ディザを用いた 1 bit 量子化による高速標本化記録
Fast Sampling and Recording by means of 1 bit Quantization with Dithering
1W110206-1 小谷野 雄史 指導教員 及川 靖広 教授
KOYANO Yuji Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要:本研究は,ディザと非常に高い標本化周波数によって
1 bit
量子化した信号の記録及び再生を目指し,FPGA
とシリアルATA (SATA)
を用いた1 bit
量子化信号の長時間記録再生システムを提案する.提案したシステムを用い て,80 MHz
以上の標本化周波数で1 bit
量子化した信号の記録,
再生することにより標本化周波数によるスペクトル の変化,ディザの振幅によるスペクトルの変化についての測定を行った.キーワード:
1 bit
,量子化雑音,ディザ,FPGA
,シリアルATA
Keywords: 1 bit, quantization noise, dither, FPGA, Serial ATA1. ま え が き
アナログ信号は時間方向の離散化である標本化と振幅 方向の離散化である量子化によってデジタル信号に変換 することができる.その際,連続分布する標本値を離散 的な値で表現するにあたって量子化誤差が生じて,入力 と量子化出力に差が生まれる.量子化誤差は標本化周波 数と量子化ビット数の組み合わせによって決定されるも のであり,その片方の極限である
1 bit
量子化に着目し た様々な検討が加えられてきた[1]
.1 bit
量子化の手段としては∆Σ
変調が広く用いられ ている.∆Σ
変調は量子化器をフィードバック回路の中 に設け,量子化雑音への伝達特性により量子化雑音のス ペクトル分布を可聴帯域の外の高周波領域に追いやるこ とで,可聴帯域内で高いSN
比を得ることができる.一方,
∆Σ
変調を用いずとも更に高い標本化周波数と 適切なディザ信号によってより簡単な回路で1 bit
量子 化を行うことができる[2]
.しかしフィードバック回路を 用いずに1 bit
量子化を行った場合,量子化信号の伝送 速度の速さと信号のデータ量の多さから,そのまま量子 化信号を長時間記録することは今まで困難であった.そ こで本研究では高い標本化周波数と適切なディザを用い て1 bit
量子化した信号の長時間記録を目的とする.2. ディザを用いた 1 bit 量子化
2. 1 ディジタル信号処理における量子化雑音量子化雑音は量子化誤差によって生じるノイズであり,
量子化ステップの間を一様に分布するような入力信号に 対しては,入力と無相関な白色性の雑音となる.しかし 入力レベルが低く量子化ステップ数が少ない信号,もし くは標本化周波数に対してごくゆっくりと変化する信号 に対しては,量子化雑音は入力と強い相関のある歪みと なる.量子化ステップ幅をδ,標本化周波数をfsとした とき,fs/2帯域内の量子化雑音電力の総和は入力に関わ らずδ2/12となる.
2. 2 ディザによる白色化
量子化雑音を白色化する方法として入力信号にディザ と呼ばれる確率変数を加算した上で量子化する手法が知 られている.±δ/2あるいはその整数倍に一様に分布し たディザを入力信号に加算した上で量子化し,量子化後 にディザを減算することで,量子化雑音を入力に関わら ず±δ/2に一様分布する白色性雑音とすることが可能で あり,その電力はδ2/12である.このとき量子化雑音は fs/2の帯域に一様に分布する.
