室蘭工業大学 応用物理コース 応用光学 講義ノート
2015/0220版 --- 古典電磁気学による、光の性質と物質の光学的性質 --- 目次幾何光学---2
フェルマーの原理---2 レンズ---5
波の性質---7 波の干渉---8
ホイヘンスの原理 干渉および回折現象---9 反射型回折格子---13
マクスウェル(Maxwell)方程式---15 マクスウェル方程式の導出 ---16
波動方程式---22 位相速度---23 群速度---25
§
§
§§数学的準備・複素数表示---27
ポインティング(Poynting)ベクトル・電磁波のエネルギー ---28
物質中の電磁波の基本的性質 (i) 電気伝導度
σ = 0
の場合---35電磁波は横波---36 光の偏光特性---37
(ii) 電気伝導度
σ ≠ 0
の場合---40吸収係数---42 (iii) 境界面での反射率---45
物質の光学的性質の概要---49 電子振動子模型---52 ドルーデ模型---55
ドルーデ模型の光学的性質---56 プラズマ振動---58
ドルーデ模型の光学的性質 (
n , κ
の周波数依存性の詳細)---60
局所場補正:ローレンツ(Lorentz)の局所電場モデル---64 クラウジウス-モソッティ(Clausius-Mossotti)の式---70 電子振動子模型における、局所電場の効果---71
クラマース・クロニッヒの関係式---72
) ( ), ( ω ε ω
χ
の総和則---77結晶中での電磁波の伝播 光学的異方性・複屈折---79 索引 85
講義では、局所場補正~クラマース・クロニッヒの関係式(p.64-77)は扱いません。興味のある学生は、自主 的に読んで理解してください。
注意:このファイルの著作権は、室蘭工業大学 矢野隆治にあります。ファイルの内容を紙に印刷した後、鉛筆・
ボールペンなどで書き込みしてもかまいません。しかし、著者の許諾なく、ファイルの内容そのものに対して 勝手に書き換え・改変する事は、しないでください。また、間違い・ミスプリントなどが見つかった場合は、
著者(矢野隆治)まで連絡をお願いします。
幾何光学
光の波長は、我々が目にする物体の大きさよりもはるかに小さいため、光の波としての性質を無視して、直 線的に進む光線として扱う。このような扱いをする分野を、幾何光学という。
フェルマーの原理
光線がある位置から別の位置へ伝播する時、光線はその時間が極値(極小値)をとるような道筋をたどる.
これをフェルマーの原理という。この原理から、2つの媒質の境界面での、反射、屈折の関係式を導く。
光の反射・屈折
x
軸を境界面としてy > 0
の屈折率n
1、y < 0
の屈折率n
2である、2 つの物質の境界面での、光の反射お よび屈折を考える。図のように入射角度θ
、反射角度θ '
、屈折角度φ
を決めた時、それぞれの角度の間に成 り立つ関係式を求める。その際の指針となるのが、「時間を最短にするように光は伝播し、その結果として、反 射角度、屈折角度が決まる」事である。点A
から点B
へ到る最短経路、および。点A
から点C
へ到る最短経 路を求める。屈折:屈折率
n
jでの光の速さをc
j= c / n
jとする。A : ( 0 , h
1)
から点D : x ( , 0 )
、さらに点B : ( a , − h
2)
へ 進むのに掛かる時間f ( x )
は、長さを光の速さで割り、2 2 2
2 1
2 2 1 1
) ) (
( c
x a h c
x x h
f + −
+ +
=
で与えられる。
f
1( x )
を微分すると、2 2
2 2 2 2 1 1
1
( )
1 ) 1
( '
x a h
x a x c
h x x c
f + −
− −
= +
2 2 1 1
( )
x h x x
g = +
は、x
の増加に伴い値が増加し、0 ) ( , 0 ) 0
(
11
= g a >
g
である。一方2 2
2
2( ) ( )
x a h
x x a
g + −
= − は
x
の増加に伴い値が減少し、g
2( 0 ) > 0
、0 )
2
( a =
g
である。よって、1 ( ) 0 0
) ( ' , 0 ) 0 1 ( 0 ) 0 1 ( ) 0 1 ( ) 0 (
'
11 1
2 2 2
2 1 1
1
= − = − < = g a − >
a c f c g
g g g c
f c
、かつ
f
1' ( x )
