【 特 集: プラスチック二次資源化としての役割と技術展開 】
炭素繊維強化プラスチック (CFRP) のリサイクルの現状と課題
加 茂 徹 *
【要 旨】 炭素繊維強化プラスチック (CFRP) は軽くて丈夫で,自動車等に用いた場合に車両を軽量 化して燃費を向上させることができる。炭素繊維は製造時にエネルギーを多く消費するが,リサイクル することにより自動車等のライフサイクルエネルギーを大幅に削減できると期待されている。CFRP か ら炭素繊維を回収する方法としては,物理的あるいは化学的な手法が数多く提案されている。炭素繊維 は不活性なガス雰囲気中では加熱しても引張強度等の物性劣化はほとんどないが,酸素,水蒸気,強酸 等によって物性が劣化すると報告されており,炭素繊維にダメージ与えずにプラスチックを取り除くこ とがリサイクルの重要な技術的課題となっている。炭素繊維のリサイクルを普及させるためには,回収 された炭素繊維を用いた製品の開発や,回収された炭素繊維の品質やトレーサビリティーを表示する標 準規格化等の社会システムの整備も重要である。
キーワード:炭素繊維,リサイクル,複合材料,炭素繊維強化プラスチック (CFRP),資源循環
1.は じ め に
軽量で引張強度や弾性率が高い炭素繊維強化プラス チック (以下,CFRP) は,これまで航空・宇宙分野や F1 レーシングカーあるいは高性能なスポーツ用品等の 限られた分野で使用されてきた。自動車等の交通輸送分 野では,二酸化炭素の排出量を大幅に低減するために軽 量化によるエネルギー効率の飛躍的な向上が求められて おり,CFRP はこれらの問題を解決する有力な材料の一 つとみなされている。また再生可能エネルギーの普及に 伴って発電効率の高い超大型風力発電の建設が促進され るなど,産業用の広い分野で CFRP への需要が今後大 きく伸びると期待されている。炭素繊維は鉄に比べて製 造時に膨大なエネルギーが消費され (鉄:48 MJ/kg,
炭素繊維:234 MJ/kg)1),また CFRP の工程廃材や使 用済み製品は通常の焼却炉では処理できないので,現在,
大部分は埋め立て処理されている。CFRP をリサイクル することによって製造エネルギー原単位を低減化し,埋 立処理される CFRP 廃材を大幅に減らすことができる。
年間数万台販売されているプラグインハイブリッド
(PHV) のトヨタ自動車(株) プリウスのリアドアには CFRP が使用されており,後数年後には大量の使用済み CFRP が排出されることは明らかで,CFRP のリサイク ル技術の実用化は喫緊の課題であり,本報ではその現状 と今後の課題を述べる。
2.炭素繊維の現状
竹から作られた炭素繊維は,19 世紀末にエジソンに よって発熱灯のフィラメントとして工業的に初めて利用 された。その後 1959 年に UCC (米国ユニオンカーバイ ト社) がレーヨンから炭素繊維を製造するプロセスを開 発し,1965 年から高性能炭素繊維の商業生産が開始さ れた。これに対して現在主流となっているポリアクリル ニトリル系 (PAN 系) の炭素繊維は,1962 年に大阪工 業試験場 (現 (国研)産業技術総合研究所) の進藤昭男博士 によって開発され,日本カーボン(株) によって工業化さ れた。またピッチ系炭素繊維は,1963 年,群馬大学の 大谷杉郎教授のポリ塩化ビニル (PVC) ピッチの熔融 紡糸・熱安定化・炭化から開発が始まり,1970 年に呉 羽化学工業(株)が世界で初めて工業生産を開始した1)。
炭素繊維の開発は当初欧米企業が先行していたが,技 術開発の失敗や新たな市場が未発達だったこともあり 次々に撤退し,現在では東レ(株),東邦テナックス(株),
三菱化学(株)等の日本企業で世界市場の約 60 % 近くを占 めている (表 1)2)。炭素繊維は当初極めて高価だったた 原稿受付 2018.2.7
* (国研)産業技術総合研究所 環境管理研究部門
資源精製化学研究グループ 連絡先:〒 305-8569 つくば市小野川 16-1
E-mail : [email protected]
めに航空・宇宙分野で主に使用され,ボーイング 787 に は全体の約 50 %,エアバス A350 には 53 % もの CFRP が使用されている。1980 年代以降,ゴルフクラブ,テ ニスラケット,釣り竿等の民生用品の市場も拡大した。
