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想定されたシナリオの環境レベル

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Academic year: 2021

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(1)

環境整備に関する便益評価について         

 

      開発土木研究所  河川研究室  ○  矢部  浩規   

まえがき 

  環境問題の取り組みの必要性や人々の環境への関心を背景として、環境価値を適切に評価して河川、

道路等の公共事業へ反映させることが重要となっている。また、社会的な価値判断をとりいれた総合的 な環境アセスは、その中でも今後重要な課題の一つとなることが予想される。そのため、環境を自然科 学的に評価することに加え、特に、社会的にも評価してその経済価値をとらえることが必要である。河 川事業においても、環境整備に関する便益評価が近年実施され始めている。そこで、環境整備事業が行 われている網走川水系網走湖、清流河川である十勝川水系札内川等での調査事例から便益評価にあたっ ての調査方法や評価方法を、仮想市場法(CVM)を例に検討する。 

 

1. 仮想市場法(CVM)の特徴 

  仮想市場法(Contingent Valuation Method、以下CVMと略す)は、環境質の改善や公共事業など の社会資本整備による便益を評価する手法である。価格及び市場が存在しない環境質といった非市場財 を対象とすることが可能であり、近年多く用いられるようになった。意識調査を利用して、例えば、あ る環境改善プロジェクトを行った場合と、それを行わなかった場合との効用水準の差をプロジェクト実 施のために最大限支払っても良い額(支払い意思額:Willingness to pay、以下WTPと略す)という形 で直接人々に聞き出している。CVM は環境質の存在価値など非利用価値を計測できることが特徴であ るが、様々な課題や批判がある。本報告では、これらのいくつかの課題を取り上げるとともに、CVM で得られた結果を使った利用方法について報告するものである。

2. 仮想市場法(CVM)の課題 

2−1.包含効果(embedding  effect)、スコープ無反応性(scope  insensitivity) 

  評価対象の数量や質が異なっているにもかかわらずCVMの評価額もそれに応じて変化しない状況 のことを包含効果、またはスコープ無反応性と呼んでいる。現在、このような事例に対し、その原因や 検証などが研究されている。ここでは、網走川水系網走湖の事例により検討を行った。 

  網走川水系網走湖の環境整備事業に対する評価の際、表 1 にあるように事業実施によって達成される と想定する網走湖の環境水準を、現在の環境水準(環境保全レベル)と 30 年ほど前の環境水準(環境 改善レベル)の2つのシナリオでCVM調査を行っている。調査は、網走川流域住民を対象に異なる被 験者に対して実施した。目標レベルを異なるように設定したため、環境改善レベルの方が環境保全レベ ルに比べて高い支払意思額となるはずである。そこで、評価対象の質の違いによる検討を行った。支払 意思額の推計は、turnbull法(2−4.参照)を使用し、環境保全シナリオ、環境改善シナリオそれぞ れにおける各提示金額ごとの支払許諾率を図1に示す。平均値は、最下限推定法(階段状)により算出 したが、それぞれ5,363円、5,581円である。このように、算出された支払意思額は環境改善シナリオ の方が環境保全シナリオに比べ僅かではあるが高い金額となっている。両者の差が有意であるかどうか、

すなわち、【環境保全シナリオによる WTP】<【環境改善シナリオの WTP】といえるかどうか、尤度 比検定を行った。環境保全シナリオの対数尤度をLLa、また、環境改善シナリオ、両サンプルをあわせ た対数尤度を LLb、 LLa+bとすると、{―2*(LLa+b―(LLa+LLb))}がχ(カイ 2乗)分布に 従うことを利用する*1。その値は16.039となり、支払許諾率曲線の分布の差は有意水準5%で有意な結 Hiroki  Yabe

(2)

     

表1.

.