が連続関数である事を考慮すると、f
1' ( x )
は、a x <
<
00
である点x
0においてのみ、f
1' ( x
0) = 0
となる。これから、
0 < x < x
0でf
1' ( x ) < 0
であり、f
1' ( x
0) = 0
、さらにa
x
x
0< <
でf
1' ( x ) > 0
なので、f
1( x )
はx = x
0で極小値を取 る。よって、その時、2 2 0 2
2 0 2
2 1 0 2 1
0
1 /
sin ) ( , 1
/ sin 1
n x c
a h
x a c
n x c
h x c
φ
θ
=− +
= − +
とすれば、
f
1' ( x
0) = 0
の条件から、入射角θ
と屈折角φ
に関する、次の関係式を得る。θ θ’
φ
a
h1
h3
A
D x
-h2
b C
B 0
n1
n2
+ +
−
−
増加 極小値
減少
) (
0 )
( '
0
1 1
0
x f
x f
a x
x
1 2 2
1 0
1
sin
sin sin sin
0 ) (
' n
n n n
x
f = → = → =
φ φ θ
θ
反射:点
C : ( b , h
3)
とすれば、点A
から点C
へ光が伝播するのにかかる時間は、次の式で与えられる。1 2 2
3 1
2 2 1 2
) ) (
( c
x b h c
x x h
f + −
+ +
=
先ほどと同様の考察で、
f
2( x )
が極小値を取る条件を求めると、' '
sin ) ( sin
) ( 0
) ( 1
) 1 ( '
2 2
3 2
2 1
2 2
3 2 2 1 2
2 1 3 2 2 1 1 2
θ θ θ
θ
= → =− +
= − + =
→
− +
= −
→ +
− = +
− −
= +
x b h
x b x
h x
x b h
x b x
h x x
b h
x b x c
h x x c
f
となる。すなわち、入射角
θ
と反射角θ '
は等しい。反射、屈折角の別の導出方(幾何学的な考察)
反射
右図のように、点
C : ( b , h
3)
を、x
軸に対して折り返す。点C
を折り返した点を、点C ' : ( b , − h
3)
をする。また、光線とx = 0
と の交点を点D
とする。点A → D → C
と進む経路と、点' C D
A → →
と進む経路は、距離が等しく、かかる時間も同じ である。さて、
A → D → C '
と進む経路の中で、最も距離が短い、従 って最も時間が短い経路は、3つの点A , D , C '
が直線上にある時 である。この時、入射角θ
と反射角θ '
は等しくなっている。屈折
速さ
c
の光から見ると、点A
から点D : x ( , 0 )
まで進むには、縦にh
1、横にx
進む必要がある。一方点D
か ら点B
まで進むには、縦にh
2、横にa − x
進む必要がある。反射の場合と同様に考えて、光線が点A, B
間を まっすぐに進む事を要求すればよいように見える。しかしそうすると、入射角と屈折角が同じになってしまう。実はこの方法では、屈折率の違い(
n
1≠ n
2)による光学的な距離(屈折率と距離を掛けた値)の違いが全 く考慮されていない。光が伝播する時間は、前ページで見たように、光学的距離を真空中での光の速度
c
で割った値で与えられる。屈折 率の違いを考慮するため、任意の2つの点の間の距離を光学的距離 で表わした場合、点A
から点D : x ( , 0 )
まで進むには、縦にn
1h
1、 横にn
1x
進むと考えると良いように思える。しかしその場合、原点0
と点D
間の水平方向の光学的な距離0 D
が、一方でn
1x
、他方でx
n
2 となるため、n
1= n
2でなければ矛盾する事になる。よって、この方法では、入射角と屈折角が一般に異なる事を説明 できない。
θ A
C
C’
b h3
0
-h3
D
n1
n1
θ'’
θ A
B a h1
0
-h2
D
n1
n2
x
φ
乱反射
普通、物体の表面には。細かな凸凹があり、入射した光線は全てが同 じ方向に反射されるわけではない。それぞれの光線で入射光に対する反 射角度が決まり、反射角度がいろいろの値をとるため、反射光は、あら ゆる方向に反射される。このような反射を乱反射という。
逆進性
光がある点
P
から点Q
へ進む時、光は、点Q
から点P
へ、P
からQ
に到達した際に通ったのと同じ光路を 逆向きに進む事も出来る。これを光の逆進性という。見かけの深さ
