっている。自己の行動能力と行動への機会の水準のバランスは,環境的要因や心身の状態 によって無数に変化し,影響されることを考えると一方向からの視座に片寄っていないかという疑 問がもたれる。

嘉戸謝の指摘した「今できるやさしいめあて」「工夫してできるむずかしいめあて」の過程に

「能力の高まり」があるとする論も,主体の意欲や欲求と克服が能力の高まりを引き出すというこ とを意味し,高まりが他の要素の影響がないようにも受けとめられる。

   39)

ャ林は ,心がおどるほどの楽しさは,体育の授業でひたむきな学習活動を通じてしか生まれな いと論じている。広義にとらえれば, 「学習活動」を教師と生徒,生徒と生徒,学習の場という構

(12)

48      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

図でとらえることも可能だが,ここでも狭義にみれば,主体のひたむきさが楽しさの中核であるこ とを示唆している。

      40)

謔關カ態学的枠組から,楽しさの構造をとらえようとしているモデルに,荒井の スポーツ空間 論があると考える。コートの外という,脱役割の互譲の空間には,明らかに場と時間と人的,文化 的,教育的,自然的環境などの要素が加味されていると推察できるからであり,楽しさを解明する ひとつの方向を示唆していると考える。

ま  と  め

これまでの検討から,中学校教師の楽しさの構造を次のようにまとめた。

1 主体的要因では,貢献度の高い順に,技術・運動の改善と目標達成,競技の知識と理解・工 夫と健康,スキルの評価と発揮への賞讃・脚光,仲間との協和・激励,能力発揮と満足感,心 身のリフレッシュ,運動遂行と成果発表・見学の因子が抽出された。しかし,累積分散寄与率

(貢献度1)は低く,これらの因子の実在性を確かめる必要がある。この範囲の中で言えば,

本要因の中心的要素は,1 技術や運動に関わる改善,目標達成,2 知識,理解,評価,発 揮,賞讃脚光,成果と仲間との協和そして 3 心身のリフレッシュの三つである。そのなか でも特に一番目の技術,運動に関する要因に説明力が高い。

2 環境的要因では,貢献度の高い順に,学習の場と施設の充実,教師の態度・指導,人的関係 の充実,仲間との協和,身体のコンディションと活動・活躍,家庭親和,仲間との互譲・協調 があげられる。この中では,場と施設の充実が楽しさを支える大きい要因であり,ついで教師 と生徒,生徒同志との互譲・協調,指導,態度や家庭の親和などの人的環境心身の調子が楽 しさの要因となろう。このことは前者が環境としての場の構成や充実に重きをおくのに対し,

後者は仲間と教師に関する人間関係が重要なファクターになりうることを示している。

3 他の研究者の成果と著者らの研究との整合性を検討してみると,これまで引用した多くの研 究成果の主な論点は,主体的要因にかかわる因子もしくは,条件の成立・構造に関するもので あり,環境的要因にかかわる論点からの分析は少ない。このことは,楽しさを一方の側からの 視点でとらえていることを示し,一軸的見方である。

楽しさの要因分析では,主体の楽しさ感を支える諸要因の検討が重要であり,とりわけ本研 究でも,環境要因に楽しさの重要なファクターが抽出されており,これらは,場や時間のみな

らず,人的,教育的,自然的,文化的環境要素を含んでいる。本研究の研究フレームが,生態 学的視点から構成されており,この視点を抜きに楽しさの分析が行なわれると重要な構成要因

を見失うことになる。

      41)

ワた,前で述べた荒井 のモデルは,単純な構造だが,スポーッのもつヤレヤレ感覚を場や 時間,人的関係で説明していて,今後検討してみたい考え方のひとつである。

       42〕

S SD法による野田ら の研究から導びきだされた課題は,イメージ調査で策定したこともあ り,主体的要因に片よる傾向はあるが,主体的要因の中味がきわめて多岐にわたっていること を示唆し,教師一生徒,生徒一生徒の人的環境要因の因子も鮮明に抽出され,課題化できている。

(13)

野田ほか:中学校教師からみた体育の授業の楽しさの要因について        49

このことは,主体的要因,もしくは環境的要因の中でも人的環境が,高田らの条件のようにミ ニマム化することに問題があると推察される。その点でも生態学的視点での分析は重要である。

5 これまでの諸研究者が提示した成果は,生徒に対する調査が主であり,本研究のように教師 を対象にした研究はほとんど見当らない。したがって,その結果が,生徒と教師の楽しさの体 験や感覚,体得の仕方に差があると同様の差を生んだと言えなくもない。この両者間の差やズ

レについてもよりレベルの高い研究を続けて究明するつもりである。すなわち,生徒対象にす ると主体的要因が主なファクターになり,教師からみると環境も含めた広い立場から,教育的 配慮も含めた検討になるのかの考察をする必要がある。

1)文部省  『中学校指導書 体育編』 1978,pp.11−13.