2. 3 1 bit量子化における量子化雑音電力
入力信号にディザを加算して
1 bit
量子化した場合,量 子化雑音電力の総和は一定でありかつ一様分布であるの で,標本化周波数を信号帯域の2n
倍とすると信号帯域 内での量子化雑音電力Nq はNq=
δ2/12nと表すこと ができる.すなわち,量子化ビット数が1
の場合も標本 化周波数を十分に高くすることで量子化雑音電力を低く することができる.3. FPGA と SATA を用いた高速標本化記録
FPGA
とSATA
を用いた1 bit
量子化及び記録システ ムを提案する.図–1にFPGA
を用いた1 bit
量子化及 び記録システムの概要を示す.入力信号にディザを量子化前に加算し,その合成信号 を
FPGA
のデジタル入力端子に加える.端子入力時,入FPGA
デジタル入力 入力信号
ディザ信号
デジタル出力
SATA 転送
SSD
図–1 1 bit量子化及び記録再生システム概要
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(a) 80 MHz
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(b) 100 MHz
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(c) 120 MHz
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(d) 200 MHz 図–2 標本化周波数によるスペクトルの変化
力信号は
1 bit
幅の信号に量子化される.これはマルチ ビット量子化でのADC
回路に相当する.FPGA
のデジタル入力端子にて高速標本化した1 bit
量子化信号を,FPGA
内部でSATA
規格に則った信号 に変換し[3–5]
,SATA
ケーブルを通じてSSD
に転送し て高速書き込みを行う.今回は標本化周波数80 MHz
以 上という大きな伝送容量を持つ1 bit
信号をFPGA
か らSSD
という大容量記録装置に転送するために,SATA 1.0
規格を使用する.またSSD
とはフラッシュメモリを 用いた記録装置であり,シーケンシャル書き込み速度が3.2 Gbps
に相当するものも存在する.FPGA
のデジタ ル出力端子からは,SSD
から取り出した記録信号をデジ タル1 bit
信号のまま出力する.4. 測 定
4. 1 標本化周波数によるSN比の変化
標本化周波数によるスペクトルおよび
SN
比の変化 を観測する.入力信号に正弦波1 kHz
,ディザに正弦波29.289 MHz
を用いて,標本化周波数は80 MHz
,100 MHz
,120 MHz
,200 MHz
と変化させた.SSD
に1 bit
量子化信号を記録し,再生してデジタル信号のまま出力 した信号をそれぞれフーリエ変換し,周波数帯域22 kHz
以下を表示した結果をそれぞれ図–2に示す.標本化周波数が
80 MHz
のとき,ディザを加算してい ても正弦波の高調波が量子化雑音として多く発生してい る.標本化周波数が上がるに従い,高調波のスペクトル 成分は減少していくのが観測できる.200 MHz
のときで は,正弦波1 kHz
のスペクトル成分に対して高調波のス ペクトル成分はほとんど見られなくなっている.4. 2 ディザの振幅によるスペクトルの変化
ディザの振幅によるスペクトルの変化を観測する.入 力信号に正弦波
1 kHz
,ディザに正弦波29.289 MHz
を 用いて,ディザの振幅を1
〜7 V
と変化させた.また比102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(a)ディザなし
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(b) 1 V
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(c) 2 V
102 103 104
−120
−110
−100
−90
−80
−70
−60
−50
−40
−30
−20
V [dBV]
Frequency [Hz]
(d) 3 V 図–3 ディザの振幅によるスペクトルの変化
較のために
,
ディザを加算しなかった場合のスペクトル も観測した.SSD
に1 bit
量子化信号を記録し,再生し てデジタル信号のまま出力した信号をそれぞれフーリエ 変換し,周波数帯域22 kHz
以下を表示した結果のうち ディザなし,1
〜3 V
のときのものを図–3に示す.ディ ザを加算しなかったときは入力波形に強く相関を持った 量子化雑音が多く発生しているのがわかる.ディザの振 幅が1 V
のとき,入力信号に相関を持った量子化雑音の スペクトル成分がディザ非加算時に比べてやや弱まって いるものの,正弦波の高調波歪のスペクトル成分が強く 出ている.ディザの振幅が2 V
のとき,1 V
のときに比 べて正弦波の歪みが弱まっているが,スペクトル上でも 聴感上でもまだ目立っている.ディザの振幅が3 V
のと き,0
〜2 V
のときに比べてほとんど正弦波の高調波歪み のスペクトル成分は無くなっており,量子化雑音が白色 化されている.ディザの振幅が4 V
以上のとき,3 V
の ときとほとんど違いは見られなかった.5. む す び
本研究では高い標本化周波数と適切なディザを用いて
1 bit
量子化した信号の記録と再生を行った.今後は高い 標本化周波数による信号帯域の広さと,量子化雑音が帯 域に一様に分布する特徴を利用し,ラジオ電波など広帯 域の信号を検波することなくそのまま記録,再生するこ とへの応用や,光を用いた音場記録への応用を検討する.参 考 文 献
[ 1 ] 山崎芳男,金田豊,音・音場のデジタル処理,コロナ社,2002.
[ 2 ] 大賀寿郎,山崎芳男,金田豊,音響システムとデジタル処理,編 田村恵一,1995.
[ 3 ] 菅原博英,シリアルATAの基礎とFPGAへの実装,CQ出版 社,2010.
[ 4 ] 村上真紀,改訂版ATA(IDE)/ATAPIの徹底研究,CQ出版社,
2010.
[ 5 ] 立山剣,“Xilinx社製FPGAへのSATAコアの移植,”FPGA マガジンNo.4,CQ出版社,pp.20–31,2014.