最適リバランス戦略における乖離許容幅の決定方法 | 公的年金積立金運用への応用 | 枇々木 規雄É, 山本 零y 平成 25 年 6 月 24 日 和文概要 取引コストを考慮した最適資産配分問題に対し、理論的な研究が様々行われているが、基本的に は 2 資産もしくは 3 資産を対象としている。一方、年金運用や投資信託などの実際の運用においては伝統的 4 資産とキャッシュの 5 資産は必須であり、Leland(1999) などの先行研究で用いられている特異的確率制御問題 に対する HJB 方程式などの連続時間モデルをベースにしたアプローチでは限界がある。一方、実務での利用 を考えた場合、乖離許容幅はルールとして決めておくことが多く、時間に依存しない「固定」ルールで、政策 ポートフォリオに対して「対称」とする方が分かりやすい。本研究では枇々木ら (2013) で提案された DFO に よる乖離許容領域を求める手法を応用し、基本ポートフォリオに対して、固定で対称の乖離許容幅を持つ N資 産を対象とした問題を解くための方法を示す。具体的には公的年金積立金運用における 5 資産の有限期間・離 散時間モデルに対して適用し、キャッシュの上下限制約も追加した乖離許容幅の決定問題を解き、その有用性 を検証する。上下限制約を追加すると、乖離許容幅内であってもリバランス調整が必要であることを明らかに し、それも考慮した計算アルゴリズムを提案している。時間間隔や年数の違いによる影響に加え、比例取引コ スト率、トラッキング・エラー係数に対する感度分析も行った。さらに、有限期間における時間依存の最適な 乖離許容幅と固定の乖離許容幅も比較する。様々な分析の結果、運用実務における問題に対しても DFO 手法 が有用であることを示すことができた。 1. はじめに 公的年金積立金運用では、各資産の期待収益率やリスクなどを考慮した上で、基本となる資産構成割合 (以 降、基本ポートフォリオ) を定め、これに基づき管理を行うことが要請されている。企業年金の運用において も、個々の年金基金は成熟度や予定利率の違いによって水準は異なるものの、ほとんどの年金基金が基本ポー トフォリオを定めて運用を行っているという点では同様である。各資産の構成割合は何もしないと、時間の経 過とともに基本ポートフォリオから乖離する。一方、基本ポートフォリオを維持するためには、リバランスを 行えばよいが、取引コストがかかる。このように、基本ポートフォリオからの乖離と取引コストの間にはト レードオフの関係があるため、乖離許容幅を決めて、リバランスを制御している。公的年金積立金運用におけ る基本ポートフォリオと乖離許容幅を例として挙げると、表 1の通りである1。 表 1: 公的年金積立金運用における基本ポートフォリオと乖離許容幅 資産クラス 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産 基本ポートフォリオ 67% 11% 8% 9% 5% 乖離許容幅 Ü8% Ü6% Ü5% Ü5% なし 公的年金積立金運用に限らず、実務においては平均・分散モデルを用いて基本ポートフォリオを求めている 場合が多いが、乖離許容幅がどのように決められているかは不明である。 É慶應義塾大学 理工学部 管理工学科, E-mail: [email protected] y株式会社 三菱 UFJ トラスト投資工学研究所 (MTEC) 1年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) は 2013 年 6 月 7 日に中期計画を変更した。検証に用いられたパラメータとして、各資産の 期待リターンは据え置かれたが、リスク (標準偏差) と相関係数は新しい値に変更された。その結果、基本ポートフォリオも以下のように 変更された。乖離許容幅は変更されていない。 国内債券: 60%, 国内株式: 12%, 外国債券: 11%, 外国株式: 12%, 短期資産: 5%(変更なし) 本研究は変更以前に行われたため、変更前の値を用いている。
取引コストを考慮して、最適な乖離許容幅の決定とリバランス戦略を求める問題に対して様々な理論的な研 究が行われている。Leland[10] は 2 つのリスク資産、Leland[11] は無リスク資産を含む 3 資産以上を対象に連 続時間モデルによる最適リバランスを決定する問題を特異的確率制御問題として定式化し、数値解を導く方法 を示している。取引コストとトラッキング・エラーの定数倍の和を目的関数として最小化する問題を解いてい る。Donohue and Yip[5] は Leland[11] のモデルを用いて、感度分析や様々なリバランス手法の比較を行って いる。Pliska and Suzuki[15] は Leland[11] を拡張したモデルを提案している。取引コストとして比例的部分と 固定的部分の両方を取り扱って、2 資産を対象としたインパルス制御問題の定式化を行い、乖離によるリター ンからトラッキング・エラーと取引コストを引いた目的関数を最大化する問題を解いている。