水中の物体を空気中から見ると、実際の深さよりも浅く見える。これにつ いて考察する。
右図のように、水中にある物体
P
から出た光線が、水と空気との境界面と交差する点を
Q
とする。点Q
を通る光線が我々の眼に入る。しかし、光線は 点P '
からやって来たと我々は考える。物体
P
を通る境界面に対する垂線が、境界面と交差する点をO
とする。物 体P
から出た光線が水と空気の境界面に入射する角度をθ、空気中で屈折す る角度をθ '
とする。空気の屈折率=1、水の屈折率=n
とする。図から、角度
∠ OPQ = θ , ∠ OP ' Q = θ '
である。OP = h , OP ' = h '
とし、OQ
の長さをx
とする。' tan tan tan
/ ' tan / ' '
' tan ,
tan θ
θ θ
θ θ
θ = → = =
= x
x h h h
x h
x
' , θ
θ
が十分小さければ、sin θ ~ tan θ , sin θ ' ~ tan θ '
が成り立つことを利用し、' sin sin
: 1 ,
' sin
~ sin ' tan tan
' θ θ
θ θ
θ θ = =
= note n
n h
h
(p.2の最後の式を見よ)を得る。
n ~ 1 . 3
では、h ' = h / n ~ h / 1 . 3
となり、水中の物体は実際よりも浅く見える。h’
h
P O Q
P’
θ θ ’
水
n
空気 1レンズ
光軸:レンズの中心部を通り、レンズの面と垂直な線を光軸という。
凸レンズ:中央部が厚く、周辺にいくほど厚さが薄くなっているレンズ。
凹レンズ:中央部が薄く、周辺にいくほど厚さが厚くなっているレンズ。
凸レンズの性質
① 凸レンズの軸に平行な光線は、レンズを通過後、軸上の一点(焦点)を通る。焦点はレンズの両側にあり、
レンズからの距離は同じである。レンズと焦点との距離を、焦点距離
f
と言う。② 焦点を通過して凸レンズに当たる光線は、凸レンズを通過後、軸と平行に進む。
③ 凸レンズの中心を通過する光線は、レンズ通過後も、その向きを変えない。
これらの性質を利用すると、凸レンズによる像の作図を行う事ができる。
レンズの公式
f b a
1 1
1 + =
物体がレンズから距離
a
の場所にあると しよう。物体がレンズから距離a
の位置に あるとして、a > f
なら実像ができ、f
a <
なら、虚像ができる。像の作図 1)実像の場合
物体のレンズからの距離を
a
とする。凸レンズの焦点距離はf > 0
であり,a > 0
である.光線 ①,③で 作図すると,図においてa > f
であれば倒立像が得られる。物体に対する像の大きさ・倍率は、以下のようにして求まる。図において、三角形
OAB
とOA ' B '
は相似で ある。よって、物体の大きさをh
、像の大きさをh '
とすれば、大きさの
h / ' h
比は、a b h h ' =
となる。これが、物体に対する 像の倍率である。
f f
①
②
③ 光軸
焦点 焦点
a b
f f
a b
f f
h
h’
物体
像
B A
A’
B’
O
2)虚像の場合
f a <
<
0
であれば、正立像が得られる。レンズを覗き込むと像が見えるので、その像を虚像という。この 時b
の値は、レンズの公式f b a
1 1
1 + =
より求まり、
b < 0
である。この場合、像(虚 像)はレンズをはさんで物体と同じ側に出来る。図で、右の焦点の位置を
F
、レンズで点A
と同じ高さの所を点
P
などとする。図において三 角形FA ' B '
とFPO
は、相似にある。よって、物体に対する像の大きさの比(倍率)は、
| 1 1 |
|
|
' = + = + >
f b f
f b h h
で与えられる。これが、虫めがね(ルーペ)で物体が拡大される(像が大きく見える)理由である。
凹レンズの性質
① 凹レンズに平行な光線が、凹レンズを通過した後の経路を逆向きに延長すると、軸上の一点(焦点)を通 る。焦点は、レンズの両側にあり、レンズからの距離は等しい。
② 凹レンズの向こう側の焦点に向かって進む光線は、凹レンズを通過後、光軸に平行に進む。
③ 凹レンズの中心を進む光線は、その向きを変えない。
像の作図
物体の位置が焦点距離よりも(a)短い時、(b)長い時の光線の結像を図に示す。像は焦点を結ばないので、
全て虚像である。(a)(b)共に像は正立であるが、像の大きさは物体よりも小さくなっている。