また最近では,米国で天然ガス用の高圧タンクへの需要 が高まっている。
CFRP 全体の市場規模は約 1.3 兆円程度で,日本メー カーが得意としている炭素繊維の市場規模は 1,700 億円 程度に過ぎず,巨大な航空・宇宙産業を擁する欧米が市 場の大部分を独占している3)。今後は航空・宇宙分野だ けでなく,自動車等の交通輸送分野および大型高圧タン クや風力発電等のエネルギー分野での市場が大幅に増加 し,CFRP 関連の市場規模は 2030 年には 5 兆円を超え ると予想されている。日本企業はこれまで炭素繊維の製 造が主であったが,CFRP の市場が自動車やエネルギー 等の一般産業用機器に大きく広がることにより,新たに CFRP を使用した中間部品あるいは最終製品へ進出でき ると期待されている。また CFRP の工程廃材や使用済 み製品を原料とするリサイクル分野の市場規模は 2030 年には約 1,000 億に達すると推定され,資源循環に関連 する有望な市場に成長すると予想されている (図 1)。
3.CFRP
処理の現状炭素繊維や CFRP の工程廃材あるいは使用済みの製 品の大部分は EU や日本では埋立処理されているが,
2025 年までに EU は埋立ゼロを目指しており,実用的
な CFRP のリサイクル技術への期待は非常に大きい。
CFRP 製の高圧水素タンクを通常の ASR (自動車 シュレッダーダスト) 用のシャフト炉,流動床炉,サー モセレクト炉,ロータリーキルン炉の 4 つの燃焼炉で処 理した場合,すべての施設でスラグ内あるいはダスト内 に CFRP 由来の未燃炭素繊維が残留することが確認さ れ,振動ふるいの詰まりやクリンカの生成等の問題が発 生した。また燃焼ガス中の未燃炭素繊維を電気集塵機で 除塵する場合,50 mm 以上のものは電気集塵機の前段 で取り除くことが必要で,電気集塵機に炭素繊維が混入 した場合には炭素繊維が長いほどスパークしやすく,現 行の湿式集塵機の集塵極や放電極を洗浄できるよう改造 する必要があることが明らかにされた4)。
表 1 炭素繊維の生産能力 (ton/年)2)
PAN 系炭素繊維メーカー 2014 年 ピッチ系炭素繊維メーカー 2014 年
レギュラー トウ 長繊維
東レグループ 25,800 三菱レイヨングループ 1,000
帝人グループ 13,900 日本グラファイトファイバー 180
三菱レイヨングループ 8,150 Cytec Engineered Materials 230
Hexcel (米) 8,600 小 計 1,410
Cytec (英) 2,400 短繊維
台湾プラスチック (台湾) 8,750 クレハ 1,450
Aksa (トルコ) 3,500 大阪ガスケミケル 600
Kemrock (インド) 400 小 計 2,050
中国 13,100 合 計 3,460
泰光産業 (韓国) 1,500 (商号は略す)
小 計 86,100
ラージ トウ
Zoltek (米、東レ) 13,000
SGL (英) 12,000
三菱レイヨングループ 2,700
東レグループ 300
小 計 28,000
合 計 114,100
CFRTP:炭素繊維強化熱可塑性樹脂
図 1 炭素繊維関連産業の予想される市場規模
自動車を製造してから廃棄までに要するすべてのエネ ルギー消費量 (ライフサイクルエネルギー) の中で走行 時のエネルギー消費が占める割合は非常に大きく,ス チールに比べて製造時のエネルギー消費量が多い CFRP を用いても車両重量を軽量化して燃費を向上できるため,
自動車のライフサイクルエネルギーを大幅に低減化でき る (図 2)5)。また炭素繊維をリサイクルすると炭素繊維 製造のエネルギー原単位が下がり,自動車のライフサイ クルエネルギーをさらに低減できると期待されている。
4.CFRP
の特徴炭素繊維はシート状の炭素正六角環平面が数枚から十 数枚重なった黒鉛微結晶と低密度の非結晶部分からなり,
炭素繊維表面に比べて内部の微結晶は小さく,また炭素
