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するから 平均的な高齢者の総資産が6000 万円あるとしても ほとんど資産のない高齢者も多く存在する そうした貧しい高齢者への公的年給支給は 当然 公平性の観点から正当化される しかし 同時に 裕福な高齢者が増えていることも事実である 裕福な高齢者に相対的に貧しい勤労世代から年金という形で所得を再分

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公的年金改革:個人勘定年金の整備・拡充が重要

井堀利宏

東京大学経済学研究科教授 2010年11月

世代間負担のあり方

わが国における再分配政策として、量的に最も大規模に行われているのが、公的年金を 通じる世代間再分配政策である。社会保障制度がなければ、少子化に伴って親の扶養や介 護などの私的な負担が増大したはずである。社会保障制度は私的な負担を結果的に肩代わ りしている。それでも、急速な少子高齢化社会では、賦課方式の公的年金制度を維持する 限り、若年世代、将来世代から老年世代、現役世代へ再分配が行われる。

公的年金の給付対象者は明確に老年世代である。受給要件は一定の年齢であるから、透 明性は確保されている。国民年金の未納、未加入問題が示すように、保険料の納付記録に 不備があれば、給付対象に恣意性がつきまとうが、この点は程度問題であり、コストを無 視してまで執行に完璧を求めるべきではない。問題は老年世代への給付水準が適切かどう か、また、その対象者が高齢者の中で本当に給付すべき人に適切に限定されているのかど うかである。

こうした観点で見ると、現行の公的年金制度には弊害が大きい。なぜなら、総じて若い 世代よりも老年世代の方が裕福な個人が多いからである。貧しい現役世代、将来世代から 裕福な老年世代に所得を移転することは、公平性の基準から見て正当化しがたい。公平性 の観点からは、世代間の格差が年金制度を通じてこれ以上拡大しない政策的対応が望まれ る。急速な少子化、高齢化は、賦課方式を前提としているわが国公的年金のあり方に根本 的な問題を投げかけている。本稿では、公的年金制度の改革のあり方を検討することにし たい。

公的年金給付の問題点

高齢者が総じて貧しい時代は、年金による高齢者への補助金給付は、社会的な公平感に 合致していた。しかし、最近では、高齢者は平均的にみると他の年齢層と遜色ない所得を 得ている。たとえば、世帯人員あたりの平均所得額をみると(2004年の全国消費実態調査)、

全世帯の平均所得が206万円であるのに対して、65歳以上の世帯では186万円となってい る。また、高齢者世帯は平均的に勤労者世帯の 1.5 倍の貯蓄残高がある。勤労者世帯の貯 蓄額 1264万円、高齢者世帯貯蓄額 2428万円。また、実物資産も考慮した資産全体でみて も、全世帯平均で3900万円であるのに対して、70歳以上の世帯で5961万円となっている。

もちろん、高齢者の中には貧しい人々も多い。年齢とともに同じ世代内での格差は拡大

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するから、平均的な高齢者の総資産が6000万円あるとしても、ほとんど資産のない高齢者 も多く存在する。そうした貧しい高齢者への公的年給支給は、当然、公平性の観点から正 当化される。しかし、同時に、裕福な高齢者が増えていることも事実である。裕福な高齢 者に相対的に貧しい勤労世代から年金という形で所得を再分配することは、公平性の観点 から正当化しにくい。ただし、高齢者も勤労者の時代にそれなりの年金保険料を支払って いる。それに対応する貯蓄部分は当然受け取る権利がある。それを上回る額が過大な給付 とみなせる。

改革のあり方

2009年から国民年金への国庫補助(税金投入)の割合が1/3から1/2に引き上げられた が、年金財政を維持するために今後も税金投入(あるいは、財政赤字による負担の先送り)

を増やすことが想定される。しかし、払う方からみれば、税金と社会保険料は同じ負担で ある。

若年世代、将来世代の負担は限界を超えるのではないか、社会保障負担の増大に日本経 済は耐えられるのか、単身世帯の増加や家族制度、労働市場の変容に公的年金は整合性を 維持できるのか。こうした観点から、公的年金のあるべき改革の方向性を議論すべきであ る。