一方、CRRA 型効用関数最大化問題に対する有限期間モデルに関する研究もいくつか行われている。連続 時間の枠組みで、Liu and Loewenstein[12] は 1 つのリスク資産と無リスク資産の 2 資産問題を取り扱い、HJB 方程式を解いて、期間が確率的な場合に解析解が得られることを示している。Lynch and Tan[13] は 2 つのリ スク資産と無リスク資産の 3 資産を対象として、リスク資産のリターン予測が可能な場合の問題を定式化し、 固定と比例の取引コストを考慮した最適取引戦略を求めている。Atkinson and Ingpochai[1] は比例取引コス トを考慮し、N個のリスク資産と無リスク資産を対象とした問題を解いている。具体的な数値例としては 2 つ のリスク資産と無リスク資産の 3 資産を対象にして、リスク資産の分散が確率的である場合の最適資産配分に 対する効果を示している。一方、離散時間の枠組みで、Gennotte and Jung[6] は 1 つのリスク資産と無リス ク資産で構成される 2 資産を対象として、問題を解いている。2 項格子モデルを用いて、時間依存の乖離許容 幅を数値解として導出している。Boyle and Lin[2] は Gennotte and Jung[6] を拡張し、乖離許容境界の解析解 を示している。このようにいくつかのタイプの問題を取り扱っているが、基本的には 2 資産もしくは 3 資産を 対象としている2。しかし、年金運用や投資信託などの運用においては伝統的 4 資産とキャッシュの 5 資産は必 須であり、特異的確率制御問題に対する HJB 方程式やインパルス制御問題に対する準変分不等式などの連続 時間モデルをベースにしたアプローチでは限界がある。一方、これらの有限期間モデルで用いられている効用 関数は実務において取り扱いにくく、さらに実際の資産運用現場では基本ポートフォリオ (政策ポートフォリ オ) が決められていて、それをもとに運用する場合が多い。また、連続的にはリバランスを行うことができな いため、離散時間でモデル化する必要もある。そこで、本研究では枇々木ら [8] と同様に、取引コストとトラッ キング・エラーのトレードオフを直接取り扱うことができる Leland モデルの枠組みで、有限期間・離散時間 モデルで問題を解くために、柔軟に問題を記述できる数理計画アプローチの一つである DFO(derivative free optimization) 手法を用いた乖離許容幅の決定問題を考える。 枇々木ら [8] は Leland モデル [11] に対する有限期間・離散時間のモデルを定式化し、DFO を用いて問題を 解き、その有用性を示している。有限期間問題に対する最適乖離許容境界は時間に依存する。しかし、実務で の利用を考えた場合、乖離許容幅はルールとして決めておくことが多く、実務担当者が理解するためには時間 に依存しない「固定」ルールで、政策ポートフォリオに対して「対称」とする方が分かりやすい。公的年金積 立金運用も表 1のように固定で対称の乖離許容幅を設定している3。そこで、本研究では、Leland モデルの枠 組みで、公的年金積立金運用の乖離許容幅の設定方法のように、基本ポートフォリオに対して、固定で対称の 乖離許容幅を持つ N 資産を対象とした問題を解くための方法を示す。また、公的年金積立金運用において、実 際に想定されているパラメータを用いて、5 資産を対象とした問題を解く。表 1で設定されている乖離許容幅 についても考察を行う。ただし、有限期間における時間依存の最適な乖離許容幅に対する検討も重要であり、 固定の乖離許容幅と比較して議論する。 本研究における貢献は以下の 2 点である。 (1) 実際の資産運用を意識した最適解の導出 先行研究では実際の資産運用が意識されていないため、実務において設定されるような乖離許容幅を対称 とする問題に対する最適解を導出したモデルは存在しない。本研究では公的年金積立金運用を対象として 5 資産問題を解いているが、ある程度、資産数が増加しても最適解を導出することが期待できる。 (2) リバランス調整アルゴリズムの組み込み 乖離許容幅を設定しない資産 (キャッシュ) に上下限制約を設定する場合、たとえ乖離許容幅の範囲内にあっ たとしても、リバランス調整をする必要が生じる場合がある。本研究では先行研究では考慮されていないこ の問題を明らかにし、その計算アルゴリズムを示す。 2一般に N 資産としているが、数値例としては無リスク資産を含めて 3 資産までである。 3リバランス手法を比較した論文においても、たとえ対象期間が有限でも固定で対称の乖離許容幅を採用している。
本論文の構成は以下の通りである。2節では上下限制約を設定する場合に考慮すべき点として、乖離許容幅の 範囲内でもリバランス調整が必要なことを明らかにするとともに、シミュレーション・アルゴリズムを記述す る。3節では公的年金積立金運用へ適用するために、計算の前提として公表されているパラメータを用いて、 最適な乖離許容幅を決定する問題を解き、公的年金積立金運用に対する基本ポートフォリオの乖離許容幅につ いて検討する。4節では有限期間における時間依存の乖離許容幅を導出し、固定戦略の乖離許容幅と比較する。 5節ではまとめと今後の課題を述べる。 2. 乖離許容幅の決定問題とモデル化 本研究では枇々木ら [8] と同様に、DFO 手法を用いて乖離許容幅の決定問題を解く。DFO 手法とは目的関数 の微分についての情報を用いずに数理計画問題を解く手法の総称である4。DFO 手法では決定変数が少なく、 目的関数が凸である問題に対しては精度良く最適解を求めることができる。Leland[11] の問題ではリスク資産 数が N の場合、決定変数の数は 2NN と指数的に増える。しかし、表 1に示すように公的年金積立金運用の乖 離許容幅は基本ポートフォリオに対して対称であり、決定変数の数はリスク資産数と同じ数の N に限定され る。このように実務で利用する場合には決定変数の数をある程度限定できるので、このタイプの問題は DFO 手法と相性の良い問題である。 DFO 手法で最適解を求めるために、目的関数を計算するシミュレーションのアルゴリズムを記述する。 Leland[11] で用いられているリスク資産過程を離散化し、モンテカルロ法を用いて正規乱数 "iを生成して、資 産価格を計算する。 