有限群の表現,対称群の表現の基礎
本間 泰史
∗概 要
このノートでは有限群の表現論および対称群の表現論の基本的なことを論 じる.
目 次
1 対称群 5
1.1 定義 . . . . 5
1.2 生成元と関係式 . . . . 6
1.3 関係式とあみだくじ . . . . 8
1.4 共役類と分割数 . . . . 11
1.5 符号 . . . . 14
2 対称式1(基本対称式) 15 3 有限群の表現論 21 3.1 定義 . . . . 21
3.2 完全可約性 . . . . 23
3.3 例 . . . . 25
3.3.1 有限可換群の表現 . . . . 25
3.3.2 3次対称群の表現 . . . . 25
3.4 指標 . . . . 28
3.5 自明表現への射影公式と応用 . . . . 31
3.6 表現の分類 . . . . 33
3.7 射影公式 . . . . 37
3.8 指標や射影公式の応用 . . . . 37
3.9 行列成分,シューアの直交関係 . . . . 40
3.10 群環 . . . . 42
3.10.1 群環と畳み込み . . . . 42
∗理科大理工
3.10.2 群環と行列成分 . . . . 45
3.10.3 群環と既約表現 . . . . 46
3.11 フーリエ変換 . . . . 49
3.12 誘導表現とフロベニウス相互律 . . . . 53
3.13 実構造.四元数構造 . . . . 60
4 対称群の表現論 65 4.1 既約表現の構成とヤング対称化作用素 . . . . 65
4.2 標準表現と交代テンソル積表現 . . . . 75
4.3 Frobenius formula . . . . 80
4.3.1 Frobenius forumla . . . . 80
4.3.2 次元公式 . . . . 83
4.3.3 hook length forumla . . . . 85
4.3.4 応用例 1 . . . . 87
4.3.5 応用例 2 . . . . 95
5 対称式2(シューア多項式) 98 5.1 定義 . . . . 98
5.2 対称式に対するいくつかの恒等式 . . . . 101
5.2.1 Giambelli の公式 . . . . 101
5.2.2 Newton の公式 . . . . 108
5.2.3 Pieri の公式 . . . . 112
5.2.4 発展: Littlewood-Richardson rule . . . . 115
5.3 Kostka 数 . . . . 116
5.3.1 Kostka 数 . . . . 116
5.3.2 コーシーの恒等式 . . . . 117
5.3.3 応用: Frobenius forumla への補題 . . . . 123
5.4 変数を増やす . . . . 127
5.4.1 involution ω . . . . 128
5.5 Skew シューア多項式 . . . . 131
6 Frobenius 公式の証明と応用 138 6.1 Frobenius 公式の証明 . . . . 138
6.2 応用 . . . . 143
6.2.1 応用1 :Littelwood-Richardson rule と誘導表現 . . . . 143
6.2.2 応用2 :Pieri’s rule と誘導表現 . . . . 148
6.2.3 応用3 :Murnaghan-Nakayama rule (指標の計算法) . . . . 149
6.2.4 応用4 . . . . 154
6.2.5 テンソル積の既約分解 . . . . 156
6.3 対称群の表現環と対称式の関係 . . . . 158
6.3.1 Hopf 代数 . . . . 158 6.3.2 対称式空間の Hopf 代数構造 . . . . 160
7 交代群 A
dの表現 165
7.1 | G/H | = 2 となる場合の制限表現 . . . . 165 7.2 交代群の表現 . . . . 169
8 Weyl 構成 179
8.1 シューア Functor . . . . 179
8.2 証明 . . . . 186
8.3 応用 . . . . 191
はじめに
このノートで述べることは,
1. 有限群の表現.
2. 対称式.
3. 対称群の表現論.
4. 交代群の表現論.