想定されたシナリオの環境レベル

環境が悪化した状態(仮定) 環境保全シナリオ(レベル) 環境改善シナリオ(レベル)

湖の水質は現在よりも悪化するため、湖の 景観が損なわれて、ボートなど湖水を利用 した快適なレクリェーションが不可能

湖の水質は現在と同程度に維持され、湖の 景観が保たれ、ボートなど湖水を利用した レクリェーションが可能

湖の水質は現在よりも大変良くな り、昭和40年代のように女満別湾 での湖水浴が可能

青潮が強風のたびに大規模に発生し、

魚介類の大量死が発生

青潮が現在と同程度に発生するが強風のた びに大規模に発生することはほとんどな く、魚介類の大量死も起こらない

昭和40年代のように、青潮は滅多 に発生しなくなる

アオコが大規模に発生して、大量のヘドロ となって岸に打ち上げられ、網走市街を流 れる網走川下流まで異臭が漂う

アオコが現在と同程度に発生するが、大規 模に発生する可能性は少なく、網走市街を 流れる網走川下流まで異臭は漂わない

昭和40年代のように、アオコの発 生頻度を10年に1度程度に減ら し、小規模になる

     

      表2.保全、改善シナリオのWTP代表値

 

保全シナリオ 改善シナリオ

平均値信頼区間 (

4367,6359

) (

4712,6450

中央値 (

3000,5000

) (

3000,5000

対数尤度   ―

329.0

  ―

357.0

果は得られなかった(なお、P値は0.0661)。また、表2に示 すように平均値信頼区間がほぼ重なり、中央値が含まれる区間 も同様である。このようなスコープ無反応性の原因として、温

図1. 支払許諾率(保全、改善レベル) 情効果の存在や、質問設計が不適切で、回答者が対象となる              財の特徴について明確に認識することが出来ない場合が指摘

されている。本調査での支払意思額の答えやすさについて、答えにくい点、分かりにくい点についての 内訳を表3に示す。環境保全(改善)対策の内容と程度がわかりにくい、答えにくいとの回答率が35.3%、

40.1%ある。事業内容の難しさや、環境に対しての認識不足、対策と目標レベルとの関係が明確でない ことなど様々な要因が考えられる。同様に、内容を金額に直す、基金という仮定に対しても 30〜40% 答えやすさの点で抵抗を感じており、CVM 調査が一般に知られていない手法であることも間接的に影 響している可能性がある。温情効果の排除や環境水準レベルの数量の設定について明確にすることなど 調査内容の改善が今後の課題であると思われる。なお、地域統計との比較によって環境保全シナリオで は世帯収入、環境改善シナリオでは世帯人数で補正を行い、その結果、1世帯あたり1年あたり(初年 度)の平均支払意思額は、環境保全シナリオが5,301円、環境改善シナリオで5,840円と差額は500円 強となっている。

      表3.支払意思額の答えやすさ

     

単位:人

               

500 1,000 2,000 3,000 5,000 10,000 15,000 20,000 30,000

保全 改善 1.000

0.950 0.754

0.631

0.438 0.240

0.111 0.074 0.022 1.001 0.969

0.771 0.606

0.428

0.221 0.124 0.062

0.011 0.000

0.100 0.200 0.300 0.400 0.500 0.600 0.700 0.800 0.900 1.000

支払許諾率(turnbull法) 保全

改善

保全 シ ナ リ

わ か りに くい

答 え に くい 記入 な し 合 計

網走 湖の 現状 説 明 11 221 232

環境保全 対策 の 内 容 と程 度 82 150 232

基 金 とい う仮定 69 163 232

内 容 を金 額 に 直す 104 128 232

調査員 の 反応 5 227 232

そ の 他 15 217 232

改 善シ ナ リ

わ か りに くい

答 え に くい 記入 な し 合 計

網走 湖の 現状 説 明 9 253 262

環境改 善対策 の 内 容 と程 度 105 157 262

基 金 とい う仮定 72 190 262

内 容 を金 額 に 直す 109 153 262

調査 員 の 反応 2 260 262

そ の 他 20 242 262

(3)

2−2.不純な利他主義(impure  altruism)、温情効果(warm  glow effect) 

  CVM評価値には、お金を支払うこと自体に対する満足感や、社会的な名声、周囲の人々との関係向 上などが含まれることが予想される。不純な利他主義(impure  altruism)による効用は、このような 支払い行為に伴い生じるもので、その代表的なものが倫理的な満足という便益が得られる温情効果

