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カベアナタカラダニの生態観察事例(その2)

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東京都健康安全研究センター研究年報 第60号 別刷

2009

カベアナタカラダニの生態観察事例(その2)

産卵期の生態

大野 正彦,花岡 暭,関 比呂伸,狩野 文雄

Some Observations of Balaustium murorum (Acarina: Erythraeidae) in Urban Areas II Life in the Ovipositional Period

Masahiko OHNO, Kiyoshi HANAOKA, Hironobu SEKI and Fumio KANO

(2)

* 東京都健康安全研究センター環境保健部環境衛生研究科

169-0073 東京都新宿区百人町3-24-1

カベアナタカラダニの生態観察事例(その2)

産卵期の生態

大 野 正 彦*, 花 岡 暭*, 関 比 呂 伸*, 狩 野 文 雄*

大量に発生し住民に著しい不快感を及ぼしているカベアナタカラダニの産卵期の生態について調査した.採集 した試料からはオスがみつからず,ほとんどの個体が単為生殖を行っていると思われた.建物の壁やタイル面に 徘徊し体内に卵を保有している成虫の卵数を調べると.卵を1つ持っている個体が最も多いことがわかった.少数 の個体は10個以上の卵を持っており最多は22個であった.このダニは体内に卵ができるに伴い,這い回らなくな るように思われた.建物の屋上において卵は壁面にある間隙から多数採集された.ダニが這いまわっているコン クリート床面,床面上の土壌やコケは,屋上では主要な産卵場所ではないことがわかった.屋上では隙間を無く し,ダニの潜入を防ぐことが,このダニの防除につながるものと思われる.

キーワード:カベアナタカラダニ,産卵,単為生殖,屋上

は じ め に

カベアナタカラダニ(Balaustium murorum)1) は微小な赤 いダニで(胴長約0.3~1 ㎜),5,6月を中心にビルの屋上 や壁・一般家屋のブロック壁等に多数徘徊する.赤く目立 ち不快感を及ぼすため,東京都では保健所等に住民から毎 年約100件の問い合わせがあり,ダニ類の苦情の約1割を占 める2).著者らはこの種を効果的に駆除・防除するには,

その生態を知る必要があると考え,継続的な調査を行って いる.前報3で次のことを報告した.

①都内のビル屋上に広く分布し,防水加工を施した屋上で 個体数が少ない傾向にあった.

②3月末に幼虫,4月中旬に若虫.4月下旬に成虫がそれぞれ 出現し,5月中下旬に体内に卵を有する個体がみられた.そ の後,次第に減り,7月以降ほとんどみられなくなった.

③ 花粉・小昆虫を摂食しているのが観察され,広い食性を 持っていた.

今回,成虫の産卵期の生態,特に保有卵数と産卵場所を 調べたので報告する.

調 査 地 点 及 び 方 法 1.成虫の性別と保有卵数

前報3で述べたように,2008年3月から7月にかけて新宿 区の当センター新館東南側敷地内で4つの調査地点(タイル

・タイル壁面・縁石・側溝蓋上面)を設け,そこに這い回 るカベアナタカラダニ(以下ダニと称す)を採集し,プレ パラート標本を作製した.

その標本の内,成虫で卵を持っていない2,052個体の雌雄 を生物顕微鏡下で判別した.また,卵を保有するメス成虫 483個体の卵を数えた.明瞭な卵殻がみえる円形ないし楕円 形のものを卵とした.

2. 屋上における産卵場所 1) 発生消長

前述の地上の敷地では土壌・樹木・草本・舗装された歩 道・側溝・建物等があり環境が複雑なため,比較的単純で ダニが多数みられる当センター新館屋上(Photo 1,防水加 工せず)において産卵場所を探索した.前以て屋上におけ るダニの発生消長を把握する必要があるため,地上敷地で の調査と並行して屋上においても以下の調査を行った.

2008年3月から約1年間,毎週1回午前10時半頃,屋上床面 コンクリート板の間のクッション剤(発砲スチロール・ス ポンジ・プラスチック)を覆っている黒色ゴムベルト(幅 26 mm,長さ6.4 m,厚さ約3 mm,Photo 1)に這っているダ ニを面相筆で採集し,70%アルコールに保存した.ゴムベ ルトの途中に5箇所の切れ目(長さ約2,3,1.5,6.5,7.5 cm) があり,そこには土壌やコケ(ホソウリゴケBrachymenium exile)がみられたが,そこも採集箇所とした.

前報3同様,採集したダニをガムクロラール液で封入し Photo 1. Researched Roof of a Five-Story Building

(3)

Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 60, 2009 260

プレパラート標本を作製した.生物顕微鏡下で採集個体を 数え,成長段階を判別した.