ÅSi Si = ñiÅt + õi p Åt"i; "iò N(0; 1) (1) correl("i; "j) = öij (2) ここで、Si は資産 i の価格、ñi は期待収益率、õi は収益率の標準偏差、öij は資産 i と j の収益率の相関係 数を表す。リスク資産価格からその比率を計算し、ルールに基づいてリバランスを行う。政策ポートフォリオ が所与で、取引コストとトラッキング・エラーの和を最小化して、乖離許容幅を求めるモデルを記述する。N 資産の中で、資産 N は乖離許容幅を設定しない資産とし、その下限を LN、上限を UN とする5。 2.1. 上下限制約を設定する場合に考慮すべき点 年金運用においては、効率的な資産運用を目指すために、キャッシュ(短期資産) に上下限制約を設ける場合 が多い。上下限制約を設定する場合、ある一つの資産が乖離許容領域を超えて、領域に戻す調整を行うと、た とえ他の資産が乖離許容領域内にあったとしても、他の資産の調整をする必要が生じる場合がある6。表 2の例 で考えてみる。 表 2: 乖離許容領域内の資産のリバランス調整の必要性 資産クラス 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産 領域の幅 59~75% 5~17% 3~13% 4~14% なし 0 時点 67% 11% 8% 9% 5% .. . ... ... ... ... ... t 時点 53% 19% 13% 14% 1% リバランス (1) 59% 17% 13% 14% Ä3% リバランス (2) 59% 15% 11% 12% 3%
4Conn, Scheinberg and Vicente[3], Nocedal and Wright[14] の第 9 章を参照されたい。本研究では、(株) 数理システム社の数理計 画法パッケージ NUOPT のアドオンである NUOPT/DFO[17] に実装されている「目的関数を近似した 2 次のモデル関数を作成し部分 問題を逐次的に解いて解を求める手法」を利用する。 5表 1のように公的年金積立金運用の場合、短期資産を対象とする。短期資産は支払いに対応するためにある程度保有しておく必要が ある。その一方で、効率的な資産運用のためには短期資産を多く保有せずに、リスク資産へ投資することが必要である。上下限を設定し ない場合には LN= 0, UN= 1 とすればよい。 6連続時間モデルではたとえある一つの資産が乖離許容領域を超えたとしてもすぐに領域に戻すため、乖離許容領域内にある他の資産 を調整する必要がない。ただし、LN> 0 であれば、連続時間モデルであっても調整する必要が生じる場合がある。
0 時点では基本ポートフォリオを持つとし、短期資産の下限を LN = 3% とする。資産価格が変動し、t 時 点で国内債券が 53%、国内株式が 19%となり、領域を超えたとしよう。そのとき、リバランス (1) のように、 国内債券は下限の 59%に、国内株式は上限の 17%にリバランスを行うが、外国債券と外国株式は領域内のた め、リバランスを行わない。その結果、短期資産は Ä3% となるため、6% 分の再調整が必要となる。これは 領域の下限を大幅に下回る資産が領域の下限になるまで投資比率を増やしたためである。もし、基本ポート フォリオを上回っている他の資産を減らすことによって回避しないと、乖離許容幅を設定しない短期資産以外 の資産の合計が 1 Ä LN を越えることになる。再調整の方法として、たとえば、リバランス (2) のように、た とえ領域内だとしてもそれぞれ 2%ずつ比率を下げることにより、すべての資産を領域内に納めることができ る。このように、最適化を行うシミュレーションの中に再調整を含めて乖離許容幅を決定するアルゴリズムを 組み込む必要がある。 そこで、本研究では、短期資産の下限を下回る場合、以下の再調整アルゴリズム (ルール) を組み込むことに する7。 (1) 再調整が必要な超過比率 EW を求める。 (2) 政策比率を上回る資産の集合 Iとその中に含まれる資産 i の投資比率と政策比率の差 EXi を計算する (少 なくても 1 つの資産は政策比率を上回る)。 (3) 以下の条件を満たす資産 i の削減比率 Åwiを求めるために、各時点の各パスごとに、取引コストとトラッ キング・エラーの和 (目的関数) を最小化する問題を解く。 X i2I Åwi= EW; 0 î Åwiî EXi(i 2 I) 短期資産が上限を上回る場合も同様の考え方で再調整する。ここでは記述を省略する。 2.2. シミュレーション・アルゴリズム 資産 i の乖離許容幅 qi(i = 1; . . . ; N Ä 1) をパラメータとして計算アルゴリズムを記述し、DFO 手法にお いて決定変数として設定し、問題を解く。上付添字の `b` はリバランス前、`a` はリバランス後を表す。また、 piは資産 i の政策比率を表す。 (1) t = 0 のとき、投資額 (富) を 1(W0= 1) とし、資産額は Sa(m)i0 = pi とする8 。 (2) t 時点のときのパス m の資産額 Sitb(m), 富 Wt(m), 資産比率 wb(m)it を逐次的に計算する (t = 1; . . . ; T ; m = 1; . . . ; M ; i = 1; . . . ; N )。ここで、(3) 式の "(m)it はモンテカルロ法で生成する。また、Si;tÄ1a(m) は後述の (14) 式で求められる。 Sb(m)it = ê1 + ñiÅt + õi p Åt "(m)it ëSi;tÄ1a(m) (3) Wt(m) = N X i=1 Sitb(m) (4) wb(m)it = S b(m) it Wt(m) (5) witb(m) の値に応じて、(6), (7) 式のようにリバランス後の資産比率 wita(m) を計算する。