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(1)

4 巻頭論文

児 童 生 徒 の つ ま ず き に 向 き 合 い 、 伸 び し ろ に 変 え て い く た め に

― 学 校 の 実 態 に 応 じ た 全 国 学 力 ・ 学 習 状 況 調 査 の 活 用 を ―

文部科学省国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部

学力調査課長

小久保 智史

(こくぼ さとし)

巻 頭 論 文 巻 頭 論 文

東京都生まれ。東京大学教育学部卒業。

平成 18 年に文部科学省に入省し、初等中等教育局初等中等教育企 画課、高等教育局専門教育課、大臣官房政策課、研究振興局学術 研究助成課、文教施設企画部施設企画課等において主に連絡調整 担当を務め、平成 27 年7月より現職。

平成 20 年度には、文部科学省の実務研修生として愛知県東海市の 公立中学校へ一年間派遣され、3年生の副担任として学習指導(社 会科)、生徒指導、部活動の指導など、学校現場での勤務を経験。

プロフィール

(2)

教育さいたま30号 5

 全国学力・学習状況調査の実施について、さいたま市の皆様を含めた全国の教育委員会や学校の先 生方の御協力をいただき、改めて感謝申し上げます。本稿では、改めて調査の意義を見つめ直した上で、

その活用について考えていきたいと思います。

 まずは先生方、以下の質問について「よく当てはまる」ものがいくつあるでしょうか。

① 全国学力・学習状況調査の調査問題を自身で一問でも解いたことがある。

② 調査問題を解いた後、問題を解くのにどのような力が必要だったのか、同じ学年や教科の先生 のみならず、他の学年や教科の先生と意見交換したことがある。

③ 調査の実施の際、児童生徒の解答を自校で確認したことがある。

(「採点」まで行っていない場合も含む)

④ 「解説資料」を自ら手に取って、問題の解説を一問分でも読んだことがある。

⑤ 「報告書」を自ら手に取って、結果の解説を一問分でも読んだことがある。

⑥ 「授業アイディア例」を自ら手に取って、一事例でも読んだことがある。

⑦ 調査結果について、他学年や他教科の先生も含めて共有したことがある。

⑧ 調査問題を日々の授業や定期考査(まとめテスト)などに活用(参考)にしたことがある。

⑨ 校内研究(研修)において、全国学力・学習状況調査を何らかの形で取り上げたことがある。

⑩ 全国学力・学習状況調査に関連した研修会に参加したことがある。

 調査開始から10年が経過し、調査を活用する取組が広がる一方で、未だ「この調査は授業とは関 係ない」等の声も聞かれます。まずは、全ての先生が①そして②に取り組んでいただき、様々な場面 で調査をお役立ていただきたい思います。

■調査実施の背景と趣旨

 学校教育や教育行政について、長年、現状が十分に把握できていない、成果や課題が見えにくい、

などと指摘される一方、国際的な学力調査や国内の既存調査では、児童生徒の学力に加え、学習意欲 や生活習慣についても課題が見られました。平成17年6月の「骨太の方針」、すなわち教育施策にと どまらず我が国の経済財政運営と構造改革に関する基本方針を政府全体として「閣議決定」した中で、

「児童生徒の学力の把握・分析、これに基づく指導方法の改善・向上を図るため、全国的な学力調査の 実施など適切な方策について速やかに検討を進め、実施」することとされ、さらに、義務教育改革に 関する重要な答申である同年10月の中央教育審議会答申で、全国的な学力調査の実施が提言された のです。

 調査設計の具体的な議論が行われた文部科学省の検討会議では、学力の実態把握や基礎的なデータ 収集の重要性に関する指摘の一方、児童生徒・教職員の負担増や「テスト」による序列化・過度な競 争への危惧(昭和30年代の「全国学力調査」の経験も踏まえ)に関する指摘も多くありました。し かし、全国の学校での「教育指導や学習状況の改善・充実」につなげることこそが国の施策として調 査を実施する最大の意義であるという共通の思いの下で議論は進められ、諸準備を経て、平成19年 4月に第1回調査が行われました。調査の目的は、以下のように整理されています。

義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、

・全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、国・教育委員会における教育施策の成果と 課題を検証し、その改善を図る。

・学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。

・そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。

 私が学校現場で勤務を行った際、学校では教育施策の背景や経緯を知る機会があまりなく、決定さ れた内容のみが伝わることが多いと感じ、日々精一杯子供たちに向き合う先生方に対して、国として その意図をしっかりお伝えすることの重要性を認識しました。先生方におかれましても、私たちの施 策の趣旨、考え方に目を向けていただき、日頃の指導の参考にしていただけましたら幸いです。

(3)