a
|b|
f f
物体 A’
A
B’ B
O P
F h’
h 虚像
f f
①
②
③
f f
物体 虚像
(a) f f
物体 虚像 (b)
波の性質
水や空気のように、波・振動を伝える物質を媒質という。媒質中のある場所(波源)に振動が生じると、そ の振動に少し送れて隣の場所が振動する。これが隣から隣へと、次々と振動が伝わる。この現象を、波・波動 という。連続して振動している波のうち、波形が正弦曲線(サイン関数)で表される波を正弦波という。正弦 波が伝わる時、媒質の各点は波源の振動と同じ振動をする。
一直線上を波が伝わる時、媒質の各点は、波源と同じ振動をする。媒質の振動の周期(1回振動する時間)
を波の周期
T ( s )
、媒質が振動する速さ(1秒間に何回振動するか)を振動数または周波数f ( Hz ) = f ( 1/s )
という。
T = 1 / f
の関係がある。角振動数または角周波数ω
は、ω = 2 π f
で定義されている。また、媒質の振 動の大きさを、波の振幅A ( m )
という。また、正弦波において、隣り合う山と山の頂点の間の距離λ ( m )
を波長という。なお、以下では、
f
を周波数と呼ぶ事にする。ω
は角周波数と呼ぶが、省略して周波数と頻繁に呼ぶ。
f
とω
が記号で区別できるのでOK。時間の経過と共に、波は移動する。波が1回振動 する間に、波は1波長だけ移動する。したがって正 弦波の進む速さ
v ( m/s )
は、v ( m/s ) = f λ ( m/s )
である。
波が
x
軸を正の方向に伝播しているとする。波の速さがv ( m/s )
なら、原点から距離x ( m )
まで振動が伝わるのに
x / v ( s )
時間が掛かるので、位置x ( m )
における変位は、時刻t − x / v ( s )
での原点の変位に等しい。 し たがって原点での波をy ( x = 0 , t ) = A sin( ω t )
とすれば(3 角関数は、周期
2 π
で元の値に戻る。周期
T
の時間が経過すれば、元の値に戻る 必要あり)、点x
まで波が伝わるまでに、時間v
x /
かかるので、点x
での波は、原点での波の 振動に対して、時間x / v
だけ遅れる。よって、点
x
での波は、k = ω / v
とおいて、( t kx )
A v x
t v A
t x A
t x
y = −
−
=
−
= sin ω sin ω ω sin ω
) , (
となる。ここで、
k = ω / v = 2 π f /( f λ ) = 2 π / λ
を波数と言う。また、3角関数の中の項kx t v x v t
t x − −
− ω ω ω
ω , ,
を位置
x ( m )
における位相という。位相が2 π
変わるごとに、振動の変位y ( t x , )
が元の値に戻る。波長 λ
振幅 A 波
の 高
さ 位置
波 の 高
さ 位置
波の干渉
2つ以上の波を重ね合わせた時に、波が強めあったり、弱めあったりする現象を干渉という。今、振幅が同 じ2つの波
f
1( t ) = A sin( ω t )
、f
2( t ) = A sin( ω t + φ )
の波の合成(干渉)を考える。「2つの波による媒質 の変位は、それぞれの波による変位の合計に等しい」という、重ね合わせの原理が成り立つ。よって、観測点 における波の位相がそろっていれば(ω t = ω t + φ → φ = 0
)、合成された波f ( t ) = f
1( t ) + f
2( t )
は、) sin(
2 ) sin(
) sin(
)
( t A t A t A t
f = ω + ω = ω
(1)となり、波の振幅はさらに大きくなる。一方、位相差が180度異なれば(
φ = π
)、0 ) sin(
) sin(
)
( t = A ω t + A ω t + π =
f
(2)となり、下の図のように振幅はゼロとなる。
また、位相差
φ
が0
、π
以外の場合は
f ( ) t = A sin ( ) ω t + A sin ( ω t + φ ) = A 2 + 2 cos φ sin ( ω t + α )
(3)となり、振幅は位相差
φ
に依存して、A 2+2cosφ
となる。ただし、
= − +
φ α φ
cos 1
tan 1 sin (4)
である。[(3)(4)の計算:
sin ( ω t + φ )
を展開し、1 + cos φ = B cos α ,