理念としては、できるだけ早く賦課方式から脱却して、積立方式に移行するとともに、

公的年金の過大な給付を縮小することで、民間との役割分担を再検討する必要がある。セ ーフティー・ネットの役割を最低限の水準に抑制し、それを超える保障は私的市場に委ね るべきである。それには、公的年金の守備範囲を見直すことが重要である。

公的年金の守備範囲

老後の消費には、基礎的な生活のための消費と、海外旅行などより余裕のある生活のた めの消費の2つがある。現在の年金制度では、個人差はあるが、給付額は平均的には年額 200万円(一人あたり:約50兆円/2500万人)くらいである。こうした水準の給付を 今後も維持して、公的年金で老後の生活(余裕のある生活のための消費も含む)の多くを カバーするという政策を続けるには、勤労世代、将来世代の負担に限界がある。公的年金 給付を必要最小限の生活費の一部にとどめることを年金制度の理念とすべきであろう。

公的年金の基本的役割が「長生きすることで生活費が余計にかかる」というリスクをカ バーすることにあると考えると、平均寿命よりも長生きすることのリスクのみをカバーす ればよい。保険の基本的考え方は、悪いこと(極端に長く生きることで予想外の生活費が かさむ)が生じるリスクを全員でカバーすることである。わが国では男性は80歳、女性 は85歳まで平均寿命が伸びている。国民全体が平均的により長生きすれば、賦課方式の 給付開始時期を調整することで、賦課方式にともなう人口変動のリスクを軽減することが 望ましい。したがって、60歳から65歳程度へ支給開始年齢の5年程度の引き上げでは、

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まだ不十分である。

たとえば、男性80歳、女性85歳を公的年金の支給開始年齢とする。そして、それま での時期については、企業年金、私的年金などの自助努力をともなう私的年金や貯蓄、老 年期雇用の拡大・整備で対応し、平均寿命を超えるまで長生きした人々に対してのみ、賦 課方式による公的年金で対応する。そうすれば、賦課方式の年金給付総額はマクロ的に大 幅に削減できるから、将来の勤労世代の負担も大幅に軽減される。

もちろん、本当の弱者には再分配政策的な配慮が必要である。しかし、経済的に恵まれ ている年金受給者にこうした配慮は必要ない。裕福な高齢者にもう少し負担を求める(あ るいは給付を削減する)ことで、将来の若い世代の負担が大きく軽減するという視点も重 要である。

生活保護との役割分担

必要最小限の生存リスクの備えに限定して、それ以上の安定した老後の生活をおくりた ければ、自助努力(私的な貯蓄)の結果を反映する個人年金で対応すべきであろう。もち ろん、個人年金を充実させる制度上、税制上の整備は有益である。しかし、最低レベル以 上の生活を享受する資金については、基本的に自助努力にまかせるべきであって、政府が 介入する分野ではない。

そもそも生活保護制度がセーフティー・ネットとして機能する限り、あえて、公的年金 制度による給付額を大規模に維持する必要はない。ところで、現実の生活保護制度は必ず しもうまくいっているともいえない。すべての資産状態や所得を捕捉するのは、実際問題、

難しい。地域間で生活保護の受給率に大きな差があるのは、対象を的確に認定することが 困難であることを示唆している。

したがって、生活保護制度を補完する政策として、(月額一人6万5千円程度の)基礎 年金に限定した確定給付型の公的年金も存在意義がある。ただし、高齢者すべてに給付す る必要はない。国民全員で苦しい高齢者だけを支える年金制度で十分である。

すなわち、基礎年金の受給対象者を低所得・低資産の高齢者に限定すべきである。これ は「資産のテスト」(受給対象者の金融資産、実物資産を細かくチェックすること)を行 うことでも可能であるが、より簡便な方法は、平均よりも長生きしている高齢者に対象を 限定することである。年齢を基準とすることでより客観的な手段で対象を特定できるし、

平均寿命以上の高齢者に限定することで、過度の給付を抑制することもできる。そのよう な高齢者は高水準の消費意欲がないから、高水準の給付を必要としない。また、そうした 高齢者の資産は遺産となるから、相続税で対応すればよい。

