論文内容要旨
Effects of ouabain on respiratory rhythm generation in brainstem-spinal cord preparation from newborn rats and decerebrate and arterially perfused in situ preparation from juvenile rats Neuroscience 286 404-411(2015)
生理系 第二生理学専攻 津澤 佳代
Na/K-ATPase(以下 Na ポンプ)は細胞のイオン勾配を維持するのに不可 欠な膜蛋白質である.多くの細胞機能がこのポンプを介したナトリウムイ オン勾配を利用して輸送されるが,呼吸中枢における Na ポンプの役割は 良く知られていない.我々は,Na ポンプの呼吸中枢における働きを明ら かにする目的で,新生児ラットの延髄-脊髄標本および若年ラットの除皮 質動脈潅流標本をもちいて,Na ポンプ阻害薬であるウアバインの呼吸リ ズム形成への効果について調べた.
0~3 日齢の Wister 系ラットからイソフルラン深麻酔下に脳幹-脊髄標 本を単離した.標本は下小脳動脈の位置で吻側を切断し,2 ml のチャン バーに設置し,2.5~3.0 ml/min の速度で外液を酸素飽和クレブス液(95%
O2,5%CO2,pH7.4,26~27℃に維持)で灌流した.第 4 頸髄神経腹側根(C4)
を小ガラス管で吸引し,呼吸性活動を記録した.さらに、傍顔面神経呼吸 ニューロングループ(pFRG)の吸息先行型(Pre-I)ニューロンおよび吸 息性ニューロンの膜電位をホールセルパッチクランプ法により記録した.
また,11~13 日齢の Wister 系ラットを用い,イソフルランによる深麻酔 下に除皮質動脈潅流標本を作製し,酸素飽和クレブス液(95%O2,5%CO2, pH7.4,25~27℃に維持)で潅流し,横隔神経より呼吸性活動を記録した.
新生児ラット脳幹‐脊髄標本を用いた実験では,ウアバイン(0.1~20 µM)を 15~20 分間灌流したところ,濃度依存性に C4 吸息性神経活動の頻 度が増加した.特に,1~20 µM の濃度では,呼吸リズム促進の効果はウ アバインを洗い流した後 1 時間以上にわたって持続した.また,C4 バー ストの持続時間(吸息時間)は減少した.Pre-I ニューロンはウアバイン の投与により脱分極を示し,吸息性 ニューロンにおいても脱分極の傾向 が見られた.若年ラット除皮質動脈潅流標本を用いた実験においても,ウ アバイン(10~40 µM)を投与した際に,呼吸頻度の増加が認められた.
その効果はウアバインを洗い流した後も持続し,このとき横隔神経活動の
持続時間(吸息時間)は増加した.
また, pFRG を含む脳幹網様体における Na ポンプサブユニット(α1,
α2,α3)の発現を in situ hybridization 法を用いて確認した.特に,
Na ポンプサブユニットのうちα3 サブユニットの発現は最も強く,pFRG を含む下位脳幹にウアバインの標的となる細胞が存在することが示され た.
ウアバインによる呼吸リズム促進は,新生児ラットの延髄-脊髄標本お よび若年ラットの除皮質動脈潅流標本のいずれにおいても見られた.その 細胞機構としては Na ポンプの抑制によるリズム形成ニューロンの脱分極 が原因となることが示唆された.リズム促進は,ウアバインの洗い流し後 も長時間継続した.この理由については,α3 サブユニット-ウアバイン 複合体の解離の時間経過が遅いことが考えられるが詳しいことはわかっ ていない.結論として,Na ポンプの働きは呼吸リズムの調整においても 重要な役割を担っていることが示唆された.