(warm  glow effect)である。評価対象である財と直接関係なく表明されるものであり、CVMの評 価値にどの程度影響しているか検討する。なお、CVM評価値に対象となる財の効果に温情効果による 便益が含まれてもかまわないという考え方もあるとの報告*2がある。しかし、対象となる環境そのもの の価値を知りたい場合や便益を拡大するための原単位算出などにおいては必要である。 

  十勝川水系札内川の清流価値について札内川流域住民を対象にした調査において、不純な利他主義や 温情効果に関する影響をみる。基本シナリオを、札内川の清流と自然景観を保全するための目的で表明 された支払意思額とする。もし仮に追加シナリオで、他の住民からの寄付や国からの補助金が得られる とした場合、つまり他の誰かが立て替えてくれる場合には支払意思額は 0 円になるはずである。もしそ うでなければ支払い行為に付随する便益であるとの考え*2から、表4のように追加シナリオを作成して 調査した。WTPを変えない比率は他の住民からの寄付の場合 60%強、国からの十分な補助の場合 20%

強存在する。基本シナリオに比べ、追加シナリオは 0 円とはならず自由回答方式、支払いカード方式と もかなり高額な値となっており、大きく影響されたことが示唆されている。 

表4.不純な利他主義、温情効果による影響(札内川;流域住民)*2

追加シナリオおよび回答者数、 支払い意志額の平均値

他の住民から十分な寄付が得られる場合

国から十分な補助金が得られる場合

  注:設定 1 は寄付やめるを 0 円、設定 2 は寄付やめる、額減らすを 0 円として算出   

  次に支払方法について検討する。上記の調査シナリオでは寄付を集め基金を設定することを仮定して いる。税金に比べ、寄付の場合では不純な利他主義による効用が生じやすく、支払いの強制が弱いこと から実際に支払う額よりも過大な表明を行う戦略バイアスもおこりやすい。よって、寄付方式の方が大 きな支払意思額になると考えられていた。しかし、表5にあるように、札内川流域外の札幌市、埼玉県 日高市、東京都大田区での面接法によるWTPの調査結果では、税金方式が寄付方式に比べかなり高い 額になったことがわかる。今後検討が必要である。なお、平均支払意思額は、寺脇法(直線近似)を用 いている。さらに、不純な利他主義による効用を分析するため、流域住民に対するものと同様の追加シ ナリオを提示して支払意思額に変更があるか否かを調査した。本調査では 2 段階 2 項選択式のあと自由 回答式で調査しており、1 円以上を表明した人を対象に検討した。寄付、税金方式とも支払額を変えな い人は 0%となっておらず、税金方式であっても不純な利他主義による効用が生じている。東京都大田 区では、寄付方式が税金方式に比べて効用が大きいとする結果が統計的に得られた。 

  自由回答形式  支払カード形式 

  回答者数  比率  回答者数  比率  寄付やめる  24  0.15  27  0.15  額減らす  37  0.23  30  0.17  額変えない  95  0.60  117  0.66  額増やす  3  0.02  3  0.02 

計  159    177   

0

1000 2000 3000 4000

基 本 シナ リオ 設定 1 設定 2

自由回 答 形 式 支払 カ ード形 式

(円 )

  自由回答形式  支払カード形式 

  回答者数  比率  回答者数  比率  寄付やめる  84  0.52  97  0.55  額減らす  37  0.23  39  0.22  額変えない  40  0.25  38  0.22  額増やす  1  0.01  1  0.01 

計  162    175   

 

0 1000 2000 3000 4000

基 本 シナ リオ 設定 1 設定 2

自由回 答 形 式 支払 カ ード形 式

(円 )

(4)

        表5.寄付、税金方式による平均支払意思額及び温情効果による影響(札内川;流域外) 

札幌市(面接)  埼玉県日高市(面接)  東京都大田区(面接) 

 

寄付  税金  寄付  税金  寄付  税金  平均支払意思額(円)    4,660    6,876    3,465    5,952    3,947    5,692 