繊維にはボイド欠陥や表層欠陥が多く含まれている6)。 炭素繊維の引張強度は黒鉛結晶の面方向の理論的強度の 4 % 程度で,ボイド欠陥や表層欠陥が大きくなるに従っ て引張強度は低下する。炭素繊維の破断はボイド欠陥や 表層欠陥から始まり,炭素繊維強度はこれらの欠陥に支 配され,炭素繊維は長くなると欠陥数が多くなるので引 張強度が低下する2)。炭素繊維は熱的および化学的に非 常に安定で,不活性雰囲気下では 1,000 ℃以上に加熱し てもほとんど重量変化を示さず,常温では硝酸や硫酸等 の強酸以外の化学物質に対して安定で,紫外線に対する 耐候性も高い。CFRP を製造する際に炭素繊維とプラス チックとの密着性は極めて重要であり,親和性を高める ために炭素繊維の製造工程の後半で表面を処理しカルボ キシル基,ヒドロキシル基,ケトン基等の含酸素官能基 を修飾させ,さらに密着性を高めるためにザイジング材 を塗布している。CFRP で使用されているプラスチック は単に炭素繊維を束ねているだけなく,プラスチックと 炭素繊維を一体化して,たとえ 1 本の炭素繊維が切れて も応力を近傍の他の繊維に分散させる重要な役割を担っ ている7)。CFRP では炭素繊維との濡れ性や接着性が高 く,機械的強度や耐熱性に優れた熱硬化性樹脂の一種で あるエポキシ樹脂が多く使用されている。一方,熱可塑 性樹脂を用いると製造時間を大幅に短縮できるが,粘度 が高く炭素繊維と密着させるためにプラスチックを高温 高圧で含浸させなければならない。
炭素繊維のリサイクルでは,物理的あるいは化学的手 法を用いて CFRP のプラスチックを取り除き炭素繊維 を回収する。その際,炭素繊維へのダメージを最小にし ながら炭素繊維表面に付着している残渣を完全に取り除 図 2 自動車のライフサイクルエネルギーに対するリサ
イクルの効果5)
図 3 CFRP のリサイクル法の概要
き,引張強度等の物性の劣化を防ぐことが技術的な課題 となる (図 3)。
5.CFRP
のリサイクル5. 1
熱分解法熱分解法は CFRP を加熱してプラスチックを熱分解 し炭素繊維を回収する手法であり,非常に多くの大学や 企業および研究機関によって開発が進められ,最も実用 化に近いプロセスである。CFRP には通常熱硬化性樹脂 の一種であるエポキシ樹脂が多く使用されているため,
300 ℃以上に加熱すると熱分解が始まり,400 ℃に達す るまでに大部分の反応は完了する。窒素やアルゴン等の
不活性雰囲気下で熱硬化性樹脂を熱分解すると通常 20〜30 % 程度の残渣が炭素繊維表面に付着する。この 残渣を残したまま回収した炭素繊維にプラスチックを混 合し複合材料化しても,プラスチックと炭素繊維の間に 残渣が残るために密着性が低く強固な複合材料を再生す ることはできない。CFRP を酸素や水蒸気共存下で加熱 すると炭素繊維表面の残渣の発生を低減化することはで きるが,酸素や水蒸気あるいはプラスチックの熱分解で 発生するラジカルが炭素繊維本体にダメ―ジを与えて引 張強度等の物性を劣化させる。すなわち熱分解による CFRP のリサイクルでは,プラスチック由来の残渣をき れいに取り除くとともに,炭素繊維本体にはダメージを 与えない処理条件の確立が極めて重要となる。
炭素繊維協会 (現 化学繊維協会) は,CFRP を窒素 中 500〜700 ℃で 2 時間熱分解した後に切断粉砕し繊維 長数 100
μm 程度のミルド繊維を回収する技術を日本で
最も早く実証規模で検討した。本法で回収された炭素繊 維の曲げ強度は,バージン材と同程度と報告されている。研究組合は 2015 年に解散されたが,そこで得られた知 見を活かして熱分解時に発生した分解ガスを加熱用のエ ネルギー源とする研究が進められている (図 4)8)。
カーボンファイバーリサイクル工業(株)は,1 段目で CFRP を 500〜600 ℃で炭化し,2 段目ではわずかな酸 素を導入しながら試料を 460〜550 ℃で焼成する 2 段熱 分解法を開発した (図 5)。1 段目で過熱した水蒸気を導 入すると,試料を均一にしかも迅速に加熱できると報告 している。2 段目では 480 ℃で焼成した場合,バージン 材に比べて引張強度 85 % 程度の炭素繊維が回収された
図 5 2 段式熱分解法の概要 図 4 熱分解による CFRP からの炭素繊維の回収8)
(図 6)。本装置では,一段目の CFRP の熱分解で発生し た分解ガスを加熱用の燃料として用いているため,外部 から加える燃料が少なく省エネルギー性能が高い特徴を 有している9)。