6 巻頭論文

■調査に関する3つの疑問にお答えします

 さいたま市の状況についての議論を行う前に、調査を巡ってしばしば耳にすることのある指摘・疑 問について、先生方と考えを共有していきたいと思います。

 ○ なぜ「全国学力テスト」ではなく、「全国学力・学習状況調査」なのか

    「全国学力テスト」「学テ」と呼ばれることも多い本調査ですが、本来は、学校、教育委員会及 び国が、それぞれ施策や指導の成果及び課題を把握し、改善・充実を図るために実施しているの であり、順位を上げるためのものではない。いわば、「できたこと」への注目ではなく、「できなかっ たこと」の改善が大切です。また、全国学力「・学習状況」調査とあるとおり、質問紙調査によっ て生徒の学習習慣や生活習慣を調査し、学力の向上と不可分のものとしてその改善を図ることが 重要です。

 ○ 児童生徒の解答をどのように把握しているのか

    本調査では、児童生徒一人一人の具体的な解答状況を把握するため、設定する条件などに即し て回答を分類、整理するための「解答類型」を設けています。誤答の状況を確認することで、ど こ(まで)は理解し、どこ(から)は分からないのか(=つまずき)を把握し、指導の改善・充 実につなげていただけるものと考えています。

    解答類型は、私たちが作成し、調査当日に公表している「解説資料」において、問題毎に、出 題の趣旨や、学習指導の改善・充実を図る際のポイントなどとともに掲載しています。例えば、

自校で特に課題だと考えられる問題をピックアップして、解説資料を参考としながら、児童生徒 や学級、学校の課題を把握し、授業や定期考査等も含めた日々の指導にどのように取り入れるか を研究することもできます。

ついて、先生方と考えを共有していきたいと思います。

なぜ「全国学力テスト」ではなく、「全国学力・学習状況調査」なのか

「全国学力テスト」「学テ」と呼ばれることも多い本調査ですが、本来は、学校、教育委員会及び 国が、それぞれ施策や指導の成果及び課題を把握し、改善・充実を図るために実施しているのであり、

順位を上げるためのものではない。いわば、「できたこと」への注目ではなく、「できなかったこと」

の改善が大切です。また、全国学力「・学習状況」調査とあるとおり、質問紙調査によって生徒の学 習習慣や生活習慣を調査し、学力の向上と不可分のものとしてその改善を図ることが重要です。

児童生徒の解答をどのように把握しているのか

本調査では、児童生徒一人一人の具体的な解答状況を把握するため、設定する条件などに即して回 答を分類、整理するための「解答類型」を設けています。誤答の状況を確認することで、どこ(まで)

は理解し、どこ(から)は分からない(=つまずき)を把握し、指導の改善・充実につなげていただ けるものと考えています。

解答類型は、私たちが作成し、調査当日に公表している「解説資料」において、問題毎に、出題の 趣旨や、学習指導の改善・充実を図る際のポイントなどとともに掲載しています。例えば、自校で特 に課題だと考えられる問題をピックアップして、解説資料を参考としながら、児童生徒や学級、学校 の課題を把握し、授業や定期考査等も含めた日々の指導にどのように取り入れるかを研究することも できます。

調査問題は、普段の授業や教科書とは関係ないのではないか

本調査の調査問題は、学習指導要領に基づき、すべての児童生徒が身に付けるべき基盤的な内容を 出題するとともに、出題内容のみならず、問題の場面設定なども含めて、日々の授業、学習活動に関 する問題提起や提案を込めています。そうした指導改善のメッセージを「解説資料」等を通じて把握 いただき、是非お役立ていただきたいと思います。

■間違いは伸びしろである―誤答の状況を直視し、指導の改善・充実を

さて、さいたま市の状況について、「無解答率」が比較的高いことが課題であると伺ってきました。各 学校や教育委員会では、本調査を活用して学習指導の改善を図る際に正答率や無解答率を一つの目安とさ れているかと思いますが、無解答率を下げることが「目的」なのではない、という前提を確認した上で、

議論していきたいと思います。

さいたま市における平成28年度の質問紙調査の結果からは、例えば以下の特徴が見られました。

・「先生は、あなたのよいところを認めてくれていると思いますか」という項目への、「1.当ては まる」「2.どちらかと言えば、当てはまる」の回答割合が比較的高い。特に、「1.当てはまる」

の割合が比較的高い。

巻頭論文

 ○ 調査問題は、普段の授業や教科書とは関係ないのではないか

    本調査の調査問題は、学習指導要領に基づき、すべての児童生徒が身に付けるべき基盤的な内 容を出題するとともに、出題内容のみならず、問題の場面設定なども含めて、日々の授業、学習 活動に関する問題提起や提案を込めて作成しています。そうした指導改善のメッセージを「解説 資料」等を通じて把握いただき、是非お役立ていただきたいと思います。

■間違いは伸びしろである―誤答の状況を直視し、指導の改善・充実を

 さて、さいたま市の状況について、「無解答率」が比較的高いことが課題であると伺ってきました。

各学校や教育委員会では、本調査を活用して学習指導の改善を図る際に正答率や無解答率を一つの目 安とされているかと思いますが、無解答率を下げることが「目的」なのではない、という前提を確認 した上で、議論していきたいと思います。