「流域住民から十分な寄付が得られるとき」      (単位:比率) 

全く払いたくない    0.18    0.12    0.12    0.19    0.08    0.18  もっと低額なら払ってよい    0.21    0.25    0.23    0.21    0.16    0.33  払ってよい額は変わらない    0.59    0.62    0.64    0.61    0.74    0.49  もっと高額を払ってもよい    0.02    0.01    0.01    0.0    0.02    0.0 

有効回答者数(人) 

  223    233    148    155    166    144 

「国の仕事に影響を与えることなく行政の効率化により十分な財源を手当するとき」(単位:比率) 

全く払いたくない    0.47    0.38    0.39    0.39    0.26    0.33  もっと低額なら払ってよい    0.19    0.22    0.24    0.18    0.16    0.24  払ってよい額は変わらない    0.34    0.39    0.37    0.43    0.58    0.42  もっと高額を払ってもよい    0.01    0.01    0.0    0.0    0.0    0.01 

有効回答者数(人) 

  218    232    148    155    163    144   

2−3.支払意思額の確信度

  支払い自体が仮想的であるため、実際に本当に支払うのかという問題がある。税金方式の方が寄付方 式に比べ支払いに対する強制力が高いため、表明された支払意思額と実際の支払意思額の差が小さいこ とが言われている。回答者に支払いに対する確信度を直接聞いた結果を表6にまとめる。札幌市と大田 区では、検定の結果これまでの見方を裏付ける結果となった。また、対象財に近い流域住民が対象の場 合、確信度が高くなる傾向にある。表明される額と実際の支払い意思額にできるだけ近づけるような工 夫を検討中である。たとえば、2段階2項選択式の場合、設問に答える仮定で確実に支払うか、そうで ないかを選択させ、最終的により確実な支払い意思額を答えさせるという方法である(胆振海岸のヨコ スト湿原環境価値調査で適用している)。

      表6.支払意思額に対する確信度

      札内川清流評価 網走湖環境評価

流域町村 

    札幌市 埼玉県日高市 東京都大田区 流域市町(寄付)

(単位:比率) 寄付  寄付  税金 寄付 税金 寄付 税金 保全 改善 確実に払う   0.38 0.27   0.37   0.20   0.27   0.17   0.22   0.41   0.38 たぶん払う   0.49 0.55   0.53   0.59   0.50   0.52   0.62   0.46   0.48 わからない   0.13 0.18   0.08   0.18   0.21   0.29   0.15   0.12   0.13 あ ま り 払 うつ

もりはない*a

  0.00 0.00   0.02   0.02   0.01   0.02   0.01   0.01   0.00 払 う つ も りは

ない*b

  0.00 0.00   0.00   0.01   0.01   0.00   0.01   0.00   0.00 有効回答者数(人)   111   222   232   148   155   167   144   224   253 注:調査方法(面接、2段階2項方式)、札内川(流域町村)では*a(たぶん払わない)*b(払わない)

2−4.支払意思額の推計方法

  WTP を推計するための分析方法として、二段階二項選択式の場合、ノンパラメトリック及びパラメ トリックの2種の方法がある。回答者のWTP分布をより忠実に再現するために、適用性について検討 が行われているが、パラメトリック法は母集団の平均値や中央値を一つに決めることが可能であるが、

分布型が不明な場合も多い。ただし、WTPと属性の関係やシナリオの内容理解度など調査結果の妥当 性の分析では有効である。したがって、ここでは、ノンパラメトリック法であるturnbull法を紹介し、

推計値について同じくノンパラメトリックな寺脇法と比較してみる。提示額がT1,T2、…Tnの場合各

(5)

提示額の間にWTPが入る確率をS1、S2、S3、 S4、…Sn+1とする。図2はT1、T2、T3の3つ の提示額での許諾率曲線を示しているが、調査 データに最も適合したものという考えで推定す る。