以降、資産 N を 除く資産の集合を IN Ä1= f1; 2; . . . ; N Ä 1g とする。 wa(m)it = 8 > < > : piÄ qi ; wb(m)it 2 [0; piÄ qi) witb(m) ; wb(m)it 2 [piÄ qi; pi+ qi] pi+ qi ; wb(m)it 2 (pi+ qi; 1] (i 2 INÄ1) (6) wa(m)N t = 1 Ä X i2INÄ 1 wa(m)it (7) 7乖離許容幅を小さくすれば再調整の必要はないが、小さくすると取引コストがかかるので、それを勘案して乖離許容幅が求められる。 80 時点の資産額はパス m に依存しないが、便宜上、m を記述している。
2.1節で議論したように、資産 N 以外の投資比率を乖離許容幅の範囲内にリバランスした結果、資産 N の投資比率 wa(m)N t が上下限比率を越えた場合にはそれぞれ以下のように調整する。 1 ç 資産 N の投資比率 wNta(m) が下限比率 LN を下回る場合 (wa(m)N t < LN) 超過比率 EWt(m)= LNÄ wa(m)N t を計算し、以下のように調整する。 a. wa(m)it > pi(i 2 IN Ä1) を満たす資産の集合を It+(m) とする。 b. 目的関数ができるだけ小さくなるように、以下の部分問題を解いて9 、集合 I+(m) t に含まれる資産か らの削減比率 Åw(m)it を求める10。ただし、投資比率と政策比率との差を EX(m) it = w a(m) it Ä piとする。 最小化 C(Åw(m)t ) Ä C(0) (8) 制約条件 0 î Åwit(m)î EXit(m)(i 2 It+(m)) (9) X i2It+(m) Åwit(m)= EWt(m) (10) Åw(m)it = 0 (i 2 IN Ä1Ä It+(m)) (11) Åw(m)N t = ÄEWt(m) (12) ここで、Åw(m)t = (Åw1t(m); . . . ; Åw (m) N t )、0 はすべての 0 の N 次元ベクトルである。また、C(x) は 時点 t、パス m における目的関数で、後述する (15) 式より、(13) 式のように記述する。 C(x) = ï N X i=1 N X j=1 ê EXit(m)Ä xi ë ê EXjt(m)Ä xj ë õij+ X i2INÄ 1 kixi (13) c. 部分問題の最適解を Åw(m)Éit とすると、wa(m)it Ä Åwit(m)Éを調整された w a(m) it とする (煩雑さを避ける ために記号を分けないことにする)。 2 ç 資産 N の投資比率 wNta(m) が上限比率 UN を上回る場合 (wN ta(m)> UN) 不足比率 DWt(m)= wa(m)Nt Ä UN を計算し、 1ç と同様に調整する。 3 ç リバランス後の資産 i の資産額 Sa(m)it は (14) 式で求められる11 。 Sita(m) = wa(m)it Wt(m)(i = 1; . . . ; N ) (14) (3) 問題は以下のように定式化する。 最小化 qi C ë 1 M M X m=1 T X t=1 eÄ(rÅ t)t 8 < :ï N X i=1 N X j=1 ê wita(m)Ä pi ë ê wa(m)jt Ä pj ë õij + N Ä1X i=1 kiåååwa(m)it Ä w b(m) it ååå ) (15) 制約条件 0 î qi î max(pi; 1 Ä pi) (16) LN î wa(m)Nt î UN (17) 3. 公的年金積立金運用への適用 公的年金積立金運用における基本ポートフォリオと乖離許容幅は表 1に示したように、5 資産を対象として いる。「平成 21 年財政検証における経済前提の範囲について」[9] では、TFP(全要素生産性) の上昇率に対し 9計算を簡便に行うために、ラグランジュ未定乗数法を反復的に用いることによって、部分問題の最適化問題 (制約付き最小化問題) を 近似的に解いた。 10(11) 式のように、集合 I+(m) t に含まれる資産と資産 N 以外の削減比率は Åw (m) it = 0 である。 11資産 N の投資比率は以下のように求めることができる。 wa(m)Nt = 8 > > < > > : LN ; EWt(m)> 0 UN ; DWt(m)> 0 1 Ä X i2INÄ 1 wita(m) ; その他
て異なる 3 ケースを示し、それぞれ異なる期待リターンを設定している。本研究では、中間ケースのパラメー タを用いて分析を行う。これらを表 3に示す。その他の基本パラメータを以下のように設定する12。 è 比例取引コスト率 国内債券 k1= 0:2%, 国内株式 k2= 1:2%, 外国債券 k3= 0:2%, 外国株式 k4= 1:2% è トラッキング・エラー係数 : ï= 3 è 短期資産に対する上下限制約 (キャッシュ制約) : 下限 LN = 3%, 上限 UN = 10% è サンプルパス数 : M = 10; 000 表 3: リターン・リスク特性 (%)・相関係数 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産 期待リターン 3.7% 6.0% 3.7% 6.2% 2.2% リスク 5.45% 22.25% 13.44% 19.85% 3.71% 相関係数 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産 国内債券 1.00 0.15 Ä0.06 Ä0.05 0.45 国内株式 0.15 1.00 Ä0.26 0.27 Ä0.01 外国債券 Ä0.06 Ä0.26 1.00 0.55 Ä0.05 外国株式 Ä0.05 0.27 0.55 1.00 Ä0.12 短期資産 0.45 Ä0.01 Ä0.05 Ä0.12 1.00 3.1. 