(一財)ファインセラミックスセンターは,過熱水蒸気を 用いて CFRP を熱分解した場合,水蒸気 100 % を反応 系内に導入すると 600 ℃以上で引張強度の低下が観測さ れるが,窒素を 4 % 程度添加すると引張強度の劣化を 抑制できることを見いだした (図 7)10)。また炭素繊維 表面の含酸素官能基は過熱水蒸気で処理すると増加し11), 窒素を 4 % 添加するとせん断強度がバージン炭素繊維 よりも大きくなると報告されている12)。空気雰囲気下で CFRP を熱分解すると局所的な酸化が進行して過熱する 場合があるが,熱伝導性の高い水蒸気を添加すると試料 を均一に加熱でき,過熱による炭素繊維の物性の劣化を 防ぐことができる。
半導体触媒 (Cr2O3) 共存下の空気雰囲気下で CFRP を熱分解すると,半導体触媒によってプラスチックや残 渣の酸化反応が促進され,清浄な表面を有する炭素繊維 が回収できる13)。炭素繊維はマイクロ波をよく吸収する ため,炭素繊維にマイクロ波を照射すると炭素繊維のみ を選択的に急速加熱できる。アルゴン雰囲気下で炭素繊 維にマイクロ波を 300 秒照射すると 90 % 程度のプラス
チックを除去でき,炭素繊維の引っ張り強度はバージン 材に比べてわずかに低下した14)。
イギリスの ELG Carbon Fibre 社やドイツの carbo NXT 社は熱分解法を用いた炭素繊維のリサイクル技術 を開発しており,ELG 社は年間約 1,000 ton の炭素繊維 を回収している。
5. 2
液 化 法溶媒中の特異な反応場を利用して特定な結合を開裂さ せて高分子を低分子化させる液化法は,これまで石炭液 化やプラスチックのケミカルリサイクル等の多くの化学 プロセスで利用されてきた。CFRP を 1,2,3,4-テトラヒ ドロナフタレン15)や濃硝酸中16)で処理すると,炭素繊維 を回収できることが報告された。静岡大学は,安価で環 境負荷の小さな水を溶媒とした場合,アルカリを添加す ると超・亜臨界状態の 300〜400 ℃,20 MPa で炭素繊 維が回収できることを見いだした17)。エポキシを重合す る際に無水フタル酸等の酸無水化物を硬化剤として用い ると樹脂内にエステル結合が含まれ液化しやすいが,ア ミン系の硬化剤を用いると液化しがたいことが知られて いる。超臨界状態のアルコール溶媒を用いると,アミン 系硬化剤で重合させたエポキシ樹脂も容易に液化され,
初期可溶化速度はメタノール>エタノール>プロパノー ルの順で速く,溶媒の分子容の小さい,プラスチックに 浸入しやすい溶媒が優位であると報告されている。また アセトンを溶媒として用いると 350 ℃,7 分でエポキシ が完全に液化され,回収した炭素繊維の引張強度の低下 はごくわずかであった (図 8)18)。超・亜臨界の溶媒を 使用して CFRP を液化し炭素繊維を回収する研究はこ れまでに非常に多く報告されているが19-21),実用化のた めにはさらなる反応温度・圧力の温和化が必要と考えら れる。
CFRP にはビスフェノール A を基本骨格に酸無水化 図 6 炭化および焼成させた炭素繊維の表面
図 7 炭素繊維のリサイクルにおける過熱水蒸気の効果10) 図 8 超臨界アセトン中でのアミン硬化エポキシ樹脂の 液化
物で重合したエポキシ樹脂が工業的に多く使用されてお り,分子内にエステル結合が含まれている。日立化成 (株)は,ベンジルアルコールに三リン酸カリウムを触媒 として添加した溶媒を用いると,エステル結合が溶媒と のエステル交換反応によって開裂してエポキシ樹脂が液 化され,常圧下 200 ℃程度の比較的温和な条件下で CFRP から炭素繊維を回収できることを見いだした (図 9)22)。本法は経済的で,しかも炭素繊維の物性に影響を 与える酸素や強酸が共存せず,またエポキシ樹脂の液化 において反応性の高いラジカルが発生しないため,回収 された炭素繊維の物性がほとんど劣化しない特徴を有し ている。一方,プラスチック内にエステル結合等の開裂 しやすい結合を有していることが不可欠で,可溶化でき るプラスチックの種類が限られている。
5. 3
物理的手法CFRP をハンマーミルで粉砕した後に風力で炭素繊維 とプラスチックに分離し,炭素繊維を SMC (シールド モールドコンパウンド) の原料として使用するリサイク ル法23)は,ガラス繊維のリサイクル法としても以前から 用いられている手法である。粉砕法は実用的ではあるが,