個人勘定年金の役割

今後のわが国でも中途退職が一般化すると、終身雇用、年功序列賃金を前提として制度 設計がなされている旧来の年金制度は、効率的な市場機能の活用に障害となる。こうした

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観点から自由度の高い年金制度は、確定拠出の個人勘定方式である。基礎年金は平均的な 生存期間を超えた老後の生活に必要な最小限の給付水準に限定して、それ以前の期間の年 金給付は個人勘定年金の拡充によって対応すべきだろう。すなわち、60歳から80歳の 期間だけ引き出し可能な個人勘定年金を設立し、若いとき(20歳から60歳まで)その 勘定に積み立てて、老後の生活資金を自助努力で準備する。

個人勘定方式のメリットは、家族形態、就業形態が多様化する社会で、年金制度が個人 の意志決定と中立的になることで、経済の活性化に適応しやすい点にある。個人勘定であ るから、自分の家族形態が結婚や離婚で変化しても、また、就業形態が転職や離職で変化 しても、年金給付は一切影響を受けない。個人の意思決定に中立な年金制度である。こう した自助努力を促すために、一定の税制上の優遇措置があっても良い。

デメリットは、自己責任原則が求められるために、世代内でも運用実績の格差が生じる ことである。日本の政治環境では、確定拠出で運用した後で、結果が思わしくなければ、

事後的に政策的な補填が行われる可能性が高い。したがって、それを見越して、ハイリス ク・ハイリターンの株式などに運用バイアスがかかることが予想される。モラル・ハザー ドの弊害である。これを抑制するには、個人勘定における運用に関して事後的補填を禁止 するとともに、危険資産(たとえば、株式)の運用割合に枠を設定するなど、ある程度の 運用規制が必要である。

移行のメリットと二重の負担

年金改革のあるべき方向は積立方式(個人勘定の民営化)への移行である。しかし、こ れには政治的障害がある。すなわち、移行時点での勤労世代(=団塊の世代)は、同時期 の老人世代の年金給付の財源を負担すると同時に、老後のための積立も自ら行わなければ ならない。これが「二重の負担」と呼ばれる問題である。二重の負担を団塊の世代に負わ せる改革には、団塊の世代から政治的な反発が予想される。しかし、現在の勤労世代の中 心的存在である団塊の世代は人口の厚みが大きい分だけ、このまま賦課方式を維持すると、

その後の世代が団塊の世代の給付を負担するコストも大きくなる。

厚生労働省の試算では、すでに保険料を納めたことに対応する年金給付債務のうちで、

将来の保険料の引き上げによって賄われることとなっている部分が、厚生年金の報酬比例 部分で330兆円存在する。完全な積立方式に直ちに移行するには、現役世代はこれから この330兆円を負担しながら、自己の年金部分についても積み立てるという二重の負担 をしなければならない。330兆円の負担は、一時金換算で被保険者一人当たり1000 万円、一定の保険料率で永久償却しても、保険料率5%、30年間で償却する場合は保険 料率11%または毎年18兆円という金額に相当する。これを一時に顕在化することは現 実的な選択肢ではない。

しかし、積立方式あるいは私的年金への移行は、即座に行う必要はない。たとえば、5 0年かけて徐々に行えばよい。重要な点は、50年後に完全に移行が完了するというコミ

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ットメント(約束)を直ちに示すことである。すなわち、来年以降に20歳になる世代(新 世代)から順次新しい年金制度(基礎年金のみが公的年金として存続し、個人勘定の私的 年金がそれを補完する制度)に加入する。こうすれば、新世代の人は基礎年金をのぞいて 前の世代の年金給付を支える必要はなく、人口構成の変化とは無関係に、自分の将来設計 が可能となる。改革後の将来像が明確になれば、若年世代あるいは将来世代の過度の不安 感、不透明感は相当程度解消されるだろう。また、50年後にはすべての世代が新世代に なるので、新しい年金制度への移行も徐々にではあるが完全に完了する。