2) 卵の探索

2009年2月から4月にかけて新館屋上でダニの卵を探した.

床面に生育する地衣類(ダイダイゴケの1種 Caloplaca sp.),

ゴムベルトの下の土,コケ類(ホソウリゴケ,ヒロクチゴ ケ Physcomitrium eurystomum),床面や壁面の砂等様々な 場所で採集した.試料を実験室に持ち帰り,ビーカーに入 れ,飽和食塩水を加え中性洗剤を少量滴下し,よく攪拌し た後,しばらく放置し,浮き上がったものをろ紙上にろ過 した.そして,蒸留水を加えて,ろ紙内の食塩を除去した 後,ろ紙表面を実体顕微鏡下で観察し卵の有無を調べた.

結 果 及 び 考 察 1. 成虫の性と保有卵数

1) 性別

採集したダニの成虫からオスがみつからなかった.今回 と同様にオスがみられないことが報告されている4-6,また,

このダニは単為生殖とみられると述べる報文7)もある.同 属でオスが存在する種もあり7,8),この種のオスの存在を否 定できないが,ほとんどの個体が単為生殖を行っていると 思われた.

2) 保有卵数

4調査地点の採集個体数の変動や成長段階はほぼ同様だ ったので,4地点の卵を持つ成虫を合わせて卵数を検討した.

卵保有成虫の出現時期を5月1~15日,5月16~31日,6月1

~15日,6月16~7月1日に四分して成虫の卵保有率と各個体 の卵数の頻度分布を検討した.各調査時期の成虫卵保有率 はそれぞれ22/469(5%),314/1474(21%),124/433(29%),

23/80(29%)で徐々に増加したが,大部分のダニが卵を保

有するほどには上昇しなかった.各個体の卵数の頻度分布

をFig. 1に示した.どの時期でも卵を1つ持つ個体が最も多

かった.これら1卵保有の成虫は,今後卵になる境界が不 明瞭な楕円形の球体もいくつか持っていた.メスは12~35 個の卵を塊状に産みすぐに死ぬといわれる9).ダニは卵の 形成に伴い,這い回

ることが少なくなる ように思われた.

しかし,中には卵 を多数持って動いて いる成虫もいた.体 内に10個を超える卵 の個体(Photo 2)も 少数あり,今回の調 査の最多値は22個で あった.

2. 産卵場所 1) 発生消長

Fig. 2に屋上での発生消長を示す.2008年3月に幼虫,4

月中旬に若虫.5月初めに成虫がそれぞれ出現し,5月中旬 に体内に卵を有する個体がみられた.その後,次第に減り,

7月以降みられなくなった.前報3で述べた地上4調査地点 のダニの消長とほぼ同様で,ここでもオスはみられなかっ た.

2009年では3月下旬に幼虫が出現し,毎年このような発生 を繰り返すことがわかった.なお,前報3)の地上4調査地点 No.1~4でも,それぞれ2009年3月17,18,13,17日に幼虫 がその年初めて観察された.

0 10 20 30 40 50 60

27- Mar.

3-Apr. 10- Apr.

17- Apr.

24- Apr.

1- May

8- May

15- May

22- May

29- May

5-Jun 12- Jun

19- Jun

26- Jun

12- Mar

19- Mar

25- Mar Sampling date

Collected number of B. murorum

Larva Nymph Adult with no egg Adult with egg

Photo 2. Adult of Balaustium murorum with Many Eggs

Fig.1. Frequency Distribution of Egg Number of Mature B.

murorum Collected on the Ground from May to July in 2008

Fig. 2. Emergence of B. murorum on the Roof from March 2008 to March 2009 The Mites were collected on the Surface of Rubber Belt (26 mm x 6.4 m).

May 1-15, 2008

0 2 4 6 8 10 12

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21

Individal number

May 16-31, 2008

0 20 40 60 80 100

1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21

Individual number

June 1-15, 2008

0 10 20 30 40 50 60

1 3 5 7 9 11 13

Number of eggs /an individual

Individal number

June 16 - July 1, 2008

0 5 10 15

1 2 3 4 5 6 7 8 9

(4)

2) 卵の探索

Table 1に探索結果を示す.ダニが通常這っていたコンク

リート床面の地衣類,ダニの発生消長を調べたゴムベルト やその下の土壌からはダニは検出されなかった.ゴムベル トの切れ目のホソウリゴケとその周りの土壌(採集番号 No.1),壁面近くの床面上の砂(No.6)及び床面上のヒロ クチゴケ(No.11)から卵をそれぞれ1つ検出したが,これ らが主要な産卵場所とはいえなかった.しかし,壁面から 多数の卵がみつかった.壁面は床面と接する部分に5 mm程 度の間隙があり,その中に溜まった砂(No.8,No.8’-3)か