粉砕の際に繊維の強度劣化が著しい。100〜200 kV の電 気パルスを対象物に放射し,異なる物質の界面を剥がす 高電圧フラグメンテーション法は,鉱物から結晶を採取 する手法として開発され,廃コンクリートから石材の回 収,石炭の脱灰,電子基板からの電気素子の分離等の分 野で検討されてきた。水中の GFRP (ガラス繊維強化プ ラスチック) や CFRP に電子パルスを放射すると炭素 (ガラス) 繊維とプラスチックを分離でき,パルス数を 増やすと繊維に付着した残渣を少なくできることが見い だされた (図 10)。パルス幅が短いので意外に電気エネ ルギー消費は少ないが,それでも通常の破砕法に比べて
2〜3 倍のエネルギーを消費することが報告されてい る24)。
5. 4
電解酸化食塩水に浸した CFRP をアノードとして印加すると 電気分解で発生した塩素がエポキシ樹脂の分解を促進し 炭素繊維が回収される。回収された炭素繊維の引っ張り 強度は食塩濃度や印加電流が大きくなるに従って低下し たが,バージン材の 80 % の強度を有する炭素繊維が回 収された25)。硫酸に浸した CFRP に直流電圧を印加す ると電気分解によって発生した酸素によりプラスチック が分解され炭素繊維が回収された。また CFRP を空気 中 400 ℃で熱分解した後,水酸化カリウムと塩化カリウ ムの混合液中で印加するとプラスチックの分解は 96 % に達した26)。電解酸化法は炭素繊維の表面改質等にも利 用されており,従来の熱分解法に比べて極めて温和な条 件下で炭素繊維を回収することができる。今後,電力使 用量の低減化および回収された炭素繊維の物性向上が課 図 9 エステル交換反応によるエポキシ樹脂の液化
図 10 高電圧パルス選択性粉砕装置
題となる。
6.回収した炭素繊維の利用法
CFRP には,各種のプラスチックを含浸させた布状の 炭素繊維を層状に重ねたものや,一方向に揃えた炭素繊 維プレプリグの方向を違えて積層させたもの,あるいは 比較的短い炭素繊維をプラスチックに混入したもの等,
さまざまな製品がある。工業製品中に使用されている炭 素繊維の長さは製品ごとに異なり,一定の長さの炭素繊 維を選択的に回収することはできないため,ミルド (<100
μm),チョップド (〜1 mm) 短・中・長繊維等
おおよその長さごとに分けて使用することが考えられて いる。回収された炭素繊維の長さや分布は,繊維長が短 い場合は画像解析によって測定することができるが,長 い繊維に対して適した測定法がなく,今後の技術開発が 待たれている。CFRP から回収された炭素繊維の表面には,通常官能 基やサイジング剤がほとんどなくなっている。炭素繊維 表面を軽度に酸化あるいはサイジング剤を塗布すると複 合材料の性能が向上することが報告されているが27),回 収された炭素繊維は短く効率的な表面改質やザイジング 剤の塗布が難しいため,実際のプロセスでは回収した炭 素繊維をそのまま使用する場合が多い。回収した炭素繊 維を高付加価値の材料として利用するため,再生複合材 に適した表面改質法やサイジング剤の開発が期待されて いる。
炭素繊維は CFRP から通常綿状で回収され,そのま ま不織布として樹脂と混合しても Vf (炭素繊維と樹脂 の体積比) は 20 数 % 程度で,強固な複合材料を製造す るためには炭素繊維の方向を揃えて Vf を向上させる技 術が必要である。PAN 系の炭素繊維とピッチ系の炭素 繊維は引張強度や弾性率だけでなく熱伝導性が大きく異 なり,回収された炭素繊維を伝熱材等として利用するに は原料の識別は重要な課題であり,炭素繊維のトレーサ ビリティーの確立が求められている。
7.さ い ご に
CFRP から炭素繊維を回収する方法は上述したとおり,
熱分解,液化,機械的破砕,電解酸化等の多くの手法が 大学・研究所あるいは企業によって提案されている。し かし実用化されたプロセスは熱分法が唯一で,主要な再 生品は研磨材であり炭素繊維が本来もっている素材とし ての優れた性質は十分活かされていない。炭素繊維がこ れまで主に使用されてきた航空機・宇宙分野では,炭素
繊維や複合材料の製造技術の機密保持が最重要項目で,
廃材を有用利用する発想が元来乏しかった。今後,自動 車等の広い産業分野で炭素繊維を使用するためには,単 に製造コストを下げるだけでなく,工程廃材や使用済み 廃材を積極的に有効利用して炭素繊維のライフサイクル 全体を通して環境負荷を低減化させることが不可欠であ る。