2004年の改正:次善的な解決策

個人勘定積立方式への抜本的移行が政治的に無理であると想定しよう。賦課方式を維持 するという次善の世界でも、現行制度をより望ましい制度に改革する余地はある。2004 年 の年金改正では、ある程度の給付の切り下げ、抑制とある程度の負担増加を併用して、公 的年金制度を財政的に維持可能にしようとしている。

すなわち、保険料水準固定方式とマクロ経済スライドによる給付の自動調整という仕 組みが採用された。これは、保険料水準を固定した(これ以上引き上げない)上で、そ の収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組み(保険料水準固定方式)である。

社会全体の保険料負担能力の伸びを反映させることで、給付水準を調整する。年金額は 通常の場合、賃金や物価の伸びに応じて増えていくが、年金額の調整を行っている期間 は、年金を支える力の減少や平均余命の伸びを年金額の改定に反映させ、その伸びを賃 金や物価の伸びよりも抑えることとしている。ただし調整は名目額を下限とし、名目額 は維持する。また、給付水準の調整を行っても、厚生年金の標準的な年金世帯の給付水 準は、現役世代の平均的収入の50%を上回るものとするという政治的配慮も追加された。

しかし、現行制度の根幹を維持したままでの微調整の改革にとどまっており、世代間の不 公平、若い世代の不安、不信感の解消にはほど遠い。

個人勘定賦課方式:次善の方式

勤労世代の保険料で同時点での老年世代の給付に充てるという現行の賦課方式制度を基 本的に維持するとしても、それを個人勘定に抜本的に移行することで、より公平で効率的 な制度に改革することができる。すなわち、報酬比例部分について、その保険料を同時期 の親世代への一般的給付に回すのではなくて、自分の親に限定してその給付に充てる方式 へ改革する。

現行の公的年金保険料(報酬比例部分)はそのまま維持する。現役世代はその保険料を 政府に納める。この点では現状と同じである。相違点は、給付の対象である。現行制度で は勤労世代すべての人々からの保険料収入を合算して、政府を媒介して、老年世代に彼ら の過去の保険料支払いと連動する形で配分するが、この試案では、保険料を納める人ごと に自分の親だけにそのまま給付する方式に変更する。

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すなわち、自分の(配偶者の親も含めて)親が生存している限り、子どもである勤労世 代の保険料は自分の親(だけ)に均等に配分される。たとえば、独身の子供が月に5万円 の保険料(厚生年金の保険料のうち、基礎年金保険料相当分を差し引いた額)を納めてい れば、その5万円は自分の親(両親ともに健在であれば、両親に均等配分)に給付される。

子供が結婚して配偶者がいる場合は、配偶者の親も含めて、親の間で均等に配分される。

20歳から60歳までを保険料支払い期間とすると、この期間中に自分の(配偶者も含め て)親が生存している限り、親に均等配分される。

もし親も60歳未満で勤労していれば、その親(子供からみて祖父母)が生存している と、親は子供から給付を受けると同時に、自分の親(子供からみて祖父母)への給付財源 となる保険料を支払う。自分が20歳代の場合、親世代も50歳代でまだ現役の勤労世代 である可能性が高いが、そうしたケースでも、親の所得や親の勤労形態とは無関係に、親 に均等給付する。親から見れば、自分の子供が複数いれば、それぞれの子供から保険料の 配分を受ける。

親が死亡すれば、子ともはこの保険料を免除される。子どものいない親には、この勘定 から給付はない。基礎年金のみの給付になる。基礎年金給付だけで給付水準が乏しく、必 要最低限の生活力のない親世代(高齢者)については、生活保護など別の政策で対応する。

基礎年金は全額税方式で調達する方が、個人勘定賦課方式の年金との区別をより明確に できるので、望ましい。その場合、基礎年金の保険料は廃止され、その分だけ増税(たと えば、消費税率の引き上げ)が行われる。個人勘定賦課方式の対象者のみ、年金保険料を 支払う。したがって、個人勘定賦課方式の年金保険料の対象者は、2階部分(報酬比例年 金)で報酬比例の保険料を支払っているサラリーマン(と公務員)となる。