S1=【WTPが0円以上T1円未満である確率】

S2=【WTPがT1円以上T2円未満である確率】

Sn+1=【WTPがTn円以上である確率】

ただし、S1+S2+S3+S4+…Sn+1=1

F1=S1  、  F2=S1+S2  、  Fn=S1+S2+S3+S4+…S

  例えば、提示額T2でno、T1でnoの人数をN1、提示額T2でyes、T3でyesの人数をY3、提示額 T2でno、T1でyesの人数をB1、提示額T2でyes、T3でno及びT3をno,T2をyesの人数をB2と すると、尤度関数は以下のようになる。

    L=(F1N・F2N2・F3N3…FnNn―2)・{(1−F3)Y・(1−F4)Y…(1−Fn)Yn}・

        {(F2−F1)B2・(F3−F2)B3…(Fn―Fn-1)Bn}      ……(式2.4.1)

対数尤度LLは、

    LL=(N1・lnF1+N2・lnF2+…)+{Y3・ln(1−F3)+Y4・ln(1−F4)+…}+

{B2・ln(F2−F1)+B3・ln(F3−F2)+…}      ……(式2.4.2)

であり、これらを微分してF(F1〜Fn)を求め、支払い許諾率曲線が推定できる。

  それぞれの方法において表7に示すように、最小限推定法を用いて算出した。  turnbull法の特徴は、

提示金額の間にWTPが表明されている確率を推定し、また、各提示額に対する許諾率を求めるときに、

これらの情報や提示額前後のそれ以外の情報も利用していることがあげられる。寺脇法では提示金額間 の情報は利用しておらず、提示額前後の情報のみを対象としている。turnbull法に比べ寺脇法による推 計値が高めにでているが、提示金額の種類、回答パターンなどに依存することが考えられており一概に は言えない。

      表7.turnbull法と寺脇法による評価値

網走湖環境評価値       札内川清流評価値      (上段 Turnbull 法:下段  寺脇法)

  網走市他(面接) 札幌市(面接) 日高市(面接) 大田区(面接) 札幌市(郵送) 日高市(郵送) 大田区(郵送)

保  全 改  善 税金 寄付 税金 寄付 税金 寄付 税金 寄付 税金 寄付 税金 寄付 5363.0 5581.0 4,140 2,844 3,565 2,254 3,681 2,454 4,310 2,632 4,050 2,528 4,149 3,060 6984.5 7548.3 5,726 3,591 4,937 2,592 4,603 3,213 5,940 3,537 5,463 3,255 4,956 3,575       (単位:円/一世帯あたり/初年度)

3.環境評価の政策利用

3−1.属性による検討結果の利用

  網走川水系網走湖の環境整備事業における評価では、WTPの推計値が環境改善レベルと環境保全レ ベルの間で有意な差がみられないことを述べたが、個人属性や要因によって影響を与えている可能性が ある。例えば、網走湖の利用度や認知度などが考えられる。そこで、WTPとこれらの関連性について 検討する。収入、世帯数、認知度、利用度等について、階層分析して支払い意思額を求めたものが表8 と図4である。認知度が高い、利用度が多い属性が改善シナリオの方が高いのに比べ、認知度が低い、

利用度が低い属性では、逆に改善シナリオが保全シナリオに比べ低い額となっている。収入についても 保全シナリオでは明確な差がでていない。

0 1 2 提示額()

0 許諾率1

ある割り振りによる 許諾率曲線

別の割り振りに よる許諾率線

3 F1

F2 F3

図2.turnbull 法の許諾率曲線 

(6)

 

表8.階層分析による支払意思額(網走湖環境評価) 

  保全シナリオ  改善シナリオ  収入(500 万以下)      4,840      6,085  収入(500 万以上)      4,669      7,162  居住年数(10 年以下)      5,063      5,774  居住年数(11 年以上)      5,891      5,459  認知(あまり知らない)      5,292    4,150(1) 

認知(知っている)      5,479    6,036(2) 

利用(年に 1 回以下) 

    5,614      4,829 

利用(年に数回以上) 

    5,224      6,480 

注:図 4 の inprove1が(1)inprove2が(2)に対応

    図3.認知度による階層分析(改善シナリオ) 

       