基本分析 7 種類の年数 (5 年, 10 年, 15 年, 20 年, 30 年, 40 年, 50 年) と 4 種類の時間間隔 (Åt = 0:1; 0:2; 0:5; 1:0 年) の 28 種類の組み合わせに対して分析を行う。結果を図 1に示す。 図 1を見ると、年数が長くなるにつれて乖離 許容幅は一定値に収束することが分かる。一方、時間間隔が大きくなるにつれて乖離許容幅は小さくなる。こ の理由は時間間隔が大きくなると、すぐに取引できないため、乖離許容幅を小さくして二乗のオーダーで効い てくるトラッキング・エラー (基本ポートフォリオからの乖離) を避けようとするためである。これは枇々木ら [8] でも見られた特徴であり、資産数を増加させた乖離許容幅の場合でも同様であることが分かる。 乖離許容幅の大きさの関係は 国内債券 > 国内株式 > 外国株式 > 外国債券 である。この大きさの関係は基本ポートフォリオと同じである。この理由は基本ポートフォリオ (政策ポート フォリオ) の大きさが乖離許容幅に影響を与える要因だからである13。このことを確かめるために、様々な基 本ポートフォリオ (10 種類) に対する乖離許容幅を計算し、図 2に示す。10 種類のポートフォリオは表 3のパラ メータを用いて、1 期間平均・分散モデルで様々な期待リターンのもとでポートフォリオを求めている14。 12公的年金積立金運用を含めて実際の年金基金の分析で用いられる取引コスト率は公表されていない。また、取引コスト率を記述して いる先行研究も数少ない。佐々木 [16] は取引コストを内外株式 0.5%、内外債券 0.2%、千田 [4] はマーケット・インパクトを含む売買コ ストを株式 1.2%、債券 0.2%と想定して分析を行っている。本研究では千田 [4] の値を比例取引コスト率として用いる。 トラッキング・エラー係数を ï = 3 と設定した理由は以下の通りである。基本ポートフォリオは表 3のパラメータを用いて、ポート フォリオの期待収益率が 4.1%で、投資比率も表 1の大小関係になるような制約の下で解かれた結果である。そのときの期待収益率制約 に対する双対解の逆数は、期待収益率から分散にリスク回避係数を掛けた値を引いた期待効用関数を目的関数としたときのリスク回避係 数に相当し、その値は 2.99 である。平均・分散モデルと比較すると、取引コスト率は期待収益率、トラッキング・エラーは分散と対比さ せることができるので、トラッキング・エラー係数を ï = 3 と設定する。 13後述する図 4の感度分析の結果を見ると、比例取引コストが大きくなると、乖離許容幅は大きくなる。株式の比例取引コスト率は 1.2%、債券の比例取引コストは 0.2% なので、国内株式と外国株式の乖離許容幅が相対的に大きくなる。国内債券の基本ポートフォリオ の大きさによる影響が比例取引コスト率による影響を上回っていると考えられる。 14公的年金積立金運用では基本ポートフォリオを求める際の投資比率に関する制約条件として、短期資産は 5%、国内株式 > 外国株 式 > 外国債券、を設定している。そこで、国内株式、外国株式、外国債券の投資比率の差は 1%以上と制約を置き、4.1%の期待収益率 のもとで平均・分散モデルで問題を解くと、 国内債券 = 66:7%; 国内株式 = 10:4%; 外国債券 = 8:4%; 外国株式 = 9:4% が得られる。この結果を 1%刻みで投資比率を丸めると表 1の基本ポートフォリオが得られる。基本ポートフォリオは P3 であり、他の P1,P2, P4~P10 は期待収益率をそれぞれ、3.9%, 4.0%, 4.3%, 4.5%, 4.7%, 4.9%, 5.1%, 5.3%, 5.5% として平均・分散モデルで問題 を解いた結果得られたポートフォリオである。
Δt=0 .1 0 % 1 % 2 % 3 % 4 % 5 % 6 % 7 % 8 % 9 % 0 10 2 0 30 4 0 5 0 年数 乖 離 許 容 幅 国内 債券 国内 株式 外国 債券 外国 株式 Δt=0 .2 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 0 10 20 30 40 50 年数 乖 離 許 容 幅 国内 債券 国 内株式 外国 債券 外 国株式 Δt=0 .5 0 % 1 % 2 % 3 % 4 % 5 % 6 % 7 % 8 % 0 10 2 0 3 0 40 50 年数 乖 離 許 容 幅 国 内債 券 国内 株式 外 国債 券 外国 株式 Δt=1.0 0 % 1 % 2 % 3 % 4 % 5 % 6 % 7 % 8 % 0 10 20 3 0 4 0 50 年数 乖 離 許 容 幅 国内債 券 国 内株 式 外国債 券 外 国株 式 図 1: 様々な年数に対する結果の比較 図 2の左図は各ポートフォリオの乖離許容幅、右図はポートフォリオの投資比率と乖離許容幅の関係を示す。 P1 の期待リターンは最も低く、P10 にいくに連れて、高い期待リターンのもとで求めたポートフォリオであ る。その結果、P1 から P10 に行くに従って、基本ポートフォリオにおける国内債券のウェイトは小さくなり、 国内株式と外国株式のウェイトはほぼ同じで、大きくなる。