現行賦課方式からの移行

この方式は賦課方式の1つであるから、現行賦課方式制度からの移行は容易である。単 に、勤労世代の保険料の給付先が、一般的な高齢者ではなくて、自分と配偶者の親という 具体的な対象に特定化されるだけである。マクロレベルでは現行の賦課方式とほとんど相 違がない。賦課方式を今後も維持するので、積立方式への移行で必要になる二重の負担も 発生しない。

ただし、移行過程ですでに給付を受けている現行の老年世代の給付水準を、直ちに子供 の保険料に連動させるのが適当かは、議論の余地がある。たとえば、子供がいないか、子 供が60歳以上になっているか、あるいは、子供がサラリーマン(公務員)ではなくて、自 営業などに従事している場合、子供からの(2階部分の)報酬比例保険料の支払いがない ので、親の受け取る給付もゼロになる。この方式に移行したとたんに、本人の過去の保険 料納付状況と無関係に、子供のいない親に対して給付をやめるわけにはいかない。したが って、何らかの調整期間が必要だろう。

1つのやり方は、子供の数や職業形態にかかわらず、最低水準の上乗せ年金給付を移行

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世代の老年世代(あるいは、これから近いうちに老年世代になる現役世代)に対して保障 することである。なお、これは基礎年金の上乗せ部分に相当する年金であり、過去に報酬 比例年金に加入していた老年世代(あるいは、近いうちに老年世代になる現役世代)のみ に適用される。その原資にこれまでの2階部分年金の積立金を充てる。

移行世代がいなくなって、個人勘定賦課方式が定着したあとでは、純粋の賦課方式にな るので、積立金は一切不要になる。移行世代であっても子供が報酬比例部分の保険料を納 めている場合は、それで充当できるので最低水準の上乗せ年金給付を支払う必要はない。

このような調整を想定すると、移行過程での財源不足分はそれほど大きくない。

積立方式への移行案と比較すると、二重の負担が発生しないから、財源面でも十分に移 行できる年金改革案である。

個人勘定賦課方式のメリット

個人勘定化しても賦課方式である点は、現行の公的年金と同じである。年金財政方式と いうマクロレベルで見ると、それほど大きな相違はない。しかし、個人勘定化されると、

保険料を納付する勤労世代や給付を受ける老年世代の人にとって、ミクロレベルで相当な 差がでる。なかでも、自分の保険料納付先が自分の親に限定され、給付される対象が具体 的に明示されるから、民間の自発的再分配との調整が容易に行われる。

たとえば、親が裕福であるにもかかわらず、自分の子どもから公的年金給付がなされる 場合、親はそれを容易に理解できるので、その給付額の一部(あるいはすべて)を子ども や孫に贈与しやすくなる。公的年金を通じる世代間の再分配が極端に不公平になっても、

個人勘定を通じてであれば、親子間での所得再分配に帰着するので、民間でそれを調整す ることが容易になる。また、子ども(勤労世代)にとって、保険料給付が増大しても、そ れがすべて自分の親の給付財源に回るのであれば、実質的な負担増を感じないだろう。そ の分だけ、民間の勤労意欲や経済活動を抑制する効果も小さくなる。

公的年金に関する世代間の対立、不信、特に若い世代の公的年金不安は、自分の保険料 支払いが無駄な行政経費となって浪費されているか、あるいは、本来支給すべきでない裕 福な(他人の)高齢者の給付に回っている、という懸念に基づいている。勤労世代にとっ て負担が増大する割に、その見返りが少ないと感じると、そうした再分配政策、制度に対 する不満は大きくなる。

また、老年世代にとっても、政府からの給付である以上、まして、過去の自分の保険料 支払いの対価として受給権が生じるという建前がある以上、できるだけ多くの給付を政府 に要望するのは、当然の感情である。それによって、自分の子供の保険料負担が結果とし て増大するとは考えない。政府が何か工夫をして(自分にとっては無関係の無駄な歳出を 削減して)財源を捻出すべきだと考えている。あるいは、自分たちの世代は苦労してきた 世代だから、若い世代が財源面で負担をするのは当然だと考える。どちらの世代も政府を 通してマクロの関係でしか向き合っていないので、負担と受益の関係が見えにくく、対立