5. Weyl 構成.
です.このノートを書いた動機は,いろいろな事情から「 Fulton-Harris の表現論 の本 [1] の理解しよう」と思ったことです.この本は最初に有限群,対称群の表現 論がありまして,その後リー群やリー環の表現論に入ります(扱うの古典群).コ ンパクト群の表現論を理解するには,まず有限群の表現から勉強したほうが理解 しやすく,対称群という有限群の表現論を学べば, U (n), SU (n) の表現へと繋がり ます(よって GL(n, C ) , SL(n, C ) の正則表現へも繋がる).本当は,コンパクト 群の表現を自由に扱えるようになることが目的で読み始めたのですが,このノー トでは有限群,対称群の表現を扱います. (ノートの量が多くなってしまったので,
SU (n) の表現論は,またべつの機会で).
このノートの読み方としては,そのまま,はじめから順に読むのがよいんでしょ うが,有限群の表現論のみを勉強したいなら Section 3 を読む.対称式を勉強した いなら Section 2 と Section 5 を読む.対称群の表現論を勉強したいなら,すべて 読む.という方法がよいかと思います.もとの本 [1] が演習問題ばかりなので,こ のノートは,話題がばらばらになって,まとまりがないです.逆に,演習問題をと いたおかげで,このノートには具体例をたくさん書いてあります.その意味では,
一般論と計算法のどちらの勉強にもなる.また,ほとんどに証明がついてますが,
証明がついてないものは Littlewood-Ricahrdson rule などです(その証明は [2] を 参照.このノートを読んだあとなら難しくないと思う).
シューア多項式などの対称式は,いろんなところでお見かけする重要な話題で,
幾何へもいろいろと応用が利く話題です.そんなわけで,一回はまじめに勉強し なくてはと前から思っていただけに,このノートを作るのは,よい機会でした.こ のノートがあれば, Macdonald の [2] の第一部はすらすら読めると思います.また Fulton-Harris の本 [1] の第一部の解説にもなっています.[1] は演習問題が多いの で苦労するけど,表現論の具体的な計算のためにはよい本です.幾何,無限可積 分系,数理物理をやる人には役立つ本だと思う.僕自身は幾何が専門と称してい るので,間違いや勘違いはたくさんあることでしょう.数学的な間違いをみつけ たら,ご一報を.
本間 泰史
1 対称群
ここでは対称群についての基礎を学ぶ.
1.1 定義
集合 X に対する置換群とは X から X への全単射(置換)写像の全体であり,写 像の合成により群になるものである.
定義 1.1. X = { 1, 2, · · · , d } に対する置換群を d 次対称群とよび S
dと書く.
そして恒等写像である単位元を 1, id, e などと書く.
1. i ̸ = j に対して (i, j) ∈ S
dを i, j を入れ替えて, { 1, · · · , d } \ { i, j } を動か さない置換とする.これを i と j の互換という(ここで (i, j) = (j, i) に 注意).
2. (i, i + 1) のように.i, j が 1 だけ異なるものを隣接互換とよぶ.
3. 互いに異なる l 個の数 i
1, · · · , i
lに対して, (i
1, i
2, · · · , i
l) ∈ S
dを「 i
1を i
2に, i
2を i
3に , ・ ・ ・ , i
l−1を i
lに, i
lを i
1に移し, { 1, · · · , d } \ { i
1, · · · , i
l} を動かさない置換」と定義して l 次の巡回置換とよぶ.
例 1.1. 次にような σ ∈ S
6を考える.
σ = (
1 2 3 4 5 6 5 6 1 4 3 2
) . これは巡回置換 (1, 5, 3) と互換 (2, 6) の積である.
練習問題 1.2. 1. | S
d| = d! である.
2. σ を l 次巡回置換とすると,σ
l= 1 である.特に (i, j )
2= 1 である.
3.
σ = (
1 2 · · · i · · · j · · · d k
1k
2· · · k
i· · · k
j· · · k
d)
に対して,σ · (i, j) は σ · (i, j) =
(
1 2 · · · i · · · j · · · d k
1k
2· · · k
j· · · k
i· · · k
d)
となる.
1.2 生成元と関係式
群 G と G のいくつかの元 g
1, · · · , g
lがあって, G の任意の元が g
1, · · · , g
l, g
1−1, · · · , g
−l 1の積で表せるとき { g
1, g
2, · · · , g
l} を G の生成元とよび,G = ⟨ g
1, · · · , g
l⟩ などと書 く.次の目的は,対称群 S
dの生成元をもとめることである.