外国債券のウェイトは P1 から P3 までは大きくな るが P3 をピークに小さくなる。 投資比率と乖離許容幅の関係 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 0% 20% 40% 60% 80% 投資比率 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 P1 P10 P10 P1 P3 P10 P6 各ポートフォリオの乖離許容幅 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 ポートフォリオ 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 図 2: 様々な基本ポートフォリオに対する乖離許容幅 右図を見ると、投資比率が 50%に近づくにつれて、乖離許容幅が大きくなり、離れると、小さくなる。具体 的には、国内株式と外国株式は投資比率と同様に、ほぼ同じ乖離許容幅となり、P1 から P10 に行くに従って、 大きくなる。一方、国内債券の乖離許容幅は P1 から P6 までは徐々に大きくなるが、P6 をピークにして小さ くなる。また、外国債券の乖離許容幅は投資比率の大きさに連動し、P3 をピークにして小さくなる。 次に、最適解として得られた乖離許容幅を変化させたときの目的関数への感度を調べる。具体的には、感度
を調べる対象資産以外は最適解に固定し、対象資産の乖離許容幅をパラメトリックに変化させて目的関数値を 計算する。最適乖離許容幅に対する倍率を横軸に、縦軸に目的関数値のその最適値に対する倍率 (それぞれ 1 が最適値に相当する) を描いたグラフを図 3に示す。図 3は Åt = 0:1 で 5 年と 10 年の場合の結果である。 目的関数の形状を見ると、それぞれの凸性の大きさは、国内株式、外国株式、外国債券、国内債券の順番 である。これはボラティリティの大きさと同じ順番である。取引コストは乖離許容幅が大きくなるにつれて 0 に近づくため、退化せずに目的関数が凸性を持つためにはトラッキング・エラーの増加割合が取引コストの 減少よりも大きくなる必要がある。トラッキング・エラーはボラティリティの大きさに影響を受けるため、ボ ラティリティと同じ順番になっている。また、乖離許容幅が大きくなるにつれて退化はしていないもののボラ ティリティの小さい外国債券と国内債券の目的関数の増加が小さくなっている。これは目的関数に対する乖離 許容幅の影響が小さく、不安定になる可能性があることを示しており、注意が必要である。 Δt=0.1&5年 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 0 1 2 3 4 乖離許容幅・倍率 目 的 関 数 ・ 倍 率 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 Δt=0.1&10年 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 0 1 2 3 4 乖離許容幅・倍率 目 的 関 数 ・ 倍 率 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 図 3: 乖離許容幅が変化したときの目的関数への影響 3.2. 感度分析 2 種類のパラメータ (株式の比例取引コスト率 ki(i = 2; 4)、トラッキング・エラー係数 ï) に対して以下のよ うに感度分析を行う。 ki : 6 種類 (0.2%, 0.6%, 1.0%, 1.2%, 1.5%, 2.0%) ï : 8 種類 (1, 2, 3, 4, 5, 10, 20, 30) 時間間隔を Åt = 0:1(年), 期間を 10 年として行った感度分析の結果を図 4に示す。 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 0.2% 0.6% 1.0% 1.2% 1.5% 2.0% 比例取引コスト率 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 1 2 3 4 5 10 20 30 トラッキング・エラー係数 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 0.2% 0.6% 1.0% 1.2% 1.5% 2.0% 比例取引コスト率 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 1 2 3 4 5 10 20 30 トラッキング・エラー係数 乖 離 許 容 幅 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 図 4: 感度分析 図 4の左図を見ると、比例取引コスト率が大きくなるにつれて、その分だけ取引コストも大きくなるととも に、取引をなるべく行わないように株式の乖離許容幅は大きくなり、トラッキング・エラーも大きくなる。図 4の右図を見ると、トラッキング・エラー係数が大きくなるにつれて、基本ポートフォリオから乖離しないよ うにトラッキング・エラーを小さくするために、乖離許容幅は小さくなる。その結果として、頻繁に取引を行 うことになるので、取引コストは大きくなる。