  そこで、次に属性による影響を詳細に検討するため、支払い意思額関数を推定し検討する。ここでは 生存分析を利用し、生存関数Sを提示額Tのときに yes と回答する確率を表し、分布関数を正規分布に 従うと仮定する。生存関数としてワイブル分布(Weibull  distribution)を用い、二段階二項選択式の 場合について述べる。ワイブル分布に個人属性を導入するために、(式3.1.1)に提示額Tの許諾率、生

存関数S(T)を示す。γはワイブル分布のパラメータ、Xiは個人iの属性、βは個人属性のパラメータ

ベクトルであり、その一要素として定数項αを含む。

      ……(式3.1.1)

この生存関数Sをもとに、尤度関数Lを作成すると(式3.4.2)となり、最尤法によりパラメータを推定で きる。

      L=Π{S(Thi)・(1−S(Tli))・(S(Tli)―S(Thi))}  ……(式3.4.2)、

       

よって、対数尤度関数LL は、 

      LL= S(Thi)+ 1−S(Tli) + S(Tli)−S(Thi)        ……(式3.4.3)

       

  ここで、yyは2回とも「はい」と答えた者、nnは2回とも「いいえ」を選んだ者、ynは最初が「は い」で二回目が「いいえ」である者、nyはその逆の者の集合を指す。また、Thiは2回の提示額のうち 大きな額を、Tliは小さな額を示す。

  個人属性に関する変数として、男女、年齢、年収、居住年数、認知度、利用度をパラメータに設定し て推定する。居住年数は、1年未満〜16年以上の6分類、認知度は昭和40年代の水質が良かった状況、

50年代以降の悪化した状況、現在の状況、よく知らないの4つに分け、利用度はほぼ毎日〜訪れたこと がないまでの7分類で調査している。年収、居住年数等は中央値、認知度は網走湖の状況についての認 知の有無で2段階、利用度については頻度によって3段階の値を設定した。以上による推定結果を表9 に示す。WTPに影響する要因をみると、環境改善、保全シナリオとも、男性、年収、認知度が正であ る一方、居住年数、利用度が効かないことがわかる。利用度(訪問頻度)は符号が負であり、寄付に関 連する属性を考慮したり、変数の設定方法などさらに検討していきたい。認知度に着目すると、保全シ ナリオでは効かなかったが、改善シナリオではWTPに影響を与えていることがわかる。言い換えると、

網走湖をよく知っている人々は、保全レベルではなく改善レベルの環境を達成することではじめてその 意義を感じるともいえるのではないか。網走湖に対する認知度を高めることによって、改善レベル達成 の社会的必要性がより顕在化することが予想される。このような視点を踏まえ、網走湖についての認知 度を高めるような政策、例えば情報提供や教育などが重要であると考えられる。 

500 1,000 2,000 3,000 5,000 10,000 15,000 20,000 30,000

improv.1improv.2 0.9980.968

0.775 0.642

0.448 0.266

0.137 0.091

0.027 1.000

0.915 0.744

0.698 0.488

0.155

0.000 0.000 0.000 0.000

0.100 0.200 0.300 0.400 0.500 0.600 0.700 0.800 0.900 1.000

yen

Payment permissible ratio improv.1 improv.2

[ ]

           lnT−β′X  S(T)= exp −exp                    γ   

[ ]

iyy

Σ

inn

Σ

iyn or ny

[ ]

Σ

(7)

      表9.WTPに影響する要因 

      環境改善シナリオ 

       

環境保全シナリオ   

パ ラ メ ー タ 

標準偏差  漸近t値

有意水準  パ ラ メ ー タ 

標準偏差  漸近t値

有意水準  γ 

0.8439  0.0571  14.775  0  0.824  0.0544  15.158  0 

定数項(α) 

1.5433  0.3062  5.04  0  5.7925  0.3423  16.924  0 

男1,女0 

0.4611  0.1549  2.976  0.0015  0.4924  0.1439  3.421  0.0003 

年齢 

‑0.0114  0.0722  ‑0.157  0.4375  0.1499  0.0804  1.864  0.0312 

年収 

0.0258  0.015  1.725  0.0423  0.0343  0.0178  1.928  0.0269 

居住年数 

‑0.027  0.0149  ‑1.81  0.0351  ‑0.0268  0.0156  ‑1.722  0.0426 

認知度 

0.1868  0.078  2.393  0.0084  0.1549  0.1566  0.99  0.1612 

利用度 

‑0.0687  0.1625  ‑0.423  0.3363  ‑0.202  0.1389  ‑1.454  0.0729 

 