命題 1.3. 対称群 S
dは隣接互換 (1, 2), (2, 3), ・ ・ ・ ,(d − 1, d) で生成される.簡 単のため s
i= (i, i + 1) とすれば, S
d= ⟨ s
1, · · · , s
d−1⟩ である.またこれらの 生成元は次の関係式を満たす.
s
2i= 1 i = 1, · · · , d − 1 s
is
i+1s
i= s
i+1s
is
i+1i = 1, · · · , d − 2 s
is
j= s
js
i| i − j | ≥ 2
(1.1)
さらに,上の関係式で S
dのすべての関係式をかくことができる.つまり
S
d=
⟨
s
1, · · · , s
d−1
s
2i= 1 i = 1, · · · , d − 1 s
is
i+1s
i= s
i+1s
is
i+1i = 1, · · · , d − 2 s
is
j= s
js
i| i − j | ≥ 2
⟩
Proof. まず,隣接互換が生成元となることを簡単な例で証明する.
σ = (
1 2 3 4 4 3 2 1
)
∈ S
4を考える.まず隣接互換をかけて二行目の 4 を最も後ろへ持って行く.例えば,
(
1 2 3 4 4 3 2 1
)
(1, 2) = (
1 2 3 4 3 4 2 1
)
(
1 2 3 4 4 3 2 1
)
(1, 2)(2, 3) = (
1 2 3 4 3 4 2 1
)
(2, 3) = (
1 2 3 4 3 2 4 1
)
(
1 2 3 4 4 3 2 1
)
(1, 2)(2, 3)(3, 4) = (
1 2 3 4 3 2 1 4
)
となる.次に二列目の 3 を 3 番目にもっていく操作を行う.以下同様.すると (
1 2 3 4 4 3 2 1
)
(1, 2)(2, 3)(3, 4)(1, 2)(2, 3)(1, 2) = 1 = (
1 2 3 4 1 2 3 4
)
となる.よって
σ = (1, 2)
−1(2, 3)
−1(1, 2)
−1(3, 4)
−1(2, 3)
−1(1, 2)
−1= (1, 2)(2, 3)(1, 2)(3, 4)(2, 3)(1, 2)
となり σ は隣接互換の積でかけたことになる.
生成元の関係式 (1.1) は直接証明すればよい.
つぎに S
dが隣接互換を生成元とし,関係式 (1.1) で生成される群であることを 証明する.
G
d:= ⟨ s
1, · · · , s
d−1| (1.1) ⟩
とする. G
d∋ s
i→ (i, i + 1) ∈ S
dという写像を定義すれば, s
iの関係式は S
d内 の関係式と同じなので,これは準同形写像になる.さらに全射であることは隣接 互換が生成元であることからしたがう.これが同型であることを証明するために 次の補題を用いる.
補題 1.4. G
dの任意の元は
(s
2, s
3, · · · , s
d−1の積 )s
1s
2· · · s
k, (0 ≤ k ≤ d − 1) と書ける.
この補題を使って,帰納法により G
d∼ = S
dであることを証明する.仮定から G
d−1∼ = S
d−1である.よって | G
d−1| = (d − 1)! である.上の補題から G
dの位数は
| G
d−1| × d = d! 以下であることがわかる.一方 G
d→ S
dは全射準同形であるので,
| G
d| ≥ d! である.よって | G
d| = d! であり, G
d∼ = S
dが成立する.
proof of lemma. 帰納法で証明する. { s
2, · · · , s
d−1} と関係式で生成される群を G
d−1⊂ G
dとする.仮定から G
d−1の元は
σ = (s
3, · · · , s
d−1の積 )s
2s
3· · · s
k, (0 ≤ k ≤ d − 1) と書ける.このとき s
is
i+1s
i= s
i+1s
is
i+1を使って,
s
1((s
3, · · · , s
d−1の積 )s
2s
3· · · s
k)s
1= (s
3, · · · , s
d−1の積 )s
1s
2s
1s
3· · · s
k=(s
3, · · · , s
d−1の積 )s
2s
1s
2s
3· · · s
k= (s
2, s
3, · · · , s
d−1の積 )s
1s
2s
3· · · s
kとなる.