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がとげとげしくなる。

しかし、個人勘定に変更すれば、自分の親と自分の子供が保険料の支払いと給付で直接 関係するので、世代間再分配について両者の間で調整が容易になる。老年世代も過去の保 険料支払いとは無縁の財源で給付が賄われていることが明確になるので、過度に給付を要 求することもないだろう。

家族である以上、どちらもお互いにその経済状態はよくわかっている。たとえば、親の 方が裕福であれば、親から子供への逆方向の再分配を自発的にすることで、世代間の不公 平が解消される。逆に、親の方が経済的に困窮し、生活が大変であれば、子供から親への さらなる移転が行われる。そのような民間での望ましい自発的再分配を容易に行わせる公 的年金制度が、個人勘定賦課方式である。

個人勘定賦課方式のデメリット

もちろん、個人勘定賦課方式にもデメリットがある。最大の問題は、子供の数と所得に 応じて老年世代に受け取る給付額が決定されるので、その額が長期的に一定ではなく、場 合によって大きく変動しうる点である。たとえば、子供がリストラされて、失業者になる と、親の受け取る給付もゼロになる。これはリスク回避の観点からは望ましくないという 議論もあり得る。

子供がいない親世代は給付もない。また、子供と親の年齢差があまりないと、親が長生 きしているときに、子供が60歳以上になってしまい、個人勘定賦課方式の保険料を納めず、

親への給付がなくなるかもしれない。さらに、子供の収入が大きく変動すると、親が受け 取る給付額もそれに応じて大きく変動する。

しかし、基礎年金で最低限の公的年金を給付している以上、それを上回る報酬比例部分 についてまで、リスク分散の役割、セーフティー・ネットを政府に要求するのは、無理な 相談だろう。個人勘定賦課方式は、基礎年金の上に乗る公的年金制度であり、両者の役割 分担をきちんと整理すべきである。

本来、前述したように、基礎年金を超えたこの部分は個人勘定の積立方式で対応するの が最善策である。しかし、移行過程でのコストを負担しきれないという政治的制約を重視 すると、現状の賦課方式よりも個人勘定賦課方式の方が、はるかに世代間の不公正感を緩 和させる効果が期待できる。

個人勘定賦課方式と少子化対策

また、この方式には、もう1つの大きなメリットがある。すなわち、自分の子どもの数 とその所得が多くなれば、親の給付額も増加するので、親は子どもを多く産み、きちんと 育てる誘因を持つ。この点は短期的にはあまり効果が期待できないが、中長期的に少子化 対策として有効である。

さらに、単に子供を多く産むだけでは、親の老後の年金給付は増大しない。子供の賃金

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所得が大きくなってはじめて、親の給付額も増加する。たとえ、子供の数が少なくても、

その子供が多くの賃金所得を稼げば、それに連動して親の給付額も増加する。したがって、

この方式は親が子供をきちんと育てる誘因も与える。

最近、親による子供の虐待が数多く報道されている。その背景はいろいろあるだろうが、

1つの経済的な要因として、親が子供を育てる明確な経済的動機を失っていることも大き い。途上国では、子供は生産財であるから、経済的に生活を維持する上で子供は労働力と して不可欠である。虐待して子供を傷つけると、親にとっても損である。これに対して、

わが国のような先進諸国では、子供が消費財になっている。子供は経済的に生活を維持す るには余計な存在であり、むしろ、育児が楽しいから子供を生み育てるという消費財に変 化している。その意味で、子供はペットの代替財になっている。したがって、子供を育て ること自体が楽しいと感じられない親は、子供をじゃまな存在と感じて、虐待に走りやす い。

こうした傾向を変えて、子供を育てることが親にとってメリットのあるものだと再認識 させる1つの経済的な手段が、個人勘定賦課方式の公的年金である。もちろん、親が子供 をきちんと育てるのは当然の責務であり、政府がどうこう介入する対象でないかもしれな い。虐待する親には厳しい罰則と教育が必要である。しかし、単に悪い行為を取り締まる だけで問題が解決しないのも現実である。それと同時に、経済的な誘因も活用することで、

長期的に望ましい効果が期待できる。

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