2)高田典衛  『体育授業研究』3(明治図書,1979)pp.5−29.

3)大内勝失 「運動の楽しさからとらえた運動技術の学習過程」 『学校体育』32−12,1979,pp.43−48.

4)西順一 「運動の楽しさの2つのタイプとそれを生かした楽しい授業づくり」『体育の科学』34,1984,

pp.943−945.

5)岡田猛・海野勇三・西谷憲明 「体育授業における楽しさの実態分析」 『鹿児島大学教育学部紀要』35,

1983,pp.193−239.

6)賀川昌明  「体育授業における楽しさの要因分析」 『徳島大学教養部紀要』17,1984,pp.19−32.

7)岡田猛・海野勇三・西谷憲明 前掲書 pp.193−239.

8)野田洋平・樫村いずみ,吉沼充  「SD法による体育の楽しさの因子構造」 『茨城大学教育学部紀要(教 育科学)』38号,1989, pp.75−89.

9)大島清 『脳が1央楽するとき』 (情報センター出版局,1989) pp.10−14.

10)ワロン 浜田寿美男訳 『ワロン/身体・自我・社会』 (ミネルヴァ書房,1983)pp.158−159.

ll)松田岩男  「体育心理学」 『現代保健体育学大系4』 (大修館書店,1989) pp.304−305.

12)松田岩男 「なぜ体育授業は楽しくなければならないか」『体育科教育』32,1984,pp.9−13.

】3)宇土正彦編 嘉戸修  「運動の楽しさ」 『体育科教育入門』 (大修館,1983) pp.40−48.

14)沢田和明 「授業の中の楽しさの構造」 『体育科教育』32,1984,pp.57−60.

15)加賀秀夫 「楽しさの構造を考える」 『体育科教育』32,1984,pp。17−19.

16)森川貞夫・佐伯聰夫編 嘉戸修  「体育の学習指導過程」 『スポーツ社会学講義』 (大修館書店,1988)

pp.153−154.

17)林竹二 『授業 人間について』 (国土社,1973) p.7.

18)小林篤 『体育の授業』 (一董書房,1975) pp.27−43.

19)松田岩男 前掲書 11).

20)成田十次郎・前田幹夫編著  『体育科教育学』 (ミネルヴァ書房,1987) pp.85−88.

21)日本学校体育研究連合会  『学校体育』 (ぎょうせい,1981) pp.285−298.

22)武藤芳照 『子どもの健康とたのしい運動』 (築地書館,1986)pp.80−82.

23)久保田競 『スポーッと脳のはたらき』 (築地書館,1984) pp.102−106.

24)荒井貞光 『「コートの外」より愛をこめて』 (遊戯社,1982) pp.95−97.

(14)

50      茨城大学教育学部紀要(教育科学)39号(1990)

25)内山源  『健康のための生活管理』 (家政教育社,1983) p.32.

26)内II」源 前掲書 p.32,

27)文部省 前掲書 pp.11−13.

28)高田典衛 前掲書 pp,5−29.

29)岡田猛・海野勇三・西谷憲明 前掲書 pp.193−239.

30)賀川昌明 前掲書 pp.19−32.

31)大内勝夫 前掲書 pp.43−48.

32)西順… 前掲書 pp.943−945.

33)賀川昌明 前掲書 pp.19−32.       1 34)岡田猛・海野勇三・西谷典明 前掲書 pp.193−239.

35)賀川昌明 前掲書 pp.43−48.

36)松田岩男 前掲書 11),

37)チクセントミハイ 今村浩明訳 『楽しみの社会学』 (思索社,1979)pp.65−92.

38)宇土正彦編 嘉戸修 前掲書 pp.40−48.

39)小林篤 前掲書 pp.27−43.

40)荒井貞光 前掲書 pp.95−97.

41)荒井貞光 前掲書 pp.95−97.

42)野田洋平・樫村いずみ・吉沼充 前掲論文 pp.75−89.

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参照

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