さて G
dの元は g
i∈ G
d−1の元を使って,g
1s
1g
2s
1g
3s
1· · · という形でかけてい る.例えば, g
1s
1g
2s
1g
3において,上の式を使って s
1の数を減らすことができ,
g
1s
1g
2s
1g
3= g
1(g
2′s
1g
′′2)g
3= g
1′s
1g
2′′と書ける.このようにして s
1の数をへらすこ とができ,最終的に s
1は一個残るか消えることになる.
s
1が消える場合にはそれでよい. s
1が一個残る場合には,ある g, g
′∈ G
d−1が 存在して gs
1g
′と書ける.そこで g
′を仮定を使って,書き換えれば,
gs
1g
′= gs
1(s
3, · · · , s
d−1の積 )s
2s
3· · · s
k= (g(s
3, · · · , s
d−1の積 ))s
1s
2s
3· · · s
kとなる.以上で補題が証明された.
例 1.5. 生成元のとりかたは,もちろん一つではないが,上の生成元はもっとも標 準的なとり方である.他の生成元のとり方としては,例えば,
S
d= ⟨ (1, 2), (1, 3), · · · , (1, d) ⟩ , S
d= ⟨ (1, 2), (1, 2, · · · , d) ⟩
などがある(二番目は,群 S
dがたった二つの元から生成されることを意味する).
Proof. 二番目を証明する.
(1, 2, · · · , d)(1, 2) = (1, 2)(2, 3)(3, 4) · · · (d − 1, d)(1, 2) = s
1s
2s
3· · · s
d−1s
1=s
1s
2s
1s
3· · · s
d−1= s
2s
1s
2s
3· · · s
d−1よって (1, 2, · · · , d)(1, 2)(1, 2, · · · , d)
−1= s
2= (2, 3) である.また s
1(s
1· · · s
d−1) = s
2· · · s
d−1である.そこで
(1, 2)(1, · · · , d)(2, 3) { (1, 2)(1, · · · , d) }
−1= (s
2s
3s
4· · · s
d−1)s
2(s
d−1· · · s
3s
2)
=s
3s
2s
3s
4· · · s
d−1s
d−1· · · s
3s
2= s
3以下同様にすれば,すべての隣接互換を (1, 2), (1, 2, · · · , d), (1, 2, · · · , d)
−1の積で 書けることがわかる.
また一番目の { (1, 2), (1, 3), · · · , (1, d) } が生成元になることは,
(1, k)(1, k − 1) · · · (1, 3)(1, 2) = (1, 2, · · · k)
であるので, (1, 2), (1, 2, · · · , d) ∈ ⟨ (1, 2), (1, 3), · · · , (1, d) ⟩ となることからわかる.
1.3 関係式とあみだくじ
隣接互換の関係式の意味をしらべよう.
そのために次の s
2i= 1 という関係式だけ除いた群を考える.
B
d=
⟨
s
1, · · · , s
d−1{ s
is
i+1s
i= s
i+1s
is
i+1i = 1, · · · , d − 2 s
is
j= s
js
i| i − j | ≥ 2
⟩ .
これを組紐群とよぶ.( B
dは無限群であることに注意.たとえば B
2= ⟨ s
1⟩ は B
2∋ s
k17→ k ∈ Z により Z に同型である).この幾何学的な意味を考えるよう.
{ 1, · · · , d } からなる頂点を二組考えて,つぎのように捩れていてもよいが上から下
へ向かう組紐で結ぶことにする(下は B
3の元 s
1s
2s
1s
2s
1を表している).
1
1
2
2
3
3 s1
s2
s1
s2
s1
このような組紐の形を B
dの元で表すのである.まず下右図に s
iを対応させる.