3−2.便益の地域間移転 

  CVMでは、WTPに受益世帯数を乗じて求めるため範囲の設定や拡大方法が便益の総額に影響を与 える。特に非利用価値について範囲を確定する事は難しい。しかし、政策利用を考えると、過去に推計 された評価額を現在対象となって検討しなければならない事業等に適用することは、財政的にも時間的 にも必要なことである。札内川の清流価値に関する調査において流域外での検討事例を考察する。東京 都大田区、埼玉県日高市は札内川からかなりの距離がある。札内川の知名度は、それぞれ「良く知って いた」が1.3%、1.1%、「聞いたことがある」が8.2%、12.4%となっており、「全く知らなかった」は90.5%、 86.4%である。(回答者数697名、699名)札幌市についてみると、順番に11.9%、25.6%、62.5%(回 答者数733名)と関東地方より知名度が高くなっている。平均支払意思額は札内川流域住民を対象とし た結果では11,908円(寄付方式)であり、それ以外は表7に示している。札内川からの距離が遠くな り知名度も低くなるにつれWTPも低くなっていることがわかる。利用価値がほとんどない関東地方の 住民が支払いを表明しているのは札内川の存在価値など非利用価値であると考えられるが、2−3.で 述べたように対象地域から遠い地域での支払意思額の確信度も低くなる傾向もある。3地域について支 払意思額関数を推定し尤度比検定を行ったが、全調査地域において同じとみなすことは出来なかった。

北海道外の大田区と日高市でみると税金方式においては有意な差がみられず、地域間移転の可能性が示 されたが、実用に向け今後さらに詳細に検討する必要がある。

  便益移転の条件として、環境変化の程度は類似していなければならず、評価対象が影響を持つ範囲設 定や人口的特徴は類似していた方が望ましい事があげられている*3。その中でも評価対象の範囲設定は 評価額を大きく左右する。全国でも1,2を争う札内川の清流評価では、首都圏においてもその価値の 存在が明らかになった。また、網走国定公園内にあって豊かな自然や資源があるとともに淡水層と塩水 層が強固に分かれた二層構造となっている珍しい湖である網走湖の環境評価や、身近な自然の価値など、

どの程度の範囲を考えるとよいか、またその評価値はいくらなのか把握するために、環境財の対象地以 外で調査を行っている。網走湖環境評価においては、札幌市で面接、郵送方法で環境保全シナリオを想 定して行っており、平均支払意思額(turnbull法、2段階2項方式)は約3,000〜3,400円との結果が でている。また、胆振海岸にあるヨコスト湿原での評価(郵送方法)は対象地域周辺(白老町他)で2,737 円、室蘭市2,012 円、岩見沢市で1,937円となっている。このように対象財が異なることによってどの ように評価値が変化するのか、また、対象地域での調査結果との関係について調査事例を積み重ね、解 析する必要がある。

3−3.他事業との関連

  2−2の不純な利他主義にも関連するが、ここでは網走湖の浄化自体に対する効用を評価したもので あるかどうかの検討ではなく、あるプロジェクトに関連して複合的な効果も期待して支払い意思額を表

(8)

明している可能性があるか考察する。対象となる財以外の影響が入ることは好ましくないが、プロジェ クトを進めていく上で、また内容等の意思決定を行う上で、潜在的な部分を含めた住民の意識や地域の 波及効果などを総合的に把握する事は有効な情報となり得るであろう。網走湖CVM調査において、浄 化事業によって水質の保全や改善ばかりではなく、あわせて研究教育施設などを作る場合、流域の環境、