sin φ = B sin α
とおいてみよ。]
) (t
f
が光の波である場合、その周波数ω / 2 π
が非常に大きい(可視光で10
13Hz程度)ため、人間の目で感じる ことが出来るのは光の強度である。光強度I
は、f (t )
の振幅の2乗に比例する。位相がそろっている2つの波が干 渉した場合、(1)式より、光強度はI ∝ 4 A
2となり、光波が1つのときの4倍となり、位相が180度異なる波の干 渉では、光強度はゼロになる。それ以外の場合は(4)式より( 2 2 cos ) A
2I ∝ + φ
(5)となり、2光波の位相差
φ
に依存して光強度が変化する。なお、光を含む電磁波の強度が振幅の2乗に比例する事は、ポインティングベクトルの項(p.30)で説明する。
位相が180度異なる波の合成
ホイヘンスの原理 干渉および回折現象
ホイヘンス(Huygens)の原理
波動の伝播とは、何らかの振動(水面の振動、空気密度の振動、弦の振動、電磁場の振動など)が、媒質を次々 に伝わる現象である。振動する場所を波源という。波動の伝播をホイヘンスの原理に従って説明する。下の図 において,波面
Σ
1, Σ
2, Σ
3は点線で示されている。ある時刻に波面が波面
Σ
1の所まで進んできたとすると、今度はその波面上の各点が点源となり無数の新し い球面波(2次球面波)が放出される。この2次球面波は、互いに重なった点での振幅が同じ向きの場合に、初めて波となる。したがって2次波の包絡面が新しい波面,波面
Σ
2となる。すぐ近くの位相の等しい波の点を結んだ時、できた等位相面が直線になっていれば、その波を平面波という。
この説明では,点源から出る波の重ね合わせでできる波面が存在するため、元に戻る波面も生じる事になる。
しかし実際は、元に戻る波面は存在しない。(キルヒホッフ(Kirchhoff)は、後退する波動も考慮し、元に戻る 波面が存在しない事を示した。この説明は、例えば、砂川重信 理論電磁気学 (紀伊国屋書店) 第8章 電磁波 §6 電磁波の回折、Huygensの原理にある。) 波源から十分に遠方の波動では、波面は狭い範囲内では平面とみな せる。したがって,十分遠方では広い範囲にわたり、近似的に平面波とみなせる。(地球の表面も丸いが、私た ちの体の大きさからすれば、十分平面である。これと同じ。)
ヤング(Young)の干渉実験
2 つ以上の波が同時にある点で重なり、山同志あるいは谷同志の波が重なると互いに強めあい、山と谷とが 重なると弱めあう。この現象を干渉という。隣り合う山同志あるいは谷同志の間隔が波長λである。
ヤング(Young)の干渉実験では、下の図にあるように、点光源
S
が、光が少し透過するような小さな隙間(ス リット)S
1, S
2(スリット同士の間隔a
)から等距離にある場合の、スクリーン上の点P
における光の強度を 考える。波長
λ
の単色の点光源S
により照射される2点S
1, S
2では、光の振動は同位相であるとする。
S
1, S
2からの球面波がスクリーン 上で重なりあう。距離S
1P
とS
2P
との差が光の波長の整数倍の とき、2つの光は強く干渉し、スクリーン上で明るい部分になる。P
点での時間平均した光強度I (x )
は、a << L
およびx << L
を満足すれば、
ホイヘンスの原理による波の伝播
(a)球面波の場合,(b)平面波の場合
(a) 球面波
2次波の合成 波面
Σ3 Σ1Σ2
2次波の合成波面
(b) 平面波 Σ1
Σ2 Σ3
S S1
S2
L
P(x) θ x
( )
+
∝ x
L x a
I 2 λ π
cos
1
で与えられる。よって、スクリーン上での光強度の明暗の周期
∆ x
は、次式で与えられる。a x L L x
a ∆ π ∆ λ
λ
π = → =
2 2
電場の可干渉性
2つの光電波が互いに干渉するか否か(可干渉であるかどうか)は、以下の例で考えよう。Youngの実験と 類似の光源などの配置を考える。2 つの点光源
S
1, S
2から出伝播した光電場がスクリーン上で干渉するとしよ う。2つの電場の振幅、(角)周波数、波数が同じで、それぞれE
0, ω , k = 2 π / λ
であるとし、S
1, S
2からスク リーン上のある点P
までの距離をそれぞれx
1, x
2とする。その時、スクリーン上での光電場E
1( t ), E
2( t )
がそ れぞれ次式で与えられるとする。(c .c .