ここで上下関係を入れていることに注意.このとき s
−i 1は下左図のようになる.実 際, s
is
−i 1は絡んでいない紐になる(ほどける)ことがわかり, s
is
−i 1= 1 となる
(下左図).
i
i
i
i i+1
i+1
i+1
i+1 si si-1
i
i
i
i i+1
i+1
i+1
i+1
頂点 { 1, · · · , d } と頂点 { 1, · · · , d } を結ぶすべての組紐が s
1, · · · , s
d−1, s
−11, · · · , s
−d−11の積で表せることは直感的に明らかであろう.そして上でのべた関係式をみたす ことがわかる.このように組紐群 B
dはまさに組紐に対応しているのである.
練習問題 1.6. 他の関係式 s
is
i+1s
i= s
i+1s
is
i+1及び s
is
j= s
js
i( | i − j | ≥ 2)を絵 を書いて確かめよ.
さて,組紐群の場合には s
2i̸ = 1 となる.この組紐群に s
2i= 1 という関係式いれ たものが S
dである.これは組紐を紐の上下関係をなくしたものである(平面へ射 影する).実際 s
i= s
−i 1であるので上下は関係ない.
例えば,最初にあげた組紐の上下関係をなくせば,下左図ようになる.これを,
あみだくじで書いたものが下右図である. (あみだくじの各横棒が隣接互換である).
1
1
1
1 2
2 2
3 2
3 3
3
そして,上の図は置換
σ = (
1 2 3 1 3 2
)
= (2, 3)
である.また上の図は σ が隣接互換の積で書けることも表している.実際 σ = (1, 2)(2, 3)(1, 2)(2, 3)(1, 2)
である.一般の場合には
σ = (
1 2 · · · n i
1i
2· · · i
n)
に対して,まず 1, · · · , n を上の段と下の段にかき,上の段の k と下の段の i
kを各
k に対して結ぶ.さらに,その図(組紐で上下関係がないものである)をあみだく
じの形に綺麗に書き直す.あみだくじの横棒を互換とみなして上から順にかけて
いけば σ を得ることができる.このように,あみだくじで書くことにより, S
dの
任意の元が隣接互換の積で必ず書けることの別証明を得ることができる.さらに
{ s
i}
iの関係式は,あみだくじを次のように変換しても, i, i + 1, i + 2 などの行き
先は変化しないことを意味する.
i
i
i
i i
i
i
i i+1
i+1 i+1
i+1
i+1
i+1 i+1 i+1
i+2
i+2
i+2
i+2 i
i i+1
i+1 i+1 i i+1 i
j
j j
j j+1
j+1 j+1
j+1
練習問題 1.7. あみだくじを使って, (1, 2, · · · , d − 1, d) = (1, 2)(2, 3) · · · (d − 1, d) であることを証明せよ.
また,ちょっと面倒だが σ = s
i1· · · s
ikと σ
′= s
j1· · · s
jlが同じ置換なら,上のあ みだくじ上の変換をもちいて σ
′を s
i1· · · s
ikの形にすることが直感的に理解できる
(これは G
d→ S
dが単射であることを意味する.真面目な証明はすでに述べた).
補足 1.8. わざわざ組紐群から考えたが,初めからあみだくじで考えてもかまわ ない.
1.4 共役類と分割数
次に S
dの共役類について考える.
定義 1.2. 群 G 内で同値関係を定める. g, g
′∈ G に対して g ∼ g
′とは g = xg
′x
−1となる x ∈ G が存在すること.これは同値関係であることがわかるので,同値類 に分ける.この同値類のことを G の共役類とよぶ.
S
dの共役類をもとめてよう. σ ∈ S
dに対して, X = { 1, · · · , d } での σ による 軌道を求めてみる. k ∈ X に対して X は有限集合なので σ
l(k) = k となるような 最小の自然数 l が必ず存在する.つまり k の軌道は { k, σ(k), · · · , σ
l−1(k) } である.
このようにして X を軌道分解することができる.この軌道分解の意味するところ は次のよう.