3.3. 公的年金積立金運用における実際の構成割合との比較 公的年金積立金運用において、表 1の乖離許容幅で運用が行われ始めた 2008 年 3 月から 2012 年 12 月までの 四半期ごとに公表されている実際の構成割合 [7] を見てみよう。リバランス間隔を 1 カ月 (Åt = 1 12) として、基 本分析のパラメータを用いて公的年金積立金運用における実際の構成割合 (`実際 P')、基本ポートフォリオ (`基 本 P')、乖離許容幅 (`GPIF')、5 年と 50 年の期間で問題を解いたときの最適乖離許容幅を図 5に示す。 国内債券 58% 61% 64% 67% 70% 73% 76% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 国内株式 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 外国債券 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 外国株式 3% 5% 7% 9% 11% 13% 15% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 国内債券 58% 61% 64% 67% 70% 73% 76% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 国内株式 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 外国債券 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 外国株式 3% 5% 7% 9% 11% 13% 15% 2008/03 2009/03 2010/03 2011/03 2012/03 構 成 割 合 実際P 基本P GPIF 50年 5年 図 5: 実際の構成割合との比較 公的年金積立金運用で設定している乖離許容幅の範囲内に実際の構成割合は収まっているが、比較的大きく 幅が取ってある。それに対して、本研究で求めた乖離許容幅は公的年金積立金運用における設定値よりも小さ いが、期間が 5 年の場合には 2012 年 12 月の外国株式、50 年の場合には 2012 年 9 月、12 月の外国株式と 2012 年 12 月の国内債券と外国債券を除き、実際の構成割合がちょうど収まるよい水準になっていることが分かる。 比例取引コスト率などのパラメータに依存するため、評価をすることは難しいが、ある程度、理にかなった乖 離許容幅が求められていると考えられる。 4. 有限期間における時間依存の乖離許容幅の導出 4.1. 有限期間モデル 実務での利用を考えた場合、時間に依存しない固定ルールで政策ポートフォリオに対して対称とする方が分 かりやすい。そのため、本研究では、固定で対称の乖離許容幅をルールとして決まっていることを前提とし、 2節でモデルを構築し、3節において最適な乖離許容幅を求めた。3.3節において、実際の構成割合と比較した 結果を見ても、ある程度、理にかなっていると考えられる。一方、先行研究により有限期間問題に対する最適 乖離許容境界は時間に依存することが知られている。そこで、本節では時間依存する対称の乖離許容幅を導出 し、固定の乖離許容幅と比較する。 枇々木ら [8] は Leland モデル [11] のタイプにおいても先行研究 (CRRA 型効用関数を持つ有限期間問題に対 する乖離許容境界 [6, 12] 他) と同様に、有限期間の最終時点 (満期) に近づくに従って、乖離許容境界が広がる ことを示し、その時間依存関数として指数関数を用いたモデルを記述している。本研究も枇々木ら [8] のモデ
ルを参考にして、(18) 式によって時間依存の乖離許容幅を記述する。 qi(t) = ãi n 1 + çeÄå(T Ät+Å t)o; (i = 1; . . . ; N Ä 1) (18) (18) 式は å と ç の値により、様々な関数形を記述することが可能である。T ! 1 のとき、 lim T !1qi(t) = ãi (19) となり、無限期間の場合の乖離許容幅も一定値として記述できる。また、t = Åt のとき、厳密には å と çの 値によるが、 qi(Åt) = ãiÄ1 + çeÄåTÅô ãi (20) である。したがって、Åt 時点の乖離許容幅はãi の値とほとんど同じである。そこで、以降、ãi を初期乖離 許容幅と呼ぶことにする。さらに、t = T のとき、 qi(T ) = ãiÄ1 + çeÄåÅ tÅ (21) であり、T 時点の乖離許容幅には、ç が大きく影響することが分かる。 これらの 3 種類のパラメータ ãi, å, çを DFO 手法によって求めることによって、時間依存の最適乖離許容 幅を導出することができる。 4.2. 数値分析結果 4 種類の年数 (5 年, 10 年, 15 年, 20 年) と 4 種類の離散時間間隔 (Åt = 0:05; 0:1; 0:2; 0:5 年) の組み合わせに 対して、DFO 手法で最適解を求め、それらを (18) 式に代入して乖離許容幅を求める。結果を図 6に示す。 Δ t = 0.1: 国 内 資 産 0 % 5 % 10 % 15 % 20 % 25 % 0 1 2 3 4 5 満 期 まで の 時 間 (年 ) 乖 離 許 容 幅 5年 DB 5年 D S 10年 DB 10 年 DS 15年 DB 15 年 DS 20年 DB 20 年 DS Δ t = 0.1: 外 国 資 産 0 % 1 % 2 % 3 % 4 % 5 % 6 % 7 % 8 % 9 % 10 % 0 1 2 3 4 5 満 期 まで の 時 間( 年 ) 乖 離 許 容 幅 5年 FB 5年 FS 10年 FB 10年 FS 15年 FB 15年 FS 20年 FB 20年 FS Δ t = 0.5: 外 国 資 産 0 % 1 % 2 % 3 % 4 % 5 % 6 % 0 1 2 3 4 5 満 期 まで の 時 間( 年 ) 乖 離 許 容 幅 5年 FB 5年 FS 10年 FB 10年 FS 15年 FB 15年 FS 20年 FB 20年 FS Δ t = 0.5: 国 内 資 産 0 % 2 % 4 % 6 % 8 % 10 % 12 % 14 % 0 1 2 3 4 5 満 期 まで の 時 間 (年 ) 乖 離 許 容 幅 5年 D B 5年 D S 10 年 DB 10年 D S 15 年 DB 15年 D S 20 年 DB 20年 D S 図 6: 様々な年数に対する乖離許容幅の比較