は、複素共役を意味する。x
を実数として、exp( ix ) = cos( x ) + i sin( x )
が成り立つ。)
. . )]
( exp[
) (
. . )]
( exp[
) (
2 2 0
2
1 1 0
1
c c kx
t i E
t E
c c kx
t i E
t E
+
−
−
−
=
+
−
−
−
=
φ ω
φ ω
その時、この2つの電場の干渉によるスクリーン上の光電場の強度は、光強度が光電場の2乗で与えられる事
(p.30を参照。ここでは、とりあえず認めよう。また、p.28の結果(最後の式)を利用する)から、
| )]
) (
cos(
1 [ 2
)]}
) (
( exp[
)]
) (
( exp[
2 {
)]) (
exp[
)]
( exp[
(
)]
( exp[
)]
( exp[
(
)) ( ) ( ( ) (
) ( ) ( ) ( ) ( ) ), ( (
2 1 2 1 2
0
2 1 2 1 0
2 1 2 1 2
0
2 2 0
1 1 0
2 2 0
1 1 0
2 2 1
2 2
1
φ φ
φ φ φ
φ
φ ω
φ ω
φ ω
φ ω
− +
− +
=
− +
− +
− +
−
− +
=
−
− +
−
−
×
−
−
− +
−
−
−
∝
+
∝
∝
→ +
=
x x k E
x x k i E x
x k i E
kx t i E kx
t i E
kx t i E
kx t i E
t E t E t I
t E t I t E t E t x P E
さて、電場の位相の中の定数項
φ
1, φ
2が時間的に安定なら、スクリーン上の光強度の明暗は、差x
1− x
2が周 期2 π / k = λ
で明暗となる干渉縞を示す事がわかる(図は、φ
1= φ
2の場合を示す。)。つまり、Young の実験において、異なる2つの光源
E
1( t ), E
2( t )
を用いた場合でも、同じ波長(周波数)の光源、かつφ
1− φ
2=
定数 であれば、スクリーン上にきれいな干渉縞(光強度の明暗)を観測する事が可能である。このように干渉縞が きれいに見える場合、2つの光電場は、互いに可干渉である(コヒーレンスがある)という。しかし、φ
1, φ
2が全く相関なくすばやく時間変動する場合、干渉縞の明暗の模様はスク リーン上で激しく移動するため、干渉縞が観測されない。このような 時、それらの光電場は、互いに干渉しない(コヒーレンスがない)と いう。
S1
)
1
( t E
)
2
( t E x
2x
1S2
P
単一スリットによる回折
波が障害物に当たったとき、波が障害物の裏側に回りこむ現象を回折という。右図の ように、小さな隙間AB(スリットという)を通過した光は障害物の裏側にも伝播し、ス リットの端Aのそばを通った光と、Bのそばを通った光が干渉することで、P点の光の 強さは、干渉の条件(位相差)により変化する。
今、下の図のように、幅
a
のスリットを通過して、十分遠方(L >> a
)にあるスクリーンでの光強度の分布を考える。スクリーン上での点
P
における光強度は、幅a
のスリット上の任意の点から点P
に来る全ての光の干渉の結果、与えられる。下の図で、点
P
、スリットの中心、およびスクリーンの中心で作られる角度をθ
とする。この時x << L
として、スクリーン上の点
P
での光強度は、以下の式で与えられる。( )
2sin
2x L x a x
I π λ
∝
スクリーン上での光強度分布
スリットによる光電場の干渉 計算
平面波である光電場が、スリットに垂直に入射する場合を考えよう。また、
a / L << 1 , x / L << 1
が成り立つ とする。パラメーターは、単一スリットのすぐ上の図と右図を参照のこと。スリット
AB
上での光電場は、場所によらず全て同 位相で、E ( t ) = A sin( ω t )
の時間依存性を持つとしよう。点
A, B
の中点を原点O
とする。スリットAB
間 の、原点O
から距離ξ
離れた点をQ ( ξ )
とする。ξ < 0
は原点
O
から点A
に向かう向きであり、ξ > 0
は原点O
から点B
に向かう向きである。この定義に従うと、) 2 /
( a
Q
A = ξ = −
、B = Q ( ξ = a / 2 )
である。原点
O = Q ( ξ = 0 )
からスクリーン上の点P
までの距離を
R
とすれば、任意の点Q ( ξ )
からスクリーンまでの距離は、
R + ξ sin θ
で与えられる。よって、スリ ット上の任意の点Q ( ξ )
での光電場がE sin( t ω )
であるなら、点
Q ( ξ )
から点P
に到達する光電場は、スリA B
P スリットによる回折
0
2λLa 4λL
-4λL a
a -2λL
a A
B a
L
P(x) θ x
単スリットでの回折
A
O
B
P
L θ
Q(ξ)
ξsinθ R
a
ット上の光電場より時間
( R + ξ sin θ ) / c