σ = (
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 7 20 3 12 9 6 4 13 5 2 14 1 15 11 8
)
の軌道は
{ 1, 4, 7, 12 } , { 2, 10 } , { 3 } , { 5, 9 } , { 6 } , { 8, 13, 15 } , { 11, 14 }
である.そこで
σ = (1, 7, 4, 2)(8, 13, 15)(2, 10)(5, 9)(11, 14)(3)(6)
と巡回置換の積でかける.ここで (3) などは 3 を 3 にうつし,他を動かさないことを 表しているが,単に恒等写像のことである.このように便宜上, 1 次巡回置換 (k) ( = 恒等写像)も表しておく.また,上の巡回置換の積において互いに共通部分がないこ ともわかる.よって特に積の順序は関係ない.上のような表示をサイクル表示とよ ぶ.さらに巡回置換の長さは 4, 3, 2, 2, 2, 1, 1 であるが,これを並べて [4, 3, 2, 2, 2, 1, 1]
と書き σ のサイクルタイプとよぶ.または順番を逆にして [1, 1, 2, 2, 2, 3, 4] と書く こともある.今の場合には 15 の分割 15 = 4 + 3 + 2 + 2 + 2 + 1 + 1 となっている.
さて,同じサイクルタイプの元で
σ
0= (1, 2, 3, 4)(5, 6, 7)(8, 9)(10, 11)(12, 13)(14)(15)
なるものを考える. σ
0を一行目に σ を二行目に書いた次の置換を考える τ =
(
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 7 4 2 8 13 15 2 10 5 9 11 14 3 6
)
このとき,σ = τ σ
0τ
−1となることがわかる.つまり [σ
0] = [σ] と同じ共役類に属 することがわかる.このようにサイクルタイプにより共役類は分類できる.
Proof. 任意の σ ∈ S
dに対して σ(k
1, k
2, · · · , k
l)σ
−1= (σ(k
1), σ(k
2), · · · σ(k
l)) であ ることが簡単にわかる.よって τ σ
0τ
−1= τ(1, 2, 3, 4)τ
−1τ (5, 6, 7)τ
−1· · · τ (15)τ
−1= σ となる.同様に,サイクルタイプが異なれば,互いに共役でないことも明らか.
さて, S
dにおいてサイクルタイプが [d] の共役類の代表元の個数は (d − 1)! = d!/d である.実際, 2, · · · , d の数を適当に並べて k
2, · · · , k
dとすれば, (1, k
2, · · · , k
d) は サイクルタイプが [d] であり,互いに異なる元となる.またサイクルタイプが [d]
の元はかならずこの形である.よって代表元の個数は (d − 1)! である.
一般の共役類を考える. k サイクルが i
k個あるとする.つまり d = ∑
dk=1
ki
kで,
サイクルタイプを [d, · · · , d
| {z }
id
, d − 1, · · · , d − 1
| {z }
id−1
, · · · , k, · · · , k
| {z }
ik
, · · · , 1, · · · , 1
| {z }
i1
]
とする.このサイクルタイプの代表元の個数は d!
{ d
idi
d! }{ (d − 1)
id−1i
d−1! } · · · { k
iki
k! } · · · { 1
i1i
1! }
となる.
Proof. 具体例でのみ証明しておこう.サイクルタイプが [4, 3, 2, 2, 2, 1, 1] であると する.このサイクルタイプの元を得るには
(k
1, k
2, k
3, k
4)(k
5, k
6, k
7)(k
8, k
9)(k
10, k
11)(k
12, k
13)(k
14)(k
15)
と { 1, · · · , d } までの数字を適当に入れていけばよい.その入れ方は 15! 個ある.しか
し重複するものがある.まず 4 次巡回置換において (k
1, k
2, k
3, k
4) は (k
2, k
3, k
4, k
1) などと同じものが 4 つある.そこで 4 で割る必要がある. 3 次巡回置換 (k
5, k
6, k
7) についても同様.次に 2 次巡回置換(互換) (k
8, k
9)(k
10, k
11)(k
12, k
13) を見てみる.