横軸は満期までの時間の長さを表す。上図は Åt = 0:1、下図は Åt = 0:5 に対する結果で、それぞれの左図 は国内債券 (DB) と国内株式 (DS)、右図は外国債券 (FB) と外国株式 (FS) の乖離許容幅を示す。時間間隔が同 じであれば、5 年の国内資産を除き、期間の長さにかかわらず、乖離許容幅 qi(t) は満期までの年数によって決 まることが分かる。そして、乖離許容幅は満期 (最終時点) に近づくまではほぼ一定であるが、満期に近づく と、乖離許容幅は大きくなり始める。また、時間間隔が大きくなると、乖離許容幅を超えてもすぐに取引でき ないので、乖離許容幅は小さくなる。 次に、3節に示した固定戦略との比較を行う。有限期間の場合の最適解は時間依存であるが、無限期間の場 合の最適解は固定である。満期まで遠い時点の乖離許容幅はほぼ一定であり、期間が長くなるほど、固定戦略 の乖離許容幅と時間依存戦略の初期乖離許容幅は近づくことが期待される。これは満期に近い部分の乖離部分 を全期間に渡って平均化しているからである。それを確かめるために、横軸に固定乖離許容幅 (qi)、縦軸に時 間依存関数の初期乖離許容幅 (ãi) を取り、期間を 5, 10, 15, 20, 50 年としたときの値を資産ごとに図 7に示す。 45 度線上の点はどちらも等しい値である。 国内債券 4% 5% 6% 7% 8% 9% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 外国債券 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 国内株式 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 外国株式 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 5年 5年 5年 5年 国内債券 4% 5% 6% 7% 8% 9% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 外国債券 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 国内株式 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 外国株式 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 固定乖離許容幅 時 間 依 存 ・ 初 期 乖 離 許 容 幅 Δt=0.1 Δt=0.2 Δt=0.5 Δt=1.0 5年 5年 5年 5年 図 7: 固定戦略との比較 各資産ともに、期間が短いほど、固定乖離許容幅が時間依存の初期乖離許容幅よりも大きい。一方、予想通 り、期間が長くなるにつれて、両者の値は近づいている。そのことは、45 度線上に向かって近づいていること から見て取れる。そして、満期が 50 年の場合にはほぼ同じ最適解が得られている。時間依存の有限期間モデ ルによって「固定」の乖離許容幅を決めたい場合には、期間 50 年の初期乖離許容幅でほぼ代用可能である。 5. おわりに 本研究では実務において設定されるような乖離許容幅を固定で対称とすることに加えて、先行研究では実際 に解かれたことがない 5 資産問題の数値解を導出した。具体的には公的年金積立金運用を対象として 5 資産問 題を解いている。公的年金積立金運用が公表している基本ポートフォリオに対する乖離許容幅の根拠が示され ていないため、数値自体の評価は難しい。しかし、公的年金積立金運用において設定されている乖離許容幅値
を実際の構成割合と比較すると、かなり大きく幅が取ってあるのに対し、本研究の最適乖離許容幅は実際の構 成割合がちょうど収まるよい水準になっており、理論的な根拠を与える一つの方法を示すことができたと考え られる。また、離散時間モデルで資産制約がある場合、乖離許容領域の範囲内でもリバランス調整をする必要 が生じる問題を明らかにするとともに、その計算アルゴリズムを解法の中に組み込むことができた。 数値分析として、比例取引コスト率、トラッキング・エラー係数に対する感度分析も行い、乖離許容幅への 影響も調べた。5 資産問題であっても、2 資産や 3 資産問題と同様の乖離許容幅の持つ特徴を示すことができ、 実際の資産運用現場でも有用であることを示すことができた。 本研究では、Leland モデル [11] をベースにしているため、用いているリスク資産収益率は正規分布に従うと 仮定している。公的年金積立金運用における設定パラメータも同様である。しかし、時系列相関やジャンプ、 資産間の相関を表すコピュラも含めて、リスク資産の収益率の変動を記述することも考えられる。また、それ に伴い目的関数も工夫する必要がある。DFO 手法を用いることによって、これらのモデルの拡張も同じ枠組 みで行うことが期待できるが、それらは今後の課題としたい。 参考文献
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