だけ遅れる。ここでc
は光電場の速度である。以上の事柄を考慮すると、スリットを通過後、スリットに垂直な方向からθ だけ傾いた方向に進む光電場は、
次の式で与えられる。(すぐ右上の、単一スリットの図を参照)
∫
∫
∞ +
∞
− +∞
∞
−
−
−
−
=
− +
=
ξ ξ ρ ω
θ ξ ω
ξ ξ θ ρ ω ξ
θ
c d t R A c
c d t R
A E
) sin (
sin
) sin (
sin )
(
(1)
ここで、
ρ ( ξ )
はスリットの分布関数であり、以下のようになる。(i)単一スリット (スリット幅
a
)
<
−
<
≤
≤
= −
) 2 / , 2 / (
0
) 2 / 2
/ ( ) 1
( ξ ξ
ξ ξ
ρ a a
a a
(2)
(ii)二重スリット(スリット間隔
a
。スリット自体の幅は十分小さいとする。)) 2 / ( ) 2 / ( )
( ξ = δ ξ − a + δ ξ + a
ρ δ (x )
はDiracのδ
関数(3)
δ
関数の性質:∫
−+∞∞f ( x ) δ ( x − x
0) dx = f ( x
0)
それぞれの場合について、
E ( θ )
と光強度分布I ( x )
を求めよう。(i)単―スリットの場合
微小な幅
d ξ
のスリットが、ξ = − a / 2
からξ = + a / 2
まで並んでいると考え、積分する。(2)式を(1)式に代 入して積分を計算する。x / L << 1
として、sin θ ≈ θ ≈ x L
の近似、およびλ = 2 c π / ω
を用いると、
−
−
−
−
−
−
=
−
−
−
−
=
⋅
⋅
−
−
−
=
−
∫
−c t R c
a c
t R c
a Ac
c t R c
d Ac c
t R A c
E
a
a a
a
θ ω ω ω
θ ω θ
ω
ω θ ξ ω θ
ξ ω ω
θ ξ θ ω
2 cos sin 2
cos sin sin
cos sin 1 sin
sin sin )
(
2 /
2 / 2
/
2 /
ここで、
ここで、
ここで、
ここで、
cos( a − b ) − cos( a + b ) = (cos a cos b + sin a sin b ) − (cos a cos b − sin a sin b ) = 2 sin a sin b
を用い、を用い、を用い、を用い、) 4 ( 2 sin
sin sin sin ) 2
(
=
−
c t R c
a
E cA ω θ ω ω
θ θ ω
となる。光強度は電場の2乗の1周期分の時間平均に比例するから、
T = 2 π / ω
として、( ) ( )
) 5 ( sin
2
1 sin 2
sin sin sin
2 1
2 2 2 2
0 0
2 2
2 2
−
−
−
=
−
=
∝ ∫ ∫
L x
a L x a a
A
c dt t R T
c a A c
dt T E
I
T T
λ π
λ π
ω ω θ
ω θ
θ ω θ
となる。 (5)式で、比例係数を省略すると(6)式が得られる。
( )
2sin
2x L x a x
I
∝ λ π
(6)
(ii)二重スリットの場合
(i)と同様に(3)式を(1)式に代入して、積分を行う。
) 7 ( )]
/ ( 2 sin[
cos sin 2
2 cos sin )]
/ ( sin[
2 cos ) ' sin(
2
) 2 /(
sin ,
/ '
: ) ' sin(
) ' sin(
sin ) 2 / sin (
sin ) 2 / sin (
)]
2 / ( ) 2 / ( sin [
sin )
(
−
−
−
−
⋅
=
−
=
=
=
−
=
− +
+
=
− −
+
− +
=
+ +
−
− +
=
+∞∫
∞
−
c R c t
A a
c c a
R t A
t A
c a
c R t t t
A t
A
c a t R
c A a t R
A
d a c a
t R A
E
θ ω ω
θ ω ω
φ ω
θ ω φ φ
ω φ
ω
ω θ ω θ
ξ ξ
δ ξ
θ δ ω ξ
θ
光強度分布は(7)式を2乗して時間平均をとれば得られる。
x / L << 1
として、sin θ ≈ θ ≈ x L
の近似、およびω
π
λ = 2 c /
を用いると、( )
+
∝
∝ x
L x a
L A a
x
I λ π
λ π 2
cos 1 cos
22 (8)
となる。
反射型回折格子(Grating)
反射型回折格子は非常に幅の狭い多数の溝が刻まれた鏡である。光が回折格子に入射すると、回折格子に刻ま れた溝によって、光はさまざまな方向に回折される。しかし、ある条件を満足する方向に、特に強く回折される。
ある波長
λ
の平面波の光が、格子間隔d
の回折格子に、入射角度θ
inで入射し、出射角度θ
outで回折格子から出てくる場合を考えよう。
θ
θ
outd θ
inθ
out反射型回折格子の模式図
①