ら多数の卵を検出した(Photo 3 - 5).また,その間隙上部 の金属製補強枠に付着した砂(No.10’-4)からも卵が抽出さ れた.このダニは屋上では壁面の隙間を産卵場所として利 用しているとわかった.ここは屋上の他の箇所と比べ安定 した場所であろう.屋上において間隙をなくしてダニの潜 入や砂等の堆積を防ぐことは,大量発生の防除に有効な方 法と考えられた.防水加工を施したビルの屋上で,このダ ニが少なかった3のは,ダニの潜れる間隙がウレタン等の 防水剤で埋められて,ほとんど消失したためかもしれない.

Table 1. Search for Ovipositional Sites of B. murorum on a Roof in 2009

(5)

Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 60, 2009 262

ま と め

当センターの東南側敷地と新館屋上でカベアナタカラダ ニの産卵期の生態について調査し,以下の知見が得られた.

1. このダニのオスがみつからなかった.多くの個体は単 為生殖を行っている可能性が高い.

2. 建物の壁やタイル面等を這い回っているダニでは,そ の体内に卵を1つ保有する個体が最も多かった.ダニは 卵の形成に伴い,這い回らなくなるように思われた.

3. 少数の個体は10個以上の卵を持ち,最大値は22個であ った.

4. 卵は屋上の壁面の間隙から多数採集された.ダニが這い まわっているコンクリート床面,床面上の土壌やコケは 屋上では主要な産卵場所ではなかった.

謝辞 蘇苔類・地衣類を同定していただいた東京都環境科 学研究所 大橋毅研究員に深謝いたします.

文 献

1) Hermann, J. F.:Des murs (murorum), 28, 155, 1804, Mémoire aptérologique, F. L. Hammar, Strasbourg : Levrault.

2) 東京都福祉保健局:東京都におけるねずみ・衛生害虫 等相談状況調査結果 3 ダニ類,

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kankyo/eisei/nez ukon/files/3_dani.pdf (2009年10月13日現在,なお本 URLは変更または抹消の可能性もある).

3) 花岡暭,大野正彦,狩野文雄,関比呂伸:東京健安研 セ年報,59, 255-258, 2008.

4) 芝 実:第44回全国環境衛生大会抄録集,29-32, 2000.

5) 芝 実:カベアナタカラダニ,奥谷禎一編,原色ペス トコントロール図説Ⅴ集,52-57, 2001, 日本ペストコ ントロール協会,東京.

6) 京都府保健環境研究所:タカラダニをご存知ですか?

http://www.pref.kyoto.jp/hokanken/mame_takaradani.ht ml (2009年10月13日現在,なお本URLは変更または 抹消の可能性もある).

7) Gabryś, G.: Ann. Zool., 50, 47-56, 2000.

8) Putman, W. L.: Acarologia, 8, 424-426, 1966.

9) 伊藤弘文,白坂昭子:ペストロジー学会誌,10, 53-55, 1995.

Photo 3. Gap between the Wall and Floor on the Roof Sand accumulated in the Gap.

Photo 4. Egg Mass of B. murorum Collected from the Gap between the Wall and Floor of the Roof on April 3, 2009

Photo 5. Larva in the Egg of B. murorum Collected on April 3, 2009

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* Tokyo Metropolitan Institute of Public Health

3-24-1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073 Japan

Some Observations of Balaustium murorum (Acarina: Erythraeidae) in Urban Areas II Life in the Ovipositional Period

Masahiko OHNO*, Kiyoshi HANAOKA*, Hironobu SEKI* and Fumio KANO*

Balaustium murorum wanders the walls of houses, gardens and roofs of office buildings in Tokyo from spring to early summer.

The mite is a nuisance to the residents. In order to know effective methods for controlling this mite, we investigated its ovipositional life. The mite seemed to be parthenogenetic, because no males were collected in this research. Most of the mature adults wandering on the ground had one egg. A few mites had more than 10 eggs, and the maximum number was 22. It seemed that mites decreased wandering gradually according to their egg growth. A large number of the eggs were collected from the gap between the wall and floor of a building’s roof. The surface of the concrete floor, soil and moss on the roof did not seem to be the main ovipositional sites of the mite. Filling up the gaps is one means of the preventing the mass emergence of the mites.

Keywords: mite, Balaustium murorum, oviposition, parthenogenesis, roof

Fig. 2. Emergence of B. murorum on the Roof from March  2008 to March 2009    The Mites were collected on the  Surface of Rubber Belt (26 mm x 6.4 m)

参照

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