特に自分の身の回りの環境が改善される場合、収入の増加につながる場合等追加的なシナリオを設定し て、期待している人々がどの程度いるか把握した。(図4)「網走 湖の 水 中 や 海水が 遡上す る 様 子を見る こ とが で きる 研究・教育施 設をつ くる 場合」とい う設問は 、環境整備事業とあ わ せ 、この ような 施 設等が で きる ことに

より 網走湖の 利用価値 、環境価値 を高まる ことを想定して い る か をみる た め の も の で あ る 。そ の 結果、約 10%が も っ と高い 額を寄付し て も よい と表明し て い る 。また 、網 走湖の 環境を保全した り 、改善す る た め に は 流域対策が 不可欠で あ る が 、湖の みな らす 自分に 利害関係の あ る 場所で の 環境改善を想定あ る い は 期待し て い る 可能性 が あ る 。そ こで 、「下水道整備な ど に よる 自分の 家や 会社周辺の 環境改善に は 結び つ か な い 場合」とい う設問で 聞い て い る 。そ の 結果、全く払い た くな い 、も っ と低い 額な らよい とす る の が あ わ せ て 20%強存在す る 。さらに 、

「自分や 自分の 会社な ど の 収入増加に 結び つ か な い 場合」とい う追加シ ナリオ で は 網走湖の 環境整備事業に よ る 所得増や 地域経済の 活性化、波及効果な ど を想定し て い る か を見る た め の も の で あ る 。この 場合で は 20%弱 で あ る。な お、 各設問とも支払意思額は変わらないとした割合が67%〜87%あり、研究・教育施設につい ては支払を減らすもしくは支払わないとした回答者が20%強いる。このような施設は網走湖の環境保全 事業としての内容として好ましくないと考えている層がいる可能性がある。設問の設定として単に施設 を作るというだけでなく、その後の利用方法や環境整備事業とのつながり等具体的なプロジェクトは記 述されていない。それらを明記した新たなCVM調査をすることで詳細な評価が得られると思われる。

研究・教育施設建設の 場合

31 35

20 32

149 169

22 14

0% 20% 40% 60% 80% 100%

環境保全版 環境改善版

1.全く払い

たくな

2.もっと低い 額なら寄付を して も良い 3.払って も 良い 額は 変

わ らな

4.もっと高い 額の 寄付をし て も良い

周囲の 環境改善なしの 場合

28 28

18 25

173 189

1 4

0% 20% 40% 60% 80% 100%

環境保全版 環境改善版

1.全く払い た

くな

.もっと低い

額なら寄付を

して も良い 3.払って も 良い 額は 変

わ らな

4.もっと高い 額の 寄付をし て も良い

収入増加なしの 場合

14 17

13 20

193 204

1 2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

環境保全版 環境改善版

1.全く払い た

くな

2.もっと低い

額なら寄付を

して も良い 3.払って も 良い 額は 変

わ らな

4.もっと高い 額の 寄付をし て も良い

      図4.他事業との関連      (注:項目1〜4は棒グラフの左〜右へ対応)

4.おわりに

  平成 11 年度より本格的に環境整備事業の評価についての検討が全国で始まった。今後様々な事例が 蓄積されてくることが予想され、より信頼性が高く、妥当性のある評価値及び方法が明らかになってく ると考えられる。さらに重要なことは、これらの便益評価等の情報を河川整備計画の策定や事業の調整 など政策にどのように利用していくかである。本報告でも利用方法についての例を挙げたが、社会的な 背景や制約など様々な条件があり、現地での適用例についても検討してみたい。調査方法や本報告とり まとめにあたり、帯広開発建設部、網走開発建設部、室蘭開発建設部との議論や意見が大変参考になり ました。また、支払意思額の推計方法や生存分析を使った支払意思額関数の推定方法などについてご指 導いただいた東京工業大学の加藤尊秋先生に感謝いたします。

参考文献  *1:栗山浩一、環境の価値と評価手法、p77,78、p144

        *2:肥田野登、加藤尊秋、環境評価ワークショップ、p135〜148         *3:竹内憲司、環境評価の政策利用、p67、68

        *4:

網走開発建設部、網走川環境評価検討業務;帯広開発建設部、札内川環境価値調査検討業務

参照

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