①
②
②
θin、θoutとdの関係
光が回折格子に入射する時は、②の光線の光路が①の光線よりも
d sin θ
in(青い線分)だけ長い距離を移動する。一方回折格子からの出射時は、①の光線は、②の光線よりも
d sin θ
out(赤い線分)だけ長い距離を移動する。よって、入射・出射時の距離の差をとると、
λ θ
θ − = m ⋅
d (sin
outsin
in)
(m は整数) (1)を満たす方向
θ
out には、異なる溝からの光が干渉して強め合い、強い回折光が観測される。逆に(1)を満たさないような方向では干渉の結果弱め合い、特に右辺=
( m + 1 / 2 ) λ
の時、光強度は非常に弱くなる。m = 0
の時は 波長にかかわらずθ
out= θ
inであり、これは鏡面反射に等しい。分光において特に重要になるのはm = ± 1
に相 当する回折光(1次の回折光とよばれる)である。いまm = + 1
とすると、λ θ θ − sin ) =
(sin
out ind
(2)であり、
sin θ
out− sin θ
inを変化させることによって、異なる波長λ
を選択することができる。この原理を利用したのが回折格子型分光器である。下の図に分光器の構造を示す。入射スリットを通過した光 はコリメートミラーで平行光となり、回折格子に入射する。回折角は波長によって違うため、回折光は射出面で は異なる位置に集光される。射出面にスリットをおくことで一つの波長成分のみを取り出すことができる。
入射スリット
射出スリット 回折格子
集光ミラー コリメートミラー
回折格子型分光器の構造
マクスウェル(Maxwell)方程式
光は電磁波の一種である。以下で、電磁波のマクスウェル方程式の導出と説明を行う。マクスウェル方程式は、
次の(1)~(4)までの式をいう。(5)~(7)は、補助的な関係式。(
D
,E , H
,B
,P,i
は3次元ベクトル)(7) (6) (5)
) 4 ( 0
div
) 3 ( div
) 2 ( rot
) 1 ( rot
E i
H B
E D
B D
D i H E B
σ µ
ε
ρ =
=
=
=
=
∂ =
− ∂
∂
− ∂
=
t t
電気伝導度 透磁率、
誘電率、
電流密度 電荷密度、
磁束密度 磁場、
電場、
電束密度、
: :
:
:
:
: :
: :
σ µ
ε
ρ i
B H
E D
真空中での値:
ε
0= 8 . 854 × 10
−12(F/m), (C/V ⋅ m), µ
0= 4 π × 10
−7(H/m), (T ⋅ m/A) P
E D = ε
0+
P
:分極ベクトル 物質中に生じた単位体積あたりの電気双極子(微小な領域での平均をとろう)E P
E
P ∝ → = ε
0χ
、ε = ε
0( 1 + χ )
、χ
:電気感受率(異なる定義もある。
ε
0χ
:電気感受率χ
:比誘電率)I H B = µ
0+
I
:磁化ベクトル 物質中に生じた単位体積あたりの磁気双極子H I
H
I ∝ → = µ
0χ
m 、µ = µ
0( 1 + χ
m)
、χ
m:磁気感受率、磁化率(異なる定義。
µ
0χ
m:磁気感受率、磁化率χ
m:比磁化率)I
P,
の起源:外部から物質に電場E0を加えると、それに応じる形で、原子内の原子核と電子の位置の平衡点 からのずれや、正イオンと負イオンとの位置の平衡点からのずれなどが生じる。このような正負のイオンや原 子核・電子の位置のずれを電気双極子といい、pで表す。電荷− q
から電荷+ q
へ向かう位置ベクトルがrの 時、p=qrで与えられる。単位体積あたりの電気双極子pを全て集めた量(ベクトル)を、分極Pで表す。磁気双極子も同様に考える。外部から掛けられた磁場B0により誘起される単位体積あたりの磁気双極子を
I
で表わす。
補足:分極のとらえ方
単位体積[
m
3]あたりの電気双極子[c ⋅ m
]は、その単位で見ると、c ⋅ m/m
3= c / m
2となる。つまり、分極は、単位体積あたりの電気双極子ベクトルの和として定義もできるし、外部電場によって電気双極子が出来た 時の単位面積当たりの電荷の量としても定義もできる。
) , ( )
, ( )]
, ( rot [
) , ( )
, ( )]
, ( rot [ ), , ( )
, ( )]
, ( rot [
) , ) (
, ) (
, ) (
, ( div
rot div, ))
, ( ), , ( ), , ( ( ) , ( 3
t y A t x A t
t x A t zA t
t zA t y A t
z t A y
t A x
t t A
t A t A t A t
x y
z
z x
y y
z x
y z x
z y
x
x x
x A
x x
x A x
x x
A
x x x x
A
x x
x x
A
∂
− ∂
∂
= ∂
∂
− ∂
∂
= ∂
∂
− ∂
∂
= ∂
∂ +∂
∂ +∂
∂
=∂
= に対して、 は以下の演算
次元ベクトル