今,互換は 3 個あるので,上と同様の理由により 2
3で割る必要がある.さらに (k
8, k
9)(k
10, k
11)(k
12, k
13) = (k
10, k
11)(k
8, k
9)(k
12, k
13) なので, 3 個の順列の数 3! で 割る必要もある. 1 次巡回置換(恒等写像)についても同様である.よってサイク ルタイプが [4, 3, 2, 2, 2, 1, 1] の共役類の代表元の数は
15!
(4
11!)(3
11!)(2
33!)(1
12!) となる.
命題 1.9 ( 対称群の共役類 ). S
dの共役類はサイクルタイプで決定できる.よっ て共役類の全体と d の分割は一対一に対応する.特に共役類の個数は d の分割 数 p(d) (箱の数が d のヤング図形の数)に等しい.ここで d の分割数とは d の 分割 d = λ
1+ · · · + λ
d( λ
1≥ λ
2≥ · · · ≥ λ
d≥ 0 )の数である(ヤング図形と の対応は後述).さらに,サイクルタイプが
i = [d, · · · , d
| {z }
id
, d − 1, · · · , d − 1
| {z }
id−1
, · · · , k, · · · , k
| {z }
ik
, · · · , 1, · · · , 1
| {z }
i1
]
の共役類を C
iとすれば,
| C
i| = d!
{ d
idi
d! }{ (d − 1)
id−1i
d−1! } · · · { k
iki
k! } · · · { 1
i1i
1! } . また i ⊢ d で i が d の分割であることを表せば,
d! = ∑
i⊢d
| C
i| が成立する.
補足 1.10. かなり後の系 3.29 で d! = ∑
λ⊢d
(dim V
λ)
2なる式を証明する.ここで
V
λは λ に対応する S
dの既約表現である.かなり似た式だが, d
2λと | C
λ| は一致す
るわけではない.
1.5 符号
対称群 S
dの元は互換の積でかならずかけるのであった.そこで
定義 1.3 ( 符号 ). 偶数個の積でかけるものを偶置換,奇数個の積で書けるものを 奇置換という.そして σ ∈ S
dに対して,その符号を
sgn(σ) =
{ 1 σ が偶置換
− 1 σ が奇置換
として定義する.
これが well-defined であることを確かめよう.実際,互換の積への分解は一通り
ではないので,偶奇が変わらないことを確かめる必要がある.
Proof. sgn : S
d→ Z
2= {± 1 } という群準同形を次で定義する.生成元 s
i= (i, i+1) に対して ϵ
i= sgn(s
i) = − 1 とする. ϵ
iは関係式 (1.1) を満たすことがわかるので,
sgn は準同形として矛盾無く定義でき, S
d全体へ拡張できる.
さて互換は, s
iの奇数個の積でかならず書けることがわかる.実際あみだくじ を使えば,
(i, j) = (i, i + 1) · · · (j − 2, j − 1)(j − 1, j)(j − 2, j − 1) · · · (i + 1, i + 2)(i, i + 1) となるので奇数個の積でかける.そこで sgn((i, j)) = − 1 である.よって準同形 sgn : S
d→ Z
2が well-defined なので (i, j) はどのように s
iの積で表示しても奇数 個の積となる.同様に,一般の元を互換の積であらわしたとき偶数,奇数は変化 しない.そして準同形 sgn : S
d→ Z
2は先に与えた符号と一致する.
補足 1.11. 符号は,あみだくじ表示を行って,交点数を数えればよい(交点は隣
接互換であったので).
例 1.12. l 次の巡回置換の符号は ( − 1)
l−1である.
定義 1.4 ( 交代群 ). 偶置換全体(つまり ker sgn )は正規部分群となる.それを A
dと書き d 次交代群とよぶ.明らかに S
d= A
d∪ (1, 2)A
dであり, | A
d| = d!/2 .
交代群の表現は Section 7 で扱う.
2 対称式1(基本対称式)
ここでは,対称式に対する基本的な事柄を学ぶ.シューア多項式や完全対称式 などについてのより深い話は Section 5 で述べる.
d 次対称群 S
dを d 変数多項式環 C [x] = C [x
1, · · · , x
d] へ作用させる.まず座標 (x
1, · · · , x
d) に対して, σ(x
1, · · · , x
d) = (x
σ−1(1), · · · , x
σ−1(d)) とする.また x の関 数 f (x) = f (x
1, · · · , x
d) に対して, (σf )(x) = f(σ
−1x) として作用させれば,これ は関数空間への対称群の作用になる. (作用や表現については Section 3 を見よ).