 さいたま市における平成28年度の質問紙調査の結果からは、例えば以下の特徴が見られました。

  ・ 「先生は、あなたのよいところを認めてくれていると思いますか」という項目への、「1.当ては まる」「2.どちらかと言えば、当てはまる」の回答割合が比較的高い。特に、「1.当てはまる」

(4)

教育さいたま30号 7

の割合が比較的高い。

  ・ 「ものごとを最後までやり遂げて、うれしかったことがありますか」「難しいことでも、失敗を 恐れないで挑戦していますか」という項目について、「1.当てはまる」の割合が比較的高い。

  ・ 話合い・発表に関する項目や、理由や考え方が分かるように書くといった項目についても、比 較的「1.当てはまる」の割合が比較的高い。

 この結果からは、多くの学校で、先生が子供たちの考えや発言などを認めたり、友人同士がお互い の考えを認め合ったりするといった学級・学校の雰囲気づくりが進んでいることが推測されます。先 生方の声掛けをはじめとした様々な取組を今後も意識的に継続していくことが大切であると思ってい ます。

 その上で、本調査の考え方や、現在当方で進めています研究の過程の中で、いくつかの示唆も得ら れています。

 例えば、授業では、児童生徒の主体性を生かした授業がこれまでも行われる中でも、特に、児童生 徒の発言に対して、教員が発言の意図をある意味“親切に”補足して認めるのではなく、不足する要 素を問い返すことで再度自分の言葉で説明するよう促したり、他の児童生徒に投げかけて、説明がわ かったかどうか確かめたり、途中で終わってしまった説明の続きをするよう促したりするなど、やり とりを通じて児童生徒が考えを自分のものにしていく過程が多く見られました。そうした中で、児童 生徒の間でも、自然と「惜しい!」という声が上がったり、教員からの促しがなくとも、積極的に挙 手をして補足説明の意欲を見せる児童生徒が見られたりするなど、間違いを認め合いつつ、問題(課題)

に皆で向かっていく授業が見られたこともありました。

 学力に課題のある児童生徒などに個別指導を行う際も、「分からない」という児童生徒に対して、「何 が分からないのか」「どこまでなら分かるのか」とやり取りすることで、指導する側も「ここからやっ てみよう」と段階を追って指導を行うことができるのみならず、児童生徒自身が、自分の考えを整理し、

スモールステップで目標を追っていくことができている事例がありました。段階を追って自分自身が 達成感を得ることで、児童生徒の意欲向上にもつながっているものと推測されます。

 また、定期考査などについて丁寧に振り返りを行う事例も見られました。返却時に授業での解説を 行うケースは多いと思いますが、印象的だったのは、自分が間違えたところをノートにまとめ、なぜ 間違えたか、過程を振り返り、解決して提出する、といった機会を設けている事例です。前項でも述 べましたが、全国学力・学習状況調査は、学力や学習状況を把握し、改善に生かすためのものであり、

そういった意味では定期考査などに近い面を持っていると思いますが、「できたこと」への注目以上に、

「できなかったこと」への注目の方がずっと重要である― 一見当たり前のこととは思いますが、このこ とを改めて先生方とも共有させていただき、実態に応じた具体的な取組を期待したいと思います。

 さらに、児童生徒のノートの作り方についても、例えば、自分の考えを修正する場合は色を変えて 書いたり、自分の考えと友達の考えをマークで区別したりし、自分の考えを消しゴムで消すことはさ せないなど、自分の考えを残しながらその変容や発展を追うことができている事例も見られました。

このことは、今年度さいたま市において進められている「学びの足あとを残す」取組と共通であると 感じているところです。

 以上で述べた事例についてはまだまだ整理が必要ですが、事例を選定する際に用いた指標ではなく、

結果として無解答率が低い学校において、こうした取組が多く見られたということは示唆に富むもの です。ただし「これを行えば解決する」という特効薬ではない、また、無解答率の低下そのものが目 標なのではない、ということは大前提として申し上げておきたいと思います。

自身ができていることや不十分だったことを明らかにし、乗り越えていくことは、児童生徒のみなら ず、先生方の指導や施策においても共通ですし、私たちの施策においても共通した営みです。間違いは、

改善に向けた第一歩、言ってみれば伸びしろです。全国学力・学習状況調査の「個々の問題の誤答の 状況から児童生徒のつまずきを明らかにし、学習指導の改善・充実につなげる」という考え方を、改 めて一人一人の先生方が自らの実践に生かしていただきたいと思います。そして、調査が大切にして いる「継続的な検証改善サイクルの確立」とは、目新しいことではなく、日頃の学校経営、教育活動 の一環であるということを共有し、実態に応じた取組を進めていただきたいと思います。

参照

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