航空産業だけでなく自動車等の多様な産業分野から排 出されるさまざまな CFRP から炭素繊維を回収し再利 用するためには,バージン炭素繊維とは異なる評価指標 が必要であり (表 2),これらの指標に基づいて回収さ れた炭素繊維や再生 CFRP の品質を適切に表示する国 際的な標準規格の制定が期待されている。
参 考 文 献
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表 2 回収された炭素繊維および再生 CFRP の評価指標
力学特性 繊維状態・形状
縦方向弾性率,強度 (引張,曲げ,衝撃,剪断) クリープ
横方向弾性率,強度 せん断弾性率,強度
繊維長,直径,アスペクト比 表面粗さ,キズ,クレーター 表面官能基
繊維体積割合 (Vf),密度 繊維の絡み合い状態,配向
樹脂,添加物,不純物 トレーサビリティ
プラスチック 繊維表面残渣
不純物 (樹脂,金属,他) サイジング剤
原料炭素繊維の種類 炭素繊維回収法 成形法
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Present Situation and Future Tasks for Carbon Fiber Reinforced Plastics Recycling Tohru Kamo
Resources Refining Chemistry Research Group, Environmental Management Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
(16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8569 Japan)
Abstract
Light and durable carbon fiber is a promising material for improving the fuel economy of automobiles through weight reduction. Although huge amounts of energy are consumed in the manufacturing of carbon fiber, consumption of automobile life cycle energy is expected to greatly reduce with the introduction of car- bon fiber recycling. Several physical and chemical methods for recovering carbon fibers from CFRP have already been proposed. Carbon fibers hardly deteriorate in their physical properties, i. e. tensile strength, even when heated in an inert gas atmosphere. It is reported, however, that the physical properties do deterio- rate when exposed to oxygen, steam, and strong acid, etc. Removing plastics without damaging the carbon fibers is the technical target for the carbon fiber recycling process. In order to promote the recycling of carbon fiber, it is also important to develop products that utilize recovered carbon fibers and create social systems that will standardize the necessary quality and traceability of the recovered carbon fibers.