そこで, f(x) ∈ C [x] に対して,
(σf )(x
1, · · · , x
d) = f(x
σ(1), x
σ(2), · · · , x
σ(d)) と作用させることになる.また,
(σf g)(x) = (σf )(x)(σg)(x)
であるので,作用は多項式空間の環構造も保つことに注意する.
定義 2.1 ( 対称式 ). f (x) ∈ C [x] が対称式または対称多項式とは, σf = f ( ∀ σ ∈ S
d) となること.また対称式の全体( C [x] の部分環)を S[x] = S[x
1, · · · , x
d] と書く.
対称多項式の基本的な基底とし,基本対称式を導入する.
定義 2.2 ( 基本対称式 ). 基本対称式 { e
0(x) = 1, e
1(x), · · · , e
d(x) } を
∏
d i=1(t − x
i) =
∑
d k=0( − 1)
d−ke
d−k(x)t
kにより定義する(解と係数の関係を思いだそう).または,
∏
d i=1(1 + x
it) =
∑
d k=0e
k(x)t
kにより定義する.
例えば.
e
1(x) = x
1+ · · · + x
d,
e
2(x) = x
1x
2+ x
2x
3+ · · · x
d−1x
d= ∑
i<j
x
ix
j,
· · · ·
e
d(x) = x
1· · · x
dとなり,一般には,
e
r= ∑
1≤i1<i2<···<ir≤d
x
i1x
i2· · · x
irとなる.
この基本対称式が対称式の代数的な基底となることを証明したい.そこで,次 の軌道和対称式を定義する. λ = (λ
1, · · · , λ
d) ∈ ( Z
≥0)
dに対して ,
M
λ(x) = 1 c(λ)
∑
σ∈Sd
σx
λ= 1 c(λ)
∑
σ∈Sd
σ(x
λ11· · · x
λdd) = 1 c(λ)
∑
σ∈sd
x
λσ(1)1· · · x
λσ(d)dとする.ここで 1/c(λ) は,ある定数で, x
λ11· · · x
λddの係数が 1 となるように調節し ている.そこで,
M
λ(x) = ∑
α
x
α11· · · x
αddと定義してもよい.ここで和は (λ
1, · · · , λ
d) のすべての異なる置換 α = (α
1, · · · , α
d) でとっている
λ
1≥ · · · ≥ λ
d≥ 0 となる λ の全体を P
+とすると, { M
λ| λ ∈ P
+} は S[x] のベ クトル空間の基底になる.
Proof. f を対称式として, f = ∑
a
νx
ν11· · · x
νddとする. (ν
1, ν
2, · · · , ν
d) を辞書式順 序で並べたて,最初の項を a
µx
µ11· · · x
µddとする.このとき ∑
σ
σ(x
µ) を考えるとこ れは対称式である.これをさらに辞書式で並べれば, µ
1≥ · · · µ
d≥ 0 となる項が 第一項であるので,これは M
µ(x) である. f (x) − a
µM
µ(x) は対称式である.この 第一項は a
µ′x
µ1′1· · · x
µd′dを考えるとき,µ > µ
′である.よって,同じ議論を繰り返 せば, f (x) は { M
λ| λ ∈ P
+} の線形結合でかける.また { M
λ| λ ∈ P
+} が一次独立 であることは,明らかであろう.
定理 2.1 ( 対称式の基本定理 ). 基本対称式は S[x] の代数的に独立な基底であ る.つまり
1. 対称式は基本対称式の多項式でかける.
2. 基本対称式の間には多項式関係は存在しない.
別の言い方をすれば,
C [y
1, · · · , y
d] ∋ f (y
1, · · · , y
d) 7→ f (e
1(x), · · · , e
d(x)) ∈ S[x]
は環同型となる.